本書は、A. Grothendieck が 1961 年 2 月に Cartan セミナーの連作「Techniques de construction en géométrie analytique」の第 5 回として行った講演「Fibrés vectoriels, fibrés projectifs, fibrés en drapeaux」(exposé 12、15 頁)を道案内にして、解析空間の上のベクトル束・射影束・旗束を、それらが表す関手から構成する方法を解説する参考書である。講演は、前の回で与えた表現可能性の判定法を初めて本格的に使い、有限表示の加群のベクトル束、局所自由な商の列である旗の束の存在を示し、全射・外積・テンソル積から来る射が閉はめ込みであることを証明した。 本書は翻訳ではない。ベクトル束、旗の関手と存在定理、閉はめ込み定理、射影束と旗束の性質、という主題ごとに四つの章を立て、前提知識と読み方の章を加えて全 17 頁とし、現代の記号と言葉で書き直した。前の講演の判定法は、同じシリーズの第 9 巻『表現可能関手の一般形式』で証明した結果として引く。各頁は、その頁で示すこと、背景と動機、定義と準備、主結果と証明、例と反例、その後の発展、原論文との対応表の同じ形で書く。 原論文は「容易に示せる」「全く同様」「類似でより簡単」で多くの段を済ませている。本書はその段を補って閉じ、第 1〜4 章の 37 個の主結果を札で区別した。10 個は空間の存在を使わず、加群と関手の水準で本書の中で証明し切った完結である。26 個は引用した事実に依る条件付きで、そのうち 3 個は解析空間の定義とその直後の事実、前の講演の判定法だけに依り、連作の定理を使わないので、定義の下では閉じることを札に書き添えた。残りの 22 個は数空間への射が大域関数の組と一対一であるという前の回の一つの定理に、1 個は局所環のネーター性と Krull の交叉定理に依る。未完結は、代数幾何からの移し替えを予告する前置きの一文の 1 個である。旗束を射影束に埋め込む原論文の注意は、零の加群と四次元空間の例で破れるので正しい形に直した。確かめを省いた五つの証明の段も補った。 読むには、環付き空間の上の加群、外積とテンソル積、中山の補題の初歩が要る。解析空間は連作の前の回の定義を引き、分離性を要求しない約束を明示したうえで、得られた空間は底が分離的なら分離的であることも示す。要点は第 0 章に、読む順序の案は「本書の読み方」に、記号と本書が足した仮定は「記号と約束」にまとめた。
本書を読むのに要る事実を分野ごとにまとめる章である。環付き空間の上の加群の逆像、テンソル積と外積と双対、有限表示と局所自由、中山の補題、体の上の線形代数(0-2)は、定義から数行で出るので証明まで書き、層と環付き空間の貼り合わせと Krull の交叉定理だけを引用にとどめる。同じ連作の前の講演が与える解析空間の定義と直後の事実、数空間への射が大域関数の組と一対一であるという定理(0-3)は引用し、局所環が局所環であることなど定義から出る事実には証明を添える。前の講演の判定法(0-4)は第 9 巻で証明した結果として頁と札を添えて述べ直す。閉部分空間の普遍性、射の零点の部分空間、全射になる点の開集合、底と数空間の積(0-5)は本書の構成の道具で、引用から証明まで書く。頁ごとの前提と読む順序は 0-1 に、記号と本書が足した仮定は 0-6 にまとめる。
原論文 §1 に当たり、ベクトル束を扱う章である。1-1 は、加群に対して、各空間の上でその加群の引き戻しから構造層への射の集合を対応させる関手を定め、加群が有限表示ならこの関手が表現可能であることを示し、表す空間をベクトル束と呼ぶ。証明は局所的な問題に落とし、表示から来る完全列によって、自明な束の中の零点の部分空間として作る。原論文が確かめを省いた積の存在を補う。前置きの、相対スキームの解析化による移し替えの予告は、証明が無いので未完結とする。1-2 は切断の関手と比べ、それが表現可能なのは局所自由のときに限ることを、原論文が省いた証明を補って示す。1-3 はベクトル束の線形構造と全射から来る閉はめ込みを、1-4 は底変換、ファイバー、射の関手の表現を扱う。
原論文 §2 の前半と §3 の前半に当たり、旗の関手を定めてその表現可能性を示す章である。2-1 は、加群の局所自由な商の増加列を旗と呼び、底変換で旗を引き戻して関手を作り、全射・成分・外積・テンソル積から来る四つの標準の写像が関手の準同型であることを示す。商と増加列の読みは本書が明示する。2-2 は、生成切断の部分族ごとに開部分関手を作り、それがベクトル束の閉部分空間で表され、開集合をなし、全体を覆うことを確かめて、Grassmann 束とその積の存在を導く。原論文が前提にした積の表現可能性を補う。2-3 は、一般の旗束を Grassmann 束の積の閉部分空間として作り、存在定理を得る。全射から来る射が閉はめ込みであることも、原論文が「同様」とした証明を補って示す。
原論文 §3 の後半に当たり、外積とテンソル積から来る射が閉はめ込みであることを示す章である。3-1 は、加群が階数の定まった局所自由な因子をもつ直和のとき、Grassmann 束と射影束の標準の開集合を記述し、外積の成分の計算により、Plücker 射がその開集合の上でベクトル束の射のグラフになることを示す。原論文は分離的な空間への射のグラフという議論で結ぶが、本書は零点の部分空間として直接示す。3-2 は、局所化と全射による消去で一般の場合を自由な場合に帰着して Plücker 射の閉はめ込みを示し、原論文が証明を省いた Segre 射も同じ方法で示して、命題 2.2 の閉はめ込み定理をまとめる。原論文の印字が Plücker と Segre を取り違えた箇所も直す。
原論文 §2 の終わりの注意 2.3〜2.5 に当たり、射影束と旗束の性質を述べる章である。4-1 は、旗束が底変換と両立し、一点の上のファイバーがその点の既約ファイバーの旗の集合であることを示し、射影束のファイバーが超平面の集合であることから、従来の規約との関係を明らかにする。商環の射影束がもとの閉部分空間になることから、非特異な直線の上でも射影束が冪零元をもつ例を示す。4-2 は、旗束をある射影束の閉部分空間として埋め込む。原論文の注意 2.5 はテンソル積の個数を誤っており、零の加群の例と四次元空間の例で破れるので、外積のテンソル積を使う正しい形に直す。最後に、証明に使った判定法は分離的な空間だけでは成り立たないが、得られた空間は底が分離的なら分離的であることを示す。
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