l'Hôpitalの定理(高校数学)

同義語:ロピタルの定理(高校数学)l'Hôpital's rule (high school mathematics)

概要

l'Hôpitalの定理(l'Hôpital's rule)とは、$\frac00$ の形の極限を導関数の比の極限で求める定理であり、ここでは高校生向けに証明する。$f,g$ が $[a,b)$ で連続、$(a,b)$ で微分可能で、$f(a)=g(a)=0$、$(a,b)$ で $g'\ne0$、かつ $\lim_{x\to a+0}\frac{f'(x)}{g'(x)}=L$ が存在すれば、$\lim_{x\to a+0}\frac{f(x)}{g(x)}=L$ である。証明は Cauchy の平均値の定理で分母と分子に同じ点 $c$ をとる。$\frac00$ の形でないとき、$\frac{f'}{g'}$ の極限がないとき、$g'$ が $0$ になる点が無数にあるときは、結論が成り立つとは限らない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 平均値の定理による差の評価, 微分係数と導関数の定義(高校数学), 関数の極限, 指数関数, 三角関数

高校での出発点:$\frac00$ の形の極限

$\lim_{x\to0}\frac{\sin x}x=1$ のように、分母も分子も $0$ に近づく極限($\frac00$ の形、不定形)は、そのまま代入しても値が決まらない。高校では式変形やはさみうちで求めるが、「分母と分子をそれぞれ微分すれば求まる」という方法を聞いたことがある人も多いだろう。この方法が l'Hôpital の定理である。l'Hôpital の定理は高校数学の範囲(学習指導要領)には含まれないが、その中身は平均値の定理の一種である。
まず、平均値の定理そのものを極限に使う例を見る。

平均値の定理で極限を求める

$\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{e^x-e^{\sin x}}{x-\sin x}$ を求める。分母・分子とも $0$ に近づく。
段 1(分母は $0$ でない)。$x\ne0$ のとき $\sin x\ne x$ である。実際、$0< x<\frac\pi2$ では $\sin x< x$ であり(高校で $\lim_{x\to0}\frac{\sin x}x=1$ を示すときに、扇形と三角形の面積の比較で使う不等式)、$x\ge\frac\pi2$ では $\sin x\le1<\frac\pi2\le x$ である。$x<0$ のときは、$\sin(-x)=-\sin x$ なので $x>0$ の場合に帰着する。
段 2(平均値の定理)。$e^t$ に、$\sin x$ と $x$ を両端とする区間で平均値の定理を使うと、$(e^t)'=e^t$ なので
$$ e^x-e^{\sin x}=e^c\,(x-\sin x) $$
となる $c$ が $\sin x$ と $x$ の間にある。
段 3(極限)。分母で割って $\frac{e^x-e^{\sin x}}{x-\sin x}=e^c$ である。$x\to0$ のとき $\sin x\to0$ なので、間にある $c$ も $0$ に近づき、$e^c\to e^0=1$ である。よって極限は $1$ である。数値では $x=0.01$ で $1.01005\ldots$ である。

この例では、分子を「分母 × 導関数の値」の形に書けたので極限が求まった。一般の $\frac{f(x)}{g(x)}$ では、分母 $g$ も関数なので、$f$ と $g$ の両方に同じ点 $c$ で平均値の定理を使う必要がある。それが Cauchy の平均値の定理である。
この記事で答える問いは次のとおりである。

  • 2 つの関数の差の比を、導関数の比で書けるか。→ thm-lhr-cauchy
  • 「分母・分子をそれぞれ微分してよい」のはなぜか、どんな条件のもとでか。→ thm-lhr-lhopital
  • 条件を満たさないと、何が起こるか。→ 節「例と反例」
    高校で見ることこの記事の言葉ボックス
    弦の傾き=接線の傾き曲線の弦と平行な接線thm-lhr-cauchy
    分母・分子をそれぞれ微分する$\frac{f'}{g'}$ の極限が $\frac fg$ の極限になるthm-lhr-lhopital
    何回か微分してから代入する定理を内側からくり返し使うex-lhr-repeat

前提とする事実

前提とする事実
  1. Rolle の定理:$a< b$ とし、$h$ が $[a,b]$ で連続、$(a,b)$ で微分可能で $h(a)=h(b)$ ならば、$h'(c)=0$ となる $c\in(a,b)$ がある。これは 平均値の定理による差の評価の記事で証明した。
  2. 微分可能な関数は連続である。$(e^x)'=e^x$、$(\sin x)'=\cos x$、$(\cos x)'=-\sin x$、$(\log x)'=\frac1x$、$\lim_{x\to0}\frac{\sin x}x=1$(これらは l'Hôpital の定理を使わずに示されている)。

Cauchy の平均値の定理

証明の前に、$c$ が求まる例を見る。

$c$ を求める

$f(x)=x^3$、$g(x)=x^2$、$[a,b]=[0,1]$ とする。$\frac{f(1)-f(0)}{g(1)-g(0)}=\frac{1-0}{1-0}=1$ である。$\frac{f'(c)}{g'(c)}=\frac{3c^2}{2c}=\frac32c$ なので、これが $1$ に等しくなるのは $c=\frac23$ のときで、確かに $0<\frac23<1$ である。
$f$ と $g$ に別々に平均値の定理を使うと、$f(1)-f(0)=3c_1^2$ から $c_1=\frac1{\sqrt3}=0.577\ldots$、$g(1)-g(0)=2c_2$ から $c_2=\frac12$ で、$c_1\ne c_2$ である。別々に使うと点がずれるので、比 $\frac{f'(c_1)}{g'(c_2)}$ は「1 つの点での導関数の比」にならない。

Cauchy の平均値の定理

$a< b$ とし、$f,g$ は $[a,b]$ で連続、$(a,b)$ で微分可能とする。このとき
$$ \bigl(f(b)-f(a)\bigr)g'(c)=\bigl(g(b)-g(a)\bigr)f'(c) $$
となる $c\in(a,b)$ が存在する。特に、$(a,b)$ のすべての点で $g'(x)\ne0$ ならば $g(b)\ne g(a)$ であり、
$$ \frac{f(b)-f(a)}{g(b)-g(a)}=\frac{f'(c)}{g'(c)} $$
となる $c\in(a,b)$ が存在する。

交差させた組合せに Rolle の定理を使う

方針:両端で同じ値をとる関数 $h$ を $f$ と $g$ から作り、Rolle の定理を使う。
段 1(補助の関数)。
$$ h(x):=\bigl(f(b)-f(a)\bigr)g(x)-\bigl(g(b)-g(a)\bigr)f(x) $$
とおく。$f(b)-f(a)$ と $g(b)-g(a)$ は定数なので、$h$ は $[a,b]$ で連続、$(a,b)$ で微分可能で、$h'(x)=\bigl(f(b)-f(a)\bigr)g'(x)-\bigl(g(b)-g(a)\bigr)f'(x)$ である。
段 2(両端の値)。展開すると
$$ h(a)=f(b)g(a)-f(a)g(a)-g(b)f(a)+g(a)f(a)=f(b)g(a)-g(b)f(a) $$
$$ h(b)=f(b)g(b)-f(a)g(b)-g(b)f(b)+g(a)f(b)=f(b)g(a)-g(b)f(a) $$
なので $h(a)=h(b)$ である。
段 3(Rolle の定理)。rem-lhr-premises の 1 により $h'(c)=0$ となる $c\in(a,b)$ がある。段 1 の $h'$ の式から、これが最初の等式である。
段 4($g(b)\ne g(a)$)。$(a,b)$ で $g'\ne0$ とする。もし $g(b)=g(a)$ なら、$g$ に rem-lhr-premises の 1(Rolle の定理)を使って $g'(c')=0$ となる $c'\in(a,b)$ があり、仮定に反する。よって $g(b)\ne g(a)$ である。
段 5(比の形)。段 3 の $c$ では $g'(c)\ne0$ であり、段 4 から $g(b)-g(a)\ne0$ である。最初の等式の両辺を $\bigl(g(b)-g(a)\bigr)g'(c)$ で割って後半を得る。$\square$

$g(x)=x$ とすると $g'=1$ なので、thm-lhr-cauchy は平均値の定理になる。
Cauchy の平均値の定理の図 Cauchy の平均値の定理の図
図 1 は、$t$ を動かしたときの点 $\bigl(g(t),f(t)\bigr)=(t^2,t^3)$ が描く曲線である(ex-lhr-cauchy-example の $f,g$)。両端 $t=0,1$ を結ぶ弦の傾きは $\frac{f(1)-f(0)}{g(1)-g(0)}=1$ であり、$t=c=\frac23$ での接線の傾き $\frac{f'(c)}{g'(c)}$ も $1$ で、弦と平行になっている。一般に thm-lhr-cauchy は、この曲線の弦と、ある点 $c$ での速度ベクトル $\bigl(g'(c),f'(c)\bigr)$ が平行になる(速度ベクトルが $\boldsymbol0$ の場合も含む)という主張である。速度ベクトルが $\boldsymbol0$ でなければ、弦と平行な接線がある。

主定理:l'Hôpital の定理

l'Hôpital の定理($\frac{0}{0}$ の形)

$a< b$ とし、$f,g$ は $[a,b)$ で連続、$(a,b)$ で微分可能で、次を満たすとする。

  1. $f(a)=g(a)=0$。
  2. $(a,b)$ のすべての点で $g'(x)\ne0$。
  3. 極限 $L:=\displaystyle\lim_{x\to a+0}\frac{f'(x)}{g'(x)}$ が存在する($L$ は実数、または $\pm\infty$)。
    このとき $(a,b)$ で $g(x)\ne0$ であり、$\displaystyle\lim_{x\to a+0}\frac{f(x)}{g(x)}=L$ である。左からの極限 $x\to a-0$ についても同様であり、両側で仮定が成り立てば $x\to a$ の極限についても成り立つ。
区間 $[a,x]$ に Cauchy の平均値の定理を使う

方針:$\frac{f(x)}{g(x)}$ を $\frac{f(x)-f(a)}{g(x)-g(a)}$ と見て、Cauchy の平均値の定理で導関数の比に書き換える。
段 1(区間 $[a,x]$ での仮定)。$a< x< b$ とする。$f,g$ は $[a,x]$ で連続、$(a,x)$ で微分可能で、$(a,x)$ で $g'\ne0$ である。
段 2(書き換え)。thm-lhr-cauchy により $g(x)-g(a)\ne0$ であり、仮定 1 から $g(a)=0$ なので $g(x)\ne0$ である。さらに
$$ \frac{f(x)}{g(x)}=\frac{f(x)-f(a)}{g(x)-g(a)}=\frac{f'(c_x)}{g'(c_x)} $$
となる $c_x\in(a,x)$ がある(最初の等号は仮定 1 の $f(a)=g(a)=0$ による)。
段 3(極限)。$a< c_x< x$ なので、$x\to a+0$ のとき $c_x\to a+0$ である。仮定 3 より、$t\to a+0$ のとき $\frac{f'(t)}{g'(t)}\to L$ なので、$t$ として $c_x$ をとれば $\frac{f'(c_x)}{g'(c_x)}\to L$ である。段 2 からこれは $\frac{f(x)}{g(x)}$ に等しいので、$\frac{f(x)}{g(x)}\to L$ である。
段 4(左から)。$x< a$ のときは、区間 $[x,a]$ で同じ議論をすればよい。$\square$

証明で決定的に効いているのは、段 2 で分母と分子の $c$ が同じであることである。「分母・分子をそれぞれ微分してよい」という言い方の中身は、この等式である。

1 回使う例

$\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{e^x-1-x}{x^2}$ を求める。$f(x)=e^x-1-x$、$g(x)=x^2$ は $f(0)=g(0)=0$ を満たし、$x\ne0$ で $g'(x)=2x\ne0$ である。導関数の比は $\frac{e^x-1}{2x}$ であり、$\lim_{x\to0}\frac{e^x-1}x=1$($e^x$ の $0$ での微分係数)から $\frac12$ に近づく。thm-lhr-lhopital により
$$ \lim_{x\to0}\frac{e^x-1-x}{x^2}=\frac12 $$
である。数値では $x=0.1$ で $0.5170\ldots$、$x=0.01$ で $0.5016\ldots$ である。

くり返し使う例

$\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{x-\sin x}{x^3}$ を求める。
段 1(1 回目)。$f(x)=x-\sin x$、$g(x)=x^3$ は $f(0)=g(0)=0$、$x\ne0$ で $g'(x)=3x^2\ne0$ を満たす。導関数の比は $\frac{1-\cos x}{3x^2}$ である。
段 2(2 回目)。$F(x)=1-\cos x$、$G(x)=3x^2$ も $F(0)=G(0)=0$、$x\ne0$ で $G'(x)=6x\ne0$ を満たす。導関数の比は $\frac{\sin x}{6x}$ であり、$\lim_{x\to0}\frac{\sin x}x=1$ から $\frac16$ に近づく。
段 3(内側から戻る)。段 2 の極限が存在するので、thm-lhr-lhopital により $\lim\frac{1-\cos x}{3x^2}=\frac16$ である。この極限が存在するので、もう一度 thm-lhr-lhopital を使って $\lim\frac{x-\sin x}{x^3}=\frac16$ である。
まとめて書くと
$$ \lim_{x\to0}\frac{x-\sin x}{x^3}=\lim_{x\to0}\frac{1-\cos x}{3x^2}=\lim_{x\to0}\frac{\sin x}{6x}=\frac16 $$
であるが、等号は右から順に正当化される(右端の極限が存在するから、その 1 つ左の極限も存在する)ことに注意する。数値では $x=0.1$ で $0.16658\ldots$ である。

$x\to\infty$ の場合

$x\to\infty$ で $f,g\to0$ となる場合も、$t=\frac1x$ とおけば $t\to+0$ の場合に帰着できる。そのとき、thm-lhr-lhopital の仮定(とくに $g'\ne0$)が書き換えた後の関数でも成り立つように、仮定を次のようにおく。

$x\to\infty$ の場合

ある $A>0$ があって、$f,g$ は $x>A$ で微分可能で、$x>A$ のすべての点で $g'(x)\ne0$ であり、$x\to\infty$ で $f(x)\to0$、$g(x)\to0$ とする。極限 $L:=\displaystyle\lim_{x\to\infty}\frac{f'(x)}{g'(x)}$ が存在する($L$ は実数、または $\pm\infty$)ならば、$x>A$ で $g(x)\ne0$ であり、$\displaystyle\lim_{x\to\infty}\frac{f(x)}{g(x)}=L$ である。

$t=\frac{1}{x}$ とおいて主定理に帰着する

方針:$t=\frac1x$ とおいて、区間 $[0,\frac1A)$ で thm-lhr-lhopital($a=0$、$b=\frac1A$)を使う。
段 1(関数を作る)。$b:=\frac1A$ とする。$0< t< b$ なら $\frac1t>A$ なので、$F(t):=f\bigl(\frac1t\bigr)$、$G(t):=g\bigl(\frac1t\bigr)$ が定まる。さらに $F(0):=0$、$G(0):=0$ と定める。
段 2(連続性と微分可能性)。$0< t< b$ では、$F$ は微分可能な関数 $\frac1t$ と $f$ の合成なので微分可能であり、したがって連続である。$G$ も同様である。$t\to+0$ のとき $\frac1t\to\infty$ なので、仮定から $F(t)=f\bigl(\frac1t\bigr)\to0=F(0)$、$G(t)\to0=G(0)$ である。よって $F,G$ は $[0,b)$ で連続、$(0,b)$ で微分可能である。
段 3(導関数)。合成関数の微分法から、$0< t< b$ で
$$ F'(t)=-\frac1{t^2}f'\Bigl(\frac1t\Bigr),\qquad G'(t)=-\frac1{t^2}g'\Bigl(\frac1t\Bigr) $$
である。$\frac1t>A$ なので $g'\bigl(\frac1t\bigr)\ne0$ であり、$G'(t)\ne0$ である。また $\frac{F'(t)}{G'(t)}=\frac{f'(1/t)}{g'(1/t)}$ である。
段 4(主定理を使う)。$t\to+0$ のとき $x=\frac1t\to\infty$ なので、$\frac{F'(t)}{G'(t)}=\frac{f'(x)}{g'(x)}\to L$ である。こうして $F,G$ は $a=0$、$b=\frac1A$ として thm-lhr-lhopital の仮定をすべて満たす(仮定 1 は $F(0)=G(0)=0$、仮定 2 は段 3、仮定 3 はいま示したこと)。よって $(0,b)$ で $G(t)\ne0$ であり、$\displaystyle\lim_{t\to+0}\frac{F(t)}{G(t)}=L$ である。
段 5($x$ に戻す)。$x>A$ なら $t=\frac1x$ は $0< t< b$ を満たし、$g(x)=G(t)\ne0$、$\frac{f(x)}{g(x)}=\frac{F(t)}{G(t)}$ である。$x\to\infty$ のとき $t=\frac1x\to+0$ なので、段 4 から $\frac{f(x)}{g(x)}\to L$ である。$\square$

$x\to\infty$ での例

$\displaystyle\lim_{x\to\infty}x\log\Bigl(1+\frac1x\Bigr)=\lim_{x\to\infty}\frac{\log(1+\frac1x)}{\frac1x}$ を求める。$f(x)=\log\bigl(1+\frac1x\bigr)$、$g(x)=\frac1x$ はどちらも $0$ に近づく。$x>0$ なら $1+\frac1x>0$ なので $f,g$ は $x>0$ で微分可能であり、次のとおり $g'(x)=-\frac1{x^2}\ne0$ である。したがって cor-lhr-infinity の仮定を $A=1$(どの $A>0$ でもよい)で満たす。
$$ f'(x)=\frac{1}{1+\frac1x}\cdot\Bigl(-\frac1{x^2}\Bigr),\qquad g'(x)=-\frac1{x^2} $$
なので $\frac{f'(x)}{g'(x)}=\frac1{1+\frac1x}\to1$ である。cor-lhr-infinity により、極限は $1$ である。数値では $x=10$ で $0.9531\ldots$、$x=100$ で $0.9950\ldots$ である。この極限は $\bigl(1+\frac1x\bigr)^x\to e$ と同じ内容である(1の∞乗型の極限)。

分母・分子がどちらも $\pm\infty$ に発散する $\frac\infty\infty$ の形でも、同様の定理が成り立つ。その証明は少し長くなるので、本記事では証明しない(Rud76 Theorem 5.13 は $\frac00$ と $\frac\infty\infty$ の両方の形を含む)。

例と反例

l'Hôpital の定理には、仮定の見落としによる誤用が多い。

外した仮定崩れる主張ボックス
仮定 1($\frac00$ の形)$\lim\frac fg=\lim\frac{f'}{g'}$ex-lhr-not-indeterminate
仮定 3($\frac{f'}{g'}$ の極限の存在)定理は何も言わない(逆向きの誤用)ex-lhr-converse
仮定 2($g'\ne0$)$\lim\frac fg=\lim\frac{f'}{g'}$ex-lhr-stolz
導関数が極限と独立にわかっていること論証として正しいことrem-lhr-circular
反例:$\frac{0}{0}$ の形でないのに使う

$\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{x+1}{x+2}=\frac12$ である(そのまま代入できる)。ところが分母・分子を微分すると $\frac11=1$ になり、答えが違う。$f(0)=1\ne0$ で、thm-lhr-lhopital の仮定 1 を満たさないからである。証明の段 2 で $f(x)=f(x)-f(a)$ と書いた所が成り立たない。

反例:導関数の比の極限がないときは何も言えない

$f(x)=x^2\sin\frac1x$($x\ne0$)、$f(0)=0$、$g(x)=x$ とする。
段 1(比は $0$ に近づく)。$x\ne0$ で $\frac{f(x)}{g(x)}=x\sin\frac1x$ であり、$\bigl|\sin\frac1x\bigr|\le1$ から $\bigl|x\sin\frac1x\bigr|\le|x|$ なので、はさみうちで $\lim_{x\to0}\frac{f(x)}{g(x)}=0$ である。
段 2(導関数の比は振動する)。$x\ne0$ で、積と合成関数の微分法から $f'(x)=2x\sin\frac1x+x^2\cos\frac1x\cdot\bigl(-\frac1{x^2}\bigr)=2x\sin\frac1x-\cos\frac1x$ であり、$g'(x)=1$ である。$m$ を正の整数として、$x=\frac1{2m\pi}$ では $\sin\frac1x=0$、$\cos\frac1x=1$ なので $\frac{f'}{g'}=-1$、$x=\frac1{(2m+1)\pi}$ では $\cos\frac1x=-1$ なので $\frac{f'}{g'}=1$ である。$m\to\infty$ でどちらの $x$ も $0$ に近づくので、$\frac{f'}{g'}$ は $x\to0$ で極限をもたない。
仮定 3 が満たされないとき、thm-lhr-lhopital は $\frac fg$ の極限について何も言わない。「$\frac{f'}{g'}$ の極限がないから $\frac fg$ の極限もない」と逆向きに使うのは誤りである。

比は収束するが導関数の比は振動する例 比は収束するが導関数の比は振動する例
図 2 の太い青の曲線 $x\sin\frac1x$ は $0$ に近づくが、細い赤の曲線 $2x\sin\frac1x-\cos\frac1x$ は、$x\to0$ で $-1$ に近い値と $1$ に近い値を交互にとって振動し続ける($x=\frac1{2m\pi}$ でちょうど $-1$、$x=\frac1{(2m+1)\pi}$ でちょうど $1$。項 $2x\sin\frac1x$ があるので、値は少しだけ $\pm1$ の外にも出る)。なお、この $f$ は $x=0$ でも微分可能で $f'(0)=\lim_{h\to0}\frac{h^2\sin(1/h)}h=0$ だが、$f'$ は $0$ で連続でない。導関数は連続とは限らないが、中間値の性質はもつ(Darbouxの定理、Leb26 Theorem 4.2.11、p. 167。本記事では証明しない)。

反例:分母の導関数が 0 になる点が無数にある

$x\to\infty$ で
$$ f(x)=x+\sin x\cos x,\qquad g(x)=e^{\sin x}\bigl(x+\sin x\cos x\bigr) $$
を考える。$\sin x\cos x\ge-\frac12$ から $f(x)\ge x-\frac12$、$e^{\sin x}\ge e^{-1}$ から $g(x)\ge\frac{f(x)}e$ なので、どちらも $\infty$ に発散する($\frac\infty\infty$ の形)。
計算すると $f'(x)=2\cos^2x$、$g'(x)=e^{\sin x}\cos x\,\bigl(x+\sin x\cos x+2\cos x\bigr)$ であり、$\cos x\ne0$ となる $x$ では
$$ \frac{f'(x)}{g'(x)}=\frac{2\cos x\,e^{-\sin x}}{x+\sin x\cos x+2\cos x} $$
である。分子の絶対値は $2e$ 以下である($|\cos x|\le1$、$e^{-\sin x}\le e$)。分母は $\sin x\cos x\ge-\frac12$、$2\cos x\ge-2$ から $x-\frac52$ 以上であり、$x>3$ なら $x-3$ より大きく正である。よって $x>3$ で比の絶対値は $\frac{2e}{x-3}$ 以下であり、$0$ に近づく。
ところが $\frac{f(x)}{g(x)}=e^{-\sin x}$ は $e^{-1}$ と $e$ の間を振動し続け、極限をもたない。$g'$ は $x=\frac\pi2+m\pi$ で $0$ になり、「$g'(x)\ne0$」という仮定を満たさないため、Cauchy の平均値の定理で比を書き換える議論が使えない。この種の反例は Stolz(1879)に遡る(Sto79)。
この例は $\frac\infty\infty$ の形だが、本記事で証明した $\frac00$ の形の反例にも直せる。$x>3$ では $f(x)\ge x-\frac12>0$、$g(x)\ge\frac{f(x)}e>0$ なので、$F:=\frac1f$、$G:=\frac1g$ とおける。$x\to\infty$ で $F,G\to0$ であり、$\frac FG=\frac gf=e^{\sin x}$ は振動し続ける。一方、$F'=-\frac{f'}{f^2}$、$G'=-\frac{g'}{g^2}$ から $\frac{F'}{G'}=\frac{f'}{g'}\cdot\Bigl(\frac gf\Bigr)^2=\frac{f'}{g'}\,e^{2\sin x}$ であり、$e^{2\sin x}\le e^2$ なので、$\cos x\ne0$ となる $x>3$ でその絶対値は $\frac{2e}{x-3}\cdot e^2=\frac{2e^3}{x-3}$ 以下であり、$0$ に近づく。$G'=-\frac{g'}{g^2}$ は $g'$ と同じ点 $x=\frac\pi2+m\pi$ で $0$ になるので、cor-lhr-infinity の仮定のうち外れているのは「$g'\ne0$」に当たる条件だけである。さらに $t=\frac1x$ とおけば、$t\to+0$ での $\frac00$ の形で、thm-lhr-lhopital の仮定 2 だけが外れた反例になる。

注意:循環論法

$\lim_{x\to0}\frac{\sin x}x=1$ を、l'Hôpital の定理で「$\lim\frac{\cos x}1=1$」と求めるのは、高校の流儀では循環論法になる。$(\sin x)'=\cos x$ という公式そのものを、この極限を使って導いているからである。l'Hôpital の定理は、導関数がすでに(求めたい極限とは独立に)わかっている関数に使う道具である。

同じく $\lim_{h\to0}\frac{e^h-1}h=1$ を l'Hôpital の定理で求めるのも循環になる。導関数を使わずに示す方法は 指数関数の微分 で扱う。

さらに先へ

  • Taylor の定理との関係。 ex-lhr-repeat の極限は、Taylor の定理で $\sin x$ を「$x-\frac{x^3}6$ に $x^5$ 程度の小さな項を足したもの」と書けば、$\frac{x-\sin x}{x^3}$ は「$\frac16$ に $x^2$ 程度の小さな項を足したもの」となって $\frac16$ に近づく、とも求まる(関数の近似とテイラー展開)。くり返し l'Hôpital の定理を使う計算は、Taylor 展開の係数を 1 つずつ取り出す計算になっている。
  • 数列版。 数列の比 $\frac{a_n}{b_n}$ について、差の比 $\frac{a_{n+1}-a_n}{b_{n+1}-b_n}$ の極限から元の比の極限を求める Stolz–Cesàro の定理がある(本記事では扱わない。Stolz–Cesàroの定理(高校数学) で扱う)。
  • 大学での扱い。 $\frac\infty\infty$ の形の証明を含む一般の形は、大学向けの記事 l'Hôpitalの定理 で扱う。

関連項目

参考文献

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