交叉理論に次数を入れ、直線束に第一類を与えるデータと、横断的な切断の零点の類を第一類に結ぶ公理を置く。これを使って射影空間の線形部分空間の類を基本類の冪として求め、射影束の基本類の冪が底の環の上で一次独立であることを証明する。原論文の証明が使う空集合の類と、仮定から出ない開集合への制限は、射影公式と点への制限で置き換える。
$\mathcal V$ は代数的空間の圏で条件 (V.1)(V.2) を満たし、$X\mapsto A(X)$ は公理 (I.1)〜(I.10) を満たす次数付きの理論とする(本書『1-1 データと公理と積の構造』、本書『1-2 横断的な底変換と射影公式』と下の定義)。本書の規約により、ベクトル束 $E$ の射影束 $P(E)$ は $E$ のファイバーの直線の空間、$\mathcal O(-1)\subset f^*E$ は標準的な部分直線束、$L_E=\mathcal O(1)$ はその双対、$\xi_E=c_1(L_E)$ は基本類である。ベクトル空間 $V$(一点の上の束)では $\xi_V\in A^1(P(V))$ と書く。
本頁の主結果は次の三つである。
原論文 Gro58b の §1 の公理系には次数が無い。§1 の注意が述べるとおり、次数を仮定しないのは連接層の類の群も同じ枠に入れるためである(本書『1-1 データと公理と積の構造』)。§2 はそこに余次元による次数を足し(印字 4-10)、直線束の同型類の群から次数 1 の部分への準同型をデータ e として与える(印字 4-11)。この準同型が、理論に与えられる唯一の「特性類」である。高い階数の束の特性類は §3 で射影束を経て作られる(本書『2-2 Chern 類と分裂の関係式』)。
データ e と部分空間の類を結ぶのが公理 (I.10) で、直線束の横断的な切断の零点の類はその直線束の第一類に等しい、と要求する。Chow 環では、これは因子の類と直線束の類が一致するという古典的な事実にあたる。この公理と §1 の横断的な交わりの積の公式から、射影空間の環の中で超平面の類、線形部分空間の類、点の類が基本類の冪として並ぶ。
その次の Proposition 4 は、射影束の基本類の冪 $1,\xi_E,\dots,\xi_E^{\,p-1}$ が底の環の上で一次独立であることを主張する。原論文はその直後に、これまでに出会ったすべての場合で「Proposition 4 より強い」性質、すなわち冪が基底をなすことが成り立つと述べ、これを公理 (I.11) として置く(印字 4-14)。第 3 巻『Chern 類の公理的理論』の原論文 Gro58 では射影束公式は最初に置く公理 A 1 だったが(参考書『Chern 類の公理的理論』の頁『2-1 公理 A 1〜A 4 と補題 2』)、本巻の原論文では (I.11) は §4〜§6 で証明すべき公理である。証明は、一次独立(この頁)と、冪による生成(本書『4-2 局所から大域へと射影束公式』)を別々に示して合わせる形で進む。この頁の一次独立は、公理 (I.8)(I.9) と点への制限だけで閉じる。
まず次数の仮定を置く。次数は余次元で数え、コホモロジーの次数の半分にあたる(本書『0-4 記号と約束』)。
§1 の理論(本書『1-1 データと公理と積の構造』の定義)が次数付きであるとは、次を満たすことをいう。
最後の文は、積が外積(次数 0)と対角による引き戻し(次数 0)の合成であることと、本書『1-1 データと公理と積の構造』の定理「可換環の構造」から従う。4 からすぐに、一点の環の正の次数が消えることが分かる。一点 $\mathrm{pt}$ は既約で、公理 (I.5) により $\varepsilon\colon A(\mathrm{pt})\to\Lambda$ は同型だから、$A^i(\mathrm{pt})=0$($i>0$)かつ $A(\mathrm{pt})=A^0(\mathrm{pt})\cong\Lambda$ である。この事実を以下で何度も使う。
次に直線束の類を置く。原論文は直線束の同型類の群を $P(X)$ と書くが、射影束の記号と重なるので本書は $\operatorname{Pic}(X)$ と書く。
代数的空間 $X$ の直線束(階数 1 のベクトル束)の同型類がテンソル積についてなす群を $\operatorname{Pic}(X)$、直線束 $L$ の類を $cl_X(L)$ と書く。$cl_X(L\otimes L')=cl_X(L)+cl_X(L')$、$cl_X(L^\vee)=-cl_X(L)$ であり、射 $f\colon X\to Y$ は $f^*cl_Y(L)=cl_X(f^*L)$ により群準同型 $f^*\colon\operatorname{Pic}(Y)\to\operatorname{Pic}(X)$ を定める。
データ e とは、各 $X\in\mathcal V$ に対する群準同型 $p_X\colon\operatorname{Pic}(X)\to A^1(X)$ で、引き戻しと両立する($f^*p_Y=p_Xf^*$)ものである。直線束 $L$ の第一類を $c_1(L):=p_X\,cl_X(L)\in A^1(X)$ と定める。したがって $c_1(L\otimes L')=c_1(L)+c_1(L')$、$c_1(L^\vee)=-c_1(L)$、$c_1(f^*L)=f^*c_1(L)$ である。
$c_1$ という記号は、本書『2-2 Chern 類と分裂の関係式』で定める第 1 Chern 類と一致することが確かめられるので、ここから使っておく。データ e と部分空間の類をつなぐのが次の公理である。閉部分 $Z\in\mathcal V$ の類は $[Z]=i_*(1_Z)$($i\colon Z\to X$ は包含)と書く(本書『1-2 横断的な底変換と射影公式』)。
公理 (I.10):$X\in\mathcal V$、$L$ を $X$ 上の直線束、$s$ を $L$ の正則な切断とし、$s$ が零切断に横断的であるとする。すなわち射 $s\colon X\to L$ が閉部分 $s_0(X)$($s_0$ は零切断)に横断的であるとする。$s$ の零点の集合 $Y$ が $\mathcal V$ に属するなら
$$[Y]=c_1(L)$$
である。
横断性の定義は本書『1-2 横断的な底変換と射影公式』のもので、原論文は切断の場合をこの形で括弧書きする(印字 4-11)。横断性により $Y$ は $X$ の非特異な閉部分で、余次元は 1 である。
射影束の記号を確認する。射影束の構成と底変換は第 3 巻で扱ったので、ここでは規約だけを書く。
$X$ 上の階数 $p\ge1$ のベクトル束 $E$ について、$f\colon P(E)\to X$ を $E$ のファイバーの直線の空間とする。点 $x$ の上のファイバーは $E_x$ の直線の射影空間 $P(E_x)$ である。$f^*E$ の中の標準的な部分直線束 $\mathcal O(-1)$(点 $d\in P(E)$ でのファイバーが直線 $d$ そのもの)の双対を $L_E=\mathcal O(1)$ とし、$P(E)\in\mathcal V$ のとき
$$\xi_E:=c_1(L_E)=p_{P(E)}\,cl_{P(E)}(L_E)\in A^1(P(E))$$
を $E$ の基本類という。$X$ が一点でベクトル空間 $V$ のときは $\xi_V\in A^1(P(V))$ と書く。
条件 (V.2):$X\in\mathcal V$ 上の任意のベクトル束 $E$ について $P(E)\in\mathcal V$ である。
(V.2) を一点に当てれば、すべての射影空間 $P(V)$ が $\mathcal V$ に属する。原論文は (16) を述べる前にこれを下線付きの仮定として断り、(V.2) はその直後に置く(印字 4-12〜4-13)。$P(V)$ の線形部分空間は射影空間と同型なので、(V.1)(同型で閉じる)により $\mathcal V$ に属する。
基本類は底変換と両立する。これは第 3 巻の命題とデータ e の関手性からすぐに出るので、主結果には数えない。
$g\colon X'\to X$ を $\mathcal V$ の射、$E$ を $X$ 上のベクトル束、$E'=g^*E$ とし、$\bar g\colon P(E')\to P(E)$ を標準的な射とする($P(E')=X'\times_XP(E)$)。$P(E),P(E')\in\mathcal V$ なら $\xi_{E'}=\bar g^*(\xi_E)$ である(原論文 (15))。
参考書『Chern 類の公理的理論』の頁『1-1 射影束と標準線束』の命題「射影束と標準線束の底変換」により、$P(E')$ は $X'\times_XP(E)$ と標準的に同型で、$L_{E'}\cong\bar g^*L_E$ である。したがって $cl(L_{E'})=\bar g^*cl(L_E)$ で、データ e が引き戻しと両立することから $\xi_{E'}=p\,cl(L_{E'})=p\,\bar g^*cl(L_E)=\bar g^*p\,cl(L_E)=\bar g^*\xi_E$ である。
最後に射影束公式を公理として提示する。この頁では使わず、次頁以降の出発点になる。
公理 (I.11):各 $X\in\mathcal V$ と $X$ 上の階数 $p$ の各ベクトル束 $E$ について、$\xi_E^{\,i}$($0\le i\le p-1$)は $A(P(E))$ の $A(X)$ 加群としての基底である。ここで $A(P(E))$ は環準同型 $f^*\colon A(X)\to A(P(E))$ により $A(X)$ 加群とみる。
$X$ が一点なら $A(\mathrm{pt})=\Lambda$ なので、(I.11) は $1,\xi_V,\dots,\xi_V^{\,p-1}$ が $A(P(V))$ の $\Lambda$ 基底であることを言う。(I.11) は主結果 2 の一次独立に「生成する」を足したものである。
次の事実は証明せずに引用する。出典は主に Ser55、Che58、Wei46 で、該当箇所の番号は本頁では確認していない。要点は本書『0-2 代数多様体・横断性・射影束と旗多様体』の定理「射影空間の基本」「射影束の基本」「固有射と分離性の基本」「既約性と次元の基本」にある。
超平面の類は (I.10) で基本類に等しい。線形部分空間は超平面の横断的な交わりなので、§1 の積の公式が類を冪に変える。
$V$ を $\dim V=p\ge1$ のベクトル空間とする。
段 1(超平面).$H=P(\ker\varphi)$ を超平面とする。引用する事実 1 により、$\varphi$ に対応する $L_V$ の切断は零切断に横断的で、零点は $H$ である。$H$ は射影空間と同型なので $\mathcal V$ に属する。公理 (I.10) により $[H]=c_1(L_V)=\xi_V$ である。
段 2(余次元についての帰納).$q=0$ なら $Q=P(V)$ で、$[P(V)]=\mathrm{id}_*(1)=1=\xi_V^{\,0}$ である。$q=1$ は段 1 である。$q\ge2$ とし、余次元 $q-1$ の線形部分空間について主張が正しいとする。引用する事実 1 により $Q=Q'\cap H_q$ で、$Q'$ は余次元 $q-1$、$H_q$ は超平面、両者は $Q$ の各点で横断的に交わる。$Q'$、$H_q$、$Q$ はどれも射影空間と同型で $\mathcal V$ に属する。本書『1-2 横断的な底変換と射影公式』の定理「横断的な交わりの類の積」により $[Q]=[Q'][H_q]$ で、帰納法の仮定と段 1 から $[Q]=\xi_V^{\,q-1}\xi_V=\xi_V^{\,q}$ である。これが 1 である。
段 3(点の類).点 $\{a\}$ は余次元 $p-1$ の線形部分空間なので、1 により $[\{a\}]=\xi_V^{\,p-1}$ である。$u_a$ は同型 $g\colon\mathrm{pt}\to\{a\}$ と包含 $i\colon\{a\}\to P(V)$ の合成である。公理 (I.7) により同型 $g$ では $g_*=(g^*)^{-1}$ で、$g^*(1_{\{a\}})=1_{\mathrm{pt}}$(本書『1-1 データと公理と積の構造』の定理「単位元と外積の基本式」)なので $g_*(1_{\mathrm{pt}})=1_{\{a\}}$ である。直像の関手性から $u_{a*}(1_{\mathrm{pt}})=i_*g_*(1_{\mathrm{pt}})=i_*(1_{\{a\}})=[\{a\}]$ である。これが 2 である。
段 4(最高次の冪は 0).$u_a$ は閉埋め込みなので固有である(引用する事実 3)。2 と射影公式 (I.9) と積の可換性により
$$\xi_V^{\,p}=\xi_V\cdot\xi_V^{\,p-1}=\xi_V\cdot u_{a*}(1_{\mathrm{pt}})=u_{a*}\bigl(u_a^*(\xi_V)\cdot1_{\mathrm{pt}}\bigr)$$
である。$u_a^*$ は次数 $0$ なので $u_a^*(\xi_V)\in A^1(\mathrm{pt})$ で、定義(次数付きの理論)の直後に見たとおり $A^1(\mathrm{pt})=0$ である。よって $\xi_V^{\,p}=u_{a*}(0)=0$ である。これが 3 である。
段 4 で空集合が現れないことに注意する。$p=1$ では $P(V)$ は一点で、2 は $1=u_{a*}(1)$、3 は $\xi_V\in A^1(\mathrm{pt})=0$ という自明な主張になる。
原論文は (16) を $q=p$ にも当てて $\xi_V^{\,p}=0$ を得る(印字 4-12〜4-13)。余次元 $p$ の線形部分空間は空集合なので、この読みには空集合が $\mathcal V$ に属し、その類が $0$ であることが要る。しかし原論文は空集合を圏に入れておらず、(V.1)(V.2) からもそれは出ない。本書は上の段 4 で、空集合を使わずに射影公式で示した。
なお、空集合が $\mathcal V$ に属すると仮定すれば、その環は自動的に $0$ になる。$\emptyset$ は互いに素な二つの開部分 $\emptyset$ と $\emptyset$ の和なので、公理 (I.7) により、二つの制限(どちらも恒等写像)を並べた対角写像 $A(\emptyset)\to A(\emptyset)\oplus A(\emptyset)$ は同型である。$(y,0)$ が像 $(x,x)$ に入るなら $x=0$、$y=x=0$ なので、$A(\emptyset)=0$ である。したがってその場合は原論文の読みも通る。第 3 巻が「空集合を対象に含む」と「空集合の値が零」を二条件として分けたこととの関係は本書『0-4 記号と約束』に書く。
これで射影空間の環の中に、超平面から点までの類が基本類の冪として並んだ。点の類 $\xi_V^{\,p-1}$ が $u_{a*}(1)$ と書けることが、次の一次独立の証明の要になる。
射影束の直像は次数を $p-1$ だけ下げる。したがって次数の低い冪は直像で消え、$\xi_E^{\,p-1}$ の直像は次数 $0$ の元になる。それが $1_X$ であることを、一点の上のファイバーに制限して確かめる。
$X\in\mathcal V$ を非特異とし、$X$ は既約であるか、$X$ の連結成分がすべて $\mathcal V$ に属するとする(本書が足した仮定)。$E$ を $X$ 上の階数 $p\ge1$ のベクトル束、$f\colon P(E)\to X$ を射影とする。このとき
$$f_*(\xi_E^{\,i})=0\quad(0\le i\le p-2),\qquad f_*(\xi_E^{\,p-1})=1_X$$
であり(原論文 (17))、$1,\xi_E,\dots,\xi_E^{\,p-1}$ は $A(X)$ 上一次独立である。すなわち $x_0,\dots,x_{p-1}\in A(X)$ について $\sum_{i=0}^{p-1}f^*(x_i)\,\xi_E^{\,i}=0$ なら、すべての $x_i$ が $0$ である。
段 1(既約な場合への帰着).$X$ が既約でないとき、連結成分 $X_1,\dots,X_n$ は既約で、互いに素な開部分である(引用する事実 3)。仮定によりそれらは $\mathcal V$ に属し、(V.2) により $P(E|_{X_k})=f^{-1}(X_k)$ も $\mathcal V$ に属する。$X_k$ は $X$ の閉部分でもあり、$f$ は $X_k$ に横断的である($X_k$ は開なので $T_aX_k=T_aX$、$P(E)$ と $X$ の点はすべて非特異である)。公理 (I.8) により、$X_k$ への制限 $j_k^*$ と直像は $j_k^*f_*=(f_k)_*j_k'^*$ と入れ替わる。ここで $f_k\colon P(E|_{X_k})\to X_k$、$j_k'\colon P(E|_{X_k})\to P(E)$ は包含である。上の命題(基本類の底変換)により $j_k'^*\xi_E=\xi_{E|_{X_k}}$、また $j_k^*1_X=1_{X_k}$ である。公理 (I.7) により $(j_k^*)_k\colon A(X)\to\bigoplus_kA(X_k)$ は同型なので、(17) は各 $X_k$ の上の (17) から従う。以下 $X$ は既約で、純次元 $n$ とする。
段 2(次数の勘定).引用する事実 2 により $P(E)$ は純次元 $n+p-1$ で、$f$ は固有なので、$f_*$ は次数 $n-(n+p-1)=-(p-1)$ の斉次写像である。$\xi_E^{\,i}\in A^i(P(E))$ なので $f_*(\xi_E^{\,i})\in A^{i-p+1}(X)$ で、$i\le p-2$ ならこれは負の次数なので $0$ である。$x:=f_*(\xi_E^{\,p-1})$ は $A^0(X)$ に入り、$X$ が既約なので $\varepsilon\colon A^0(X)\to\Lambda$ は同型である。$\varepsilon(1_X)=1$(本書『1-1 データと公理と積の構造』の定理「単位元と外積の基本式」)なので、$x=1_X$ を示すには $\varepsilon(x)=1$ を示せばよい。
段 3(一点への底変換).点 $a\in X$ をとり、$Y=\{a\}$、$j\colon Y\to X$ を包含とする。$Y$ は一点と同型なので $\mathcal V$ に属する。$Z:=f^{-1}(a)$ は $P(E_a)$ と同型で(引用する事実 2)、(V.2) と (V.1) により $\mathcal V$ に属する。$f$ は $Y$ に横断的である。実際、$Z$ の各点 $z$ は $P(E)$ の非特異点で、$a$ は $X$ と $Y$ の非特異点であり、$df_z$ が全射なので $T_aX=T_aY+df_z(T_zP(E))$ が成り立つ。$f$ は固有なので、公理 (I.8) により
$$j^*f_*=(f_Z)_*\,j_Z^*\colon A(P(E))\to A(Y)$$
である。ここで $j_Z\colon Z\to P(E)$ は包含、$f_Z\colon Z\to Y$ は制限である。
段 4(ファイバーの上の計算).$Y$ を一点と同一視すると、$Z=P(E_a)$ は $E$ の $u_a$ による引き戻し $E_a$ の射影束で、上の命題(基本類の底変換)により $j_Z^*\xi_E=\xi_{E_a}$ である。$j_Z^*$ は環準同型なので $j_Z^*(\xi_E^{\,p-1})=\xi_{E_a}^{\,p-1}$ で、上の定理(射影空間の線形部分空間の類)の 2 により $\xi_{E_a}^{\,p-1}=w_*(1_{\mathrm{pt}})$ である($w\colon\mathrm{pt}\to Z$ は $Z$ の一点の埋め込み)。$f_Z\circ w\colon\mathrm{pt}\to Y$ は同型なので、段 3 と直像の関手性、公理 (I.7) から
$$j^*(x)=(f_Z)_*w_*(1_{\mathrm{pt}})=(f_Z\circ w)_*(1_{\mathrm{pt}})=1_Y$$
である。一方、本書『1-1 データと公理と積の構造』の定理「単位元と外積の基本式」の 4(原論文 (4))により、$j^*(x)$ は一点の環の中で $\varepsilon(x)1_Y$ に等しい。よって $\varepsilon(x)=1$ で、$x=1_X$ である。これで (17) が示された。
段 5(一次独立).$\sum_{i=0}^{p-1}f^*(x_i)\,\xi_E^{\,i}=0$ で、$x_i$ の中に $0$ でないものがあるとする。$x_j\neq0$ となる最大の $j$ をとり、関係式に $\xi_E^{\,p-1-j}$ を掛けると $\sum_{i=0}^{j}f^*(x_i)\,\xi_E^{\,i+p-1-j}=0$ である。$f_*$ を当て、射影公式 (I.9) で $f_*(f^*(x_i)\,\xi_E^{\,k})=x_i\,f_*(\xi_E^{\,k})$ と書き直す。指数 $k=i+p-1-j$ は $i< j$ で $p-2$ 以下なので (17) によりその項は $0$ で、$i=j$ の項は $x_j\,f_*(\xi_E^{\,p-1})=x_j$ である。よって $x_j=0$ となり、$j$ の選び方に反する。
段 5 は原論文の議論そのものである(原論文は最後の係数を $a_{p-1}$ と印字するが、$x_{p-1}$ の誤りである)。違うのは段 1 と段 3・段 4 で、次の注意に理由を書く。
原論文は (17) の最後の式を示すのに、まず (I.7) で $X$ を既約に帰着し、次に空でない開集合 $U\subset X$ に制限して、§1 の系 2(開部分への制限と直像の入れ替え。本書『1-2 横断的な底変換と射影公式』の定理「開部分への制限と直像」)を使い、$U$ を小さくとって $E$ を自明化する(印字 4-13〜4-14)。この道には二つの仮定が要る。一つは (I.7) で成分に分けるために、成分が $\mathcal V$ に属すること。もう一つは、開集合 $U$ とその上の射影束が $\mathcal V$ に属すること(系 2 はそれを仮定に含む)である。§2 の仮定 (V.1)(V.2) はどちらも保証しない。
本書は前者を足した仮定として主張に書き、後者の代わりに一点 $\{a\}$ への横断的な底変換を使った。一点と、その上のファイバー $P(E_a)$ は (V.1)(V.2) だけで $\mathcal V$ に属するので、開集合を圏に入れる必要がない。§4 以降の条件 (V.3) は、開部分と非特異な閉部分で圏が閉じることを要求する(本書『3-1 完全性とホモトピーの公理』)。その下では $X$ の連結成分(開部分)も開集合 $U$ も $\mathcal V$ に属するので、足した仮定は自動的に満たされ、原論文の道もそのまま通る。射影束公式の証明(本書『4-2 局所から大域へと射影束公式』)でこの主張を使うのはその状況なので、足した仮定はそこで回収される。
一次独立は射影束公式 (I.11) の半分である。残りの半分、冪が $A(P(E))$ を生成することは、この頁の道具((I.8)〜(I.10))からは導かない。原論文に従い、第 3 章の完全性とホモトピーの公理から導く(本書『4-2 局所から大域へと射影束公式』)。
最初の例は、射影束公式 (I.11) を仮定したときに射影平面の環がどう見えるかを示し、次の反例の準備をする。
$\dim V=3$、$P(V)=\mathbf P^2$ とし、理論は (I.11) も満たすとする。(I.11) を一点の上で使うと、$1,\xi_V,\xi_V^{\,2}$ は $A(\mathbf P^2)$ の $\Lambda$ 基底である。上の定理(射影空間の線形部分空間の類)により $\xi_V^{\,3}=0$ なので、$\Lambda[t]\to A(\mathbf P^2)$、$t\mapsto\xi_V$ は同型 $\Lambda[t]/(t^3)\cong A(\mathbf P^2)$ を与える(基底 $1,t,t^2$ が基底に移る)。直線 $\ell$ の類は $\xi_V$、点の類は $\xi_V^{\,2}$ である。相異なる二直線 $\ell$、$\ell'$ は一点 $b$ で横断的に交わるので、本書『1-2 横断的な底変換と射影公式』の定理「横断的な交わりの類の積」により $[\ell][\ell']=[\{b\}]$、すなわち $\xi_V\cdot\xi_V=\xi_V^{\,2}$ で、確かに両辺が一致する。上の定理の 2 から $\pi_*(\xi_V^{\,2})=\pi_*u_{b*}(1)=1$($\pi\colon\mathbf P^2\to\mathrm{pt}$)なので、交点の個数は $1$ と数えられる。
同じ計算を、横断的でない二直線、すなわち同じ直線どうしに当てると食い違いが出る。本書『1-2 横断的な底変換と射影公式』で予告した反例である。
外す条件は、横断的な交わりの類の積の公式(本書『1-2 横断的な底変換と射影公式』の定理「横断的な交わりの類の積」)の仮定のうち、二つの部分空間が横断的に交わることである。理論は射影束公式 (I.11) を満たし、係数環 $\Lambda$ は $0$ でないとする。$X=\mathbf P^2=P(V)$($\dim V=3$)、$Y=Y'=\ell$ を一本の直線とする。$Y$、$Y'$、$Y\cap Y'=\ell$ はどれも $\mathcal V$ に属する。
左辺は $[Y\cap Y']=[\ell]=\xi_V\in A^1(\mathbf P^2)$、右辺は $[Y][Y']=\xi_V^{\,2}\in A^2(\mathbf P^2)$ である(上の定理(射影空間の線形部分空間の類))。(I.11) を一点の上で使うと $1,\xi_V,\xi_V^{\,2}$ は $A(\mathbf P^2)$ の $\Lambda$ 基底なので、$\Lambda\neq0$ なら $\xi_V\neq0$ である。もし $\xi_V=\xi_V^{\,2}$ なら、この元は $A^1\cap A^2=0$ に入って $\xi_V=0$ となり矛盾する。よって $[Y\cap Y']\neq[Y][Y']$ である。
破れている条件はたしかに横断性である。$\ell$ の各点 $x$ で $T_x\ell+T_x\ell=T_x\ell$ は 1 次元で、$T_x\mathbf P^2$(2 次元)に等しくない。ここで示したのは、(I.11) を満たし係数環が $0$ でないどの理論でも、横断性を外した積の公式は成り立たないことである。そのような理論が実在することは、本書『5-1 Chow 環での公理の成立と最小理論の予想』の条件付きの定理による。
Chow 環の言葉では、自己交叉 $\ell\cdot\ell$ は点の類であって $\ell$ 自身ではない。交わりの集合 $\ell\cap\ell=\ell$ を見るだけでは交叉積は決まらず、横断性がその橋渡しの条件になっている。
以下は原論文の主張ではなく、後代の結果の紹介である(時点を明記する。本書が文献を開いて確かめていないものはそう書く)。
本頁が対応する原論文は Sur quelques propriétés fondamentales en théorie des intersections Gro58b の §2 前半(印字 4-10〜4-14)である。
| 本頁 | 原論文 | 印字頁 |
|---|---|---|
| 定義(次数付きの理論) | §2 冒頭の次数の仮定と「$A(X)$ は次数付き環」 | 4-10 |
| 定義(データ e と直線束の第一類) | $P(X)$、$cl_X$、データ e | 4-10〜4-11 |
| 定義(横断的な切断の零点の公理) | (I.10) と、切断の横断性の括弧書き | 4-11 |
| 定義(射影束の基本類と条件 (V.2)) | $P(E)$、$\check L_E\subset f^{-1}(E)$、$L_E$、(14)、(V.2) | 4-11〜4-13 |
| 命題(基本類の底変換) | (15) | 4-12 |
| 定理(射影空間の線形部分空間の類)、注意(原論文の最高次の冪の扱いと空集合) | $L_V$ の切断と超平面、(16)(16 bis)($q=p$ の読み) | 4-12〜4-13 |
| 定理(基本類の冪の一次独立)、注意(原論文の証明と本書の点への制限) | Proposition 4、(17) とその証明 | 4-13〜4-14 |
| 定義(射影束公式の公理) | (I.11) と「Proposition 4 より強い」性質としての導入 | 4-14 |
| 例(射影平面の直線と点)、反例(横断性を外すと交わりの積の公式は破れる) | 原論文に無い。§1 Proposition 3 の横断性の仮定を確かめる | 4-08 |
原論文は Proposition 4 の証明の最後で係数を $a_{p-1}$ と印字するが、直前の関係式の係数 $x_{p-1}$ の誤りである(印字 4-14)。また原論文は、§3 以降で (I.11) を仮定して環 $A(Q)$ をある種のファイバー空間 $Q$ について求めること、最後の講演で要るのは完全旗多様体の環だけであることを、(I.11) の直後に述べる(印字 4-14)。
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