本書は、A. Grothendieck が 1958 年の Chevalley セミナー「Anneaux de Chow et applications」で行った講演「Sur quelques propriétés fondamentales en théorie des intersections」(exposé 4、36 頁)を道案内にして、交叉理論を公理から組み立てる方法を解説する参考書である。原論文は、各代数多様体に環を対応させ、引き戻し、固有射に沿う直像、外積、横断的な底変換を公理として並べ、そこから射影公式、Chern 類、旗束の環を導いた。さらに局所化の完全列とアフィン直線に関するホモトピーの公理を置いて射影束公式を証明し、Chow 環と連接層の類の環がこの枠組みに入ることを示した。 本書は翻訳ではない。交叉理論の公理系、射影束と Chern 類、完全性とホモトピー、射影束公式の証明、Chow 環と K 理論での実現、という主題ごとに五つの章を立て、現代の記号と言葉で書き直した。各頁は、その頁で示すこと、定義と準備、主結果と証明、例と反例、その後の発展、原論文との対応表の同じ形で書く。 原論文は「容易に確かめられる」「難なく」で多くの段を済ませている。本書はその段を補って閉じ、第 1〜5 章の 57 個の主結果を、本書の中で証明し切れたもの(完結、8 件)、引用した定理に依るもの(条件付き、48 件)、証明を閉じられなかったもの(未完結、1 件)に分けて札で示す。第 1〜4 章の判定は公理を仮定とする命題としてのもので、公理を満たす理論が実在することは第 5 章で確かめる。原論文が黙って使う仮定は本書が足した仮定として明示し、印字のままでは成り立たない主張は、反例と正しい形を添えて訂正した形で述べる。Chern 類の定義と一意性の議論、λ 環の一般論は第 3 巻『Chern 類の公理的理論』に委ね、本書では原論文に固有の筋に重心を置く。 読むには、古典的な代数多様体の言葉、サイクルと Chow 環の初歩、ベクトル束と射影束が要る。第 2 章の後半からは対称式と線形代数群、第 5 章からは連接層の類の環と λ 環が加わる。すべてを先に学ぶ必要はなく、要点は第 0 章に、頁ごとに要る前提の対応表と読む順序の案は「本書の読み方」に、記号と射影束の規約、公理の一覧、原論文の引き方は「記号と約束」にまとめた。各章で何を扱い、原論文の何を補い、どこを直したかは、目次の各章の説明に書いた。
本書を読むのに要る分野を一覧にし、要点と本書での使いどころを添える章である。1958 年当時の意味の代数多様体、接空間による横断性と Jacobi の判定法、射影束と旗多様体、Borel 群とその単冪根基、主束の局所自明性(0-2)、サイクルと固有な交わり、有理同値と線形同値、Chow 環と局所化の列、連接層の類の環と λ 環、対称式の基本定理(0-3)の順に並べる。射影束・旗多様体・Chow 環・λ 環の詳しい扱いは第 3 巻『Chern 類の公理的理論』の第 0 章と第 1 章に委ね、本書では原論文に固有の約束だけを足す。頁ごとの前提の対応表と読む順序は 0-1 に、記号と射影束の規約、公理の一覧、本書が足した仮定、原論文の引き方と誤植の読み方、状態札の意味は 0-4 にまとめる。
原論文 §1 に当たり、各代数的空間に環を対応させる理論の公理を並べ、そこから形式的に出ることを示す章である。1-1 は引き戻し、固有射に沿う直像、外積、既約な空間の増大というデータと最初の七つの公理を置き、単位元の性質と、積が可換環を与えることを証明する。原論文は可換性を入れ替えの公理だけから出すが、同型に沿う直像と引き戻しが互いに逆であるという公理も要ることを補った。1-2 は接空間による横断性を定義し、横断的な底変換の公理から、横断的に交わる部分空間の類の積の公式、非特異な空間での射影公式、グラフによる引き戻しの表示を導く。原論文の系で仮定された接写像の全射性は要らないことも示す。横断性を外すと積の公式が壊れることは第 2 章の反例で示す。
原論文 §2・§3 に当たる。2-1 は次数付きの理論に直線束の第一類を与え、射影空間の線形部分空間の類を求め、射影束の基本類の冪が一次独立であることを示す。原論文の証明は空集合の類と、仮定から出ない開集合を使うので、射影公式と点への制限で置き換えた。2-2 は射影束公式を仮定して Chern 類を定め、関手性、正規化、加法性を示す。原論文が他の文献に委ねた加法性は、閉じた部分射影束の類を積に書く議論で公理から閉じた。三つの性質による特徴づけには階数を超える次数で消えるという条件が落ちており、反例を添えて補った。定義と一意性の議論は第 3 巻と同じ型なので要点だけを書く。2-3 は普遍分解代数の基底を対称式と固定体の次数で求め、旗束の環を Chern 類と一つの関係式で表示する。一般の等質空間についての原論文の所見は、証明が無いので未完結とした。
原論文 §4 に当たり、開部分への制限と閉部分からの直像だけを使う弱い公理系に、局所化の完全列の公理と、アフィン直線との積の環が底の環の像で覆われるというホモトピーの公理を置く章である。3-1 は、完全性と二つの補助公理からホモトピーの公理が出るという命題を、次元の帰納法と特異点集合を剥がす議論で証明する。原論文の証明は開部分への制限と閉部分からの直像の入れ替えを黙って使うが、これは公理から出ないので、本書は足した仮定として明示した。原論文が一文で済ませた最後の段も補った。3-2 は線形同値によるサイクル類群がこの公理系と足した仮定を満たし、完全性とホモトピーの公理が成り立つことを示す。特異な空間と代数的同値への拡張は、原論文が概略だけを書くので、後代の交叉理論を引く条件付きの結果とした。
原論文 §5・§6 に当たり、第 3 章の二つの公理から射影束公式を証明する章である。4-1 はアフィン空間の開集合との積で環が変わらないこと、閉部分の列に沿って生成系が組み上がることを示し、射影空間との積の環が線形部分空間の類で生成されることを導く。原論文は補集合が圏に属さない場合を見落としており、特異点集合を剥がす段を補った。4-2 は局所的な生成から大域的な生成を得る定理を証明し、局所自明なファイバー空間の引き戻しの全射性と、射影束の基本類の冪による生成を導いて、第 2 章の一次独立と合わせて射影束公式を得る。4-3 はこの引き戻しが全単射になる場合と、零切断を除いた直線束および主束の環を計算する。主束の段は原論文の一文を、単冪根基の列で一段ずつ剥がす形に直した。全単射でない例も添えた。
第 1 章から第 4 章は公理を仮定とする命題なので、公理を満たす理論が実在することをこの章で確かめる。5-1 は非特異準射影多様体の Chow 環が第 1 章と第 2 章の公理を満たすことを、同じセミナーの前の講演が与える Chow 環の構成を引いて示し、第 3 章と第 4 章の結果と合わせて射影束公式が成り立つことを導く。有理同値と線形同値が同じ関係であることもここで確かめる。原論文が予想として述べた最小の理論の存在は、後代の代数的コボルディズムと比べて紹介する。5-2 は連接層の類の環で射影束上の直像を計算し、射影束と旗束の環を λ 環として表示する。原論文は概略だけを書き、生成の段を別の機会に送るので、後代の K 理論の射影束定理と局所化を引く条件付きの結果とした。λ 環の一般論は第 3 巻に委ねる。
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