剰余の定理と因数定理(remainder theorem and factor theorem)とは、係数が有理数・実数・複素数のような体 $K$ の多項式 $f(x)$ について、$x-a$ で割った余りが $f(a)$ に等しく(剰余の定理)、特に $f(a)=0$ と $f$ が $x-a$ で割り切れることが同値である(因数定理)という定理である。根拠は、$g\ne0$ で割ったときの商と余り(余りは $0$ か $g$ より低い次数)がただ 1 組に定まる多項式の割り算の定理である。因数定理をくり返すと、$0$ でない $n$ 次多項式の $K$ での根は $n$ 個以下と分かる。係数を $\mathbb{Z}/8\mathbb{Z}$ にすると $x^2-1$ が 4 個の根をもつように、根の個数の主張には「積が $0$ なら一方が $0$」という体の性質が効いている。
高校では、多項式(整式)を $x-a$ で割った余りを、割り算をせずに $x=a$ を代入して求める。これが 剰余の定理 である。余りが $0$ になれば $x-a$ で割り切れる。これが 因数定理 で、3 次以上の式を因数分解するときの入口になる。まず計算例を 3 つ見る。
$f(x)=x^3-2x^2+4x-5$ を $x-2$ で割った余りを求める。$x=2$ を代入すると
$$
f(2)=8-8+8-5=3
$$
なので、余りは $3$ である。実際に割り算をすると、商は $x^2+4$ で
$$
(x-2)(x^2+4)+3=x^3-2x^2+4x-8+3=x^3-2x^2+4x-5
$$
となり、確かに余りは $3$ である。
$g(x)=x^3-6x^2+11x-6$ に $x=1$ を代入すると $g(1)=1-6+11-6=0$ である。よって $g(x)$ は $x-1$ で割り切れ、割り算をすると
$$
g(x)=(x-1)(x^2-5x+6)=(x-1)(x-2)(x-3)
$$
となる。$g(x)=0$ の解は $x=1,2,3$ である。
$x^{10}$ を $(x-1)(x-2)$ で割った余りを求める。2 次式で割った余りは 1 次以下なので、商を $q(x)$、余りを $\alpha x+\beta$($\alpha,\beta$ は定数)とおいて
$$
x^{10}=(x-1)(x-2)q(x)+\alpha x+\beta
$$
と書く。$x=1$ を代入すると $1=\alpha+\beta$、$x=2$ を代入すると $1024=2\alpha+\beta$ である。後の式から前の式を引いて $\alpha=1023$、よって $\beta=1-1023=-1022$ で、余りは $1023x-1022$ である。
これらの計算は、次の疑問を残す。
| 高校の計算 | 大学の見方 |
|---|---|
| 整式の割り算 | 多項式の割り算の定理(商と余りの存在と一意性) |
| $x=a$ を代入して余りを出す | 剰余の定理(代入は和と積を保つ) |
| $f(a)=0$ なら $x-a$ で割り切れる | 因数定理 |
| $n$ 次方程式の解は $n$ 個以下 | 係数が体なら根は次数以下 |
| 2 次式で割った余りを連立方程式で出す | 余りは 2 点を通る直線(補間) |
以下、$K$ は有理数全体 $\mathbb{Q}$、実数全体 $\mathbb{R}$、複素数全体 $\mathbb{C}$ のどれかとする。この 3 つに共通するのは、和・差・積・商($0$ で割る以外)が自由にでき、「$uv=0$ ならば $u=0$ または $v=0$」が成り立つことである。このような数の集まりを 体 という(後の節で、有限個の元からなる体も出てくる)。
$c_0,c_1,\dots,c_n\in K$ を係数とする式
$$
f(x)=c_nx^n+c_{n-1}x^{n-1}+\dots+c_1x+c_0
$$
を $K$ 係数の 多項式 という。二つの多項式は、同じ次数の項の係数がすべて等しいとき等しいと定める。係数がすべて $0$ の多項式を 零多項式 といい $0$ と書く。$f\ne0$ のとき、$c_n\ne0$ となる最大の $n$ を $f$ の 次数 といい $\deg f$ と書き、そのときの $c_n$ を 最高次の係数 という。零多項式には次数を定めない。$K$ 係数の多項式全体の集合を $K[x]$ と書く。$a\in K$ に対し、$x$ に $a$ を代入した値を $f(a)=c_na^n+\dots+c_1a+c_0$ と書き、$f(a)=0$ となる $a$ を $f$ の 根(方程式 $f(x)=0$ の解)という。
$f(x)=2x+1$、$g(x)=3x^2-1$ のとき $\deg f=1$、$\deg g=2$ である。積は
$$
f(x)g(x)=6x^3+3x^2-2x-1
$$
で、次数は $3=1+2$、最高次の係数は $6=2\cdot3$ である。定数 $5$ は次数 $0$ の多項式である。
ex-rf-deg の観察は一般に成り立つ。
$f,g\in K[x]$ がともに $0$ でなければ、$fg\ne0$ であり $\deg(fg)=\deg f+\deg g$ である。
$\deg f=m$、$\deg g=n$ とし、最高次の係数をそれぞれ $a\ne0$、$b\ne0$ とする。$f$ の項 $c_ix^i$($i\le m$)と $g$ の項 $d_jx^j$($j\le n$)の積の次数は $i+j\le m+n$ で、$i+j=m+n$ となるのは $i=m$ かつ $j=n$ のときだけである。よって $fg$ の $x^{m+n}$ の係数は $ab$ であり、それより高い次数の項はない。$K$ は体なので、$a\ne0$ かつ $b\ne0$ から $ab\ne0$ である。したがって $fg\ne0$ で、$\deg(fg)=m+n$ である。$\square$
次が、整数の割り算(割る数より小さい余りが 1 通りに決まる)の多項式版である。
$f,g\in K[x]$、$g\ne0$ とする。このとき
$$
f=gq+r,\qquad r=0\ \text{または}\ \deg r<\deg g
$$
を満たす $q,r\in K[x]$ がちょうど 1 組存在する。$q$ を 商、$r$ を 余り という。
方針:存在は「最高次の項を 1 つずつ消す」手順を $f$ の次数についての帰納法で正当化し、一意性は次数を比べて示す。$m=\deg g$、$g$ の最高次の係数を $b\ne0$ とする。
段 1(存在、易しい場合):$f=0$ または $\deg f< m$ なら、$q=0$、$r=f$ とすればよい。
段 2(存在、帰納法):$\deg f=n\ge m$ とし、次数が $n$ より小さい多項式(と $0$)については $q,r$ が存在すると仮定する。$f$ の最高次の係数を $a$ とし、
$$
f_1:=f-\frac ab\,x^{n-m}g
$$
とおく。$\frac ab\,x^{n-m}g$ の最高次の項は $\frac ab\,x^{n-m}\cdot bx^m=ax^n$ で、$f$ の最高次の項と一致する。よって $f_1$ では $x^n$ の項が消え、$f_1=0$ または $\deg f_1< n$ である。帰納法の仮定から $f_1=gq_1+r$($r=0$ または $\deg r< m$)と書けるので、
$$
f=f_1+\frac ab\,x^{n-m}g=g\Bigl(q_1+\frac ab\,x^{n-m}\Bigr)+r
$$
であり、$q:=q_1+\frac ab\,x^{n-m}$ とすればよい。ここで $b$ で割ったので、係数が体 $K$ であることを使った。
段 3(一意性):$f=gq+r=gq'+r'$ で、$r,r'$ はどちらも $0$ か次数が $m$ 未満とする。引き算すると
$$
g(q-q')=r'-r
$$
である。もし $q\ne q'$ なら、prop-rf-deg により左辺は $0$ でなく次数は $m+\deg(q-q')\ge m$ である。ところが右辺は $0$ か次数が $m$ 未満であり、矛盾する。よって $q=q'$ であり、そのとき $r'-r=g\cdot0=0$ から $r=r'$ である。$\square$
整数の商と余りについての同じ形の定理と互除法は 整数の割り算と互除法 で扱う。
証明で使うのは次の事実である。多項式どうしの和と積を計算してから $x=a$ を代入しても、代入してから数として和と積を計算しても、結果は同じになる:
$$
(f+g)(a)=f(a)+g(a),\qquad (fg)(a)=f(a)\,g(a).
$$
多項式の和と積は、数の和と積と同じ規則(分配法則・$x^ix^j=x^{i+j}$)で係数を計算して定めたものであり、$a^ia^j=a^{i+j}$ なので、代入してから展開しても同じ値になるからである。
$f\in K[x]$、$a\in K$ とする。$f$ を $x-a$ で割った余りは定数 $f(a)$ である。つまり、ある $q\in K[x]$ があって
$$
f(x)=(x-a)q(x)+f(a).
$$
thm-rf-div を $g=x-a$(次数 $1$)に使うと、$f=(x-a)q+r$ で、$r=0$ または $\deg r<1$ である。どちらの場合も $r$ は定数であり、$r=c$($c\in K$)と書ける。両辺に $x=a$ を代入すると、上で述べた代入の性質から
$$
f(a)=(a-a)\,q(a)+c=0\cdot q(a)+c=c
$$
である。よって余りは $c=f(a)$ である。$\square$
$f(x)=\sum_{k=0}^nc_kx^k$ とすると
$$
f(x)-f(a)=\sum_{k=1}^nc_k\,(x^k-a^k)
$$
であり($k=0$ の項は $c_0-c_0=0$)、各 $k\ge1$ について
$$
x^k-a^k=(x-a)\bigl(x^{k-1}+x^{k-2}a+\dots+xa^{k-2}+a^{k-1}\bigr)
$$
が成り立つ(右辺を展開すると、隣り合う項が打ち消し合って $x^k-a^k$ だけが残る)。たとえば $x^3-a^3=(x-a)(x^2+ax+a^2)$ である。よって $f(x)-f(a)$ は $x-a$ で割り切れ、thm-rf-rem の商は $q(x)=\sum_{k=1}^nc_k\bigl(x^{k-1}+\dots+a^{k-1}\bigr)$ と具体的に書ける。
商と余りを一度に計算する手順が 組立除法 である。
$f(x)=x^3-2x^2+4x-5$ を $x-2$ で割る。係数 $1,-2,4,-5$ を並べ、左から「一つ前の結果に $2$ を掛けて次の係数に足す」をくり返す。
| 係数 | $1$ | $-2$ | $4$ | $-5$ |
|---|---|---|---|---|
| 前の結果 $\times2$ | $2$ | $0$ | $8$ | |
| 和 | $1$ | $0$ | $4$ | $3$ |
最後の和 $3$ が余り $f(2)$、その前の $1,0,4$ が商 $x^2+0x+4$ の係数である。理由:$f(x)=(x-a)(b_2x^2+b_1x+b_0)+r$ の右辺を展開して係数を比べると
$$
1=b_2,\quad -2=b_1-ab_2,\quad 4=b_0-ab_1,\quad -5=r-ab_0
$$
となり、$b_1=-2+ab_2$、$b_0=4+ab_1$、$r=-5+ab_0$ が表の計算そのものである。$f(2)=((1\cdot2-2)\cdot2+4)\cdot2-5$ という値の計算とも一致する。
組立除法の手順が正しい理由は 多項式の筆算と組立除法 で扱う。
余りが $0$ の場合が因数定理である。
$f\in K[x]$、$a\in K$ について、$f(a)=0$ であることと、$f$ が $x-a$ で割り切れること($f=(x-a)q$ となる $q\in K[x]$ があること)は同値である。
$f(a)=0$ なら、thm-rf-rem の式で余りが $0$ なので $f=(x-a)q$ である。逆に $f=(x-a)q$ なら、$x=a$ を代入して $f(a)=(a-a)q(a)=0$ である。$\square$
剰余の定理と因数定理をグラフで見る
図1 は、グラフで見た二つの定理である。左:$y=f(x)$ と直線 $y=f(2)=3$ は $x=2$ で交わる。つまり $f(x)-3$ は $x=2$ を根にもち、$x-2$ で割り切れる。これが「$x-2$ で割った余りが $3$」の意味である。右:ex-rf-start2 の $g(x)$ のグラフが $x$ 軸と交わる点 $x=1,2,3$ が、因数 $x-1$、$x-2$、$x-3$ に対応する。
因数定理をくり返し使うと、根の個数を次数で抑えられる。
$f\in K[x]$ とし、$a_1,\dots,a_k\in K$ は互いに異なる $f$ の根とする。このとき $f$ は $(x-a_1)(x-a_2)\cdots(x-a_k)$ で割り切れる。特に $f\ne0$、$\deg f=n$ なら、$f$ の $K$ における根は $n$ 個以下である。
前半を $k$ についての帰納法で示す。$k=1$ は cor-rf-factor そのものである。$k-1$ 個のときに正しいとし、$a_1,\dots,a_k$ が互いに異なる根であるとする。$f(a_k)=0$ なので、cor-rf-factor により $f=(x-a_k)q$ と書ける。$i=1,\dots,k-1$ について $x=a_i$ を代入すると
$$
0=f(a_i)=(a_i-a_k)\,q(a_i)
$$
である。$a_i\ne a_k$ なので $a_i-a_k\ne0$ であり、$K$ は体だから($uv=0$ なら $u=0$ または $v=0$)$q(a_i)=0$ である。よって $a_1,\dots,a_{k-1}$ は $q$ の互いに異なる根であり、帰納法の仮定から $q=(x-a_1)\cdots(x-a_{k-1})h$ と書ける。したがって $f=(x-a_1)\cdots(x-a_{k-1})(x-a_k)h$ である。
後半:$f\ne0$ が互いに異なる根を $n+1$ 個もつとすると、前半から $f=(x-a_1)\cdots(x-a_{n+1})h$ で、$f\ne0$ なので $h\ne0$ である。prop-rf-deg により $\deg f=(n+1)+\deg h\ge n+1$ となり、$\deg f=n$ に矛盾する。$\square$
この事実から係数比較法と数値代入法の正しさが従うことは 恒等式と未定係数法 で扱う。
$f,g\in K[x]$ の次数がどちらも $n$ 以下で、互いに異なる $n+1$ 個の $a$ で $f(a)=g(a)$ なら、$f=g$ である。$f-g$ が $0$ でないとすると、次数 $n$ 以下なのに根を $n+1$ 個もち、thm-rf-count に反するからである。係数比較と数値代入による恒等式の扱いは、この事実に支えられている。
ex-rf-start2 では $x=1$ を「試しに」代入した。どの数を試せばよいかは次の命題で決まる。
この節の文字 $s,t$ は整数を表す(商の $q(x)$ や素数の $p$ と区別するため)。
$f(x)=c_nx^n+\dots+c_1x+c_0$ は整数係数で、$c_n\ne0$、$c_0\ne0$ とする。既約分数 $\frac st$($s,t$ は整数、$t>0$、$s$ と $t$ は互いに素)が $f$ の根なら、$s$ は $c_0$ を割り切り、$t$ は $c_n$ を割り切る。
$c_0=0$ のときは $0$ が根であり、$f(x)=x\,g(x)$ と $x$ をくくり出してから、$g$ にこの命題を使う($g$ の定数項も $0$ ならさらにくくり出す)。
方針:分母を払って整数の等式にし、整数の割り切れる性質を使う。$c_0\ne0$ で $\frac st$ が根なので $s\ne0$ である。証明では、素因数分解の一意性から従う次の二つの性質を使う。
ex-rf-start3 の計算は、余りのグラフで見ると意味がはっきりする。
$a\ne b$ とする。$f\in K[x]$ を $(x-a)(x-b)$ で割った余り $r(x)$ は、$r(a)=f(a)$、$r(b)=f(b)$ を満たすただ 1 つの 1 次以下の多項式
$$
r(x)=f(a)\,\frac{x-b}{a-b}+f(b)\,\frac{x-a}{b-a}
$$
である。$K=\mathbb{R}$ なら、$y=r(x)$ は $y=f(x)$ のグラフ上の 2 点 $(a,f(a))$、$(b,f(b))$ を通る直線である。
thm-rf-div により $f=(x-a)(x-b)q+r$、$r$ は $0$ か次数 $1$ 以下である。$x=a$、$x=b$ を代入すると $f(a)=r(a)$、$f(b)=r(b)$ である。命題の右辺に書いた多項式を $\ell(x)$ とおく。$\ell$ は 1 次以下で、$x=a$ では第 2 項が $0$、第 1 項が $f(a)\cdot1$ なので $\ell(a)=f(a)$、同様に $\ell(b)=f(b)$ である。すると $r-\ell$ は $0$ か次数 $1$ 以下の多項式で、$a,b$ の 2 つを根にもつ。$0$ でないとすると thm-rf-count により根は $1$ 個以下のはずなので、$r-\ell=0$、つまり $r=\ell$ である。$\square$
$K=\mathbb{R}$ とし、$f'$ を $f$ の導関数とする。$f$ を $(x-a)^2$ で割った余りは $f'(a)(x-a)+f(a)$ である。これは $y=f(x)$ の $x=a$ における接線の式である。
thm-rf-div により $f=(x-a)^2q+r$ で、$r$ は $0$ か 1 次以下なので $r(x)=\alpha(x-a)+\beta$ と書ける($\alpha,\beta$ は定数)。$x=a$ を代入すると $f(a)=\beta$ である。両辺を積の微分法で微分すると
$$
f'(x)=2(x-a)q(x)+(x-a)^2q'(x)+\alpha
$$
であり、$x=a$ を代入すると $f'(a)=\alpha$ である。よって余りは $f'(a)(x-a)+f(a)$ である。$\square$
2 次式で割った余りは直線になる
図2 は ex-rf-chord の二つの余りを $y=x^4$ のグラフに重ねたものである。左の $y=15x-14$ はグラフ上の 2 点 $(1,1)$、$(2,16)$ を通る弦、右の $y=4x-3$ は点 $(1,1)$ における接線である。$(x-1)(x-2)$ の 2 つの根を近づけて $(x-1)^2$ にすると、弦が接線に変わる。接線が $x$ 軸そのものになる場合が、次の重解である。
$K=\mathbb{R}$ とする。$f$ が $(x-a)^2$ で割り切れるとき、$a$ を $f$ の 重解(重根)という。$a$ が $f$ の重解であることと、$f(a)=0$ かつ $f'(a)=0$ であることは同値である。
prop-rf-double により、$f$ を $(x-a)^2$ で割った余りは $f'(a)(x-a)+f(a)=f'(a)\,x+\bigl(f(a)-af'(a)\bigr)$ である。$f$ が $(x-a)^2$ で割り切れることは、この余りが零多項式であること、つまり $x$ の係数 $f'(a)$ と定数項 $f(a)-af'(a)$ がともに $0$ であることと同値である。$f'(a)=0$ のもとでは定数項は $f(a)$ なので、これは $f(a)=0$ かつ $f'(a)=0$ と同値である。$\square$
ex-rf-rational の $f(x)=x^3-3x-2=(x+1)^2(x-2)$ で確かめる。$f'(x)=3x^2-3$ である。
(1) $a=-1$:$f(-1)=-1+3-2=0$、$f'(-1)=3-3=0$ なので、$-1$ は重解である。実際 $f$ は $(x+1)^2$ で割り切れる。
(2) $a=2$:$f(2)=8-6-2=0$ だが $f'(2)=12-3=9\ne0$ なので、$2$ は重解ではない。$f$ を $(x-2)^2$ で割った余りは $9(x-2)+0=9x-18$ である。
これまでの証明では、係数の集まり $K$ が体であること(割り算ができること、$uv=0$ なら $u=0$ または $v=0$)を何度も使った。係数を剰余環 $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$($n$ で割った余りの計算)や整数に変えると、次のように崩れる。
| 外した仮定 | 崩れる主張 | ボックス |
|---|---|---|
| $uv=0$ なら $u=0$ または $v=0$ | 根の個数は次数以下、因数分解の一意性 | ex-rf-z8 |
| 同上 | 積の次数は次数の和 | ex-rf-z6 |
| 係数で割れること | 割り算の定理の存在 | ex-rf-zdiv |
| 元が無限個あること | 値がすべて $0$ なら零多項式 | ex-rf-fp |
係数を $\mathbb{Z}/8\mathbb{Z}$($8$ で割った余り)とする。$x^2-1$ に $x=0,1,\dots,7$ を代入すると、$x=1,3,5,7$ で $x^2-1$ が $0,8,24,48$ となり、どれも $8$ の倍数である。次数 $2$ なのに根が $4$ 個あり、thm-rf-count の結論が崩れる。崩れる場所は証明の「$(a_i-a_k)q(a_i)=0$ から $q(a_i)=0$」である。実際 $x=3$ で $(3-1)(3+1)=2\cdot4=8\equiv0$ だが、$2\not\equiv0$ かつ $4\not\equiv0$ である。さらに
$$
(x-1)(x+1)=x^2-1,\qquad (x-3)(x+3)=x^2-9\equiv x^2-1\pmod 8
$$
なので、同じ多項式が 1 次式の積に 2 通りに分解される。一方、$x-a$ で割る割り算は最高次の係数 $1$ で割るだけなので、因数定理そのものはここでも成り立っている。
係数を $\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$ とすると
$$
(2x+1)(3x+1)=6x^2+5x+1\equiv5x+1\pmod 6
$$
で、次数 $1$ どうしの積が次数 $1$ になる。最高次の係数の積 $2\cdot3=6\equiv0$ が消えるからで、prop-rf-deg の証明の「$ab\ne0$」が破れている。
$x^2$ を $2x+1$ で割る。整数係数の商 $q$ と定数の余り $r$ で $x^2=(2x+1)q+r$ とできたとすると、$q$ は 1 次式 $cx+d$ で、$x^2$ の係数を比べて $2c=1$ となり、$c$ は整数でない。有理数係数なら
$$
x^2=(2x+1)\Bigl(\frac12x-\frac14\Bigr)+\frac14
$$
と割れる(余り $\frac14$ は $f\bigl(-\frac12\bigr)$ と一致する)。prf-rf-div の段 2 で最高次の係数 $b$ で割ったことが効いている。
$p$ を素数とし、係数を $\mathbb{F}_p=\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ とする。$\mathbb{F}_p$ は $p$ 個の元からなる体である(有限体)。Fermatの小定理により、どの $a$ についても $a^p\equiv a\pmod p$ なので、多項式 $x^p-x$ はすべての元を根にもつ。$p=3$ なら $0^3-0=0$、$1^3-1=0$、$2^3-2=6\equiv0$ である。$x^p-x$ は $0$ でない多項式だが、関数としては恒等的に $0$ である。根は $p$ 個で次数 $p$ を超えないので thm-rf-count とは矛盾しない。しかし rem-rf-identity で「$n+1$ 個の点で一致すれば等しい」と言うには $n+1$ 個の異なる元が必要で、元が $p$ 個しかない $\mathbb{F}_p$ では次数 $p$ 以上の多項式を値だけで区別できない。
問題の内容(要約):$n$ 次の多項式 $P(x)$ が、$k=0,1,2,\dots,n$ について $P(k)=\frac k{k+1}$ を満たす。$P(n+1)$ を求めよ。
出典:第 4 回アメリカ数学オリンピック(1975 年)第 3 問(Oly75)。以下 $n\ge1$ とする($n=0$ では $P(0)=0$ から $P=0$ となり、次数 $0$ の多項式にならない)。
方針:分数の値の条件を、分母を払って「$0$ になる」条件に変え、因数定理を使う。
段 1:$Q(x):=(x+1)P(x)-x$ とおく。$P$ の次数が $n$ なので、$Q$ の次数は $n+1$ である($x^{n+1}$ の係数は $P$ の最高次の係数で、$0$ でない)。$k=0,1,\dots,n$ について $Q(k)=(k+1)\cdot\frac k{k+1}-k=0$ である。
段 2:$Q$ は互いに異なる $n+1$ 個の根 $0,1,\dots,n$ をもつので、thm-rf-count により
$$
Q(x)=x(x-1)(x-2)\cdots(x-n)\,h(x)
$$
と書ける。両辺の次数は $n+1$ なので $h$ は $0$ でない定数 $c$ である。
段 3:$x=-1$ を代入すると、左辺は $Q(-1)=0\cdot P(-1)+1=1$、右辺は $c\cdot(-1)(-2)\cdots(-1-n)=c\,(-1)^{n+1}(n+1)!$ である。よって $c=\frac{(-1)^{n+1}}{(n+1)!}$ である。
段 4:$x=n+1$ を代入すると $Q(n+1)=c\,(n+1)!=(-1)^{n+1}$ なので、$(n+2)P(n+1)-(n+1)=(-1)^{n+1}$ であり、
$$
P(n+1)=\frac{n+1+(-1)^{n+1}}{n+2}
$$
である。$n$ が奇数なら $1$、偶数なら $\frac n{n+2}$ となる。たとえば $n=1$ なら $P(x)=\frac x2$ で $P(2)=1$、$n=2$ なら $P(3)=\frac12$ である。$\square$
thm-rf-count は、「$0,1,\dots,n$ のすべてで値が $0$ になる多項式」全体が、$x(x-1)\cdots(x-n)$ の倍数全体と一致することを言っている。このように、ある多項式の倍数全体として表される集まりを $K[x]$ のイデアルという。解法の要点は、未知の $P$ を直接求めず、条件を「$Q$ がこのイデアルに属する」と言い換えたことである。$Q$ の次数が分かっているので、イデアルの中で $Q$ は定数倍を除いて決まり、残る定数を 1 点の値($x=-1$)で決めている。$n+1$ 個の点での値から $n$ 次以下の多項式を作る一般の公式は Lagrange の補間公式で、prop-rf-two はその 2 点の場合である(Sho08 Theorem 7.15)。
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