Gergonne点とNagel点(Gergonne point and Nagel point)とは、三角形の内接円の 3 つの接点を向かい合う頂点と結ぶ 3 本が交わる点(Gergonne 点)と、傍接円が辺に接する 3 点で同じことをしてできる点(Nagel 点)である。$s$ を周の長さの半分とすると、重心座標は Gergonne 点が $\left(\frac1{s-a}:\frac1{s-b}:\frac1{s-c}\right)$、Nagel 点が $(s-a:s-b:s-c)$ である。内心 $I$・重心 $G$・Nagel 点 $N_a$ は $G=\frac{2I+N_a}3$ を満たし、$I\ne N_a$ なら一直線上(Nagel 線)で $IG:GN_a=1:2$ である。内接円と傍接円の接点は辺の中点に関して対称で、2 点は等長共役の組である。
前提知識: Cevaの定理(高校数学), 三角形の内心と傍心, 位置ベクトルと内分点
三角形の内接円は 3 辺に接する。3 つの接点を向かい合う頂点と結ぶと、3 本の線分は 1 点で交わる。この点を Gergonne 点 という。同じことを内接円の代わりに 3 つの傍接円で行うと、別の 1 点で交わる。この点を Nagel 点 という。この記事では、2 つの点がどこにあるか、互いにどう関係しているかを調べる。
以下、三角形 $ABC$ の辺の長さを $a=BC$、$b=CA$、$c=AB$、周の長さの半分を $s=\dfrac{a+b+c}2$、面積を $S$ とする。
$B(0,0)$、$C(15,0)$、$A\left(\dfrac{42}5,\dfrac{56}5\right)$ とする。$a=BC=15$、$AB^2=\left(\dfrac{42}5\right)^2+\left(\dfrac{56}5\right)^2=\dfrac{1764+3136}{25}=196$ より $c=14$、$CA^2=\left(\dfrac{33}5\right)^2+\left(\dfrac{56}5\right)^2=\dfrac{1089+3136}{25}=169$ より $b=13$ である。$s=21$ で
$$
s-a=6,\qquad s-b=8,\qquad s-c=7
$$
である。面積は $S=\dfrac12\cdot15\cdot\dfrac{56}5=84$ である。
(1) 内接円。1 点から円に引いた 2 本の接線の長さは等しいので、内接円が辺 $BC$、$CA$、$AB$ に接する点を $D$、$E$、$F$ とすると、$BD=BF=s-b=8$、$CD=CE=s-c=7$、$AE=AF=s-a=6$ である(三角形の内心と傍心)。よって
$$
\frac{BD}{DC}\cdot\frac{CE}{EA}\cdot\frac{AF}{FB}=\frac87\cdot\frac76\cdot\frac68=1
$$
で、Cevaの定理(高校数学) の逆により $AD$、$BE$、$CF$ は 1 点で交わる。内心は $I(8,4)$、内接円の半径は $r=\dfrac Ss=4$ で、$D=(8,0)$ である。
(2) 傍接円。辺 $BC$ の外側にある傍接円(中心 $I_A$)が辺 $BC$ に接する点を $D'$ とする。三角形の内心と傍心 の公式で $I_A=\dfrac{-aA+bB+cC}{-a+b+c}=(7,-14)$、半径は $r_A=\dfrac S{s-a}=14$ で、$I_A$ から $x$ 軸に下ろした垂線の足は $D'=(7,0)$ である。$BD'=7=s-c$、$D'C=8=s-b$ である。他の 2 つの傍接円の接点 $E'$(辺 $CA$ の上)、$F'$(辺 $AB$ の上)でも同じく $CE'=s-a=6$、$E'A=s-c=7$、$AF'=s-b=8$、$F'B=s-a=6$ になり(lem-gn-excircle で示す)、
$$
\frac{BD'}{D'C}\cdot\frac{CE'}{E'A}\cdot\frac{AF'}{F'B}=\frac78\cdot\frac67\cdot\frac86=1
$$
である。$AD'$、$BE'$、$CF'$ も 1 点で交わる。
(3) 並べてみると、辺 $BC$ の上で $D=(8,0)$ と $D'=(7,0)$ は、中点 $M\left(\dfrac{15}2,0\right)$ から反対向きに同じ距離 $\dfrac12$ だけ離れている。
ex-gn-start で出てきた問いを整理する。
| 高校の計算 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| 接線の長さ $s-a$ | 接点が辺を分ける比 | 重心座標の成分 |
| Ceva の定理の逆 | Gergonne 点・Nagel 点の存在 | $\left(\dfrac1{s-a}:\dfrac1{s-b}:\dfrac1{s-c}\right)$、$(s-a:s-b:s-c)$ |
| 位置ベクトルの和 $2I+N_a=3G$ | Nagel 線 $IG:GN_a=1:2$ | 重心を中心とする $-\frac12$ 倍の相似拡大 |
| 辺の中点に関する折り返し | 等長共役 | $(\alpha:\beta:\gamma)\mapsto\left(\dfrac1\alpha:\dfrac1\beta:\dfrac1\gamma\right)$ |
内接円が 3 辺に接する点 D、E、F と向かい合う頂点を結ぶ 3 本は、Gergonne 点 Ge で交わる
内接円の接点までの長さは、三角形の内心と傍心 で示した次の事実である。1 点から円に引いた 2 本の接線の長さが等しいので、$AE=AF=x$、$BF=BD=y$、$CD=CE=z$ とおくと、$y+z=a$、$z+x=b$、$x+y=c$ で、足すと $x+y+z=s$ となり
$$
\underbrace{AE=AF}_{x}=s-a,\qquad \underbrace{BF=BD}_{y}=s-b,\qquad \underbrace{CD=CE}_{z}=s-c
$$
である(Cevaの定理(高校数学) の Gergonne 点の例と同じ計算)。傍接円でも同じ考え方で長さが求まる。
辺 $BC$ の外側にある傍接円が、辺 $BC$ に点 $D'$ で、辺 $AB$ の $B$ の先の延長に点 $Z$ で、辺 $AC$ の $C$ の先の延長に点 $Y$ で接するとする。このとき
$$
AZ=AY=s,\qquad BD'=BZ=s-c,\qquad CD'=CY=s-b
$$
である。
方針:3 つの頂点から傍接円に引いた接線の長さが等しいことを使い、$A$ から接点までの長さを 2 通りに足す。
段 1(等しい接線)。1 点から円に引いた 2 本の接線の長さは等しい(三角形の内心と傍心 の接点までの長さの命題の証明の段 1 と同じく、中心と接点を結ぶ半径が接線に垂直なので、三平方の定理で等しい)。よって $BD'=BZ$、$CD'=CY$、$AZ=AY$ である。
段 2(足す)。$Z$ は辺 $AB$ の $B$ の先の延長にあるので $AZ=AB+BZ=c+BD'$、同じく $AY=AC+CY=b+CD'$ である。足すと
$$
AZ+AY=b+c+(BD'+CD')=b+c+a=2s
$$
である。途中で、$D'$ が辺 $BC$ の上にあるので $BD'+CD'=a$ となることを使った。
段 3(それぞれの値)。段 1 より $AZ=AY$ なので、段 2 から $AZ=AY=s$ である。すると $BD'=BZ=AZ-c=s-c$、$CD'=CY=AY-b=s-b$ である。$\square$
内接円の接点 $D$ では $BD=s-b$、傍接円の接点 $D'$ では $CD'=s-b$ である。$B$ から測るか $C$ から測るかが入れかわっているだけなので、$D$ と $D'$ は辺 $BC$ の中点に関して対称である。これが ex-gn-start (3) の理由である。
lem-gn-excircle から、$A$ を出て $B$ を回って $D'$ まで辺の上を進む長さは $AB+BD'=c+(s-c)=s$、$C$ を回って進む長さは $AC+CD'=b+(s-b)=s$ である。つまり線分 $AD'$ は、三角形の周を長さ $s$ ずつの 2 つに分ける。ex-gn-start の三角形では $14+7=21$、$13+8=21$ である。$BE'$、$CF'$ も同じく周を二等分する。
点とその位置ベクトルを同じ文字で表す。線分 $BC$ を $m:n$ に内分する点は $\dfrac{nB+mC}{m+n}$ である(位置ベクトルと内分点)。
三角形 $ABC$ の内接円が辺 $BC$、$CA$、$AB$ に接する点を $D$、$E$、$F$ とする。3 本の線分 $AD$、$BE$、$CF$ が交わる点を Gergonne 点 といい、$G_e$ で表す。
辺 $BC$、$CA$、$AB$ の外側にある傍接円が、それぞれ辺 $BC$、$CA$、$AB$ に接する点を $D'$、$E'$、$F'$ とする。3 本の線分 $AD'$、$BE'$、$CF'$ が交わる点を Nagel 点 といい、$N_a$ で表す。
3 本がそれぞれ 1 点で交わることは、ex-gn-start と同じく Ceva の定理の逆から分かる。辺の比の積は、内接円では $\dfrac{s-b}{s-c}\cdot\dfrac{s-c}{s-a}\cdot\dfrac{s-a}{s-b}=1$、傍接円では $\dfrac{s-c}{s-b}\cdot\dfrac{s-a}{s-c}\cdot\dfrac{s-b}{s-a}=1$ である。次の定理は、交わる点を位置ベクトルで書き、交わることも同時に示す。
$$
N_a=\frac{(s-a)A+(s-b)B+(s-c)C}{s},\qquad G_e=\frac{\dfrac{A}{s-a}+\dfrac{B}{s-b}+\dfrac{C}{s-c}}{\dfrac1{s-a}+\dfrac1{s-b}+\dfrac1{s-c}}
$$
である。右辺の点は 3 本の線分 $AD'$、$BE'$、$CF'$($G_e$ では $AD$、$BE$、$CF$)の上にあり、したがって 3 本は 1 点で交わる。重心座標で書くと、$N_a=(s-a:s-b:s-c)$、$G_e=\left(\dfrac1{s-a}:\dfrac1{s-b}:\dfrac1{s-c}\right)$ である。
方針:右辺を「$A$ の項」と「$B$、$C$ の項」に分け、$B$、$C$ の項が接点を表すことを確かめる。
段 1(係数の和)。$(s-a)+(s-b)+(s-c)=3s-2s=s$ なので、$N_a$ の式の係数の和は $1$ である。また $s-a=\dfrac{b+c-a}2>0$(三角形の成立条件)なので、$s-a$、$s-b$、$s-c$ はどれも正である。
段 2($N_a$ は $AD'$ の上)。lem-gn-excircle より $D'$ は辺 $BC$ を $BD':D'C=(s-c):(s-b)$ に内分するので、$D'=\dfrac{(s-b)B+(s-c)C}{(s-c)+(s-b)}=\dfrac{(s-b)B+(s-c)C}a$ である($(s-b)+(s-c)=2s-b-c=a$)。よって $(s-b)B+(s-c)C=aD'$ で
$$
N_a=\frac{s-a}s\,A+\frac as\,D'
$$
と書ける。係数 $\dfrac{s-a}s$ と $\dfrac as$ は正で和が $\dfrac{s-a+a}s=1$ なので、$N_a$ は線分 $AD'$ を $a:(s-a)$ に内分する点である。
段 3(残りの 2 本)。頂点の名前を $A\to B\to C\to A$ と回すと、同じ計算で $N_a$ は線分 $BE'$、$CF'$ の上にもある($E'$ は辺 $CA$ を $(s-a):(s-c)$ に、$F'$ は辺 $AB$ を $(s-b):(s-a)$ に内分する)。よって 3 本は $N_a$ で交わる。
段 4($G_e$)。内接円の接点 $D$ は辺 $BC$ を $BD:DC=(s-b):(s-c)$ に内分するので、$D=\dfrac{(s-c)B+(s-b)C}a$ である。$G_e$ の式の分子の $B$、$C$ の項は
$$
\frac B{s-b}+\frac C{s-c}=\frac{(s-c)B+(s-b)C}{(s-b)(s-c)}=\frac{a}{(s-b)(s-c)}\,D
$$
である。したがって $G_e$ は $A$ と $D$ に正の重み $\dfrac1{s-a}$ と $\dfrac a{(s-b)(s-c)}$ を置いた点で、線分 $AD$ の上にある。頂点の名前を回すと $BE$、$CF$ の上にもある。$\square$
ex-gn-start の三角形($s-a=6$、$s-b=8$、$s-c=7$)で計算する。
(1) Nagel 点。
$$
N_a=\frac{6A+8B+7C}{21}=\frac{6\left(\frac{42}5,\frac{56}5\right)+8(0,0)+7(15,0)}{21}=\left(\frac{\frac{252}5+105}{21},\ \frac{\frac{336}5}{21}\right)=\left(\frac{37}5,\ \frac{16}5\right)
$$
である。段 2 のとおり、$N_a$ は $A$ と $D'(7,0)$ を結ぶ線分を $15:6$ に内分する点 $\dfrac{6A+15D'}{21}=\left(\dfrac{\frac{252}5+105}{21},\dfrac{\frac{336}5}{21}\right)$ と一致する。
(2) Gergonne 点。重み $\dfrac16,\dfrac18,\dfrac17$ を $168$ 倍すると $28,21,24$ なので
$$
G_e=\frac{28A+21B+24C}{73}=\left(\frac{\frac{1176}5+360}{73},\ \frac{\frac{1568}5}{73}\right)=\left(\frac{2976}{365},\ \frac{1568}{365}\right)\approx(8.153,\ 4.296)
$$
である。
3 つの傍接円(緑)が辺に接する点 D'、E'、F' と向かい合う頂点を結ぶ 3 本は、Nagel 点 Na で交わる
三角形 $ABC$ の内心を $I$、重心を $G$、Nagel 点を $N_a$ とする。
$$
G=\frac{2I+N_a}3
$$
である。したがって、$I\ne N_a$ なら 3 点 $I$、$G$、$N_a$ は一直線上にあり、$G$ は線分 $IN_a$ を $1:2$ に内分する($IG:GN_a=1:2$)。言いかえると、$G$ を中心とする比 $-\dfrac12$ の相似拡大は、$N_a$ を $I$ に移す。
方針:内心と Nagel 点の位置ベクトルを、どちらも $A$、$B$、$C$ の係数で書き、足して係数をそろえる。
段 1(内心)。内心は $I=\dfrac{aA+bB+cC}{a+b+c}=\dfrac{aA+bB+cC}{2s}$ である(三角形の内心と傍心)。よって $2I=\dfrac{aA+bB+cC}s$ である。
段 2(足す)。thm-gn-points の $N_a$ の式と足すと、$A$ の係数は $\dfrac{a+(s-a)}s=1$、$B$、$C$ の係数も同じく $1$ なので
$$
2I+N_a=\frac{\bigl(a+(s-a)\bigr)A+\bigl(b+(s-b)\bigr)B+\bigl(c+(s-c)\bigr)C}s=A+B+C=3G
$$
である(重心は $G=\dfrac{A+B+C}3$)。両辺を $3$ で割ると $G=\dfrac{2I+N_a}3$ である。
段 3(内分と相似拡大)。$G=\dfrac{2I+1\cdot N_a}{1+2}$ は、線分 $IN_a$ を $1:2$ に内分する点の式である(位置ベクトルと内分点)。よって $I\ne N_a$ なら 3 点は一直線上にあり $IG:GN_a=1:2$ である。また
$$
I-G=I-\frac{2I+N_a}3=\frac{I-N_a}3,\qquad N_a-G=\frac{2(N_a-I)}3
$$
なので $I-G=-\dfrac12(N_a-G)$ で、$G$ を中心とする比 $-\dfrac12$ の相似拡大(Euler線)は $N_a$ を $I$ に移す。$\square$
直線 $IN_a$ を Nagel 線 という。Euler線 では、同じ「$G$ を中心とする比 $-\dfrac12$ の相似拡大」が垂心 $H$ を外心 $O$ に移し、$OG:GH=1:2$ であった。Nagel 線では、Nagel 点と内心が同じ役を果たしている。
ex-gn-start の三角形で、$I(8,4)$、$N_a\left(\dfrac{37}5,\dfrac{16}5\right)$、$G=\left(\dfrac{0+15+\frac{42}5}3,\dfrac{\frac{56}5}3\right)=\left(\dfrac{39}5,\dfrac{56}{15}\right)$ である。
$$
\frac{2I+N_a}3=\left(\frac{16+\frac{37}5}3,\ \frac{8+\frac{16}5}3\right)=\left(\frac{117}{15},\ \frac{56}{15}\right)=\left(\frac{39}5,\ \frac{56}{15}\right)=G
$$
で一致する。長さは $IG=\sqrt{\left(\dfrac15\right)^2+\left(\dfrac4{15}\right)^2}=\sqrt{\dfrac{9+16}{225}}=\dfrac13$、$GN_a=\sqrt{\left(\dfrac25\right)^2+\left(\dfrac8{15}\right)^2}=\sqrt{\dfrac{36+64}{225}}=\dfrac23$ で、$IG:GN_a=1:2$ である。
内心 I、重心 G、Nagel 点 Na は一直線上にあり IG と GNa の比は 1 対 2 で、D と D' は辺 BC の中点 M に関して対称である
thm-gn-nagel-line の相似拡大は、三角形 $ABC$ を、3 辺の中点を頂点とする中点三角形に移す(Euler線)。相似拡大は長さの比・角・接することを保つので、三角形 $ABC$ の傍接円を中点三角形の傍接円に、その接点を接点に移し、したがって Nagel 点を Nagel 点に移す。thm-gn-nagel-line より $N_a$ の行き先は $I$ なので、三角形 $ABC$ の内心は、中点三角形の Nagel 点である。
線分 $IN_a$ の中点は中点三角形の内心であることが知られていて、Spieker 中心 とよばれる(この記事では証明しない)。ex-gn-start の三角形では $\dfrac{I+N_a}2=\left(\dfrac{77}{10},\dfrac{18}5\right)$ である。
ex-gn-start (3) で見たように、内接円の接点 $D$ と傍接円の接点 $D'$ は辺 $BC$ の中点に関して対称である。Ceva 線の足を辺の中点で折り返す操作を一般に考える。
三角形 $ABC$ の内部の点 $P$ の重心座標を $(\alpha:\beta:\gamma)$ とし、直線 $AP$、$BP$、$CP$ が辺 $BC$、$CA$、$AB$ と交わる点を $D$、$E$、$F$ とする。$D$、$E$、$F$ をそれぞれの辺の中点に関して折り返した点を $D^*$、$E^*$、$F^*$ とすると、3 本の線分 $AD^*$、$BE^*$、$CF^*$ は 1 点 $P^*$ で交わり、その重心座標は
$$
\left(\frac1\alpha:\frac1\beta:\frac1\gamma\right)
$$
である。$P^*$ を $P$ の 等長共役点 という。
段 1(足の比)。$P$ が内部にあるので $\alpha,\beta,\gamma>0$ で、$\dfrac{BD}{DC}=\dfrac\gamma\beta$ である(Cevaの定理(高校数学) の重心座標の命題)。
段 2(折り返した足の比)。中点に関する折り返しでは、$B$ からの長さと $C$ からの長さが入れかわるので $BD^*=DC$、$D^*C=BD$ である。よって
$$
\frac{BD^*}{D^*C}=\frac{DC}{BD}=\frac\beta\gamma=\frac{1/\gamma}{1/\beta}
$$
である。
段 3(1 点で交わる)。重心座標 $\left(\dfrac1\alpha:\dfrac1\beta:\dfrac1\gamma\right)$ の点 $Q$ は、成分が正なので三角形の内部にあり、段 1 と同じ命題により $A$ と $Q$ を結ぶ直線は辺 $BC$ を $\dfrac{1/\gamma}{1/\beta}$ の比に分ける。辺 $BC$ の上の点は比で 1 つに決まるので、この点は $D^*$ であり、$Q$ は線分 $AD^*$ の上にある。頂点の名前を回すと $Q$ は $BE^*$、$CF^*$ の上にもある。$\square$
Gergonne 点の等長共役点は Nagel 点であり、Nagel 点の等長共役点は Gergonne 点である。
内接円の接点 $D$ では $DC=s-c$、傍接円の接点 $D'$ では $BD'=s-c$(lem-gn-excircle)なので、$BD'=DC$ で、$D'$ は $D$ を辺 $BC$ の中点に関して折り返した点である。$E'$、$F'$ も同じである。よって Gergonne 点の Ceva 線の足を折り返すと Nagel 点の Ceva 線の足になる。重心座標でも、$G_e=\left(\dfrac1{s-a}:\dfrac1{s-b}:\dfrac1{s-c}\right)$ の成分の逆数は $(s-a:s-b:s-c)=N_a$ である(thm-gn-points)。逆向きも同じである。$\square$
角の二等分線で折り返す 等角共役 と並べると、2 つの操作の違いがよく分かる。
| 等角共役 | 等長共役 | |
|---|---|---|
| 折り返すもの | 頂点を通る直線を角の二等分線で | Ceva 線の足を辺の中点で |
| 重心座標 | $\left(\dfrac{a^2}\alpha:\dfrac{b^2}\beta:\dfrac{c^2}\gamma\right)$ | $\left(\dfrac1\alpha:\dfrac1\beta:\dfrac1\gamma\right)$ |
| 自分自身と組になる内部の点 | 内心 $(a:b:c)$ | 重心 $(1:1:1)$ |
| 組の例 | 外心と垂心、重心と類似重心 | Gergonne 点と Nagel 点 |
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 傍接円の接点を使う | 内接円の接点を使う(Gergonne 点) | 内心・重心と一直線上にある |
| 辺の中点で折り返す(等長共役) | 角の二等分線で折り返す(等角共役) | Gergonne 点が Nagel 点に移る |
| 正三角形でない | 正三角形 | Nagel 線が 1 本に決まる |
ex-gn-start の三角形で、$\overrightarrow{IG}=\left(-\dfrac15,-\dfrac4{15}\right)$、$\overrightarrow{IG_e}=\left(\dfrac{2976}{365}-8,\dfrac{1568}{365}-4\right)=\left(\dfrac{56}{365},\dfrac{108}{365}\right)$ である。2 つのベクトルが平行かどうかを $x_1y_2-y_1x_2$ で調べると
$$
\left(-\frac15\right)\cdot\frac{108}{365}-\left(-\frac4{15}\right)\cdot\frac{56}{365}=\frac{-324+224}{5475}=-\frac{100}{5475}=-\frac4{219}\ne0
$$
なので平行でなく、$G_e$ は直線 $IG$ の上にない。thm-gn-nagel-line の証明で使った「$2I+N_a=3G$」は、Nagel 点の係数 $s-a$ と内心の係数 $a$ を足すと $s$ にそろうことによっていた。Gergonne 点の係数 $\dfrac1{s-a}$ ではそろわない。
ex-gn-start の三角形で、$G_e=\left(\dfrac16:\dfrac18:\dfrac17\right)$ の等角共役点は、等角共役 の重心座標の式により
$$
\left(a^2\cdot6:b^2\cdot8:c^2\cdot7\right)=(225\cdot6:169\cdot8:196\cdot7)=(1350:1352:1372)
$$
である。$N_a=(6:8:7)$ と比べると、$\dfrac{1350}6=225$、$\dfrac{1352}8=169$ で比が等しくないので、別の点である。Gergonne 点と Nagel 点を組にするのは、角の二等分線ではなく辺の中点に関する折り返しである。
正三角形では $a=b=c$ なので $s-a=s-b=s-c$ で、thm-gn-points により $N_a=G_e=\dfrac{A+B+C}3=G$ である。内心も $I=\dfrac{aA+aB+aC}{3a}=G$ なので、4 点がすべて一致する。thm-gn-nagel-line の式 $G=\dfrac{2I+N_a}3$ は $G=G$ となって成り立つが、$I=N_a$ なので 3 点を通る直線は 1 本に決まらない。定理の「$I\ne N_a$ なら」はこの場合を除くための仮定である。逆に $I=N_a$ なら、$G=\dfrac{2I+N_a}3=I$ で、内心 $(a:b:c)$ と重心 $(1:1:1)$ の重心座標が同じなので $a=b=c$ である。つまり除かれるのは正三角形だけである。
等長共役は、等角共役 と同じく、成分に $\alpha\beta\gamma$ を掛けると $(\alpha:\beta:\gamma)\mapsto(\beta\gamma:\gamma\alpha:\alpha\beta)$ と 2 次式で書け、2 回続けるともとにもどる(2 次の Cremona 変換。Cremona変換)。
2 つを続けると、2 次の変換どうしの合成なのに 1 次の変換になる。等長共役のあとに等角共役を行うと
$$
(\alpha:\beta:\gamma)\longmapsto\left(\frac1\alpha:\frac1\beta:\frac1\gamma\right)\longmapsto\left(a^2\alpha:b^2\beta:c^2\gamma\right)
$$
で、各成分に定数を掛けるだけの変換である。たとえば重心 $(1:1:1)$ は等長共役で動かず、等角共役で類似重心 $(a^2:b^2:c^2)$ に移る(類似重心)。この合成は重心座標の 1 次式で書けるので射影変換(射影変換と複比)であり、三角形の 3 頂点を動かさない。2 次の変換を「1 次の変換を除いて」分類するという見方は、代数幾何学の双有理変換の考え方につながる(証明しない)。
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