2-2 Chern 類と分裂の関係式

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

射影束公式を仮定して、基本類の冪の関係式の係数としてベクトル束の Chern 類を定め、関手性・正規化・加法性を示す。加法性の要になる、旗で分裂する束の関係式は、閉じた部分射影束の類を横断的な切断の公理と射影公式で積に書く議論で、空集合を使わずに証明する。三つの性質による特徴づけには、階数を超える次数で消えるという条件が要ることを反例で示し、その条件を添えた形で証明する。

この頁で示すこと

原論文の §3 に従い、$\mathcal V$ の対象はすべて非特異な代数的空間で、$\mathcal V$ は条件 (V.1)(V.2) を満たし、理論は公理 (I.1)〜(I.11) を満たす次数付きの理論とする(本書『1-1 データと公理と積の構造』、本書『1-2 横断的な底変換と射影公式』、本書『2-1 直線束の類と射影束の一次独立』)。ベクトル束はすべて階数が一定とする。$E$ を $X\in\mathcal V$ 上の階数 $p\ge1$ のベクトル束、$f\colon P(E)\to X$ を射影、$\xi_E=c_1(L_E)$ を基本類とする(本書の規約:$P(E)$ は直線の空間、$L_E=\mathcal O(1)$)。$f^*$ による $A(X)$ の像の元は、混乱のおそれが無いとき $f^*$ を略して書く。
本頁の主結果は次の五つである。

  1. Chern 類の一意存在(原論文 §3 (18)、印字 4-17):$\sum_{i=0}^{p}c_i(E)\,\xi_E^{\,p-i}=0$、$c_0(E)=1$ を満たす $c_i(E)\in A^i(X)$($1\le i\le p$)がただ一組存在し、同型な束では一致する。[完結]
  2. 旗で分裂する束の関係式(原論文 §3 の性質 iii の証明の要。原論文は証明を文献 [4] に委ねる、印字 4-17〜4-18):部分束の列 $0=E_0\subset E_1\subset\dots\subset E_p=E$ で各商 $E_i/E_{i-1}$ が直線束のものがあれば、$a_i=c_1(E_i/E_{i-1})$ として $\prod_{i=1}^p(\xi_E+a_i)=0$ であり、したがって $c(E)=\prod_{i=1}^p(1+a_i)$ である。[条件付き:射影束の基本(部分射影束が閉部分であること、階数 1 の射影束の同一視、部分射影束の標準切断が零切断に横断的であること)を引用]
  3. 関手性・正規化・加法性(原論文 §3 の性質 i〜iii、印字 4-17〜4-18):Chern 類は引き戻しと両立し、直線束 $L$ では $c(L)=1+c_1(L)$(右辺の $c_1$ はデータ e の第一類)であり、完全列 $0\to E'\to E\to E''\to0$ では $c(E)=c(E')\,c(E'')$ である。[条件付き:2 と、旗束が圏に属し旗束への引き戻しが単射であること((V.1)(V.2) と (I.11))による]
  4. Chern 類の特徴づけ(訂正形)(原論文 §3「qui les caractérisent」、印字 4-17〜4-18):各束 $E$ に $c'(E)=\sum_ic'_i(E)$ を対応させる族で、$c'_0=1$、$c'_i(E)\in A^i(X)$、階数を超える $i$ で $c'_i(E)=0$ を満たし、性質 i〜iii をもつものは $c$ に限る。[条件付き:3 による]原論文の形は反例「反例:階数を超える次数で消える条件を外すと特徴づけは破れる」で破れる。
  5. 射影束の環の表示(原論文 §3、印字 4-18):$A(P(E))\cong A(X)[t]/(t^p+c_1(E)t^{p-1}+\dots+c_p(E))$、$\xi_E\leftrightarrow t$ である。[完結]
    主結果 1 と 5 は (I.11) の基底の一意性と次数だけで閉じる。主結果 2 は公理 (I.9)(I.10) で閉じ、射影束の基本(部分射影束、階数 1 の射影束、標準切断の横断性)だけを第 0 章から引く。主結果 3 と 4 は旗束への引き戻しと単射性を使う。3 と 4 の議論は第 3 巻の定義・一意性の議論と同じ型なので、その議論が使う入力を本頁で一つずつ確かめたうえで要点を書く。双対・外冪・テンソル積の公式は第 3 巻の公式をそのまま引き、主結果に数えない。

背景と動機

原論文 Gro58b の §3 は、ここからは $\mathcal V$ の対象がすべて非特異であると仮定する、と断って始まる(印字 4-17)。今のところ §1 の公理を満たす交叉理論が作れるのはこの場合だけだ、というのがその理由である。続けて原論文は、以下の議論は文献 [4](Grothendieck の Chern 類の論文 Gro58)が明示する、より広い条件の下でも通り、本質的なデータは引き戻し(データ a)と直線束の類(データ e)、本質的な公理は (I.11) だと述べる。この論文は第 3 巻『Chern 類の公理的理論』が読んだものである。
定義は第 3 巻と同じである。(I.11) により $\xi_E^{\,p}$ は $1,\xi_E,\dots,\xi_E^{\,p-1}$ の $A(X)$ 係数の一次結合にただ一通りに書け、その係数が Chern 類である(参考書『Chern 類の公理的理論』の頁『3-1 Chern 類の定義と一意性』)。原論文は Chern 類が通常の性質、とくに関手性・正規化・加法性をもち、それらが Chern 類を特徴づけると述べ、証明を [4] の定理 1 に委ねる(印字 4-17〜4-18)。定義から直ちに出ないのは加法性だけだ、とも括弧書きで添える。
委ねられた加法性の証明は、第 3 巻では零点と押し出しの公理 A 2〜A 4 を使っていた。完全に分裂した束の積公式を、標準切断から作る零点の列と、空集合の類が $0$ であることから導くのである(参考書『Chern 類の公理的理論』の頁『3-2 存在の証明』の定理「完全分裂した束の積公式」)。本巻の公理系では、A 2 にあたるものは (I.10)、A 3 にあたるものは直像の関手性(§1 のデータ b)、A 4 にあたるものは射影公式 (I.9) としてすでに手元にあるが、空集合は圏に入っていない。本頁は同じ部分射影束の列を使い、最後の段を空集合でなく射影公式で閉じる。零点と押し出しについては (I.9)(I.10) だけを、係数の比較と底への帰還には (I.11) を使って、加法性を示す。
特徴づけには一つ食い違いがある。原論文の性質 ii は階数 1 の束の $c_1$ だけを定め、高い次数の成分について何も言わない。このままでは、階数 1 の束の $c_2$ が $0$ でない族も i〜iii を満たしてしまう。本頁はその反例を与え、階数を超える次数で消えるという条件を添えた形を主結果にする。

定義と準備

Chern 類の定義そのものは主結果 1 の直後に置く。ここでは、加法性と特徴づけに要る旗束と、Chern 類の候補となる族を先に準備する。

旗束と完全な旗

$X$ 上の階数 $p\ge1$ のベクトル束 $E$ について、$X^{(1)}:=P(E)$、$g_1\colon X^{(1)}\to X$ とし、$g_1^*E$ の標準的な部分直線束 $\mathcal O(-1)$ による商を $E^{(1)}$(階数 $p-1$)とおく。以下 $X^{(i)}:=P(E^{(i-1)})$、$E^{(i)}:=E^{(i-1)}/\mathcal O(-1)$($X^{(i)}$ に引き戻して考える)と繰り返し、$D(E):=X^{(p-1)}$($p=1$ なら $D(E):=X$)、$q_E\colon D(E)\to X$ を合成とする。$q_E^*E$ には部分束の増大列
$$0=W_0\subset W_1\subset\dots\subset W_p=q_E^*E$$
で、各商 $W_k/W_{k-1}$ が直線束になるものが標準的に定まる。$D(E)$ を $E$ の完全旗束、この列を完全な旗という。

構成と、完全な旗が得られることは、参考書『Chern 類の公理的理論』の頁『1-2 旗多様体と完全分裂』の命題「旗の束と完全分裂」にある。その証明は束の幾何だけを使い、交叉理論を使わない。原論文も §3 で旗束を定めるが(印字 4-18〜4-19)、構成の詳細は本書『2-3 旗束の環』で扱う。ここで要るのは、旗束が圏に属することと、旗束への引き戻しが単射であることの二つである。

旗束への引き戻しの単射性

$X\in\mathcal V$、$E$ を $X$ 上の階数 $p\ge1$ のベクトル束とする。

  1. 各 $X^{(i)}$、とくに $D(E)$ は $\mathcal V$ に属する。
  2. $Z\in\mathcal V$ 上の階数 $r\ge1$ の束 $G$ について $f_G^*\colon A(Z)\to A(P(G))$ は単射である。
  3. $q_E^*\colon A(X)\to A(D(E))$ は単射である。

1 は (V.2) を $X^{(i-1)}$ 上の束 $E^{(i-1)}$ に当てて $i$ について帰納すればよい((V.1) により、同型な空間も $\mathcal V$ に属する)。2:$f_G^*(a)=0$ とする。(I.11) の基底 $1,\xi_G,\dots,\xi_G^{\,r-1}$ で $f_G^*(a)=f_G^*(a)\cdot1$ は、$1$ の係数が $a$、ほかの係数が $0$ の表示である。零元の表示は全係数が $0$ なので、表示の一意性から $a=0$ である。3 は 2 を旗束の各段 $X^{(i)}=P(E^{(i-1)})\to X^{(i-1)}$ に当て、単射の合成をとればよい。これは参考書『Chern 類の公理的理論』の頁『1-2 旗多様体と完全分裂』の補題「旗の束での引き戻しの単射性」の証明そのもので、その証明が使うのは射影束公式 A 1(本巻の (I.11))と、圏が射影束で閉じること(本巻の (V.2))だけである。

旗束の各段は非特異な空間の上の射影束なので非特異であり、§3 の仮定(対象はすべて非特異)とも矛盾しない。次に、特徴づけを述べるための言葉を置く。

Chern 類の族と三つの性質

Chern 類の族とは、各 $X\in\mathcal V$ と $X$ 上の各ベクトル束 $E$ に元 $c'(E)=\sum_{i\ge0}c'_i(E)\in A(X)$($c'_i(E)\in A^i(X)$)を対応させる規則をいう。原論文の三つの性質は次のとおりである。

  1. 関手性:$\mathcal V$ の射 $g\colon X'\to X$ について $c'(g^*E)=g^*c'(E)$。
  2. 正規化:$E$ が階数 1 なら $c'_1(E)=c_1(E)$。右辺はデータ e の第一類 $p_X\,cl_X(E)$ である。
  3. 加法性:$X$ 上のベクトル束の完全列 $0\to E'\to E\to E''\to0$ について $c'(E)=c'(E')\,c'(E'')$。

原論文の性質 ii は $c^1(E)=p_X\,cl_X(E)$ と上付きの添字で印字されているが(印字 4-18)、下付きの $c_1$ の誤りである。性質 ii が定めるのは次数 1 の成分だけであり、次数 0 の成分や次数 2 以上の成分には触れない。この点が主結果 4 で問題になる。

引用する事実

次の事実は証明せずに引用する。出典は主に Ser55、Che58 で、該当箇所の番号は本頁では確認していない。本書『0-2 代数多様体・横断性・射影束と旗多様体』の定理「射影束の基本」に要点がある。本書『2-1 直線束の類と射影束の一次独立』の引用する事実もそのまま使う。

  1. 部分射影束(射影束の基本):ベクトル束 $E$ の部分束 $F$(商が局所自由)について、$P(F)\subset P(E)$ は閉部分で、$P(E)$ の $\mathcal O(-1)$ の制限は $P(F)$ の $\mathcal O(-1)$ である。包含は閉埋め込みなので固有である。
  2. 部分射影束の標準切断(射影束の基本):部分束の列 $E_{j-1}\subset E_j$ で商 $M=E_j/E_{j-1}$ が直線束のものについて、$P(E_j)$ の上の合成 $\mathcal O(-1)\to f_j^*E_j\to f_j^*M$ は直線束 $\mathcal O(-1)^\vee\otimes f_j^*M=L_{E_j}\otimes f_j^*M$ の切断で、その零点集合は $P(E_{j-1})$ であり、この切断は零切断に横断的である。横断性は、局所的に $E_j$ を自明化して $E_{j-1}$ を最初の $j-1$ 個の座標にとると、切断が最後の斉次座標になることから見える。
  3. 階数 1 の射影束(射影束の基本):直線束 $L$ について $P(L)\to X$ は同型で、この同型で $\mathcal O(-1)$ は $L$、$L_L$ は $L^\vee$ に対応する。
  4. ベクトル束の基本:引き戻しは完全列を完全列に移す。完全列 $0\to E'\to E\xrightarrow{\pi}E''\to0$ と $E''$ の部分束 $F$ について、$\pi^{-1}(F)$ は $E$ の部分束で、$\pi^{-1}(F)/E'\cong F$、$\pi^{-1}(F)/\pi^{-1}(F')\cong F/F'$($F'\subset F$)である。ベクトル束の同型 $E\cong F$ は $X$ 上の同型 $P(E)\cong P(F)$ を誘導し、$\mathcal O(-1)$ どうし、したがって $L_E$ と $L_F$ を対応させる。
    これで記号と道具が揃った。まず定義を立て、次に旗で分裂する束の関係式を示し、それを旗束で一般の束に運ぶ。

主結果と証明

定義の一意存在

(I.11) は $\xi_E^{\,p}$ の座標を一意に定める。座標が正しい次数に入ることは、両辺の斉次成分を比べれば分かる。

Chern 類の一意存在

$X\in\mathcal V$ 上の階数 $p\ge1$ のベクトル束 $E$ について、
$$\sum_{i=0}^{p}f^*c_i(E)\,\xi_E^{\,p-i}=0,\qquad c_0(E)=1\qquad\text{(18)}$$
を満たす $c_i(E)\in A^i(X)$($1\le i\le p$)がただ一組存在する。$X$ 上のベクトル束の同型 $E\cong F$ があれば $c_i(E)=c_i(F)$ である。

段 1(存在).(I.11) により $\xi_E^{\,p}=\sum_{j=0}^{p-1}f^*(b_j)\,\xi_E^{\,j}$ と書ける($b_j\in A(X)$)。$b_j$ を斉次成分に分けて $b_j=\sum_d(b_j)_d$、$(b_j)_d\in A^d(X)$ とする。$f^*$ は次数 $0$、$\xi_E$ は次数 $1$ なので、$f^*((b_j)_d)\,\xi_E^{\,j}$ は次数 $d+j$ に入る。左辺は次数 $p$ なので、両辺の次数 $p$ の成分をとると $\xi_E^{\,p}=\sum_jf^*((b_j)_{p-j})\,\xi_E^{\,j}$ である。表示の一意性から $b_j=(b_j)_{p-j}\in A^{p-j}(X)$ である。$c_i(E):=-b_{p-i}$($1\le i\le p$)とおけば (18) が成り立つ。
段 2(一意性).二組の係数 $c_i$、$d_i$($c_0=d_0=1$)が (18) を満たせば、差をとって $\sum_{i=1}^pf^*(c_i-d_i)\,\xi_E^{\,p-i}=0$ である。これは (I.11) の基底による零元の表示なので、すべての $i$ で $c_i=d_i$ である。
段 3(同型不変性).引用する事実 4 により、同型 $E\cong F$ は $X$ 上の同型 $\phi\colon P(E)\to P(F)$ を誘導し、$\phi^*L_F\cong L_E$ である。データ e の関手性から $\phi^*\xi_F=\xi_E$ で、$f_F\circ\phi=f_E$ なので、$F$ の関係式 (18) に環準同型 $\phi^*$ を当てると、係数 $c_i(F)$ が $E$ の関係式を満たす。段 2 により $c_i(E)=c_i(F)$ である。

これで定義が立つ。第 3 巻の定義(参考書『Chern 類の公理的理論』の頁『3-1 Chern 類の定義と一意性』の定義「Chern類」)と同じ規約・同じ符号である。

Chern 類

上の定理の $c_i(E)\in A^i(X)$ を $E$ の第 $i$ Chern 類という。$c_0(E):=1$、$c_i(E):=0$($i>p$)とおき、
$$c(E):=\sum_{i\ge0}c_i(E)=1+c_1(E)+\dots+c_p(E)\qquad\text{(18 bis)}$$
を全 Chern 類という。階数 $0$ の束には $c(0):=1$ とおく。

原論文の (18) は、$c_i(E)$ をすべての整数 $i\ge0$ について定まるものとし、$c_0(E)=1$ と $c_i(E)=0$($i>p$)を関係式と並べて書く(印字 4-17)。階数を超える次数で消えることは定義の一部であり、この点が後の特徴づけで効く。
一点の上では Chern 類はすべて自明である。$X=\mathrm{pt}$、$E=V$ なら $A^i(\mathrm{pt})=0$($i>0$)なので $c(V)=1$ で、(18) は $\xi_V^{\,p}=0$ になる。これは本書『2-1 直線束の類と射影束の一次独立』の定理「射影空間の線形部分空間の類」の 3 と合っている。

旗で分裂する束

加法性の核心は、直線束を商にもつ旗がある束で Chern 類を直線束の第一類で書くことである。部分射影束 $P(E_j)$ の列を上から一段ずつ下り、各段で (I.10) と射影公式を使う。

旗で分裂する束の関係式

$X\in\mathcal V$ 上の階数 $p\ge1$ のベクトル束 $E$ が、部分束の列
$$0=E_0\subset E_1\subset\dots\subset E_p=E$$
で、各商 $M_i:=E_i/E_{i-1}$ が直線束のものをもつとする。$a_i:=c_1(M_i)\in A^1(X)$ とおくと、$A(P(E))$ の中で
$$\prod_{i=1}^{p}\bigl(\xi_E+f^*a_i\bigr)=0$$
である。したがって $c_i(E)=\sigma_i(a_1,\dots,a_p)$($\sigma_i$ は基本対称式)、すなわち $c(E)=\prod_{i=1}^p(1+a_i)$ である。

段 1(部分射影束の列).$P_j:=P(E_j)$($1\le j\le p$)、$\iota_j\colon P_j\to P(E)$ を包含、$f_j=f\circ\iota_j\colon P_j\to X$ とする。$P_p=P(E)$ である。(V.2) と (V.1) により $P_j\in\mathcal V$ で、$\iota_j$ は固有である(引用する事実 1)。引用する事実 1 により $\iota_j^*L_E\cong L_{E_j}$ なので、データ e の関手性から $\iota_j^*\xi_E=\xi_{E_j}$ である。$j\ge2$ のとき $P_{j-1}\subset P_j$ も閉部分で、その包含を $\iota_{j-1,j}$ とすると $\iota_{j-1}=\iota_j\circ\iota_{j-1,j}$ である。
段 2(一段の関係).$2\le j\le p$ とする。引用する事実 2 により、$P_j$ の上の直線束 $L_{E_j}\otimes f_j^*M_j$ には零切断に横断的な切断があり、その零点集合は $P_{j-1}\in\mathcal V$ である。公理 (I.10) と、データ e が群準同型で引き戻しと両立することから、$P_j$ の中で
$$[P_{j-1}]_{P_j}=c_1\bigl(L_{E_j}\otimes f_j^*M_j\bigr)=\xi_{E_j}+f_j^*a_j=\iota_j^*\bigl(\xi_E+f^*a_j\bigr)$$
である。
段 3($P(E)$ の中へ押し出す).直像の関手性と射影公式 (I.9)($\iota_j$ は固有)により
$$[P_{j-1}]_{P(E)}=\iota_{j*}\bigl([P_{j-1}]_{P_j}\bigr)=\iota_{j*}\bigl(\iota_j^*(\xi_E+f^*a_j)\cdot1_{P_j}\bigr)=(\xi_E+f^*a_j)\cdot[P_j]_{P(E)}$$
である。$[P_p]_{P(E)}=[P(E)]=1$ から始めて $j=p,p-1,\dots,2$ と下ると、
$$[P_1]_{P(E)}=\prod_{i=2}^{p}\bigl(\xi_E+f^*a_i\bigr)$$
を得る($p=1$ なら右辺は空積 $1$ で、$P_1=P(E)$ だから正しい)。
段 4(最後の段を射影公式で閉じる).$P_1=P(E_1)=P(M_1)$ で、引用する事実 3 により $f_1\colon P_1\to X$ は同型、$L_{M_1}=f_1^*M_1^\vee$ である。したがって $\iota_1^*\xi_E=\xi_{M_1}=c_1(f_1^*M_1^\vee)=-f_1^*a_1$、すなわち $\iota_1^*(\xi_E+f^*a_1)=0$ である。段 3 と同じく射影公式により
$$\prod_{i=1}^{p}\bigl(\xi_E+f^*a_i\bigr)=(\xi_E+f^*a_1)\cdot\iota_{1*}(1_{P_1})=\iota_{1*}\bigl(\iota_1^*(\xi_E+f^*a_1)\cdot1_{P_1}\bigr)=\iota_{1*}(0)=0$$
である。
段 5(係数の比較).$A(P(E))$ は可換環で $f^*$ は環準同型なので(本書『1-1 データと公理と積の構造』の定理「可換環の構造」)、積を展開して $\sum_{i=0}^pf^*\sigma_i(a)\,\xi_E^{\,p-i}=0$ を得る。$\sigma_i(a)\in A^i(X)$、$\sigma_0=1$ なので、上の定理(Chern 類の一意存在)の一意性から $c_i(E)=\sigma_i(a_1,\dots,a_p)$ である。

段 4 が要点である。旗の最下段 $P_1$ は底 $X$ と同型で、そこでは $\xi_E+a_1$ が消える。最後の因子を掛けることは $P_1$ への制限と押し出しで表されるので、積は $0$ になる。証明のどこにも空集合は現れない。

第 3 巻の積公式の証明との違い

第 3 巻の定理「完全分裂した束の積公式」(参考書『Chern 類の公理的理論』の頁『3-2 存在の証明』)も、同じ部分射影束の列を標準切断の零点の列として使う。違いは最後の段にある。第 3 巻は列をもう一段下げて $P(0)=\emptyset$ に達し、空集合が圏に属することと、その類が $0$ であることの二条件で積を消す(同頁の注意「積公式で空対象を使う位置」)。本頁は一段手前の $P_1\cong X$ で止め、そこで $\xi_E+a_1$ が消えることを射影公式で積に移す。本巻の原論文は空集合を圏に入れないので、この違いが要る。一段ごとの関係(段 2・段 3)は、参考書『Chern 類の公理的理論』の頁『2-1 公理 A 1〜A 4 と補題 2』の補題「部分束列に沿う零点の類」の型(零点の類が第一類の積になる)を、本巻の公理 (I.10) と (I.9) で書いたものである。

加法性の要となる関係式が得られた。旗をもつとは限らない束には、旗束へ引き戻して旗を作り、単射性で底に戻す。

関手性・正規化・加法性

関手性と正規化は定義と基本類の底変換だけから出る。加法性は、完全列の両端を同時に旗で分裂させる空間へ引き戻して、上の定理に帰着する。

関手性・正規化・加法性
  1. 関手性:$\mathcal V$ の射 $g\colon X'\to X$ と $X$ 上のベクトル束 $E$ について、すべての $i$ で $c_i(g^*E)=g^*c_i(E)$ である。
  2. 正規化:$X$ 上の直線束 $L$ について、Chern 類としての $c_1(L)$ はデータ e の第一類 $p_X\,cl_X(L)$ に等しく、$c(L)=1+c_1(L)$ である。
  3. 加法性:$X$ 上のベクトル束の完全列 $0\to E'\to E\to E''\to0$ について $c(E)=c(E')\,c(E'')$、すなわち $c_m(E)=\sum_{i+j=m}c_i(E')\,c_j(E'')$ である。

段 1(関手性).$E$ の階数を $p\ge1$、$E'=g^*E$ とする($p=0$ なら両辺は $1$)。$P(E')=X'\times_XP(E)$ で、$\bar g\colon P(E')\to P(E)$ について $f\circ\bar g=g\circ f'$($f'\colon P(E')\to X'$)である。本書『2-1 直線束の類と射影束の一次独立』の命題「基本類の底変換」により $\bar g^*\xi_E=\xi_{E'}$ である((V.2) により $P(E),P(E')\in\mathcal V$)。$E$ の関係式 (18) に環準同型 $\bar g^*$ を当てると $\sum_if'^*\bigl(g^*c_i(E)\bigr)\,\xi_{E'}^{\,p-i}=0$ で、$g^*c_i(E)\in A^i(X')$、$g^*c_0(E)=1$ である。上の定理(Chern 類の一意存在)の一意性を $E'$ に当てて $c_i(E')=g^*c_i(E)$ を得る。$i>p$ では両辺とも $0$ である。
段 2(正規化).$p=1$、$E=L$ とする。引用する事実 3 により $f\colon P(L)\to X$ は同型で、$L_L=f^*L^\vee$ なので $\xi_L=c_1(f^*L^\vee)=-f^*\bigl(p_X\,cl_X(L)\bigr)$ である。(18) は $\xi_L+f^*c_1(L)=0$ なので、Chern 類としての $c_1(L)$ は $p_X\,cl_X(L)$ に等しい。$i\ge2$ では定義により $c_i(L)=0$ なので $c(L)=1+c_1(L)$ である。これは上の定理(旗で分裂する束の関係式)の $p=1$ の場合でもある。
段 3(加法性、端の場合).$E'=0$ なら $E\to E''$ は同型で、上の定理(Chern 類の一意存在)の同型不変性と $c(0)=1$ から主張が従う。$E''=0$ も同じである。以下 $E'$、$E''$ の階数を $p',p''\ge1$ とする。
段 4(両端を同時に分裂させる).$q'\colon Y':=D(E')\to X$ を $E'$ の完全旗束、$q''\colon Y:=D(q'^*E'')\to Y'$ を $Y'$ 上の束 $q'^*E''$ の完全旗束とし、$q:=q'\circ q''\colon Y\to X$ とおく。上の命題(旗束への引き戻しの単射性)により $Y',Y\in\mathcal V$ で、$q'^*$、$q''^*$、したがって $q^*$ は単射である。$Y'$ の上の $q'^*E'$ の完全な旗を $Y$ に引き戻したものを $W'_1\subset\dots\subset W'_{p'}=q^*E'$、$Y$ の上の $q^*E''$ の完全な旗を $W''_1\subset\dots\subset W''_{p''}=q^*E''$ とする。引用する事実 4 により $0\to q^*E'\to q^*E\xrightarrow{\pi}q^*E''\to0$ は完全で、
$$W'_1\subset\dots\subset W'_{p'}=q^*E'=\pi^{-1}(0)\subset\pi^{-1}(W''_1)\subset\dots\subset\pi^{-1}(W''_{p''})=q^*E$$
は $q^*E$ の部分束の列で、各商は $W'_k/W'_{k-1}$ と $W''_l/W''_{l-1}$(どれも直線束)である。
段 5(比較と帰還).$a'_k:=c_1(W'_k/W'_{k-1})$、$a''_l:=c_1(W''_l/W''_{l-1})$ とおく。上の定理(旗で分裂する束の関係式)を三つの旗に当てると
$$c(q^*E)=\prod_k(1+a'_k)\prod_l(1+a''_l),\qquad c(q^*E')=\prod_k(1+a'_k),\qquad c(q^*E'')=\prod_l(1+a''_l)$$
である。段 1 により $c(q^*F)=q^*c(F)$ なので、$q^*c(E)=q^*c(E')\cdot q^*c(E'')=q^*\bigl(c(E')c(E'')\bigr)$ である。$q^*$ は単射なので $c(E)=c(E')\,c(E'')$ である。

加法性の証明が使ったのは、§1 のデータと環の構造に加えて、公理 (I.9)(I.10)(I.11)、条件 (V.1)(V.2)、データ e が引き戻しと両立する群準同型であること、第 0 章から引いた射影束の基本(部分射影束とその標準切断の横断性)である。空集合は使わず、原論文が委ねた文献 [4] の定理 1 も開かずに済んだ。

原論文の加法性の委譲と本書の証明

原論文は性質 i〜iii の証明を「loc. cité, théorème 1」、すなわち文献 [4](Gro58)の定理 1 に委ね、定義から直ちに出ないのは加法性だけだと添える(印字 4-17〜4-18)。[4] の定理 1 の加法性の証明は、第 3 巻が読んだとおり公理 A 2〜A 4 と空集合の二条件を使う(参考書『Chern 類の公理的理論』の頁『3-2 存在の証明』)。原論文は、本巻の公理 (I.1)〜(I.11) がそれらの公理を含意することを確かめていない。本書は [4] に頼らず、上の二つの定理で加法性を本巻の公理から直接示した。「原論文は [4] に委ねる」ことと「本書は本巻の公理から示す」ことを分けて読んでほしい。

特徴づけ

一意性の議論は第 3 巻の定理「Chern類の一意性」(参考書『Chern 類の公理的理論』の頁『3-1 Chern 類の定義と一意性』)と同じ型である。引く前に、その証明が何を使うかを確かめておく。第 3 巻の証明は、候補の規則を完全旗束に引き戻し、完全な旗の各段に短完全列の乗法性と直線束での正規化を当てて、候補の値を $\prod_k(1+c_1(M_k))$ に固定し、旗束への引き戻しの単射性で底に戻す。使うのは、旗束の幾何(同書『1-2 旗多様体と完全分裂』の命題「旗の束と完全分裂」)、関手性、直線束での正規化、乗法性、係数環の可換性、そして公理 A 1 から導いた旗束での単射性だけである。零点と押し出しの公理 A 2〜A 4 は一度も使わない。それらが第 3 巻で使われるのは、定義した $c$ が三つの性質をもつことの証明(同書『3-2 存在の証明』)だけである。本頁ではこれらの入力を、定義(旗束と完全な旗)、命題(旗束への引き戻しの単射性)、上の定理(関手性・正規化・加法性)、本書『1-1 データと公理と積の構造』の定理「可換環の構造」がそれぞれ与える。
ただし第 3 巻の正規化は、直線束の全 Chern 類について $c'(L)=1+c_1(L)$ と書かれている。これは原論文の性質 ii より強い。その違いが次の訂正に当たる。

Chern 類の特徴づけ(訂正形)

Chern 類の族 $c'$ が次を満たすとする。

  1. $c'_0(E)=1$、$c'_i(E)\in A^i(X)$ であり、$i>\operatorname{rank}E$ なら $c'_i(E)=0$ である。
  2. 定義(Chern 類の族と三つの性質)の関手性・正規化・加法性をもつ。
    このとき、すべての $X\in\mathcal V$ と $X$ 上のすべてのベクトル束 $E$ について $c'(E)=c(E)$ である。

段 1(直線束と階数 0).直線束 $L$ では、条件 1 により $c'(L)=1+c'_1(L)$ で、正規化により $c'_1(L)=c_1(L)$ なので、$c'(L)=1+c_1(L)=c(L)$ である。階数 $0$ の束では条件 1 により $c'(0)=1=c(0)$ である。
段 2(旗の上で値を固定する).$E$ の階数を $p\ge1$ とし、$q=q_E\colon D(E)\to X$ を完全旗束、$0=W_0\subset W_1\subset\dots\subset W_p=q^*E$ を完全な旗、$M_k=W_k/W_{k-1}$ とする。$W_1=M_1$ は直線束である。加法性を $0\to W_{k-1}\to W_k\to M_k\to0$ に当て、段 1 を使って $k$ について帰納すると、$c'(W_k)=\prod_{l\le k}(1+c_1(M_l))$ を得る。とくに $c'(q^*E)=\prod_{k=1}^p(1+c_1(M_k))$ である。上の定理(旗で分裂する束の関係式)により $c(q^*E)$ も同じ積である。
段 3(単射性で戻る).関手性により $q^*c'(E)=c'(q^*E)=c(q^*E)=q^*c(E)$ で、上の命題(旗束への引き戻しの単射性)により $c'(E)=c(E)$ である。

条件 1 のうち階数を超える次数で消えることを使ったのは、段 1 で直線束の $c'_i$($i\ge2$)を消す所だけである。この一か所が欠けると特徴づけは破れる。そのことを例と反例の節で示す。$c'_0=1$ も同じ段 1 で使っており、これも省けないことを次の注意に書く。

原論文の特徴づけの印字と第 3 巻の正規化

原論文は、Chern 類が性質 i〜iii をもち、それらが Chern 類を特徴づけると述べるだけで(印字 4-17〜4-18)、階数を超える次数で消える条件を書かない。性質 ii は階数 1 の束の $c_1$ だけを定めるので、印字のままの主張は偽である(下の反例「反例:階数を超える次数で消える条件を外すと特徴づけは破れる」)。一方、直前の (18) は $c_0(E)=1$ と $c_i(E)=0$($i>p$)を定義に含めており、原論文はこの条件を特徴づけの文で書き落としたと読める。本書は条件を添えた形を主結果とした。
次数 0 の条件 $c'_0=1$ も特徴づけの文には無く、これも省けない。各束 $E$ に最高次の Chern 類 $c'(E):=c_{\operatorname{rank}E}(E)$ を対応させる族($c'(0)=c_0(0)=1$)を考える。関手性は上の定理(関手性・正規化・加法性)の 1 から、正規化は $c'(L)=c_1(L)$ から明らかである。加法性は、$c(E)=c(E')c(E'')$ の次数 $\operatorname{rank}E=p'+p''$ の成分をとると、$c_i(E')=0$($i>p'$)、$c_j(E'')=0$($j>p''$)により $i=p'$、$j=p''$ の項だけが残って $c_{p}(E)=c_{p'}(E')\,c_{p''}(E'')$ となることから従う。階数を超える次数で消える条件も満たす。しかし一点の上の自明な直線束 $\mathcal O$ では $c'(\mathcal O)=c_1(\mathcal O)=0$、$c(\mathcal O)=1$ で、$A(\mathrm{pt})\cong\Lambda\neq0$ なら $c'\neq c$ である(破れているのは $c'_0=1$ だけ)。
第 3 巻の定理「Chern類の一意性」は、候補の規則の定義に $c'(E)=1+c'_1(E)+\cdots$ を含め、正規化を全 Chern 類の等式 $c'(L)=1+c_1(L)$ として置く(参考書『Chern 類の公理的理論』の頁『3-1 Chern 類の定義と一意性』の定義「Chern類の候補規則」)。この正規化は直線束の $c'_i$($i\ge2$)が $0$ であることを含むので、第 3 巻の形は正しく、本頁の訂正形と同じ内容である。実際、本頁の条件 1 と性質 ii から $c'(L)=1+c_1(L)$ が出る(上の証明の段 1)。逆に第 3 巻の条件を満たす族は第 3 巻の一意性により $c$ に等しいので、階数を超える次数で消える。

射影束の環

Chern 類が分かれば、射影束の環は底の環から決まる。原論文はこれを「明らかに」と書き、§3 の主定理(旗束の環)の出発点にする(印字 4-18)。

射影束の環の表示

$X\in\mathcal V$ 上の階数 $p\ge1$ のベクトル束 $E$ について、$A(X)$ 代数の準同型 $A(X)[t]\to A(P(E))$、$t\mapsto\xi_E$ は次数付き環の同型
$$A(X)[t]/\bigl(t^p+c_1(E)\,t^{p-1}+\dots+c_p(E)\bigr)\xrightarrow{\ \sim\ }A(P(E))$$
を誘導する($t$ は次数 1)。

$A(P(E))$ は可換環で、$f^*$ は環準同型なので、$t\mapsto\xi_E$ は $A(X)$ 代数の準同型 $\Phi\colon A(X)[t]\to A(P(E))$ を定める。$t$ と $\xi_E$ はどちらも次数 1 なので、$\Phi$ は次数を保つ。(18) により $\Phi$ は $h(t):=t^p+c_1(E)t^{p-1}+\dots+c_p(E)$ を $0$ に送るので、$\Phi$ は $A(X)[t]/(h)$ を経由する。$h$ は最高次の係数が $1$ の $p$ 次式なので、割り算により $A(X)[t]/(h)$ は $1,t,\dots,t^{p-1}$ を基底にもつ自由 $A(X)$ 加群である。$\Phi$ はこの基底を $1,\xi_E,\dots,\xi_E^{\,p-1}$ に送り、(I.11) によりそれは $A(P(E))$ の $A(X)$ 基底なので、誘導された写像は同型である。

関係式 (18) は $\xi_E$ の「最小多項式」を与え、環 $A(P(E))$ はそれで尽きる。本書『2-3 旗束の環』は、この表示を旗束の各段に繰り返して、旗束の環を Chern 類と一つの関係式で表示する。

双対・外冪・テンソル積の公式

双対・外冪・テンソル積の Chern 類の公式は、第 3 巻の定理「双対束のChern類」「外冪のChern類」「テンソル積のChern類」(参考書『Chern 類の公理的理論』の頁『3-3 双対・外冪・テンソル積』)がそのまま成り立つ。たとえば $c_i(E^\vee)=(-1)^ic_i(E)$ であり、$c(E\otimes F)$ は Chern 根 $x_k+y_l$ の全体から作られる整数係数の普遍多項式で与えられる。第 3 巻の証明が使う入力は、二つの束を同時に分裂させる旗束、完全な旗をもつ束の全 Chern 類が商の第一類の積であること、短完全列の乗法性、旗束での単射性、直線束のテンソル積の第一類が和であること、係数環の可換性と対称式の基本定理である。本巻ではそれぞれ、上の加法性の証明の段 4 の旗束、定理(旗で分裂する束の関係式)、定理(関手性・正規化・加法性)、命題(旗束への引き戻しの単射性)、データ e が群準同型であること、本書『1-1 データと公理と積の構造』の定理「可換環の構造」と初等的な代数が与える。本書はこれらの公式を主結果に数えない。

例と反例

最初の例は、旗で分裂する束の関係式の最も簡単な場合で、本書の射影束の規約の符号を確かめる。

直線束の直和と自明束

$E=L_1\oplus\dots\oplus L_p$ を直線束の直和とし、$a_i=c_1(L_i)$ とする。$E_j:=L_1\oplus\dots\oplus L_j$ は各商が $L_j$ の部分束の列なので、上の定理(旗で分裂する束の関係式)により $\prod_i(\xi_E+a_i)=0$、$c(E)=\prod_i(1+a_i)$ である。とくに自明束 $\mathcal O_X^p$ では $a_i=c_1(\mathcal O_X)=0$(データ e は群準同型なので単位元を $0$ に送る)で、$\xi^p=0$、$c(\mathcal O_X^p)=1$ である。
符号を見ておく。$p=2$、$E=L_1\oplus L_2$ で、$P(E)$ の中の $P(L_1)$ は $f^*L_2$ への射影 $\mathcal O(-1)\to f^*L_2$ の零点である。(I.10) によりその類は $c_1(L_E\otimes f^*L_2)=\xi_E+a_2$ で、$P(L_1)$ の上では $\xi_E$ は $-a_1$ に制限される。関係式 $\xi_E^{\,2}+(a_1+a_2)\xi_E+a_1a_2=0$ の係数に負号が現れないのは、$P(E)$ を直線の空間とし、$\xi_E=c_1(\mathcal O(1))$ ととる規約の効果である。

次の例は、本書『2-1 直線束の類と射影束の一次独立』の直像の公式と Chern 類を結び、後代の Segre 類の見方を先取りする。

直像と Segre 類

$X\in\mathcal V$ は既約であるか、連結成分がすべて $\mathcal V$ に属するとし、$E$ を階数 $p\ge1$、$f\colon P(E)\to X$ とする。$k\ge0$ について $s_k(E):=f_*(\xi_E^{\,p-1+k})\in A^k(X)$ とおくと($f_*$ は次数 $-(p-1)$)、
$$\Bigl(\sum_{k\ge0}s_k(E)\Bigr)\Bigl(\sum_{i\ge0}c_i(E)\Bigr)=1$$
である。実際、本書『2-1 直線束の類と射影束の一次独立』の定理「基本類の冪の一次独立」により $s_0=1$、$f_*(\xi_E^{\,j})=0$($j\le p-2$)である。$m\ge1$ について、(18) に $\xi_E^{\,m-1}$ を掛けて $f_*$ を当て、射影公式 (I.9) を使うと
$$0=\sum_{i=0}^{p}c_i(E)\,f_*\bigl(\xi_E^{\,p-1+m-i}\bigr)=\sum_{i=0}^{m}c_i(E)\,s_{m-i}(E)$$
を得る($i>m$ の項は指数が $p-2$ 以下で消え、$i>p$ では $c_i=0$)。これは積の次数 $m$ の成分が $0$ であることを言う。たとえば $f_*(\xi_E^{\,p})=s_1(E)=-c_1(E)$、$s_2(E)=c_1(E)^2-c_2(E)$ である。

最後は主結果 4 の訂正の根拠である。原論文の形の特徴づけは、どの理論でも破れる。

反例:階数を超える次数で消える条件を外すと特徴づけは破れる

外す条件は、主結果(Chern 類の特徴づけ(訂正形))の条件 1 のうち、$i>\operatorname{rank}E$ で $c'_i(E)=0$ であることである。理論は §3 の仮定((I.1)〜(I.11)、(V.1)(V.2))を満たし、係数環 $\Lambda$ は $0$ でないとする。使うのは、対称式の基本定理(初等的な代数。本書『0-3 サイクル・Chow 環・K 群と対称式』の定理「対称式の基本定理」)と、Chern 類の定義の $c_i=0$($i>$ 階数)である。
構成.各 $p\ge1$ について、$\mathbf Z[t_1,\dots,t_p]$ の対称な多項式 $\prod_{m=1}^p(1+t_m+t_m^2)$ の次数 $i$ の斉次部分を、対称式の基本定理により基本対称式の整数係数多項式 $Q_i^{(p)}(\sigma_1,\dots,\sigma_p)$ に書く(重さ $i$ の式である)。階数 $p$ の $E$ に $c'_i(E):=Q_i^{(p)}(c_1(E),\dots,c_p(E))\in A^i(X)$、$c'(E):=\sum_ic'_i(E)$ とおき、$c'(0):=1$ とする。$p\ge2$ なら $c'_1=c_1$、$c'_2=c_1^2-c_2$ である($\sum_mt_m^2+\sum_{m< n}t_mt_n=(\sigma_1^2-2\sigma_2)+\sigma_2$)。$p=1$ なら $c'(L)=1+c_1(L)+c_1(L)^2$ である。
三つの性質を満たすこと.$c'_0=1$、$c'_i\in A^i$ は構成から明らか。関手性は、上の定理(関手性・正規化・加法性)の 1 と $g^*$ が環準同型であることから従う。正規化は $c'_1(L)=c_1(L)$ である。加法性:$0\to E'\to E\to E''\to0$ を上の定理の加法性の証明の段 4 の $q\colon Y\to X$ に引き戻すと、$q^*E$、$q^*E'$、$q^*E''$ は直線束を商にもつ旗をもち、商の第一類を $a'_1,\dots,a'_{p'}$、$a''_1,\dots,a''_{p''}$ とすると、上の定理(旗で分裂する束の関係式)により $q^*c_i(E)=\sigma_i(a',a'')$、$q^*c_i(E')=\sigma_i(a')$、$q^*c_i(E'')=\sigma_i(a'')$ である。$\mathbf Z[t]$ の中の恒等式 $\sum_iQ_i^{(p)}(\sigma(t))=\prod_m(1+t_m+t_m^2)$ を、可換環 $A(Y)$ への準同型 $t\mapsto(a',a'')$ で移すと
$$q^*c'(E)=\prod_k(1+a'_k+a_k'^2)\prod_l(1+a''_l+a_l''^2)=q^*c'(E')\cdot q^*c'(E'')$$
で、$q^*$ の単射性から $c'(E)=c'(E')\,c'(E'')$ である($E'$ か $E''$ が $0$ なら、同型不変性から明らか)。
$c'\neq c$ であること.$X=\mathbf P^2=P(V)$($\dim V=3$)、$E=L_V$(階数 1)とする。正規化により $c_1(L_V)=\xi_V$ なので $c'_2(L_V)=\xi_V^{\,2}$ である。一方、Chern 類の定義により $c_2(L_V)=0$ である。射影束公式 (I.11) を一点の上で使うと $1,\xi_V,\xi_V^{\,2}$ は $A(\mathbf P^2)$ の $\Lambda$ 基底なので、$\Lambda\neq0$ なら $\xi_V^{\,2}\neq0$ である(本書『2-1 直線束の類と射影束の一次独立』により、これは点の類でもある)。よって $c'(L_V)\neq c(L_V)$ である。
破れているのは「階数を超える次数で消える」ことだけで($c'_2(L_V)\neq0$)、原論文の性質 i〜iii はすべて満たされる。ここで示したのは、(I.11) を満たし係数環が $0$ でないどの理論でも、条件なしの特徴づけは成り立たないことである。そのような理論が実在することは、本書『5-1 Chow 環での公理の成立と最小理論の予想』の条件付きの定理による。

同じ構成で $1+t+t^2$ を $1+t+\lambda t^2$($\lambda\in\mathbf Z$ で、その $\Lambda$ での像が $0$ でないもの)に替えても反例が得られる。性質 ii が次数 1 しか縛らない以上、次数 2 以上の自由度は条件 1 で消すほかない。

その後の発展

以下は原論文の主張ではなく、後代の結果の紹介である(時点を明記する。本書が文献を開いて確かめていないものはそう書く)。

  • Segre 類による Chern 類の定義(Fulton Ful98、初版 1984 年):Fulton の交叉理論は、射影束の基本類の冪を押し出して Segre 類を先に定め、Chern 類をその逆級数として定める。上の例「直像と Segre 類」は、本巻の公理の下でも二つの定義が一致することを示している。Fulton の枠組みは特異な空間の Chow 群にも働くが、本巻の原論文は §3 で対象を非特異に限る。本書は該当箇所の番号を確かめていない。
  • 加法性の三つの証明:本頁の証明(部分射影束の列と射影公式)、第 3 巻の証明(零点の列と空集合の類。参考書『Chern 類の公理的理論』の頁『3-2 存在の証明』)、第 5 巻の証明(部分束の射影束に台をもつコホモロジー。参考書『Chern 類と離散群の線形表現』の頁『2-3 Chern 類の定義と三つの性質』)は、いずれも「部分束の射影束では $\xi_E$ と部分束の関係式が消える」という同じ幾何を、手元の公理に合わせて使い分けたものである。旗束に引き戻して束を分裂させ、引き戻しの単射性で底に戻す論法は、後代には分裂原理の名で呼ばれる。
  • 向きづけられたコホモロジー理論(Levine–Morel LevMor07、2007 年):射影束公式から同じ関係式で Chern 類を定める方法は、第一類が加法的でない理論にもそのまま通り、代数的コボルディズムの Chern 類もこの形で定まる。本書は文献を確かめていない。

原論文との対応表

本頁が対応する原論文は Sur quelques propriétés fondamentales en théorie des intersections Gro58b の §3 冒頭(印字 4-17〜4-18)である。

本頁原論文印字頁
この頁で示すことの設定(対象はすべて非特異)§3 冒頭の仮定と「本質的な公理は (I.11)」4-17
定理(Chern 類の一意存在)、定義(Chern 類)(18)(18 bis)4-17
定義(旗束と完全な旗)、命題(旗束への引き戻しの単射性)§3 の旗束の定義(詳細は本書『2-3 旗束の環』)4-18〜4-19
定義(Chern 類の族と三つの性質)性質 i〜iii4-18
定理(旗で分裂する束の関係式)、定理(関手性・正規化・加法性)、注意(原論文の加法性の委譲と本書の証明)性質 i〜iii と「loc. cité, théorème 1」、iii だけが定義から直ちでないという括弧書き4-17〜4-18
定理(Chern 類の特徴づけ(訂正形))、注意(原論文の特徴づけの印字と第 3 巻の正規化)、反例(階数を超える次数で消える条件を外すと特徴づけは破れる)「qui les caractérisent」4-17〜4-18
定理(射影束の環の表示)$A(P(E))\simeq A[\xi]/A[\xi]\cdot(\xi^p+c_1\xi^{p-1}+\dots+c_p)$4-18
例(直線束の直和と自明束)、例(直像と Segre 類)原論文に無い—

原論文の性質 ii は $c^1(E)=p_X\,cl_X(E)$ と印字されているが、下付きの $c_1(E)$ の誤りである(印字 4-18)。

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