2-3 旗束の存在定理

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

有限表示の加群の旗の関手が、解析空間の圏で表現可能であることを示す。旗の関手を Grassmann 束の積の中に置き、成分の列が旗になる条件(後の成分が前の成分を押さえること)が零点の部分空間で表されることを確かめて、前の講演の射のクラスの判定法で閉はめ込みを得る。原論文が「全く同様」とだけ書いた、全射から来る旗束の射が閉はめ込みであることも、同じ型の議論で示す。
前提知識: 旗多様体, Grassmann多様体, 閉はめ込み, 表現可能関手, 局所自由層, 解析空間

この頁で示すこと

$S$ を解析空間とし、関手はすべて $S$ 上の解析空間の圏 $(\mathrm{An})_{/S}$ に制限して考える(本書『0-3 解析空間と数空間』の定義「解析空間の射」)。解析空間は局所環付き空間なので、本書『2-1 旗の関手と標準の写像』の関手 $\mathbf{Drap}_m(\mathcal E)$、$\mathbf{Grass}_n(\mathcal E)$、$\mathbf P(\mathcal E)$ をこの圏に制限したものを同じ記号で書く。$\mathcal E$、$\mathcal F$ を $\mathcal O_S$ 加群、$m=(m_1,\dots,m_p)$ を $0$ 以上の整数の増加列($p\ge0$)とする。旗は同じ頁の定義「型の旗」のもの、すなわち局所自由な商の列で、各 $i< p$ で第 $i+1$ 成分が第 $i$ 成分を押さえるものである。関手の積 $\prod_i\mathbf{Grass}_{m_i}(\mathcal E)$ を表す空間は、$S$ 上のファイバー積 $\underline{\mathrm{Grass}}_{m_1}(\mathcal E)\times_S\dots\times_S\underline{\mathrm{Grass}}_{m_p}(\mathcal E)$ である($p=0$ なら $S$)。これを $\prod_i\underline{\mathrm{Grass}}_{m_i}(\mathcal E)$ と書く。
本頁の主結果は次の三つである。

  1. 旗束の Grassmann 束の積への閉はめ込み(原論文 §3 の一般の旗の段、印字 12-11〜12-12):$\mathcal E$ が有限表示なら $\mathbf{Drap}_m(\mathcal E)$ は表現可能で、旗を成分の列に送る関手の準同型に対応する射 $\underline{\mathrm{Drap}}_m(\mathcal E)\to\prod_i\underline{\mathrm{Grass}}_{m_i}(\mathcal E)$ は閉はめ込みである。[条件付き:本書『2-2 Grassmann 束の存在』の主結果「Grassmann 束とその積の存在」による。本書『0-5 閉部分空間と零点と積』の補題「閉部分空間の普遍性と閉はめ込みの計算」「零点の部分空間」を引用。足した仮定:旗の読み]
  2. 旗束の存在定理(原論文の命題 2.1、印字 12-08):$\mathcal E$ が有限表示なら、$\mathbf{Drap}_m(\mathcal E)$ は $S$ 上の解析空間の圏で表現可能である。[条件付き:主結果 1 による。足した仮定:旗の読み]
  3. 全射から来る旗束の閉はめ込み(原論文 §3 の「全く同様」の段、印字 12-12):有限表示の加群の全射 $w\colon\mathcal E\to\mathcal F$ について、旗の関手の準同型 $\mathbf{Drap}_m(\mathcal F)\to\mathbf{Drap}_m(\mathcal E)$ に対応する射 $\underline{\mathrm{Drap}}_m(\mathcal F)\to\underline{\mathrm{Drap}}_m(\mathcal E)$ は閉はめ込みである。[条件付き:主結果 2 による。本書『0-5 閉部分空間と零点と積』の補題「閉部分空間の普遍性と閉はめ込みの計算」「零点の部分空間」を引用。足した仮定:旗の読み]
    三つの証明は、本書『2-1 旗の関手と標準の写像』の主結果「旗の逆像と旗の関手」の (3)、「全射から来る写像と成分への分解」「標準の写像の関手性」と補題「商と核」、本書『0-4 表現可能性の判定法』の定理「底変換で安定な射のクラスの判定」(第 9 巻『表現可能関手の一般形式』で[完結])と補題「スライス圏」の (1)(3)、本書『0-2 環付き空間の上の加群』で証明した加群の事実も使う。これらは本書の札では完結の入力である。条件は二つの経路から来る。一つは本書『0-5 閉部分空間と零点と積』の二つの補題で、第 0 章の解析空間の引用に依るが連作の定理は使わない。もう一つは Grassmann 束の存在で、本書『1-1 双対規約のベクトル束とその存在』の主結果「ベクトル束の存在」を通して連作第 III 回 Gro61iii の定理に依る。そのため三つとも「解析空間の定義の下では完結」の句を添えない。札の「旗の読み」は本書『2-1 旗の関手と標準の写像』の注意「旗の読み」の足した仮定で、その読みを外すと何が壊れるかを下の反例で確かめる。

背景と動機

原論文は §2 で旗の関手を定めたあと、「以後、環付き空間は解析空間に限る」と断って命題 2.1 を述べる(印字 12-08)。有限表示の加群 $\mathcal E$ について、関手 $\mathbf{Drap}_m(\mathcal E)$ が $(\mathrm{An})_{/S}$ で表現可能である、という主張で、これが本講演の存在定理である。続く定義 2.2(印字 12-08〜12-09)で、表す空間を型 $m$ の旗束と呼び、Grassmann 束と射影束をその特別な場合として名付ける。証明は §3 に回される。
§3 は、まず Grassmann 関手の表現可能性を示し(本書『2-2 Grassmann 束の存在』)、一般の旗をそれに帰着させる(印字 12-11〜12-12)。旗は成分の列なので、旗の関手は Grassmann 関手の積の部分関手である。原論文は、この部分関手の中に入る条件が「閉じた条件」であることを示し、連作第 IV 回 Gro61iv の注意 3.13 で表現可能性と閉はめ込みを同時に得る。第 IV 回の注意 3.13 は、本書では第 9 巻の結果として本書『0-4 表現可能性の判定法』の定理「底変換で安定な射のクラスの判定」に述べ直してある。射が閉はめ込みかどうかは、目標の空間の各 $T$ 点の上のファイバーが $T$ の閉部分空間で表されるかどうかで判定できる、という判定法である。
一点の上で見ると、閉じた条件の意味ははっきりする。$k^N$ の余次元 $m_i$ の部分空間の列 $K_1,\dots,K_p$ が旗になるのは $K_1\supset\dots\supset K_p$ のときで、各包含は、$K_{i+1}$ の元が $k^N/K_i$ で $0$ になるという線形の等式である。原論文はこれを相対的な状況で行い、「押さえる」条件を、核から次の成分への射が消えることと言い換える。目標の成分が局所自由なので、この消滅はベクトル束の零切断の逆像、本書の言葉では零点の部分空間で表される。
原論文は同じ段の終わりに、全射 $\mathcal E\to\mathcal F$ から来る射が閉はめ込みであることを「全く同様に示す」と一文で述べ、証明を書かない(印字 12-12)。本頁の主結果 3 がその証明である。二つの閉はめ込みは、命題 2.2(本書『3-2 閉はめ込み定理』)の四つの射のうち初めの二つに当たる。

定義と準備

表現可能なときの表す空間に名前を付け、証明で使う事実を並べる。次に、二つの閉はめ込みの証明に共通する一歩を補題として置く。

旗束

$\mathcal E$ を $\mathcal O_S$ 加群、$m$ を $0$ 以上の整数の増加列とする。$\mathbf{Drap}_m(\mathcal E)$ が $(\mathrm{An})_{/S}$ で表現可能なとき、それを表す $S$ 上の解析空間を $\underline{\mathrm{Drap}}_m(\mathcal E)$ と書き、$\mathcal E$ の型 $m$ の旗束と呼ぶ。その上の普遍元は、$\mathcal E_{(\underline{\mathrm{Drap}}_m(\mathcal E))}$ の型 $m$ の旗で、普遍の旗と呼ぶ。$m=(n)$ のとき $\underline{\mathrm{Grass}}_n(\mathcal E)=\underline{\mathrm{Drap}}_{(n)}(\mathcal E)$ を $\mathcal E$ の Grassmann 束、さらに $n=1$ のとき $\mathcal P(\mathcal E)=\underline{\mathrm{Grass}}_1(\mathcal E)$ を $\mathcal E$ の定める射影束と呼ぶ。

表す空間と普遍元の組は、ただ一つの同型を除いてただ一つに決まる(本書『0-4 表現可能性の判定法』の定理「普遍問題の解の一意性」)。$S$ 上の空間 $T$ から $\underline{\mathrm{Drap}}_m(\mathcal E)$ への $S$ 射は、普遍の旗を引き戻すことで $\mathcal E_{(T)}$ の型 $m$ の旗と一対一に対応する。本書『2-1 旗の関手と標準の写像』の例「一点の上の旗とベクトル空間の旗」の (b) のとおり、射影束の一点の上の点は超平面で、直線ではない(双対規約)。Grassmann 束の存在はすでに本書『2-2 Grassmann 束の存在』の主結果「Grassmann 束とその積の存在」で示したので、$\underline{\mathrm{Grass}}_n(\mathcal E)$ と $\mathcal P(\mathcal E)$ は $\mathcal E$ が有限表示なら存在する。一般の $m$ の旗束の存在は下の主結果「旗束の存在定理」で示す。

引用する事実

次の事実を本書の第 0 章と第 2 章の前の頁から使う。第 0 章の頁の結果の出典は、第 9 巻(原論文が引く第 IV 回)と第 0 章の各頁の案内のとおりである。表現可能な前層の間の射を表す空間の射とみることは、本書『0-4 表現可能性の判定法』の注意「米田の約束」に従って断らずに行う。

  1. 底変換で安定な射のクラスの判定(本書『0-4 表現可能性の判定法』の定義「射のファイバー」「底変換で安定な射のクラス」と定理。第 9 巻の頁『2-4 安定性と射のクラス』の主結果、札は[完結]):圏 $\mathbf C$ の前層の射 $u\colon D\to G$ と $\mathbf C$ の対象 $T$、$\eta\in G(T)$ について、$T$ 上の対象 $(T',g)$ に $\{x\in D(T'):u(T')(x)=G(g)(\eta)\}$ を対応させる $\mathbf C/T$ 上の前層 $D_\eta$ を、$u$ の $\eta$ の上のファイバーという。$\mathcal S$ が底変換で安定な射のクラスで $G$ が表現可能なとき、「$D$ も表現可能で $u$ に対応する射が $\mathcal S$ に属する」ことは、「どの $T$ とどの $\eta\in G(T)$ についても、$D_\eta$ が $\mathbf C/T$ のある対象で表され、その構造射が $\mathcal S$ に属する」ことと同値である。
  2. 閉部分空間の普遍性と閉はめ込みの計算(本書『0-5 閉部分空間と零点と積』の補題):解析空間 $X$ の有限型のイデアル $\mathcal J$ について、(a) 射 $g\colon T\to X$ が閉部分空間 $Z(\mathcal J)$ を経由することは、イデアルの引き戻し $\mathcal J\mathcal O_T$ が $0$ であることと同値で、経由の仕方はただ一つである。(b) 閉はめ込みの全体は $(\mathrm{An})_{/S}$ で底変換で安定な射のクラスである。(c) 有限型のイデアル $\mathcal J_1$、$\mathcal J_2$ について、$Z(\mathcal J_1+\mathcal J_2)$ は $Z(\mathcal J_1)\times_XZ(\mathcal J_2)$ である。
  3. 零点の部分空間(同じ頁の補題):解析空間 $T$ の上の有限型の加群 $\mathcal K$ から有限階数の局所自由な加群 $\mathcal L$ への射 $c$ について、$\mathcal K\otimes\check{\mathcal L}\to\mathcal O_T$、$x\otimes\lambda\mapsto\lambda(c(x))$ の像 $\mathcal J_c$ は有限型のイデアルで、射 $g\colon T'\to T$ について $g^*c=0$ であることは $\mathcal J_c\mathcal O_{T'}=0$ であることと同値である。
  4. Grassmann 束とその積の存在(本書『2-2 Grassmann 束の存在』の主結果):有限表示の加群 $\mathcal E^{(1)},\dots,\mathcal E^{(l)}$ と整数 $n_j\ge0$ について、$\prod_j\mathbf{Grass}_{n_j}(\mathcal E^{(j)})$ は $(\mathrm{An})_{/S}$ で表現可能である($l=0$ では $S$ が表す)。
    ほかに、本書『2-1 旗の関手と標準の写像』の補題「商と核」(商を核で表すこと、押さえる関係を核の包含で言うこと、逆像による核の計算)と、主結果「旗の逆像と旗の関手」の (3)、「全射から来る写像と成分への分解」「標準の写像の関手性」、本書『0-4 表現可能性の判定法』の補題「スライス圏」の (1)(3) を使う。本書『0-2 環付き空間の上の加群』の定理「逆像と加群の演算」「有限表示と局所自由の基本性質」は証明の中で項目番号を添えて引く。

核を消す条件

旗の条件も、全射から来る旗の条件も、「ある核を、局所自由な商への射が消す」という形をしている。それが閉部分空間で表されることを一度に示しておく。

核を消す条件の零点

$T$ を解析空間、$\mathcal M$ を $\mathcal O_T$ 加群、$r\ge0$ を整数とする。$i=1,\dots,r$ について、有限型の加群 $\mathcal K_i$ からの射 $\iota_i\colon\mathcal K_i\to\mathcal M$ と、有限階数の局所自由な加群 $\mathcal L_i$ への射 $q_i\colon\mathcal M\to\mathcal L_i$ が与えられているとする。$c_i=q_i\circ\iota_i$ とし、$\mathcal J=\mathcal J_{c_1}+\dots+\mathcal J_{c_r}$ とおく($r=0$ なら $\mathcal J=0$)。
(1) $\mathcal J$ は有限型のイデアルである。
(2) 射 $g\colon T'\to T$ について、次の三つは同値である。(a) 各 $i$ で、$g^*q_i$ は $g^*\iota_i$ の像を $0$ に送る。(b) 各 $i$ で $g^*c_i=0$ である。(c) $g$ は閉部分空間 $Z(\mathcal J)$ を経由する。(c) のとき経由の仕方はただ一つである。
(3) したがって、$h_T$ の部分前層 $T'\mapsto\{g\colon T'\to T:\text{(a) が成り立つ}\}$ は $Z(\mathcal J)$ で表され、包含 $Z(\mathcal J)\to T$ は閉はめ込みである。$T$ が $S$ 上の空間なら、$(\mathrm{An})_{/S}$ でも、$(\mathrm{An})_{/T}$ でも同じである。

段 1((1)).引用する事実の 3 により各 $\mathcal J_{c_i}$ は有限型で、局所的な生成元を合わせたものが和を生成するので、$\mathcal J$ も有限型である。
段 2((a) と (b)).$g^*$ は関手なので $g^*c_i=g^*q_i\circ g^*\iota_i$ である(本書『0-2 環付き空間の上の加群』の定理「逆像と加群の演算」の (1))。$g^*\iota_i$ の像は、局所的に $g^*\iota_i$ の値として書ける切断のなす層である(同じ頁の定義「環付き空間の上の加群」の (2))。$g^*q_i\circ g^*\iota_i=0$ なら、$g^*q_i$ はそのような切断を局所的に $0$ に送り、層の条件(同じ頁の定義「層と茎」の (1))により $0$ に送る。逆に像を $0$ に送れば合成は $0$ である。ゆえに (a) は (b) と同値である。
段 3((b) と (c)).引用する事実の 3 と引用する事実の 2 の (a) により、$g^*c_i=0$ は $g$ が $Z(\mathcal J_{c_i})$ を経由することと同値である。$r$ についての帰納法で、$g$ がすべての $Z(\mathcal J_{c_i})$ を経由することは $Z(\mathcal J)$ を経由することと同値であることを示す。$r=0$ なら $Z(0)=T$ で、どの $g$ も恒等射を経由する。$r\ge1$ なら、$\mathcal J'=\mathcal J_{c_1}+\dots+\mathcal J_{c_{r-1}}$ について帰納法の仮定を当て、引用する事実の 2 の (c) を $\mathcal J'$ と $\mathcal J_{c_r}$ に当てる。$Z(\mathcal J)=Z(\mathcal J')\times_TZ(\mathcal J_{c_r})$ で、$T$ への射が二つの閉部分空間をともに経由すればその経由の射は $T$ の上で一致するので、ファイバー積の普遍性により $g$ は $Z(\mathcal J)$ を経由する。逆は包含の合成で経由する。一意性は引用する事実の 2 の (a) による。
段 4((3)).(2) と引用する事実の 2 の (a) により、この部分前層は $h_{Z(\mathcal J)}$ と同一視される(本書『0-4 表現可能性の判定法』の注意「米田の約束」)。包含 $Z(\mathcal J)\to T$ は定義により閉はめ込みである。$S$ 上、$T$ 上では、$Z(\mathcal J)$ に構造射の制限を与えればよい(本書『0-5 閉部分空間と零点と積』の補題「零点の部分空間」の (3) と同じ)。

補題が効くのは、目標 $\mathcal L_i$ が局所自由だからである。目標が局所自由でないと、条件「引き戻して $0$」が閉部分空間で表されないことがある(本書『0-5 閉部分空間と零点と積』の注意「局所自由でない目標では零点の部分空間を作れない」)。旗の成分は局所自由なので、この補題をそのまま当てられる。$r=0$ の場合は条件が無く、部分前層は $h_T$ 全体で、$Z(0)=T$ が表す。

主結果と証明

旗の関手を Grassmann 束の積の中の部分関手とみて、各 $T$ 点の上のファイバーを計算する。ファイバーは高々一点の前層で、一点になる条件が上の補題の形をしている。これを判定法に入れれば、表現可能性と閉はめ込みが同時に出る。

一般の旗

以下、$D=\mathbf{Drap}_m(\mathcal E)$、$G=\prod_{i=1}^p\mathbf{Grass}_{m_i}(\mathcal E)$ とし、$u\colon D\to G$ を旗をその成分の列に送る関手の準同型とする(本書『2-1 旗の関手と標準の写像』の主結果「標準の写像の関手性」の (b))。

旗束の Grassmann 束の積への閉はめ込み

$\mathcal E$ を有限表示の $\mathcal O_S$ 加群、$m=(m_1,\dots,m_p)$ を $0$ 以上の整数の増加列とする。
(1) $S$ 上の空間 $T$ と $\eta=(\eta_1,\dots,\eta_p)\in G(T)$ をとり、$\eta_i$ の代表を $q_i\colon\mathcal E_{(T)}\to\mathcal E_i$、$\mathcal K_i=\mathrm{Ker}\,q_i$、その包含を $\iota_i\colon\mathcal K_i\to\mathcal E_{(T)}$ とする。$1\le i< p$ について $c_i=q_i\circ\iota_{i+1}\colon\mathcal K_{i+1}\to\mathcal E_i$ とおき、$\mathcal J_\eta=\sum_{i=1}^{p-1}\mathcal J_{c_i}$ とする。このとき $\mathcal J_\eta$ は代表の選び方によらない有限型のイデアルで、$u$ の $\eta$ の上のファイバー $D_\eta$ は閉部分空間 $Z(\mathcal J_\eta)$(包含を構造射とする $T$ 上の空間)で表される。
(2) $D$ は $(\mathrm{An})_{/S}$ で表現可能で、$u$ に対応する射 $\underline{\mathrm{Drap}}_m(\mathcal E)\to\prod_i\underline{\mathrm{Grass}}_{m_i}(\mathcal E)$ は閉はめ込みである。
(3) $p\le1$ ならこの射は同型である。

段 1(判定法への帰着).引用する事実の 4 を $q=p$、$\mathcal E^{(i)}=\mathcal E$、$n_i=m_i$ で当てると、$G$ は表現可能である。引用する事実の 2 の (b) により、$\mathbf C=(\mathrm{An})_{/S}$ の閉はめ込みの全体 $\mathcal S$ は底変換で安定である。ゆえに引用する事実の 1 により、(2) を示すには、各 $T$ と $\eta\in G(T)$ についてファイバー $D_\eta$ が $\mathbf C/T$ の対象で表され、その構造射が閉はめ込みであることを示せばよい。$\mathbf C/T$ は $(\mathrm{An})_{/T}$ と同じ圏である(本書『0-4 表現可能性の判定法』の補題「スライス圏」の (3))。したがって (1) から (2) が従う。
段 2(ファイバーの値).$T$ 上の空間 $g\colon T'\to T$ をとる。$G(g)(\eta)$ は、代表 $g^*q_i$ の定める商を標準同型 $g^*\mathcal E_{(T)}\cong\mathcal E_{(T')}$ で移し替えた列である(本書『2-1 旗の関手と標準の写像』の主結果「旗の逆像と旗の関手」の (3))。$D_\eta(g)$ は、$u(x)=G(g)(\eta)$ となる旗 $x\in D(T')$ の集合である。本書『2-1 旗の関手と標準の写像』の主結果「全射から来る写像と成分への分解」の (b) により、$u(T')$ は単射で、その像は、各 $1\le i< p$ で第 $i+1$ 成分が第 $i$ 成分を押さえる列の全体である。ゆえに $D_\eta(g)$ は、列 $(g^*\eta_i)_i$ で各 $g^*\eta_{i+1}$ が $g^*\eta_i$ を押さえるなら一点、そうでなければ空である。
段 3(押さえる条件の言い換え).同型による移し替えは核を同型で移すだけなので、核の包含関係を変えない。本書『2-1 旗の関手と標準の写像』の補題「商と核」の (3) により、$g^*\eta_{i+1}$ が $g^*\eta_i$ を押さえることは $\mathrm{Ker}(g^*q_{i+1})\subset\mathrm{Ker}(g^*q_i)$ と同値である。同じ補題の (4) により、$\mathrm{Ker}(g^*q_{i+1})$ は $g^*\iota_{i+1}$ の像である。ゆえにこの条件は、$g^*q_i$ が $g^*\iota_{i+1}$ の像を $0$ に送ること、すなわち上の補題(核を消す条件の零点)の条件 (a) である。
段 4(補題の仮定).$p=0$ のときは和の範囲 $1\le i\le p-1=-1$ が空なので $\mathcal J_\eta=0$ で、補題を使うまでもなく有限型である。$p\ge1$ のときは、$\mathcal E$ は有限表示なので $\mathcal E_{(T)}$ も有限表示で、とくに有限型である(本書『0-2 環付き空間の上の加群』の定理「逆像と加群の演算」の (4))。$\mathcal E_{i+1}$ は有限階数の局所自由なので有限表示で、有限型から有限表示への全射 $q_{i+1}$ の核 $\mathcal K_{i+1}$ は有限型である(同じ頁の定理「有限表示と局所自由の基本性質」の (1))。$\mathcal E_i$ は有限階数の局所自由である。ゆえに上の補題(核を消す条件の零点)を $\mathcal M=\mathcal E_{(T)}$、$r=p-1\ge0$、$\mathcal K_{i+1}$、$\iota_{i+1}$、$q_i$($1\le i< p$)で当てられ、$\mathcal J_\eta$ は有限型である。
段 5(ファイバーの表現).段 2〜段 4 と上の補題の (2) により、$D_\eta(g)$ は $g$ が $Z(\mathcal J_\eta)$ を経由するとき一点、そうでないとき空である。$(\mathrm{An})_{/T}$ で $h_{Z(\mathcal J_\eta)}(g)$ も、経由するとき一点(経由の射)、そうでないとき空で、どちらの前層も値が高々一点なので、値ごとの全単射は $g$ について自然である。ゆえに $D_\eta\cong h_{Z(\mathcal J_\eta)}$ で、構造射 $Z(\mathcal J_\eta)\to T$ は包含であり閉はめ込みである。$\mathcal J_\eta$ が代表によらないことは次のとおりである。代表 $q_i$ を同型 $\varphi_i\colon\mathcal E_i\to\mathcal E'_i$ との合成 $\varphi_iq_i$ に替えても核は変わらず、$c_i$ は $\varphi_ic_i$ に替わる。$\lambda\mapsto\lambda\circ\varphi_i$ は $\check{\mathcal E}'_i$ から $\check{\mathcal E}_i$ への全単射なので、$\lambda(\varphi_ic_i(x))$ の全体と $\lambda(c_i(x))$ の全体は同じで、$\mathcal J_{\varphi_ic_i}=\mathcal J_{c_i}$ である。これで (1) が示され、段 1 により (2) が従う。
段 6((3)).$p\le1$ なら $\mathcal J_\eta=0$ で、$D_\eta=h_T$ である。$p=1$ では $u$ は恒等の準同型で、$p=0$ では $D$ と $G$ はどの $T$ でも一点をとり、ともに $(\mathrm{An})_{/S}$ の終対象 $S$ が表す(本書『0-4 表現可能性の判定法』の補題「スライス圏」の (1))。どちらの場合も $u$ は同型で、対応する射も同型である。

段 3 の言い換えは、原論文が逆像関手の右完全性を使って、押さえる条件を合成 $(\mathcal F_{i+1})_{(T)}\to\mathcal E_{(T)}\to(\mathcal E_i)_{(T)}$ が $0$ であることと言い換える段(印字 12-12)に当たる。原論文の $\mathcal F_{i+1}$ は $\mathcal E\to\mathcal E_{i+1}$ の核で、本書の $\mathcal K_{i+1}$ にあたる(原論文は先に $T=S$ に取り替えている)。原論文は条件を満たす閉部分空間を「$S_i$ の Inf」と呼ぶ。これは上の補題の $Z(\sum_i\mathcal J_{c_i})$ である。
原論文は零点の部分空間をベクトル束の零切断の逆像として作り、そのために核に命題 1.9(本書『1-4 ベクトル束の底変換とファイバー』の主結果「加群の射の関手の表現」)を当てる。その段には一つ確かめが省かれている。

原論文の段と核の有限表示性
  1. 原論文は §3 の一般の旗の段(印字 12-12)で、「記号を取り替えて $T=S$ としてよい」と断り、核 $\mathcal F_{i+1}=\mathrm{Ker}(\mathcal E\to\mathcal E_{i+1})$ と $\mathcal E_i$ に命題 1.9 を当てて、$T\mapsto\mathrm{Hom}((\mathcal F_{i+1})_{(T)},(\mathcal E_i)_{(T)})$ を表すベクトル束をとり、合成 $\mathcal F_{i+1}\to\mathcal E\to\mathcal E_i$ に対応する切断による零切断の逆像を $S_i$ とする。命題 1.9 は始域の加群が有限表示であることを要するが、原論文は $\mathcal F_{i+1}$ の有限表示性に触れない。これは確かめを省いた段で、推論が誤っているのではない。
  2. 実際、$\mathcal F_{i+1}$ は有限表示である。$\mathcal E_{i+1}$ は有限階数の局所自由なので、全射 $\mathcal E\to\mathcal E_{i+1}$ は局所的に右逆をもち(本書『0-2 環付き空間の上の加群』の定理「有限表示と局所自由の基本性質」の (3))、その上で $\mathcal E\cong\mathcal F_{i+1}\oplus\mathcal E_{i+1}$ となる。有限表示な加群の直和因子は有限表示である(同じ定理の (2))。$\mathcal O_S$ の連接性のような深い事実は要らない。
  3. 本書の証明は命題 1.9 を経由せず、上の補題(核を消す条件の零点)で本書『0-5 閉部分空間と零点と積』の補題「零点の部分空間」を直接使う。そこで要るのは核の有限型性だけで、それは同じ定理の (1) から出る。原論文の零切断の逆像も、$g$ が引き戻す切断が零切断を経由することが $g^*c_i=0$ と同じなので、$Z(\mathcal J_{c_i})$ と同じ「$g^*c_i=0$ となる $g$」の部分前層を表し、両者は $T$ の上で同型である(本書『0-4 表現可能性の判定法』の定理「普遍問題の解の一意性」)。本書の道は命題 1.9 と連作第 III 回の定理を使わないので、主結果(旗束の Grassmann 束の積への閉はめ込み)の札の条件のうち連作の定理に依るものは、Grassmann 束の存在から来るものだけになる。
  4. 原論文は Grassmann 束の積 $\prod_i\underline{\mathrm{Grass}}_{m_i}(\mathcal E)$ を空間として使うが、その存在も述べない。本書はそれを本書『2-2 Grassmann 束の存在』の主結果「Grassmann 束とその積の存在」で示した(同じ頁の注意「原論文の段と積の表現可能性」)。

存在定理

主結果(旗束の Grassmann 束の積への閉はめ込み)の (2) の前半が、原論文の命題 2.1 そのものである。独立に引けるよう、主張として置く。

旗束の存在定理

$\mathcal E$ が有限表示の $\mathcal O_S$ 加群なら、どの $0$ 以上の整数の増加列 $m$ についても、$\mathbf{Drap}_m(\mathcal E)$ は $S$ 上の解析空間の圏 $(\mathrm{An})_{/S}$ で表現可能である。すなわち旗束 $\underline{\mathrm{Drap}}_m(\mathcal E)$ が存在する。$m=()$ なら $\underline{\mathrm{Drap}}_{()}(\mathcal E)=S$ である。

上の主結果(旗束の Grassmann 束の積への閉はめ込み)の (2) による。$m=()$ の場合は同じ主結果の証明の段 6 のとおり、$S$ が表す。

これで命題 2.1 が示された。$\mathcal E$ が有限表示であることは、Grassmann 束の存在(本書『2-2 Grassmann 束の存在』の主結果「標準の開部分関手のベクトル束による表現」がベクトル束 $V(\mathcal E^{\oplus H})$ を使う所)と、上の主結果(旗束の Grassmann 束の積への閉はめ込み)の証明の段 4 の核の有限型性に使われた。定義「旗束」の名前は、有限表示の加群については以後断らずに使える。

全射から来る射

全射 $w\colon\mathcal E\to\mathcal F$ から来る旗の関手の準同型を $u_w\colon\mathbf{Drap}_m(\mathcal F)\to\mathbf{Drap}_m(\mathcal E)$ と書く(本書『2-1 旗の関手と標準の写像』の主結果「標準の写像の関手性」の (a))。$T$ の上では、$\mathcal F_{(T)}$ の旗の各成分の代表に $w_{(T)}=p_T^*w$ を合成する写像である。旗の条件の代わりに、「各成分が $w$ の核を消す」という条件が現れる。

全射から来る旗束の閉はめ込み

$w\colon\mathcal E\to\mathcal F$ を有限表示の $\mathcal O_S$ 加群の全射、$m=(m_1,\dots,m_p)$ を $0$ 以上の整数の増加列とし、$\mathcal N=\mathrm{Ker}\,w$ とおく。
(1) $S$ 上の空間 $T$ と $\eta\in\mathbf{Drap}_m(\mathcal E)(T)$ をとり、成分の代表を $q_i\colon\mathcal E_{(T)}\to\mathcal E_i$、$\mathcal N_{(T)}\to\mathcal E_{(T)}$ を包含の逆像 $\nu$ とする。$d_i=q_i\circ\nu$、$\mathcal J'_\eta=\sum_{i=1}^p\mathcal J_{d_i}$ とおくと、$u_w$ の $\eta$ の上のファイバーは閉部分空間 $Z(\mathcal J'_\eta)$ で表される。
(2) $u_w$ に対応する射 $\underline{\mathrm{Drap}}_m(\mathcal F)\to\underline{\mathrm{Drap}}_m(\mathcal E)$ は閉はめ込みである。

段 1(判定法への帰着).上の主結果(旗束の存在定理)により $\mathbf{Drap}_m(\mathcal E)$ と $\mathbf{Drap}_m(\mathcal F)$ は表現可能である。上の主結果(旗束の Grassmann 束の積への閉はめ込み)の証明の段 1 と同じく、引用する事実の 1・2 により、(1) から (2) が従う。
段 2(ファイバーの値).$T$ 上の空間 $g\colon T'\to T$ について、ファイバーの値は、$u_w(T')(x)=g^*\eta$(標準同型で移し替えた引き戻し)となる $x\in\mathbf{Drap}_m(\mathcal F)(T')$ の集合である。本書『2-1 旗の関手と標準の写像』の主結果「全射から来る写像と成分への分解」の (a) を全射 $w_{(T')}$ に当てると、$u_w(T')$ は単射で、その像は各成分の核が $\mathrm{Ker}\,w_{(T')}$ を含む旗の全体である。ゆえに値は、$g^*\eta$ の各成分の核が $\mathrm{Ker}\,w_{(T')}$ を含むなら一点、そうでなければ空である。
段 3(核の計算).完全列 $\mathcal N\to\mathcal E\to\mathcal F\to0$ を $T'$ に引き戻すと、逆像の右完全性(本書『0-2 環付き空間の上の加群』の定理「逆像と加群の演算」の (3))により $\mathcal N_{(T')}\to\mathcal E_{(T')}\to\mathcal F_{(T')}\to0$ は完全で、$\mathrm{Ker}\,w_{(T')}$ は $\mathcal N_{(T')}\to\mathcal E_{(T')}$ の像である。同じ定理の (1)(2) の標準同型 $\mathcal N_{(T')}\cong g^*\mathcal N_{(T)}$、$\mathcal E_{(T')}\cong g^*\mathcal E_{(T)}$ の下で、この射は $g^*\nu$ に対応し、$g^*\eta$ の第 $i$ 成分の代表は $g^*q_i$ に対応する。ゆえに段 2 の条件は、各 $1\le i\le p$ で $g^*q_i$ が $g^*\nu$ の像を $0$ に送ること、すなわち上の補題(核を消す条件の零点)の条件 (a) である。
段 4(補題の仮定と結論).$\mathcal E$ は有限型、$\mathcal F$ は有限表示なので、全射 $w$ の核 $\mathcal N$ は有限型で(同じ頁の定理「有限表示と局所自由の基本性質」の (1))、$\mathcal N_{(T)}$ も有限型である(同じ頁の定理「逆像と加群の演算」の (4))。$\mathcal E_i$ は有限階数の局所自由である。上の補題(核を消す条件の零点)を $\mathcal M=\mathcal E_{(T)}$、$r=p$、$\mathcal K_i=\mathcal N_{(T)}$、$\iota_i=\nu$、$q_i$ で当てると、段 2・段 3 により、ファイバーの値は $g$ が $Z(\mathcal J'_\eta)$ を経由するとき一点、そうでないとき空である。上の主結果(旗束の Grassmann 束の積への閉はめ込み)の証明の段 5 と同じく、ファイバーは $Z(\mathcal J'_\eta)$ で表され、その構造射は閉はめ込みである。
段 5(境界).$p=0$ なら両辺の旗束はともに $S$ で、射は恒等である。$w$ が同型なら $\mathcal N=0$、$\mathcal J'_\eta=0$ で、射は同型である。

$\mathcal E$ が有限表示であることは目標の旗束 $\underline{\mathrm{Drap}}_m(\mathcal E)$ の存在に使われた(段 4 では $\mathcal E$ の有限型性だけを使う)。$\mathcal F$ が有限表示であることは始域の旗束 $\underline{\mathrm{Drap}}_m(\mathcal F)$ の存在と段 4 の核の有限型性に使われた。$\mathcal F$ の有限表示性は原論文自身が明記する仮定(印字 12-12)で、本書が足したものではない。命題 2.2 の文(印字 12-09)で第 1 の射の $\mathcal F$ に有限表示が書かれていない点は、本書『3-2 閉はめ込み定理』で扱う。

原論文の「全く同様」

原論文は、全射から来る射が閉はめ込みであることを、一般の旗の段の直後に「全く同様に示す」とだけ書く(印字 12-12)。上の証明はその「同様」を具体化したもので、一般の旗の証明と同じく、ファイバーを高々一点の前層として計算し、一点になる条件を核の消滅に言い換え、零点の部分空間で表す。違いは二つある。条件に現れる核が成分ごとの核 $\mathcal K_{i+1}$ でなく $w$ の核 $\mathcal N$ であることと、条件が $i=1,\dots,p$ の全部に課され $p-1$ 個でないことである。原論文の一般の旗の段の形で命題 1.9 を当てるなら $\mathcal N$ の有限表示性が要るが、$\mathcal N$ は成分の核と違って局所的な直和因子とは限らず、上の注意「原論文の段と核の有限表示性」の (2) の議論は使えない。本書の道は $\mathcal N$ の有限型性だけで足り、それは $\mathcal F$ の有限表示性から出る。$\mathcal N$ が有限表示かどうかは本書では確かめず、使わない。

印字の読み(§3 の一般の旗の段)
  1. 一般の旗の段(印字 12-12 の冒頭)が引く「exposé IV, 3.13」は、「3.13」の終わりに閉じ括弧が重ね打ちされた印字である。第 IV 回の注意 3.13、すなわち本書『0-4 表現可能性の判定法』の定理「底変換で安定な射のクラスの判定」と読む。
  2. 同じ段の命題 1.9 への参照は「(8f. 1.9)」と印字されるが、「(Cf. 1.9)」と読む。参照先は本書『1-4 ベクトル束の底変換とファイバー』の主結果「加群の射の関手の表現」である。
  3. 同じ頁の Plücker 射の段の「la partie ouvert」は、女性名詞に合わせて「ouverte」と読む綴りの崩れである。
  4. 原論文は定義 2.1(旗)と命題 2.1(存在定理)、定義 2.2(旗束の命名)と命題 2.2(閉はめ込み定理)に同じ番号を使う(印字 12-06、12-08、12-09)。本書は括弧で区別し、本頁の主結果(旗束の存在定理)が命題 2.1、定義「旗束」が定義 2.2 に当たる。
  5. 原論文はファイバーを $F_\eta$ と書き、関手 $\mathbf{Drap}_m(\mathcal E)$ を $F$ と呼ぶ(印字 12-11〜12-12)。本頁は加群 $\mathcal F$ と紛れないよう、関手を $D$、ファイバーを $D_\eta$ と書いた。

例と反例

まず、足した仮定「旗の読み」の向きを逆にすると、証明の要である旗の判定が崩れることを最小の例で確かめる。次に、二つの成分の旗の条件が一つの関数の零点になる様子を座標で書き、最後に成分が少ない場合と同じ階数が続く場合を見る。

反例:増加列の向きを逆に読むと旗の判定が崩れる

外す条件は、足した仮定「旗の読み」のうち増加の向きである。本書『2-1 旗の関手と標準の写像』の定義「型の旗」の (3) の条件を逆にし、各 $i< p$ で第 $i$ 成分が第 $i+1$ 成分を押さえる($\mathcal E\to\mathcal E_{i+1}$ が $\mathcal E\to\mathcal E_i$ を経由する)ことを旗の条件とする。この読みの下では、原論文 §3 の一般の旗の段の判定、すなわち成分の列の定める旗の集合は空か一点で、一点になるのは各 $i$ で $(\mathcal E_{i+1})_{(T)}$ が $(\mathcal E_i)_{(T)}$ を押さえるときに限る(印字 12-12)、という判定が偽になり、上の主結果(旗束の Grassmann 束の積への閉はめ込み)の (1) のファイバーの計算も成り立たない。
$S=T=e$、$\mathcal E=\mathcal O_e=k$、$p=2$、$m=(0,1)$ とし、$\mathcal E_1=0$(商 $k\to0$)、$\mathcal E_2=k$(恒等写像の商)とする。$\eta=(\mathcal E_1,\mathcal E_2)$ は $\mathbf{Grass}_0(k)(e)\times\mathbf{Grass}_1(k)(e)$ の元である。
(a) 核は $\mathrm{Ker}(k\to k)=0\subset k=\mathrm{Ker}(k\to0)$ なので、$\mathcal E_2$ は $\mathcal E_1$ を押さえる(本書『2-1 旗の関手と標準の写像』の補題「商と核」の (3))。本書の読みでは $(\mathcal E_1,\mathcal E_2)$ は旗で、この列の定める旗の集合は一点である。
(b) 逆の読みでは、恒等写像 $k\to k$ が $k\to0$ を経由することが要る。$0$ を経由する射は $0$ で、$k\ne0$ なので経由しない。ゆえに旗の集合は空である。$\mathcal E_2$ が $\mathcal E_1$ を押さえるのに一点にならないので、原論文の判定は偽になる。
(c) 上の主結果の (1) の計算を当てると、$\mathcal K_2=\mathrm{Ker}(\mathrm{id}_k)=0$、$c_1\colon0\to\mathcal E_1=0$ で、$\mathcal J_\eta=0$、$Z(\mathcal J_\eta)=e$ である。これはファイバーがどの $T'\to e$ でも一点をとることを言うが、逆の読みでは $T'=e$ での値が (b) により空である。逆の読みに合わせて核と成分の組を入れ替えれば、$\mathrm{id}_k$ の定めるイデアル $\mathcal O_e$ が現れ $Z(\mathcal O_e)=\emptyset$ で値と合う。すなわち原論文 §3 の判定の向きは、本書の読みの向きと一致して初めて正しい。
(d) 同じことは空でないどの $S$ でも起きる。$\mathcal E=\mathcal O_S$、$\mathcal E_1=0$、$\mathcal E_2=\mathcal O_S$ とすると、逆の読みでは $\mathrm{id}_{\mathcal O_S}$ が $0$ を経由することが要るが、解析空間の局所環は $0$ でない(本書『0-3 解析空間と数空間』の定理「局所環の剰余体」)ので、空でない $T$ では経由しない。ある $i< p$ で $m_i< m_{i+1}$ なら(とくに $p\ge2$ で $m$ が狭義増加なら)、逆の読みの旗の集合は空でないどの $T$ でも空になる(本書『2-1 旗の関手と標準の写像』の注意「旗の読み」の (3))。一方、一点の上の旗の集合と旗束のファイバーの点を比べる原論文の 2.4 の等式(本書『4-1 射影束の規約と底変換とファイバー』の主結果「旗束の底変換とファイバー」)は、逆の読みでは両辺がともに空になり、壊れない。壊れるのは §3 の判定と、それを使う本頁の証明である。

反例が示すのは、原論文 §3 の文言「$(\mathcal E_{i+1})_{(T)}$ が $(\mathcal E_i)_{(T)}$ を押さえる」が、定義 2.1 の「増加列」を本書の向きで読むことを求めているということである。本書が旗の読みを足した仮定として札に書くのは、この向きが原論文の定義の文面からは決まらないからである。

二つの成分の旗と零点の条件

$S=e$、$\mathcal E=\mathcal O_e^3=k^3$(基底 $f_1,f_2,f_3$)、$m=(1,2)$ とする。$\mathrm{Drap}_{(1,2)}(k^3)$ は、本書『2-1 旗の関手と標準の写像』の例「一点の上の旗とベクトル空間の旗」のとおり、核の組 $K_1\supset K_2$($\dim K_1=2$、$\dim K_2=1$)、すなわち $k^3$ の平面とその中の直線の組の集合である。
(a) $T=E^4$(座標 $a,c,x,y$)を $e$ 上の空間とみる($e$ は終対象)。$\mathcal E_{(T)}=\mathcal O_T^3$ の上で、$q_1\colon\mathcal O_T^3\to\mathcal O_T$ を $f_1\mapsto1$、$f_2\mapsto a$、$f_3\mapsto c$ で、$q_2\colon\mathcal O_T^3\to\mathcal O_T^2$(基底 $b_1,b_2$)を $f_1\mapsto b_1$、$f_2\mapsto b_2$、$f_3\mapsto xb_1+yb_2$ で定める。どちらも像が基底を含むので全射で、目標は階数 $1$、$2$ の自由加群である。ゆえに $\eta=(q_1,q_2)\in\mathbf P(k^3)(T)\times\mathbf{Grass}_2(k^3)(T)$ である。$q_1$ は $f_1$ を、$q_2$ は $f_1,f_2$ を基底に送るので、$\eta$ は本書『2-2 Grassmann 束の存在』の標準の開部分関手 $F_{\{1\}}$ と $F_{\{1,2\}}$ の組に入る。
(b) $q_2(\alpha f_1+\beta f_2+\gamma f_3)=(\alpha+\gamma x)b_1+(\beta+\gamma y)b_2$ なので、$\mathcal K_2=\mathrm{Ker}\,q_2$ は $v=f_3-xf_1-yf_2$ を基底とする階数 $1$ の自由加群である。$c_1=q_1|_{\mathcal K_2}$ は $v\mapsto c-x-ay$ で、$\mathcal J_\eta$ は関数 $c-x-ay$ の生成するイデアルである(本書『0-5 閉部分空間と零点と積』の補題「零点の部分空間」の最後の文)。上の主結果(旗束の Grassmann 束の積への閉はめ込み)の (1) により、$\eta$ の上のファイバーは $E^4$ の中の $c=x+ay$ の零点の部分空間で表される。成分が二つなので条件は $i=1$ の一つだけで、それが一つの関数の零点になった。
(c) 点で確かめる。$k^4$ の点 $(a,c,x,y)$ で、$K_1=\mathrm{Ker}\,q_1=\{z:z_1+az_2+cz_3=0\}$、$K_2=k\,(-x,-y,1)$ である。$K_2\subset K_1$ は $-x-ay+c=0$ と同値で、(b) の零点と一致する。

成分が一つ以下の旗と同じ階数が続く旗

$\mathcal E$ を有限表示の $\mathcal O_S$ 加群とする。
(a) $p=0$ なら $\underline{\mathrm{Drap}}_{()}(\mathcal E)=S$、$p=1$、$m=(n)$ なら旗束は Grassmann 束 $\underline{\mathrm{Grass}}_n(\mathcal E)$ そのもので、どちらの場合も上の主結果(旗束の Grassmann 束の積への閉はめ込み)の射は同型である(同じ主結果の (3))。
(b) $m=(n,n)$ とする。本書『2-1 旗の関手と標準の写像』の例「階数零と空の列と零の加群の旗」の (d) により、成分への写像の像は二つの成分が等しい組の全体で、第 1 成分への射影は関手の同型 $\mathbf{Drap}_{(n,n)}(\mathcal E)\cong\mathbf{Grass}_n(\mathcal E)$ を与える。この同型の下で $u$ は $x\mapsto(x,x)$、すなわち対角射 $\underline{\mathrm{Grass}}_n(\mathcal E)\to\underline{\mathrm{Grass}}_n(\mathcal E)\times_S\underline{\mathrm{Grass}}_n(\mathcal E)$ に対応する。ゆえに上の主結果により、Grassmann 束の対角射は閉はめ込みである。$T$ 点 $\eta=(q_1,q_2)$ の上では、対角は $q_1$ を $\mathrm{Ker}\,q_2$ に制限した射の零点の部分空間で表される。
(c) $n=1$ で (b) を読めば、射影束 $\mathcal P(\mathcal E)$ の対角射も閉はめ込みである。

(b) の対角射が閉はめ込みであることは、後代の言葉では Grassmann 束が $S$ 上分離的であることの関手的な言い方である。ただし本書の解析空間は分離性(Hausdorff 性)を課さないので、底の位相の分離性とは別に考える必要がある。それは本書『4-2 旗束の射影束への閉はめ込み』で扱う。

その後の発展

以下は後代の文献の紹介である(本書は文献を開いて該当箇所を確かめていない)。

  • 旗多様体と部分旗の多様体(古典〜):体の上の旗多様体は、Grassmann 多様体の積の中の閉部分多様体として、また射影空間の中の閉部分多様体として扱われる。教科書 EH16(2016 年)、Ful98(1998 年)が旗束と部分旗の束を扱うとされる。本頁の構成はその相対版で、Grassmann 束の積に入れる所までを与える。射影束への閉はめ込みは本書『4-2 旗束の射影束への閉はめ込み』で扱う。
  • Quot スキームの中の旗(1961 年〜):代数幾何では、旗の関手は Quot 関手の閉部分関手として表現できる。Nitsure の解説を含む FGAex(2005 年)が Quot スキームの構成を述べ、同じ連作の第 IX 回 Gro61ix は解析的な状況の Quot 関手を扱う。本頁の「押さえる条件は閉じた条件」という議論は、そこでも同じ形で現れる。

原論文との対応表

本頁が対応する原論文は Gro61v である。印字頁は PDF の頁番号から 1 を引いたもの(PDF $n$ が印字 12-$(n-1)$)である。

本頁原論文印字頁
背景と動機の解析空間に限る段、主結果「旗束の存在定理」命題 2.1 とその直前12-08
定義「旗束」定義 2.212-08〜12-09
主結果「旗束の Grassmann 束の積への閉はめ込み」、補題「核を消す条件の零点」§3 の一般の旗の段(第 IV 回の 3.13 による帰着、$T=S$ への取り替え、$S_i$ の Inf)12-11〜12-12
注意「原論文の段と核の有限表示性」同じ段(命題 1.9 の引用)12-12
主結果「全射から来る旗束の閉はめ込み」、注意「原論文の「全く同様」」一般の旗の段の直後の一文12-12
注意「印字の読み(§3 の一般の旗の段)」一般の旗の段、Plücker 射の段の冒頭、番号の重複12-06、12-08〜12-09、12-11〜12-12
反例「反例:増加列の向きを逆に読むと旗の判定が崩れる」定義 2.1、§3 の一般の旗の段の判定12-06、12-12

参考文献

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