0-1 本書の読み方

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

本書の目的と原論文の位置づけ、本書の方針、章立て(第 0〜5 章、全 16 頁)と各章の要点、頁ごとに要る前提の対応表、読む順序の案、状態札の読み方と本書全体の集計、第 3 巻『Chern 類の公理的理論』・第 5 巻『Chern 類と離散群の線形表現』との関係をまとめる。分野ごとの要点は本書『0-2 代数多様体・横断性・射影束と旗多様体』と本書『0-3 サイクル・Chow 環・K 群と対称式』に、全頁に共通する記号、公理の一覧、本書が足した仮定、原論文の引き方と誤植の読み方は本書『0-4 記号と約束』に分けて置く。

本書の使い方

本書は、A. Grothendieck が 1958 年の Chevalley セミナー「Anneaux de Chow et applications」で行った講演「Sur quelques propriétés fondamentales en théorie des intersections」(exposé 4、36 頁。本書では Gro58b と引く)を道案内にして、交叉理論を公理から組み立てる方法を主題ごとに解説する。原論文は、各代数的空間に環を対応させる理論のデータ(引き戻し、固有射に沿う直像、外積、増大)と公理を並べ、横断的な底変換と射影公式、直線束の第一類、射影束の基本類の冪の一次独立を導く(§1・§2)。次に射影束公式を公理 (I.11) として仮定して Chern類を定め、旗束の環を普遍分解代数で表示する(§3)。そのうえで、開部分への制限と閉部分からの直像だけを使う弱い公理系に、局所化の完全列の公理 (E) とアフィン直線についてのホモトピーの公理 (H) を置き(§4)、この二つから射影束公式そのものを証明する(§5・§6)。途中で、非特異準射影多様体の Chow環と連接層の類の環がこの枠組みに入ることを確かめる。
本書は原論文の翻訳ではない。原論文の流れを五つの主題に組み直し、前提知識の第 0 章を加えて 6 章 16 頁とした。第 1 章以後の各頁は、その頁で示すこと、背景と動機、定義と準備、主結果と証明、例と反例、その後の発展、原論文との対応表、という同じ形で書いてある。「この頁で示すこと」には主結果の名前と原論文の番号・印字頁、状態札が並び、「定義と準備」の中の「引用する事実」には、その頁が証明せずに使う事実が、要点を置いた第 0 章の頁とともに列挙してある。
本書の方針は四つある。第一に、原論文が「容易に」「明らかに」「難なく」で済ませた段を補って閉じる。可換性の証明に非交和の公理 (I.7) が要ること(『1-1』)、加法性を原論文の公理 (I.9)(I.10) から空集合を使わずに示すこと(『2-2』)、普遍分解代数の単射性(『2-3』)、補集合が圏に属さない場合の特異点集合の剥がし方(『4-1』)、アフィン束を射影的に閉じる段と主束の各段の局所自明性(『4-3』)などがそれに当たる。第二に、判定は公理系に相対的である。第 1〜4 章の主結果は、公理を仮定とする命題として判定し、公理を満たす理論が実在することは第 5 章で確かめる。公理から示したことを「Chow 環で証明した」とは書かない。第三に、原論文が黙って使う仮定は、本書が足した仮定として明示する。とくに『3-1』の (BC)(開部分への制限と閉部分からの直像の入れ替え)は原論文の公理ではなく、本書が足した仮定である。第四に、原論文の主張が印字のままでは成り立たないときは、訂正した形を主結果とし、原論文の印字と反例を注意と反例のボックスに書く。札の意味と数え方は下の「状態札の読み方」にある。
使い方は三通りを想定している。

  1. 最初に通して読む:次の「本書の章立てと各章の要点」で全体の地図をつかみ、第 0 章の二頁は見出しと各ボックスの名前だけ拾う。
  2. 頁を読んでいて分からない語に出会ったら引く:第 0 章の各項目は分野ごとに頁を分け、定義または定理の要点をボックスに書き、本書での使いどころと教科書への案内を付けた。
  3. どこから読むかを決める:本頁の「頁ごとの前提の対応表」と「読む順序の案」を見る。
    用語解説記事へのリンク(代数多様体、直線束、射影束、旗多様体、Chow環、Chern類、Grothendieck群、λ環 など)は、記事が未作成のものもリンクの形で示してある。定義は各頁の中でも短く繰り返す。

本書の章立てと各章の要点

章ごとに、頁と原論文の対応と要点を挙げる。各頁の「この頁で示すこと」に並ぶ主結果を要約したもので、詳しくは各頁の冒頭を見よ。印字頁は原論文の頁番号 4-01〜4-36 である。

章頁原論文要点
第 0 章 前提知識と読み方0-1〜0-4—読み方、代数多様体・横断性・射影束と旗多様体、サイクル・Chow 環・K 群と対称式、記号と約束
第 1 章 交叉理論の公理系1-1、1-2§1(印字 4-01〜4-10)データと公理 (I.1)〜(I.9)、可換環の構造、横断的な底変換、横断的な交わりの積、射影公式
第 2 章 射影束と Chern 類2-1〜2-3§2 の前半、§3(印字 4-10〜4-14、4-17〜4-24)線形部分空間の類、基本類の冪の一次独立、Chern 類と分裂の関係式、旗束の環
第 3 章 完全性とホモトピー3-1、3-2§4(印字 4-26〜4-31)弱い公理系、公理 (E)(H)(Z)(HD)、Proposition 5、線形同値の理論と Théorème 2
第 4 章 射影束公式の証明4-1〜4-3§5・§6(印字 4-31〜4-35)層別による生成、局所から大域へ、射影束公式、アフィン束と主束
第 5 章 Chow 環と K 理論での実現5-1、5-2§2 の後半、§3 の注意 4°、§4 の注意、§6 の末尾(印字 4-15〜4-17、4-24〜4-25、4-30〜4-31、4-35)Chow 環での公理の成立、有理同値と線形同値の一致、最小理論の予想、層の類の環と λ 環

第 1 章は原論文 §1 を二頁に分ける。『1-1 データと公理と積の構造』は、空間の圏と理論のデータ a〜d、公理 (I.1)〜(I.7) を置き、単位元と外積の基本式、外積と積の関係、対角への引き戻しによる積で $A(X)$ が可換環になることを公理だけから示す。原論文は可換性を入れ替えの公理から出すが、同型に沿う直像と引き戻しが互いに逆であるという非交和の公理 (I.7) も要ることを補った。増大の式を既約な空間についての式と読むのは条件の脱落の読みで、印字の式が偽になるのではない。『1-2 横断的な底変換と射影公式』は、接空間による横断性を定義し、横断的な逆像が非特異であること(Jacobi の判定法による)から、横断的な底変換公式、部分空間の類の引き戻し、横断的な交わりの類の積、非特異な空間での射影公式、グラフによる引き戻しの表示を導く。原論文の系 2 で仮定された接写像の全射性は要らないことも示す。
第 2 章は原論文 §2・§3 を三頁に分ける。『2-1 直線束の類と射影束の一次独立』は、次数付きの理論と直線束の第一類、横断的な切断の零点の公理 (I.10) を置き、射影空間の線形部分空間の類が基本類の冪であること、射影束の基本類の冪が底の環の上で一次独立であること(Proposition 4)を示す。原論文の証明が使う空集合の類と、仮定から出ない開集合を、射影公式と点への制限で置き換えた。『2-2 Chern 類と分裂の関係式』は、射影束公式 (I.11) を仮定して Chern 類を定め、旗で分裂する束の関係式を公理 (I.9)(I.10) から空集合を使わずに示し、関手性・正規化・加法性を導く。原論文の「三つの性質が Chern 類を特徴づける」は階数を超える次数で消える条件を落としているので、条件を添えた訂正形を主結果とし、落とした形が破れる反例を添えた。『2-3 旗束の環』は、普遍分解代数の基底と部分代数の表示を対称式の基本定理と有限群の固定体で閉じ、完全旗束と型をもつ旗束の環を Chern 類と関係式で表示する。一般の等質空間についての原論文の所見(注意 3°)は、証明も文献も無いので[未完結]とした。
第 3 章は原論文 §4 である。『3-1 完全性とホモトピーの公理』は、弱い公理系と公理 (E)(H)、補助公理 (Z)(HD) を置き、(E)(Z)(HD) から (H) が出るという Proposition 5 を、次元の帰納法と因子の補題で証明する。原論文の証明は開部分への制限と閉部分からの直像の入れ替えを 3 か所で黙って使うが、弱い公理系には開の射と閉の射を結ぶ公理が無いので、本書はこれを足した仮定 (BC) として明示した。『3-2 線形同値の理論』は、アフィン直線上の族による線形同値のサイクル類群が弱い公理系と (BC) を満たし、(Z)(HD)(E) が成り立つことを確かめて、原論文の Théorème 2(完全性とホモトピー)を導く。線形同値の理論では (BC) がサイクルの水準で成り立つので、Théorème 2 は足した仮定に依らない。特異な空間と代数的同値への拡張は、原論文が概略だけを書くので、Serre の Tor の公式と後代の交叉理論を引く条件付きの結果とした。
第 4 章は原論文 §5・§6 で、第 3 章の二つの公理から射影束公式を証明する。『4-1 積空間と層別による生成』は、開部分への制限の全射性、アフィン空間の開集合との積(Proposition 6)、閉部分の列に沿う生成(Proposition 7)、射影空間との積を示す。原論文は補集合が圏に属さない場合を見落としており、特異点集合を剥がす段を補った。『4-2 局所から大域へと射影束公式』は、局所的な生成から大域的な生成を得る Théorème 3 を証明し、Zariski 局所自明なファイバー空間の引き戻しの全射性(系 1)と、射影束の基本類の冪による生成(系 2)を導いて、第 2 章の一次独立と合わせて射影束公式 (I.11) を得る。『4-3 アフィン束と主束』は、原論文 §6 の最後の注意を五つに分け、切断をもつ束と構造群がアフィン線形の束で引き戻しが全単射になること、零切断を除いた直線束の環、一般線形群の主束の環を計算し、切断が無いと引き戻しが単射とは限らない反例を添える。主束の段の原論文の一言($P/T$ は $P/B_G$ の上のアフィン束。$B_G$ は Borel 群)は正しく、本書は確かめられていなかった Zariski 局所自明性を補って閉じた。
第 5 章は、第 1〜4 章の公理を満たす理論が実在することを確かめる。『5-1 Chow 環での公理の成立と最小理論の予想』は、同じセミナーの前の講演が与える Chow 環の構成を引いて、非特異準射影多様体の Chow 環が公理 (I.1)〜(I.10) を満たすことを確かめ、有理同値と線形同値が同じ同値関係であることを示して、第 3・4 章の結果から Chow 環の射影束公式を導く。原論文が「plausible」と述べた最小の理論の予想は、予想として記録し主結果にしない。『5-2 層の類の環と λ 環』は、連接層の類の環で射影束上の直像を計算し、射影束と旗束の K 環を代数としても λ 環としても表示する。原論文は生成の段と完全性・ホモトピーを一文で述べるだけなので、後代の K 理論の結果を引く条件付きの結果とした。

本書を読むのに要る分野

分野ごとに、本書で要る水準の目安を示す。「◎」は本書の多くの頁で証明の中で使うもの、「○」は一部の章で使うもの、「△」は言明の理解のために触れるだけのものである。

分野主な内容水準の目安主に使う章第 0 章の頁
代数多様体の基本原論文の意味の代数的空間、閉埋め込みと固有射、分離性とグラフ、既約多様体の積、特異点集合の次元◎ 言明を知っていれば証明は引用でよい全章0-2
接空間と横断性Zariski の接空間、Jacobi の判定法、射と部分多様体の横断性◎ 第 1 章の横断的な底変換の全体がこれに依る1・2・4 章0-2
射影束と旗束射影空間と線形部分空間、射影束と標準線束、Picard 群、旗多様体と旗束◎ 第 3 巻の第 1 章の水準2・4・5 章0-2、第 3 巻
線形代数群と主束一般線形群の Borel 群と単冪根基の列、big cell、主束の Zariski 局所自明性、加法群のトーサー○ 『4-3』だけで使う4 章0-2
サイクルと交叉サイクルの直像・直積・制限・閉包、固有な交わりと重複度、有理同値と線形同値、因子と直線束◎ 第 3 章と第 5 章の証明の中心3・5 章0-3
可換環論Krull の主イデアル定理、正規ネーター整域の高さ 1 の素イデアル○ 因子の補題に使う3 章0-3
連接層の類の環と λ 環Borel–Serre の環、固有射の直像、射影空間の連接層のコホモロジー、λ 環○ 『5-2』で必須5 章0-3、第 3 巻
対称式と固定体対称式の基本定理、有限群の固定体(Artin)、自由加群の基底と直和因子○ 『2-3』の普遍分解代数で使う2・5 章0-3
Chern 類の公理的理論射影束関係式による Chern 類の定義と一意性、双対・外冪・テンソル積の公式、λ 環と完備 Chern 類○ 第 2 章と『5-2』で引く。第 3 巻の主結果を言明の形で知っていること2・5 章第 3 巻

第 0 章に頁を設けない事実(トーラスのコホモロジー環など、例にだけ使うもの)は、使う頁の「引用する事実」で出典とともに述べる。

頁ごとの前提の対応表

行は本書の頁、列は第 0 章の頁と第 3 巻『Chern 類の公理的理論』である。「◎」はその頁の証明の中心で使うもの、「○」は一部の段や引用で使うもの、空欄はほとんど使わないものを表す。印は各頁の「引用する事実」に挙げられた事実と、本文が引く頁から付けた。「頁の前提」の列には、その頁の前に読んでおくとよい本書の頁を番号で挙げた(第 0 章の頁は省く)。括弧内は、その頁から定義や主結果を一つ二つ引くだけのもの、または例にだけ使うものである。

頁代数多様体・横断性・射影束(0-2)サイクル・K 群・対称式(0-3)第 3 巻頁の前提
1-1 データと公理と積の構造○なし
1-2 横断的な底変換と射影公式◎1-1
2-1 直線束の類と射影束の一次独立◎○1-1、1-2
2-2 Chern 類と分裂の関係式◎◎2-1(1-1、1-2)
2-3 旗束の環○◎○2-2(2-1)
3-1 完全性とホモトピーの公理◎◎1-1
3-2 線形同値の理論○◎3-1
4-1 積空間と層別による生成◎3-1(2-1、3-2)
4-2 局所から大域へと射影束公式◎1-2、2-1、4-1(3-1)
4-3 アフィン束と主束◎4-2、2-2、2-3
5-1 Chow 環での公理の成立と最小理論の予想○◎○1-1、1-2、2-1、3-2、4-2
5-2 層の類の環と λ 環○◎◎2-3、3-1(2-2、4-2)

表から読み取れることを四つ挙げておく。

  • 本書には二本の柱がある。一本は第 1 章から第 2 章への、すべての射に沿う引き戻しをもつ理論の筋で、横断的な底変換から Chern 類と旗束の環に至る。もう一本は第 3 章の、開部分への制限と閉部分からの直像だけを使う弱い公理系の筋である。第 3 章は第 1 章の公理 (I.1)〜(I.7) だけを引き、第 2 章に依らないので、『1-1』の次に直接読める。
  • 二本の柱は第 4 章で合流する。『4-2』の射影束公式は、第 1 章の横断的な逆像と部分空間の類の引き戻し(『1-2』)、第 2 章の線形部分空間の類と一次独立(『2-1』)、第 3 章の公理 (E)(H) を仮定として使う『4-1』の生成を組み合わせて得られる。
  • 第 5 章は実現の章で、『5-1』は第 1・2 章の公理の確認と第 3・4 章の結果の適用、『5-2』は第 2 章の旗束の代数と第 3 章の公理の K 版である。
  • 第 3 巻を証明の中心で使うのは『2-2』(Chern 類の一意性の議論と公式集)と『5-2』(λ 環の一般論)だけである。0-3 を証明の中心で使うのは、『2-3』(対称式)、第 3 章と第 5 章(サイクル、Krull の可換環論、層の類の環)である。

読む順序の案

原論文の順序は §1 から §6 まで一本道だが、Chow 環での検証(§2 の後半)が公理系の途中に挟まり、射影束公式は §2 で公理として置かれてから §6 で証明される。本書は三つの道筋を想定している。どの道筋でも、各頁の冒頭の「この頁で示すこと」に主結果と原論文の番号・印字頁、状態札がまとめてあるので、まずそこだけを全頁通して読み、原論文のどの主張がどこまで閉じているかの全体像を先につかむのも一つの方法である。

公理から射影束公式まで通して読む

原論文の主定理である射影束公式の証明へ、最短で向かう道筋である。
『1-1 データと公理と積の構造』→『1-2 横断的な底変換と射影公式』→『2-1 直線束の類と射影束の一次独立』→『3-1 完全性とホモトピーの公理』→『4-1 積空間と層別による生成』→『4-2 局所から大域へと射影束公式』
『2-1』で冪の一次独立を次数と直像で示し、『4-2』で冪による生成を局所化とホモトピーで示して、二つを合わせる。『3-1』からは弱い公理系と公理 (E)(H) の定義と、次元の帰納法の補題の骨組みを読めばよく、Proposition 5 の証明は『4-2』の論理には入らない(『4-2』は (E)(H) を仮定として使う)。続けて『4-3 アフィン束と主束』へ進めば、射影束公式の応用として主束の環が分かる。公理を満たす理論が実在することは、『3-2 線形同値の理論』と『5-1 Chow 環での公理の成立と最小理論の予想』で確かめる。

Chern 類と旗束だけを読む

射影束公式を公理として認め、そこから出る Chern 類の理論を追う道筋である。
『1-1 データと公理と積の構造』→『1-2 横断的な底変換と射影公式』(主結果の言明と、横断的な交わりの類の積の証明だけ)→『2-1 直線束の類と射影束の一次独立』→『2-2 Chern 類と分裂の関係式』→『2-3 旗束の環』
第 3 巻『Chern 類の公理的理論』を読んだ読者は、『2-2』の一意性の議論を飛ばし、第 3 巻と違う点(分裂の関係式を射影公式で閉じること、特徴づけの訂正形と反例)だけを読めばよい。続けて『5-2 層の類の環と λ 環』へ進めば、同じ代数が連接層の類の環で λ 環として働く様子が分かり、『4-3 アフィン束と主束』の主束の環は旗束の環の直接の応用である。

Chow 環での実現を先に読む

公理系の具体例を先に知りたい読者のための道筋である。
本書『0-3 サイクル・Chow 環・K 群と対称式』→『1-1 データと公理と積の構造』(定義だけ)→『3-1 完全性とホモトピーの公理』(定義と主結果の言明だけ)→『3-2 線形同値の理論』→『5-1 Chow 環での公理の成立と最小理論の予想』
『3-2』は線形同値のサイクル類群で公理がサイクルの水準の等式として成り立つ様子を示し、『5-1』は前の講演の Chow 環の構成を引いて第 1・2 章の公理を確かめる。『5-1』の主結果「Chow 環の射影束公式」は第 3・4 章の結果を当てるだけなので、言明の形で先に読める。その後に第 1 章へ戻ると、公理がどの操作を抽象したものかが見やすい。

状態札の読み方

各主結果には、本書の判定として状態札を一つ付ける。[完結]は本書の中で証明し切ったもの、[条件付き:…]は引用した定理に依るもの(何を引用したかを札の中に書く)、[未完結:…]は証明を閉じられなかったもの(何が足りないかを書く)である。原論文に証明が無くても、本書が外部入力を使った証明を与えたものは[条件付き]であり、原論文にも本書にも、外部入力を使った証明も無いものだけが[未完結]である。
札は公理系に相対的である。第 1〜4 章の主結果は、原論文の公理((I.1)〜(I.11)、条件 (V.1)〜(V.3)、公理 (E)(H) と補助公理 (Z)(HD))を仮定とする命題としての判定で、[完結]は「公理を仮定として証明が閉じる」ことを意味する。公理を満たす理論が実在すること、すなわち第 1〜4 章の命題が中身をもつことは、線形同値の理論(『3-2』)、Chow 環(『5-1』)、連接層の類の環(『5-2』)で別に判定する。例と反例も同じ形で書く。『2-1』の反例(横断性を外すと交わりの積の公式は破れる)と『2-2』の反例(階数を超える次数で消える条件を外すと特徴づけは破れる)は、射影束公式 (I.11) を満たし係数環が 0 でないどの理論でもその主張が成り立たないことを示し、『4-3』の反例(切断が無いと系 1 の引き戻しは単射とは限らない)は、§6 の条件を満たし係数環が 0 でないどの理論でも成り立たないことを示す。そのような理論が実在して反例が実際に現れることは、『5-1』で Chow 環について回収する。
本書の基準は厳しい。第 0 章で証明なしに述べる標準的な定理(Jacobi の判定法、代数多様体の基本、射影空間と射影束の基本、サイクルと固有な交わり、Krull の可換環論、線形代数群の構造、Serre の射影空間のコホモロジーの計算など)を引いた段が一つでもあれば[条件付き]とする。[完結]に残るのは、公理だけから形式的に出るもの、初等的な代数(対称式の基本定理、有限群の固定体についての Artin の定理、自由加群の基底と直和因子)、本書の他の頁で[完結]とした主張だけで閉じるものである。対称式の基本定理と Artin の定理を初等的な代数に数えるのは本書の判断である。条件は伝わる。『1-2』の横断的な逆像が Jacobi の判定法に依るので、横断的な底変換を使う主結果はすべて[条件付き]になる。したがって[条件付き]は証明の欠落を意味せず、何に依って閉じたかを示す札である。
本書が足した仮定は、その仮定の下での判定として、主結果の札と頁の注意の両方に書く。足した仮定は四つある。『1-2』の系 2 で開部分とその逆像が圏に属すること、『2-1』の Proposition 4 で空間が既約か連結成分がすべて圏に属すること、『3-1』の Proposition 5 の (BC)、『4-2』の系 1 で「局所自明」を Zariski 位相で読むことである。『2-1』の仮定は §6 の条件の下では自動的に満たされ(『4-2』で回収)、(BC) は線形同値の理論で成り立つので、Théorème 2 は足した仮定に依らない(『3-2』)。四つの文言は本書『0-4 記号と約束』にまとめた。
原論文の主張が印字のままでは成り立たないとき、本書はそれを独立の主結果として立てない。訂正した主張を主結果とし、「この頁で示すこと」では状態札の後に、原論文の形がどの反例で破れるかを一文で添え、原論文の印字と反例をその頁の注意と反例のボックスに書く。本書でこう扱ったのは『2-2』の Chern 類の特徴づけ(条件 $c'_0=1$ と、階数を超える $i$ で $c'_i=0$ を落とした形)の一つである。和の下限や範囲の端点、矢印の向きのような印字の誤りは誤植として訂正した形で読み、『1-1』の増大の式は、可約な空間では左辺が定義されないので既約な空間についての式と読む(条件の脱落で、印字の式が偽になるのではない)。どちらも主結果には数えない。誤植と条件の脱落の一覧は本書『0-4 記号と約束』にある。
状態札とは別に、原論文自身の確信度(命題、注意、予想、「手短かに述べる」概略)を各頁の本文で添える。原論文が事実として述べるが証明を後にも送っていない所見(『1-1』の注意 3° の、既約多様体の圏を非交和で広げても他の公理が成り立つという所見と、『3-1』の、ホモトピーの公理が知られた場合ではどれも全単射になるという所見)は主結果に数えず、「原論文はそう述べる。本書は確かめる筋だけを示す」と書いた。『5-1』の最小の理論の予想も予想として記録し、主結果に数えない。

本書全体の集計

第 1〜5 章の 12 頁の「この頁で示すこと」に並ぶ主結果の状態札を数えた(2026 年 9 月 24 日時点の各頁による実測)。主結果は合わせて 57 個で、内訳は次のとおりである。上の所見と予想はこの数に含めない。

章頁主結果完結条件付き未完結
第 1 章1-1、1-212390
第 2 章2-1〜2-3154101
第 3 章3-1、3-28080
第 4 章4-1〜4-3131120
第 5 章5-1、5-29090
合計12 頁578481

[完結]の 8 個は、単位元と外積の基本式、外積と積の関係、可換環の構造(『1-1』)、Chern 類の一意存在、射影束の環の表示(『2-2』)、普遍分解代数の基底、部分代数の表示(『2-3』)、層別による生成(『4-1』)で、どれも公理だけ、または初等的な代数だけで閉じる。
[条件付き]の 48 個の多くは、第 0 章に要点を置いた古典的な前提(第 1 章では Jacobi の判定法、固有射・グラフの基本、既約多様体の積の既約性、第 2 章と第 4 章では射影空間と射影束の基本、特異点集合の次元、線形代数群の構造、第 3 章では特異点集合の次元、Krull の可換環論、サイクルの基本)と、その伝播に依る。第 5 章は層の類の環の基本を加える。これとは別に、本書が本文を開いていない同じセミナーの前の講演の Chow 環の構成に依るものが『5-1』の 2 個(公理の成立と、それを使う Chow 環の射影束公式)、Serre の Tor の公式と Fulton の形の交叉理論に依るものが『3-2』の 1 個(特異な空間への拡張)、後代の K 理論の結果に依るものが『5-2』の 3 個(射影束の K 環の基底、それを使う旗束の K 環の表示、層の類の群の完全性とホモトピー)ある。

原論文が閉じていない点

[未完結]は『2-3』の「等質空間の環の一般の計算と整数係数での障害」(原論文 §3 の注意 3°)の一つである。原論文は、係数環が有理数体を含めば連結な線形群の主束を Borel 群を含む部分群で割った空間の環を計算する一般の定理があり、整数係数ではすべての群についてそのような主張はありえないと述べるが、証明も文献も挙げない。本書も外部入力を使った証明を立てられない。後代の整係数の旗多様体の Chow 環(Demazure Dem73、1973 年)と、同じセミナーの次の講演 Gro58c は『2-3』の「その後の発展」で紹介し、この主結果を閉じたものとしては扱わない。
原論文が証明を書かず、本書が後代の結果を引いて閉じたものが三つある。『3-2』の特異な空間と代数的同値への拡張、『5-2』の射影束の K 環の基底(生成の段)と、層の類の群の完全性とホモトピーである。これらは[条件付き]で、札に後代の結果を引いたことを書き、該当箇所を本書が確かめていないことを本文に明記した。

第 3 巻・第 5 巻との関係

本書は「古典を読む」の第 6 巻である。第 3 巻『Chern 類の公理的理論』は、同じ 1958 年の Grothendieck の Bulletin 論文 Gro58(原論文の文献 [4])を読む巻で、射影束公式を公理 A 1 として置き、横断的な切断の零点・押し出し・射影公式についての公理 A 2〜A 4 から Chern 類の存在を示した。本書の原論文は、引き戻し・直像・外積・横断的な底変換を基本の公理にし、射影束公式を最後に証明すべき公理 (I.11) として置いて、§6 で局所化とホモトピーから証明する。本書の重心はこの筋と、Chow 環・K 理論での実現にある。
分担は次のとおりである。射影束と標準線束の底変換、旗束の構成と引き戻しの単射性、射影束関係式による Chern 類の定義と一意性の議論の型、双対・外冪・テンソル積の公式、λ 環と完備 Chern 類、K 群のフィルトレーションと Chow 環の比較は第 3 巻で扱ったので、本書は「参考書『Chern 類の公理的理論』の頁『3-1 Chern 類の定義と一意性』」のように引いて繰り返さない。『2-2』は、第 3 巻の一意性の証明が、旗束の幾何・関手性・正規化・乗法性と旗束での単射性だけを使い、零点と押し出しの公理 A 2〜A 4 を使わないことを確かめてから引いた。加法性は第 3 巻と入力が違う。第 3 巻は零点の列を空集合まで下げ、空集合が圏に属しその値が零であるという二条件で積を消したが、本書の原論文は空集合を圏に入れないので、『2-2』は同じ部分射影束の列の最後の段を射影公式で閉じた。本書で新しく証明するのは、第 1 章の公理からの形式的な帰結、冪の一次独立(『2-1』)、分裂の関係式と特徴づけの訂正(『2-2』)、普遍分解代数と旗束の環の表示(『2-3』)、第 3 章と第 4 章の全体、K 環の表示(『5-2』)である。第 3 巻が Fulton Ful98 から引用した Chow 環の射影束公式は、本書では原論文の筋で公理 (E)(H) から導く(『4-2』『5-1』)。
射影束の規約は第 3 巻・第 5 巻と同じで、$P(E)$ は $E$ のファイバーの直線の空間、$\xi_E=c_1(\mathcal O(1))$、$\sum_ic_i(E)\xi_E^{\,p-i}=0$ である。次数は第 3 巻と同じく余次元で取る。第 5 巻『Chern 類と離散群の線形表現』は、エタールコホモロジーの射影束公式を固有底変換と射影空間のコホモロジーから導いた。本書はそれに対し、射影束公式を Chow 環の局所化とホモトピーから導く別の道を与える。加法性の三つの証明(本書の射影公式による証明、第 3 巻の零点の列による証明、第 5 巻の台つきコホモロジーによる証明)の比較は『2-2』の「その後の発展」にある。

記号と約束

全頁に共通する記号($\mathcal V$、$\mathrm{pt}$、$\pi_X$、$\Lambda$、$A(X)$、$\varepsilon$、$1_X$、$[Z]$、$c_1(L)$、$P(E)$、$L_E$、$\xi_E$、$D_\tau(E)$、$h_X$、$\mathbf A^1$、$K(X)$、$\ell_E$ など)、射影束の規約と分裂の因子の符号、次数の取り方、公理と条件の一覧、本書が足した仮定の文言、空集合の扱い、原論文の番号と印字頁の引き方、原論文の誤植と条件の脱落の読み方の一覧は、本書『0-4 記号と約束』にまとめてある。

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