0-5 閉部分空間と零点と積

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

原論文は、閉部分空間の普遍性、零切断の逆像が閉部分空間になること、中山の補題で開集合が得られること、底と数空間の積の存在を、述べずに、あるいは一言で使う。本頁はこれらを本書の構成の道具として、第 0 章の引用から証明まで書く。閉部分空間の普遍性と閉はめ込みの計算、射の零点の部分空間、全射になる点の開集合、底と数空間の積の四つの補題である。記号は本書『0-6 記号と約束』のとおりで、加群の前提は本書『0-2 環付き空間の上の加群』に、解析空間の前提は本書『0-3 解析空間と数空間』に、表現可能性の言葉は本書『0-4 表現可能性の判定法』にある。
前提知識: 閉部分空間, イデアル層, 閉はめ込み, 中山の補題, 局所自由層, 表現可能関手

本頁の補題の位置

本頁の四つの補題は、どれも本書の第 0 章の引用(加群の標準的な事実、解析空間の定義と直後の事実、第 9 巻『表現可能関手の一般形式』の判定法)に依る。そのため、これを使う主結果は[条件付き]になり、札には補題の見出し名を名指す。各補題の後の「使う定理」の行には、証明済みの事実(本書『0-2 環付き空間の上の加群』の定理、本書『0-3 解析空間と数空間』の定理「局所環の剰余体」と補題「剰余体が基礎体の局所代数の射」「一点の解析空間と終対象」、第 9 巻で[完結]の結果)も並べるが、条件になるのはそれ以外の引用である。補題「閉部分空間の普遍性と閉はめ込みの計算」「零点の部分空間」「全射になる点の開集合」は連作の定理を使わないので、ほかに連作の定理を引かない主結果の札には「解析空間の定義の下では完結」の句を添えてよい。補題「底と数空間の積」だけは連作第 III 回 Gro61iii の定理 1.1・系 1.2(本書『0-3 解析空間と数空間』の定理「数空間への射と大域関数」)に依り、この句を添えない。本書の主結果のうち連作の定理に依るものは、ほとんどがこの補題を通して依る。
本頁は、閉はめ込みの底変換を第 9 巻の定理(連作第 II 回 Gro61ii の注意 2.10 の後半)から引かず、解析空間のファイバー積の一般の存在(連作第 III 回の定理 2.1)も使わない。どちらも下の補題の中で、必要な形だけを示す。
解析空間は分離的とは限らない(本書『0-3 解析空間と数空間』の定義「解析空間の定義」)。射は $k$ 代数の環付き空間の射で、茎の射は自動的に局所的である(同じ頁の定義「解析空間の射」と補題「剰余体が基礎体の局所代数の射」)。各点の局所環は剰余体が $k$ の局所環で、とくに $0$ でない(同じ頁の定理「局所環の剰余体」)。以下の補題はどれも $(\mathrm{An})$ でも $(\mathrm{An})_{/S}$ でも成り立つ。後者では、$S$ 上の空間の閉部分空間に構造射の制限を与える。

閉部分空間の普遍性

解析空間 $X$ の有限型のイデアル $\mathcal J$ は、閉部分空間 $Z(\mathcal J)$ を定める(本書『0-3 解析空間と数空間』の定理「解析空間の開部分空間とはめ込み」)。射がこの閉部分空間を経由するかどうかを、イデアルの引き戻しで判定する。

閉部分空間とイデアルの引き戻し
  1. 解析空間 $X$ の有限型のイデアル $\mathcal J$ について、$Z(\mathcal J)$ は、台 $\mathrm{Supp}(\mathcal O_X/\mathcal J)$(閉集合)に $\mathcal O_X/\mathcal J$ の制限を構造層として与えた閉部分空間で、解析空間である。包含 $i\colon Z(\mathcal J)\to X$ について $i_*\mathcal O_{Z(\mathcal J)}=\mathcal O_X/\mathcal J$ である。$\mathcal J=0$ なら $Z(\mathcal J)=X$、$\mathcal J=\mathcal O_X$ なら $Z(\mathcal J)=\emptyset$ である。
  2. 射 $f\colon Y\to X$ が閉はめ込みであるとは、$f$ が、ある有限型のイデアル $\mathcal J$ について $Y$ から $Z(\mathcal J)$ への同型と包含 $Z(\mathcal J)\to X$ の合成であることをいう。
  3. 射 $g\colon T\to X$ と $X$ のイデアル $\mathcal J$ について、$\mathcal J\mathcal O_T$ を、$g^*\mathcal J\to g^*\mathcal O_X=\mathcal O_T$ の像である $\mathcal O_T$ のイデアルとし、$\mathcal J$ の $g$ による引き戻しと呼ぶ。これは $g^{-1}\mathcal J$ の $\mathcal O_T$ での像が生成するイデアルで、$\mathcal J\mathcal O_T=0$ であることは、$g^{-1}\mathcal J\to\mathcal O_T$ が $0$ であることと同じである。$\mathcal J$ が局所的に $a_1,\dots,a_r$ で生成されるなら、$\mathcal J\mathcal O_T$ はその上で $g^\sharp(a_1),\dots,g^\sharp(a_r)$ で生成される。とくに $\mathcal J$ が有限型なら $\mathcal J\mathcal O_T$ も有限型で、$h\colon T'\to T$ について $(\mathcal J\mathcal O_T)\mathcal O_{T'}=\mathcal J\mathcal O_{T'}$(右辺は $g\circ h$ による引き戻し)である。

(1)(2) は本書『0-3 解析空間と数空間』の定理「解析空間の開部分空間とはめ込み」の内容を、本頁の記号で書いたものである。(3) の最後の二文は、生成元の引き戻しで書けることから出る。
原論文は閉部分空間の定義も普遍性も書かずに使う(命題 1.1 の零切断の逆像、命題 1.5、注意 2.3、§3 の各段)。本書が使う形を一つの補題にまとめる。

閉部分空間の普遍性と閉はめ込みの計算

$X$ を解析空間、$\mathcal J$ を $X$ の有限型のイデアル、$i\colon Z(\mathcal J)\to X$ を包含とする。
(a) 射 $g\colon T\to X$ が $i$ を経由することは、$\mathcal J\mathcal O_T=0$ であることと同値で、経由の仕方はただ一つである。したがって、$h_{Z(\mathcal J)}$ は $h_X$ の部分前層 $T\mapsto\{g:\mathcal J\mathcal O_T=0\}$ と同一視される。
(b) 任意の射 $g\colon X'\to X$ について、$Z(\mathcal J\mathcal O_{X'})$ と、射影 $Z(\mathcal J\mathcal O_{X'})\to X'$、(a) で得る射 $Z(\mathcal J\mathcal O_{X'})\to Z(\mathcal J)$ の組は、ファイバー積 $Z(\mathcal J)\times_XX'$ である。閉はめ込みの全体は、$(\mathrm{An})$ でも $(\mathrm{An})_{/S}$ でも底変換で安定な射のクラス(本書『0-4 表現可能性の判定法』の定義「底変換で安定な射のクラス」)である。
(c) 閉はめ込みの合成は閉はめ込みである。$X$ の有限型のイデアル $\mathcal J_1$、$\mathcal J_2$ について、$Z(\mathcal J_1+\mathcal J_2)$ と二つの包含から来る射の組は、ファイバー積 $Z(\mathcal J_1)\times_XZ(\mathcal J_2)$ である。
(d) 閉はめ込みであることは目標の開被覆の上で局所的である。すなわち射 $f\colon Y\to X$ と $X$ の開被覆 $(X_\lambda)$ について、各 $f^{-1}(X_\lambda)\to X_\lambda$ が閉はめ込みなら $f$ は閉はめ込みである。
(e) 射 $g\colon Y\to W$ が閉はめ込みで、射 $f\colon X\to Y$ について $g\circ f$ が閉はめ込みなら、$f$ は閉はめ込みである。
(f) 閉はめ込みは単射(monomorphism)で、底の写像は閉集合への同相である。

$Z=Z(\mathcal J)$ と書く。
段 1((a) の前から後).$g=i\circ h$ とする。$i$ の層の射 $\mathcal O_X\to i_*\mathcal O_Z=\mathcal O_X/\mathcal J$ は $\mathcal J$ を $0$ に送るので、$g$ の層の射 $\mathcal O_X\to g_*\mathcal O_T$ も $\mathcal J$ を $0$ に送る。随伴(本書『0-2 環付き空間の上の加群』の定理「環付き空間と層の貼り合わせ」の $g^{-1}\dashv g_*$)で言い換えると、$g^{-1}\mathcal J\to\mathcal O_T$ は $0$ で、$\mathcal J\mathcal O_T=0$ である。
段 2((a) の後から前:底の写像).$\mathcal J\mathcal O_T=0$ とする。点 $t\in T$ と $x=g(t)$ について、$x\notin\mathrm{Supp}(\mathcal O_X/\mathcal J)$ なら $\mathcal J_x=\mathcal O_{X,x}$ で、$1\in\mathcal J_x$ の像 $1\in\mathcal O_{T,t}$ が $0$ になり、$\mathcal O_{T,t}\ne0$ に反する。ゆえに $g(T)\subset Z$ で、$g$ は連続写像 $h\colon T\to Z$($Z$ の部分空間の位相)を経由する。
段 3((a) の後から前:層の射).段 1 の随伴の言い換えを逆にたどると、$g$ の層の射 $\mathcal O_X\to g_*\mathcal O_T$ は $\mathcal J$ を $0$ に送り、層の商 $\mathcal O_X/\mathcal J=i_*\mathcal O_Z$ を一意に経由する。$g_*\mathcal O_T=i_*h_*\mathcal O_T$ なので、射 $i_*\mathcal O_Z\to i_*h_*\mathcal O_T$ を得る。閉集合への包含では $i^{-1}i_*$ は恒等(本書『0-2 環付き空間の上の加群』の定理「環付き空間と層の貼り合わせ」)なので、これは $k$ 代数の層の射 $\mathcal O_Z\to h_*\mathcal O_T$ と同じで、$h$ と組んで射 $T\to Z$ を与える。構成により $i\circ h=g$ である。経由の一意性は、部分環付き空間の包含 $i$ が単射であること(本書『0-3 解析空間と数空間』の定理「解析空間の開部分空間とはめ込み」の (3))による。最後の文は、(3) の定義の $(\mathcal J\mathcal O_T)\mathcal O_{T'}=\mathcal J\mathcal O_{T'}$ により $\{g:\mathcal J\mathcal O_T=0\}$ が部分前層になることと、本書『0-4 表現可能性の判定法』の注意「米田の約束」の (3) による。
段 4((b)).$Z'=Z(\mathcal J\mathcal O_{X'})$、$i'\colon Z'\to X'$ を包含とする。$\mathcal J\mathcal O_{Z'}=(\mathcal J\mathcal O_{X'})\mathcal O_{Z'}=0$ なので、(a) により $g\circ i'$ は射 $b\colon Z'\to Z$ を一意に経由する。射 $a\colon T\to Z$、$c\colon T\to X'$ が $i\circ a=g\circ c$ を満たすとする。段 1 により $\mathcal J\mathcal O_T=0$($g\circ c$ による引き戻し)で、これは $(\mathcal J\mathcal O_{X'})\mathcal O_T=0$($c$ による引き戻し)と同じなので、(a) により $c=i'\circ c'$ となる $c'\colon T\to Z'$ がただ一つある。$i\circ b\circ c'=g\circ i'\circ c'=g\circ c=i\circ a$ で、$i$ は単射なので $b\circ c'=a$ である。ゆえに $(Z';i',b)$ はファイバー積である。$(\mathrm{An})_{/S}$ でも同じものがファイバー積である(本書『0-4 表現可能性の判定法』の補題「スライス圏」の (2))。閉はめ込み $f=i\circ\varphi$($\varphi$ は同型)に沿うファイバー積も、$Z\times_XX'$ に同型を合成したものとして存在する。ファイバー積の別の選び方は、射影に源の同型を合成したものになるので、射影はどの選び方でも閉はめ込みである。
段 5((c)).$Y=Z(\mathcal J)$ の有限型のイデアル $\mathcal J'$ と、$\mathcal O_X\to\mathcal O_X/\mathcal J=i_*\mathcal O_Y$ による $i_*\mathcal J'$ の逆像 $\mathcal J''$ を考える。$\mathcal J''$ は、局所的に $\mathcal J$ の生成元と $\mathcal J'$ の生成元の持ち上げで生成される(層の全射の切断は局所的に持ち上がる)ので、有限型である。射 $T\to X$ が $\mathcal J''$ を引き戻して $0$ にすることは、$\mathcal J$ を $0$ にし((a) により $Y$ を経由し)、そのうえで $\mathcal J'$ を $0$ にすることと同じである。ゆえに (a) により、$Y$ の閉部分空間 $Z_Y(\mathcal J')$ と $Z(\mathcal J'')$ は $h_X$ の同じ部分前層を表し、注意「米田の約束」の (1)〜(3) により、この同型は $X$ への射と両立する($X$ 上の同型である)。したがって包含の合成は閉はめ込みで、同型を挟んだ一般の閉はめ込みの合成も閉はめ込みである。後半は、(a) により、射が $Z(\mathcal J_1)$ と $Z(\mathcal J_2)$ をともに経由することが $\mathcal J_1+\mathcal J_2$ を引き戻して $0$ にすることと同じだからである。
段 6((d)).$\mathcal J=\mathrm{Ker}(\mathcal O_X\to f_*\mathcal O_Y)$ とする。$X_\lambda$ の上では、$f^{-1}(X_\lambda)\to X_\lambda$ は同型と $Z(\mathcal J_\lambda)$ の包含の合成なので、$\mathcal O_{X_\lambda}\to\mathcal O_{X_\lambda}/\mathcal J_\lambda$ の核として $\mathcal J|_{X_\lambda}=\mathcal J_\lambda$ であり、$\mathcal J$ は有限型である。$f$ は $\mathcal J$ を $0$ に送るので、(a) により射 $h\colon Y\to Z(\mathcal J)$ を経由し、$h$ は各 $X_\lambda$ の上で同型 $f^{-1}(X_\lambda)\to Z(\mathcal J)\cap X_\lambda$ である。局所的な逆射は重なりで一致する(逆射は一意)ので、本書『0-2 環付き空間の上の加群』の定理「環付き空間と層の貼り合わせ」により貼り合わさって $h$ の逆射になる。ゆえに $f$ は閉はめ込みである。
段 7((e)).$g\circ f$ を同型と $Z(\mathcal J_1)\subset W$ の包含の合成とし、$\mathcal J=\mathcal J_1\mathcal O_Y$($g$ による引き戻し)とおく。射 $y\colon T\to Y$ について、$\mathcal J\mathcal O_T=0$ は $\mathcal J_1\mathcal O_T=0$($g\circ y$ による引き戻し)と同じで、(a) により $g\circ y$ が $g\circ f$ を経由すること、すなわち $g\circ y=g\circ f\circ x$ となる $x\colon T\to X$ があることと同じである。(f)(下の段 8。(a) だけから出る)により $g$ は単射なので、これは $y=f\circ x$ と同じである。(f) により $g\circ f$ も単射なので $f$ も単射で、$x$ は一意である。ゆえに $h_X\to h_Y$($f$ との合成)は、$h_Y$ の部分前層 $\{y:\mathcal J\mathcal O_T=0\}$ への同型で、(a) によりこの部分前層は $Z_Y(\mathcal J)$ が表す。注意「米田の約束」の (1)〜(3) により、$f$ は $X$ から $Z_Y(\mathcal J)$ への同型と包含の合成である。
段 8((f)).(a) の一意性により、包含 $i$、したがって同型との合成も単射である。底の写像は閉集合 $\mathrm{Supp}(\mathcal O_X/\mathcal J)$ への包含と同相の合成である。

(a) の証明の要は段 2 で、局所環が $0$ でないことが、イデアルを消す射の像を閉集合の中に押し込める。(b) により、閉はめ込みの底変換は連作の定理を使わずに得られる。(d)(e) は、原論文が命題 1.5 と §3 の Plücker 射の段で述べずに使う二つの一歩である(本書『1-3 ベクトル束の群構造と閉はめ込み』『3-2 閉はめ込み定理』の注意)。

  • 使う定理:本書『0-2 環付き空間の上の加群』の定理「環付き空間と層の貼り合わせ」、本書『0-3 解析空間と数空間』の定理「解析空間の開部分空間とはめ込み」「局所環の剰余体」と定義「解析空間の射」、本書『0-4 表現可能性の判定法』の注意「米田の約束」と補題「スライス圏」。連作の定理は使わない。
  • 本書で使う頁:1-1、1-3、1-4、2-3、3-1、3-2、4-1、4-2(0-4 の段では言及だけ)。
第 9 巻のはめ込みの底変換を使わない

第 9 巻『表現可能関手の一般形式』は、はめ込みの底変換を頁『0-4 解析空間』の定理「はめ込みの底変換」(連作第 II 回の注意 2.10 の後半)として引用し、それを使う頁『2-4 安定性と射のクラス』の主結果「解析空間のはめ込みのクラスの底変換」を[条件付き]とした。この札は「解析空間の定義の下では完結」の句をもたない。本書はこの二つを使わず、閉はめ込みの底変換を上の補題の (b) で示した。これにより、閉はめ込みのクラスに本書『0-4 表現可能性の判定法』の定理「底変換で安定な射のクラスの判定」を当てる主結果(本書『2-3 旗束の存在定理』)の札に、連作第 II 回の定理が入らない。本書が扱うのは閉はめ込みと開はめ込み(本書『0-3 解析空間と数空間』の命題「開はめ込みの底変換と非交和」)だけで、一般のはめ込みの底変換は要らない。

零点の部分空間

原論文は命題 1.1 の証明で、ベクトル束を「零切断の逆像」として作る。本書はこれを、加群の射が引き戻しで $0$ になる条件を閉部分空間で表す形に書く。目標が局所自由であることが要になる。

零点の部分空間

$T$ を解析空間、$\mathcal K$ を有限型の $\mathcal O_T$ 加群、$\mathcal L$ を有限階数の局所自由な $\mathcal O_T$ 加群、$c\colon\mathcal K\to\mathcal L$ を加群の射とする。$\mathcal K\otimes\check{\mathcal L}\to\mathcal O_T$、$x\otimes\lambda\mapsto\lambda(c(x))$ の像を $\mathcal J_c$ と書く。
(1) $\mathcal J_c$ は有限型のイデアルである。
(2) 射 $g\colon T'\to T$ について、$g^*c\colon g^*\mathcal K\to g^*\mathcal L$ が $0$ であることは、$\mathcal J_c\mathcal O_{T'}=0$ であることと同値である。
(3) したがって、$h_T$ の部分前層 $T'\mapsto\{g\colon T'\to T:g^*c=0\}$ は閉部分空間 $Z(\mathcal J_c)$ で表される。$Z(\mathcal J_c)$ を $c$ の零点の部分空間と呼ぶ。$T$ が $S$ 上の空間なら、$(\mathrm{An})_{/S}$ でも同じである。
とくに $\mathcal K=\mathcal O_T^s$、$\mathcal L=\mathcal O_T$ なら、$c$ は $s$ 個の関数 $c_1,\dots,c_s\in\Gamma(T,\mathcal O_T)$ の組で、$\mathcal J_c$ はそれらが生成するイデアル、$Z(\mathcal J_c)$ はその共通の零点の部分空間である。

段 1(局所的な生成元).$T$ の開集合 $W$ で、$\mathcal L|_W$ が $\mathcal O_W^r$ と同型で、$\mathcal K|_W$ が切断 $x_1,\dots,x_s$ で生成されるものをとる。$\mathcal O_W^r$ の座標の射影を $\lambda_1,\dots,\lambda_r$ とすると、$\check{\mathcal L}|_W$ は $\lambda_1,\dots,\lambda_r$ を基底とする自由加群で、$\mathcal K\otimes\check{\mathcal L}$ は $W$ の上で $x_l\otimes\lambda_j$ で生成される。ゆえに $\mathcal J_c$ は $W$ の上で関数 $\lambda_j(c(x_l))$($1\le j\le r$、$1\le l\le s$)で生成される。このような $W$ は $T$ を覆うので、(1) が成り立つ。
段 2(引き戻しの計算).条件 $g^*c=0$ と $\mathcal J_c\mathcal O_{T'}=0$ はどちらも $T'$ の上で局所的なので、$g^{-1}(W)$ の上で比べればよい。逆像は右完全なので、$g^*\mathcal K$ は $g^*x_l$ で生成され、$g^*\mathcal L$ は $g^*\lambda_1,\dots,g^*\lambda_r$ を座標とする自由加群である(本書『0-2 環付き空間の上の加群』の定理「逆像と加群の演算」)。加群の射の合成の逆像は逆像の合成で、関数の定める $\mathcal O\to\mathcal O$ の逆像は、引き戻した関数による掛け算なので、$(g^*\lambda_j)(g^*c(g^*x_l))=g^\sharp(\lambda_j(c(x_l)))$ である。したがって $g^*c=0$ は、すべての $j$、$l$ で $g^\sharp(\lambda_j(c(x_l)))=0$ であることと同値で、定義「閉部分空間とイデアルの引き戻し」の (3) により、これは $\mathcal J_c\mathcal O_{T'}=0$ と同値である。
段 3(表現).(2) と上の補題(閉部分空間の普遍性と閉はめ込みの計算)の (a) により、$g^*c=0$ は $g$ が $Z(\mathcal J_c)$ を経由することと同値で、経由の仕方はただ一つである。$(\mathrm{An})_{/S}$ では、$Z(\mathcal J_c)$ に構造射の制限を与えればよい。最後の文は $\check{\mathcal O_T}=\mathcal O_T$ から明らかである。

$\mathcal L=0$(階数 $0$)なら $\mathcal J_c=0$ で零点の部分空間は $T$ 全体、$\mathcal K=0$ でも同じである。$T=\emptyset$ ではすべてが空である。どれも (3) の部分前層($g^*c=0$ がつねに成り立つ)と合っている。

  • 使う定理:上の補題(閉部分空間の普遍性と閉はめ込みの計算)、本書『0-2 環付き空間の上の加群』の定理「逆像と加群の演算」「外積と双対の標準同型」($\mathcal O^r$ の双対)。連作の定理は使わない。
  • 本書で使う頁:1-1、1-3、2-2、2-3、3-1(3-2・4-2 は本書『3-1 Plücker 射の局所計算』の補題「ベクトル束への射のグラフ」を通してだけ使う)。
    補題は目標 $\mathcal L$ が局所自由であることを使う。旗の成分や可逆な商が局所自由であることが本書の構成で効くのはこの点である。局所自由でない目標では、次の注意の例のとおり、条件 $g^*c=0$ が閉部分空間で表されないことがある。
局所自由でない目標では零点の部分空間を作れない

上の補題の段 2 は、$g^*\mathcal L$ の元が $0$ であることを、座標の関数がすべて $0$ であることで判定した。$\mathcal L$ が局所自由でないと、$g^*c=0$ をイデアルの引き戻しの消滅で書けるとは限らない($\mathcal L$ が局所自由でなくても書ける場合はある。たとえば $c=0$ なら、どの $\mathcal L$ でも条件は $\mathcal J=0$ の消滅、すなわち $T$ 全体の閉部分空間で表され、$\mathcal L=\mathcal O_T\oplus\mathcal O_T/z\mathcal O_T$ と第一成分への $c$ でも、条件は第一成分の関数の零点で表される)。次の例では、条件 $g^*c=0$ を満たす $g$ の部分前層は開部分空間で表され、閉部分空間では表されない。
$T=E^1$(座標 $z$)、$\mathcal K=\mathcal O_T$、$\mathcal L=\mathcal O_T/z\mathcal O_T$(有限表示だが局所自由でない。本書『0-2 環付き空間の上の加群』の例「直線の原点の剰余加群」)、$c$ を商写像とする。$g\colon T'\to T$ について、逆像の右完全性から $g^*\mathcal L=\mathcal O_{T'}/g^\sharp(z)\mathcal O_{T'}$ で、$g^*c$ はその商写像である。これが $0$ であることは $g^\sharp(z)\mathcal O_{T'}=\mathcal O_{T'}$、すなわち $g^\sharp(z)$ の芽が各点で可逆であることと同じである。剰余体が $k$ の局所環では、芽が可逆であることは点での値が $0$ でないことと同じで、茎の射は局所的なので、$g^\sharp(z)$ の点 $t'$ での値は $g(t')$ の座標に等しい。ゆえに $g^*c=0$ は $g(T')\subset E^1-\{0\}$ と同値で、本書『0-4 表現可能性の判定法』の補題「開部分空間が表す前層」により、この部分前層は開部分空間 $E^1-\{0\}$ で表される。これが閉部分空間 $Z$ でも表されるとすると、注意「米田の約束」の (1)〜(3) により $Z$ と $E^1-\{0\}$ は $E^1$ 上同型で、閉はめ込みの像は閉集合なので $E^1-\{0\}$ は $k$ の閉集合になる。$k$ の絶対値は自明でない(本書『0-3 解析空間と数空間』の注意「基礎体の約束」)ので $0$ は $k-\{0\}$ の触点で、矛盾する。
この事情は、本書『2-3 旗束の存在定理』で旗の条件を零点の部分空間として書くときに、成分が局所自由であることが効く理由である。

全射になる点の開集合

原論文は Grassmann 束の存在の証明の段 b で、中山の補題から開集合を得る。本書はそれを次の補題の形で使う。

全射になる点の開集合

$T$ を解析空間、$\alpha\colon\mathcal A\to\mathcal B$ を $\mathcal O_T$ 加群の射で、$\mathcal B$ は有限型とする。既約ファイバーの射 $\alpha(t)\colon\mathcal A(t)\to\mathcal B(t)$ が全射になる点 $t$ の全体を $U_\alpha$ と書く。
(1) $U_\alpha$ は $T$ の開集合で、茎の射 $\alpha_t$ が全射になる点の全体に等しい。とくに $\alpha$ は $U_\alpha$ の上で全射である。
(2) 射 $g\colon T'\to T$ について、$g^*\alpha$ が全射であることは $g(T')\subset U_\alpha$ であることと同値である。
(3) したがって、$h_T$ の部分前層 $T'\mapsto\{g\colon T'\to T:g^*\alpha\text{ が全射}\}$ は開部分空間 $U_\alpha$ で表される。$T$ が $S$ 上の空間なら、$(\mathrm{An})_{/S}$ でも同じである。

段 1(余核).$\mathcal C=\mathrm{Coker}\,\alpha$ は有限型 $\mathcal B$ の商なので有限型である。$\otimes k(t)$ は右完全なので $\mathcal C(t)=\mathrm{Coker}\,\alpha(t)$ で、$t\in U_\alpha$ は $\mathcal C(t)=0$ と同値である。
段 2((1)).$t\in U_\alpha$ なら、本書『0-2 環付き空間の上の加群』の定理「中山の補題」(層の形)により $t$ の近傍で $\mathcal C=0$ で、その近傍の点はすべて $U_\alpha$ に入る。ゆえに $U_\alpha$ は開で、その上で $\mathcal C=0$、すなわち $\alpha$ は全射である。逆に $\alpha_t$ が全射なら $\mathcal C_t=0$ で $\mathcal C(t)=0$、$t\in U_\alpha$ である。
段 3((2)).逆像は右完全なので $\mathrm{Coker}(g^*\alpha)=g^*\mathcal C$ で、これも有限型である。点 $t'\in T'$ と $t=g(t')$ について、
$$(g^*\mathcal C)(t')=\mathcal C_t\otimes_{\mathcal O_{T,t}}\mathcal O_{T',t'}\otimes_{\mathcal O_{T',t'}}k(t')=\mathcal C(t)\otimes_{k(t)}k(t')$$
で、茎の射は局所的な $k$ 代数の射なので剰余体の射 $k(t)\to k(t')$ は $k$ の恒等写像である(本書『0-3 解析空間と数空間』の定理「局所環の剰余体」と補題「剰余体が基礎体の局所代数の射」)。ゆえに $(g^*\mathcal C)(t')=\mathcal C(g(t'))$ である。$g^*\alpha$ が全射であることは $g^*\mathcal C=0$ と同じで、中山の補題(層の形)により、これはすべての $t'$ で $(g^*\mathcal C)(t')=0$ であること、すなわちすべての $t'$ で $g(t')\in U_\alpha$ であることと同じである。
段 4((3)).(2) と本書『0-4 表現可能性の判定法』の補題「開部分空間が表す前層」による。

$\mathcal B=0$ なら $U_\alpha=T$ で、$\mathcal A=0$ なら $U_\alpha$ は $\mathcal B$ の台の補集合である。$T=\emptyset$ なら $U_\alpha=\emptyset=T$ である。

  • 使う定理:本書『0-2 環付き空間の上の加群』の定理「中山の補題」「逆像と加群の演算」、本書『0-3 解析空間と数空間』の定理「局所環の剰余体」と補題「剰余体が基礎体の局所代数の射」、本書『0-4 表現可能性の判定法』の補題「開部分空間が表す前層」。連作の定理は使わない。
  • 本書で使う頁:2-2、3-1、3-2。上の注意(局所自由でない目標では零点の部分空間を作れない)は 2-3 が引く。
    原論文は段 b を、第 IV 回の 5.9(本書『0-4 表現可能性の判定法』の定理「開はめ込みの点ごとの判定」)の条件を中山の補題で確かめる形で書く。上の補題はその条件を経ずに、ファイバーを表す開部分空間を直接与える。二つの道が同じ開集合を与えることは本書『2-2 Grassmann 束の存在』の注意で述べる。

底と数空間の積

原論文の命題 1.1 の証明は、大域関数の $p$ 個の組を $E^p$ が表すことと、第 IV 回の 3.1 から「$S$ 上では $E^p\times S$ が表す」と結ぶ。後者には積 $E^p\times S$ の存在が要るが、原論文はそれに触れない(本書『0-4 表現可能性の判定法』の定理「スライス圏への制限の表現可能性」の後の段)。本書はその積を、連作第 III 回の定理 1.1・系 1.2 と上の補題から直接作る。解析空間のファイバー積の一般の存在(連作第 III 回の定理 2.1)は使わない。
$(\mathrm{An})_{/S}$ 上の前層 $\Gamma^p$ を、$\Gamma^p(T)=\Gamma(T,\mathcal O_T)^p$、$S$ 射 $g\colon T'\to T$ には $g^\sharp$ を成分ごとに当てる写像を対応させるもの、と定める。

底と数空間の積

$S$ を解析空間、$p\ge0$ を整数とする。
(1) $\Gamma^p$ は $S$ 上の解析空間で表される。これを $S\times E^p$ と書く。
(2) $S\times E^p$ は、構造射と、普遍元の定める射 $S\times E^p\to E^p$ を二つの射影として、$(\mathrm{An})$ での $S$ と $E^p$ の積である。
(3) $S\times E^p$ の点の集合は $S\times k^p$ と一対一に対応し、この対応で位相は $S$ と $k^p$ の積位相になる。
(4) $T\mapsto\mathrm{Hom}_{\mathcal O_T}(\mathcal O_T^p,\mathcal O_T)$ も、$\Gamma^p$ と自然に同型で、$S\times E^p$ が表す。

段 1(局所性).$T$ の開集合 $U$ について $\Gamma^p(U)=\Gamma(U,\mathcal O_T)^p$ で、構造層は層なので、$\Gamma^p$ は各 $T$ の開集合の上で層の条件を満たす。空集合では $\Gamma(\emptyset,\mathcal O_T)=0$ で $\Gamma^p(\emptyset)$ は一点なので、空の被覆についても条件が成り立つ。ゆえに $\Gamma^p$ は局所的である(本書『0-4 表現可能性の判定法』の定義「局所的な関手」)。
段 2(模型への帰着).本書『0-3 解析空間と数空間』の定義「解析空間の定義」により、$S$ は開集合 $S_\lambda$ で覆われ、各 $S_\lambda$ は、ある $k^N$($N$ は $\lambda$ による)の開集合 $\Omega_\lambda$ の上の有限型のイデアル $\mathcal J_\lambda$ の閉部分空間 $Z(\mathcal J_\lambda)$ に同型である。ここで $\Omega_\lambda$ は $E^N$ の開部分空間とみる。本書『0-4 表現可能性の判定法』の定理「底の開被覆による表現可能性の判定」と段 1 により、各 $\lambda$ について $\Gamma^p$ の $(\mathrm{An})_{/S_\lambda}$ への制限が表現可能であることを示せばよい。以下 $\lambda$ を固定し、$S_\lambda$ を $Z(\mathcal J_\lambda)$ と同一視する。
段 3(数空間への射).本書『0-3 解析空間と数空間』の定理「数空間への射と大域関数」により、射 $w\colon T\to E^{N+p}$ は、座標関数の引き戻しの組 $(a,b)\in\Gamma(T,\mathcal O_T)^N\times\Gamma(T,\mathcal O_T)^p$ と一対一に対応し、この対応は $T$ について自然である。点 $t$ について、座標関数 $z_i$ から $w(t)$ での値を引いたものは $w(t)$ の局所環の極大イデアルに入り、茎の射は局所的なので、その引き戻しは $t$ の局所環の極大イデアルに入る。ゆえに $w(t)$ の座標は、$a$、$b$ の成分の $t$ での値 $(a(t),b(t))$ である。$W_\lambda$ を $\Omega_\lambda\times k^p$ の上の $E^{N+p}$ の開部分空間とする。本書『0-3 解析空間と数空間』の命題「開はめ込みの底変換と非交和」により、$w$ が $W_\lambda$ を経由すること(経由の仕方はただ一つ)は、すべての $t$ で $a(t)\in\Omega_\lambda$ となることと同値で、同じことが $\Omega_\lambda$ への射と $a$ についても成り立つ。最初の $N$ 個の座標の定める射 $\rho_\lambda\colon W_\lambda\to\Omega_\lambda$ をとると、$w\mapsto(\rho_\lambda\circ w,b)$ は $T$ について自然な全単射 $\mathrm{Hom}(T,W_\lambda)\cong\mathrm{Hom}(T,\Omega_\lambda)\times\Gamma(T,\mathcal O_T)^p$ を与える。
段 4(閉部分空間を切る).$W'_\lambda=Z(\mathcal J_\lambda\mathcal O_{W_\lambda})$($\rho_\lambda$ による引き戻し)とする。上の補題(閉部分空間の普遍性と閉はめ込みの計算)の (a) と、定義「閉部分空間とイデアルの引き戻し」の (3) の推移性により、$w\colon T\to W_\lambda$ が $W'_\lambda$ を経由することは、$\rho_\lambda\circ w$ が $\mathcal J_\lambda$ を引き戻して $0$ にすること、すなわち $\rho_\lambda\circ w$ が $Z(\mathcal J_\lambda)=S_\lambda$ を経由することと同値である。段 3 と合わせて、$T$ について自然な全単射 $\mathrm{Hom}(T,W'_\lambda)\cong\mathrm{Hom}(T,S_\lambda)\times\Gamma(T,\mathcal O_T)^p$ を得る。$W'_\lambda$ に第一成分の射 $W'_\lambda\to S_\lambda$ を構造射として与えると、$S_\lambda$ 上の $T$ について $\mathrm{Hom}_{S_\lambda}(T,W'_\lambda)\cong\Gamma^p(T)$ となり、$W'_\lambda$ は $\Gamma^p$ の $(\mathrm{An})_{/S_\lambda}$ への制限を表す。
段 5((1)).段 2 の帰着により、$\Gamma^p$ は $(\mathrm{An})_{/S}$ 上で表現可能である。
段 6((2)).任意の解析空間 $T$ について、$T$ から $S\times E^p$ への射は、$S$ への射 $s$ と、$s$ で $T$ を $S$ 上の空間とみたときの $S$ 射に分かれるので、
$$\mathrm{Hom}(T,S\times E^p)=\coprod_{s\in\mathrm{Hom}(T,S)}\Gamma(T,\mathcal O_T)^p=\mathrm{Hom}(T,S)\times\Gamma(T,\mathcal O_T)^p\cong\mathrm{Hom}(T,S)\times\mathrm{Hom}(T,E^p)$$
である(最後は本書『0-3 解析空間と数空間』の定理「数空間への射と大域関数」)。この全単射は $T$ について自然で、二つの射影との合成で与えられるので、$S\times E^p$ は積である。
段 7((3)).本書『0-3 解析空間と数空間』の補題「一点の解析空間と終対象」の (1) により、$e$ から解析空間 $X$ への射は、点 $x$ と $k$ 代数の射 $\mathcal O_{X,x}\to k$ の組と一対一で、後者は局所的(補題「剰余体が基礎体の局所代数の射」)なので剰余写像に限る。ゆえに $X$ の点は $\mathrm{Hom}(e,X)$ と一対一で、(2) により $S\times E^p$ の点は $\mathrm{Hom}(e,S)\times\mathrm{Hom}(e,E^p)=S\times k^p$ と一対一である。位相を調べる。$S\times E^p$ の中で $S_\lambda$ の上にある開部分空間 $Y_\lambda$ は、本書『0-3 解析空間と数空間』の命題「開はめ込みの底変換と非交和」により $(S\times E^p)\times_SS_\lambda$ で、本書『0-4 表現可能性の判定法』の定理「スライス圏の間の底変換」により $\Gamma^p$ の $(\mathrm{An})_{/S_\lambda}$ への制限を表す。したがって $Y_\lambda$ と $W'_\lambda$ は $S_\lambda$ 上同型で、同型は点の対応(どちらも $e$ からの射で読む)を保つ。$W'_\lambda$ の底は、$\mathcal J_\lambda\mathcal O_{W_\lambda}$ の茎が単位イデアルになるのは像の点が $\mathrm{Supp}(\mathcal O/\mathcal J_\lambda)$ の外にあるときに限る(茎の射が局所的なので)ことから、$W_\lambda$ の閉集合 $\rho_\lambda^{-1}(S_\lambda)=S_\lambda\times k^p$ で、位相は $\Omega_\lambda\times k^p$ の部分空間の位相、すなわち $S_\lambda$ と $k^p$ の積位相である。集合 $S_\lambda\times k^p$ は、$S\times E^p$ の位相でも積位相でも開で、全体を覆い、その上で二つの位相は一致するので、全体でも一致する。
段 8((4)).$\mathcal O_T^p$ から $\mathcal O_T$ への射は、基底の像である $p$ 個の大域関数と一対一である(本書『0-2 環付き空間の上の加群』の定理「外積と双対の標準同型」の (5))。この対応が逆像と両立すること、すなわち $S$ 射 $h\colon T'\to T$ について $h^*\mathcal O_T^p\cong\mathcal O_{T'}^p$ が基底 $1\otimes e_l$ を $e_l$ に送り、$h^*\varphi$ が $1\otimes e_l$ を $1\otimes\varphi(e_l)=h^\sharp(\varphi(e_l))$ に送ることは、本書『0-2 環付き空間の上の加群』の定理「逆像と加群の演算」の (1)(2) による。ゆえに二つの前層は同型で、(1) の空間が表す。((4) の関手の値を本書『1-1』が $V(\mathcal O_S^p)$ として使うのにも、$(\mathcal O_S^p)_{(T)}\cong\mathcal O_T^p$ という同じ定理の (1) の標準同型が要る。)

$p=0$ なら $\Gamma^0$ はどの $T$ でも一点で、$S\times E^0=S$($(\mathrm{An})_{/S}$ の終対象)である。$S=\emptyset$ なら $(\mathrm{An})_{/\emptyset}$ の対象は $\emptyset$ だけで、$S\times E^p=\emptyset$ である。本書『1-1 双対規約のベクトル束とその存在』は (4) の空間を $V(\mathcal O_S^p)$ と書く。

  • 使う定理:本書『0-3 解析空間と数空間』の定理「数空間への射と大域関数」(連作第 III 回の定理 1.1・系 1.2)、定義「解析空間の定義」、定理「解析空間の開部分空間とはめ込み」、命題「開はめ込みの底変換と非交和」、補題「一点の解析空間と終対象」「剰余体が基礎体の局所代数の射」、本書『0-4 表現可能性の判定法』の定義「局所的な関手」、定理「底の開被覆による表現可能性の判定」「スライス圏の間の底変換」、上の補題(閉部分空間の普遍性と閉はめ込みの計算)、本書『0-2 環付き空間の上の加群』の定理「外積と双対の標準同型」「逆像と加群の演算」。
  • 本書で使う頁:1-1、1-3(反例)、1-4、4-2、1-2・2-2・3-1 の例(0-4 の段では言及だけ)。
    証明の段 2 と段 5 は第 9 巻の判定法を底の開被覆で引く。そのため、この補題を直接使う主結果の札には第 9 巻の足した仮定が入る。どの場合に仮定が実際に効くかを、次の注意にまとめる。
底と数空間の積の札と分離性
  1. この補題を直接使う主結果は[条件付き]で、札に本書『0-3 解析空間と数空間』の定理「数空間への射と大域関数」(連作第 III 回の定理 1.1・系 1.2)をこの補題を通して引くことを書き、「解析空間の定義の下では完結」の句を添えない。証明が本書『0-4 表現可能性の判定法』の定理「底の開被覆による表現可能性の判定」を引くので、札に「足した仮定:解析空間は分離的とは限らない、空の和と空の被覆を含める」と書く(本書『1-1 双対規約のベクトル束とその存在』の主結果「ベクトル束の存在」、本書『1-4 ベクトル束の底変換とファイバー』の主結果「ベクトル束のファイバー」)。
  2. $S$ が一つの模型で覆われるとき、すなわち $S$ 自身がある $k^N$ の開集合の上の有限型のイデアルの閉部分空間に同型なとき(たとえば $S=e$)は、段 2 の被覆を $S$ だけにとれば段 4 の $W'_\lambda$ がそのまま $\Gamma^p$ を表し、判定法は要らない。$S=\emptyset$ のときも、$(\mathrm{An})_{/\emptyset}$ の対象は $\emptyset$ だけで $\Gamma^p(\emptyset)$ は一点なので、$\emptyset$ が直接 $\Gamma^p$ を表す。どちらの場合も足した仮定は結論に効かない。
  3. $S$ が分離的なら、(3) により $S\times E^p$ の底は分離的な空間の積 $S\times k^p$ で、分離的である。その閉部分空間も分離的である。分離的な空間の全体は $(\mathrm{An})$ の充満部分圏なので、$S\times E^p$ は、分離的な $S$ 上の空間だけの圏に制限した $\Gamma^p$ も表す。したがってこの補題の結論は、解析空間に分離性を課す読みでも成り立つ。

例

閉部分空間は台の集合だけでは決まらず、零点の部分空間はイデアルの冪の違いを覚えている。全射になる点の開集合は、零点の部分空間とは逆に開いた条件である。最も簡単な場合で確かめる。

座標の零点と二重点

$T=E^1$ とし、座標を $z$ とする。
(a) $c=z\colon\mathcal O_T\to\mathcal O_T$ の零点の部分空間は $Z(z\mathcal O_T)$ で、一点 $0$ に $k\{z\}/(z)=k$ を与えた空間、すなわち点の部分空間 $e_0$ である(本書『0-3 解析空間と数空間』の補題「点の部分空間の存在」)。射 $g\colon T'\to E^1$ がこれを経由するのは $g^\sharp(z)=0$ のときである。
(b) $c=z^2$ の零点の部分空間は $Z(z^2\mathcal O_T)$ で、本書『0-3 解析空間と数空間』の例「二重点」の $D$ である。射 $g$ がこれを経由するのは $g^\sharp(z)^2=0$ のときである。
(c) (a) と (b) の台はどちらも $\{0\}$ だが、二つの部分前層は違う。包含 $D\to E^1$ は (b) の条件を満たすが、$D$ の上で $z$ の像 $\varepsilon$ は $0$ でないので (a) の条件を満たさず、$e_0$ を経由しない。上の補題(閉部分空間の普遍性と閉はめ込みの計算)の (c) により $Z(z\mathcal O_T)\times_{E^1}Z(z^2\mathcal O_T)=Z(z\mathcal O_T+z^2\mathcal O_T)=e_0$ で、(e) により $e_0\to D$ は閉はめ込みである。

座標倍の射が全射になる所

$T=E^1$(座標 $z$)とし、$\alpha\colon\mathcal O_T\to\mathcal O_T$ を $z$ 倍の射とする。点 $t$ での既約ファイバーの射 $k\to k$ は $t$ の座標倍なので、$U_\alpha=E^1-\{0\}$ である。射 $g\colon T'\to E^1$ について $g^*\alpha$ は $g^\sharp(z)$ 倍の射で、全射であることは $g^\sharp(z)$ の芽が各点で可逆であること、すなわち $g(T')\subset E^1-\{0\}$ と同値で、上の補題(全射になる点の開集合)の (2) と合う。原点では茎の射 $k\{z\}\to k\{z\}$ の像は $zk\{z\}$ で、全射でない。余核は $\mathcal O_T/z\mathcal O_T$ で、上の注意(局所自由でない目標では零点の部分空間を作れない)の例の加群である。そこで開部分空間が現れたのは、商写像が $0$ になることが、この $\alpha$ が全射になることと同じだからである。

  • 本書で使う頁:上の注意(底と数空間の積の札と分離性)は 1-1・1-4、例(座標の零点と二重点)は 4-1 の例、例(座標倍の射が全射になる所)は 2-2 の例が引く。

原論文での使われ方

原論文 Gro61v の中で、本頁の補題が使われる箇所を並べる。原論文はどれにも補題の形を書かず、閉部分空間の定義も書かない。

原論文の箇所印字頁本頁の事実
命題 1.1 の証明($E^p\times S$、零切断の逆像)12-03底と数空間の積、零点の部分空間、閉部分空間の普遍性と閉はめ込みの計算の (b)
命題 1.5 の証明(自由な加群への二つの閉はめ込みから)12-05閉部分空間の普遍性と閉はめ込みの計算の (d)(e)
注意 2.3(商環の射影束)12-09閉部分空間の普遍性と閉はめ込みの計算の (a)
§3 の段 a.(標準の開部分関手はベクトル束の閉部分空間)12-11零点の部分空間
§3 の段 b.(中山の補題による開集合)12-11全射になる点の開集合
§3 の一般の旗の段(押さえる条件)12-12零点の部分空間、閉部分空間の普遍性と閉はめ込みの計算の (b)(c)
§3 の Plücker 射の帰着段12-12〜12-13閉部分空間の普遍性と閉はめ込みの計算の (c)(d)(e)、全射になる点の開集合
§3 の Plücker 射の計算段(グラフ)12-13〜12-14零点の部分空間、全射になる点の開集合

参考文献

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