3-1 完全性とホモトピーの公理

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

開部分への制限と閉部分からの直像だけをデータにもつ弱い公理系を置き、局所化の完全列にあたる完全性の公理と、アフィン直線との積の環が底の環の像で覆われるというホモトピーの公理を述べる。完全性の公理と二つの補助公理からホモトピーの公理が出るという原論文の命題を、次元の帰納法と特異点集合を剥がす議論で証明する。原論文の証明が黙って使う、開部分への制限と閉部分からの直像の入れ替えは公理系から導けないので、本書が足した仮定として明示する。

この頁で示すこと

原論文の §4 に従い、$\mathcal V$ は代数的空間の圏で条件 (V.3) を満たし、理論は下の定義(弱い公理系)のデータと公理を満たすとする。すなわち引き戻しは開部分への同型に沿ってだけ、直像は閉部分への同型に沿ってだけ与えられ、公理 (I.1)〜(I.7) と単位元の式 (2) が成り立つ。次数は仮定しない。$\mathbf A^1$ はアフィン直線、$h_X\colon A(X)\to A(X\times\mathbf A^1)$ は $x\mapsto x\times1_{\mathbf A^1}$ である。
本頁の主結果は次の三つである。

  1. 次元の帰納法の補題(原論文 §4 Lemme 2 とその系、印字 4-27〜4-28):$X\in\mathcal V$ が次元 $n$ で、次元 $n$ 未満の $\mathcal V$ の対象ではホモトピーの公理 (H) が成り立つとする。$x\in A(X\times\mathbf A^1)$ が $h_X$ の像に入ることを示すには、次元 $n$ 未満の閉集合 $Y$ を除いた $(X-Y)\times\mathbf A^1$ への制限が $h_{X-Y}$ の像に入ることを示せばよい。[条件付き:被約な閉集合の特異点集合の次元が真に下がることを引用]
  2. 因子の生成的な主性(原論文 §4 Lemme 3、印字 4-29):既約な非特異の $X$ とアフィン直線の積の上の因子は、$X$ の空でない開集合 $U$ をとれば、$U\times\mathbf A^1$ の上で主因子になる。[条件付き:正規ネーター整域の高さ 1 の素イデアルについての Krull の可換環論を引用]
  3. 完全性と補助公理からホモトピーへ(原論文 §4 Proposition 5、印字 4-27〜4-29):弱い公理系と足した仮定 (BC) の下で、完全性の公理 (E) と補助公理 (Z)(HD) からホモトピーの公理 (H) が出る。[条件付き:1・2 と、既約多様体の積・非特異な空間の成分・像の閉包の次元を引用。足した仮定 (BC) の下]
    主結果 1 は公理 (E) と (I.1) だけから図式の追跡で閉じ、足した仮定 (BC) を使わない。主結果 2 は可換環論だけの主張で、公理を使わない。主結果 3 は 1・2 を組み合わせ、(Z) で元を超曲面からの直像に書き、(HD) で超曲面の類を殺す。その途中の 3 か所で、閉部分からの直像を開部分に制限する入れ替え (BC) を使う。

背景と動機

原論文 Gro58b の §4 は、以下の三つの節では $A(X)$ が代数幾何のサイクルの類の群である場合に特有の性質を調べる、と述べて始まる(印字 4-26)。§4 と §5 で要るのは §1 の公理系の一部だけで、その一部を取り出すことで得られる一般性は見かけだけのものではない、と原論文は続ける。得られる結果は、有理同値や代数的同値によるサイクルの類の群、層の類の群にも、特異な空間を含めて当てはまるからである。
取り出す公理系では、引き戻しは開部分への同型にしか無く、直像は閉部分への同型にしか無い。そこに二つの公理を足す。完全性の公理 (E) は、閉部分からの直像と開部分への制限が完全列をなすことを言い、後代の言葉ではサイクル類群の局所化の完全列にあたる(第 0 章の頁『0-3 サイクル・Chow 環・K 群と対称式』の定理「Chow 群の局所化の完全列とホモトピー不変性」)。ホモトピーの公理 (H) は、$X\times\mathbf A^1$ の類がすべて $X$ の類とアフィン直線の外積で書けることを言い、後代の $\mathbf A^1$ ホモトピー不変性の全射の部分にあたる。原論文の §5 と §6 は、この二つの公理だけを使って射影束公式 (I.11) を証明する(本書『4-2 局所から大域へと射影束公式』)。
二つの公理を個々の理論で確かめるために、原論文はもっと確かめやすい二つの補助公理を置く。(Z) は $A(X)$ が本当にサイクルの類の群であることを言い、(HD) はホモトピーの公理を因子に弱めたものである。Proposition 5 は (E) と (Z)(HD) から (H) を導き、線形同値の理論ではこの命題を使ってホモトピーの公理を示す(本書『3-2 線形同値の理論』)。
ただし原論文の証明には、公理系に無い操作が一つ入っている。閉部分からの直像をとってから開部分に制限することと、先に閉部分を開部分で切ってから直像をとることが一致する、という入れ替えである。§1 の公理系なら、非特異な空間については横断的な底変換の公理 (I.8) がこれを与えるが(本書『1-2 横断的な底変換と射影公式』の主結果「開部分への制限と直像」)、§4 の弱い公理系には開の射と閉の射を結ぶ公理が一つも無い。本書はこの入れ替えを (BC) と呼び、本書が足した仮定として公理系に加える。

定義と準備

まず圏とデータを置く。§1 の公理系(本書『1-1 データと公理と積の構造』)と比べると、圏の条件が強くなり、データが弱くなっている。

弱い公理系

条件 (V.3):$X\in\mathcal V$ の開部分に同型な代数的空間と、$X$ の非特異な閉部分空間に同型な代数的空間はすべて $\mathcal V$ に属する。$X,Y\in\mathcal V$ なら $X\times Y\in\mathcal V$ で、アフィン直線 $\mathbf A^1$ は $\mathcal V$ に属する。
弱い公理系とは、(V.3) を満たす $\mathcal V$ の上の次のデータと公理である。

  1. 引き戻し:$f\colon X\to Y$ が $X$ から $Y$ の開部分への同型のときにだけ $f^*\colon A(Y)\to A(X)$ が与えられる。
  2. 直像:$f\colon X\to Y$ が $X$ から $Y$ の閉部分への同型のときにだけ $f_*\colon A(X)\to A(Y)$ が与えられる。
  3. 外積 $A(X)\otimes_\Lambda A(Y)\to A(X\times Y)$ と、既約な $X$ の増大 $\varepsilon\colon A(X)\to\Lambda$(本書『1-1 データと公理と積の構造』の定義「交叉理論のデータ」の c、d)。
  4. 各 $X\in\mathcal V$ の元 $1_X\in A(X)$。
  5. 関手則 $(gf)^*=f^*g^*$、$(gf)_*=g_*f_*$ と、恒等射についての同様の式。
  6. 公理 (I.1)〜(I.7)(本書『1-1 データと公理と積の構造』の定義「公理 (I.1)〜(I.7)」。引き戻しと直像は上の 1・2 の射についてだけ読む)。
  7. 単位元の式 (2):$1_X\times1_Y=1_{X\times Y}$、開部分への同型 $f\colon X\to Y$ について $f^*(1_Y)=1_X$、既約な $X$ について $\varepsilon(1_X)=1$。

一点は $\mathbf A^1$ の非特異な閉部分空間なので、(V.3) により $\mathcal V$ に属し、(I.5)(I.6) は意味をもつ。§1 では $1_X$ は一点からの引き戻しで定めたが、ここでは一点への構造射の引き戻しが無いので、$1_X$ をデータとして与え、§1 で主結果として示した式 (2)(本書『1-1 データと公理と積の構造』の定理「単位元と外積の基本式」の 2)を公理として置く。同じ理由で、$X\times\mathbf A^1$ の元 $x\times1_{\mathbf A^1}$ は第一射影による引き戻しではなく外積であり、本書はこれを $h_X$ と書く(原論文は $p_X^*$ と書く)。
(I.1) は、開部分への同型 $j$ と閉部分への同型 $i$ について
$$(j\times\mathrm{id})^*\,h_X=h_U\,j^*,\qquad(i\times\mathrm{id})_*\,h_Y=h_X\,i_*$$
を与える(恒等射 $\mathrm{id}_{\mathbf A^1}$ は開部分への同型でも閉部分への同型でもあり、$\mathrm{id}^*1_{\mathbf A^1}=\mathrm{id}_*1_{\mathbf A^1}=1_{\mathbf A^1}$ である)。以下この二つの式を「$h$ と制限・直像の可換性」と呼ぶ。

完全性の公理とホモトピーの公理

公理 (E)(完全性):$X\in\mathcal V$、$Y$ を $X$ の閉部分で $Y\in\mathcal V$ となるもの、$U=X-Y$ とし、$i\colon Y\to X$、$j\colon U\to X$ を包含とする。このとき
$$A(Y)\xrightarrow{\ i_*\ }A(X)\xrightarrow{\ j^*\ }A(U)\longrightarrow0$$
は完全である。
公理 (H)(ホモトピー):各 $X\in\mathcal V$ について $h_X\colon A(X)\to A(X\times\mathbf A^1)$、$x\mapsto x\times1_{\mathbf A^1}$ は全射である。

(E) の $U$ は開部分なので (V.3) により $\mathcal V$ に属する。(E) から、$j^*i_*=0$ であること、開部分への制限が全射であること、制限で消える元が閉部分からの直像であることが読み取れる。原論文は (E) の矢印を $i^*$、$j_*$ と印字するが(印字 4-26)、弱い公理系では閉部分への引き戻しも開部分からの直像も無いので、そのままでは写像が定義されない。直前のデータの制限と、Proposition 5 の証明の図式 (*) に合わせて $i_*$、$j^*$ と読む。
原論文は (H) の直後に、この公理が成り立つ知られた場合ではどれも $h_X$ が全単射であることまで示せるが、それは要らない、と括弧書きで添える(印字 4-27)。原論文はそう述べる。本書は確かめる筋だけを示す。すべての射の引き戻しをもつ §1 の公理系の理論では、$h_X=\mathrm{pr}_1^*$(本書『1-1 データと公理と積の構造』の定理「単位元と外積の基本式」の 3)で、零切断 $s\colon X\to X\times\mathbf A^1$ について $s^*\mathrm{pr}_1^*=(\mathrm{pr}_1s)^*=\mathrm{id}$ なので $h_X$ は単射になる。弱い公理系ではこの $s^*$ がデータに無いので、この筋は使えない。本書はこの所見を主張として数えない。
次に二つの補助公理を置く。原論文は (Z) が「$A(X)$ がサイクルの類の群であること」を本質的に表すと述べる(印字 4-27)。

補助公理 (Z) と (HD)

公理 (Z):$X\in\mathcal V$ が既約で非特異、$\dim X=n\ge1$ で、$x\in A(X)$ が $\varepsilon(x)=0$ を満たすとする。このとき、次元 $n-2$ 以下の閉集合 $R\subset X$、$X'=X-R$ の閉で非特異な超曲面 $H$、$x'\in A(H)$ があって、$j^*(x)=i_*(x')$ となる。ここで $j\colon X'\to X$、$i\colon H\to X'$ は包含である。
公理 (HD)(因子についてのホモトピー):$X\in\mathcal V$ が既約で非特異、$Y$ が $X$ の非特異な超曲面で、$Y$ の定める因子が $0$ に線形同値なら、包含 $i\colon Y\to X$ について $i_*(1_Y)=0$ である。
ここで超曲面とは、各既約成分の余次元が 1 の閉部分空間をいう。$X'$ と $H$ は (V.3) により $\mathcal V$ に属する。因子が $0$ に線形同値であるとは、主因子であること、すなわち $X$ のある有理関数 $g$ について $\operatorname{div}(g)$ に等しいことをいう。

因子についての「$0$ に線形同値」は古典的な意味(主因子)で読む。主因子はアフィン直線上の族 $Z$ の $Z(0)-Z(1)$ の形に書けるので(第 0 章の頁『0-3 サイクル・Chow 環・K 群と対称式』の定理「因子と直線束の対応」の (3))、第 0 章で定めたサイクルの線形同値の意味でも $0$ に線形同値である。原論文は (HD) の既約性の仮定を「$V$ irréductible」と印字するが(印字 4-27)、$X$ の誤りである。原論文は (Z) を次元を限らずに述べる(印字 4-27)。本書が (Z) を $n\ge1$ に限ったのは、$n=0$ では超曲面が空になり、空集合は圏に属さないからである。$n=0$ の既約な $X$ は一点で、(I.5)(I.2)(I.7) により $\varepsilon\colon A(X)\to\Lambda$ は同型なので、$\varepsilon(x)=0$ なら $x=0$ で、(Z) の結論は要らない。
最後に、本書が足す仮定を置く。名前に「本書が足した仮定」と入れるのは、これが原論文の公理ではないことを明示するためである。

本書が足した仮定 (BC):開部分への制限と閉部分からの直像の入れ替え

(BC):$i\colon Y\to X$ が閉部分への同型、$j\colon U\to X$ が開部分への同型で $Y\in\mathcal V$ なら、$j^*i_*=(i_{Y\cap U})_*\,j_{Y\cap U}^*$ である。ここで $Y\cap U$ は $i^{-1}(j(U))$ で、$i_{Y\cap U}\colon Y\cap U\to U$、$j_{Y\cap U}\colon Y\cap U\to Y$ は包含である。
$Y\cap U$ は $Y$ の開部分なので、空でなければ (V.3) により $\mathcal V$ に属し、右辺は意味をもつ。$Y\cap U$ が空のときは、右辺を $0$ と読む。

公理 (E) の下では、$Y\cap U$ が空の場合は仮定を足す必要がない。そのとき $j(U)\subset X-i(Y)$ なので、$j^*i_*$ は $X-i(Y)$ への制限を経由し、(E) によりそこで $i_*$ の像は $0$ になるからである。したがって (BC) の中身は、$Y\cap U$ が空でない場合の等式である。

(BC) を足す理由と使う所

弱い公理系の公理のうち、引き戻しと直像を一つの式の中で結ぶのは (I.7) だけで、そこでは同型、または開かつ閉な部分への同型しか扱わない。(I.1)〜(I.7)、(2)、(E)、(H)、(Z)、(HD) のどれも、一般の開部分への制限と閉部分からの直像の合成を結ばない((E) が与えるのは、上の定義の直後に見た $Y\cap U$ が空の場合だけである)。したがって (BC) を公理から導く道は見当たらない。ただし本書は、(BC) が公理から独立であることを示す例までは作っていない。導けるかどうかを決めないまま、原論文の証明が必要とする形の (BC) を、原論文の公理ではない仮定として足す。
Proposition 5 の証明(下の定理(完全性と補助公理からホモトピーへ))は (BC) を 3 か所で使う。(Z) で得た閉集合 $R$ を除く段、(Z) を超曲面の上でもう一度使って直像の元を $1$ の倍数に帰着する段、(HD) を開部分の上で当てた結果を元の空間に戻す段である。原論文は前の二つを印字 4-28 の末尾($R$ を空と仮定してよい、と置く所)と印字 4-29 の冒頭で、最後を印字 4-29 の Lemme 3 の後で、どれも断らずに行う。次元の帰納法の補題(下の定理(次元の帰納法の補題))は (BC) を使わない。
(BC) は、線形同値によるサイクル類群ではサイクルの水準で成り立つ。閉部分空間の上のサイクルを押し出してから開部分に制限することは、各成分を開部分と交わらせてから押し出すことと同じだからである(本書『3-2 線形同値の理論』の主結果「線形同値の理論は弱い公理系と (BC) を満たす」)。したがって原論文の Théorème 2(同頁の主結果「線形同値の理論の完全性とホモトピー」)は、足した仮定に依らない。

引用する事実

次の事実は証明せずに引用する。出典は主に Wei46、Zar47、Krull35、ZS58 で、該当箇所の番号は本頁では確認していない。要点は第 0 章の頁『0-2 代数多様体・横断性・射影束と旗多様体』の定理「既約性と次元の基本」と、第 0 章の頁『0-3 サイクル・Chow 環・K 群と対称式』の定理「正規ネーター整域と高さ 1 の素イデアル」にある。

  1. 特異点集合の次元:被約な代数的空間 $Y$ の非特異点の全体は開で稠密で、特異点集合 $\operatorname{Sing}Y$ は閉で $\dim\operatorname{Sing}Y<\dim Y$ である。$Y-\operatorname{Sing}Y$ は $Y$ の開部分で非特異である。列 $Y\supset\operatorname{Sing}Y\supset\operatorname{Sing}(\operatorname{Sing}Y)\supset\cdots$ は有限回で空になる。
  2. 既約性と成分:既約な $X$、$Y$ の積 $X\times Y$ は既約で $\dim(X\times Y)=\dim X+\dim Y$ である。非特異な空間の既約成分は互いに交わらず、連結成分と一致し、開かつ閉である。非特異な空間の積は非特異である。既約な $X$ の空でない開集合の補集合は $\dim X$ 未満の次元をもつ。
  3. 像の閉包の次元:射 $f\colon Z\to X$ について $\dim\overline{f(Z)}\le\dim Z$ である。
  4. 因子と素イデアル:$X$ が既約で非特異なアフィン多様体、$A$ がその座標環なら、$A[t]$ は $X\times\mathbf A^1$ の座標環で正規ネーター整域であり、$X\times\mathbf A^1$ の素因子(既約な余次元 1 の閉部分)は $A[t]$ の高さ 1 の素イデアルと一対一に対応する。$0$ でない $f\in A$ について $A_f[t]$ も正規ネーター整域で、その単項な素イデアル $(P)$ は高さ 1 で、$\operatorname{div}(P)$ は重複度 1 の素因子 $[(P)]$ そのものである。
  5. 多項式環の素イデアル:$A$ を整域、$K$ をその分数体、$S=A-\{0\}$ とすると、$A[t]$ の素イデアル $\mathfrak p$ で $\mathfrak p\cap A=0$ となるものは、$K[t]$ の素イデアル $\mathfrak p'$ と $\mathfrak p=\mathfrak p'\cap A[t]$ で対応する。$K[t]$ は単項イデアル整域である。有限生成加群 $M$ と積閉集合 $S$ について $S^{-1}M=0$ なら、ある $f\in S$ で $fM=0$ である。
    これで公理系と道具が揃った。まず次元の帰納法の骨組みを補題として取り出し、次に因子の補題を示し、最後に二つを組み合わせる。

主結果と証明

次元の帰納法

Proposition 5 は $\dim X$ についての帰納法で示す。その各段で使う形を、原論文は Lemme 2 とその系として取り出している。要点は、開部分の上で $h$ の像に入ることが、補集合の非特異な部分の上の帰納法の仮定と (E) によって、一段大きい開部分に持ち上がることである。

次元の帰納法の補題

$X\in\mathcal V$、$n=\dim X$ とし、$\dim Z< n$ のすべての $Z\in\mathcal V$ について (H) が成り立つとする。$Y\subset X$ を $\dim Y< n$ の閉集合(被約な閉部分空間とみる)、$Y'=\operatorname{Sing}Y$、$U=X-Y$、$U'=X-Y'$ とし、$x\in A(X\times\mathbf A^1)$ とする。

  1. $x$ の $U\times\mathbf A^1$ への制限が $h_U$ の像に入るなら、$x$ の $U'\times\mathbf A^1$ への制限は $h_{U'}$ の像に入る(原論文 Lemme 2)。
  2. $x$ の $U\times\mathbf A^1$ への制限が $h_U$ の像に入るなら、$x$ は $h_X$ の像に入る(原論文 Lemme 2 の系)。

段 1(空間の確認).$Y$ が空なら $U=X$ で 1・2 は自明なので、$Y$ は空でないとする。$U$、$U'$ は $X$ の開部分なので (V.3) により $\mathcal V$ に属する。$Y_1:=Y-Y'$ は、引用する事実 1 により空でない非特異な空間で、$U'$ の中で閉である($Y_1=Y\cap U'$)。よって (V.3) により $Y_1\in\mathcal V$、$Y_1\times\mathbf A^1\in\mathcal V$ で、$U=U'-Y_1$ である。包含を $i\colon Y_1\to U'$、$j\colon U\to U'$、$\bar i=i\times\mathrm{id}$、$\bar j=j\times\mathrm{id}$ と書く。
段 2(図式).次の図式を考える。
$$\begin{array}{ccccccc}A(Y_1)&\xrightarrow{\ i_*\ }&A(U')&\xrightarrow{\ j^*\ }&A(U)&\to&0\\ \downarrow h_{Y_1}&&\downarrow h_{U'}&&\downarrow h_U&&\\ A(Y_1\times\mathbf A^1)&\xrightarrow{\ \bar i_*\ }&A(U'\times\mathbf A^1)&\xrightarrow{\ \bar j^*\ }&A(U\times\mathbf A^1)&\to&0\end{array}$$
$h$ と制限・直像の可換性((I.1))により図式は可換である。上の行は (E) を $U'$ とその閉部分 $Y_1$ に、下の行は (E) を $U'\times\mathbf A^1$ とその閉部分 $Y_1\times\mathbf A^1$ に当てたものなので、どちらの行も完全である。$\dim Y_1\le\dim Y< n$ なので、帰納法の仮定により左の縦の矢印 $h_{Y_1}$ は全射である。
段 3(1 の証明).$\xi'$ を $x$ の $U'\times\mathbf A^1$ への制限とする。関手則により $\bar j^*\xi'$ は $x$ の $U\times\mathbf A^1$ への制限で、仮定により $\bar j^*\xi'=h_U(u)$、$u\in A(U)$ と書ける。上の行の完全性で $u=j^*u'$、$u'\in A(U')$ ととれる。可換性から $\bar j^*(\xi'-h_{U'}(u'))=h_U(u)-h_U(j^*u')=0$ で、下の行の完全性により $\xi'-h_{U'}(u')=\bar i_*\eta$、$\eta\in A(Y_1\times\mathbf A^1)$ と書ける。$h_{Y_1}$ の全射性で $\eta=h_{Y_1}(y)$ とすると、可換性から $\bar i_*h_{Y_1}(y)=h_{U'}(i_*y)$ である。よって $\xi'=h_{U'}(u'+i_*y)$ で、1 が示された。
段 4(2 の証明).$Y^{(0)}=Y$、$Y^{(m+1)}=\operatorname{Sing}Y^{(m)}$ とおく。引用する事実 1 により $\dim Y^{(m)}< n$ で、ある $N$ で $Y^{(N)}=\emptyset$ となる。1 を $Y^{(m)}$ に当てることを $m=0,1,\dots,N-1$ と繰り返すと、$x$ の $(X-Y^{(m)})\times\mathbf A^1$ への制限が $h_{X-Y^{(m)}}$ の像に入ることが $m$ について帰納的に分かる。$m=N$ では $X-Y^{(N)}=X$ で、制限は $x$ 自身なので、$x\in\operatorname{Im}h_X$ である。

段 2 の下の行の完全性を、原論文は (H) から出るとして印字するが(印字 4-28)、(H) は証明しようとしている主張なので、そのままでは循環する。(E) の誤りである。系の証明の「Lemme 1 から」も Lemme 2 の誤りである(同頁)。
2 から、(H) を示すには $X$ から次元 $n$ 未満の閉集合を除いてよい。しかも除く操作は繰り返せる。$X$ の閉集合 $T_1$($\dim T_1< n$)を除いた開部分 $X_1$ で、さらにその閉集合 $T_2$ を除くと、除いた全体 $T_1\cup T_2=T_1\cup\overline{T_2}$ は $X$ の閉集合で次元は $n$ 未満だからである。以下これを「次元の低い閉集合を除く原理」と呼ぶ。この骨組みは、本書『4-1 積空間と層別による生成』の層別による生成と、本書『4-2 局所から大域へと射影束公式』の局所から大域への定理にも現れる。

因子の生成的な主性

Proposition 5 の最後の段では、超曲面の定める因子が主因子であることが要る。一般には主因子でないが、底 $X$ の空でない開集合に制限すれば主因子になる。これは可換環論の補題である。

因子の生成的な主性

$X$ を既約な非特異の代数的空間、$D$ を $X\times\mathbf A^1$ の上の因子とする。このとき $X$ の空でない開集合 $U$ があって、$D$ の $U\times\mathbf A^1$ への制限は主因子である。

段 1(帰着).$D=\sum_\alpha n_\alpha D_\alpha$ を素因子の和とする。各 $D_\alpha$ について空でない開集合 $U_\alpha$ と有理関数 $g_\alpha$ で $D_\alpha|_{U_\alpha\times\mathbf A^1}=\operatorname{div}(g_\alpha)$ となるものがあれば、$X$ は既約なので $U=\bigcap_\alpha U_\alpha$ は空でなく、$D|_{U\times\mathbf A^1}=\operatorname{div}(\prod_\alpha g_\alpha^{n_\alpha})$ である。よって $D$ は素因子としてよい。$X$ の空でないアフィン開集合 $X_0$ をとり、$X_0$ の中で開集合を見つければ $X$ の開集合でもあるので、$X$ はアフィンとしてよい。$A$ を $X$ の座標環とすると、引用する事実 4 により $D$ は $A[t]$ の高さ 1 の素イデアル $\mathfrak p$ に対応する。
段 2(射影が稠密でない場合).$D$ の $X$ への射影の閉包 $Z$ が $X$ と異なるなら、$U=X-Z$ は空でなく、$D\cap(U\times\mathbf A^1)=\emptyset$ なので、制限は $0=\operatorname{div}(1)$ である。
段 3(射影が稠密な場合の素イデアル).射影が稠密なら $\mathfrak p\cap A=0$ である。実際、$0$ でない $a\in\mathfrak p\cap A$ があれば $D\subset V(a)\times\mathbf A^1$ で、射影は真の閉集合 $V(a)$ に入る。$S=A-\{0\}$、$K$ を $A$ の分数体とすると、引用する事実 5 により $\mathfrak p=\mathfrak p'\cap A[t]$ となる $K[t]$ の素イデアル $\mathfrak p'$ があり、$\mathfrak p\neq0$ なので $\mathfrak p'\neq0$ である。$K[t]$ は単項イデアル整域なので $\mathfrak p'=PK[t]$ で、分母を払って $P\in A[t]$ にとれる。このとき $P\in\mathfrak p'\cap A[t]=\mathfrak p$ である。
段 4(開集合 $U$ の選び方).$\mathfrak q:=PA[t]\subset\mathfrak p$ とおく。$S^{-1}\mathfrak p=\mathfrak p'=PK[t]=S^{-1}\mathfrak q$ なので $S^{-1}(\mathfrak p/\mathfrak q)=0$ である($\mathfrak p'$ の元 $y/s$ について $y=s\cdot(y/s)\in\mathfrak p'\cap A[t]=\mathfrak p$ だから $S^{-1}\mathfrak p=\mathfrak p'$)。$A[t]$ はネーター環なので $\mathfrak p/\mathfrak q$ は有限生成で、引用する事実 5 により、ある $f\in S$ で $f\mathfrak p\subset\mathfrak q$ となる。すると $\mathfrak pA_f[t]=PA_f[t]$ である($x\in\mathfrak p$ は $x=(fx)/f$ と書ける)。$U:=\{f\ne0\}=\operatorname{Spec}A_f$ とおくと、$U$ は $X$ の空でない開集合である。
段 5(主因子であること).$f\notin\mathfrak p$ なので $\mathfrak pA_f[t]$ は $A_f[t]$ の素イデアルで、$D\cap(U\times\mathbf A^1)$ に対応する。引用する事実 4 により $A_f[t]$ は正規ネーター整域で、単項な素イデアル $PA_f[t]$ について $\operatorname{div}(P)$ は重複度 1 の素因子 $D\cap(U\times\mathbf A^1)$ そのものである。よって $D|_{U\times\mathbf A^1}=\operatorname{div}(P)$ は主因子である。

原論文はこの補題を Proposition 5 の証明の途中で述べ、証明を後回しにして「Lemme 2 の証明が残る」と書き始め、「Lemme 2 の証明が終わる」と閉じる(印字 4-29)。どちらも Lemme 3 の誤りである。補題そのものの証明は原論文と同じ筋で、段 4 の括弧の中の $S^{-1}\mathfrak p=\mathfrak p'$ と、段 5 の素因子の重複度を補った。

完全性と補助公理からホモトピーへ

二つの補題が揃ったので、Proposition 5 を証明する。証明の筋は、(Z) で元を超曲面からの直像に書き、その超曲面の上でもう一度 (Z) を使って $1$ の倍数に帰着し、最後に (HD) で超曲面の類そのものを殺す、というものである。各段で次元の低い閉集合を除き、そのたびに (BC) で直像を開部分に制限する。

完全性と補助公理からホモトピーへ

$\mathcal V$ と理論は弱い公理系を満たし、本書が足した仮定 (BC) を満たすとする。公理 (E)、(Z)、(HD) が成り立つなら、公理 (H) が成り立つ。すなわちすべての $X\in\mathcal V$ について $h_X\colon A(X)\to A(X\times\mathbf A^1)$ は全射である。

$n=\dim X$ についての帰納法で示す。$n\ge0$ とし、次元 $n$ 未満の $\mathcal V$ の対象では (H) が成り立つとする($n=0$ ではこの仮定は空である)。$X\in\mathcal V$、$\dim X=n$、$x\in A(X\times\mathbf A^1)$ として、$x\in\operatorname{Im}h_X$ を示す。上の定理(次元の帰納法の補題)の 2 と、その後に述べた次元の低い閉集合を除く原理により、以下の各段で $X$ から次元 $n$ 未満の閉集合を有限回除き、残った開部分 $X_0$ について $x$ の $X_0\times\mathbf A^1$ への制限が $h_{X_0}$ の像に入ることを示せば足りる。除いたあとの開部分を改めて $X$ と書き、$x$ もその制限で置き換える。$\operatorname{Im}h_X$ は部分加群なので、$x$ を像に入る元の和に分ければ、各項について示せばよい。
段 1(非特異で既約な場合への帰着).$\operatorname{Sing}X$ は次元 $n$ 未満の閉集合なので(引用する事実 1)、除いて $X$ は非特異とする。$X$ の既約成分 $X_\alpha$ は互いに交わらない開部分で(引用する事実 2)、(V.3) により $\mathcal V$ に属する。$f_\alpha\colon X_\alpha\to X$ を包含とすると、(I.7) を $X$ と $X\times\mathbf A^1=\bigsqcup_\alpha X_\alpha\times\mathbf A^1$ に当て、$h$ と制限・直像の可換性を使えば、$x_\alpha:=(f_\alpha\times\mathrm{id})^*x$ がすべて $h_{X_\alpha}(y_\alpha)$ と書けるとき $x=h_X\bigl(\sum_\alpha(f_\alpha)_*y_\alpha\bigr)$ である。次元が $n$ 未満の成分では帰納法の仮定が使える。よって $X$ は既約で非特異、$\dim X=n$ とする。
段 2(増大が 0 の場合への帰着).引用する事実 2 により $X\times\mathbf A^1$ は既約で非特異、次元 $n+1$ である。式 (2) により $1_{X\times\mathbf A^1}=1_X\times1_{\mathbf A^1}=h_X(1_X)$ で、$\varepsilon(1_{X\times\mathbf A^1})=1$ である。$x$ を $x-\varepsilon(x)1_{X\times\mathbf A^1}$ に置き換えれば、$\varepsilon(x)=0$ としてよい。
段 3((Z) による超曲面からの直像).(Z) を $X\times\mathbf A^1$(次元 $n+1\ge1$)に当てると、次元 $n-1$ 以下の閉集合 $R$、$W_0:=X\times\mathbf A^1-R$ の閉で非特異な超曲面 $H$、$x'\in A(H)$ があって、$x$ の $W_0$ への制限は $i_*(x')$ である($i\colon H\to W_0$)。$R$ の $X$ への射影の閉包を $T$ とすると、引用する事実 3 により $\dim T\le n-1< n$ である。$R\subset T\times\mathbf A^1$ なので $(X-T)\times\mathbf A^1$ は $W_0$ の開部分である。(BC) を $W_0$ の閉部分 $H$ と開部分 $(X-T)\times\mathbf A^1$ に当てると、$i_*(x')$ の $(X-T)\times\mathbf A^1$ への制限は、$H_T:=H\cap((X-T)\times\mathbf A^1)$ からの $x'$ の制限の直像である($H_T$ が空なら制限は $0$ で、$x$ の制限は $h$ の像に入る)。$T$ を除いて $X-T$ を改めて $X$ と書けば、$H$ は $X\times\mathbf A^1$ の閉で非特異な超曲面で、$x=i_*(x')$($i\colon H\to X\times\mathbf A^1$)となる。原論文は、系により $R$ は空と仮定してよい、とだけ書いてこの置き換えを行う(印字 4-28)。
段 4(超曲面が既約な場合への帰着).$H$ の既約成分 $H_\beta$ は互いに交わらない開部分で $\mathcal V$ に属する。(I.7) により $x'=\sum_\beta(f_\beta)_*f_\beta^*x'$($f_\beta\colon H_\beta\to H$)で、直像の関手則から $x=\sum_\beta(if_\beta)_*(f_\beta^*x')$ である。各項について示せばよいので、$H$ は既約とする。$\dim H=n$ である。
段 5($1_H$ の倍数への帰着).$x'=\varepsilon(x')1_H+x''$、$\varepsilon(x'')=0$ と分ける。$x''$ の直像 $i_*(x'')$ が $\operatorname{Im}h_X$ に入ることを示す。$n=0$ なら $H$ は一点で、(I.5)(I.2)(I.7) により $\varepsilon\colon A(H)\to\Lambda$ は同型なので $x''=0$ である。$n\ge1$ とする。(Z) を $H$ に当てると、次元 $n-2$ 以下の閉集合 $R'\subset H$、$H-R'$ の閉で非特異な超曲面 $W$、$w\in A(W)$ があって、$x''$ の $H-R'$ への制限は $W$ からの $w$ の直像である。$R'$ の $X$ への射影の閉包を $T'$ とすると $\dim T'\le n-2$ で、$T'$ を除く。$X_1:=X-T'$、$H_1:=H\cap(X_1\times\mathbf A^1)$ とおくと、$H_1$ は $H-R'$ の開部分である。(BC) を二度使う。まず $H-R'$ の閉部分 $W$ と開部分 $H_1$ に当てて、$x''$ の $H_1$ への制限は $W_1:=W\cap H_1$ からの $w$ の制限の直像である。次に $X\times\mathbf A^1$ の閉部分 $H$ と開部分 $X_1\times\mathbf A^1$ に当てて、$i_*(x'')$ の $X_1\times\mathbf A^1$ への制限は、$H_1$ からの $x''$ の制限の直像である。直像の関手則により、$i_*(x'')$ の $X_1\times\mathbf A^1$ への制限は、$X_1\times\mathbf A^1$ の閉で非特異な部分 $W_1$(次元 $n-1$)からの直像 $\iota_*(w_1)$ である($W_1$ が空なら制限は $0$ である)。$W_1$ の $X_1$ への射影の閉包を $T_2$ とすると $\dim T_2\le n-1< n$ である。$W_1\in\mathcal V$ に (E) を当てると、$X_1\times\mathbf A^1-W_1$ への制限で $\iota_*$ の像は $0$ になり、$(X_1-T_2)\times\mathbf A^1$ はその開部分なので、$i_*(x'')$ の $(X_1-T_2)\times\mathbf A^1$ への制限は $0\in\operatorname{Im}h$ である。次元の低い閉集合を除く原理($T'$ と $T_2$ を除く)により $i_*(x'')\in\operatorname{Im}h_X$ である。したがって $x\equiv\varepsilon(x')\,i_*(1_H)$ を $\operatorname{Im}h_X$ を法として示せばよく、$i_*(1_H)\in\operatorname{Im}h_X$ を示せば足りる。
段 6((HD) で超曲面の類を殺す).$X$ は既約で非特異なので、上の定理(因子の生成的な主性)を $H$ の定める素因子に当てると、$X$ の空でない開集合 $U$ があって、$H_U:=H\cap(U\times\mathbf A^1)$ の定める因子は $U\times\mathbf A^1$ の上で主因子である。$H_U$ が空なら $i_*(1_H)$ の $U\times\mathbf A^1$ への制限は $0$ である。空でなければ、$U\times\mathbf A^1$ は既約で非特異、$H_U$ はその非特異な超曲面で $\mathcal V$ に属するので、(HD) により $(i_U)_*(1_{H_U})=0$ である($i_U\colon H_U\to U\times\mathbf A^1$)。(BC) と式 (2)(開部分への制限で $1_H$ は $1_{H_U}$ に移る)により、$i_*(1_H)$ の $U\times\mathbf A^1$ への制限は $(i_U)_*(1_{H_U})=0\in\operatorname{Im}h_U$ である。$X-U$ は次元 $n$ 未満の閉集合なので(引用する事実 2)、上の定理(次元の帰納法の補題)の 2 により $i_*(1_H)\in\operatorname{Im}h_X$ である。段 5 と合わせて $x\in\operatorname{Im}h_X$ で、帰納法が閉じる。

段 5 は、原論文が「(Z) を再び当てて $x'=1_V$ の場合に帰着できる」と一文で済ませる所(印字 4-29)を書き下したものである。(Z) を超曲面 $H$ に当てると直像の元は $W$ という一段低い部分から来るが、その台の射影は $X$ の次元 $n$ 未満の閉集合に収まるので、次元の帰納法の補題がそれを吸収する。段 5 の $n=0$ の場合は原論文に無いが、(Z) を次元 0 に当てられない以上、(I.5) で片づける必要がある。
こうして Proposition 5 は、(BC) を足した弱い公理系の命題として閉じた。(BC) の使い所は段 3・段 5・段 6 の 3 か所で、次元の帰納法の補題と因子の補題は使わない。

原論文の印字の読み

原論文の §4 のこの部分には、次の印字の不備がある。本頁の主張は訂正した形で述べた。

  1. (E) の矢印(印字 4-26):$A(Y)\to A(X)\to A(U)\to0$ の矢印が $i^*$、$j_*$ と印字されている。$i_*$、$j^*$ と読む。
  2. (HD) の仮定(印字 4-27):「$V$ irréductible」は $X$ の誤り。
  3. Lemme 2 の証明(印字 4-28):下の行の完全性の根拠が「(H)」と印字されている。(H) は証明中の主張なので循環する。(E) と読む。
  4. Lemme 2 の系の証明(印字 4-28):「Lemme 1 から」は Lemme 2 の誤り。
  5. Lemme 3 の証明(印字 4-29):冒頭の「Lemme 2 の証明が残る」と末尾の「Lemme 2 の証明が終わる」の 2 か所は、どちらも Lemme 3 の誤り。

例と反例

最初の例は、次元 0 の場合に証明をたどる。この場合は除く閉集合が現れないので、(BC) を一度も使わずに済むことが見える。

次元 0 の場合の証明

弱い公理系と (E)(Z)(HD) を満たす理論で、$X=\mathrm{pt}$ とする。$x\in A(\mathbf A^1)$ をとる。段 2 のとおり $x-\varepsilon(x)1_{\mathbf A^1}$ に置き換えて $\varepsilon(x)=0$ とし、(Z) を $\mathbf A^1$(次元 1)に当てる。$R$ は次元 $-1$ 以下なので空で、$\mathbf A^1$ の閉で非特異な超曲面 $H$、すなわち有限個の点 $a_1,\dots,a_r$ と $x'\in A(H)$ で $x=i_*(x')$ となるものがある。(I.7) により $x=\sum_m(i_m)_*(x'_m)$($i_m\colon\{a_m\}\to\mathbf A^1$)で、一点の環は (I.5)(I.2)(I.7) により $\Lambda1_{\{a_m\}}$ なので、$x'_m=\lambda_m1_{\{a_m\}}$ である。点 $a_m$ の定める因子は座標 $t$ の一次式 $t-a_m$ の主因子なので、(HD) により $(i_m)_*(1_{\{a_m\}})=0$ である。よって $x=0$ で、もとの $x$ は $\varepsilon(x)1_{\mathbf A^1}=h_{\mathrm{pt}}(\varepsilon(x)1_{\mathrm{pt}})$ に等しい。
さらに (I.3) と式 (2) により $\varepsilon(h_{\mathrm{pt}}(y))=\varepsilon(y)\varepsilon(1_{\mathbf A^1})=\varepsilon(y)$ で、$\varepsilon\colon A(\mathrm{pt})\to\Lambda$ は同型なので、$h_{\mathrm{pt}}$ は単射でもある。したがってこの理論では $A(\mathbf A^1)\cong\Lambda$ で、$h_{\mathrm{pt}}$ は全単射である。この計算では、底から閉集合を除く段が一度も現れず(段 3 の $T$ は空で、段 6 の $U$ は一点そのもの)、(BC) を使っていない。

ホモトピーの公理がアフィン直線について述べられていることは本質的である。射影直線に替えると、射影束公式を満たすどの理論でも成り立たない。

反例:アフィン直線を射影直線に替えるとホモトピーの公理の形は成り立たない

外す条件は、(H) の $\mathbf A^1$ をアフィン直線にとることである。これを射影直線 $\mathbf P^1=P(V)$($\dim V=2$)に替えた主張「$x\mapsto x\times1_{\mathbf P^1}$、$A(X)\to A(X\times\mathbf P^1)$ は全射」を考える。理論は §1・§2 の公理系((V.1)(V.2) と (I.1)〜(I.11))を満たし、係数環 $\Lambda$ は $0$ でないとする。$X=\mathrm{pt}$ とすると $A(\mathrm{pt})=\Lambda1_{\mathrm{pt}}$ で、像は $\Lambda1_{\mathbf P^1}$ である。一方 (I.11) を一点の上で使うと $1,\xi_V$ は $A(\mathbf P^1)$ の $\Lambda$ 基底なので、$\Lambda\ne0$ なら $\xi_V$ は像に入らない。よって射影直線に替えた主張は成り立たない。
Proposition 5 の証明のどこが壊れるかも見える。点 $a\in\mathbf P^1$ は $L_V$ の横断的な切断の零点なので、本書『2-1 直線束の類と射影束の一次独立』の定理「射影空間の線形部分空間の類」により $[\{a\}]=\xi_V\neq0$ である。点の定める因子は主因子でなく(次数が $1$ である)、しかも底が一点なので、因子の生成的な主性のように底を小さくして主因子にすることもできない。(HD) にあたる段がここで破れる。

二つの例を並べると、アフィン直線の上では点の因子が主因子になることが、(HD) を通してホモトピーの公理を支えていることが分かる。

その後の発展

以下は原論文の主張ではなく、後代の結果の紹介である(時点を明記する。本書が文献を開いて確かめていないものはそう書く)。

  • 局所化の完全列とホモトピー不変性(Fulton Ful98、初版 1984 年):任意の有限型スキームの Chow 群について、閉部分からの押し出しと開部分への制限が完全列をなし、アフィン束への平坦な引き戻しが全射、ベクトル束では同型であることが示された(第 0 章の頁『0-3 サイクル・Chow 環・K 群と対称式』の定理「Chow 群の局所化の完全列とホモトピー不変性」)。原論文の (E) と (H) はその原型で、Fulton の枠組みでは開部分への制限と閉部分からの押し出しの入れ替え(本書の (BC) にあたる)は、固有押し出しと平坦引き戻しの両立として定理になる。本書は該当箇所の番号を確かめていない。
  • 高次の Chow 群(Bloch、1986 年):Bloch は Chow 群を高次の群に延ばし、(E) の完全列を左に長く延ばした長完全列と、アフィン直線についてのホモトピー不変性を得たとされる。本書は文献を確かめておらず、参考文献表に載せていない。
  • $\mathbf A^1$ ホモトピー理論(Morel と Voevodsky、1999 年):アフィン直線を単位区間の代わりにするホモトピー論が作られ、(H) の型のホモトピー不変性が理論の出発点に置かれた。本書は文献を確かめておらず、参考文献表に載せていない。
  • 代数的コボルディズム(Levine–Morel LevMor07、2007 年):標数 0 の非特異準射影多様体の上の普遍な向き付けられたコホモロジー理論で、局所化の完全列とホモトピー不変性をもつ。本書は文献を確かめていない。

原論文との対応表

本頁が対応する原論文は Sur quelques propriétés fondamentales en théorie des intersections Gro58b の §4 前半(印字 4-26〜4-29)である。

本頁原論文印字頁
定義(弱い公理系)§4 冒頭、(V.3)、データの制限、(I.1)〜(I.7) と (2)4-26
定義(完全性の公理とホモトピーの公理)(E)、(H) と (H) の N.B.4-26〜4-27
定義(補助公理 (Z) と (HD))(Z)、(HD) と「本質的にサイクルの類の群」の説明4-27
定義(本書が足した仮定 (BC):開部分への制限と閉部分からの直像の入れ替え)、注意((BC) を足す理由と使う所)原論文に無い。Proposition 5 の証明が黙って使う4-28〜4-29
定理(次元の帰納法の補題)Proposition 5 の証明の図式 (*)、Lemme 2 とその系4-27〜4-28
定理(因子の生成的な主性)Lemme 3 とその証明4-29
定理(完全性と補助公理からホモトピーへ)Proposition 5 とその証明4-27〜4-29
注意(原論文の印字の読み)(E) の矢印、(HD) の仮定、Lemme 2 の証明と系、Lemme 3 の証明4-26〜4-29
例(次元 0 の場合の証明)、反例(アフィン直線を射影直線に替えるとホモトピーの公理の形は成り立たない)原論文に無い—

原論文は Proposition 5 の証明の直後に、線形同値によるサイクル類群が §4 の公理系を「明らかに」満たすと述べて Théorème 2 に進む(印字 4-29)。その確認と Théorème 2 は本書『3-2 線形同値の理論』で扱う。

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