ベクトル束の旗束の環を、底の環と各段の商の Chern 類で表示する。その準備として、基本対称式の値を指定した多項式環の商である普遍分解代数の基底を、対称式の基本定理と有限群の固定体の次数から求め、変数を群に分けたときに現れる部分代数を生成元と関係で書く。ベクトル空間の旗多様体の環が交叉理論の選び方によらないことを導き、一般の等質空間についての原論文の所見が閉じていないことを記録する。
原論文の §3 に従い、$\mathcal V$ の対象はすべて非特異な代数的空間で、$\mathcal V$ は条件 (V.1)(V.2) を満たし、理論は公理 (I.1)〜(I.11) を満たす次数付きの理論とする(本書『1-1 データと公理と積の構造』、本書『2-1 直線束の類と射影束の一次独立』)。$E$ を $X\in\mathcal V$ 上の階数 $p\ge1$ のベクトル束、$c_i=c_i(E)$ をその Chern 類とする(本書『2-2 Chern 類と分裂の関係式』)。本書の規約により $P(E)$ は $E$ のファイバーの直線の空間、$\xi_E=c_1(\mathcal O(1))$ は基本類である。型 $\tau=(p_1,\dots,p_k)$ の旗束を $D_\tau(E)$、完全旗束を $D(E)$ と書き、$D_\tau(E)$ の上の標準旗の各段の商を $F_j$、$c_i^{(j)}=c_i(F_j)$ とおく(下の定義)。
本頁の主結果は次の七つである。
原論文 Gro58b の §3 は、Chern 類を定めた直後に、射影束の環が $A(P(E))\cong A(X)[\xi]/(\xi^p+c_1\xi^{p-1}+\dots+c_p)$ と Chern 類で決まることを指摘し(本書『2-2 Chern 類と分裂の関係式』の主結果「射影束の環の表示」)、これを一般化するのが本節の目的だと述べる(印字 4-18)。一般化の対象は型をもつ旗束で、射影束は型 $(1,p-1)$、Grassmann 束は型 $(q,p-q)$、完全旗束は型 $(1,\dots,1)$ にあたる。原論文は §2 の (I.11) の直後に、最後の講演で要るのは完全旗多様体の環だけだと述べている(本書『2-1 直線束の類と射影束の一次独立』)。
原論文の証明は二つの部分に分かれる。一つは原論文自身が「純粋に代数的」と呼ぶ Lemme 1 で、基本対称式の値を指定した多項式環の商の基底を求める。後代の言葉でいう普遍分解代数である。もう一つは、完全旗束が射影束の反復であることと射影束公式 (I.11) を組み合わせて、完全旗束の環がちょうど普遍分解代数になることを示す系 1 で、型をもつ旗束の場合はその上の完全旗束に戻して Lemme 1 を当てる。旗束の構成と、完全旗束の上で束が線形に分裂すること、旗束への引き戻しの単射性は第 3 巻で扱ったので(参考書『Chern 類の公理的理論』の頁『1-2 旗多様体と完全分裂』)、本頁の重心は普遍分解代数の基底と、環の表示そのものにある。
注意 2° と 3° で、原論文は結果の意味を述べる。旗多様体の環は理論によらず係数環だけで決まる。そして係数環が有理数を含めば、一般の連結線形群の主束についても同じ型の計算ができるが、整数係数では「torsion」の現象のために一般の群ではそれが成り立たない、と述べて後の講演に送る。前者は Théorème 1 から直ちに従う。後者は証明も文献も添えられておらず、本書も閉じられない。
まず代数の側の対象を置く。変数を群に分けることが、幾何の側で旗の各段の商を見ることにあたる。
$A$ を単位元をもつ可換環、$p\ge1$、$c_1,\dots,c_p\in A$ とする。$\sigma_i$ を $p$ 変数の $i$ 次の基本対称式とし、
$$C=C_A(c_1,\dots,c_p):=A[\xi_1,\dots,\xi_p]/\bigl(\sigma_i(\xi_1,\dots,\xi_p)-c_i\ (1\le i\le p)\bigr)$$
を $(c_i)$ の普遍分解代数という。$\xi_i$ の $C$ での像も $\xi_i$ と書く。正整数 $p_1,\dots,p_k$ で和が $p$ のものをとり、変数を順に群
$$\xi^{(j)}=(\xi_1^{(j)},\dots,\xi_{p_j}^{(j)}),\qquad\xi_i^{(j)}:=\xi_{p_1+\dots+p_{j-1}+i}$$
に分ける。$c_i^{(j)}:=\sigma_i(\xi^{(j)})\in C$($1\le j\le k$、$1\le i\le p_j$)とおき、これらが生成する $C$ の部分 $A$ 代数を $B$ とする。$c_0=c_0^{(j)}=1$ とする。単項式の集合
$$M_\tau:=\Bigl\{\prod_{j=1}^k\prod_{i=1}^{p_j}\bigl(\xi_i^{(j)}\bigr)^{\alpha_i^{(j)}}\ \Big|\ 0\le\alpha_i^{(j)}\le p_j-i\Bigr\}$$
を考える($\tau=(p_1,\dots,p_k)$)。$M_\tau$ は $p_1!\cdots p_k!$ 個の元からなり、$1$ を含む。
$k=1$ なら $B$ は $c_1,\dots,c_p$ の像が生成する部分代数、すなわち $A$ の像で、$M_{(p)}$ は $\xi_1^{\alpha_1}\cdots\xi_{p-1}^{\alpha_{p-1}}$($0\le\alpha_i\le p-i$)の $p!$ 個である。$C$ の中では $\prod_{i=1}^p(1+t\xi_i)=\sum_{i\ge0}c_it^i$ が成り立つので、$C$ は「$\sum c_it^i$ が一次式の積に分解する」ことを強制した普遍の $A$ 代数である。
次に幾何の側の対象を確認する。旗束の構成は第 0 章と本書『2-2 Chern 類と分裂の関係式』のものである。
型 $\tau=(p_1,\dots,p_k)$(正整数、和 $p$)の旗束 $g\colon D_\tau(E)\to X$ は、点 $x$ の上のファイバーが $E_x$ の旗 $V_1\subset\dots\subset V_k=E_x$($\dim V_j=p_1+\dots+p_j$)の多様体であるものとする(第 0 章の頁『0-2 代数多様体・横断性・射影束と旗多様体』の定義「旗多様体と旗束」)。$g^*E$ は標準旗 $0=E_0\subset E_1\subset\dots\subset E_k=g^*E$ をもち、各段の商 $F_j=E_j/E_{j-1}$ は階数 $p_j$ のベクトル束である。$D_\tau(E)\in\mathcal V$ のとき
$$c_i^{(j)}:=c_i(F_j)\in A^i(D_\tau(E))\qquad(1\le j\le k,\ 1\le i\le p_j)$$
とおく(原論文 (19))。$A(D_\tau(E))$ は $g^*$ により $A(X)$ 代数とみ、$g^*c_i(E)$ も $c_i$ と書く。
完全旗束 $q\colon D(E)\to X$ は本書『2-2 Chern 類と分裂の関係式』の定義「旗束と完全な旗」のもので、$D(E)=P(E^{(1)})$ の反復、$q^*E$ の完全な旗を $0=W_0\subset W_1\subset\dots\subset W_p=q^*E$ とする。ここで $W_1$ は $P(E)$ の $\mathcal O(-1)$ の引き戻しで、$W_k$($k\ge2$)は $E^{(1)}$ の完全な旗の第 $k-1$ 項の $q^*E$ での逆像である。直線束 $W_k/W_{k-1}$ の第一類
$$\xi_k:=c_1(W_k/W_{k-1})\in A^1(D(E))\qquad(1\le k\le p)$$
を分裂の因子の類という。型 $(1,\dots,1)$ の旗束は $D(E)$ に、型 $(1,p-1)$ の旗束は $P(E)$ に一致する。
定義から、$D(E)$ は $P(E)$ の上の $E^{(1)}$ の完全旗束 $D(E^{(1)})$ そのもので、$\xi_2,\dots,\xi_p$ は $D(E^{(1)})$ の分裂の因子の類である。本書『2-2 Chern 類と分裂の関係式』の命題「旗束への引き戻しの単射性」により $D(E)$ は $\mathcal V$ に属する。
$\xi_1$ は部分直線束 $W_1=\mathcal O(-1)$ の第一類なので、$P(E)$ の上で $\xi_1=c_1(\mathcal O(-1))=-c_1(\mathcal O(1))=-\xi_E$ である。原論文は Lemme 1 の証明で、普遍分解代数の中の関係 $\prod_i(\xi_1-\xi_i)=0$ から
$$\xi_1^p-c_1\xi_1^{p-1}+\dots+(-1)^pc_p=0$$
を導く(印字 4-21)。一方 Chern 類の定義の関係式は $\sum_{i=0}^pc_i\,\xi_E^{\,p-i}=0$ である(原論文 (18))。$\xi_1=-\xi_E$ を代入すると前者は $(-1)^p\sum_ic_i\xi_E^{\,p-i}=0$ になり、二つは一致する。原論文は符号に触れないが、矛盾はない。本書の規約(射影束は直線の空間、基本類は $\mathcal O(1)$ の第一類)では、分裂の因子は部分直線束の類なので、この符号が現れる。
次の事実は証明せずに引用する。1〜3 は第 0 章の頁『0-3 サイクル・Chow 環・K 群と対称式』にあり、本書はこれらを初等的な代数として[完結]の証明に使ってよいものに数える(本書『0-4 記号と約束』の状態札の項)。出典は Art42、BouAlgV 第 V 章である。4 は第 0 章の頁『0-2 代数多様体・横断性・射影束と旗多様体』の定理「旗束の基本」で、出典は Bor56、Che58 である。該当箇所の番号は本頁では確認していない。
生成系であることは、変数を一つずつ消去する帰納法で分かる。一次独立であることは、係数が普遍な場合に分数体の拡大次数を数え、そこから一般の係数へ基底ごと移して示す。
定義(普遍分解代数)の記号で、$M_\tau$ は $C$ の $B$ 加群としての基底である。とくに $k=1$ のとき、$A\to C$ は単射で、$\xi_1^{\alpha_1}\cdots\xi_{p-1}^{\alpha_{p-1}}$($0\le\alpha_i\le p-i$)は $C$ の $A$ 基底である。
段 1($k=1$ の生成).$p$ についての帰納法で、$C$ が $A$ 加群として $M_{(p)}$ で生成されることを示す。$p=1$ なら $C=A[\xi_1]/(\xi_1-c_1)$ は $1$ で生成される。$p\ge2$ とする。$C$ の中で $\prod_{i=1}^p(T-\xi_i)=T^p-c_1T^{p-1}+\dots+(-1)^pc_p$($T$ は不定元)が成り立つので、$T=\xi_1$ を代入して $\xi_1^p-c_1\xi_1^{p-1}+\dots+(-1)^pc_p=0$ を得る。よって $C$ の部分代数 $A[\xi_1]$ は $A$ 加群として $1,\xi_1,\dots,\xi_1^{p-1}$ で生成される。次に、$\xi'=(\xi_2,\dots,\xi_p)$ の基本対称式について $\sigma_i(\xi)=\xi_1\sigma_{i-1}(\xi')+\sigma_i(\xi')$ が成り立つので、$d_0=1$、$d_i=c_i-\xi_1d_{i-1}$ で多項式 $d_i\in A[\xi_1]$ を定めると、$i$ についての帰納法で $C$ の中で $\sigma_i(\xi')=d_i$($1\le i\le p-1$)である。したがって $A[\xi_1]$ 上の $p-1$ 変数の普遍分解代数 $A[\xi_1][\xi_2,\dots,\xi_p]/(\sigma_i(\xi')-d_i)$ から $C$ への全射がある($C$ は $\xi_1,\dots,\xi_p$ で生成されるから)。帰納法の仮定により前者は $A[\xi_1]$ 加群として $\xi_2^{\alpha_2}\cdots\xi_{p-1}^{\alpha_{p-1}}$($0\le\alpha_i\le(p-1)-(i-1)=p-i$)で生成されるので、$C$ は $A[\xi_1]$ の像の上でこれらで生成される。二つを合わせて、$C$ は $A$ 加群として $M_{(p)}$ で生成される。
段 2(一般の $k$ の生成).$C$ の中で、各群の基本対称式 $\sigma_i(\xi^{(j)})=c_i^{(j)}$ は $B$ に属する。したがって、$B$ 上の $p_j$ 変数の普遍分解代数 $C_j:=B[\xi^{(j)}]/(\sigma_i(\xi^{(j)})-c_i^{(j)})$ の $B$ 上のテンソル積 $C_1\otimes_B\cdots\otimes_BC_k$ から $C$ への全射がある。段 1 を $C_j$ に当てると、$C_j$ は $B$ 加群として $\prod_i(\xi_i^{(j)})^{\alpha_i^{(j)}}$($0\le\alpha_i^{(j)}\le p_j-i$)で生成されるので、$C$ は $B$ 加群として $M_\tau$ で生成される。
段 3(普遍の場合の一次独立).$A_0:=\mathbf Z[s_1,\dots,s_p]$ を多項式環とし、$c_i=s_i$ として $C_0$、$B_0$ を作る。$C_0=A_0[\xi]/(\sigma_i(\xi)-s_i)$ では $s_i$ が $\sigma_i(\xi)$ で消去できるので、$C_0=\mathbf Z[\xi_1,\dots,\xi_p]$ は多項式環で、$A_0$ はその中の $\mathbf Z[\sigma_1,\dots,\sigma_p]$ と同一視される(引用する事実 1 により $\sigma_i$ は代数的に独立なので $A_0\to C_0$ は単射である)。$G=S_{p_1}\times\dots\times S_{p_k}$ とすると、引用する事実 1 により $B_0=C_0^G$ である。$L=\operatorname{Frac}C_0$、$K=\operatorname{Frac}B_0$ とおく。$G$ は $L$ に忠実に作用し、引用する事実 2 により $K=\operatorname{Frac}(C_0^G)=L^G$、$[L:K]=|G|=p_1!\cdots p_k!$ である。段 2 により $C_0=\sum_{m\in M_\tau}B_0m$ なので、$K$ 上 $C_0$ が張る部分空間 $K C_0$ は $K$ 上有限次元の $L$ の部分環で、整域であるから体であり、$C_0$ を含むので $L$ に等しい。よって $M_\tau$ の $p_1!\cdots p_k!$ 個の元は $L$ を $K$ 上張り、引用する事実 3 により $K$ 上、したがって $B_0$ 上一次独立である。すなわち $M_\tau$ は $C_0$ の $B_0$ 基底である。
段 4(一般の係数への移行).一般の $A$ と $c_i$ について、環準同型 $\varphi\colon A_0\to A$、$s_i\mapsto c_i$ をとる。表示から $C=C_0\otimes_{A_0}A$ である。$A_0\subset B_0$ なので $C_0\otimes_{A_0}A=C_0\otimes_{B_0}B_1$、$B_1:=B_0\otimes_{A_0}A$ と書ける。段 3 と引用する事実 3 により、$C$ は $\{m\otimes1\}_{m\in M_\tau}$ を基底とする自由な $B_1$ 加群で、基底は $1$ を含むので $B_1\to C$ は単射である。$B_0$ は環として $A_0$ と $\sigma_i(\xi^{(j)})$ で生成されるので、$B_1\to C$ の像は $c_i^{(j)}$ が生成する部分 $A$ 代数、すなわち $B$ である。よって $B_1\cong B$ で、$M_\tau$ は $C$ の $B$ 基底である。
段 5($k=1$ の場合).$k=1$ なら $B_0=A_0$ で $B_1=A$ なので、段 4 から $A\to C$ は単射で、$M_{(p)}$ は $C$ の $A$ 基底である。
原論文の証明(印字 4-20〜4-21)も同じ筋で、生成を変数の消去で、一次独立を普遍の場合の Galois 理論で示し、一般の係数へは「直和因子である」ことで移す。段 4 はその移行を、基底の変換として書き直したものである。
部分代数 $B$ の表示には、$B$ から別の代数への写像が単射であることが要る。原論文はこの点を一文で済ませるが、上の定理の $k=1$ の場合を係数を替えて当てれば閉じる。
定義(普遍分解代数)の記号で、$A$ 代数 $B$ は $c_i^{(j)}$($1\le j\le k$、$1\le i\le p_j$)を生成元とし、多項式 $t$ の恒等式
$$\sum_{i\ge0}c_it^i=\prod_{j=1}^k\Bigl(\sum_{i\ge0}c_i^{(j)}t^i\Bigr)\qquad(c_0=c_0^{(j)}=1)$$
の $t^1,\dots,t^p$ の係数を比べて得られる $p$ 個の関係で表示される。$c_i$ と $c_i^{(j)}$ に重さ $i$ を与えると、$t^m$ の係数の関係は重さ $m$ の等重な式である。
段 1(関係が成り立つこと).$C$ の中で $\prod_{i=1}^p(1+t\xi_i)=\sum_{i\ge0}c_it^i$ で、左辺を群ごとにまとめると $\prod_j\prod_{i=1}^{p_j}(1+t\xi_i^{(j)})=\prod_j\sum_{i\ge0}c_i^{(j)}t^i$ である。よって関係は $B$ で成り立つ。
段 2(普遍の対象).不定元 $y_i^{(j)}$ を生成元とし、$\sum_{i\ge0}c_it^i=\prod_j\bigl(\sum_{i\ge0}y_i^{(j)}t^i\bigr)$($y_0^{(j)}=1$)の $t^1,\dots,t^p$ の係数の関係だけを課した $A$ 代数を $B'$ とする。段 1 により $A$ 代数の全射 $\beta\colon B'\to B$、$y_i^{(j)}\mapsto c_i^{(j)}$ がある。示すべきは $\beta$ が単射であることである。
段 3($B'$ 上の分解代数).$C':=B'[\eta_1,\dots,\eta_p]/\bigl(\sigma_i(\eta^{(j)})-y_i^{(j)}\bigr)$ とおく。ここで $\eta$ を $\xi$ と同じく群 $\eta^{(j)}$ に分け、関係は各 $j$ と $1\le i\le p_j$ について課す。$C'$ は $B'$ 上の $p_j$ 変数の普遍分解代数($j=1,\dots,k$)の $B'$ 上のテンソル積である。上の定理(普遍分解代数の基底)の $k=1$ の場合を $B'$ 上の各因子に当てると、各因子は $1$ を含む基底をもつ自由な $B'$ 加群で、テンソル積もそうなので、引用する事実 3 により $B'\to C'$ は単射である。
段 4(逆向きの写像).$C'$ の中で $\prod_{m=1}^p(1+t\eta_m)=\prod_j\sum_iy_i^{(j)}t^i=\sum_ic_it^i$ なので $\sigma_i(\eta)=c_i$ である。よって $A$ 代数の射 $\gamma\colon C\to C'$、$\xi_m\mapsto\eta_m$ があり、$\gamma(c_i^{(j)})=\sigma_i(\eta^{(j)})=y_i^{(j)}$ である。合成 $B'\xrightarrow{\beta}B\subset C\xrightarrow{\gamma}C'$ は生成元 $y_i^{(j)}$ を $y_i^{(j)}$ に送るので、段 3 の単射 $B'\to C'$ に等しい。したがって $\beta$ は単射で、$\beta$ は同型である。
段 5(等重性).$\prod_j\sum_ic_i^{(j)}t^i$ の $t^m$ の係数は $\sum_{i_1+\dots+i_k=m}\prod_jc_{i_j}^{(j)}$ で、各項の重さは $m$ である。
原論文は段 4 の後半を、$C'$ の中の部分代数が「$B'$ 自身と同一視される」と書いて済ませる(印字 4-22)。この同一視が $B'\to C'$ の単射性にあたり、段 3 がそれを与える。$k=1$ なら $B=A$(上の定理の段 5)で、関係は $c_i=c_i$ となり自明である。
これで代数の側は閉じた。普遍分解代数は $B$ 上自由で、$B$ は「全 Chern 多項式の分解」だけを関係とする代数である。次にこれを旗束の環として実現する。
完全旗束は射影束の反復なので、射影束公式を段ごとに当てれば環の基底が分かり、それが普遍分解代数の基底と一致する。
$X\in\mathcal V$、$E$ を $X$ 上の階数 $p\ge1$ のベクトル束とし、$q\colon D(E)\to X$ を完全旗束、$\xi_1,\dots,\xi_p$ を分裂の因子の類とする。$A(X)$ 代数の準同型
$$\Phi\colon A(X)[\xi_1,\dots,\xi_p]/\bigl(\sigma_i(\xi)-c_i(E)\ (1\le i\le p)\bigr)\longrightarrow A(D(E))$$
($\xi_k\mapsto\xi_k$)が定まり、同型である。とくに $\xi_1^{\alpha_1}\cdots\xi_{p-1}^{\alpha_{p-1}}$($0\le\alpha_i\le p-i$)は $A(D(E))$ の $A(X)$ 基底である。
段 1(関係).$D(E)\in\mathcal V$ で、$q^*E$ は直線束を商にもつ完全な旗 $W$ をもつ。本書『2-2 Chern 類と分裂の関係式』の定理「旗で分裂する束の関係式」を $D(E)$ 上の $q^*E$ に当てると $c(q^*E)=\prod_{k=1}^p(1+\xi_k)$ で、同頁の定理「関手性・正規化・加法性」により $c(q^*E)=q^*c(E)$ である。次数 $i$ の成分を比べて $\sigma_i(\xi_1,\dots,\xi_p)=q^*c_i(E)$ を得る。よって $\Phi$ が定まる。
段 2(基底、$p$ についての帰納法).$A(D(E))$ で $\xi_1^{\alpha_1}\cdots\xi_{p-1}^{\alpha_{p-1}}$($0\le\alpha_i\le p-i$)が $A(X)$ 基底になることを示す。$p=1$ なら $D(E)=X$ で、主張は $1$ が基底ということである。$p\ge2$ とする。定義(型をもつ旗束と分裂の因子の類)の直後に見たとおり、$D(E)$ は $X_1:=P(E)$ の上の $E^{(1)}$(階数 $p-1$)の完全旗束で、$\xi_2,\dots,\xi_p$ はその分裂の因子の類である。帰納法の仮定により、$\xi_2^{\alpha_2}\cdots\xi_{p-1}^{\alpha_{p-1}}$($0\le\alpha_i\le(p-1)-(i-1)=p-i$)は $A(D(E))$ の $A(X_1)$ 基底である。一方、公理 (I.11) により $\xi_E^{\,\alpha}$($0\le\alpha\le p-1$)は $A(X_1)$ の $A(X)$ 基底で、上の注意(分裂の因子の符号)により $\xi_1=-\xi_E$ なので、$\xi_1^{\alpha_1}=(-1)^{\alpha_1}\xi_E^{\,\alpha_1}$($0\le\alpha_1\le p-1$)も $A(X)$ 基底である。自由加群の上の自由加群の基底は基底の積なので、$\xi_1^{\alpha_1}\cdots\xi_{p-1}^{\alpha_{p-1}}$($0\le\alpha_i\le p-i$)は $A(D(E))$ の $A(X)$ 基底である。
段 3(同型).上の定理(普遍分解代数の基底)の $k=1$ の場合により、$\Phi$ の定義域は同じ単項式を $A(X)$ 基底にもつ。$\Phi$ は基底を基底に送る $A(X)$ 加群の準同型なので同型である。
原論文の系 1 の証明(印字 4-22〜4-23)も同じ帰納法である。ただし原論文は、帰納法の仮定と射影束公式から来る基底の指数の範囲を三度とも $1\le\alpha_i$ と印字しており、そのままでは $1$ が基底から落ちる。下の注意(印字の読み)に書く。
次に、型をもつ旗束の上の Chern 類の関係を確かめる。これは加法性を旗の各段に当てるだけである。
$D_\tau(E)\in\mathcal V$ とすると、$A(D_\tau(E))$ の中で
$$\sum_{i\ge0}c_i=\prod_{j=1}^k\Bigl(\sum_{i\ge0}c_i^{(j)}\Bigr)$$
が成り立つ(原論文 (20))。ここで $c_i=g^*c_i(E)$、$c_0=c_0^{(j)}=1$ である。$t$ の多項式としては $\sum_ic_it^i=\prod_j\sum_ic_i^{(j)}t^i$ で、$t^m$ の係数を比べた $p$ 個の関係が成り立つ。
本書『2-2 Chern 類と分裂の関係式』の定理「関手性・正規化・加法性」を完全列 $0\to E_{j-1}\to E_j\to F_j\to0$($2\le j\le k$)に当てると $c(E_j)=c(E_{j-1})\,c(F_j)$ で、$E_1=F_1$ から $j$ についての帰納法で $c(E_k)=\prod_{j=1}^kc(F_j)$ を得る。$E_k=g^*E$ なので、関手性により左辺は $g^*c(E)$ である。$t$ の多項式の形は、両辺の次数 $m$ の成分が $t^m$ の係数にあたることから従う。
原論文は (20) の右辺の和を $1\le i$ から印字し、左辺の和には範囲を書かない。右辺から $c_0^{(j)}=1$ を落とすと、左辺を $1$ から読めば $k\ge2$ では右辺の次数 1 の成分が消えて $c_1=0$ を強い、左辺を (18 bis) のとおり $0$ から読めば次数 0 の成分で $1=0$ になる。下の反例「反例:関係式の和を 1 から始めると成り立たない」で、そのままでは成り立たないことを確かめる。
いよいよ Théorème 1 に進む。型をもつ旗束の上に完全旗束を積み上げ、上で求めた二つの基底を比べる。
$X\in\mathcal V$、$E$ を $X$ 上の階数 $p$ のベクトル束、$\tau=(p_1,\dots,p_k)$ とし、$D_\tau(E)\in\mathcal V$ とする。不定元 $y_i^{(j)}$($1\le j\le k$、$1\le i\le p_j$、次数 $i$)を生成元とし、$\sum_{i\ge0}c_i(E)t^i=\prod_j\bigl(\sum_{i\ge0}y_i^{(j)}t^i\bigr)$($y_0^{(j)}=1$)の $t^1,\dots,t^p$ の係数の関係を課した次数付き $A(X)$ 代数を $R_\tau$ とする。このとき $y_i^{(j)}\mapsto c_i^{(j)}$ は次数付き $A(X)$ 代数の同型 $R_\tau\cong A(D_\tau(E))$ を与える。すなわち $c_i^{(j)}$ は $A(X)$ 代数 $A(D_\tau(E))$ を生成し、上の定理(旗束の Chern 類の関係式)の $p$ 個の斉次な関係が関係のイデアルを生成する。
段 1(完全旗束を積み上げる).$Y_0:=D_\tau(E)$ とし、$j=1,\dots,k$ について $Y_j$ を $Y_{j-1}$ の上の $F_j$(の引き戻し)の完全旗束とする。各 $Y_j$ は $Y_{j-1}$ の上の射影束の反復なので、(V.2) と (V.1) により $\mathcal V$ に属する(本書『2-2 Chern 類と分裂の関係式』の命題「旗束への引き戻しの単射性」の 1)。$Y_j$ の上の $F_j$ の分裂の因子の類を $\xi_1^{(j)},\dots,\xi_{p_j}^{(j)}$ とし、$Y_k$ に引き戻したものも同じ記号で書く。上の定理(完全旗束の環)を $Y_{j-1}$ 上の $F_j$ に当てると、$A(Y_j)$ は $A(Y_{j-1})$ 加群として $\prod_i(\xi_i^{(j)})^{\alpha_i}$($0\le\alpha_i\le p_j-i$)を基底にもち、$\sigma_i(\xi^{(j)})=c_i^{(j)}$($Y_j$ に引き戻したもの)が成り立つ。基底の積をとって、$A(Y_k)$ は $A(D_\tau(E))$ 加群として $M_\tau$ を基底にもつ($\xi_i^{(j)}$ を定義(普遍分解代数)の群の変数と読む)。
段 2($D(E)$ との同一視).引用する事実 4 により $Y_k\cong D(E)$($X$ 上)で、この同型のもとで $D(E)$ の完全な旗は、各 $F_j$ の完全な旗で標準旗を細分したものである。したがって $D(E)$ の分裂の因子の類は $\xi_\ell=\xi_i^{(j)}$($\ell=p_1+\dots+p_{j-1}+i$)と並ぶ。以下 $\mathsf C:=A(D(E))=A(Y_k)$ とおく。上の定理(完全旗束の環)により、$\mathsf C$ は $A(X)$ 上の $(c_i(E))$ の普遍分解代数 $C$ と $\xi_\ell\mapsto\xi_\ell$ で同型である。
段 3(二つの部分代数).$r\colon A(D_\tau(E))\to\mathsf C$ を引き戻しとする。段 1 の基底は $1$ を含むので、引用する事実 3 により $r$ は単射で、その像を $\mathsf B$ とおく。一方、$\mathsf C\cong C$ の中で群ごとの基本対称式 $\sigma_i(\xi^{(j)})$ が生成する部分 $A(X)$ 代数を $\mathsf B'$ とすると、段 1 により $\sigma_i(\xi^{(j)})=r(c_i^{(j)})$ なので $\mathsf B'\subset\mathsf B$ である。上の定理(普遍分解代数の基底)により、$M_\tau$ は $\mathsf C$ の $\mathsf B'$ 基底でもある。
段 4($\mathsf B=\mathsf B'$).$b\in\mathsf B$ をとり、$\mathsf B'$ 上で $b=\sum_{m\in M_\tau}b'_m\,m$($b'_m\in\mathsf B'$)と展開する。$\mathsf B'\subset\mathsf B$ なので、これは $\mathsf B$ 上の展開でもある。$\mathsf B$ 上では $b=b\cdot1$ という展開もあり、$M_\tau$ は $\mathsf B$ 基底なので展開は一意で、$b'_1=b$、$b'_m=0$($m\ne1$)である。よって $b\in\mathsf B'$ で、$\mathsf B=\mathsf B'$ である。すなわち $A(D_\tau(E))\cong\mathsf B$ は $A(X)$ 代数として $c_i^{(j)}$ で生成される。
段 5(関係).上の定理(部分代数の表示)により、$\mathsf B'$ は生成元 $\sigma_i(\xi^{(j)})$ と、$\sum_ic_i(E)t^i=\prod_j\sum_i\sigma_i(\xi^{(j)})t^i$ の係数の関係で表示される。$r$ を通して、$A(D_\tau(E))$ は生成元 $c_i^{(j)}$ とその関係で表示され、これが $R_\tau\cong A(D_\tau(E))$ である。$c_i^{(j)}$ は次数 $i$ で関係は斉次なので、同型は次数を保つ。
段 4 は、原論文が「$B$ 加群としても $B'$ 加群としても基底である系があるので $B=B'$」と一文で述べる所(印字 4-24)を書き下したものである。$\tau=(1,\dots,1)$ なら上の定理(完全旗束の環)そのもので、$\tau=(1,p-1)$ なら射影束の環の表示に戻る(下の例「射影束の環の再現」)。
原論文の §3 のこの部分には、次の印字の不備がある。本頁の主張は訂正した形で述べた。
一点の上では Chern 類の正の次数の成分が消えるので、Théorème 1 の関係は係数環だけで書ける。これが原論文の注意 2° である。
$V$ を $p$ 次元のベクトル空間、$\tau=(p_1,\dots,p_k)$ とし、$D_\tau(V)\in\mathcal V$ とする。$c_i^{(j)}$ を旗多様体 $D_\tau(V)$ の上の標準旗の各段の商の Chern 類とすると、$y_i^{(j)}\mapsto c_i^{(j)}$ は次数付き $\Lambda$ 代数の同型
$$\Lambda\bigl[y_i^{(j)}\ (1\le j\le k,\ 1\le i\le p_j)\bigr]\Big/\Bigl(\prod_{j=1}^k\Bigl(\sum_{i\ge0}y_i^{(j)}t^i\Bigr)=1\ \text{の}\ t^1,\dots,t^p\ \text{の係数}\Bigr)\ \cong\ A(D_\tau(V))$$
を与える。右辺は、(V.1)(V.2) と (I.1)〜(I.11) を満たし係数環が $\Lambda$ である次数付きの理論のどれをとっても、この同じ代数に同型である。$\tau=(q,p-q)$ なら Grassmann 多様体の環である。
$X=\mathrm{pt}$、$E=V$(一点の上の階数 $p$ の束)とする。$A(\mathrm{pt})\cong\Lambda$ で、正の次数の成分は $0$ である(本書『2-1 直線束の類と射影束の一次独立』の定義「次数付きの理論」の直後)。$c_i(V)\in A^i(\mathrm{pt})$ なので $c_i(V)=0$($i\ge1$)で、上の定理(旗束の環)の $R_\tau$ の関係は $\prod_j\sum_iy_i^{(j)}t^i=1$ の係数の関係になる。左辺は $\Lambda$ と $\tau$ だけで決まる。
完全旗多様体 $D(V)$ と射影空間 $P(V)$ は射影束の反復なので、(V.1)(V.2) から自動的に $\mathcal V$ に属する。Grassmann 多様体のように射影束の反復でない旗多様体では、$D_\tau(V)\in\mathcal V$ は仮定である(Chow 環の場合は準射影的なので成り立つ。本書『5-1 Chow 環での公理の成立と最小理論の予想』)。原論文はこの注意の前の注意 1° で、Théorème 1 を反可換な文脈で述べることにも意味がある、と所見を添える。本書はこれを主張として数えない。
注意 3° は、この計算を一般の等質空間に広げる話である。本書は次の注意でその内容と、閉じない理由を書く。
原論文の注意 3°(印字 4-24)の主張を本書の言葉で述べる。$X$ 上の主束 $P$ で構造群が連結な線形群 $G$ のもの、$G$ の部分群 $H$ で Borel 群を含むもの(放物型部分群。$G/H$ は完備である)をとる。(a) 係数環 $\Lambda$ が有理数体を含むなら、$A(X)$ と $P$ の「特性類」を知って $A(P/H)$ を計算できる、Théorème 1 より一般の定理がある。(b) $\Lambda$ が有理数体を含まないとき、たとえば $\Lambda=\mathbf Z$ のとき、「torsion」の現象のため、そのような主張はすべての $G$ については成り立ちえない。原論文はこれを後の講演で調べるとして、証明も文献も添えない。
本書は (a)(b) のどちらも閉じられない。第一に、一般の $G$ の主束の「特性類」が原論文に定義されていない。$G=\mathrm{GL}_p$ なら特性類は付随するベクトル束の Chern 類で、$P/H$ は型をもつ旗束 $D_\tau(E)$ になり、Théorème 1(上の定理(旗束の環))が $\Lambda$ によらず、整数係数でも計算を与える。しかし一般の $G$ では、特性類の環を何とし、$A(P/H)$ をどう表すか(Weyl 群の不変式を使う形が想像されるが、原論文は書かない)が主張として定まらない。第二に、(b) は否定的な存在の主張で、どの群のどの主張が破れるのかを原論文は特定しない。本書も、公理を満たす理論の中で破れる例を立てられない。したがって主張全体を[未完結]とする。原論文にも本書にも、外部入力を使った証明も無い。
本書が閉じる周辺の場合は二つある。一つは $G=\mathrm{GL}_p$、$H$ が放物型部分群の場合で、上の定理(旗束の環)である。もう一つは $H$ が Borel 群を含まない場合の例で、$\mathrm{GL}_p$ の主束そのものと、極大トーラスによる商の環を本書『4-3 アフィン束と主束』で計算する。そこでは $P/T$ を $P/B=D(E)$ の上の束とみて、単冪根基の列に沿って階数 1 のアフィン束として一段ずつ剥がす。原論文の §6 の注意の「$P/T$ は $P/B$ の上のアフィン束」という一言も正しく(Borel 群の $B/T$ への作用はアフィン線形である)、原論文が確かめていないのは $P\to P/B$ の Zariski 局所自明性だけである。本書は、単冪根基の列に沿う中間の束の局所自明性を、主束の自明化、$\mathrm{GL}_p\to\mathrm{GL}_p/B$ の big cell による局所切断、アフィン空間の上の加法群のトーサーの自明性の三段で確かめ、$P\to P/B$ の局所自明性はそのうち前の二段から得る(本書『4-3 アフィン束と主束』の注意「原論文の「P/T は P/B 上のアフィン束」の一言」)。どちらも原論文の注意 3° の一般の定理を証明するものではない。
主結果 7 は、原論文の所見を主張として立てたうえで閉じられないことを記録したものである。その後の研究がこの所見の中身をどう埋めたかは、「その後の発展」で紹介するにとどめる。
最初の例は、Théorème 1 が射影束の場合に本書『2-2 Chern 類と分裂の関係式』の表示を再現することを確かめる。符号の規約の検算にもなる。
$\tau=(1,p-1)$ とすると $D_\tau(E)=P(E)$、$F_1=\mathcal O(-1)$、$F_2=f^*E/\mathcal O(-1)$ である。$y:=c_1(F_1)=-\xi_E$、$z_i:=c_i(F_2)$($1\le i\le p-1$)とおく。関係は $(1+yt)\bigl(1+z_1t+\dots+z_{p-1}t^{p-1}\bigr)=\sum_{i=0}^pc_it^i$ の係数で、$t^i$($1\le i\le p-1$)の係数から $z_i=c_i-yz_{i-1}$、すなわち $z_i=\sum_{m=0}^{i}(-y)^mc_{i-m}$ と $z$ が消去される。残る $t^p$ の係数の関係は $yz_{p-1}=c_p$ で、$y=-\xi_E$ を代入すると
$$-\sum_{m=0}^{p-1}\xi_E^{\,m+1}c_{p-1-m}=c_p,\qquad\text{すなわち}\qquad\sum_{i=0}^pc_i\,\xi_E^{\,p-i}=0$$
である。よって上の定理(旗束の環)は $A(P(E))\cong A(X)[\xi]/(\xi^p+c_1\xi^{p-1}+\dots+c_p)$ を与え、本書『2-2 Chern 類と分裂の関係式』の定理「射影束の環の表示」と一致する。ここで $y=-\xi_E$ の符号が、上の注意(分裂の因子の符号)のとおりに効いている。
次の例は、一点の上の旗多様体を具体的に書く。上の定理(旗多様体の環は理論によらない)の関係を手で解くと、生成元と関係の数が目に見える。
(a) $V=k^3$ の完全旗多様体 $D(V)$ では、上の定理(完全旗束の環)と $c_i(V)=0$ により $A(D(V))\cong\Lambda[\xi_1,\xi_2,\xi_3]/(\sigma_1,\sigma_2,\sigma_3)$ で、$1,\xi_1,\xi_1^2,\xi_2,\xi_1\xi_2,\xi_1^2\xi_2$ が $\Lambda$ 基底である($0\le\alpha_1\le2$、$0\le\alpha_2\le1$)。次数ごとの階数は $1,2,2,1$ で、次数 3 の成分は $\xi_1^2\xi_2$ で張られる。$3$ 次元の $D(V)$ の点の類もこの成分に入る。
(b) $V=k^4$、$\tau=(2,2)$ の Grassmann 多様体 $G=D_\tau(V)$ が $\mathcal V$ に属するとし、$a_i=c_i(F_1)$、$b_i=c_i(F_2)$($i=1,2$)とおく。関係 $(1+a_1t+a_2t^2)(1+b_1t+b_2t^2)=1$ の $t^1,t^2$ の係数から $b_1=-a_1$、$b_2=a_1^2-a_2$ と $b$ が消去され、$t^3,t^4$ の係数から
$$A(G)\cong\Lambda[a_1,a_2]\big/\bigl(a_1^3-2a_1a_2,\ a_1^2a_2-a_2^2\bigr)$$
を得る。次数 3 では $a_1^3=2a_1a_2$、次数 4 では $a_2^2=a_1^2a_2$、$a_1^4=2a_1^2a_2$ なので、各次数は $1;\ a_1;\ a_1^2,a_2;\ a_1a_2;\ a_1^2a_2$ で張られる。次数 5 では $a_1a_2^2=a_1^3a_2=2a_1a_2^2$ から $a_1a_2^2=0$、したがって $a_1^3a_2=0$、$a_1^5=0$ で、次数 5 以上は $0$ である。$\Lambda$ が体なら、上の定理(普遍分解代数の基底)により $A(D(V))$ は $\Lambda$ 上 $4!=24$ 次元、$A(G)$ 上 $2!\,2!=4$ 次元の自由加群なので、$\dim_\Lambda A(G)=6$ で、上の 6 元は基底である。
最後に、原論文の印字の和の下限がそのままでは成り立たないことを、具体的な束で確かめる。
外す条件は、(20) の和に次数 0 の項 $c_0=c_0^{(j)}=1$ を含めることである。理論は (V.1)(V.2) と (I.1)〜(I.11) を満たし、係数環 $\Lambda$ は $0$ でないとする。$V=k^2$、$X=P(V)\cong\mathbf P^1$ とし、$E=L_V\oplus\mathcal O_X$(階数 2)、$\tau=(1,1)$ とする。$D_\tau(E)=P(E)$ は (V.2) により $\mathcal V$ に属する。
印字のまま $\sum_{i\ge1}c_i=\prod_{j=1}^2\bigl(\sum_{i\ge1}c_i^{(j)}\bigr)$ とすると(印字は左辺に範囲を書かないので、左辺も $1$ から読む。$0$ から読めば次数 0 の成分で $1=0$ となり、$\Lambda\neq0$ よりなおさら成り立たない)、右辺は次数 2 以上の成分しかもたないので、次数 1 の成分を比べて $A(P(E))$ の中で $c_1(E)=0$ となるはずである。しかし本書『2-2 Chern 類と分裂の関係式』の定理「関手性・正規化・加法性」により $c(E)=c(L_V)\,c(\mathcal O_X)=(1+\xi_V)(1+0)$ なので(自明な直線束の第一類は $0$ である)、$c_1(E)=\xi_V$ である。(I.11) を一点の上で使うと $1,\xi_V$ は $A(\mathbf P^1)$ の $\Lambda$ 基底なので $\xi_V\ne0$ で、本書『2-2 Chern 類と分裂の関係式』の命題「旗束への引き戻しの単射性」により $P(E)$ に引き戻しても $0$ でない。よって印字の形は成り立たない。$c_0=1$ を含めた形では、次数 1 の成分は $c_1(E)=c_1^{(1)}+c_1^{(2)}$ で、加法性そのものである。
ここで示したのは、(I.11) を満たし係数環が $0$ でないどの理論でも、印字の形の (20) は成り立たないことである。そのような理論が実在することは、本書『5-1 Chow 環での公理の成立と最小理論の予想』の条件付きの定理による。
射影束の例は符号の規約を、Grassmann 多様体の例は Théorème 1 の関係が本当に消去を伴うことを、反例は和の下限が飾りでないことを示している。
以下は原論文の主張ではなく、後代の結果の紹介である(時点を明記する。本書が文献を開いて確かめていないものはそう書く)。
本頁が対応する原論文は Sur quelques propriétés fondamentales en théorie des intersections Gro58b の §3 後半(印字 4-18〜4-24)である。
| 本頁 | 原論文 | 印字頁 |
|---|---|---|
| 定義(普遍分解代数) | Lemme 1 の $C$、変数の群 $\xi^{(j)}$、$c_i^{(j)}$、$B$ | 4-19〜4-20 |
| 定義(型をもつ旗束と分裂の因子の類) | 旗 $D_\tau(V)$、旗束 $D_\tau(E)$、(19)、系 1 の「scindage canonique」の因子 | 4-18〜4-19、4-22 |
| 注意(分裂の因子の符号) | Lemme 1 の証明の $\xi_1^p-c_1\xi_1^{p-1}+\dots=0$ と (18) | 4-17、4-21 |
| 定理(普遍分解代数の基底) | Lemme 1 (i) とその系、証明の前半 | 4-20〜4-21 |
| 定理(部分代数の表示) | Lemme 1 (ii) と証明($B'$、$C'$ と「$B'$ 自身と同一視」) | 4-20、4-22 |
| 定理(完全旗束の環) | Théorème 1 の系 1 と証明 | 4-22〜4-23 |
| 定理(旗束の Chern 類の関係式) | (19)(20) と $c(f^{-1}E)=\prod_jc(F_j)$ | 4-19 |
| 定理(旗束の環) | Théorème 1 と一般の場合の証明 | 4-19、4-23〜4-24 |
| 注意(印字の読み(和の下限と指数の下限)) | (20)、Lemme 1 (ii)、(*)、$C'$ の関係、系 1 の証明、$A(P(X))$、$(p_1,\dots,p_j)$、$B'=A(D_\tau(E))$ | 4-19〜4-23 |
| 定理(旗多様体の環は理論によらない) | 注意 2°(と注意 1° の所見) | 4-24 |
| 注意(等質空間の環の一般の計算と整数係数での障害) | 注意 3° | 4-24 |
| 例(射影束の環の再現)、例(完全旗多様体と Grassmann 多様体)、反例(関係式の和を 1 から始めると成り立たない) | 原論文に無い。$A(P(E))$ の表示(4-18)と Théorème 1 を確かめる | 4-18〜4-19 |
原論文は旗束の構成で、旗多様体が有理的で、同じセミナーの別の講演 Che58I の意味で「spéciale」であることは容易に示せるが要らない、と断る(印字 4-18)。本書も旗束の構成にこれらを使わない。
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