離散群から Lie 群への準同型は、分類空間の写像を通して平坦束を与える。本頁は、原論文の序論 0.9 と付録 §7 の段 a)・b) に沿って、Lie 群が連結な複素簡約群か連結な可換群なら、平坦束の標数 0 係数の特性類が正の次数で消えることを示す。あわせて、序論が同値だとする二つの言い方を確かめ、一般線形群の場合を算術的な経路と Chern–Weil 理論の経路の二通りで示し、成分群が有限な簡約群とコンパクト群に広げる。
前提知識: 分類空間, 平坦束, Chern–Weil理論, Lie群, 簡約群, 群のコホモロジー
$\Gamma$ は離散群、$G$ は Lie 群、$u\colon\Gamma\to G$ は準同型、$B_u\colon B_\Gamma\to B_G$ はそれが誘導する分類空間の写像、$k$ は標数 $0$ の体である。コホモロジーは特異コホモロジーである。原論文の序論 0.9 は離散群を $G$、Lie 群を $H$ と書くが、本頁は付録 §7 の記号に揃える。Lie 群 $G$ が性質 (M) をもつとは、標数 $0$ のすべての体 $k$、すべての離散群 $\Gamma$ と準同型 $u\colon\Gamma\to G$ について、$B_u^*\colon H^i(B_G,k)\to H^i(B_\Gamma,k)$ が $i>0$ で $0$ になることをいう。
本頁の主結果は次の四つである。
原論文 Gro68d の小節 0.9(印字 pp. 226–227)は、小節 0.5 で触れた「超越的な主張」を述べ直す。$H=\mathrm{GL}_n(\mathbf C)$、$G$ を離散群、$u\colon G\to H$ を準同型とすると、$B_u$ は有理コホモロジーに正の次数で $0$ を誘導する (0.18)。同値に、位相空間(望むなら有限多面体)$X$ の上の、基本群の表現に付随する主 $H$ 束、すなわち平坦な主束($X$ が多様体なら $H$ 不変な可積分接続をもつ主束)の有理特性類は $0$ である (0.19)。有理 Chern 類が $0$ であることは、本書『4-3 総括定理と複素表現の有理 Chern 類』で、算術的な Chern 類の Galois 不変性から再発見された。原論文はこの再発見を小節 0.5 の要点の一つに数える。
原論文は続けて、この性質が成分群の有限な複素簡約群、したがってコンパクト Lie 群にも広がることは知られているとし、それは一般線形群の場合から直ちに従うと言う。理由は、連結な複素簡約群 $H$ の特性環 $H^*(B_H,\mathbf Q)$ が $H$ の線形表現に付随するベクトル束の Chern 類で生成されることで、原論文の脚注はこれを、文献に明示されていないが周知とみなすべき事実だとする(印字 p. 227)。
他方、この性質は実の連結 Lie 群(半単純でも)や一般の複素 Lie 群には広がらない、と原論文は Milnor Mil58 を引く。原論文は付録で、Lie 群が複素代数群であれば足りることを示すと予告する。その証明は見かけは超越的だが、小節 0.5 と同じ不変性の論法で算術的な証明もできるはずで、そのためには代数群の分類コホモロジーの代数的な理論(準備中の Giraud の論文、原論文の文献 [15])を使えばよい、と述べる。そして、代数性の仮定を最も直接に説明する深い理由はこの算術的な証明が与える、というのが著者の見解だと書く(印字 pp. 227–228)。
付録 §7(印字 pp. 296–302)は、その予告どおり Théorème 7.1 を述べる。$G$ を複素代数群の複素点の群とし通常の位相で複素 Lie 群とみると、離散群 $\Gamma$ からの任意の準同型 $u$ について、標数 0 の係数で $B_u^*$ は正の次数で $0$ である。証明は四段で、a) 連結簡約の場合、b) 連結可換の場合、c) 単位成分と同種写像による帰着、d) 一般の場合である。本頁は a) と b) を扱い、c)・d) と Théorème 7.1 の証明は本書『8-2 構造論による帰着と定理の証明』、代数性が外せないことは本書『8-3 代数性は外せない:注意と反例』で扱う。
性質 (M) は離散群の分類空間の言葉で書かれている。証明では平坦束の言葉のほうが扱いやすいので、まず特性類を定める。
$G$ を Lie 群、$X$ を CW 複体、$P\to X$ を主 $G$ 束とし、$f_P\colon X\to B_G$ をその分類写像とする(本書『0-4 位相的 Chern 類・平坦束・Lie 群と代数群』の定理「Lie 群の分類空間と極大コンパクト部分群」の (1))。$k$ 係数の特性類とは、$f_P^*\colon H^*(B_G,k)\to H^*(X,k)$ の像の元をいう。連結な $X$ と準同型 $\varphi\colon\pi_1(X)\to G$ について、$P_\varphi:=\tilde X\times_{\pi_1(X)}G$ を $\varphi$ に付随する平坦な主束とする。Lie 群 $G$ が性質 (M) をもつとは、この頁の冒頭のとおり、標数 $0$ のすべての体 $k$、すべての離散群 $\Gamma$ と $u\colon\Gamma\to G$ について $B_u^*$ が正の次数で $0$ になることをいう。Théorème 7.1 は、複素代数群の複素点の群が性質 (M) をもつという主張である。
$B_\Gamma$ の上の平坦束 $P_u$ の分類写像は $B_u$ なので、$B_u^*$ の像は $P_u$ の特性類そのものである(本書『0-4 位相的 Chern 類・平坦束・Lie 群と代数群』の定理「平坦束と基本群の表現」の (3))。次に、主結果 1 の対象を定める。
複素 Lie 群 $G$ が連結な複素簡約 Lie 群であるとは、ある連結なコンパクト Lie 群 $K$ の複素化 $K_{\mathbf C}$ と複素 Lie 群として同型であることをいう。このとき包含 $K\subset G$ はホモトピー同値である。$\mathrm{GL}_n(\mathbf C)=U(n)_{\mathbf C}$、$\mathbf C^*=U(1)_{\mathbf C}$、$SL(n,\mathbf C)$ はその例で、$\mathbf C$ 上の連結な簡約代数群の複素点の群はすべてこの形である(本書『0-4 位相的 Chern 類・平坦束・Lie 群と代数群』の定理「Chern–Weil 理論」の (3))。
原論文は「複素簡約」を定義せずに使う。本頁の定義は、段 a) の証明が実際に使う形(コンパクト群の複素化)に合わせたものである。
次の事実は証明せずに引用する。出典は主に CheICM50、Che46、KN63、Ati57、Mil56I で、該当箇所は本頁では確認していない。要点は本書『0-2 群のコホモロジーと分類空間』『0-4 位相的 Chern 類・平坦束・Lie 群と代数群』にある。
$G$ を Lie 群、$k$ を標数 $0$ の体とする。次の三つは同値である。
(i) すべての離散群 $\Gamma$ と $u\colon\Gamma\to G$ について、$B_u^*\colon H^i(B_G,k)\to H^i(B_\Gamma,k)$ は $i>0$ で $0$ である。
(ii) すべての連結な CW 複体 $X$ と $\varphi\colon\pi_1(X)\to G$ について、$P_\varphi$ の $k$ 係数の特性類は正の次数で $0$ である。
(iii) (ii) が $X$ を連結な有限多面体に限って成り立つ。
段 1((i) から (ii)).引用する事実 2 により $P_\varphi$ の分類写像は $B_\varphi\circ c_X$ とホモトピックなので、$f_{P_\varphi}^*=c_X^*\circ B_\varphi^*$ で、(i) を $\Gamma=\pi_1(X)$、$u=\varphi$ に当てれば正の次数で $0$ である。(ii) から (iii) は明らかである。
段 2((iii) から (i)).$x\in H^i(B_G,k)$、$i>0$ とする。引用する事実 6 により $H^i(B_\Gamma,k)=\operatorname{Hom}(H_i(B_\Gamma,\mathbf Z),k)$ なので、$B_u^*x$ がすべての $z\in H_i(B_\Gamma,\mathbf Z)$ で $0$ になることを示せばよい。引用する事実 1 により $z$ は基点を含む連結な有限部分複体 $Y\subset B_\Gamma$ のホモロジー類の像である。包含 $j\colon Y\to B_\Gamma$ は $\psi:=j_*\colon\pi_1(Y)\to\Gamma$ で決まり、$j\simeq B_\psi\circ c_Y$ である。したがって $B_u\circ j\simeq B_{u\psi}\circ c_Y$ で、これは $P_{u\psi}$ の分類写像である。$Y$ とホモトピー同値な有限多面体 $Y'$ をとり(引用する事実 4)、$g\colon Y'\to Y$ をホモトピー同値とすると、$g^*P_{u\psi}=P_{u\psi g_*}$ は $Y'$ の上の平坦束で、(iii) によりその特性類は正の次数で $0$ である。$g^*$ はコホモロジーの同型なので $j^*B_u^*x=0$ で、$\langle B_u^*x,z\rangle=0$ である。
原論文は §7 で、Théorème 7.1 が Corollaire 7.2((ii) の形)と同値なのは「直ちに分かる」とし、有限多面体で確かめれば足りるのは特異コホモロジーの定義による、と一文で済ませる(印字 p. 297)。上の段 2 がその中身である。系 7.2 の言い換えと系 7.3 の可積分接続の形は本書『8-2 構造論による帰着と定理の証明』の系「平坦主束の有理特性類は消える」「可積分接続をもつ主束の特性類」で扱う。
連結な複素簡約 Lie 群 $G$ は性質 (M) をもつ。
段 1(多様体への移行).上の補題(離散群の言い方と平坦束の言い方)により、連結な有限多面体 $X$ と $\varphi\colon\pi_1(X)\to G$ について $P_\varphi$ の特性類が正の次数で $0$ になることを示せばよい。引用する事実 4 により $X$ は可微分多様体 $U\subset\mathbf R^N$ の変形レトラクトで、包含 $\iota\colon X\to U$ は $\pi_1$ の同型を誘導する。$\varphi_U:=\varphi\circ\iota_*^{-1}$ とおくと、引用する事実 2 により $\iota^*P_{\varphi_U}\cong P_\varphi$ である。特性類は引き戻しと可換なので、$U$ の上の $P_{\varphi_U}$ の特性類が正の次数で $0$ なら足りる。
段 2(Chern–Weil).$G=K_{\mathbf C}$($K$ は連結なコンパクト Lie 群)とする。引用する事実 2 により $P_{\varphi_U}$ は曲率 $\Omega=0$ の接続をもつ。引用する事実 3 により、次数 $m\ge1$ の不変多項式 $f$ に対応する $H^{2m}(B_G,\mathbf C)$ の元の引き戻しは $f(\Omega)=0$ の de Rham 類で、$0$ である。$H^*(B_G,\mathbf C)$ は $I(K)$ の像で尽くされるので、複素係数の特性類は正の次数で $0$ である。
段 3(係数の取り替え).$h:=f_{P_{\varphi_U}}\colon U\to B_G$ とおく。引用する事実 6 により $H^i(\cdot,\mathbf C)=\operatorname{Hom}(H_i(\cdot,\mathbf Z),\mathbf C)$ で、段 2 はすべての $\alpha\in\operatorname{Hom}(H_i(B_G,\mathbf Z),\mathbf C)$ について $\alpha\circ h_*=0$ を言う。$h_*(z)$ が捩れ元でないなら、$\mathbf Q$ 上のベクトル空間 $H_i(B_G,\mathbf Z)\otimes\mathbf Q$ の上の線形形式で $h_*(z)\otimes1$ を $0$ に送らないものがあり、それは $\operatorname{Hom}(H_i(B_G,\mathbf Z),\mathbf Q)\subset\operatorname{Hom}(H_i(B_G,\mathbf Z),\mathbf C)$ の元なので矛盾する。よって $h_*(H_i(U,\mathbf Z))$ は捩れ部分群に入り、任意の標数 $0$ の体 $k$ について $x\circ h_*=0$($x\in\operatorname{Hom}(H_i(B_G,\mathbf Z),k)$)である。
原論文(印字 pp. 298–299)は、この場合を Milnor Mil58 の定理 3 の場合とし、その証明を思い出すと言う。有限多面体を近傍で置き換えて系 7.3 の形に帰着し、「A. Weil のよく知られた定理」で曲率から特性類を計算する、という筋は上の段 1・2 と同じである。原論文が引く文献 [9] は Chern の講演 CheICM50 で、紙面の人名と文献の著者は一致しない。
原論文は、Weil の定理がふつう連結コンパクトな構造群について述べられること(Milnor がそのような群についてだけ述べた理由だろう、と原論文は推測する)、コンパクト Lie 群の複素化の理論 Che46 で連結な複素簡約群に直ちに広がることを書き、括弧の中で、接続も実は不要だと付け加える。上の定義(連結な複素簡約 Lie 群)の下では、段 2 は複素化について Chern–Weil 理論を引くだけで済む。括弧の中の「接続は不要」は、本書は判定しない。原論文はさらに、Kamber が Milnor の結果の純位相的な証明を予告していると書く(原論文の文献 [26]、1966 年の抄録)。
段 a) の証明は群の複素構造を曲率の計算にしか使わない。可換群では、群の構造から直接この場合に戻れる。
連結な可換 Lie 群 $G$ は性質 (M) をもつ。$G$ が複素 Lie 群であることも、代数群の複素点の群であることも仮定しない。
段 1(構造).引用する事実 5 により $G\cong\mathbf R^p\times\mathbf T^q$ で、$H^*(B_G,k)=k[x_1,\dots,x_q]$、$x_j=B_{\mathrm{pr}_j}^*x$($\mathrm{pr}_j\colon G\to\mathbf T$ は $j$ 番目の射影、$x\in H^2(B_{\mathbf T},k)$ は生成元)である。$B_u^*$ は環準同型なので、生成元 $x_j$ の像が $0$ なら正の次数の全体が $0$ である。
段 2(円周群への帰着).$B_u^*x_j=B_{\mathrm{pr}_j\circ u}^*x$ である。$\iota\colon\mathbf T\to\mathbf C^*$ を包含とすると、$B_\iota$ はホモトピー同値なので $x=B_\iota^*y$($y\in H^2(B_{\mathbf C^*},k)$)と書け、$B_u^*x_j=B_{\iota\circ\mathrm{pr}_j\circ u}^*y$ である。$\mathbf C^*=U(1)_{\mathbf C}$ は連結な複素簡約 Lie 群なので、上の定理(簡約群の場合)によりこれは $0$ である。
原論文(印字 p. 299)は、$G\cong\mathbf R^p\times\mathbf T^q$ から $G$ が $\mathbf T$、あるいはその複素化 $\mathbf C^*$ の場合に直ちに戻り、後者は複素簡約なので段 a) に入る、と書く。上の証明はこの「直ちに」を、分類空間のコホモロジーが射影から来る類で生成されることで書き下したものである。
次に、序論 0.9 の一般線形群の場合を二通りに示す。
$G=\mathrm{GL}_n(\mathbf C)$ とする。
(1) 次の二つは同値である。(0.18) すべての離散群 $\Gamma$ と $u\colon\Gamma\to G$ について、$H^i(B_G,\mathbf Q)\to H^i(B_\Gamma,\mathbf Q)$ は $i>0$ で $0$ である。(0.19) すべての連結な有限多面体(または連結な CW 複体)$X$ の上の平坦な主 $G$ 束 $P$ について、$H^i(B_G,\mathbf Q)\to H^i(X,\mathbf Q)$ は $i>0$ で $0$ である。
(2) (0.18) は成り立つ。
段 1(同値).上の補題(離散群の言い方と平坦束の言い方)を $k=\mathbf Q$ で当てる。平坦な主 $G$ 束は $P_\varphi$ の形である(引用する事実 2)。
段 2(算術的な経路).引用する事実 5 により $H^*(B_G,\mathbf Q)=\mathbf Q[c_1,\dots,c_n]$ で、$B_u^*c_i$ は $B_\Gamma$ の上の付随束 $E_\Gamma\times_\Gamma\mathbf C^n$ の Chern 類、すなわち表現 $u$ の位相的 Chern 類の有理像である(本書『0-4 位相的 Chern 類・平坦束・Lie 群と代数群』の定理「平坦束と基本群の表現」の (3))。本書『4-3 総括定理と複素表現の有理 Chern 類』の主結果「複素表現の有理 Chern 類は 0」によりこれは $i\ge1$ で $0$ である。$B_u^*$ は環準同型なので、正の次数の多項式の像もすべて $0$ である。
段 3(Chern–Weil の経路).$\mathrm{GL}_n(\mathbf C)=U(n)_{\mathbf C}$ は連結な複素簡約 Lie 群なので、上の定理(簡約群の場合)からも (0.18) が出る。
段 2 が原論文の言う算術的な再発見で、段 3 が原論文の引く既知の超越的な定理(Milnor Mil58、Kamber–Tondeur の抄録)に当たる。
段 2 が引く本書『4-3 総括定理と複素表現の有理 Chern 類』の主結果は、算術的な $\ell$ 進 Chern 類が捩れであることを位相的な類に移すのに、本書『3-2 エタールコホモロジーと古典位相の比較』の主結果「算術的類は超越的類の還元」を $X=\operatorname{Spec}\mathbf C$ に群が自明に作用する場合に使う。その主結果は $\mathbf C$ 上有限型かつ分離的なスキームで立てたもので、一点はこの仮定を満たすので、段 2 はその範囲に入る。原論文の (0.19) は $X$ を「位相空間(望むなら有限多面体)」とするが、一般の位相空間では普遍被覆による $P_\varphi$ の構成が保証されないので、本頁は連結な CW 複体と読んだ。
最後に、序論が「知られている」とする拡張を示す。原論文は一般線形群の場合と表現による生成から出すが、本頁は主結果 1 を直接使い、成分群は離散群の側の転送で処理する。
段 1(離散群の側の転送).$u\colon\Gamma\to G$ について $\Gamma^0:=u^{-1}(G^0)$ とおくと、$\Gamma/\Gamma^0$ は $G/G^0$ に単射に入るので、$\Gamma^0$ は $\Gamma$ の有限指数部分群である。$u_0\colon\Gamma^0\to G^0$ を $u$ の制限、$a\colon\Gamma^0\to\Gamma$、$b\colon G^0\to G$ を包含とすると $u\circ a=b\circ u_0$ で、分類空間の関手性(引用する事実 1)から $B_a^*B_u^*=B_{u_0}^*B_b^*$ である。$x\in H^i(B_G,k)$、$i>0$ について $B_b^*x\in H^i(B_{G^0},k)$ で、$G^0$ の性質 (M) により $B_{u_0}^*B_b^*x=0$ である。$B_a^*$ は群のコホモロジーの制限 $H^i(\Gamma,k)\to H^i(\Gamma^0,k)$ で、引用する事実 6 により単射なので、$B_u^*x=0$ である。これが (1) である。
段 2(複素簡約群).(2) は (1) と上の定理(簡約群の場合)による。
段 3(コンパクト群).コンパクト Lie 群 $K$ は有限個の連結成分をもち、$K^0$ は連結なコンパクト Lie 群である。$\iota\colon K^0\to K^0_{\mathbf C}$ を複素化への包含とすると、$\iota$ はホモトピー同値なので $B_\iota^*$ は同型である(上の定義(連結な複素簡約 Lie 群))。$u_0\colon\Gamma\to K^0$ について $B_{u_0}^*=B_{\iota u_0}^*\circ(B_\iota^*)^{-1}$ で、$K^0_{\mathbf C}$ は性質 (M) をもつので $K^0$ も性質 (M) をもつ。(1) により $K$ も性質 (M) をもつ。
段 1 の単射性は $\Gamma$ の側のものである。原論文の付録の段 c)(印字 p. 299)が単位成分への帰着の理由に挙げる単射性は $G$ の側の $H^*(B_G,k)\to H^*(B_{G^0},k)$ で、帰着に要るのは同じ転送の論法による $\Gamma$ の側の単射性である。この段 c) は本書『8-2 構造論による帰着と定理の証明』で扱う。序論 0.9 の拡張は段 c) より前に述べられ、成分群の段は紙面に書かれていない。
原論文の序論(印字 p. 227)は、連結な複素簡約群 $G$ の場合を、$H^*(B_G,\mathbf Q)$ が線形表現 $\rho\colon G\to\mathrm{GL}_N(\mathbf C)$ に付随する束の Chern 類 $B_\rho^*c_j$ で生成されるという事実から出す。実際、$B_u^*B_\rho^*c_j=B_{\rho\circ u}^*c_j$ は上の定理(序論の二つの言い方の同値と一般線形群の場合)により $0$ で、$B_u^*$ は環準同型だから正の次数の全体が $0$ になる。原論文の脚注は、生成の事実が文献に明示されていないが周知とみなすべきで、連結 Lie 群の特性類の理論をかなり簡単にする基礎になりうる、と書く。本書はこの事実の要点を本書『0-4 位相的 Chern 類・平坦束・Lie 群と代数群』の定理「Lie 群の分類空間と極大コンパクト部分群」の (7) に置いたが、文献では確かめていない。上の定理はこの事実を使わずに主結果 1 から出したので、その留保を受けない。
原論文の序論 0.9 の末尾(印字 pp. 227–228)は、Lie 群が複素代数群であれば足りることを付録で示すと予告し、その証明は見かけは超越的だが、代数群の分類コホモロジーの代数的な理論(準備中の Giraud の論文)を使えば小節 0.5 と同じ不変性の論法で算術的にも証明できるはずだ、と述べる。予告された定理は Théorème 7.1 で、本書『8-2 構造論による帰着と定理の証明』が証明する。算術的な証明は原論文のどこにも書かれておらず、本書も与えない。段 a) を算術的な議論で置き換える原論文 7.5 a) の所見は、本書『8-3 代数性は外せない:注意と反例』の定理「段 a) の算術的な置き換え」で扱う。代数性の仮定を最も直接に説明する深い理由は算術的な証明が与える、という一文は、原論文が「著者は考える」と書く見解で、本書は主張として扱わない。
まず、主結果が最も簡単な場合に何を言うかを見る。
$\Gamma=\mathbf Z/n$、$u=\chi\colon\Gamma\to\mathbf C^*$ を忠実な指標とする。$B_u^*c_1=c_1(L_\chi)$ は $H^2(\mathbf Z/n,\mathbf Z)\cong\mathbf Z/n$ の生成元で(本書『0-4 位相的 Chern 類・平坦束・Lie 群と代数群』の例「平坦直線束の例」)、捩れ元なので有理係数では $0$ である。$\Gamma$ が有限なら $H^{>0}(\Gamma,\mathbf Q)=0$ なので、どの Lie 群への準同型でも $B_u^*$ は正の次数で $0$ であり、主結果が内容をもつのは $\Gamma$ が無限のときである。
格子 $\Lambda\subset\mathbf C^2$ を一般にとった複素トーラス $G=\mathbf C^2/\Lambda$ は連結可換な複素 Lie 群で、代数群の複素点の群ではない(本書『0-4 位相的 Chern 類・平坦束・Lie 群と代数群』の例「複素代数群と複素 Lie 群の例」)。したがって Théorème 7.1 の仮定を満たさないが、主結果 2 により性質 (M) をもつ。$G\cong\mathbf T^4$ なので、$\Gamma=\mathbf Z^m$ の任意の準同型 $u$ について、$B_u^*x_j$ は円周への準同型 $\mathbf Z^m\to\mathbf T$ の類の引き戻しで、有理係数で $0$ である。
次の二つの反例は、主結果の仮定のうち、係数体の標数と成分群の有限性を外すと結論が破れることを示す。
外す条件は、係数体 $k$ の標数が $0$ であることである。$p$ を素数、$\Gamma=\mathbf Z/p$、$u=\chi\colon\Gamma\to\mathbf C^*$ を忠実な指標、$k=\mathbf F_p$ とする。$H^*(B_{\mathbf C^*},\mathbf F_p)=\mathbf F_p[\bar c_1]$($\bar c_1$ は $c_1$ の法 $p$ の像)で、自然性から $B_u^*\bar c_1$ は $c_1(L_\chi)$ の法 $p$ の像である。本書『0-2 群のコホモロジーと分類空間』の普遍係数定理の (5) により $H^2(\Gamma,\mathbf Z)/p\to H^2(\Gamma,\mathbf F_p)$ は単射で、$c_1(L_\chi)$ は $H^2(\Gamma,\mathbf Z)\cong\mathbf Z/p$ の生成元なので、$B_u^*\bar c_1\ne0$ である。$\mathbf C^*$ は連結な複素簡約群で代数群でもあるので、主結果 1 も Théorème 7.1 も標数 $0$ の係数を外せない。
外す条件は、連結性(主結果 2)と成分群の有限性(主結果 4)である。$G=\mathbf Z$ を離散位相の Lie 群($0$ 次元の可換な複素 Lie 群)とし、$\Gamma=\mathbf Z$、$u=\mathrm{id}$ とする。$B_G=B_\Gamma$ は円周とホモトピー同値で、$B_u$ は恒等写像なので、$B_u^*\colon H^1(B_G,\mathbf Q)\cong\mathbf Q\to H^1(B_\Gamma,\mathbf Q)$ は $0$ でない。単位成分 $G^0=\{0\}$ は性質 (M) をもつので、主結果 4 の (1) は成分群の有限性なしには成り立たない。代数群の複素点の群は成分群が有限なので、この例は Théorème 7.1 とは矛盾しない。
実の半単純群と、代数的でない非可換な複素 Lie 群で結論が破れる例は、原論文が 0.9 と 7.5 b) で挙げるもので、本書『8-3 代数性は外せない:注意と反例』の定理「実半単純群では成り立たない」「連結複素 Lie 群というだけでは成り立たない」で扱う。
以下は原論文の主張ではなく、後代の結果の紹介である(時点を明記する。本書が文献を開いて確かめていないものはそう書く)。
本頁が対応する原論文は Classes de Chern et représentations linéaires des groupes discrets Gro68d の序論 0.9 と付録 §7 の冒頭である。
| 本頁 | 原論文 | 印字頁 |
|---|---|---|
| 定義(主束の特性類と性質 (M)) | (0.17)(0.18)、Théorème 7.1 の言明 | 226、297 |
| 定義(連結な複素簡約 Lie 群) | —(本書が定めた読み。§7 の段 a) の「複素簡約」) | 298–299 |
| 補題(離散群の言い方と平坦束の言い方) | (0.18) と (0.19) の「同値に」、Corollaire 7.2 とその直後の文(有限多面体で足りる) | 226–227、297 |
| 定理(簡約群の場合)、注意(段 a) についての原論文の補足) | §7 の段 a)([32, Th. 3]、[9]、[10, Chap. VI]、[26]) | 298–299 |
| 定理(連結可換群の場合) | §7 の段 b) | 299 |
| 定理(序論の二つの言い方の同値と一般線形群の場合)、注意(算術的な経路が使う比較) | 小節 0.9、(0.17)〜(0.19)(小節 0.5 の再発見) | 226–227 |
| 定理(簡約群・コンパクト群への拡張)、注意(原論文の経路と表現による生成) | 小節 0.9 の拡張と脚注 | 227 |
| 注意(付録の予告と著者の見解) | 小節 0.9 の末尾 | 227–228 |
原論文の 0.9 は離散群を $G$、Lie 群を $H$ と書き、§7 は離散群を $\Gamma$、Lie 群を $G$ と書く。本頁は §7 の記号に揃えた。
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