離散群の有限次元複素表現には、分類空間の上の付随ベクトル束を通して整係数の Chern 類が定まる。本頁は、1 次元表現の第一 Chern 類が指標そのもの(有限群では指標を $\mathbf Q/\mathbf Z$ に移した準同型)であることを示し、複素数体の自己同型が 1 の冪根を動かすことから、体の同型で不変な整係数の第一 Chern 類の理論は位数 3 以上の巡回群ですでに存在しないことを証明する。位数 2 ではこの否定が成り立たないことも確かめ、原論文が係数を整数から 1 の冪根へ取り替える理由を明らかにする。
$G$ は離散群、$E$ は $G$ の有限次元複素表現、$B_G$ は $G$ の分類空間、$E_G\to B_G$ は普遍主束とする。$\chi\colon G\to\mathbf C^*$ を指標とし、それが定める 1 次元表現の付随直線束を $L_\chi$ と書く。$\mu_\infty(\mathbf C)$ は $\mathbf C$ の 1 の冪根全体の群、$\varphi\colon\mathbf Q/\mathbf Z\to\mu_\infty(\mathbf C)$ は $\varphi(q\bmod\mathbf Z)=\exp(2\pi iq)$ で定まる同型である。$\delta_{\mathbf Q/\mathbf Z}$ と $\delta_{\exp}$ は、自明な $G$ 加群の完全列 $0\to\mathbf Z\to\mathbf Q\to\mathbf Q/\mathbf Z\to0$ と $0\to\mathbf Z\to\mathbf C\xrightarrow{\exp(2\pi i\,\cdot)}\mathbf C^*\to0$ の余境界である。
本頁の主結果は次の四つである。
離散群 $G$ の複素表現 $E$ の Chern 類は、古くから次のように定義されてきた。$G$ の 分類空間 $B_G$ の上の普遍主束 $E_G$ で $E$ をねじった付随束 $\mathbb E=(E_G\times E)/G$ をとり、その Chern類 を $c_i(E)\in H^{2i}(B_G,\mathbf Z)=H^{2i}(G,\mathbf Z)$ とする。原論文 Gro68d の小節 0.1(印字 p. 215)は、この定義が Atiyah Ati61 の付録に示され、そこで $B_G$ の位相的・超越的な構成を使わない純代数的な定義を求める問いが出された、と書く。原論文の当初の目的はこの問いに答えることだった。
小節 0.2(印字 pp. 216–218)は、問いを文字どおりに取ると答えは否定的で、しかも理由は自明だと述べる。純代数的な定義なら、複素数体を任意の代数閉体(あるいは $\mathbf C$ と同型な体)に替えても意味をもち、体の同型で不変でなければならない。ところが 1 次元表現の第一 Chern 類は、有限群では指標 $G\to\mu_\infty(\mathbf C)$ を指数関数で $\mathbf Q/\mathbf Z$ に移したものにほかならず、この移し方は $\mathbf C$ の位相を本質的に使う。$\mathbf C$ の自己同型は 1 の冪根を大きく動かすので、$c_1$ は不変になりえない。
この観察は否定で終わらない。障害の源は、係数 $\mathbf Z$(あるいは $\mathbf Q/\mathbf Z$)と基礎体の 1 の冪根の群 $\mu_\infty(k)$ の間に標準的な同型が無いことにある。それなら係数そのものを $\mu_n(k)$ のような基礎体に関手的に付く群に取り替えればよい。原論文の小節 0.3 以降の構想はここから始まり、その定義は本書『1-2 序論の構想と群のトポス』で扱う。本頁は、否定の論証を段ごとに補って閉じ、それがどの位数の群で本当に働くかを確かめる。
原論文は否定を「位数 $n>1$ の巡回群であっても」成り立つと書く。しかし位数 2 の巡回群の指標は $\pm1$ に値をとり、体の同型は $\pm1$ を動かさないので、この場合には位相的な $c_1$ そのものが不変である。否定の論証は、$\mathbf C$ の自己同型が $\mu_n(\mathbf C)$ に非自明に作用することを使うので、$n\ge3$ でしか働かない。本頁は $n\ge3$ の形を主結果とし、位数 2 の場合を注意と例に置く。
まず 0.1 の位相的な定義を置き、次に 0.2 が求める「純代数的な理論」を、本頁で否定できる形に切り詰めて定式化する。
$G$ を離散群、$B_G$ をその分類空間(CW 複体)、$E_G\to B_G$ を普遍主束とする。$E_G$ には $G$ が右から作用する。$G$ の有限次元複素表現 $E$ に対し、$E_G\times E$ に $g(a,x)=(ag^{-1},gx)$ で $G$ を作用させた商 $\mathbb E=(E_G\times E)/G$ は $B_G$ 上の複素ベクトル束で、これを $E$ の付随束という。$E$ の Chern 類を
$$c_i(E):=c_i(\mathbb E)\in H^{2i}(B_G,\mathbf Z)=H^{2i}(G,\mathbf Z)$$
で定める。右辺の $c_i(\mathbb E)$ は Hirzebruch Hir56 の意味のベクトル束の Chern 類である。$E$ が 1 次元で $G$ が指標 $\chi\colon G\to\mathbf C^*$ で作用するとき、$\mathbb E$ を $L_\chi$ と書く。
付随束の作り方には左右の取り方の約束がある。本頁の主結果は、約束の違いを一つの符号 $\varepsilon$ に集めて述べる。約束の選び方は本書『0-6 記号と約束』にまとめるが、以下の議論はどれも $\varepsilon$ の値に依らないので、本頁では $\varepsilon$ の値を計算しない。
$G$ を群とし、$\mathcal K$ を体の族で、すべての代数閉体の族か、$\mathbf C$ と同型な体の族のどちらかとする。$\mathcal K$ に属す体 $k$ と $G$ の $k$ 上の 1 次元表現(指標 $\chi\colon G\to k^*$)に元 $c_1'(k,\chi)\in H^2(G,\mathbf Z)$ を対応させる規則が次の二つを満たすとき、体の同型で不変な整係数の第一 Chern 類の規則という。
原論文の要請は高次の類と高次元の表現も含み、定義の自然性も求めているが、ここでは第一 Chern 類と 1 次元表現に限る。否定を示すには、狭い形で存在しないことを言えば足りる。
指標の集合 $\operatorname{Hom}(G,\mathbf C^*)$ は値ごとの積で群をなし、$\operatorname{Hom}(G,A)=H^1(G,A)$($A$ は自明な $G$ 加群)である。$\delta_{\exp}$ と $\delta_{\mathbf Q/\mathbf Z}$ はこの $H^1$ から $H^2(G,\mathbf Z)$ への準同型である。
$\sigma\in\operatorname{Aut}(\mathbf C)$ は $\mu_N(\mathbf C)$ を自分自身へ移すので、ただ一つの $u_N(\sigma)\in(\mathbf Z/N)^*$ があって、すべての $\zeta\in\mu_N(\mathbf C)$ で $\sigma(\zeta)=\zeta^{u_N(\sigma)}$ となる。$N$ をわたる族 $u(\sigma)=(u_N(\sigma))_N\in\varprojlim_N(\mathbf Z/N)^*=\widehat{\mathbf Z}^*$ を $\sigma$ の 円分指標 の値という。$\widehat{\mathbf Z}^*=\operatorname{Aut}(\mathbf Q/\mathbf Z)=\operatorname{Aut}(\mu_\infty(\mathbf C))$ であり、中国剰余定理で $\widehat{\mathbf Z}^*\cong\prod_\ell\mathbf Z_\ell^*$($\ell$ はすべての素数)である。
$\operatorname{Aut}(\mathbf Q/\mathbf Z)=\widehat{\mathbf Z}^*$ は、$\mathbf Q/\mathbf Z$ の自己準同型が $N^{-1}\mathbf Z/\mathbf Z\cong\mathbf Z/N$ の上の整数倍の両立する族で与えられ、その環が $\varprojlim_N\mathbf Z/N=\widehat{\mathbf Z}$ であることから従う。記号表のとおり、第 4 章では同じ円分指標を $\ell$ 成分に制限して $\chi$ と書くが、本頁では指標の $\chi$ と重なるので $u$ と書く。
次の事実は証明せずに引用する。出典は主に本書の第 0 章、CE56、Hir56、Mil56I、Bor53、Lan64 で、該当箇所の番号は本頁では確認していない。
原論文の論証は三つの段からなる。有限群の $H^2(G,\mathbf Z)$ を準同型の群と同一視する段、位相的な $c_1$ をその同一視の中で指標として読む段、そして $\mathbf C$ の自己同型が指標を動かす様子を調べる段である。順に閉じていく。
$G$ を有限群とする。自明な $G$ 加群の完全列 $0\to\mathbf Z\to\mathbf Q\to\mathbf Q/\mathbf Z\to0$ の余境界
$$\delta_{\mathbf Q/\mathbf Z}\colon\operatorname{Hom}(G,\mathbf Q/\mathbf Z)=H^1(G,\mathbf Q/\mathbf Z)\longrightarrow H^2(G,\mathbf Z)$$
は同型である。
段 1(長完全列).引用する事実 4 により、完全列 $H^1(G,\mathbf Q)\to H^1(G,\mathbf Q/\mathbf Z)\xrightarrow{\delta_{\mathbf Q/\mathbf Z}}H^2(G,\mathbf Z)\to H^2(G,\mathbf Q)$ がある。
段 2(両端の消滅).$\mathbf Q$ は $\mathbf Q$ 上のベクトル空間で、$|G|$ 倍は $\mathbf Q$ の自己同型である。引用する事実 4 により $H^i(G,\mathbf Q)$($i>0$)は $|G|$ 倍で $0$ になるが、係数の自己同型が誘導する $|G|$ 倍は同型でもあるので、$H^1(G,\mathbf Q)=H^2(G,\mathbf Q)=0$ である。
段 3($H^1$ の同一視).自明な係数 $A$ について、1 コサイクルは準同型 $G\to A$ で、1 コバウンダリーは $0$ だけなので $H^1(G,A)=\operatorname{Hom}(G,A)$。段 1・2 から $\delta_{\mathbf Q/\mathbf Z}$ は同型である。
$G$ が無限なら段 2 が崩れ、補題は成り立たない。例と反例の節で $G=\mathbf Z$ の場合を見る。有限群では $H^2(G,\mathbf Z)$ の元は $G$ から $\mathbf Q/\mathbf Z$ への準同型と同じであり、第一 Chern 類を定めることは、表現ごとにそのような準同型を一つ指定することに等しい。原論文 (0.3) はこの同一視を述べたものである。
位相的な $c_1(L_\chi)$ を準同型として読むには、平坦束の類と連続な直線束の類を結ぶ二つの指数列を比べればよい。
約束だけで決まる符号 $\varepsilon\in\{\pm1\}$ があって、任意の離散群 $G$ と指標 $\chi\colon G\to\mathbf C^*$ について
$$c_1(L_\chi)=\varepsilon\,\delta_{\exp}(\chi)\in H^2(G,\mathbf Z)$$
が成り立つ。$G$ が有限なら $\chi$ は $\mu_\infty(\mathbf C)$ に値をとり、$c_1(L_\chi)=\varepsilon\,\delta_{\mathbf Q/\mathbf Z}(\varphi^{-1}\circ\chi)$ である。すなわち上の補題(有限群での余境界の同型)で、$c_1(L_\chi)$ は準同型 $\varepsilon\,\varphi^{-1}\circ\chi\colon G\to\mathbf Q/\mathbf Z$ に対応する。
段 1(平坦束の類).引用する事実 2 により、$L_\chi$ の変換関数は局所定数で、その類 $[L_\chi]_{\mathrm{const}}\in H^1(B_G,\mathbf C^*)$(定数層)は $\chi^{\varepsilon_1}$ に対応する。
段 2(連続な直線束の類への移行).$\mathbf C$ と $\mathbf C^*$ を離散なアーベル群とみた定数層の完全列 $0\to\mathbf Z\to\mathbf C\xrightarrow{\exp(2\pi i\,\cdot)}\mathbf C^*\to0$ は、定数関数を連続関数とみる包含によって、連続関数の指数列 $0\to\mathbf Z\to\mathcal C\to\mathcal C^*\to0$ へ写る。$\mathbf Z$ の上では恒等写像で、三つの包含は $\exp(2\pi i\,\cdot)$ と可換だから、これは短完全列の射である。定数層の列が完全であるのは、$B_G$ が局所連結で、$\exp(2\pi i\,\cdot)\colon\mathbf C\to\mathbf C^*$ が核 $\mathbf Z$ の全射準同型だからである。層の包含が誘導する写像 $H^1(B_G,\mathbf C^*)\to H^1(B_G,\mathcal C^*)$(単射とは限らない)は、変換関数を連続関数とみることで $[L_\chi]_{\mathrm{const}}$ を $cl(L_\chi)$ へ送る。余境界の自然性から
$$\delta_{\mathrm{cont}}(cl(L_\chi))=\delta_{\mathrm{const}}([L_\chi]_{\mathrm{const}})$$
である。ここで $\delta_{\mathrm{const}}$ は定数層の列の余境界である。
段 3(群のコホモロジーへの移行).引用する事実 1 の同型はコホモロジー的関手の同型なので、$\delta_{\mathrm{const}}$ は群のコホモロジーの余境界 $\delta_{\exp}\colon H^1(G,\mathbf C^*)\to H^2(G,\mathbf Z)$ に移る。段 1 と合わせて $\delta_{\mathrm{cont}}(cl(L_\chi))=\delta_{\exp}(\chi^{\varepsilon_1})=\varepsilon_1\delta_{\exp}(\chi)$。最後の等号は $\delta_{\exp}$ が準同型であることによる。引用する事実 3 により左辺の $\varepsilon_2$ 倍が $c_1(L_\chi)$ なので、$c_1(L_\chi)=\varepsilon\,\delta_{\exp}(\chi)$。
段 4(有限群の場合).$G$ が有限なら各 $\chi(g)$ は有限位数で、$\chi(G)\subset\mu_\infty(\mathbf C)=\varphi(\mathbf Q/\mathbf Z)$ だから $\chi=\varphi\circ\psi$、$\psi:=\varphi^{-1}\circ\chi$ と書ける。$\mathbf Q\subset\mathbf C$ の包含と $\varphi\colon\mathbf Q/\mathbf Z\to\mathbf C^*$ は、$\mathbf Z$ の上で恒等写像となる短完全列の射
$$(0\to\mathbf Z\to\mathbf Q\to\mathbf Q/\mathbf Z\to0)\longrightarrow(0\to\mathbf Z\to\mathbf C\to\mathbf C^*\to0)$$
を与える($q\in\mathbf Q$ について $\exp(2\pi iq)=\varphi(q\bmod\mathbf Z)$)。余境界の自然性から $\delta_{\exp}(\varphi\circ\psi)=\delta_{\mathbf Q/\mathbf Z}(\psi)$。
原論文は「直ちに確かめられる」とだけ書き、符号なしの等号で述べる。符号 $\varepsilon$ は、付随束の作用の左右、$H^1(B_G,A)=\operatorname{Hom}(G,A)$ の同一視の向き、Chern 類と余境界の符号の三つの約束で決まり、$G$ にも $\chi$ にも依らない。約束を揃えれば $\varepsilon=1$ にできるが、本書は値を定めず、以下の議論はどれも $\varepsilon$ に依らないように書く。これで、$c_1$ が体の同型で不変かどうかは、$\varphi^{-1}\circ\chi$ が $\mathbf C$ の自己同型でどう動くかという問いに置き換わった。
$\mathbf C$ の自己同型は連続とは限らず、複素共役と恒等写像以外は位相を保たない。それでも 1 の冪根の上では、次のようにすべての可能な動きが実現される。
円分指標 $u\colon\operatorname{Aut}(\mathbf C)\to\widehat{\mathbf Z}^*=\operatorname{Aut}(\mu_\infty(\mathbf C))$ は全射である。とくに各 $N$ について $u_N\colon\operatorname{Aut}(\mathbf C)\to(\mathbf Z/N)^*$ は全射である。同型 $\mathbf Q/\mathbf Z\to\mu_\infty(\mathbf C)$ の全体は $\operatorname{Aut}(\mathbf Q/\mathbf Z)$ が合成で単純推移的に作用する集合(主等質空間)であり、$\{\sigma\circ\varphi:\sigma\in\operatorname{Aut}(\mathbf C)\}$ はその全体に一致する。
段 1(円分体の上の自己同型).$K=\mathbf Q(\mu_\infty(\mathbf C))=\bigcup_N\mathbf Q(\mu_N(\mathbf C))\subset\mathbf C$ とする。$a=(a_N)_N\in\widehat{\mathbf Z}^*$ を与える。引用する事実 5 により、各 $N$ について $\tau_N\in\operatorname{Gal}(\mathbf Q(\mu_N)/\mathbf Q)$ で $\zeta\mapsto\zeta^{a_N}$ となるものがただ一つある。$N\mid N'$ なら $a_{N'}\equiv a_N\pmod N$ なので、$\tau_{N'}$ の $\mathbf Q(\mu_N)$ への制限は $\tau_N$ に等しい。したがって $\tau|_{\mathbf Q(\mu_N)}=\tau_N$ で $K$ の自己同型 $\tau$ が定まり、$\mu_\infty$ の上で $a$ として働く。
段 2(代数閉包への延長).$\overline{\mathbf Q}$ を $\mathbf Q$ の $\mathbf C$ の中での代数閉包とする。$\overline{\mathbf Q}$ は $K$ 上代数的なので、引用する事実 6 により $\tau$ は埋め込み $\tau'\colon\overline{\mathbf Q}\to\mathbf C$ に延びる。その像は $\mathbf Q$ 上代数的なので $\overline{\mathbf Q}$ に含まれ、代数閉体である。$\overline{\mathbf Q}$ は $\tau'(\overline{\mathbf Q})$ 上代数的だから $\tau'(\overline{\mathbf Q})=\overline{\mathbf Q}$。
段 3($\mathbf C$ への延長).引用する事実 6 により $\mathbf C$ は $\overline{\mathbf Q}$ 上の超越基底 $B$ をもつ。$B$ は $\overline{\mathbf Q}$ 上代数的に独立なので、$\tau'$ は $B$ の各元を固定する $\overline{\mathbf Q}(B)$ の自己同型に延びる。$\mathbf C$ は $\overline{\mathbf Q}(B)$ 上代数的なので、これはさらに埋め込み $\sigma\colon\mathbf C\to\mathbf C$ に延びる。$\sigma(\mathbf C)$ は代数閉体で $\overline{\mathbf Q}(B)$ を含み、$\mathbf C$ は $\overline{\mathbf Q}(B)$ 上、したがって $\sigma(\mathbf C)$ 上代数的だから、$\sigma(\mathbf C)=\mathbf C$。こうして $\sigma\in\operatorname{Aut}(\mathbf C)$ で $u(\sigma)=a$ となるものが得られた。
段 4(主等質空間).同型 $\psi,\psi'\colon\mathbf Q/\mathbf Z\to\mu_\infty(\mathbf C)$ について $\psi^{-1}\circ\psi'$ は $\operatorname{Aut}(\mathbf Q/\mathbf Z)$ の元で、$\psi'=\psi\circ(\psi^{-1}\circ\psi')$ と一意に書ける。また $\sigma\in\operatorname{Aut}(\mathbf C)$ について $\sigma(\varphi(q))=\varphi(q)^{u(\sigma)}=\varphi(u(\sigma)q)$ なので $\sigma\circ\varphi=\varphi\circ u(\sigma)$。段 1〜3 により $u(\sigma)$ は $\widehat{\mathbf Z}^*=\operatorname{Aut}(\mathbf Q/\mathbf Z)$ のすべての元をとるので、$\{\sigma\circ\varphi\}$ は同型の全体である。
原論文は小節 0.2 でこれを Gauss の古典的定理として引く。Gauss が示したのは素数次の円分多項式の既約性で、一般の $N$ は Kronecker と Dedekind によるというのが通説であり(本書は確かめていない)、帰属の問題にとどまって主張は正しい。延長の段 2・3 は原論文に書かれていない。この定理により、$\varphi$ は $\mathbf C$ の代数的な構造だけからは他の同型と区別できないことが分かる。
以上の三つを合わせると、位数 3 以上の巡回群で不変性が破れる。否定そのものには複素共役だけで足りるが、円分指標の全射性を使うと、破れ方の全体が分かる。
$n\ge3$ とし、$G$ を位数 $n$ の巡回群とする。
段 1(指標の移り方).$\chi$ は生成元 $g$ を 1 の原始 $n$ 乗根 $\zeta$ へ送る。$\sigma\in\operatorname{Aut}(\mathbf C)$ について $\sigma(\zeta)=\zeta^{u_n(\sigma)}$ なので $\sigma\circ\chi=\chi^{u_n(\sigma)}$(値ごとの冪)。
段 2($c_1$ の移り方).上の定理(位相的第一 Chern 類は指標そのもの)と $\delta_{\exp}$ が準同型であることから、$c_1(L_{\chi^u})=\varepsilon\,\delta_{\exp}(\chi^u)=u\,\varepsilon\,\delta_{\exp}(\chi)=u\,c_1(L_\chi)$。上の定理(円分指標の全射性)により $u_n(\sigma)$ は $(\mathbf Z/n)^*$ のすべての元をとるので、主張 1 の集合の等式が従う。
段 3(位数).$c_1(L_\chi)$ は上の補題(有限群での余境界の同型)で $\varepsilon\,\varphi^{-1}\circ\chi\colon G\to\mathbf Q/\mathbf Z$ に対応する。$\chi$ は忠実なのでこれは単射準同型で、生成元 $g$ の像 $\varepsilon\,\varphi^{-1}(\zeta)$ は $\mathbf Q/\mathbf Z$ の位数 $n$ の元である。よってこの準同型は $\operatorname{Hom}(G,\mathbf Q/\mathbf Z)$ の位数 $n$ の元で、補題の同型により $c_1(L_\chi)$ の位数も $n$ である。したがって $u\,c_1(L_\chi)=c_1(L_\chi)$ は $u\equiv1\pmod n$ のときに限る。$n\ge3$ では $-1\not\equiv1\pmod n$ なので $|(\mathbf Z/n)^*|\ge2$ で、1 が示された。
段 4(規則の非存在).規則 $c_1'$ があったとする。正規化から $\mathbf C$ 上では $c_1'=c_1$ で、複素共役 $\sigma$ についての不変性から $c_1(L_{\bar\chi})=c_1(L_\chi)$。$\bar\chi=\chi^{-1}$ なので段 2($u=-1$)により $-c_1(L_\chi)=c_1(L_\chi)$、すなわち $2c_1(L_\chi)=0$。段 3 により $n\mid2$ となり、$n\ge3$ に反する。この段は段 1〜3 のうち $u=-1$ の場合だけを使い、円分指標の全射性を使わない。
2 の否定は、上の定理(位相的第一 Chern 類は指標そのもの)と複素共役だけで閉じる。1 は、$\mathbf C$ の自己同型で $c_1$ がどれだけ動くかを正確に述べたもので、軌道は $\varphi^{-1}\circ\chi$ の $\operatorname{Aut}(\mathbf Q/\mathbf Z)$ 軌道と同じ大きさをもつ。原論文の論証は後者の形(すべての同型が現れるので不変性が破れる)で書かれている。
原論文の小節 0.2(印字 p. 216)は、不変な理論が「$G$ が位数 $n>1$ の巡回群であっても」存在しないと書く。これを各 $n>1$ についての主張と読むと、$n=2$ で偽である。反例は位数 2 の巡回群 $G=\{1,g\}$ で、上の定義(体の同型で不変な整係数の第一 Chern 類の規則)の条件を $\mathcal K$ を $\mathbf C$ と同型な体の族として満たす規則がある。実際、$\mathbf C$ 上の指標 $\chi$ は $\chi(g)^2=1$ なので $\pm1$ に値をとり、体の同型は $\pm1$ を動かさないから $\sigma\circ\chi=\chi$ である。したがって $c_1'=c_1$($\mathbf C$ と同型な体 $k$ の上では、同型 $k\to\mathbf C$ で移した指標の $c_1$。移した指標は同型の取り方に依らない)が不変性と正規化を満たす。この反例は主結果のどれも使わない。$\mathcal K$ をすべての代数閉体の族とする場合の構成は、例と反例の節で与える。原論文の論証は $\mathbf C$ の自己同型が $\mu_n(\mathbf C)$ に非自明に作用することを使うので $n\ge3$ でしか働かず、正しい形は上の定理(整係数の純代数的第一 Chern 類の不可能性)である。「巡回群に限っても(位数 3 以上のものを含む族について)」と読めば、原論文の文言はそのまま正しい。
原論文は (0.3) の直後(印字 p. 217)で、類「$c_2(E)\in H^2(G,\mathbf Z)$」を定めることが準同型 (0.4) を定めることに帰着すると印字する。次数 2 の類は第一 Chern 類なので、これは $c_1(E)$ と読む。数学の内容は変わらない。
こうして、整係数の第一 Chern 類は、有限群では係数 $\mathbf Q/\mathbf Z$ と 1 の冪根の群との同一視 $\varphi$ を通してしか代数的に読めず、その $\varphi$ が体の同型で動くことが障害のすべてであると分かった。次の頁で見るように、係数を $\mu_n(k)$ に取り替えると、同型で移したときに係数も一緒に動くので、この障害は消える。
最小の場合の計算から始め、位数 2 の場合の構成、高次の類での振る舞い、有限性を外した場合を順に見る。
$G=\mathbf Z/3=\langle g\rangle$、$\omega=\exp(2\pi i/3)$、$\chi(g)=\omega$ とする。$\varphi^{-1}\circ\chi$ は $g\mapsto1/3\bmod\mathbf Z$ で、上の定理(位相的第一 Chern 類は指標そのもの)により $c_1(L_\chi)$ は $H^2(G,\mathbf Z)\cong\operatorname{Hom}(G,\mathbf Q/\mathbf Z)\cong\mathbf Z/3$ の中で $g\mapsto\varepsilon/3$ に対応する。複素共役 $\sigma$ について $\sigma\circ\chi=\bar\chi$ は $g\mapsto\omega^2$ で、$c_1(L_{\bar\chi})$ は $g\mapsto2\varepsilon/3=-\varepsilon/3$ に対応する。二つは $H^2(G,\mathbf Z)$ の異なる生成元で、$c_1$ は複素共役で動く。自明な指標の $c_1$ は $0$ で、これだけが動かない。$(\mathbf Z/3)^*=\{\pm1\}$ なので、$\mathbf C$ の自己同型による軌道は複素共役の軌道と同じである。
位数 2 では同じ計算で $-1/2\equiv1/2$ となり、動きが消える。これを任意の代数閉体の上の規則として組み立てると次の例になる。
$G$ を有限群とする。すべての代数閉体の族を $\mathcal K$ とする上の定義(体の同型で不変な整係数の第一 Chern 類の規則)の規則が存在するのは、$\mathbf C$ 上のすべての指標 $\chi$ が $\chi^2=1$ を満たすとき、すなわち $G$ の可換化 $G/[G,G]$ の指数が 2 以下のときに限る。位数 2 の巡回群はこの場合に当たる。
存在の証明.$G/[G,G]$ の指数が 2 以下なら、任意の体 $k$ 上の指標 $\chi\colon G\to k^*$ は $[G,G]$ で消え、$g^2\in[G,G]$ なので $\chi(g)^2=1$、すなわち $\chi$ は $\mu_2(k)$ に値をとる。$k$ の標数が 2 でなければ $\mu_2(k)=\{\pm1\}$ から $\tfrac12\mathbf Z/\mathbf Z$ への同型 $\psi_k$ はただ一つなので、$c_1'(k,\chi):=\delta_{\mathbf Q/\mathbf Z}(\psi_k\circ\chi)$ とおく。標数 2 なら $\mu_2(k)=1$ で $\chi$ は自明であり、$c_1'(k,\chi):=0$ とおく。体の同型 $\sigma\colon k\to k'$ は $\mu_2$ の同型を与え、同型の一意性から $\psi_{k'}\circ\sigma=\psi_k$ なので、不変性が成り立つ。$k=\mathbf C$ では $\psi_{\mathbf C}$ は $\varphi^{-1}$ の制限で、上の定理(位相的第一 Chern 類は指標そのもの)から $c_1(L_\chi)=\varepsilon\,\delta_{\mathbf Q/\mathbf Z}(\psi_{\mathbf C}\circ\chi)$。$\psi_{\mathbf C}\circ\chi$ は $\tfrac12\mathbf Z/\mathbf Z$ に値をとるので $\varepsilon$ 倍で変わらず、正規化も成り立つ。
非存在の証明.$\mathbf C$ 上の指標 $\chi$ で $\chi^2\ne1$ となるものがあれば、上の定理(整係数の純代数的第一 Chern 類の不可能性)の段 4 と同じく、複素共役についての不変性から $2c_1(L_\chi)=0$、上の補題(有限群での余境界の同型)から $2\,\varphi^{-1}\circ\chi=0$、すなわち $\chi^2=1$ となって矛盾する。最後に、有限アーベル群 $A=G/[G,G]$ では $\mathbf C^*$ への指標が元を分離するので、すべての指標が $\chi^2=1$ を満たすことと $A$ の指数が 2 以下であることは同値である。
この例は、障害が群の大きさではなく、指標の値に現れる 1 の冪根の位数で決まることを示す。高次の類では、同じ現象が次数ごとに違う形で現れる。
$G=\mathbf Z/n=\langle g\rangle$($n\ge2$)、$\chi(g)=\exp(2\pi i/n)$、$x:=c_1(L_\chi)$ とする。上の定理(整係数の純代数的第一 Chern 類の不可能性)の段 3 と同じく $x$ は位数 $n$ の元で、引用する事実 4 により $H^{2i}(G,\mathbf Z)\cong\mathbf Z/n$ は $x^i$ で生成される。$G$ の複素表現は指標の直和 $E=\bigoplus_jL_{\chi^{a_j}}$ に分解し、引用する事実 7 と上の定理(位相的第一 Chern 類は指標そのもの)により $c(E)=\prod_j(1+a_jx)$、とくに $c_i(E)$ は $x$ の $i$ 次の単項式の整数倍である。$\sigma\in\operatorname{Aut}(\mathbf C)$ で指標を移した表現を $\sigma_*E:=\bigoplus_jL_{\sigma\circ\chi^{a_j}}$ と書く。$\sigma\circ\chi^{a_j}=\chi^{ua_j}$($u=u_n(\sigma)$)なので、$c_i(\sigma_*E)=u^i\,c_i(E)$ である。$E=L_\chi^{\oplus i}$ では $c_i(E)=x^i$ で、これは位数 $n$ の元である。したがって、$\mathbf C$ の自己同型で不変な $i$ 次の規則が $\mathbf C$ 上の表現に限って存在するのは、すべての $u\in(\mathbf Z/n)^*$ で $u^i\equiv1\pmod n$、すなわち $(\mathbf Z/n)^*$ の指数が $i$ を割るときに限る(必要性は上の定理(円分指標の全射性)による)。たとえば $n=3$ では $c_2$ は不変で $c_1$ と $c_3$ は不変でない。
不変性が $u^i-1$ の形で次数ごとに現れることは、第 4 章で $\ell$ 進の類の位数の上界 $\ell^{\alpha(i)}$、$\alpha(i)=\inf v_\ell(\lambda^i-1)$ として再び現れる(本書『4-2 位数の上界と第一 Chern 類での最良性』)。最後に、有限性の仮定がどこで効いているかを見る。
上の補題(有限群での余境界の同型)から、$G$ が有限であるという仮定を外す。$G=\mathbf Z$ とすると、$\operatorname{Hom}(\mathbf Z,\mathbf Q/\mathbf Z)=\mathbf Q/\mathbf Z$ は $0$ でないが、引用する事実 4 により $H^2(\mathbf Z,\mathbf Z)=0$ なので、$\delta_{\mathbf Q/\mathbf Z}$ は単射でない。長完全列で壊れているのは $H^1(\mathbf Z,\mathbf Q)=\mathbf Q\ne0$ の項である。このとき $B_{\mathbf Z}$ は円周で、すべての指標 $\chi\colon\mathbf Z\to\mathbf C^*$ について $c_1(L_\chi)=0$ だから、$c_1'=0$ が体の同型で不変な規則を与える。すなわち無限群では、否定の論証の最初の段($H^2$ を準同型で読む段)が働かず、結論も成り立たない場合がある。
以下は原論文の主張ではなく、後代の結果の紹介である(時点を明記する。本書が文献を開いて確かめていないものはそう書く)。
本頁が対応する原論文は Gro68d の小節 0.1〜0.2 である。
| 本頁 | 原論文 | 印字頁 |
|---|---|---|
| 背景と動機:位相的定義と Atiyah の問い | 小節 0.1、(0.1) | 215–216 |
| 定義(離散群の表現の位相的 Chern 類) | 小節 0.1、(0.1) | 215 |
| 定義(体の同型で不変な整係数の第一 Chern 類の規則) | 小節 0.2 冒頭(純代数的な定義の要請) | 216 |
| 補題(有限群での余境界の同型) | (0.3)(0.4) | 217 |
| 定理(位相的第一 Chern 類は指標そのもの) | (0.2)(0.5)(0.6)(「直ちに確かめられる」) | 217 |
| 定理(円分指標の全射性) | 小節 0.2(Gauss の定理として [29, p. 53] を引く) | 217–218 |
| 定理(整係数の純代数的第一 Chern 類の不可能性)、注意(原論文の印字の形は位数 2 で破れる) | 小節 0.2 の否定的主張 | 216–218 |
| 注意(原論文の印字の添字) | (0.3) の直後の「$c_2(E)$」 | 217 |
| 例(位数 3 の巡回群)、例(可換化の指数が 2 以下の有限群)、例(巡回群の高次の Chern 類)、例(反例:有限性を外すと余境界は同型でない) | 原論文になし(本書が足した例) | — |
原論文の小節 0.2 は否定的主張を「容易に分かる」とし、論証は指標と $\mathbf Q/\mathbf Z$ の同一視、Gauss の定理、主等質空間の三つの句で済ませている。本頁はその段を補い、位数 2 の場合を除いた形で述べた。
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