加群 $\mathcal E$ の引き戻しの大域切断を値にとる関手を、前頁のベクトル束の関手と比べる。$\mathcal E$ が局所自由ならこの関手は双対の加群のベクトル束で表され、逆に $\mathcal E$ が有限表示でこの関手が表現可能なら $\mathcal E$ は局所自由である。後者は原論文が「容易に示せる」とだけ書く主張で、冪零元をもつ一点の空間を使って証明を補う。これにより、切断の層が $\mathcal E$ になる従来の規約と、原論文が採る双対規約の関係が定まる。
前提知識: ベクトル束, 局所自由層, 表現可能関手, 中山の補題, Krullの交叉定理, 解析空間
$S$ を解析空間、$\mathcal E$ を $\mathcal O_S$ 加群とし、$S$ 上の解析空間 $T$ について $\mathcal E_{(T)}$ を構造射 $p_T$ による逆像とする。$F_{\mathcal E}$ と $V(\mathcal E)$ は本書『1-1 双対規約のベクトル束とその存在』の定義「ベクトル束の関手」「ベクトル束」のとおりである。$\mathcal E$ が有限階数の局所自由であるとは、各点が開近傍 $U$ と整数 $r\ge0$ で $\mathcal E|_U\cong\mathcal O_U^r$ となるものをもつことをいう(階数は点ごとに変わってよい)。記号は本書『0-6 記号と約束』のとおりである。
本頁の主結果は次の三つである。
原論文の注意 1.3(印字 12-03〜12-04)は、前頁の関手 $F_{\mathcal E}$ と、$\mathcal E$ について共変な関手 $G_{\mathcal E}(T)=\Gamma(T,\mathcal E_{(T)})$ を比べる。$G_{\mathcal E}$ を表す空間は、$S$ の開集合 $U$ の上の切断が $\Gamma(U,\mathcal E)$ になる空間で、$\mathcal E$ が局所自由のとき、それまで $\mathcal E$ の定めるベクトル束と呼ばれていたのはこの空間である。原論文は、$\mathcal E$ が有限表示なら $G_{\mathcal E}$ は $\mathcal E$ が局所自由のときにしか表現可能でないことが「容易に示せる」と書き、局所自由のときの表現可能性は命題 1.1 を双対の加群に当てれば含まれるとする。そのうえで、双対の規約を採るほうが、任意の有限表示の加群にベクトル束が対応するので好ましい、と述べる。
したがって、原論文の規約の選択には二つの事実が要る。局所自由なら二つの規約は双対をとって行き来できること(主結果 1・3)と、従来の規約は局所自由の外では働かないこと(主結果 2)である。後者を原論文は証明しない。証明には、被約な点だけでなく冪零元をもつ一点の空間で関手を調べることが本質的に要る。被約な点 $e_s$ の上の値 $G_{\mathcal E}(e_s)=\mathcal E(s)$ は既約ファイバーしか見ず、局所自由でない加群も区別できないからである(下の反例)。
切断の関手を定め、二つの規約を言葉にする。切断の関手の値は一点の空間の上では加群の茎とテンソル積で書けるので、その計算も準備する。
次の事実を本書の第 0 章と前頁から引用する。出典は連作第 II 回 Gro61ii と可換環論の標準の定理である。本書『0-2 環付き空間の上の加群』の定理「逆像と加群の演算」「外積と双対の標準同型」「中山の補題」「有限表示と局所自由の基本性質」、補題「茎による計算」「可換環の上のテンソル積と外積」は同じ頁で証明したもので、本書の札では完結の入力に数える。下の 3 と 5 も、本書『0-3 解析空間と数空間』で引用に依らずに証明したもので、完結の入力に数える。
$\mathcal E$ を $\mathcal O_S$ 加群とする。$S$ 上の解析空間 $T$ について $G_{\mathcal E}(T)=\Gamma(T,\mathcal E_{(T)})$ とおく。切断 $\sigma\in\Gamma(T,\mathcal E_{(T)})$ を射 $\mathcal O_T\to\mathcal E_{(T)}$($1\mapsto\sigma$)とみて、$S$ 射 $f\colon T'\to T$ について $G_{\mathcal E}(f)(\sigma)$ を、合成 $\mathcal O_{T'}\cong f^*\mathcal O_T\xrightarrow{f^*\sigma}f^*\mathcal E_{(T)}\cong\mathcal E_{(T')}$ の $1$ の像とする(同型は逆像の標準同型)。加群の射 $u\colon\mathcal E\to\mathcal E'$ には $\sigma\mapsto u_{(T)}\circ\sigma$ を対応させる。$G_{\mathcal E}$ を $\mathcal E$ の切断の関手と呼ぶ。
本書『1-1 双対規約のベクトル束とその存在』の主結果「ベクトル束の関手の二重関手性」と同じ証明で、$G_{\mathcal E}$ は $T$ について反変、$\mathcal E$ について共変な関手である。$G_{\mathcal E}$ と $F_{\mathcal E}$ の違いは加群の変数の向きにあり、原論文も「$F_{\mathcal E}$ と違って共変」と注意する(印字 12-03)。
$s\in S$、$R=\mathcal O_{S,s}$、$M=\mathcal E_s$ とする。$B$ を剰余体が $k$ の有限次元局所 $k$ 代数、$\rho\colon R\to B$ を $k$ 代数の射とし、引用する事実の 5 により $(s,\rho)$ が定める射 $P_B\to S$ で $P_B$ を $S$ 上の空間とみる。
(1) $G_{\mathcal E}(P_B)=M\otimes_RB$ である($B$ は $\rho$ で $R$ 加群とみる)。
(2) $(s,\rho')$ で $S$ 上の空間とみた $P_{B'}$ と、$k$ 代数の射 $\theta\colon B'\to B$ で $\theta\circ\rho'=\rho$ となるものについて、$(*,\theta)$ が定める射 $P_B\to P_{B'}$ は $S$ 射で、$G_{\mathcal E}$ の値の写像は $1_M\otimes\theta\colon M\otimes_RB'\to M\otimes_RB$ である。
$B=k$、$\rho$ を剰余写像にとると、$P_k$ は $s$ の上の被約な一点で、これを $e_s$ とも書く(本書『0-3 解析空間と数空間』の補題「点の部分空間の存在」の $e_s$ と同じものである)。上の補題の (1) により $G_{\mathcal E}(e_s)=M\otimes_Rk=\mathcal E(s)$ である。
局所自由な場合に二つの関手を双対で結び、次に表現可能性から局所自由性を導き、最後に二つの規約を比べる。
$\mathcal E$ を有限階数の局所自由な $\mathcal O_S$ 加群とする。$S$ 上の解析空間 $T$ について、逆像の射 $\varphi_T\colon(\check{\mathcal E})_{(T)}\to(\mathcal E_{(T)})^\vee$(本書『0-2 環付き空間の上の加群』の定理「逆像と加群の演算」の (5) の同型)を使い、$\sigma\in G_{\mathcal E}(T)$ に
$$\psi_T(\sigma)=\mathrm{ev}_\sigma\circ\varphi_T\colon(\check{\mathcal E})_{(T)}\to\mathcal O_T,\qquad\mathrm{ev}_\sigma(\mu)=\mu(\sigma)$$
を対応させる。$\psi_T\colon G_{\mathcal E}(T)\to F_{\check{\mathcal E}}(T)$ は全単射で、$T$ について自然である。したがって $G_{\mathcal E}$ は $F_{\check{\mathcal E}}$ と同型で、ベクトル束 $V(\check{\mathcal E})$ で表される。
段 1(加群の性質).$\check{\mathcal E}$ と $\mathcal E_{(T)}$ は有限階数の局所自由である(本書『0-2 環付き空間の上の加群』の定理「外積と双対の標準同型」の (1) と定理「逆像と加群の演算」の (4) を、階数が一定の開集合ごとに当てる。主張はどれも局所的である)。とくに $\check{\mathcal E}$ は有限表示である。
段 2(全単射).$\sigma\mapsto\mathrm{ev}_\sigma$ は、同型 $\mathcal E_{(T)}\to(\mathcal E_{(T)})^{\vee\vee}$(同じ頁の定理「外積と双対の標準同型」の (1))の大域切断の写像 $\Gamma(T,\mathcal E_{(T)})\to\mathrm{Hom}((\mathcal E_{(T)})^\vee,\mathcal O_T)$ で、全単射である。$\varphi_T$ は同型なので、$\varphi_T$ との合成も全単射である。
段 3(自然性).$S$ 射 $f\colon T'\to T$ と $\sigma\in G_{\mathcal E}(T)$ について、$\psi_{T'}(G_{\mathcal E}(f)(\sigma))$ と $F_{\check{\mathcal E}}(f)(\psi_T(\sigma))$ はどちらも $(\check{\mathcal E})_{(T')}\cong f^*(\check{\mathcal E})_{(T)}$ から $\mathcal O_{T'}$ への射である。同じ頁の定理「逆像と加群の演算」の (2) により、$1\otimes(1\otimes\lambda)$($\lambda$ は $\check{\mathcal E}$ の局所切断)の形の元の上で比べればよい。前者の値は $(p_{T'}^*\lambda)(f^*\sigma)$、後者の値は $f^\sharp\bigl((p_T^*\lambda)(\sigma)\bigr)$ である。$p_{T'}^*\lambda$ は標準同型の下で $f^*(p_T^*\lambda)$ に対応し、射の合成 $\mathcal O_T\xrightarrow{\sigma}\mathcal E_{(T)}\xrightarrow{p_T^*\lambda}\mathcal O_T$ の逆像は逆像の合成で、関数倍の射 $\mathcal O_T\to\mathcal O_T$ の逆像は $f^\sharp$ で引き戻した関数の倍なので、二つの値は等しい。
段 4(表現).段 1 により $\check{\mathcal E}$ は有限表示なので、本書『1-1 双対規約のベクトル束とその存在』の主結果「ベクトル束の存在」により $F_{\check{\mathcal E}}$ は $V(\check{\mathcal E})$ で表される。段 2・段 3 の同型を合成すれば、$V(\check{\mathcal E})$ が $G_{\mathcal E}$ を表す。
段 5(境界の場合).$\mathcal E=0$(階数 $0$)なら $G_0(T)=0$ はどの $T$ でも一点で、$G_0$ は終対象 $S=V(0)$ で表される。
原論文は、局所自由の場合の表現可能性は命題 1.1 を双対の加群に当てたものに含まれる、と書き、「Cf. 1.9」を添える(印字 12-03〜12-04)。上の定理がその内容である。参照先の命題 1.9 は、加群の射の関手 $T\mapsto\mathrm{Hom}(\mathcal E_{(T)},\mathcal F_{(T)})$ が $\mathcal F$ が局所自由なら $V(\check{\mathcal F}\otimes\mathcal E)$ で表されるという主張で(本書『1-4 ベクトル束の底変換とファイバー』の主結果「加群の射の関手の表現」)、源を $\mathcal O_S$、目標を $\mathcal E$ とすれば $G_{\mathcal E}$ が $V(\check{\mathcal E})$ で表されることになり、上の定理と合う。
逆向きを示すには、関手の値を冪零元をもつ一点の空間で比べる。表現可能な関手は、一点の空間を剰余体で貼り合わせた空間の上で、値が貼り合わさる。
$s\in S$、$R=\mathcal O_{S,s}$ とし、$B_1$、$B_2$ を剰余体が $k$ の有限次元局所 $k$ 代数、$\rho_i\colon R\to B_i$ を $k$ 代数の射、$\epsilon_i\colon B_i\to k$ を剰余写像とする。
(1) $C=B_1\times_kB_2=\{(b_1,b_2):\epsilon_1(b_1)=\epsilon_2(b_2)\}$ は剰余体が $k$ の有限次元局所 $k$ 代数で、$\rho=(\rho_1,\rho_2)$ は $R$ から $C$ への $k$ 代数の射である。
(2) $P_{B_i}$、$P_C$、$P_k=e$ をそれぞれ $(s,\rho_i)$、$(s,\rho)$、$(s,\text{剰余写像})$ で $S$ 上の空間とみる。二つの射影 $C\to B_i$ と $\epsilon_i$ が定める $S$ 射 $q_i\colon P_{B_i}\to P_C$、$r_i\colon P_k\to P_{B_i}$ について $q_1\circ r_1=q_2\circ r_2$ で、任意の $S$ 上の空間 $X$ について
$$\mathrm{Hom}_S(P_C,X)\to\mathrm{Hom}_S(P_{B_1},X)\times_{\mathrm{Hom}_S(P_k,X)}\mathrm{Hom}_S(P_{B_2},X),\qquad g\mapsto(g\circ q_1,g\circ q_2)$$
は全単射である。
(3) したがって、$(\mathrm{An})_{/S}$ 上の表現可能な前層 $G$ について、$G(q_1)$、$G(q_2)$ が定める写像 $G(P_C)\to G(P_{B_1})\times_{G(P_k)}G(P_{B_2})$ は全単射である。
この補題の (3) は、$P_C$ が解析空間の圏で $P_{B_1}$ と $P_{B_2}$ を $P_k$ に沿って貼り合わせた空間(押し出し)であることを、関手の値で言ったものである。切断の関手の値は一点の空間の上では茎のテンソル積なので(上の補題(一点の空間の上の切断))、この条件は茎 $M$ についての条件になる。
$\mathcal E$ を有限表示の $\mathcal O_S$ 加群とする。$G_{\mathcal E}$ が $(\mathrm{An})_{/S}$ 上で表現可能なら、$\mathcal E$ は有限階数の局所自由である。
段 1(茎の極小な表示).$s\in S$ を固定し、$R=\mathcal O_{S,s}$、その極大イデアルを $\mathfrak m$、$M=\mathcal E_s$ とする。$\mathcal E$ の局所的な表示の茎をとれば(本書『0-2 環付き空間の上の加群』の補題「茎による計算」の (3))、$M$ は有限表示の $R$ 加群である。同じ頁の定理「有限表示と局所自由の基本性質」の (6) により、完全列 $0\to N\to R^r\to M\to0$ で、$N$ が有限生成かつ $N\subset\mathfrak mR^r$ となるものがある。
段 2(有限次元の商環).引用する事実の 2・3 により、$R$ はネーター環で剰余体は $k$ である。$\mathfrak m$ は有限生成なので、各 $i\ge0$ で $\mathfrak m^i/\mathfrak m^{i+1}$ は $R/\mathfrak m=k$ の上の有限次元のベクトル空間である。ゆえに $j\ge1$ について $A_j=R/\mathfrak m^j$ は剰余体が $k$ の有限次元局所 $k$ 代数である。$\pi\colon R\to A_j$ を商写像とし、上の補題(一点の空間の押し出し)を $B_1=B_2=A_j$、$\rho_1=\rho_2=\pi$ に当てて、$C=A_j\times_kA_j$ と $\rho=(\pi,\pi)$ をとる。
段 3(単射性).$G_{\mathcal E}$ は表現可能なので、上の補題(一点の空間の押し出し)の (3) と補題(一点の空間の上の切断)により、
$$M\otimes_RC\to(M\otimes_RA_j)\times_{M\otimes_Rk}(M\otimes_RA_j)$$
は全単射で、とくに二つの射影が誘導する写像 $M\otimes_RC\to(M\otimes_RA_j)^2$ は単射である。
段 4(テンソル積の記述).$R$ 代数 $Q$ について、テンソル積の右完全性(同じ頁の補題「可換環の上のテンソル積と外積」の (1))により $M\otimes_RQ=Q^r/NQ$ である。ここで $NQ$ は、$N$ の元の $Q^r$ での像が生成する $Q$ 部分加群である。この記述で、段 3 の写像は $C^r\to A_j^r$ の二つの射影が誘導する写像である。
段 5($N\subset\mathfrak m^jR^r$).$n\in N$ をとり、その $A_j^r$ での像を $\bar n$ と書く。$n\in\mathfrak mR^r$ なので $\bar n$ の剰余は $0$ で、$w=(\bar n,0)$ は $C^r=A_j^r\times_{k^r}A_j^r$ の元である。$w$ の二つの射影はそれぞれ $NA_j$ に入るので、$w$ の $M\otimes_RC$ での類は段 3 の写像で $0$ に写り、単射性から $w\in NC$ である。すなわち $n_1,\dots,n_q\in N$ と $C$ の元 $(\bar a_l,\bar b_l)$($a_l,b_l\in R$、剰余が等しいので $a_l-b_l\in\mathfrak m$)で $w=\sum_l(\bar a_l,\bar b_l)(\bar n_l,\bar n_l)$ となるものがある。成分を比べると $n-\sum_la_ln_l\in\mathfrak m^jR^r$、$\sum_lb_ln_l\in\mathfrak m^jR^r$ で、差をとって
$$n-\sum_l(a_l-b_l)n_l\in N\cap\mathfrak m^jR^r$$
を得る。$a_l-b_l\in\mathfrak m$ なので $N=(N\cap\mathfrak m^jR^r)+\mathfrak mN$ である。$N$ は有限生成なので、同じ頁の定理「中山の補題」の (1) の後半により $N=N\cap\mathfrak m^jR^r$、すなわち $N\subset\mathfrak m^jR^r$ である。
段 6(Krull の交叉定理).段 5 はすべての $j\ge1$ で成り立つので、引用する事実の 6 を有限生成加群 $R^r$ に当てて $N\subset\bigcap_j\mathfrak m^jR^r=0$ を得る。ゆえに $M\cong R^r$ は自由である。
段 7(近傍での自由性).同じ頁の定理「有限表示と局所自由の基本性質」の (5) により、$s$ の近傍で $\mathcal E\cong\mathcal O^r$ である。$s$ は任意なので、$\mathcal E$ は有限階数の局所自由である。
証明は $G_{\mathcal E}$ の値を $s$ の上の一点の空間 $P_{A_j}$、$P_C$、$e$ でしか使っていない。したがって結論は、$G_{\mathcal E}$ がこれらの空間の押し出しの条件(上の補題の (3) の全単射性)を満たすという、表現可能性より弱い仮定から出る。上の定理(局所自由な加群の切断の関手)と合わせると、有限表示の加群 $\mathcal E$ について、$G_{\mathcal E}$ が表現可能であることと $\mathcal E$ が有限階数の局所自由であることは同値である。
以上で、局所自由な加群では切断の関手が双対のベクトル束で表され、それ以外の有限表示の加群では表されないことが分かった。これを規約の言葉にまとめる。
原論文は注意 1.3 の終わりで、局所自由とは限らない加群のベクトル束と、とくにそれに付随する射影束が、幾何で実際に現れ、たとえば「Picard 多様体」の研究に現れる、と述べる(印字 12-04)。例も文献も挙げられていない所見で、本書は判定しない。
局所自由でない最も簡単な加群で、切断の関手が表現可能でないことを、上の補題の条件が破れる所まで具体的に計算する。続いて、二つの規約が一致する場合と、一点の上の場合を見る。
上の定理(局所自由な加群の切断の関手)の、$\mathcal E$ が局所自由であるという仮定を外す。$S=E^1$(座標 $z$)、$\mathcal E=\mathcal O_S/z\mathcal O_S$(本書『0-2 環付き空間の上の加群』の例「直線の原点の剰余加群」。有限表示で局所自由でない)とすると、$G_{\mathcal E}$ は表現可能でない。上の定理(切断の関手の表現可能性と局所自由性)からも出るが、ここでは局所環のネーター性も Krull の交叉定理も使わずに、上の補題(一点の空間の押し出し)の条件が破れることを直接確かめる。
原点 $s=0$ で $R=k\{z\}$、$M=\mathcal E_0=R/zR$ である。$A_2=R/z^2R=k[\varepsilon]/(\varepsilon^2)$($\varepsilon$ は $z$ の類。$P_{A_2}$ は本書『0-3 解析空間と数空間』の例「二重点」の空間)とし、$C=A_2\times_kA_2$ をとる。$C$ は $1$、$\varepsilon_1=(\varepsilon,0)$、$\varepsilon_2=(0,\varepsilon)$ を基底とし、$\varepsilon_1^2=\varepsilon_1\varepsilon_2=\varepsilon_2^2=0$ で、$z$ は $\varepsilon_1+\varepsilon_2$ に写る。
(a) $M\otimes_RA_2=A_2/\varepsilon A_2=k$、$M\otimes_Rk=k$ で、$(M\otimes A_2)\times_{M\otimes k}(M\otimes A_2)=k\times_kk$ は $1$ 次元である。
(b) $M\otimes_RC=C/(\varepsilon_1+\varepsilon_2)C$ で、$(\varepsilon_1+\varepsilon_2)C$ は $\varepsilon_1+\varepsilon_2$ の張る $1$ 次元の部分空間なので、$M\otimes_RC$ は $2$ 次元である。
(c) (b) から (a) への写像は、$(a+b\varepsilon,a+b'\varepsilon)$ の類を $(a,a)$ に送る。$\varepsilon_1$ の類は $0$ でないが $0$ に写るので、この写像は単射でない。
上の補題(一点の空間の押し出し)の (3) と補題(一点の空間の上の切断)により、$G_{\mathcal E}$ が表現可能ならこの写像は全単射のはずなので、$G_{\mathcal E}$ は表現可能でない。一方、双対規約のベクトル束 $V(\mathcal E)$ は存在する(本書『1-1 双対規約のベクトル束とその存在』の例「原点で潰れた直線のベクトル束」)。被約な点の上の値 $G_{\mathcal E}(e_0)=\mathcal E(0)=k$ は、$\mathcal O_S$ の値 $\mathcal O_S(0)=k$ と区別がつかず、区別は冪零元をもつ $P_C$ の上で初めて現れる。
$S=e$ とする。$\mathcal O_e$ 加群は $k$ ベクトル空間で、有限表示であることは有限次元であることと同じなので、有限表示の加群はどれも自由 $k^n$ で、上の定理(切断の関手の表現可能性と局所自由性)の結論は自動的に成り立つ。$G_{k^n}(T)=\Gamma(T,\mathcal O_T^n)=\Gamma(T,\mathcal O_T)^n$ は数空間 $E^n$ で表される(本書『0-5 閉部分空間と零点と積』の補題「底と数空間の積」を $S=e$ に当てると $e\times E^n$ で、これは $E^n$ である)。双対規約でも $F_{k^n}(T)=\Gamma(T,\mathcal O_T)^n$ で、二つの規約の空間は同じ $E^n$ になる。ただし基底に依らない形では、$V(k^n)$ の点は $k^n$ の双対空間の元で、従来の規約の空間の点は $k^n$ の元である。
$\mathcal E=\mathcal O_S$ とする。$\check{\mathcal O_S}=\mathcal O_S$(本書『0-2 環付き空間の上の加群』の補題「茎による計算」の (4))で、$F_{\mathcal O_S}(T)=\mathrm{Hom}(\mathcal O_T,\mathcal O_T)=\Gamma(T,\mathcal O_T)=G_{\mathcal O_S}(T)$ である。二つの規約はどちらも $S\times E^1$ を与え、切断の層はどちらも $\mathcal O_S$ である。一般の可逆な加群 $\mathcal L$ では、双対規約の空間は切断の層が $\check{\mathcal L}$ の $V(\mathcal L)$、従来の規約の空間は切断の層が $\mathcal L$ の $V(\check{\mathcal L})$ で(上の定理(二つの規約の比較))、$\check{\mathcal L}$ と $\mathcal L$ が同型でなければ二つの空間の切断の層は異なる。$\mathcal O_S$ で二つが一致するのは、$\check{\mathcal O_S}=\mathcal O_S$ だからである。
以下は後代の文献の紹介である(本書は文献を開いて該当箇所を確かめていない)。
本頁が対応する原論文は Gro61v である。印字頁は PDF の頁番号から 1 を引いたもの(PDF $n$ が印字 12-$(n-1)$)である。
| 本頁 | 原論文 | 印字頁 |
|---|---|---|
| 定義「切断の関手」 | 注意 1.3 の冒頭 | 12-03 |
| 主結果「切断の関手の表現可能性と局所自由性」、注意「原論文の「容易に示せる」と証明の要」 | 注意 1.3 の「容易に示せる」主張 | 12-03 |
| 主結果「局所自由な加群の切断の関手」 | 注意 1.3 の、命題 1.1 を双対の加群に当てる段と「Cf. 1.9」 | 12-03〜12-04 |
| 定義「二つの規約」、主結果「二つの規約の比較」 | 注意 1.3 の規約の段 | 12-04 |
| 注意「原論文の所見(Picard 多様体)」 | 注意 1.3 の終わり | 12-04 |
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