原論文が「手短かに述べる」とした、連接層の類の環での射影束と旗束の計算を書き直す。射影束の上の直像を射影空間のコホモロジーから求めて基本類の冪の一次独立を示し、外冪の関係式と合わせて、射影束と旗束の環を代数として、また λ 環として表示する。冪が環を生成することと、層の類の群での完全性とホモトピーは、原論文が証明を書かないので、後代の K 理論の結果を引く条件付きの結果とする。
前提知識: Grothendieck群, λ環, 連接層のコホモロジー, 射影束, 旗多様体, 普遍分解代数
原論文に従い、$\mathcal V$ を非特異な代数的空間の全体の圏とする(主結果 6 だけは特異な空間も含む)。$X\in\mathcal V$ について $K(X)$ は連接層の類の環(Borel–Serre BS58)、$f\colon P(E)\to X$ は階数 $p$ のベクトル束 $E$ の射影束(ファイバーの直線の空間)、$\ell_E\in K(P(E))$ は $L_E=\mathcal O(1)$ の類、$f_!$ は固有射の直像、$\lambda^i$ は外冪の演算である(本書『0-3 サイクル・Chow 環・K 群と対称式』)。$K(P(E))$ は $f^*$ により $K(X)$ 加群とみる。λ 環としての主張(主結果 5 の 3・4)では、$K$ 環がベクトル束の類で生成され λ 環になっていることを使う。Borel と Serre はこれを準射影的な空間で確かめたので、その部分は $X$ が準射影的なときの主張として述べる。
本頁の主結果は次の六つである。
原論文 Gro58b の §2 以降の公理系は次数付きで、旗束の環の定理(Théorème 1)もその枠で述べられた。§3 の注意 4° は、次数の無い重要な例として連接層の類の環 $K(X)$ を取り上げ、「手短かに述べよう」として対応する結果を並べる(印字 4-24〜4-25)。この環は、同じ年の Borel と Serre の Riemann–Roch の定理の論文 BS58(原論文の文献 [1])で導入され、Grothendieck 自身の Chern 類の理論 Gro58 では λ 環の構造が中心に置かれた。§1 の注意 1° が、§1 の公理系に次数を仮定しないのはこの環を含めるためだと述べていたのは、この場面のためである(本書『1-1 データと公理と積の構造』)。
$K(X)$ には次数が無いので、第 2 章の議論はそのままでは使えない。Chow 環では、射影束の直像が次数を $p-1$ 下げることから低い冪の直像が消えた(本書『2-1 直線束の類と射影束の一次独立』の主結果「基本類の冪の一次独立」)。$K(X)$ ではその代わりに、基本類 $\ell_E$ が可逆であることを使い、負の冪の直像が射影空間のコホモロジーの消滅で消えることを使う。射影束公式にあたる関係式は、Chern 類の関係式の代わりに外冪の関係式 (22) になる。
λ 環の一般論、完備 Chern 類、K 群の余次元フィルトレーションと Chow 環の比較は、第 3 巻で扱った(参考書『Chern 類の公理的理論』の頁『4-1 λ 環と完備 Chern 類』『4-2 K 群のフィルトレーションと Chow 環』)。この頁はそれを繰り返さず、原論文の注意 4° と §4 の注意に固有の、射影束と旗束の $K$ 環の計算と、層の類の群での完全性とホモトピーに絞る。§4 の注意の残りの二つ(特異な空間と代数的同値への拡張)は本書『3-2 線形同値の理論』の主結果「特異な空間と代数的同値への拡張」で扱った。
まず記号を置く。$K(X)$ の定義と環の構造は本書『0-3 サイクル・Chow 環・K 群と対称式』の定義「連接層の類の群と環」のもので、ここでは射影束と旗束で使う形に絞って繰り返す。
$X$ を非特異な代数的空間、$E$ を $X$ 上の階数 $p\ge1$ のベクトル束とする。
原論文は基本類を $\ell_E=\gamma(L_E)$ と書く($\gamma$ はベクトル束にその類を対応させる写像)。次に旗束の記号を置く。旗束の構成は本書『0-2 代数多様体・横断性・射影束と旗多様体』の定義「旗多様体と旗束」にある。
型 $\tau=(p_1,\dots,p_k)$(正整数、和 $p$)の旗束 $g\colon D_\tau(E)\to X$ の上で、$g^*E$ の標準旗 $E_1\subset\dots\subset E_k=g^*E$ の各段の商 $F_j=E_j/E_{j-1}$(階数 $p_j$)の類を $f_j=[F_j]\in K(D_\tau(E))$ と書く。$K(D_\tau(E))$ の中で次の関係 (23) が成り立つ。
$$\lambda^i(f_j)=0\quad(i>p_j),\qquad f_1+\dots+f_k=g^*[E].$$
完全旗束 $D(E)=D_{(1,\dots,1)}(E)$ では、各段の商は直線束 $L_1,\dots,L_p$ で、その類を $x_m=[L_m]$ と書く。$D(E)$ の上で $L_1$ は $P(E)$ の標準的な部分直線束 $\mathcal O(-1)$ の引き戻しである。
代数的空間の全体の圏で、係数環を $\mathbf Z$ とし、$X$ に連接層の類の群 $K'(X)$(連接層の同型類で生成され、短完全列ごとの関係で割ったアーベル群)を対応させ、次のデータを与える。
1〜3 の関手はどれも完全なので(制限と閉埋め込みの直像は完全で、$k$ は体なので外積は各変数について完全)、類の上で定まる。4 も短完全列について加法的である。完全性の公理 (E) とホモトピーの公理 (H) の文言は本書『3-1 完全性とホモトピーの公理』と本書『0-4 記号と約束』にある。ここでの (H) は、$x\mapsto x\times1_{\mathbf A^1}$、$K'(X)\to K'(X\times\mathbf A^1)$ が全射であることで、$[\mathcal F]\times[\mathcal O_{\mathbf A^1}]=[\mathrm{pr}_1^*\mathcal F]$ なので平坦な引き戻しの全射性と同じである。
次の事実は証明せずに引用する。出典は主に BS58、Ser55、Gro58 で、要点は本書『0-3 サイクル・Chow 環・K 群と対称式』と『0-2 代数多様体・横断性・射影束と旗多様体』にある。該当箇所の番号は本頁では確かめていない。5 と 6 は後代の結果で、所在は本書『0-3 サイクル・Chow 環・K 群と対称式』の注意「K 理論の射影束定理と局所化(後代の結果)」のとおり本書では確かめていない。
Chow 環の (17) は、直像が次数を下げることから出た。$K(X)$ には次数が無いので、代わりに直像そのものを射影空間のコホモロジーで計算する。局所的には $P(E)$ は $U\times\mathbf P^{p-1}$ で、$\ell_E$ の冪は $\mathcal O(i)$ の類なので、Serre の計算がそのまま使える。
$X$ を非特異な代数的空間、$E$ を $X$ 上の階数 $p\ge1$ のベクトル束、$f\colon P(E)\to X$ を射影とする。
$$f_!(\ell_E^{\,i})=0\quad(-(p-1)\le i<0),\qquad f_!(\ell_E^{\,0})=f_!(1_{P(E)})=1_X$$
である(原論文 (21))。
段 1(層の計算に帰着).$\ell_E^{\,i}=[\mathcal O(i)]$ なので、$f_!(\ell_E^{\,i})=\sum_q(-1)^q[R^qf_*\mathcal O(i)]$ である(引用する事実 1)。$R^qf_*\mathcal O(i)$ を計算すればよい。
段 2(局所的な計算).$E|_U$ が自明になる開集合 $U\subset X$ の上で、$f^{-1}(U)\cong U\times\mathbf P^{p-1}$ で $\mathcal O(i)$ は $\mathrm{pr}_2^*\mathcal O(i)$ に移る(引用する事実 3)。高次順像は底の開集合への制限と交換するので、Künneth の公式(引用する事実 2)により
$$R^qf_*\mathcal O(i)|_U\cong\mathcal O_U\otimes_kH^q(\mathbf P^{p-1},\mathcal O(i))$$
である。$r=p-1$ として、$-(p-1)\le i\le-1$ ならすべての $q$ で右辺は $0$ である。$i=0$ なら $q\ge1$ で $0$、$q=0$ で $\mathcal O_U$ である。
段 3(大域化).$U$ は $X$ を覆うので、$-(p-1)\le i\le-1$ では $R^qf_*\mathcal O(i)=0$(層として)であり、$f_!(\ell_E^{\,i})=0$ である。$i=0$ では、自然な写像 $\mathcal O_X\to f_*\mathcal O_{P(E)}$ は段 2 により各 $U$ の上で同型なので同型で、$R^qf_*\mathcal O_{P(E)}=0$($q\ge1$)である。よって $f_!(1)=[\mathcal O_X]=1_X$ である。$p=1$ なら $f$ は恒等写像で、第 1 式の範囲は空である。
原論文は第 1 式の範囲を「$-(p-1)\le i\le0$」と印字する(印字 4-24)。これでは $i=0$ で第 1 式の $f_!(1)=0$ と第 2 式の $f_!(1)=1_X$ が矛盾するので、上限は $i<0$ の誤植である。下限の $-(p-1)$ が最良であることは、下の反例で確かめる。
直像が分かれば、一次独立は Chow 環の Proposition 4 と同じ論法で出る。違いは、掛ける冪が正でなく負になることである。
上の定理と同じ設定で、$x_0,\dots,x_{p-1}\in K(X)$ について $\sum_{i=0}^{p-1}f^*(x_i)\,\ell_E^{\,i}=0$ なら、すべての $x_i$ は $0$ である。
$x_i$ の中に $0$ でないものがあるとし、$x_j\neq0$ となる最大の $j$ をとる。$\ell_E$ は可逆なので、関係式に $\ell_E^{-j}$ を掛けて $\sum_{i=0}^{j}f^*(x_i)\,\ell_E^{\,i-j}=0$ を得る。$f_!$ を当て、射影公式(引用する事実 1)で $f_!(f^*(x_i)\,\ell_E^{\,i-j})=x_i\,f_!(\ell_E^{\,i-j})$ と書き直す。$i< j$ なら $-(p-1)\le-j\le i-j\le-1$ なので、上の定理(射影束上の直像)によりこの項は $0$ である。$i=j$ の項は $x_j\,f_!(1)=x_j$ である。よって $x_j=0$ となり、$j$ の選び方に反する。
原論文はこの論法を「Proposition 1 と同じく」と書くが、一次独立の論法は Proposition 4(本書『2-1 直線束の類と射影束の一次独立』の主結果「基本類の冪の一次独立」)のものである。Chow 環では最高次の冪 $\xi_E^{\,p-1}$ に揃えるために正の冪を掛けたが、ここでは $\ell_E^{\,0}=1$ に揃えるために負の冪を掛ける。
一次独立の次は、冪がどこで止まるかである。Chow 環では Chern 類の関係式がその役を担った。$K(X)$ では、標準的な部分直線束が $f^*E$ の中にあるという一つの事実を外冪で書き直すと、関係式が出る。
上の定理と同じ設定で、$K(P(E))$ の中で
$$\lambda_{-1}(E\,\ell_E)=\sum_{i=0}^p(-1)^i\lambda^i(E)\,\ell_E^{\,i}=1-E\,\ell_E+\lambda^2(E)\,\ell_E^{\,2}-\dots+(-1)^p\lambda^p(E)\,\ell_E^{\,p}=0$$
である(原論文 (22)。$\lambda^i(E)$ は $f^*\lambda^i(E)$ の略)。とくに $\ell_E^{\,p}$ は $\ell_E^{\,i}$($0\le i\le p-1$)の $K(X)$ 係数の一次結合である。
段 1(自明な部分直線束).$P(E)$ の上で $\mathcal O(-1)\subset f^*E$ に $L_E=\mathcal O(1)$ をテンソルすると、$\mathcal O=\mathcal O(-1)\otimes\mathcal O(1)\subset f^*E\otimes L_E$ は自明な部分直線束で、商 $Q$ は階数 $p-1$ のベクトル束である。
段 2(加法性).λ 演算の加法性(引用する事実 4)により $\lambda_t(f^*E\otimes L_E)=\lambda_t(\mathcal O)\,\lambda_t(Q)=(1+t)\,\lambda_t(Q)$ である。両辺は $t$ の多項式なので $t=-1$ を代入できて、$\lambda_{-1}(f^*E\otimes L_E)=0$ である。
段 3(展開).$\bigwedge^i(f^*E\otimes L_E)\cong f^*\bigwedge^iE\otimes L_E^{\otimes i}$(引用する事実 4)なので $\lambda^i(f^*E\otimes L_E)=\lambda^i(E)\,\ell_E^{\,i}$ で、段 2 の等式は (22) になる。最後の主張:$\lambda^p(E)=[\det E]$ は可逆なので、(22) を $(-1)^p\lambda^p(E)$ で割って $\ell_E^{\,p}$ を解ける。
一次独立と (22) で、$K(P(E))$ の中の $\ell_E$ の多項式の部分は完全に分かった。残るのは、それが $K(P(E))$ 全体であること、すなわち生成である。ここで原論文は、§4〜§6 の結果を使えば冪が生成系をなすことが証明できる、と一文で述べるだけである(印字 4-25)。
上の定理と同じ設定で、$1,\ell_E,\dots,\ell_E^{\,p-1}$ は $K(P(E))$ の $K(X)$ 加群としての基底である。したがって $t\mapsto\ell_E$ は $K(X)$ 代数の同型
$$K(X)[t]\Big/\Bigl(\sum_{i=0}^p(-1)^i\lambda^i(E)\,t^i\Bigr)\xrightarrow{\ \sim\ }K(P(E))$$
を与える。
段 1(基底).生成は引用する事実 5 である。一次独立は上の定理(冪の一次独立)である。
段 2(環の表示).$P(t)=\sum_{i=0}^p(-1)^i\lambda^i(E)t^i$ の最高次の係数 $(-1)^p\lambda^p(E)$ は可逆なので、$P$ による割り算ができ、$K(X)[t]/(P)$ は $1,t,\dots,t^{p-1}$ を基底とする自由な $K(X)$ 加群である。上の定理(λ 関係式)により $t\mapsto\ell_E$ は $P$ を $0$ に送るので、$K(X)$ 代数の準同型 $K(X)[t]/(P)\to K(P(E))$ が定まり、基底 $t^i$ を基底 $\ell_E^{\,i}$ に移す。よって同型である。
原論文は、この表示によって $K(P(E))$ の環の構造が λ 環 $K(X)$ と $E$ の類から決まると結ぶ(印字 4-25。原論文はここで $K(P(E))$ を $A(P(E))$ と印字する)。Chow 環の表示 $A(P(E))\cong A(X)[t]/(t^p+c_1(E)t^{p-1}+\dots+c_p(E))$(本書『2-2 Chern 類と分裂の関係式』の主結果「射影束の環の表示」)と並べると、Chern 類の関係式の役を外冪の関係式が果たしている。
原論文は、冪の生成を「§4、§5、§6 の結果を使って」証明すると述べ、§4 の注意では、層の類の群で完全性とホモトピーの公理が成り立つとする(印字 4-25、4-31)。この二つを組み合わせれば、第 4 章の議論(本書『4-2 局所から大域へと射影束公式』)を K 理論でたどることが原論文の構想だったと読める。ただしそれには、第 4 章が使う横断的な底変換 (I.8) と射影公式を $K$ で確かめること、射影空間の線形部分空間の構造層の類と $\ell_E$ の冪の関係(下の例(射影空間の K 環)の $[\mathcal O_H]=1-\ell_V^{-1}$ の形)を示すことが要り、原論文はどれも書いていない。本書はこの筋を確かめず、生成を後代の射影束定理(引用する事実 5)で閉じた。上の定理の札が[条件付き]で、しかも原論文の筋とは別の入力による、というのはこの意味である。
射影束の $K$ 環が分かれば、旗束は射影束の反復なので、第 2 章の旗束の議論(本書『2-3 旗束の環』)をそのまま $K$ に移せる。係数環を $A=K(X)$、Chern 類の役を $c_i=\lambda^i(E)$ にとればよい。
原論文は旗束の場合を、Théorème 1 と同じく普遍分解代数の補題(Lemme 1)で進めると述べ、λ 環としての表示と代数としての表示を並べる(印字 4-25)。本書は二つを分けて述べる。
$X$ を非特異な代数的空間、$E$ を階数 $p$ のベクトル束、$\tau=(p_1,\dots,p_k)$ を型とし、上の定義(旗束の層の類)の記号を使う。
段 1(完全旗束の関係).$D(E)$ の上で $g^*E$ は直線束 $L_1,\dots,L_p$ を商とする旗をもつので、λ 演算の加法性と $\lambda_t(x_m)=1+x_mt$ から $\lambda_t(g^*E)=\prod_m(1+x_mt)$、すなわち $\lambda^i(E)=\sigma_i(x_1,\dots,x_p)$ である。よって 1 の準同型が定まる。左辺を $C$ と書く。
段 2(1 の同型).$p$ についての帰納法で示す。$p=1$ なら $D(E)=X$ で、$C=K(X)[\xi_1]/(\xi_1-E)=K(X)$ である。$p\ge2$ とする。引用する事実 3 により $D(E)$ は $P(E)$ の上の $D(E')$($E'=f^*E/\mathcal O(-1)$、階数 $p-1$)に同型で、$x_1=[\mathcal O(-1)]=\ell_E^{-1}$、$x_2,\dots,x_p$ は $D(E')$ の分裂の因子の類である。上の定理(射影束の K 環の基底)により $\ell_E^{\,i}$($0\le i\le p-1$)は $K(P(E))$ の $K(X)$ 基底で、可逆元 $\ell_E^{-(p-1)}$ を掛ける写像は $K(X)$ 加群の自己同型なので、$x_1^{\,i}=\ell_E^{-i}$($0\le i\le p-1$)も基底である。帰納法の仮定を $P(E)$ の上の $E'$ に当て、本書『2-3 旗束の環』の主結果「普遍分解代数の基底」($k=1$ の場合)と合わせると、$x_2^{\alpha_2}\cdots x_{p-1}^{\alpha_{p-1}}$($0\le\alpha_i\le p-i$)は $K(D(E))$ の $K(P(E))$ 基底である。自由加群の塔なので、$x_1^{\alpha_1}x_2^{\alpha_2}\cdots x_{p-1}^{\alpha_{p-1}}$($0\le\alpha_i\le p-i$)は $K(D(E))$ の $K(X)$ 基底である。同じ主結果により、同じ形の単項式 $\xi_1^{\alpha_1}\cdots\xi_{p-1}^{\alpha_{p-1}}$ は $C$ の $K(X)$ 基底である。1 の準同型は基底を基底に移すので同型である。
段 3(2 の生成).$B=K(D_\tau(E))$ とおく。引用する事実 3 により $D(E)$ は $D_\tau(E)$ の上の $D(F_1),\dots,D(F_k)$ のファイバー積で、$D(E)$ の分裂の因子の類 $x_1,\dots,x_p$ は、順に $p_1,\dots,p_k$ 個の群に分けると、第 $j$ の群 $x^{(j)}$ が $F_j$ の引き戻しの分裂の因子の類になる。1 を $F_1,\dots,F_k$ に順に当てると、$K(D(E))$ は $B$ の上で、群ごとに指数に上限をつけた単項式(本書『2-3 旗束の環』の主結果「普遍分解代数の基底」の形)を基底とする自由加群である。基底は $1$ を含むので $B\to K(D(E))$ は単射で、$B$ を部分環とみなせる。また 1 の段 1 を $F_j$ に当てて $\sigma_i(x^{(j)})=\lambda^i(f_j)$ である。$B'\subset B$ を $\lambda^i(f_j)$ が生成する $K(X)$ 部分代数とする。1 の同型 $C\cong K(D(E))$ は、$C$ の中の $\sigma_i(\xi^{(j)})$ が生成する部分代数を $B'$ の上に移す。同じ主結果により、同じ単項式は $K(D(E))$ の $B'$ 基底でもある。$b\in B$ をこの基底で $B'$ 上展開すると、$B'\subset B$ なのでこれは $B$ 上の展開でもあり、$B$ 上の展開の一意性から、$b$ は $1$ の係数だけをもつ。よって $b\in B'$ で、$B=B'$ である。
段 4(2 の関係).本書『2-3 旗束の環』の主結果「部分代数の表示」を $A=K(X)$、$c_i=\lambda^i(E)$ に当てると、$C$ の中の $\sigma_i(\xi^{(j)})$ が生成する部分代数は、それらを生成元とし (24) の形の $p$ 個の関係で表示される。1 の同型によりこの部分代数は $B'=B$ に同型なので、2 が成り立つ。
段 5(3 の λ 環).$X$ が準射影的なら $D_\tau(E)$ も準射影的で(引用する事実 3)、$K(X)$ と $K(D_\tau(E))$ は特殊 λ 環である(引用する事実 4)。(23) は $K(D_\tau(E))$ で成り立つので、普遍の特殊 λ 環 $R$($K(X)$ の上で $f_1,\dots,f_k$ を生成元、(23) を関係とするもの。引用する事実 4)から λ 環の準同型 $\rho\colon R\to K(D_\tau(E))$ が定まる。2 により $\rho$ は全射である。逆向きを作る。$R$ の中で、$K(X)$ の像と $\lambda^i(f_j)$($i\ge1$)が生成する $K(X)$ 部分代数を $S$ とする。$\lambda^m(s)\in S$ となる $s\in R$ の全体は、$K(X)$ の像と $\lambda^n(f_j)$ を含み(普遍多項式で $\lambda^m\lambda^n$ が書けるから)、和・積・符号の反転で閉じる(普遍多項式による)ので $S$ を含む。よって $S$ は λ 演算で閉じた部分環で、$f_j$ を含むので $R$ 全体に等しい。$R$ では (23) により $\lambda^i(f_j)=0$($i>p_j$)なので、$R$ は $K(X)$ の像と $\lambda^i(f_j)$($1\le i\le p_j$)で代数として生成される。また $R$ で $E=f_1+\dots+f_k$ なので $\lambda_t(E)=\prod_j\lambda_t(f_j)$ で、各因子は $t$ の $p_j$ 次以下の多項式だから、(24) が $R$ で成り立つ。2 の表示により、$K(X)$ 代数の準同型 $\sigma\colon K(D_\tau(E))\to R$、$\lambda^i(f_j)\mapsto\lambda^i(f_j)$ が定まる。$\rho\sigma$ と $\sigma\rho$ はどちらも代数の生成元を固定するので恒等写像で、$\rho$ は同型である。
段 6(4 の射影束).上の定理(射影束の K 環の基底)により $K(P(E))$ は $K(X)$ 代数として $\ell_E$ で生成される。$\ell_E$ は直線束の類なので $\lambda_t(\ell_E)=1+\ell_Et$ である。$K(P(E))$ の元は $\ell_E$ の $K(X)$ 係数の多項式で、普遍多項式により、その $\lambda^m$ は係数の $\lambda^i$ と $\lambda^i(\ell_E)$ から決まる。
原論文の関係式 (24) の和は、印字では左辺も右辺も $1\le i$ から始まる(印字 4-25)。印字のままでは右辺の積の最低次の項は $t^k$ なので、$k\ge2$ で $t$ の係数を比べると $\lambda^1(E)=0$ となる。$X$ が連結なら階数の写像 $K(X)\to\mathbf Z$ は $\lambda^1(E)=[E]$ を $p\ge1$ に送るので、これは成り立たない。(18 bis) の $c=\sum_{i\ge0}c_i$ と同じく和は $i\ge0$ からと読む(本書『2-3 旗束の環』の注意「印字の読み(和の下限と指数の下限)」の同じ誤植の 5 か所目)。
2 と 3 は同じ環を二通りに記述するが、生成元の数が違う。代数としては $\lambda^i(f_j)$($1\le i\le p_j$)の $p$ 個の生成元と (24) の $p$ 個の関係が要る。λ 環としては $k$ 個の生成元 $f_j$ と (23) の関係で足り、外冪 $\lambda^i(f_j)$ は λ 演算が自動的に作る。原論文はまず λ 環としての表示を述べ、続けて「こうも言える」として代数としての表示を述べる(印字 4-25)。本書は、代数としての表示を先に普遍分解代数から証明し、λ 環としての表示をそこから普遍性で導いた。3 と 4 に準射影性を置いたのは、$K$ 環全体が λ 環になることを Borel と Serre の範囲で引くためで、2 はその仮定を使わない。
§4 の注意の最後で、原論文は完全性とホモトピーの公理が層の類の群でも成り立つと述べ(Borel–Serre BS58、原論文の文献 [1] を参照させる。本書はその該当箇所を確かめていない)、証明はやはり Proposition 5 を本質的に使い、完全性の公理に帰着し、それは連接層の延長の性質から出る、と一文で添える(印字 4-31)。
上の定義(層の類の群の弱い理論)について、次が成り立つ。
段 1(弱い公理系).要点のみ述べる。関手性は層の制限と直像の関手性から、(I.1) は外積が制限・閉埋め込みの直像と交換することから、(I.4)(I.6) はテンソル積の結合性・対称性と $\mathcal F\otimes_kk=\mathcal F$ から、(I.7) は非交和の上の連接層が成分ごとの連接層の組と同じであることから出る。(I.2)(I.3) は、開部分が生成点を含むことと、$X\times Y$(既約)の生成点での $\mathcal F\boxtimes\mathcal G$ の階数が階数の積であることから、(I.5) は $K'(\mathrm{pt})=\mathbf Z$(有限次元ベクトル空間の次元)から出る。式 (2) は $\mathcal O_X|_U=\mathcal O_U$、$\mathcal O_X\boxtimes\mathcal O_Y=\mathcal O_{X\times Y}$、$\mathcal O_X$ の生成的な階数が $1$ であることである。(BC) は層の水準の等式 $(i_*\mathcal G)|_U=(i_{Y\cap U})_*(\mathcal G|_{Y\cap U})$ から出る。
段 2((E)).$j^*$ の全射性は、$U$ の上の連接層が $X$ の上に延びること(引用する事実 6 の (a))から出る。$j^*i_*=0$ は $(i_*\mathcal G)|_U=0$ から出る。$\ker j^*\subset\operatorname{Im}i_*$ は引用する事実 6 の (b) である。
段 3((H)).$[\mathcal F]\times[\mathcal O_{\mathbf A^1}]=[\mathrm{pr}_1^*\mathcal F]$ なので、引用する事実 6 の (c) である。
段 2 と段 3 の要の部分は引用なので、この定理は原論文の一文を後代の結果で置き換えたものである。原論文の筋との関係を記録しておく。
原論文の筋は、完全性 (E) を示し、Proposition 5(本書『3-1 完全性とホモトピーの公理』の主結果「完全性と補助公理からホモトピーへ」)で (H) に帰着させるものである。Proposition 5 を当てるには、(E) のほかに補助公理 (Z)(次元を下げる)と (HD)(主因子の超曲面の類が消える)と、本書が足した仮定 (BC) が要る。(BC) は上の段 1 のとおり層の水準で成り立つが、(Z) と (HD) を層の類の群で確かめることを原論文は書いておらず、本書も確かめていない。また (E) の核の包含は、連接層の延長だけからすぐに出るものではなく、$U$ の上の短完全列による関係を $X$ の上へ持ち上げる議論が要る。本書はこれらの段を後代の局所化の完全列とホモトピー不変性で閉じ、原論文の筋を確かめたとは扱わない。
第 3 章の線形同値の理論と並べると、この定理は §4 の公理系を満たすもう一つの理論を与える。ただし層の類の群には次数が無いので、第 4 章の射影束公式の議論(とくに一次独立の半分、本書『2-1 直線束の類と射影束の一次独立』)はそのままでは当てはまらず、上の定理(射影束の K 環の基底)では一次独立を直像の計算で別に示した。
最初の例は、一点の上の射影束、すなわち射影空間で上の定理を読む。Chow 環の $\mathbf Z[\xi]/(\xi^p)$ との類似が見える。
$X=\mathrm{pt}$、$E=V$($\dim V=p$)とする。$K(\mathrm{pt})=\mathbf Z$ で、$\lambda^i(V)=\binom pi$ だから、(22) は $\sum_i(-1)^i\binom pi\ell_V^{\,i}=(1-\ell_V)^p=0$ である。上の定理(射影束の K 環の基底)により
$$K(P(V))\cong\mathbf Z[t]/((1-t)^p),\qquad t\mapsto\ell_V$$
である。$h=1-\ell_V^{-1}$ とおくと $h=-\ell_V^{-1}(1-\ell_V)$ なので $h^p=0$ で、$1,h,\dots,h^{p-1}$ も基底になり($\ell_V^{-1}=1-h$ で、基底の間の変換は単数を対角にもつ三角行列)、$K(P(V))\cong\mathbf Z[h]/(h^p)$ である。超平面 $H$ を零点とする $L_V$ の切断から短完全列 $0\to\mathcal O(-1)\to\mathcal O\to\mathcal O_H\to0$ が得られるので、$h=[\mathcal O_H]$ は超平面の構造層の類である。Chow 環 $A(P(V))\cong\mathbf Z[\xi_V]/(\xi_V^{\,p})$($\xi_V$ は超平面の類。本書『2-1 直線束の類と射影束の一次独立』)と同じ形になる。この例は上の定理に依るので[条件付き]である。
次の例は、完全旗束の表示(上の定理の 1)と射影束の表示(上の定理(射影束の K 環の基底))が、$D(E)=P(E)$ となる階数 2 で一致することを確かめる。
$E$ を階数 2 とすると $D(E)=P(E)$ で、$x_1=[\mathcal O(-1)]=\ell_E^{-1}$、$x_2$ は商の直線束の類である。上の定理(旗束の K 環の表示)の 1 は
$$K(P(E))\cong K(X)[\xi_1,\xi_2]/(\xi_1+\xi_2-E,\ \xi_1\xi_2-\lambda^2(E))\cong K(X)[\xi_1]/(\xi_1^2-E\,\xi_1+\lambda^2(E))$$
を与える。一方 (22) は $1-E\,\ell_E+\lambda^2(E)\,\ell_E^{\,2}=0$ で、これに $\ell_E^{-2}$ を掛けると $x_1^2-E\,x_1+\lambda^2(E)=0$ となり、二つの関係式は一致する。基底も、$1,\ell_E$ と $1,x_1=\ell_E^{-1}$ が可逆元 $\ell_E^{-1}$ の掛け算で移り合う。
最後の反例は、上の定理(射影束上の直像)の範囲が最良であることを示す。範囲は一次独立の証明でちょうど使い切られていた。
上の定理(射影束上の直像)の第 1 式から、範囲 $-(p-1)\le i\le-1$ という条件を外し、端を一つ延ばす。$X=\mathrm{pt}$、$E=V$($\dim V=p$)、$P(V)=\mathbf P^{p-1}$ とする。
(a) 上の端 $i=0$(原論文の印字の範囲):$f_!(\ell_V^{\,0})=f_!(1)=1\neq0$ である。
(b) 下の端 $i=-p$:引用する事実 2 により $H^q(\mathbf P^{p-1},\mathcal O(-p))$ は $q=p-1$ で $k$、それ以外で $0$ なので、$f_!(\ell_V^{-p})=(-1)^{p-1}\neq0$ である。
よって $f_!(\ell_V^{\,i})=0$ となる $i$ の範囲は、$0$ も $-p$ も含まない。(b) は (22) からも予想できる。もし $f_!(\ell_V^{\,m})=0$ が $-p\le m\le-1$ で成り立てば、上の定理(冪の一次独立)の論法がそのまま通って $1,\ell_V,\dots,\ell_V^{\,p}$ が一次独立になるが、それは (22) の非自明な関係($\ell_V^{\,0}$ の係数は $1$)に反する。この反例は射影空間のコホモロジーの計算を引くので[条件付き]である。
以下は後代の結果の紹介である(時点を明記する。本書は文献を開いて確かめていないので、該当箇所の番号は書かない。本書の参考文献表に無い文献は名前だけを挙げる)。
本頁が対応する原論文は Sur quelques propriétés fondamentales en théorie des intersections Gro58b の §3 の注意 4°(印字 4-24〜4-25)と §4 の注意の最後の段(印字 4-31)である。
| 本頁 | 原論文 | 印字頁 |
|---|---|---|
| 定義(射影束の基本類と外冪(層の類)) | 注意 4° の $K(X)$(文献 [1])、$\ell_E=\gamma(L_E)$ が可逆であること | 4-24 |
| 定理(射影束上の直像) | (21)(範囲の上端の印字は $i\le0$) | 4-24 |
| 定理(冪の一次独立) | 「Proposition 1 と同じく」一次独立(論法は Proposition 4) | 4-25 |
| 定理(λ 関係式) | $f^{-1}(E)\otimes L_E$ の自明な部分直線束、$\lambda_t$ の加法性、(22)、$\lambda^p(E)$ の可逆性 | 4-25 |
| 定理(射影束の K 環の基底)、注意(生成の段についての原論文の筋) | 「§4、§5、§6 の結果を使って」生成、基底、環の構造(印字は $A(P(E))$) | 4-25 |
| 定義(旗束の層の類)、定理(旗束の K 環の表示)、注意(代数としての表示と λ 環としての表示) | Théorème 1 と Lemme 1 の K 版、(23)、代数としての生成元 $\lambda^i(f_j)$、(24)(和の下限の印字は $1$)、$\lambda_t(\ell_E)=1+\ell_Et$ | 4-25 |
| 定義(層の類の群の弱い理論)、定理(層の類の群の完全性とホモトピー)、注意(原論文の筋と Proposition 5) | §4 の注意の最後の段(層の類の群での (E)(H)、Proposition 5 と連接層の延長) | 4-31 |
| 例(射影空間の K 環)、例(階数 2 の束で二つの表示を比べる)、反例(直像が消える範囲の端を延ばすと成り立たない) | 原論文に無い。(21)(22) と旗束の表示の確かめ | 4-24〜4-25 |
原論文はこの段を「手短かに述べよう」として概略だけを書く(印字 4-24)。印字の読みは次のとおりである。(21) の第 1 行の範囲は $-(p-1)\le i<0$(印字は $\le0$)、一次独立の論法は Proposition 4 のもの(印字は「Proposition 1」)、環の構造を決めるのは $K(P(E))$(印字は $A(P(E))$)、$f_j$ は $F_j$ の類(印字は $F_i$)、(24) の和は $i\ge0$ から(印字は $1$ から)。
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