原論文は解析空間を定義せず、同じ連作の前の回が与えた定義と、数空間への射が大域関数の組と一対一であるという定理を、出典を書かずに使う。本頁はそれらを引用としてまとめ、第 9 巻『表現可能関手の一般形式』の頁『0-4 解析空間』が述べた引用と補題を同じ名前で述べ直して、補題には証明を添える。第 9 巻が引用とした「局所環の剰余体」にも証明を添える。新しく、剰余体が基礎体の有限次元局所代数を一点に与えた空間を作る補題を置く。記号は本書『0-6 記号と約束』のとおりで、加群の前提は本書『0-2 環付き空間の上の加群』、表現可能性の言葉は本書『0-4 表現可能性の判定法』にある。
前提知識: 解析空間, 環付き空間, 収束冪級数, 局所環, ネーター環, Hausdorff空間
原論文は 1.4 で「le corps de base $k$」と書き(原論文の印字 12-04)、§2 の後半から解析空間の圏 $(\mathrm{An})$ に限って話を進める(印字 12-08)が、$k$ も解析空間も講演の中では定義しない。定義は同じ連作「Techniques de construction en géométrie analytique」の第 II 回 Gro61ii にある。また命題 1.1 の証明は、$\Gamma(T,\mathcal O_T)^p$ を数空間が表すことを出典なしで使う(印字 12-03)。これは連作第 III 回 Gro61iii の定理 1.1・系 1.2 に当たる。
本書はこれらを次のように受け取る。第 II 回の定義と、定義から直ちに出る事実(下の定理「解析空間の開部分空間とはめ込み」)を引用として使い、この立場を「解析空間の定義」と呼ぶ。第 II 回が同じく定義から直ちに出るとする定理「局所環の剰余体」は、本頁で証明する。引用として使う定理「解析空間の開部分空間とはめ込み」に依る主結果は[条件付き]で、札に「解析空間の定義の下では完結」と添える。定義と、この頁で引用に依らずに証明した定理・補題(定理「局所環の剰余体」、補題「剰余体が基礎体の局所代数の射」「一点の解析空間と終対象」)と、本書の頁で証明した事実だけに依る主結果は、引用に依らないので[完結]になりうる。補題「点の部分空間の存在」の (3)、補題「有限次元局所代数の一点の空間」、命題「開はめ込みの底変換と非交和」は、証明の中で引用として使う定理「解析空間の開部分空間とはめ込み」に応じて[条件付き]の側に入る。連作の定理(下の定理「局所環のネーター性」「数空間への射と大域関数」)を使う主結果には、この句を添えない(本書『0-6 記号と約束』)。第 III 回の定理 2.1(ファイバー積の存在)は、本書では判定に使わない。
第 9 巻の頁 0-4 は同じ引用を同じ名前で述べ、三つの補題と一つの命題を証明した。本書はそれを第 9 巻の頁を開かずに読めるよう、ここで述べ直す。第 II 回の所在は第 9 巻の頁 0-4 が第 II 回の頁画像で確かめた印字頁で書く(第 II 回の PDF $n$ は印字 9-$(n-1)$)。第 III 回の定理 1.1・系 1.2 の所在(印字 10-02・10-03)は、本書の準備の段で頁画像を確かめた。
$k$ を完備付値体とする(下の注意「基礎体の約束」)。
(1) $k^n$($n\ge0$)の開集合の上の関数が解析的とは、各点の近傍で収束冪級数で表されることをいう。$k^n$ に解析的な関数の層を与えた $k$ 代数の環付き空間を数空間 $E^n$ と書き、座標関数を $z_1,\dots,z_n$ と書く。点 $a$ での局所環は $a$ を中心とする収束冪級数の環で、原点では $k\{z_1,\dots,z_n\}$ と書く。$E^0$ は一点に $k$ を与えた空間で、$e$ と書く。
(2) 環付き空間 $X$ の部分環付き空間とは、局所閉な部分集合 $A$ に、$A$ が閉になる最大の開集合 $U=X-(\bar A-A)$ の上のイデアル $\mathcal J$ による商 $\mathcal O_U/\mathcal J$ を与えたもの(台は $A=\mathrm{Supp}(\mathcal O_U/\mathcal J)$)である。$\mathcal J$ が有限型のとき、有限表示の部分環付き空間という。
(3) $k$ 上の解析空間とは、$k$ 代数の環付き空間 $X$ で、各点が、ある $E^n$ の有限表示の部分環付き空間に同型な開近傍をもつものをいう。
(4) 底の位相空間の分離性(Hausdorff 性)は要求しない。構造層が冪零元をもつことも許す。空の解析空間を $\emptyset$ と書く。
(1)〜(3) は第 II 回の §1 の部分環付き空間の定義(印字 9-05、9-08)、§2 の数空間の構成と定義 2.1(印字 9-08〜9-09)を本書の言葉でまとめたものである。(4) の前半は定義 2.1 の直後の注意(印字 9-09)に従うもので、本書が明示して足した仮定「解析空間は分離的とは限らない」(第 9 巻と同じ)に当たる。第 9 巻の頁 0-4 の定義「解析空間の定義」と同じ内容で、第 9 巻でも引用(定義)として扱われている。
本書は $k$ の絶対値が自明でないものとする(第 9 巻の頁 0-4 と同じ約束)。第 II 回は完備付値体を「a priori arbitraire」とし(印字 9-01)、自明な絶対値を除く文は無い。絶対値が自明なら $k^n$ は離散空間になり、解析的な関数の芽の環は $k$ になって、数空間の局所環を収束冪級数の環と同一視できない。本書でこの約束が効くのは、この同一視をする所(上の定義 (1))である。下の定理「局所環の剰余体」の証明、補題「点の部分空間の存在」の (2)、補題「有限次元局所代数の一点の空間」、例「二重点」、本書『0-2 環付き空間の上の加群』の例「直線の原点の剰余加群」がこれに依り、それらを通して本書『1-2 切断の関手と二つの規約』の主結果「切断の関手の表現可能性と局所自由性」が依る。原論文の 1.4 の「le corps de base $k$」(印字 12-04)と 2.4 の「局所環 $k$」(印字 12-09〜12-10)はこの $k$ と読む。原論文の紙面は $k$ に課す条件を書かない。
$X$ を解析空間とする。
(1) $X$ の有限表示の部分環付き空間は解析空間である。とくに、開集合 $U$ に $\mathcal O_X|_U$ を与えた開部分空間と、有限型のイデアル $\mathcal J$ の定める閉部分空間 $Z(\mathcal J)$(台 $\mathrm{Supp}(\mathcal O_X/\mathcal J)$、構造層 $\mathcal O_X/\mathcal J$)は解析空間である。
(2) 有限表示の部分環付き空間を部分解析空間という。開部分空間は $X$ の開集合と、閉部分空間は $X$ の有限型のイデアルと一対一に対応する。
(3) 射 $f\colon Y\to X$ がはめ込みとは、$Y$ から部分解析空間 $Y'$ への同型と包含 $Y'\to X$ の合成であることをいう。$Y'$ が開部分空間のとき開はめ込み、閉部分空間のとき閉はめ込みという。部分環付き空間の包含は環付き空間の圏の単射(モノ)で、はめ込みの合成ははめ込みである。
解析空間 $X$ の各点 $x$ で、局所環 $\mathcal O_{X,x}$ は局所 $k$ 代数で、剰余体は $k$ 代数として $k$ に同型である。とくに $\mathcal O_{X,x}\ne0$ である。数空間の点 $a$ では、極大イデアルは $a$ で値 $0$ の収束冪級数の全体で、剰余体への写像は $a$ での値をとる写像である。
収束冪級数とは、$w_i=z_i-a_i$ の冪級数 $h=\sum_\alpha h_\alpha w^\alpha$ で、ある多重半径 $r=(r_1,\dots,r_n)$(各 $r_i>0$)について $\|h\|_r=\sum_\alpha|h_\alpha|r^\alpha<\infty$($r^\alpha=r_1^{\alpha_1}\cdots r_n^{\alpha_n}$)となるものをいう。$k$ は完備なので、そのような級数は多重円板 $|w_i|\le r_i$ の上で絶対収束して関数を定め、定義 (1) の同一視はこの関数の芽をとるものである。
段 1(積の評価).冪級数の積の係数は $(fg)_\beta=\sum_{\alpha+\gamma=\beta}f_\alpha g_\gamma$(有限和)で、絶対値の三角不等式(アルキメデス的でもそうでなくても成り立つ)により $\|fg\|_r\le\|f\|_r\|g\|_r$ である。したがって収束冪級数は環をなし、絶対収束する級数は並べ替えてよいので、冪級数の積は関数の積に対応する。
段 2(数空間の局所環).$a$ での値をとる写像 $\mathrm{ev}_a\colon k\{w\}\to k$(定数項をとる写像)は $k$ 代数の全射である。$\varphi(a)=0$ の $\varphi$ は可逆でない($\varphi\psi=1$ なら $\varphi(a)\psi(a)=1$)。$c=\varphi(a)\ne0$ とし、$h=1-c^{-1}\varphi$ とおくと $h$ は定数項をもたない。$\|h\|_{r}<\infty$ となる $r$ をとり、$0<\tau\le1$ について $\tau r=(\tau r_1,\dots,\tau r_n)$ とすると、$h$ の項はどれも $|\alpha|\ge1$ なので $\|h\|_{\tau r}\le\tau\|h\|_r$ で、$\tau$ を小さくとって $q=\|h\|_{\tau r}<1$ とできる。段 1 により $\|h^m\|_{\tau r}\le q^m$ である。$h^m$ は次数 $m$ 未満の項をもたないので、$g=\sum_{m\ge0}h^m$ の各係数は有限和として定まり、係数ごとの三角不等式から $\|g\|_{\tau r}\le\sum_mq^m=1/(1-q)<\infty$ である。ゆえに $g$ は収束冪級数で、各係数を比べれば $(1-h)g=1$($(1-h)\sum_{m\le M}h^m=1-h^{M+1}$ で、$h^{M+1}$ は次数 $M+1$ 未満の項をもたない)なので、$c^{-1}g$ が $\varphi$ の逆元である。以上により $k\{w\}$ の可逆でない元の全体は $\mathrm{Ker}\,\mathrm{ev}_a$ で、これはイデアルなので、$k\{w\}$ は $\mathrm{Ker}\,\mathrm{ev}_a$ を極大イデアルとする局所環であり、剰余体は $\mathrm{ev}_a$ により $k$ 代数として $k$ に同型である。
段 3(商).局所環 $R$(極大イデアル $\mathfrak m$)のイデアル $J\ne R$ について、$R/J$ の極大イデアルは $J$ を含む $R$ の極大イデアルに対応し、$J\subset\mathfrak m$ なのでそれは $\mathfrak m/J$ だけである。ゆえに $R/J$ は $0$ でない局所環で、剰余体は $R/\mathfrak m$ と同じである。
段 4(一般の解析空間).定義 (3) により、$x$ の開近傍 $V$ と、$E^n$ の開集合 $U$ の上の有限型のイデアル $\mathcal J$ の定める部分環付き空間 $(A,(\mathcal O_U/\mathcal J)|_A)$ への $k$ 代数の環付き空間の同型があり、$x$ は点 $a\in A$ に当たる。茎は開近傍で変わらないので $\mathcal O_{X,x}\cong\mathcal O_{V,x}$ である。本書『0-2 環付き空間の上の加群』の補題「茎による計算」の (3)(逆像の茎と余核の茎)により、$(A,(\mathcal O_U/\mathcal J)|_A)$ の $a$ での茎は $\mathcal O_{E^n,a}/\mathcal J_a$ である。$a\in A=\mathrm{Supp}(\mathcal O_U/\mathcal J)$ なのでこの茎は $0$ でなく、$\mathcal J_a\ne\mathcal O_{E^n,a}$ である。段 2 と段 3 により $\mathcal O_{X,x}$ は $0$ でない局所 $k$ 代数で、剰余体は $\mathrm{ev}_a$ から来る写像により $k$ 代数として $k$ に同型である。
第 II 回は数空間の点での主張を「trivialement」とし(印字 9-09)、一般の解析空間については命題 2.3 a の後半と b として定義から直ちに出るとする(印字 9-10)。第 9 巻の頁 0-4 は同名の定理を引用として置いたが、本書は上のとおり証明し、定義だけに依る事実として扱う。証明が使うのは、定義 (1)〜(3)、注意(基礎体の約束)、$k$ の完備性と絶対値の三角不等式、本書『0-2 環付き空間の上の加群』の補題「茎による計算」だけである。
(1)(2) は第 II 回の定義 2.4(印字 9-10)で、第 9 巻の頁 0-4 の定義「解析空間の射」と同じである。第 II 回は続けて、解析空間の射は局所環の射を与えると述べ、その理由を次の補題に帰着する(補題 2.6、印字 9-11)。
上の補題(剰余体が基礎体の局所代数の射)により、(1) の $\varphi$ は自動的に局所的である。第 II 回も一点の空間からの射を同じ組で書く(印字 9-12)。第 9 巻の頁 0-4 の同名の補題と同じ内容で、(1) の最後の文は本書が足した。
$T$ を解析空間、$t\in T$ とする。
(1) $T$ の各点は分離的な開近傍をもつ。とくに一点 $\{t\}$ は $T$ の閉集合である。
(2) $t$ の開近傍 $U$ が $E^n$ の開集合の有限表示の部分環付き空間に同型で、$t$ が点 $a=(a_1,\dots,a_n)$ に当たるとき、$\mathfrak m_t$ は座標関数の像 $z_i-a_i$ で生成される。
(3) $t$ で値 $0$ をとる切断のなすイデアル $\mathcal J_t$ は有限型で、その茎は $x\ne t$ で $\mathcal O_{T,x}$、$t$ で $\mathfrak m_t$ である。閉部分空間 $e_t=Z(\mathcal J_t)$ は一点 $t$ に $k$ を与えた空間で、$e$ とただ一つの同型で結ばれる。包含を $i_t\colon e_t\to T$ と書く。
包含 $i_t$ は閉はめ込みで、補題(一点の解析空間と終対象)の (1) では点 $t$ と剰余体への射の組に当たる。第 9 巻の頁 0-4 の同名の補題と同じ内容で、本書は $\mathcal J_t$ を値の条件で直接定め、層の貼り合わせを使わない形にした。
第 1〜4 章は、開はめ込みに沿うファイバー積と非交和を使う(開集合の上への制限、Plücker 射の証明の局所化など)。これらは連作の定理を使わずに、上の引用と環付き空間の貼り合わせから出る。
段 1(開部分空間への射).$V$ を $Y$ の開部分空間とする。射 $h\colon T\to Y$ で $h(T)\subset V$ となるものは、包含との合成が $h$ になる射 $T\to V$ をただ一つもつ。$V$ に含まれる開集合 $W$ では $\mathcal O_V(W)=\mathcal O_Y(W)$ なので、層の射 $\mathcal O_Y\to h_*\mathcal O_T$ を $V$ の開集合に制限したものがそのまま $\mathcal O_V\to h_*\mathcal O_T$ を与え、包含との合成が $h$ になる射はこれしかないからである。とくに包含 $V\to Y$ は単射(モノ)である。
段 2((1)).$g$ を $V'$ に制限して同型 $U\cong V$ の逆と合成した射を $a\colon V'\to U$ とする。$b\colon T\to U$、$c\colon T\to Y'$ が $jb=gc$ を満たせば、$g(c(T))\subset V$ なので $c(T)\subset V'$ で、段 1 により $c$ は $c'\colon T\to V'$ をただ一通りに経由する。$jac'=gc=jb$ で $j$ は単射(モノ)なので $ac'=b$ である。ゆえに $(V';a,\text{包含})$ はファイバー積である。別の選び方はこれに同型を合成したもので、射影は同型と開はめ込みの合成、すなわち開はめ込みである。
段 3((2)).各点はある $X_i$ に入り、$X_i$ は $X$ の開集合なので、定義の条件を満たす開近傍をもつ。$X_i$ は互いに交わらない開被覆なので、本書『0-2 環付き空間の上の加群』の定理「環付き空間と層の貼り合わせ」の (2) により、射 $X\to Z$ は射 $X_i\to Z$ の族と一対一に対応する(重なりが空なので一致の条件は無く、$k$ 代数の射であることは局所的な条件である)。ゆえに $X$ は和である。$h\colon T\to X$ について $T_i=h^{-1}(X_i)$ は開かつ閉で、互いに交わらず $T$ を覆い、段 1 により $h|_{T_i}$ は $X_i$ を経由する。逆に分解と射の族は同じ定理で一つの射になる。$fb=gc$ となる組 $(b,c)$ は、分解 $T=\coprod T_i$ と $X_i\times_YY'$ への射の族と同じで、それは $\coprod_i(X_i\times_YY')$ への射と同じである。$I=\emptyset$ なら底は空集合で層は零環だけの層であり、どの $Z$ へも射はただ一つで、$\emptyset$ への射は源が空のときだけある。
段 4((3)).$(\mathrm{An})_{/S}$ のファイバー積は $(\mathrm{An})$ のファイバー積に構造射を合わせたものである(本書『0-4 表現可能性の判定法』の補題「スライス圏」)。射 $\coprod X_i\to Z$ が $S$ 射であることは、各 $X_i$ への制限が $S$ 射であることと同じである(段 3 の一意性)。開被覆 $(T_i)$ の上の $S$ 射 $h_i$ を貼り合わせた $h$ について、$p_Z\circ h$ と $p_T$ は各 $T_i$ の上で一致するので、同じ定理の一意性により等しい。
この命題は、上の引用と本書『0-2 環付き空間の上の加群』の定理「環付き空間と層の貼り合わせ」を使う。第 9 巻の頁 0-4 の同名の命題と同じ内容である。
次の三つは連作第 II 回・第 III 回の定理で、本書は証明を確かめずに引用する。前の二つを使う主結果は[条件付き]で、札に「解析空間の定義の下では完結」の句を添えない。
解析空間の各点の局所環はネーター環である。
第 II 回の命題 2.3 a の前半(印字 9-10)である。第 II 回はこれを定義から直ちには出ない事実として別の講演に送る(第 9 巻の頁 0-4 の記述による)。
解析空間 $X$ と $n\ge0$ について、射 $g\colon X\to E^n$ に座標関数の引き戻しの組 $(g^\sharp z_1,\dots,g^\sharp z_n)$ を対応させる写像 $\mathrm{Hom}(X,E^n)\to\Gamma(X,\mathcal O_X)^n$ は全単射で、$X$ について自然である。すなわち $E^n$ は前層 $X\mapsto\Gamma(X,\mathcal O_X)^n$ を表す。
連作第 III 回の定理 1.1・系 1.2(印字 10-02・10-03)である。第 III 回の紙面の証明は、局所環のネーター性と Krull の交叉定理(完備化への埋め込み)に依る形で書かれている。本書はその証明を確かめていない。原論文は命題 1.1 の証明でこれを出典なしに使い(印字 12-03)、本書の第 1〜4 章の条件付きの主結果の多くは、本書『1-1 双対規約のベクトル束とその存在』の主結果「ベクトル束の存在」を通してこの一つの定理に依る。$n=0$ では、両辺が一点であることは上の補題(一点の解析空間と終対象)の (2) と一致する。点の写像は上の補題(剰余体が基礎体の局所代数の射)の (2) で読める。
$(\mathrm{An})$ には終対象 $e$ と任意の二つの射のファイバー積があり、底の位相空間をとる関手はそれらと交換する。したがって $(\mathrm{An})_{/S}$ にもファイバー積がある。
連作第 III 回の定理 2.1(印字 10-04。第 9 巻の頁 0-4 が確かめた所在)である。本書はこの定理を判定に使わない。原論文が積の存在に触れずに進む二つの段(命題 1.1 の証明の積 $E^p\times S$、§3 の Grassmann 束の積)について、本書はこの定理を使わずに積を作ったことを述べるときだけ引く。同じく第 9 巻の頁 0-4 の定理「はめ込みの底変換」(第 II 回の注意 2.10 の後半)も本書は使わない(本書『0-5 閉部分空間と零点と積』の注意「第 9 巻のはめ込みの底変換を使わない」)。
本書『1-2 切断の関手と二つの規約』は、冪零元をもつ一点の空間を試験対象にして、切断の関手の表現可能性から局所自由性を引き出す。そのための空間をここで作る。第 II 回はこの種の空間が解析空間であることを例 2.8 として述べる(印字 9-11〜9-13、第 9 巻の頁 0-4 の記述による)。本書はそれを閉部分空間として直接確かめる。
$B$ を、剰余体が $k$ 代数として $k$ に同型な、有限次元の局所 $k$ 代数とする。
(1) ある $d\ge0$ と $E^d$ の有限型のイデアル $\mathcal J$ があって、閉部分空間 $Z(\mathcal J)$ は原点一点に $B$ を与えた解析空間である。これを $P_B$ と書く。一点に $B$ を与えた環付き空間は同型を除いて一つなので、$P_B$ は同型を除いて定まる。$B=k$ なら $P_B=e$ である。
(2) 解析空間 $X$ への射 $P_B\to X$ は、点 $x\in X$ と $k$ 代数の射 $\mathcal O_{X,x}\to B$ の組と一対一に対応する。$P_B$ を点 $s\in S$ と $k$ 代数の射 $\rho\colon\mathcal O_{S,s}\to B$ で $S$ 上の空間とみるとき、$S$ 上の空間 $p\colon X\to S$ への $S$ 射 $P_B\to X$ は、$p(x)=s$ となる点 $x$ と $k$ 代数の射 $\varphi\colon\mathcal O_{X,x}\to B$ で $\varphi\circ p^\sharp_x=\rho$ となるものの組と一対一に対応する。
段 1(極大イデアルは冪零).$\mathfrak m_B$ の冪の列は有限次元の部分空間の減少列なので、ある $j$ で $\mathfrak m_B^j=\mathfrak m_B^{j+1}=\mathfrak m_B\cdot\mathfrak m_B^j$ となる。本書『0-2 環付き空間の上の加群』の定理「中山の補題」の (1) により $\mathfrak m_B^j=0$ で、そのような $j$ を $N\ge1$ とする。剰余体が $k$ なので $B=k\cdot1\oplus\mathfrak m_B$ である。
段 2(代入の射).$\mathfrak m_B$ の $k$ 基底 $b_1,\dots,b_d$ をとる。収束冪級数を次数 $N$ 未満で切る写像 $k\{z_1,\dots,z_d\}\to k[z]/(z)^N$ は環の射で、$z_i\mapsto b_i$ は $k[z]/(z)^N\to B$ を定める(次数 $N$ の単項式は $\mathfrak m_B^N=0$ に送られる)。合成 $\pi\colon k\{z\}\to B$ は $1$ と $b_i$ に届くので全射である。切り捨ての射の核は次数 $N$ 未満の項をもたない収束冪級数の全体である。そのような級数は、各項をそれを割る次数 $N$ の単項式の一つでくくって、次数 $N$ の単項式の収束冪級数係数の和に書ける(各係数の級数は元の係数の一部からなるので、補題(点の部分空間の存在)の (2) と同じく収束する)。したがって切り捨ての核は $k\{z\}$ のイデアル $(z)^N$ で、$k\{z\}/(z)^N=k[z]/(z)^N$ である。また $\pi$ の核 $I$ について $(z)^N\subset I$ である。
段 3(イデアル).$I/(z)^N$ は有限次元の $k[z]/(z)^N$ の部分空間なので、その基底を多項式 $g_1,\dots,g_q$ で代表させる。$g_l$ と次数 $N$ の単項式すべて($E^d$ の上の大域切断)で生成される有限型のイデアルを $\mathcal J$ とする。原点での茎は $(g_1,\dots,g_q)+(z)^N=I$ である。原点以外の点 $x$ ではある $x_i\ne0$ で、$z_i^N$ は $x$ での値が $0$ でなく可逆なので、$\mathcal J_x=\mathcal O_{E^d,x}$ である。ゆえに $Z(\mathcal J)$ の台は原点だけで、環は $k\{z\}/I\cong B$ である。上の定理(解析空間の開部分空間とはめ込み)の (1) によりこれは解析空間である。$B=k$ なら $d=0$、$I=0$ で $Z(0)=E^0=e$ である。
段 4(射).前半は上の補題(一点の解析空間と終対象)の (1) である。同じ補題の合成の記述により、$P_B\to X$ と $p$ の合成は組 $(p(x),\varphi\circ p^\sharp_x)$ に当たるので、それが $P_B$ の構造射 $(s,\rho)$ に等しいことが後半の条件である。
この補題は上の引用と本書『0-2 環付き空間の上の加群』の定理「中山の補題」(証明済み)だけに依る。$B$ の例は、ネーター局所環の商 $\mathcal O_{S,s}/\mathfrak m_s^j$ や、二つの商の剰余体の上のファイバー積で、本書『1-2 切断の関手と二つの規約』がそれらを使う。
$E^1$ の座標を $z$ とし、有限型のイデアル $z^2\mathcal O_{E^1}$ の定める閉部分空間を $D$ と書く。
(a) $D$ は一点 $0$ に環 $k\{z\}/(z^2)\cong k[\varepsilon]/(\varepsilon^2)$ を与えた解析空間で、上の補題(有限次元局所代数の一点の空間)の $P_B$($B=k[\varepsilon]/(\varepsilon^2)$)である。$x\ne0$ では $z^2$ が可逆なので茎は $0$ になる。
(b) イデアル $(\varepsilon)$ の定める閉部分空間は $e$ で、包含 $e\to D$ は閉はめ込みである。底の写像は一点から一点で同相だが、同型ではない($k[\varepsilon]/(\varepsilon^2)$ は $k$ と同型でない)。
(c) 補題(一点の解析空間と終対象)の (1) により、$\mathrm{Hom}(e,D)$ は $k$ 代数の射 $k[\varepsilon]/(\varepsilon^2)\to k$ の全体で一点である。$\mathrm{Hom}(D,D)$ は $\varepsilon\mapsto a\varepsilon$($a\in k$)の全体で、底の写像はどれも同じなので、射は底の写像では決まらない。
原論文の注意 2.3 は、非特異な一次元の底の上でも射影束が冪零元をもちうると述べる(印字 12-09)。その例の射影束がこの $D$ になる(本書『4-1 射影束の規約と底変換とファイバー』)。第 9 巻の頁 0-4 の例「二重点」と同じ空間である。
後代の複素解析幾何では、解析空間に底の位相空間の分離性(Hausdorff 性)を課すのが普通とされる(たとえば GR84。本書は該当箇所を確かめていない)。本書は連作第 II 回の定義に従って分離性を課さない(上の定義(解析空間の定義)の (4))。これは本書が明示して足した仮定「解析空間は分離的とは限らない」で、第 9 巻と同じである。分離的でない解析空間の典型は、第 9 巻の頁 0-4 の例「原点を二重にした直線」である。
本書でこの約束が効くのは、第 9 巻の判定法(本書『0-4 表現可能性の判定法』の定理「開部分関手で覆われる局所的な関手の表現可能性」「底の開被覆による表現可能性の判定」)を引く段である。前者は分離的な解析空間だけの圏では一般に偽になる(第 9 巻の反例「反例:分離的な読みでは局所的な関手の判定が崩れる」)。ただし本書の結論は分離的な読みでも成り立つ。ベクトル束については本書『1-1 双対規約のベクトル束とその存在』の注意「足した仮定の効き方と分離的な読み」で、旗束と Grassmann 束については本書『4-2 旗束の射影束への閉はめ込み』の命題「分離的な読みでの旗束と Grassmann 束」で述べる。上の補題(点の部分空間の存在)の (1) のとおり、解析空間は局所的には分離的である。
以下は後代の結果の紹介である(本書は文献を開いて確かめていない)。
本頁が対応する原論文は Gro61v である。本頁は前提の頁で、原論文の主張の証明は含まない。印字頁は PDF の頁番号から 1 を引いたもの(PDF $n$ が印字 12-$(n-1)$)である。
| 本頁 | 原論文 | 印字頁 |
|---|---|---|
| 定義(解析空間の定義)、注意(基礎体の約束) | 1.4 の「le corps de base $k$」、§2 の後半で解析空間に限る段、2.4 の「局所環 $k$」 | 12-04、12-08〜12-10 |
| 定理(数空間への射と大域関数) | 命題 1.1 の証明($\Gamma(T,\mathcal O_T)^p$ を数空間が表す) | 12-03 |
| 定理(局所環のネーター性)、補題(有限次元局所代数の一点の空間) | 注意 1.3 の「容易に示せる」段(本書『1-2 切断の関手と二つの規約』で補う) | 12-03〜12-04 |
| 定理(局所環の剰余体)(本頁で証明)、定義(解析空間の射)、補題(剰余体が基礎体の局所代数の射)(一点の解析空間と終対象)(点の部分空間の存在) | 系 1.8 の証明(点 $s$ の被約な部分空間、局所環 $k$)、2.4 (ii) | 12-05、12-09〜12-10 |
| 定理(解析空間の開部分空間とはめ込み)、例(二重点) | 命題 1.5 の閉はめ込み、注意 2.3 の閉部分空間と冪零元 | 12-04〜12-05、12-09 |
| 命題(開はめ込みの底変換と非交和) | §3 の冒頭の局所化、Plücker 射の証明の局所化の段 | 12-10、12-12〜12-13 |
| 注意(分離性を課す流儀との違い) | §3 の結び(分離的な空間への射のグラフ) | 12-14 |
| 定理(解析空間のファイバー積の存在) | 命題 1.1 の証明と §3 の一般の旗の段が積の存在に触れない所 | 12-03、12-11〜12-12 |
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