局所自明なファイバー空間への引き戻しは全射だが、単射とは限らない。束が切断をもつ場合と、アフィン空間を繊維とし構造群がアフィン線形の束の場合には全単射になることを示し、直線束から零切断を除いた空間と、ベクトル束の一般線形群の主束の環を計算する。主束の環は底の環を Chern 類の生成するイデアルで割ったものになる。
理論は本書『4-2 局所から大域へと射影束公式』の定義(射影束公式を証明するための条件)を、次数付きの場合も含めて満たすとする。すなわち、圏 $\mathcal V$ は条件 (V.1)〜(V.3) を満たし、理論は公理 (I.1)〜(I.10) と完全性の公理 (E)、ホモトピーの公理 (H) を満たす次数付きの理論である。このとき非特異な空間について射影束公式 (I.11) が成り立つ(本書『4-2 局所から大域へと射影束公式』の主結果「射影束公式」)。底 $X$ はつねに非特異な $\mathcal V$ の対象とし、登場する空間(射影的完備化、零切断を除いた空間、主束とその商)は $\mathcal V$ に属するとする。この仮定は、下の証明で見るとおり、(V.1)〜(V.3) から自動的に満たされる。射影束の規約は本書の規約で、$\xi_E=c_1(\mathcal O(1))$ である。
原論文の §6 の最後の注意は記号の付かない一段落である。本頁はその中の主張を、書かれた順に (a)〜(e) と呼ぶ(記号は本書が付けたもの)。本頁の主結果は次の五つである。
原論文 Gro58b の §6 は、局所自明なファイバー空間の引き戻しが全射であること(本書『4-2 局所から大域へと射影束公式』の主結果「局所自明なファイバー空間」)を示した後、最後の注意でその単射性を論じる(印字 4-35)。原論文は、引き戻しは一般には全単射でないと断ったうえで、全単射になる二つの場合(切断がある場合、構造群がアフィン線形の場合)を挙げ、そこから零切断を除いた直線束と主束の環を「難なく」求められると述べる。証明は筋だけが書かれている。
主束の環の計算は、後代の言葉では、ベクトル束の構造群を忘れたときに底の環から何が失われるかの計算である。答えは Chern 類がちょうど消えることで、Chern 類が主束の上の「障害」として働くことを環の水準で示している。第 3 巻『Chern 類の公理的理論』の頁『5-2 零点サイクルの類』は、正則切断の零点サイクルが最高次の Chern 類を表すことを扱った。本頁が使うのはその階数 1 の場合、すなわち直線束の横断的な切断の零点の類が第一類であることだけで、これは公理 (I.10) そのものである。第 3 巻の最高次の零点公式は引かない。
アフィン束は本書『0-2 代数多様体・横断性・射影束と旗多様体』の定義(アフィン束と局所自明なファイバー空間)で置いた。ここでは、その射影的完備化を作る。
$f\colon E\to X$ を階数 $n$ のアフィン束とする。すなわち、$X$ の開被覆 $\{X_\alpha\}$ と $X_\alpha$ 上の同型 $f^{-1}(X_\alpha)\cong X_\alpha\times\mathbf A^n$ があり、変換関数が $v\mapsto A_{\alpha\beta}v+a_{\alpha\beta}$($A_{\alpha\beta}\colon X_\alpha\cap X_\beta\to\mathrm{GL}_n$、$a_{\alpha\beta}\colon X_\alpha\cap X_\beta\to\mathbf A^n$)の形であるとする。$A_{\alpha\beta}$ を変換関数とするベクトル束 $W$ を $E$ の線形部分という。行列
$$\begin{pmatrix}A_{\alpha\beta}&a_{\alpha\beta}\\0&1\end{pmatrix}\in\mathrm{GL}_{n+1}$$
はアフィン写像の合成と同じ規則で掛け合わされるので、階数 $n+1$ のベクトル束 $F$ を定める。最初の $n$ 座標の部分束が $W$、最後の座標への射影が全射 $\pi\colon F\to\mathcal O_X$ で、完全列 $0\to W\to F\xrightarrow{\pi}\mathcal O_X\to0$ がある。$E$ は $F$ の中の $\pi=1$ の部分と同一視され、$E_x$ の点 $v$ にそれを通る $F_x$ の直線を対応させると、$X$ 上の同型 $E\cong P(F)-P(W)$ を得る。$P(F)$ を $E$ の射影的完備化、$P(W)\subset P(F)$ を無限遠の射影束という。
$W_x$ に含まれない $F_x$ の直線は $\pi=1$ の超平面とちょうど一点で交わるので、上の対応は各ファイバーで全単射である。局所的には $X_\alpha\times\mathbf A^n\cong X_\alpha\times(P(k^{n+1})-P(k^n))$ という標準的な同型で、これが大域的な同型であることは、変換関数の形から分かる。$a_{\alpha\beta}=0$ にとれる場合、すなわち $E$ がベクトル束 $W$ の全空間の場合は、$F=W\oplus\mathcal O_X$ である。この場合の完備化 $P(W\oplus\mathbf 1)$ と開埋め込みは、参考書『Chern 類の公理的理論』の頁『5-1 射影的完備化と補題 3』の主結果「射影的完備化への標準開埋め込み」でも扱った。本頁はそれを変換関数に平行移動を含むアフィン束へ広げて使う。
次に主束を置く。本書『0-2 代数多様体・横断性・射影束と旗多様体』の記号に従い、一般線形群 $\mathrm{GL}_p$ の中で、$T$ を対角行列、$B_G$ を上三角行列(Borel 群)、$U$ を対角成分が $1$ の上三角行列の群とする。普遍分解代数の $B$(本書『2-3 旗束の環』)と区別するため、この頁では Borel 群を $B_G$ と書く。
$E$ を $X$ 上の階数 $p$ のベクトル束とし、$P=\operatorname{Isom}(\mathcal O_X^p,E)$ を $E$ の枠の束とする。$\mathrm{GL}_p$ は $P$ に右から作用し、$P$ は Zariski 局所自明な主束である。$U$ の閉部分群の列 $U=U_0\supset U_1\supset\dots\supset U_N=1$($N=p(p-1)/2$)を、本書『0-2 代数多様体・横断性・射影束と旗多様体』の定理(一般線形群の Borel 群と単冪根基の列)の (3) のものとする。各 $U_i$ は $B_G$ で正規なので $T$ で正規化され、$H_i:=TU_i$ は閉部分群で、$H_0=B_G$、$H_N=T$ である。主束の商 $P/H_i$ の列
$$P\to P/T=P/H_N\to P/H_{N-1}\to\dots\to P/H_0=P/B_G\cong D(E)\to X$$
を主束の商の列という。ここで $D(E)$ は完全旗束である。
$P/B_G\cong D(E)$ は、枠 $(e_1,\dots,e_p)$ に旗 $\langle e_1\rangle\subset\langle e_1,e_2\rangle\subset\dots$ を対応させる写像による。$P/T$ は、$E$ を順序のついた $p$ 個の直線束の直和に分解するしかたの空間である。
次の事実は証明せずに引用する。出典は主に Bor56、Che58、Ser55 で、該当箇所の番号は本頁では確認していない。要点は第 0 章の頁『0-2 代数多様体・横断性・射影束と旗多様体』にある。
系 1 が与えるのは全射性だけである。単射性は、切断があれば左逆写像からただちに出る。
$X\in\mathcal V$ を非特異とし、$f\colon E\to X$ は本書『4-2 局所から大域へと射影束公式』の主結果「局所自明なファイバー空間」の条件を満たすとする(ファイバーはアフィン空間の開集合に同型で、Zariski 局所自明、$E$ と局所閉な非特異部分の逆像は $\mathcal V$ に属する)。$f$ が切断 $s\colon X\to E$($f\circ s=\mathrm{id}_X$ となる射)をもてば、$f^*\colon A(X)\to A(E)$ は全単射である。
引き戻しの関手性から $s^*f^*=(f\circ s)^*=\mathrm{id}_{A(X)}$ なので、$f^*$ は単射である。全射性は本書『4-2 局所から大域へと射影束公式』の主結果「局所自明なファイバー空間」による。
ベクトル束の全空間は零切断をもつので、底と同じ環をもつ(本書『4-2 局所から大域へと射影束公式』の例「ベクトル束の全空間」)。切断が無いときは、構造群の形が代わりに単射性を保証することがある。
$X\in\mathcal V$ を非特異とし、$f\colon E\to X$ を階数 $n$ のアフィン束、$W$ をその線形部分、$P(F)$ を射影的完備化とする(上の定義(アフィン束の射影的完備化))。このとき $E\in\mathcal V$ で、$f^*\colon A(X)\to A(E)$ は全単射である。
段 1(空間と完全列).$h\colon P(F)\to X$、$g\colon P(W)\to X$ を射影、$i\colon P(W)\to P(F)$ を包含、$j\colon E\to P(F)$ を補集合 $E\cong P(F)-P(W)$ の包含とする。$h\circ i=g$、$h\circ j=f$ である。(V.2) により $P(F)$、$P(W)$ は $\mathcal V$ に属し、(V.3) により開部分 $E$ も $\mathcal V$ に属する((V.1) により同型で移してよい)。$X$ が非特異なので $P(F)$、$P(W)$、$E$ も非特異である。$P(W)$ は $P(F)$ の閉部分なので、(E) により
$$A(P(W))\xrightarrow{\ i_*\ }A(P(F))\xrightarrow{\ j^*\ }A(E)\to0$$
は完全である。
段 2(無限遠の類).引用する事実 1 により、$P(W)$ は $L_F$ の横断的な切断の零点集合なので、公理 (I.10) により $[P(W)]=i_*(1_{P(W)})=c_1(L_F)=\xi_F$ である。また $\mathcal O(-1)$ の制限が $\mathcal O(-1)$ なので $L_F$ の制限は $L_W$ で、データ e の関手性から $i^*\xi_F=\xi_W$ である。
段 3($i_*$ の像).本書『4-2 局所から大域へと射影束公式』の主結果「射影束公式」により、$A(P(W))$ の元は $\sum_{m=0}^{n-1}g^*(a_m)\,\xi_W^{\,m}$($a_m\in A(X)$)と書ける。$g^*(a)\,\xi_W^{\,m}=i^*\bigl(h^*(a)\,\xi_F^{\,m}\bigr)$ なので、$i$ が閉埋め込みで固有であることと射影公式 (I.9) により
$$i_*\bigl(g^*(a)\,\xi_W^{\,m}\bigr)=h^*(a)\,\xi_F^{\,m}\cdot i_*(1_{P(W)})=h^*(a)\,\xi_F^{\,m+1}$$
である。よって $\operatorname{Im}i_*=\bigoplus_{m=1}^{n}h^*A(X)\,\xi_F^{\,m}$ である(右辺の和が直和であることは次の段の基底による)。
段 4(結論).同じ射影束公式により、$A(P(F))=\bigoplus_{m=0}^{n}h^*A(X)\,\xi_F^{\,m}$ で、係数は一意に定まる。段 1 の完全列から
$$A(E)\cong A(P(F))/\operatorname{Im}i_*\cong h^*A(X)\cdot1$$
となる。すなわち、$a\mapsto j^*h^*(a)=f^*(a)$ は全射で、$f^*(a)=0$ なら $h^*(a)\in\operatorname{Im}i_*$ となり、基底 $1,\xi_F,\dots,\xi_F^{\,n}$ についての係数の一意性から $a=0$ である。
$n=0$ なら $E=X$ で主張は自明である。証明が使ったのは (E)、(I.9)、(I.10) と射影束公式で、系 1 は使っていない。したがってアフィン束には系 1 の条件(局所閉な部分の逆像が圏に属すること)を別に確かめる必要がない。
原論文は注意 (c) で、アフィン束を射影的に閉じて (E) を使えばよい、とだけ書く(印字 4-35)。上の証明は、その一言を、射影的完備化 $P(F)$ の構成(定義)、無限遠の射影束の類が $\xi_F$ であること(段 2、公理 (I.10))、射影公式による $i_*$ の像の計算(段 3)の三つに分けたものである。$i_*$ の像がちょうど $\xi_F$ で割り切れる部分になることが要で、そのために (I.11) を $P(W)$ と $P(F)$ の両方で使う。原論文の筋に誤りは無く、本書は段を補っただけである。
アフィン束の場合と同じく (E) を使うが、今度は補集合の閉集合が零切断で、その類は直線束の第一類になる。これが、環から第一類が消える理由である。
$Y\in\mathcal V$ を非特異、$L$ を $Y$ 上の直線束、$\rho\colon L\to Y$ をその全空間、$s\colon Y\to L$ を零切断とする。このとき $L\in\mathcal V$ で、すべての $y\in A(Y)$ について $s_*(y)=\rho^*\bigl(c_1(L)\,y\bigr)$ である。
$L$ は線形部分 $L$ のアフィン束(ベクトル束)なので、上の定理(構造群がアフィン線形の束)により $L\in\mathcal V$ で、$\rho^*$ は全単射である。$s$ は閉埋め込みで固有、$\rho\circ s=\mathrm{id}_Y$ なので $y=s^*\rho^*(y)$ で、射影公式 (I.9) により
$$s_*(y)=s_*\bigl(s^*(\rho^*y)\cdot1_Y\bigr)=\rho^*(y)\cdot s_*(1_Y)$$
である。$s$ は $Y$ から零切断の像 $s_0(Y)$ への同型と包含の合成なので、公理 (I.7) により $s_*(1_Y)=[s_0(Y)]$ である。引用する事実 2 により $s_0(Y)$ は $\rho^*L$ の横断的な切断の零点集合なので、公理 (I.10) とデータ e の関手性により $[s_0(Y)]=c_1(\rho^*L)=\rho^*c_1(L)$ である。よって $s_*(y)=\rho^*(y)\,\rho^*c_1(L)=\rho^*(c_1(L)\,y)$ である。
零切断の像を $L$ の中の閉部分とみたとき、その類が底の第一類の引き戻しになる。これを (E) に入れると、零切断を除いた空間の環が求まる。
$Y\in\mathcal V$ を非特異、$L$ を $Y$ 上の直線束、$L^\times=L-s_0(Y)$ を零切断を除いた空間、$\rho^\times\colon L^\times\to Y$ を射影とする。このとき $L^\times\in\mathcal V$ で、$\rho^{\times*}\colon A(Y)\to A(L^\times)$ は全射で、その核は $c_1(L)A(Y)$ である。すなわち $A(Y)/c_1(L)A(Y)\cong A(L^\times)$ である。
上の補題(零切断の類)により $L\in\mathcal V$ で、(V.3) により開部分 $L^\times$ も $\mathcal V$ に属する。$j\colon L^\times\to L$ を包含とすると $\rho\circ j=\rho^\times$ である。零切断の像 $s_0(Y)$ は $Y$ に同型で $\mathcal V$ に属するので、(E) と (I.7) により $A(Y)\xrightarrow{s_*}A(L)\xrightarrow{j^*}A(L^\times)\to0$ は完全である。上の補題により $\operatorname{Im}s_*=\rho^*\bigl(c_1(L)A(Y)\bigr)$ である。$\rho^*$ は全単射なので(上の定理(構造群がアフィン線形の束))、合成 $j^*\rho^*=\rho^{\times*}$ は全射で、その核は $(\rho^*)^{-1}(\operatorname{Im}s_*)=c_1(L)A(Y)$ である。
$L$ が自明なら $c_1(L)=0$ で、$L^\times=Y\times\mathbf G_m$ の環は $A(Y)$ に等しい。このとき $\rho^\times$ は切断をもつので、上の定理(正則切断をもつ束)とも合う。$L$ が自明でなければ第一類が消え、引き戻しは単射でなくなりうる。その具体例は下の反例で見る。
主束 $P\to X$ を、主束の商の列に沿って三種類の段に分ける。$D(E)\to X$ は完全旗束で、その環は本書『2-3 旗束の環』で求めた。$P/H_{i+1}\to P/H_i$ はファイバー $\mathbf A^1$ のアフィン束で、環を変えない。最後の $P\to P/T$ は零切断を除いた直線束の積で、各分裂の因子の第一類を殺す。まず中間の段がたしかにアフィン束であることを確かめる。
上の定義(主束とその商の列)の記号で、$0\le i\le N$ とする。
段 1(主束の自明化).$E$ は Zariski 局所自明なので、$X$ の開被覆 $\{X_0\}$ で $P|_{X_0}\cong X_0\times\mathrm{GL}_p$(右からの $\mathrm{GL}_p$ の作用と両立する同型)となるものがある。このとき $(P/H_i)|_{X_0}\cong X_0\times\mathrm{GL}_p/H_i$ なので、1 は $\mathrm{GL}_p\to\mathrm{GL}_p/H_i$ が Zariski 局所自明な $H_i$ 主束であることに帰着する。ここで $P$ を $X$ の上で自明にしただけでは足りないことに注意する。残るのは群 $\mathrm{GL}_p$ の商の間の問題で、それは $P\to X$ の自明性からは出ない。
段 2(big cell による局所切断).引用する事実 4 により、$\mathrm{GL}_p/B_G$ の開被覆 $\{\Omega\}$ と切断 $\sigma\colon\Omega\to\mathrm{GL}_p$ がある。$(\omega,b)\mapsto\sigma(\omega)b$ は、$\Omega\times B_G$ から $\mathrm{GL}_p$ の中の $\Omega$ の逆像への同型で、右からの $B_G$ の作用と両立する。$H_i\subset B_G$ なので、$\mathrm{GL}_p/H_i$ の中の $\Omega$ の逆像は $\Omega\times B_G/H_i$ に同型で、その上で $\mathrm{GL}_p\to\mathrm{GL}_p/H_i$ は $\Omega\times(B_G\to B_G/H_i)$ になる。よって 1 は、$B_G\to B_G/H_i$ が切断をもつことに帰着する。
段 3(単冪根基への帰着).$B_G=UT$ なので、$u\mapsto uH_i$ は $U$ から $B_G/H_i$ への全射で、$uH_i=u'H_i$ は $u^{-1}u'\in H_i\cap U=U_i$ と同値である($TU_i$ の元 $tu''$ が $U$ に入るのは $t=1$ のときに限る)。よって $B_G/H_i\cong U/U_i$ で、$U\to U/U_i$ の切断があれば $B_G\to B_G/H_i$ の切断が得られる。
段 4(加法群のトーサーを積み重ねる).$m$ についての帰納法で、$U/U_m$ がアフィン空間に同型で、$U/U_{m+1}\to U/U_m$ が切断をもつことを示す。$U/U_0$ は一点である。$U_{m+1}$ は $U_m$ で正規で、$U_m/U_{m+1}\cong\mathbf G_a$ は右からの掛け算で $U/U_{m+1}$ の $U/U_m$ 上のファイバーに自由かつ推移的に作用するので、$U/U_{m+1}\to U/U_m$ は $\mathbf G_a$ トーサーである。帰納法の仮定により底はアフィン空間なので、引用する事実 5 によりこのトーサーは自明で、$U/U_{m+1}\cong U/U_m\times\mathbf A^1$ はアフィン空間であり、切断をもつ。切断を合成すると、$U/U_i\to U/U_{i+1}\to\dots\to U/U_N=U$ は $U\to U/U_i$ の切断になる。これで 1 が示された。
段 5(付随する束と変換関数).引用する事実 3 により、$P/H_{i+1}\to P/H_i$ は $H_i$ 主束 $P\to P/H_i$ に付随するファイバー $H_i/H_{i+1}$ の束である。1 によりこの主束は Zariski 局所自明なので、付随する束も Zariski 局所自明で、変換関数は $H_i$ の元の左からの掛け算で与えられる。段 3 と同じ理由で $u\mapsto uH_{i+1}$ は同型 $U_i/U_{i+1}\cong H_i/H_{i+1}$ を与え、引用する事実 4 により $U_i/U_{i+1}\cong\mathbf G_a=\mathbf A^1$ である。$u'\in U_i$ の左からの掛け算は、可換な商 $U_i/U_{i+1}$ の上では $u'$ の像による平行移動である。$t\in T$ の左からの掛け算は $tuH_{i+1}=(tut^{-1})H_{i+1}$ なので共役で、引用する事実 4 により指標 $\chi_i(t)$ による掛け算である。よって $H_i=TU_i$ の元 $tu'$ は $v\mapsto\chi_i(t)(v+a)$($a$ は $u'$ の像)と作用し、これはアフィン線形である。
段 1 の最後に書いたことが、この補題の要点である。主束 $P$ が $X$ の上で局所自明であることは、商 $P/H_{i+1}\to P/H_i$ が $P/H_i$ の上で局所自明であることを意味しない。それを与えるのは、段 2 の big cell による局所切断と、段 4 の単冪群の構造である。
$X\in\mathcal V$ を非特異、$E$ を $X$ 上の階数 $p\ge1$ のベクトル束、$\varpi\colon P\to X$ を $E$ の枠の束とする。このとき $P\in\mathcal V$ で、$\varpi^*\colon A(X)\to A(P)$ は全射であり、その核は $c_1(E),\dots,c_p(E)$ の生成するイデアルである。すなわち $A(X)/(c_1(E),\dots,c_p(E))\cong A(P)$ である。
段 1(空間が圏に属すること).$P/H_0=D(E)$ は射影束の反復なので、(V.2) と (V.1) により $\mathcal V$ に属し、非特異である(本書『0-2 代数多様体・横断性・射影束と旗多様体』の定理「旗束の基本」)。上の補題の 2 により $P/H_{i+1}\to P/H_i$ は階数 1 のアフィン束なので、上の定理(構造群がアフィン線形の束)により、$P/H_i\in\mathcal V$ が非特異なら $P/H_{i+1}$ も $\mathcal V$ に属し非特異である。帰納法で $P/T=P/H_N\in\mathcal V$ である。$P/T$ の上の直線束 $\ell_1,\dots,\ell_p$ について、$Q_0=P/T$、$Q_m$ を $\ell_m$ の $Q_{m-1}$ への引き戻しから零切断を除いた空間とすると、引用する事実 3 により $Q_m$ は $\ell_1^\times,\dots,\ell_m^\times$ の $P/T$ 上のファイバー積で、$Q_p\cong P$ である。上の定理(零切断を除いた直線束)により、帰納的に $Q_m\in\mathcal V$ は非特異である。
段 2(アフィン束の段).上の定理(構造群がアフィン線形の束)を $P/H_{i+1}\to P/H_i$($i=0,\dots,N-1$)に順に当てると、引き戻し $A(D(E))\to A(P/T)$ は全単射である。
段 3(旗束の段).本書『2-3 旗束の環』の主結果「完全旗束の環」により、分裂の因子の類 $\xi_m=c_1(W_m/W_{m-1})$($W_\bullet$ は $D(E)$ の上の完全な旗。本書『2-3 旗束の環』の記号)について
$$A(D(E))\cong A(X)[\xi_1,\dots,\xi_p]\big/\bigl(\sigma_i(\xi_1,\dots,\xi_p)-c_i(E)\ (1\le i\le p)\bigr)$$
である($\sigma_i$ は基本対称式)。段 2 により、$A(P/T)$ も同じ表示をもつ。引用する事実 3 により $\ell_m$ は $W_m/W_{m-1}$ の引き戻しに同型なので、$c_1(\ell_m)$ は $\xi_m$ の像である。
段 4(零切断を除く段).上の定理(零切断を除いた直線束)を $Q_m\to Q_{m-1}$ に当てると、引き戻し $A(Q_{m-1})\to A(Q_m)$ は全射で、核は $\ell_m$ の引き戻しの第一類、すなわち $\xi_m$ の像の生成するイデアルである。$m$ についての帰納法で、合成 $A(P/T)\to A(Q_m)$ は全射で、核は $\xi_1,\dots,\xi_m$ の生成するイデアルである(全射の合成の核は、後ろの核の逆像だからである)。$m=p$ として、$A(P/T)\to A(P)$ は全射で、核は $(\xi_1,\dots,\xi_p)$ である。
段 5(まとめ).段 2〜4 の合成は、射の合成 $P\to P/T\to D(E)\to X$ による引き戻し、すなわち $\varpi^*$ である。段 3 の表示で $\xi_1,\dots,\xi_p$ を $0$ にすると、関係式は $c_i(E)=\sigma_i(0,\dots,0)=0$ になるので
$$A(P)\cong A(X)[\xi]\big/\bigl(\sigma_i(\xi)-c_i(E),\ \xi_1,\dots,\xi_p\bigr)\cong A(X)/\bigl(c_1(E),\dots,c_p(E)\bigr)$$
で、この同型は $\varpi^*$ から誘導される。よって $\varpi^*$ は全射で、核は $(c_1(E),\dots,c_p(E))$ である。
段 4 で消えるイデアルは $\xi_m$ の符号によらない。したがって、分裂の因子の類の符号の規約($P(E)$ の上で $\xi_1=-\xi_E$ となること。本書『0-4 記号と約束』)は、この結果に影響しない。
原論文は注意 (e) で、$P/T$ が $P/B_G$ の上のアフィン束であることと、$P$ が $P/T$ の上で零切断を除いた直線束の積であることを挙げ、あとは難なく出るとする(印字 4-35)。本書はこの主張を正しいと判定する。実際、$B_G$ の $B_G/T\cong U$ への左からの作用は、$b=tu_0$ について $uT\mapsto tu_0uT=(tu_0ut^{-1})T$、すなわち $u\mapsto t(u_0u)t^{-1}$ で、成分で書くと $(tu_0ut^{-1})_{ab}=t_at_b^{-1}\bigl(u_{ab}+(u_0)_{ab}+\sum_{a< c< b}(u_0)_{ac}u_{cb}\bigr)$($a< b$)である。これは $U$ の対角より上の成分について一次式(アフィン線形)で、線形部分は $u_0$ の左からの掛け算と $t$ の共役の合成なので可逆である。$p$ によらない。たとえば $p=3$ で $u_0$ の成分を $(a,b,c)$、$u$ の成分を $(x,y,z)$(位置 $(1,2)$、$(1,3)$、$(2,3)$)とすると、$u_0u$ の成分は $(x+a,\ y+az+b,\ z+c)$ で、線形部分は可逆な行列である。$T$ の共役は成分ごとの指標倍である。したがって、$P\to P/B_G$ が Zariski 局所自明な $B_G$ 主束であること(上の補題の 1 を $i=0$ で、段 1・段 2 だけで得る)を確かめれば、$P/T\to P/B_G$ は線形部分の階数 $N$ のアフィン束で、上の定理(構造群がアフィン線形の束)を一度当てるだけでよい。原論文の一言で確かめられていないのは、この Zariski 局所自明性だけである。
本書が上の証明で単冪根基の列に沿って一段ずつ剥がしたのは、この一度の適用と同じことを、ファイバーが $\mathbf A^1$ の段の繰り返しとして見せるためで、どちらの道でも結論は同じである。
主束の環の計算は、Chern 類がちょうど主束の上で消える類であることを示した。構造群を忘れると、ベクトル束から来る情報は Chern 類を通してしか底の環に残らない、と言い換えてもよい。
最初の反例は、系 1 の引き戻しが全単射とは限らないという原論文の注意 (a) を具体的に確かめる。原論文は例を挙げていない。
外す条件は、上の定理(正則切断をもつ束)の仮定のうち、切断をもつことである(上の定理(構造群がアフィン線形の束)の仮定、すなわちファイバーがアフィン空間でありアフィン線形な変換関数をもつことも満たさない)。理論は §6 の条件(本書『4-2 局所から大域へと射影束公式』の定義(射影束公式を証明するための条件)、次数付きの場合を含む)を満たし、係数環 $\Lambda$ は $0$ でないとする。
$\dim V=2$、$X=P(V)\cong\mathbf P^1$、$L=\mathcal O(-1)\subset V\otimes\mathcal O_X$ を標準的な部分直線束とし、$E=L^\times$、$f\colon E\to X$ を射影とする。点 $(d,v)$($d$ は直線、$v\in d$)に $v$ を対応させると、$L^\times$ は $V-\{0\}\cong\mathbf A^2-\{0\}$ に同型である。$f$ はファイバー $\mathbf G_m=\mathbf A^1-\{0\}$(アフィン直線の開集合)の Zariski 局所自明なファイバー空間で、$E$ と、$X$ の局所閉な非特異部分 $Y$ の逆像 $(L|_Y)^\times$ は $\mathcal V$ に属する($Y$ は (V.3) により $\mathcal V$ に属し、上の定理(零切断を除いた直線束)を $Y$ の上で使う)。よって本書『4-2 局所から大域へと射影束公式』の主結果「局所自明なファイバー空間」により $f^*$ は全射である。
一方、上の定理(零切断を除いた直線束)により $A(E)\cong A(\mathbf P^1)/c_1(\mathcal O(-1))A(\mathbf P^1)$ である。$c_1(\mathcal O(-1))=-c_1(L_V)=-\xi_V$(データ e は群準同型)なので、$f^*(\xi_V)=0$ である。射影束公式を一点の上で使うと $1,\xi_V$ は $A(\mathbf P^1)$ の $\Lambda$ 基底なので、$\Lambda\neq0$ なら $\xi_V\neq0$ である。よって $f^*$ は単射でない。$A(\mathbf P^1)=\Lambda\oplus\Lambda\xi_V$ を $\xi_V$ で割ると $A(E)\cong\Lambda$ である。
破れている性質は単射性で、その原因は切断が無いことである。実際、$f$ が切断をもてば上の定理(正則切断をもつ束)により $f^*$ は単射になるので、この計算自体が、$\Lambda\neq0$ の理論が一つでもあれば $L^\times\to\mathbf P^1$ が切断をもたないことを示している。ここで示したのは、§6 の条件を満たし係数環が $0$ でないどの理論でも、この引き戻しは単射でないことである。そのような理論が実在することは、本書『5-1 Chow 環での公理の成立と最小理論の予想』の条件付きの定理による。
$A(E)\cong\Lambda$ は別の道からも確かめられる。$E\cong\mathbf A^2-\{0\}$ は平面の開部分なので、本書『4-1 積空間と層別による生成』の主結果「アフィン空間の開集合との積」を一点に当てると、$A(\mathrm{pt})=\Lambda\to A(E)$ は全射である。$E$ は既約なので増大 $\varepsilon$ が $A(E)\to\Lambda$ の左逆を与え、$A(E)\cong\Lambda$ となって、上の計算と一致する。
次の例は、一点の上の主束、すなわち群そのものの環である。
理論は §6 の条件を満たすとし、$X=\mathrm{pt}$、$E=V$($p$ 次元のベクトル空間)とする。枠の束は $\mathrm{GL}(V)\cong\mathrm{GL}_p$ そのものである。$A(\mathrm{pt})=\Lambda$ は次数 $0$ だけなので(本書『2-1 直線束の類と射影束の一次独立』)、$c_i(V)\in A^i(\mathrm{pt})=0$($i\ge1$)で、上の定理(主束の環)により $A(\mathrm{GL}_p)\cong\Lambda$ である。$p=1$ では $A(\mathbf G_m)\cong\Lambda$ で、これは上の定理(零切断を除いた直線束)を一点の上の自明な直線束に当てたものでもある。途中の段では、$A(D(V))\cong A(\mathrm{GL}_p/T)$ が旗多様体の環 $\Lambda[\xi_1,\dots,\xi_p]/(\sigma_1(\xi),\dots,\sigma_p(\xi))$(本書『2-3 旗束の環』)で、これを $\xi_1,\dots,\xi_p$ で割ると $\Lambda$ になる。
最後の例は、零切断を除いた直線束の環に、係数環の捩れが現れる場合である。
理論は §6 の条件を満たすとし、$\dim V=n+1$、$X=P(V)\cong\mathbf P^n$、$d$ を整数、$L=L_V^{\otimes d}$($d<0$ のときは $(L_V^\vee)^{\otimes(-d)}$)とする。データ e は群準同型なので $c_1(L)=d\,\xi_V$ である。本書『4-2 局所から大域へと射影束公式』の例「射影空間の環」により $A(\mathbf P^n)\cong\Lambda[t]/(t^{n+1})$($t\leftrightarrow\xi_V$)なので、上の定理(零切断を除いた直線束)により
$$A(L^\times)\cong\Lambda[t]/(t^{n+1},\,d\,t)$$
である。$d=0$ なら $L^\times=\mathbf P^n\times\mathbf G_m$ で、環は $A(\mathbf P^n)$ のままである。$d=\pm1$ なら環は $\Lambda$ で、$d=-1$ の場合は上の反例と同じく $L^\times\cong\mathbf A^{n+1}-\{0\}$ である。$|d|\ge2$ で $\Lambda=\mathbf Z$ なら、環は $\mathbf Z\oplus(\mathbf Z/d)t\oplus\dots\oplus(\mathbf Z/d)t^n$ で、正の次数に位数 $|d|$ の捩れが現れる。
以下は原論文の主張ではなく、後代の結果の紹介である(時点を明記する。本書が文献を開いて確かめていないものはそう書く)。
本頁が対応する原論文は Sur quelques propriétés fondamentales en théorie des intersections Gro58b の §6 の最後の注意(印字 4-35)である。
| 本頁 | 原論文 | 印字頁 |
|---|---|---|
| 定義(アフィン束の射影的完備化)、定理(構造群がアフィン線形の束)、注意(原論文の「射影的に閉じる」の一言) | 注意 (c)(射影的に閉じて (E) を使う) | 4-35 |
| 定理(正則切断をもつ束) | 注意 (b) | 4-35 |
| 補題(零切断の類)、定理(零切断を除いた直線束) | 注意 (d) | 4-35 |
| 定義(主束とその商の列)、補題(中間の束の局所自明性)、定理(主束の環)、注意(原論文の「P/T は P/B 上のアフィン束」の一言) | 注意 (e)($P/T$ と $P/B$、「sans difficulté」) | 4-35 |
| 反例(切断が無いと系 1 の引き戻しは単射とは限らない) | 注意 (a)(全単射とは限らない。例は無い) | 4-35 |
| 例(一般線形群と乗法群の環)、例(射影空間の上の直線束から零切断を除いた空間) | 原論文に無い | — |
原論文はこの注意で §6 と講演の本文を閉じ、文献表に移る(印字 4-35〜4-36)。原論文の注意は一段落で、その中の主張は本書が付けた記号 (a)〜(e) の順に並ぶ。本頁は証明の依存の順((b)(c)(d)(e)、最後に (a) の反例)に並べ替えた。原論文は (d) を系 1 と (E) で片づけるとし、本頁は (E) と、(c) による全空間の環の計算で示した。
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