ℓ 進コホモロジーの代わりに de Rham コホモロジーと Hodge コホモロジーを使って、局所自由加群の Chern 類を作る。本頁は原論文の小節 6.1〜6.4 に沿って、第一 Chern 類を対数微分で定め、それが Hodge–de Rham スペクトル系列の中でフィルトレーション 1 にあって Hodge 型の類に一致することを示し、複素数体の上で超越的な整係数の類と $2\pi i$ の冪の因子を除いて一致することを確かめる。高次の類に要る射影束公式は原論文が準備中の論文に委ねるので未完結とし、以後はそれを入力として置く。
前提知識: Kähler微分, de Rhamコホモロジー, 超コホモロジー, Hodge–de Rhamスペクトル系列, 対数微分, 射影束, Chern類
$X\to S$ はスキーム(分離性を仮定しない)の射で、$\Omega^\bullet_{X/S}$ は外微分つきの de Rham 複体、$H^n_{\mathrm{DR}}(X/S)=\mathbb H^n(X,\Omega^\bullet_{X/S})$、$H^{p,q}_{\mathrm{Hdg}}(X/S)=H^q(X,\Omega^p_{X/S})$、$\operatorname{Filt}^pH^n_{\mathrm{DR}}(X/S)$ は愚直な切り落とし $\sigma_{\ge p}\Omega^\bullet_{X/S}$ の超コホモロジーの像である($X$ は Zariski 位相。本書『0-5 de Rham コホモロジーと Hodge コホモロジー』)。$H^*(X/S)$ はそのどちらか一方を表す。$\mathbb L$ は可逆加群でその類を $\eta\in H^1(X,\mathcal O_X^*)$、$\mathbb E$ は階数 $r$ の局所自由加群とする。射影束は本書の規約により $P=P(\mathbb E)=\operatorname{Proj}\operatorname{Sym}(\mathbb E^\vee)$($\mathbb E$ のファイバーの直線の空間)、$f\colon P\to X$、$\xi=c_1(\mathcal O_P(1))\in H^2(P/S)$ である。
本頁の主結果は次の七つである。
原論文 Gro68d の序論の小節 0.7(印字 pp. 223–224)は、ℓ 進コホモロジーの代わりに de Rham コホモロジーまたは Hodge コホモロジーを使うと、同じ構成の原理で作用つき局所自由加群の Chern 類の二つの変種が得られると予告した(本書『1-2 序論の構想と群のトポス』の注意「de Rham 型・Hodge 型の類の予告」)。予告は、これらの類が基礎環の絶対的な微分に結びつき、基礎体が $\mathbf C$ でも専ら算術的な性質をもつこと、ℓ 進の類との関係は未解明であること、剰余標数についての仮定なしに作れること、有限群と標数 $0$ の体の上では消えることを述べる。§6 はその実行である。
構成の原理は §1 と同じである。可逆加群の第一 Chern 類を、乗法群の層から係数の層への準同型で作る。ℓ 進では Kummer 列の余境界 $\partial$ だったものが、ここでは対数微分 $D(f)=df/f$ に替わる。高次の類は射影束の基本類の冪の関係式で定める(参考書『Chern 類の公理的理論』の頁『3-1 Chern 類の定義と一意性』)。ℓ 進の場合との大きな違いは、係数 $\mu_n^{\otimes i}$ の捩れが無い代わりに、係数が $S$ 上の微分形式になることである。原論文は $S$ を明示して、最も細かい不変量は $S=\operatorname{Spec}\mathbf Z$ から得られると書く(印字 pp. 286–287)。$X=\operatorname{Spec}k$($k$ は体)で $S=\operatorname{Spec}\mathbf Z$ なら、係数は $\Omega^\bullet_{k/\mathbf Z}$ で、$\Omega^1_{k/\mathbf Z}$ は標数 $0$ では $k$ の $\mathbf Q$ 上の超越基底の微分で、標数 $p$ では $p$ 基底の微分で張られる(本書『0-5 de Rham コホモロジーと Hodge コホモロジー』の定理「Kähler 微分の基本」)。
原論文の §6 の前半は、状態の違う三つの部分からなる。第一 Chern 類の定義と関手性は原論文の中で閉じている。射影束公式 (6.10) は「Illusie が証明した鍵となる非自明な結果」と書かれ、証明は準備中の論文(原論文の文献 [24])に委ねられる。Chern 類の通常の形式が de Rham・Hodge でも成り立つことは、「詳しく確かめてはいないが疑いない」として仮定され(admettrons)、詳しい理論は Giraud の準備中の論文(文献 [15])に送られる(印字 p. 287)。さらに小節 6.4 は、de Rham 型と Hodge 型の類の関係を「期待」として述べる。本頁はこの状態の違いをそのまま主結果の札に写す。
まず第一 Chern 類を定める。対数微分は閉 1 形式の層に値をとるので、それを de Rham 複体の次数 1 の項として見れば de Rham 型の類が得られる。
$\mathcal Z^1\subset\Omega^1_{X/S}$ を閉 1 形式の層、$D\colon\mathcal O_X^*\to\mathcal Z^1$、$D(f)=df/f$ を対数微分とする。可逆加群 $\mathbb L$ の類 $\eta\in H^1(X,\mathcal O_X^*)$ について
$$c_1^{\mathrm{Hdg}}(\mathbb L):=D(\eta)\in H^1(X,\Omega^1_{X/S})=H^{1,1}_{\mathrm{Hdg}}(X/S),\qquad c_1^{\mathrm{DR}}(\mathbb L):=\phi^1D(\eta)\in H^2_{\mathrm{DR}}(X/S)$$
とおき、それぞれ $\mathbb L$ の Hodge 型、de Rham 型の第一 Chern 類という。前者は $D(\eta)\in H^1(X,\mathcal Z^1)$ の $H^1(X,\Omega^1_{X/S})$ への像である。$\phi^1\colon H^1(X,\mathcal Z^1)\to\mathbb H^2(X,\Omega^\bullet_{X/S})$ は、次数 1 で包含、ほかの次数で $0$ の複体の射 $\mathcal Z^1[-1]\to\Omega^\bullet_{X/S}$ が誘導する写像である($\mathcal Z^1$ の切断は閉なので、これは複体の射である)。Čech 二重複体で計算するときは、Čech 次数 $a$、形式の次数 $b$ の二重複体の全微分を $\delta+(-1)^ad$ とし、$\mathcal Z^1$ の Čech 1 輪体 $(\omega_{jk})$ を双次数 $(1,1)$ に置いた元の類を $\phi^1[\omega]$ とする。群 $G$ が $X$ に $S$ 自己同型で作用し、$\mathbb L$ が $G$ 線形化されているときは、$\eta\in H^1(X,G;\mathcal O_X^*)$ に同じ構成を混合超コホモロジーで行う。
原論文の (6.6) は $D$ を絶対微分 $\Omega^1_X=\Omega^1_{X/\mathbf Z}$ に値をとる形で書き、(6.7) では黙って $\Omega^1_{X/\mathbf Z}\to\Omega^1_{X/S}$ を合成している(印字 p. 285)。ℓ 進の場合の Kummer 列と違い、$D$ を作るのに剰余標数の仮定は要らない。これが序論の「剰余標数についての仮定なしに作れる」の中身である。
高次の類は、射影束公式を仮定したうえで §1 と同じ関係式で定める。
$\mathbb E$ を $X$ 上の階数 $r\ge1$ の局所自由加群、$f\colon P=P(\mathbb E)\to X$ をその射影束、$\xi:=c_1(\mathcal O_P(1))\in H^2(P/S)$(de Rham 型または Hodge 型)とする。$(P,\mathbb E)$ について下の主結果 4(de Rham と Hodge の射影束公式)が成り立つとき、$\xi^r=\sum_{j=0}^{r-1}f^*(a_j)\,\xi^j$ と一通りに書き、$c_0(\mathbb E):=1$、$c_i(\mathbb E):=-a_{r-i}\in H^{2i}(X/S)$($1\le i\le r$)、$c_i(\mathbb E):=0$($i>r$)とおく。すなわち
$$\sum_{i=0}^{r}f^*c_i(\mathbb E)\,\xi^{r-i}=0,\qquad c_0(\mathbb E)=1$$
を満たすただ一組の係数である。de Rham 型を $c_i^{\mathrm{DR}}(\mathbb E)$、Hodge 型を $c_i^{\mathrm{Hdg}}(\mathbb E)$ と書く。Hodge 型では、射影束公式が二重次数付き環の基底を与えるとして、$c_i^{\mathrm{Hdg}}(\mathbb E)\in H^{i,i}_{\mathrm{Hdg}}(X/S)$ である。
最後の主張は次のように確かめる。$\xi\in H^{1,1}$ なので $\xi^r\in H^{r,r}$ で、$a_j$ を二重次数ごとに分けて関係式の $(r,r)$ 成分をとると、$a_j$ の $(r-j,r-j)$ 成分も同じ関係式を満たす。係数の一意性から $a_j$ はその成分に等しい。階数 1 では $P(\mathbb L)=X$、$\mathcal O_P(-1)=\mathbb L$、$\mathcal O_P(1)=\mathbb L^\vee$ で、$D$ は準同型なので $\xi=-c_1(\mathbb L)$、関係式 $\xi+c_1=0$ は上の定義(第一 Chern 類の二つの型)の類を与える。射影束公式は階数 1 では自明に成り立つので、この場合に仮定は要らない。
原論文の小節 6.3 は、(6.10) の前で射影束を「§1・§2 と同じく $P=P(\mathbb E)$」と書き、$\xi=c_1(\mathcal O_P(1))$ とし(印字 p. 286。$\xi$ の所属を $H^2(X)$ と印字するが、$X$ を $P$ に替えた (6.7)(6.8) で定めると続くので $H^2(P)$ と読む)、(6.11)(6.12) はこの $P$ と $\xi$ で類を定める(印字 p. 287)。本書はこれを直線の空間と読む(本書『0-6 記号と約束』の射影束の規約)。上に見たとおり、この読みで階数 1 の関係式は正規化 (6.7)(6.8) をそのまま与える。EGA の $P(\mathbb E)$(階数 1 の商を分類する空間)と $\mathcal O(1)$ の組と読むと、階数 1 で $\mathcal O_P(1)=\mathbb L$、$\xi=c_1(\mathbb L)$ となり、関係式は $c_1=-c_1(\mathbb L)$ を与えて正規化と符号が逆になる。一般の階数では、下の注意(Chern 類の形式の仮定)の加法性を認めると、直線の空間の上の $0\to\mathcal O(-1)\to f^*\mathbb E\to Q\to0$ から $c(f^*\mathbb E)=(1-\xi)\,c(Q)$、$c_r(Q)=0$ の次数 $2r$ の成分が $\sum_ic_i\xi^{r-i}=0$ で (6.12) と一致し、EGA の空間と読めば係数は $c_i(\mathbb E^\vee)=(-1)^ic_i(\mathbb E)$ になる。原論文の「§1・§2 と同じく」は、§1 の組(基本類を $\mathcal O_P(-1)$ でとり、空間の読みは二通りある。本書『2-2 射影束公式』の注意「原論文の §1 の射影束の読み方と符号」)ではなく、§2 の組(直線の空間と $\mathcal O(1)$)の意味で読むと整合する。
原論文の小節 6.3 は、Hirzebruch の公理的な特徴づけ Hir56 で表される Chern 類の通常の形式(原論文 (2.3)。関手性・正規化・加法性と、そこから従う公式)が de Rham・Hodge の文脈でも成り立つことを、詳しく確かめてはいないが疑いないとして仮定する(印字 p. 287)。本書はこれを「Chern 類の形式の仮定」と呼び、使う主結果の札に書く。仮定の中身は、主結果 4 が成り立つ範囲で、(i) 射 $h\colon X'\to X$ について $c_i(h^*\mathbb E)=h^*c_i(\mathbb E)$、(ii) 完全列 $0\to\mathbb E'\to\mathbb E\to\mathbb E''\to0$ について $c(\mathbb E)=c(\mathbb E')c(\mathbb E'')$ である。(i) は射影束の底変換と係数の一意性から直ちに従うが(本書『2-3 Chern 類の定義と三つの性質』の定理「逆像との両立と正規化」の証明と同じ)、(ii) は原論文にも本書にも証明が無い。ℓ 進の場合に本書が使った台つきコホモロジーの議論を移すには、Hodge・de Rham の台つきの理論の準備が要る。本書は仮定を判定しない。
次の事実は証明せずに引用する。出典は主に GroT57、GodTAF58、EGA2、Gro66、Ati57 で、該当箇所の番号は本頁では確認していない。要点は本書『0-5 de Rham コホモロジーと Hodge コホモロジー』にある。
原論文は (6.4) を超コホモロジーの標準的なスペクトル系列として書き、de Rham コホモロジーの自然なフィルトレーションが、欠けている二重次数の「代わりをする」と述べる(印字 p. 284)。
$X\to S$ をスキームの射とする。
(1) スペクトル系列 $E_1^{p,q}=H^q(X,\Omega^p_{X/S})\Rightarrow H^{p+q}_{\mathrm{DR}}(X/S)$ があり、$E_1$ の微分は $d\colon\Omega^p\to\Omega^{p+1}$ が誘導する写像、収束先のフィルトレーションは $\operatorname{Filt}^p$ である。各次数 $n$ で $\operatorname{Filt}^0H^n=H^n$、$\operatorname{Filt}^{n+1}H^n=0$ である。
(2) 外積により $H^*_{\mathrm{DR}}(X/S)$ は $\operatorname{Filt}^a\cdot\operatorname{Filt}^b\subset\operatorname{Filt}^{a+b}$ を満たす次数付きフィルター付き環、$H^*_{\mathrm{Hdg}}(X/S)$ は二重次数付き環になり、どちらも全次数について反可換である。(1) のスペクトル系列は乗法的である。
(3) 可換な四角形 $X'\to X$、$S'\to S$ は、(2) の構造を保つ環準同型 $H^*(X/S)\to H^*(X'/S')$ を誘導する。
(4) 群 $G$ が $X$ に $S$ 自己同型で作用するとき、混合超コホモロジー $H^*_{\mathrm{DR}}(X/S,G)=\mathbb H^*(X,G;\Omega^\bullet_{X/S})$ と $H^q(X,G;\Omega^p_{X/S})$ について (1)〜(3) が同じ形で成り立つ。
段 1(フィルトレーション).$\sigma_{\ge p}\Omega^\bullet_{X/S}$ は減少フィルトレーションで、$\operatorname{gr}^p=\Omega^p_{X/S}[-p]$ である。各次数 $b$ で $\sigma_{\ge p}$ の次数 $b$ の項は $p\le b$ なら $\Omega^b$、$p>b$ なら $0$ なので、各次数で有限である。引用する事実 1 を当てると、$E_1^{p,q}=\mathbb H^{p+q}(X,\Omega^p[-p])=H^q(X,\Omega^p)$ のスペクトル系列を得て、収束先のフィルトレーションは定義から $\operatorname{Filt}^p$ である。$E_1$ の微分は $\operatorname{gr}^p\to\operatorname{gr}^{p+1}[1]$ の連結射、すなわち $d$ が誘導する写像である。
段 2(有限性).$\sigma_{\ge n+1}$ は次数 $n+1$ 以上に集中するので $\mathbb H^n(X,\sigma_{\ge n+1})=0$、よって $\operatorname{Filt}^{n+1}H^n=0$ である。$\sigma_{\ge0}=\Omega^\bullet$ なので $\operatorname{Filt}^0H^n=H^n$ である。$E_1^{p,q}$ は $p<0$ か $q<0$ で $0$ なので系列は第一象限にあり、収束する。
段 3(積).外積 $\Omega^a\otimes\Omega^b\to\Omega^{a+b}$ は Leibniz 則 $d(\omega\wedge\eta)=d\omega\wedge\eta+(-1)^a\omega\wedge d\eta$ により複体の射 $\Omega^\bullet\otimes\Omega^\bullet\to\Omega^\bullet$ を定め、$\omega\wedge\eta=(-1)^{ab}\eta\wedge\omega$ により $\Omega^\bullet$ は次数付き可換な微分次数付き代数の層である。$\sigma_{\ge a}\otimes\sigma_{\ge b}$ の像は $\sigma_{\ge a+b}$ に入るので、フィルトレーションは乗法的である。引用する事実 1 から (2) の de Rham の側と乗法性を得る。Hodge 複体は同じ次数付き層に微分 $0$ を入れたもので、同じく次数付き可換な微分次数付き代数の層であり、積は $H^q(\Omega^p)\times H^{q'}(\Omega^{p'})\to H^{q+q'}(\Omega^{p+p'})$ と二重次数を保つ。
段 4(関手性と作用群).可換な四角形は複体の射 $\Omega^\bullet_{X/S}\to g_*\Omega^\bullet_{X'/S'}$($g\colon X'\to X$)を与え、これは外積と $\sigma_{\ge p}$ を保つ(本書『0-5 de Rham コホモロジーと Hodge コホモロジー』の定義「Kähler 微分と de Rham 複体」の (1))。作用群つきでは、$G$ は複体に外積と $\sigma_{\ge p}$ を保って作用するので、引用する事実 1 の混合版で同じ議論が通る。
スペクトル系列が手に入ったので、第一 Chern 類がその中のどこにあるかを問える。その前に、類が $\operatorname{Pic}$ から加法的に定まることを確かめる。
上の定義(第一 Chern 類の二つの型)の写像 $\operatorname{Pic}(X)=H^1(X,\mathcal O_X^*)\to H^{1,1}_{\mathrm{Hdg}}(X/S)\subset H^2_{\mathrm{Hdg}}(X/S)$ と $\operatorname{Pic}(X)\to H^2_{\mathrm{DR}}(X/S)$ は群の準同型であり、$\mathbb L\otimes\mathbb L'$ に和を対応させる。可換な四角形 $X'\to X$、$S'\to S$ について、$\mathbb L$ の引き戻しの類は $\mathbb L$ の類の像である。作用群つきでも同じである。
段 1(準同型).$D(fg)=D(f)+D(g)$ なので $D\colon\mathcal O_X^*\to\mathcal Z^1$ は可換群の層の準同型で、$H^1$ の上の写像も準同型である。$\phi^1$ と $H^1(\mathcal Z^1)\to H^1(\Omega^1)$ は層の複体の射から来るので準同型である。$\operatorname{Pic}(X)\cong H^1(X,\mathcal O_X^*)$ でテンソル積は和に当たる。
段 2(関手性).$g\colon X'\to X$ について $g^{-1}\mathcal O_X^*\to\mathcal O_{X'}^*$ と複体の射 $\Omega^\bullet_{X/S}\to g_*\Omega^\bullet_{X'/S'}$ は $D$ と可換で($d(g^*f)=g^*df$)、$\mathcal Z^1$ を $\mathcal Z^1$ に移す。主結果 1 の (3) と合わせて主張を得る。作用群つきでは同じ射が作用と両立する。
原論文はこれを「すぐに確かめられる」と書く(印字 p. 286)。次の主結果は、原論文が小節 6.4 で一般の $c_i$ について期待として述べたことの、第一 Chern 類の場合である。
可逆加群 $\mathbb L$ について次が成り立つ。
(1) $c_1^{\mathrm{DR}}(\mathbb L)\in\operatorname{Filt}^1H^2_{\mathrm{DR}}(X/S)$ である。
(2) $c_1^{\mathrm{Hdg}}(\mathbb L)\in E_1^{1,1}$ は主結果 1 のスペクトル系列の永続的な輪体で、それが定める $E_\infty^{1,1}=\operatorname{gr}^1H^2_{\mathrm{DR}}$ の元は、$c_1^{\mathrm{DR}}(\mathbb L)$ の $\operatorname{gr}^1$ での類に等しい。
(3) 作用群つき($\mathbb L$ が $G$ 線形化されている場合)でも (1)(2) が混合版で成り立つ。
段 1(射の分解).複体の射 $\mathcal Z^1[-1]\to\Omega^\bullet$ は、次数 1 の項だけが $0$ でないので部分複体 $\sigma_{\ge1}\Omega^\bullet$ を通る。すなわち $\mathcal Z^1[-1]\xrightarrow{\ \alpha\ }\sigma_{\ge1}\Omega^\bullet\hookrightarrow\Omega^\bullet$ である。よって $\phi^1D(\eta)$ は $z:=\alpha_*D(\eta)\in\mathbb H^2(X,\sigma_{\ge1}\Omega^\bullet)$ の像で、(1) が従う。
段 2($\operatorname{gr}^1$ での像).$\alpha$ と射影 $\sigma_{\ge1}\to\sigma_{\ge1}/\sigma_{\ge2}=\Omega^1[-1]$ の合成は、包含 $\mathcal Z^1[-1]\hookrightarrow\Omega^1[-1]$ である。よって $z$ の $\mathbb H^2(X,\Omega^1[-1])=H^1(X,\Omega^1)=E_1^{1,1}$ への像は $D(\eta)$ の像、すなわち $c_1^{\mathrm{Hdg}}(\mathbb L)$ である。引用する事実 1 により、$c_1^{\mathrm{Hdg}}(\mathbb L)$ は $\mathbb H^2(X,\sigma_{\ge1})$ の元 $z$ の像なので永続的な輪体であり、その $E_\infty^{1,1}$ での類は $z$ の $H^2_{\mathrm{DR}}$ での像 $c_1^{\mathrm{DR}}(\mathbb L)$ の $\operatorname{gr}^1$ の類である。
段 3(作用群つき).同じ複体の射は $G$ の作用と両立するので、混合超コホモロジーで段 1・2 がそのまま通る。
$E_1$ の段で見れば、$d_1(c_1^{\mathrm{Hdg}}(\mathbb L))$ は $D(\eta)$ を外微分した $d(D\eta)=0$ の類で、閉形式から作ったことがそのまま永続性に効いている。原論文は第一 Chern 類の Hodge 型と de Rham 型を並べて定めるだけで、両者のこの関係を一般の $c_i$ の期待の中でしか述べない。
本書『0-5 de Rham コホモロジーと Hodge コホモロジー』の定義「Atiyah 拡大と Atiyah 類」のとおり、局所自由加群 $\mathbb E$ の Atiyah 類 $\operatorname{At}(\mathbb E)\in H^1(X,\operatorname{End}\mathbb E\otimes\Omega^1_{X/S})$ には二つの形がある。一つは $\mathbb E$ の枠の主 $\operatorname{GL}_r$ 束の相対余接層の完全列を降下させ、トレース形式で $\operatorname{End}(\mathbb E)^\vee\cong\operatorname{End}(\mathbb E)$ と同一視して得る拡大 $0\to\Omega^1_{X/S}\to\operatorname{Ati}(\mathbb E)\to\operatorname{End}(\mathbb E)\to0$ の類で、原論文 (6.26) はこの形で書く。もう一つは 1 次主部分の完全列 $0\to\Omega^1_{X/S}\otimes\mathbb E\to P^1_{X/S}(\mathbb E)\to\mathbb E\to0$ の類である。二つは符号の約束を除いて同じ類を与え、どちらの拡大でも、$\mathcal O_X$ 線形な分裂は $\mathbb E$ の $S$ 相対の接続と一対一に対応する。可逆加群では $\operatorname{End}\mathbb L=\mathcal O_X$ で、$\operatorname{At}(\mathbb L)=\pm D(\eta)=\pm c_1^{\mathrm{Hdg}}(\mathbb L)$ となる。原論文の小節 6.11 は、Atiyah 類の冪と特性多項式の係数から Hodge 型の $c_i$ を作る別の道を示す。その扱いと、それが標数 2 で破れる反例は本書『7-4 消滅結果・整数環・Atiyah 類』で述べる。
高次の類の定義は、次の射影束公式に全面的に依る。原論文はこれを証明しない。
原論文の (6.10) は次を主張する(印字 pp. 286–287)。$X\to S$ と $X$ 上の階数 $r$ の局所自由加群 $\mathbb E$、その射影束 $f\colon P\to X$、$\xi=c_1(\mathcal O_P(1))\in H^2(P/S)$ について、$H^*(P/S)$ を $f^*$ で $H^*(X/S)$ 上の左加群とみると、$\xi^j$($0\le j\le r-1$)はその基底である。de Rham と Hodge のどちらでもそうである。原論文はこれを「Illusie が証明した鍵となる非自明な結果」と書き、文献 [24](準備中の論文)を挙げるだけで、証明を与えない。本書も証明しないので、この主張の状態は未完結である。$S=X$ が体のスペクトルで $\mathbb E$ が自明な場合の Hodge 型は射影空間の計算(引用する事実 2)で、$S=\operatorname{Spec}\mathbf C$ で $X$ が $\mathbf C$ 上有限型かつ分離的で滑らかな場合の de Rham 型は比較(下の定理(超越的な類との比較)の証明の段 3)で与えられるが、一般の $X/S$ の場合は原論文にも本書にも証明が無い。本書『7-2 作用群つきの場合と係数環が小さい場合』は、作用群つきに移すために、これを順像の同型 $Rf_*\Omega^\bullet_{P/S}\cong\bigoplus_{j< r}\Omega^\bullet_{X/S}[-2j]$($\xi^j$ の積で与えられる。Hodge では各 $\Omega^p$ について同様)の局所形で入力として受け取る。
以下、上の定義(高次の Chern 類)はこの主張を入力として使う。最初の帰結は、基礎 $S$ の取り替えとの両立である。
$X\to S$ をスキームの射、$\mathbb E$ を $X$ 上の局所自由加群とし、上の注意(de Rham と Hodge の射影束公式)の主張が $X/\operatorname{Spec}\mathbf Z$ と $X/S$ の両方の $P(\mathbb E)$ について成り立つとする。このとき標準写像 $\beta\colon H^*(X/\operatorname{Spec}\mathbf Z)\to H^*(X/S)$(原論文 (6.13))は $c_i(\mathbb E)$ を $c_i(\mathbb E)$ に移す。de Rham 型でも Hodge 型でもそうである。
段 1(基本類).$\Omega^\bullet_{X/\mathbf Z}\to\Omega^\bullet_{X/S}$ は外積を保つ複体の射で、$\beta$ は環準同型である(主結果 1 の (3))。$D$ は $\beta$ と可換なので、$P$ の上の同じ写像は $\xi_{/\mathbf Z}$ を $\xi_{/S}$ に移し、$f^*$ と可換である。
段 2(係数の一意性).$\operatorname{Spec}\mathbf Z$ 上の関係式 $\sum_if^*c_i(\mathbb E)_{/\mathbf Z}\,\xi_{/\mathbf Z}^{r-i}=0$ に $\beta$ を当てると $\sum_if^*\beta(c_i(\mathbb E)_{/\mathbf Z})\,\xi_{/S}^{r-i}=0$ を得る。$S$ 上の射影束公式で係数は一意なので、$\beta(c_i(\mathbb E)_{/\mathbf Z})=c_i(\mathbb E)_{/S}$ である。
原論文はここで、最も細かい Chern 類は $S=\operatorname{Spec}\mathbf Z$ で得られるが、$S$ 上の局所自由加群の射影束の $H^*(P/S)$ を計算するには一般の $S$ も要る、と評価を添える(印字 p. 287)。
次の主結果は、原論文の小節 6.4 の期待のうち、Chern 類の形式の仮定から出せる部分である。
上の注意(de Rham と Hodge の射影束公式)の主張と注意(Chern 類の形式の仮定)の (i)(ii) が、$\mathbb E$ の旗束とその上の射影束について成り立つとする。このとき $i\ge1$ について $c_i^{\mathrm{DR}}(\mathbb E)\in\operatorname{Filt}^1H^{2i}_{\mathrm{DR}}(X/S)$ である。作用群つきでも同じである。最高次の $c_r^{\mathrm{DR}}(\mathbb E)$ については、形式の仮定なしに成り立つ。
段 1($\operatorname{Filt}^1$ の言い換え).商複体 $\Omega^\bullet\to\Omega^\bullet/\sigma_{\ge1}=\mathcal O_X$(次数 $0$)は外積を保ち、環準同型 $\rho\colon H^*_{\mathrm{DR}}(X/S)\to H^*(X,\mathcal O_X)$ を誘導する。完全三角 $\sigma_{\ge1}\to\Omega^\bullet\to\mathcal O_X\to$ の長完全列により $\operatorname{Filt}^1=\ker\rho$ である。$\rho$ は $X$ について自然である。
段 2(最高次の類).主結果 3 により $\rho_P(\xi)=0$ である。関係式 $\sum_{i=0}^rf^*c_i\,\xi^{r-i}=0$ に $\rho_P$ を当てると、$r-i\ge1$ の項が消えて $\rho_P(f^*c_r)=f^*\rho_X(c_r)=0$ を得る。引用する事実 2 により $f^*\colon H^*(X,\mathcal O_X)\to H^*(P,\mathcal O_P)$ は同型なので $\rho_X(c_r)=0$ である。ここまでは形式の仮定を使っていない。
段 3(一般の $i$).$q\colon D(\mathbb E)\to X$ を $\mathbb E$ の旗束とする(本書『2-3 Chern 類の定義と三つの性質』の定義「作用群つきの旗束」と同じ構成)。$q^*\mathbb E$ は可逆加群 $\mathbb M_1,\dots,\mathbb M_r$ を因子とするフィルトレーションをもつので、形式の仮定 (i)(ii) により $q^*c(\mathbb E)=\prod_k(1+c_1(\mathbb M_k))$ である。主結果 3 で各 $c_1(\mathbb M_k)\in\operatorname{Filt}^1$、主結果 1 の (2) で $\operatorname{Filt}^1$ は積で閉じるので、$q^*c_i(\mathbb E)\in\operatorname{Filt}^1$、すなわち $q^*\rho_X(c_i)=\rho_{D(\mathbb E)}(q^*c_i)=0$ である。旗束は射影束の塔なので、引用する事実 2 により $q^*$ は $H^*(\cdot,\mathcal O)$ の上で同型で、$\rho_X(c_i)=0$ を得る。
段 4(作用群つき).旗束と $\rho$ は作用と両立し、引用する事実 2 は作用群つきでも成り立つので、同じ議論が混合版で通る。
原論文の小節 6.4 は、Giraud の準備中の論文(文献 [15]。脚注ではおそらく Illusie の [24] にも)に載ると期待する確かめを法として、次を述べる(印字 p. 288)。Hodge 型の $c_i(\mathbb E)$ はスペクトル系列 (6.4) の普遍的な輪体で、$E_\infty$ の全次数 $2i$・フィルトレーション次数 $i$ の元を定め、de Rham 型の $c_i(\mathbb E)$ はフィルトレーション $\ge i$ にあって、$i+1$ を法としてその元に等しい。原論文の状態は期待で、Atiyah–Hirzebruch AH62 の解析的サイクルの類についての類似の主張と比べよと添える。本頁で閉じたのは、$i=1$ の場合(上の定理(de Rham 型の第一 Chern 類はフィルトレーション 1 にあり、Hodge 型に一致する))と、すべての $i$ で $c_i\in\operatorname{Filt}^1$ であること(上の定理(すべての Chern 類はフィルトレーション 1 にある))までである。$c_i\in\operatorname{Filt}^i$ は、$Rf_*\sigma_{\ge p}\Omega^\bullet_P\cong\bigoplus_j\sigma_{\ge p-j}\Omega^\bullet_X[-2j]$ の型のフィルター付きの射影束公式があれば旗束で同じ論法で閉じるが、それは上の注意の主張よりさらに強い入力で、本書は置かない。原論文はこの箇所で $c_i$ を $c_\ell$ と読める字形で印字しているが、$c_i$ と読む。
複素数体の上では、de Rham 型の類を位相的な整係数の類と比べられる。比較には $2\pi i$ の因子が入り、その符号は二重複体の約束で決まるので、先に約束を確かめる。
本頁は、指数列を $\exp(2\pi i\,\cdot)$ でとり(記号表の $\delta_{\exp}$)、$\phi^1$ を上の定義(第一 Chern 類の二つの型)のとおり全微分 $\delta+(-1)^ad$ の Čech 二重複体で定める。このとき下の証明の段 1 のとおり、$\mathcal Z^1$ の Čech 輪体 $\omega$ について $\phi^1[\omega]=\iota(\delta_d[\omega])$ となり、比較は原論文の (6.14) の形になる。全微分を $d+(-1)^b\delta$($b$ は形式の次数)にとると $\phi^1[\omega]=-\iota(\delta_d[\omega])$ となり、因子は $(-2\pi i)^{-p}$ に変わる。原論文は約束を明記しない。
$X$ を $\mathbf C$ 上有限型かつ分離的で滑らかなスキーム、$\mathbb E$ を $X$ 上の局所自由加群とする。$\varphi\colon H^*(X^{\mathrm{an}},\mathbf Z)\to H^*(X^{\mathrm{an}},\mathbf C)\cong H^*_{\mathrm{DR}}(X/\mathbf C)$ を、係数の包含と引用する事実 3 の同型の合成とする。このとき $P(\mathbb E)/\mathbf C$ について de Rham 型の射影束公式が成り立ち(したがって $c_p^{\mathrm{DR}}(\mathbb E)$ は仮定なしに定まり)、上の約束の下で、すべての $p$ について
$$\varphi\bigl(c_p(\mathbb E^{\mathrm{an}})\bigr)=(2\pi i)^{-p}\,c_p^{\mathrm{DR}}(\mathbb E)$$
である。ここで $c_p(\mathbb E^{\mathrm{an}})$ は引用する事実 6 の超越的な Chern 類である。
段 1(解析的な第一 Chern 類).$X^{\mathrm{an}}$ の上の可逆層 $\mathbb L$ の類 $\eta$ を、開被覆の Čech 輪体 $(g_{jk})$ で代表し、被覆を細かくして(有限個の交わりがすべて可縮な開集合からなる被覆をとる)$g_{jk}=\exp(2\pi if_{jk})$ と書く(引用する事実 5)。$n:=\delta f$ は整数値の輪体で $\delta_{\exp}\eta=[n]$、$D\eta=[dg_{jk}/g_{jk}]=[2\pi i\,df_{jk}]$ である。二重複体で $(\delta+(-1)^1d)(2\pi if)=2\pi in-2\pi i\,df$ なので、双次数 $(2,0)$ の $2\pi in$ と双次数 $(1,1)$ の $2\pi i\,df$ は同じ類を定める。前者は $2\pi i\,\iota(\delta_{\exp}\eta)$ の像、後者は $\phi^1D(\eta)$ なので、$\mathbb H^2(X^{\mathrm{an}},\Omega^\bullet_{X^{\mathrm{an}}})\cong H^2(X^{\mathrm{an}},\mathbf C)$ の中で $\phi^1D(\eta)=2\pi i\,\iota(\delta_{\exp}\eta)$ である。これは引用する事実 4 の等式を二重複体で書いたものである。
段 2(代数から解析へ).$\mathbb L$ が $X$ 上の可逆加群なら、解析化で $D$ と $\phi^1$ は保たれるので、引用する事実 3 の同型は $c_1^{\mathrm{DR}}(\mathbb L)$ を $\phi^1D(\eta^{\mathrm{an}})$ に移す。段 1 と $c_1(\mathbb L^{\mathrm{an}})=\delta_{\exp}cl(\mathbb L^{\mathrm{an}})$(引用する事実 6)から $\varphi(c_1(\mathbb L^{\mathrm{an}}))=(2\pi i)^{-1}c_1^{\mathrm{DR}}(\mathbb L)$ を得る。
段 3(射影束公式).$P=P(\mathbb E)$ も $\mathbf C$ 上有限型かつ分離的で滑らかで、$P^{\mathrm{an}}$ は $\mathbb E^{\mathrm{an}}$ の通常の射影束、$\mathcal O_P(1)^{\mathrm{an}}$ はその $\mathcal O(1)$ である(引用する事実 6)。段 2 を $\mathcal O_P(1)$ に当てると $\varphi(\xi_{\mathbf Z})=(2\pi i)^{-1}\xi$ である。本書『3-1 位相空間の場合の比較』の命題「位相的な射影束公式」(作用群は単位群、$F=\mathbf C$)により、$\xi_{\mathbf Z}^{\,j}$($0\le j\le r-1$)は $H^*(P^{\mathrm{an}},\mathbf C)$ の $H^*(X^{\mathrm{an}},\mathbf C)$ 上の基底である。引用する事実 3 の同型は $f^*$ と可換な環同型なので、$\xi^j=(2\pi i)^j\varphi(\xi_{\mathbf Z})^j$ は $H^*_{\mathrm{DR}}(P/\mathbf C)$ の $H^*_{\mathrm{DR}}(X/\mathbf C)$ 上の基底である。
段 4(一般の $p$).超越的な類の関係式 $\sum_if^*c_i(\mathbb E^{\mathrm{an}})\,\xi_{\mathbf Z}^{\,r-i}=0$ に、$f^*$ と可換な環準同型 $\varphi$ を当てて $(2\pi i)^r$ 倍すると
$$\sum_{i=0}^rf^*\bigl((2\pi i)^i\varphi(c_i(\mathbb E^{\mathrm{an}}))\bigr)\,\xi^{r-i}=0$$
を得る。$i=0$ の係数は $1$ である。段 3 の射影束公式による係数の一意性から、$(2\pi i)^i\varphi(c_i(\mathbb E^{\mathrm{an}}))=c_i^{\mathrm{DR}}(\mathbb E)$ である。
原論文は、公理的な特徴づけで可逆加群の場合に帰着し、その場合は Atiyah の命題 12 で容易だとだけ書く(印字 p. 288)。上の段 3・4 は特徴づけ(とくに Chern 類の形式の仮定の加法性)を使わず、位相的な射影束公式を比較の同型で移して、両側の関係式を直接比べた。したがってこの場合には、未完結とした注意(de Rham と Hodge の射影束公式)の主張を入力として置く必要がない。原論文は $X$ を滑らかとだけ書く。本頁が有限型かつ分離的を足したのは、超越的な類を本書『3-2 エタールコホモロジーと古典位相の比較』の定義で使うためである。
最初の例は、主結果 3 がスペクトル系列の中で目に見える場合である。
$k$ を体、$X=\mathbf P^n_k$、$S=\operatorname{Spec}k$ とする。引用する事実 2 により $H^q(X,\Omega^p)$ は $p=q\le n$ で $k$、ほかは $0$ である。$E_r$ の微分は $(p,q)$ から $(p+r,q-r+1)$ へ向かい、$p=q$ なら行き先は $p+r\ne q-r+1$ なので $0$ の群である。よって系列は $E_1$ で退化し、$H^2_{\mathrm{DR}}=\operatorname{Filt}^1H^2\cong H^1(X,\Omega^1)=k\,h$($h=c_1^{\mathrm{Hdg}}(\mathcal O(1))$)である。主結果 2 により $c_1^{\mathrm{Hdg}}(\mathcal O(m))=mh$ で、主結果 3 により $c_1^{\mathrm{DR}}(\mathcal O(m))$ はこの同型で $mh$ に対応する。
外す条件は「係数体の標数が $0$」である。標数 $0$ なら上の例で $\operatorname{Pic}(\mathbf P^n_k)=\mathbf Z\to k$、$m\mapsto mh$ は単射である。$k$ の標数が $p>0$ なら、$\mathcal O(p)$ は自明でない直線束だが $c_1^{\mathrm{Hdg}}(\mathcal O(p))=ph=0$ で、主結果 2 により $c_1^{\mathrm{DR}}(\mathcal O(p))=p\,c_1^{\mathrm{DR}}(\mathcal O(1))=0$ である。$\mathcal O(p)$ は代数的な接続をもち(本書『0-5 de Rham コホモロジーと Hodge コホモロジー』の例「射影直線の直線束の Atiyah 類」)、上の注意(Atiyah 類との関係)の $\operatorname{At}(\mathcal O(p))=0$ と整合する。
外す条件は、$\mathbf C$ 上の射影的で滑らかな多様体での $E_1$ 退化(本書『0-5 de Rham コホモロジーと Hodge コホモロジー』の定理「複素数体の上の比較定理」の (2))の「射影的」である。$X=\mathbf A^1_k=\operatorname{Spec}k[t]$、$S=\operatorname{Spec}k$、$k$ の標数を $0$ とする。アフィンなので $E_1^{0,0}=k[t]$、$E_1^{1,0}=k[t]\,dt$ 以外は $0$ で、$d_1=d\colon k[t]\to k[t]\,dt$ は全射、核は $k$ である。よって $H^1_{\mathrm{DR}}=0$ だが $E_1^{1,0}\ne0$ で、$E_1\ne E_2$ である。標数 $p$ では $t^{p-1}dt$ が完全形式でないので $H^1_{\mathrm{DR}}$ は $0$ でない(本書『0-5 de Rham コホモロジーと Hodge コホモロジー』の例「有理関数体の Cartier 作用素」と同じ計算)。
以下は原論文の主張ではなく、後代の結果の紹介である(時点を明記する。本書が文献を開いて確かめていないものはそう書く)。
本頁が対応する原論文は Classes de Chern et représentations linéaires des groupes discrets Gro68d の小節 0.7 と 6.1〜6.4 である。
| 本頁 | 原論文 | 印字頁 |
|---|---|---|
| 背景(序論の予告) | 0.7 | 223–224 |
| 定理(Hodge–de Rham スペクトル系列と環構造) | 6.1、(6.1)〜(6.4)、環構造と反変性 | 284–285 |
| 引用する事実 3 | 6.1 末([20] の想起) | 285 |
| 定義(第一 Chern 類の二つの型) | 6.2、(6.5)〜(6.8)、命名 | 285–286 |
| 定理(第一 Chern 類の準同型性と関手性) | (6.9) | 286 |
| 定理(de Rham 型の第一 Chern 類はフィルトレーション 1 にあり、Hodge 型に一致する) | 6.4 の期待の $i=1$ の場合 | 288 |
| 注意(de Rham と Hodge の射影束公式) | 6.3、(6.10)(Illusie [24]) | 286–287 |
| 定義(高次の Chern 類)、注意(射影束の規約と符号) | (6.11)(6.12) | 286–287 |
| 注意(Chern 類の形式の仮定) | 6.3(admettrons、[15]) | 287 |
| 定理(基礎の取り替えとの両立) | 6.3、(6.13) | 287 |
| 注意(比較の符号の約束)、定理(超越的な類との比較) | 6.4、(6.14)([3, Prop. 12]) | 288 |
| 定理(すべての Chern 類はフィルトレーション 1 にある)、注意(原論文の小節 6.4 の期待) | 6.4 の期待([15]、脚注の [24]、[5]) | 288 |
| 注意(Atiyah 類との関係) | 6.11、(6.26)(本書『7-4 消滅結果・整数環・Atiyah 類』) | 295–296 |
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