有限表示の加群の旗束を、ただ一つの射影束の閉部分空間として実現する。原論文の注意 2.5 は射影束に取る加群を「$\mathcal E$ の $p$ 個のテンソル積」とするが、この形は零の加群の例と四次元空間の例で破れるので、成分の外積のテンソル積(したがって $\mathcal E$ の $m_1+\dots+m_p$ 個のテンソル積)に直して証明する。最後に、存在の証明が分離的でない空間の圏を通ることの影響を調べ、底が分離的なら旗束と Grassmann 束の積も分離的であることを示す。
前提知識: 旗多様体, 射影束, Plücker埋め込み, Segre埋め込み, 閉はめ込み, Hausdorff空間
$S$ を解析空間とし、関手は $S$ 上の解析空間の圏 $(\mathrm{An})_{/S}$ の上で考える。$\mathcal E$ を有限表示の $\mathcal O_S$ 加群、$m=(m_1,\dots,m_p)$ を $0$ 以上の整数の増加列($p\ge0$)とする。旗・旗束・Grassmann 束・射影束は本書『2-1 旗の関手と標準の写像』の定義「型の旗」と本書『2-3 旗束の存在定理』の定義「旗束」のもので、Plücker 射 $\pi_{\mathcal E}$ と Segre 射 $\sigma_{\mathcal E,\mathcal F}$ は本書『3-2 閉はめ込み定理』の定義「Plücker 射と Segre 射」のものである。成分の外積のテンソル積を
$$\mathcal W_m=\textstyle\bigwedge^{m_1}\mathcal E\otimes\bigwedge^{m_2}\mathcal E\otimes\dots\otimes\bigwedge^{m_p}\mathcal E$$
(左から順に括弧を付ける。$p=0$ なら $\mathcal O_S$)とし、$|m|=m_1+\dots+m_p$ とおいて、$\mathcal E$ の $|m|$ 個のテンソル積を成分ごとにまとめたものを $\mathcal T_m=\mathcal E^{\otimes m_1}\otimes\dots\otimes\mathcal E^{\otimes m_p}$ と書く(下の定義「外積のテンソル積とテンソル冪」)。
本頁の主結果は次の一つである。
原論文は §2 の終わりに、旗束の性質を述べる番号付きの注意を三つ置き、その最後が 2.5 である(印字 12-10)。2.5 は「(2.2) を使えば」と断って、旗束 $\underline{\mathrm{Drap}}_m(\mathcal E)$ が射影束 $\mathcal P(\mathcal V)$ の閉部分空間に同型であると述べ、$\mathcal V$ を「$\mathcal E$ の $p$ 個のテンソル積」とする(原文は « produit tensoriel de $p$ copies de $\mathcal E$ »)。証明は書かれない。
古典的な場面では、体の上の旗多様体は、成分の Grassmann 多様体の積に入り、各 Grassmann 多様体は Plücker 埋め込みで射影空間に入り、射影空間の積は Segre 埋め込みで一つの射影空間に入る。原論文の命題 2.2 は、この三段と、全射から来る射の四つが相対的な状況でも閉はめ込みであることを述べたもので、2.5 はそれを合成した結論である。合成の行き先は、Plücker 射が $\mathcal P(\bigwedge^{m_i}\mathcal E)$ に入り、Segre 射がテンソル積をとるので、$\mathcal P(\bigwedge^{m_1}\mathcal E\otimes\dots\otimes\bigwedge^{m_p}\mathcal E)$ である。外積はテンソル冪の商なので、これはさらに $\mathcal P(\mathcal E^{\otimes|m|})$($|m|=m_1+\dots+m_p$)に入る。
ところが印字の $\mathcal V$ は $\mathcal E$ の $p$ 個のテンソル積で、$p$ 個の因子の数は合っているが、各因子が外積になっていない。すべての $m_i$ が $1$ なら二つの形は一致するが(下の例「訂正形の境界」)、一般には印字の形は成り立たず、零の加群と $m=(0)$ の例では旗束は一点なのに印字の射影束は空になり、$\mathcal E=k^4$、$m=(2)$ の例では Grassmann 束の方が射影束より「太い」。本頁は外積のテンソル積の形を主結果として証明し、印字の形を反例で退ける。
もう一つの問題は分離性である。本書の解析空間は分離性を課さない(本書『0-3 解析空間と数空間』の定義「解析空間の定義」の (4))。Grassmann 束の存在の証明(本書『2-2 Grassmann 束の存在』)は第 9 巻の判定法「開部分関手で覆われる局所的な関手の表現可能性」を使い、この判定法は分離的な空間だけの圏では一般に偽である。本書『0-3 解析空間と数空間』の注意「分離性を課す流儀との違い」と本書『2-2 Grassmann 束の存在』の注意「分離的な読み」は、それでも結論は分離的な読みで成り立つと予告した。旗束が射影束の閉部分空間であることを使うと、その予告を回収できる。
射影束に取る加群を定め、外積がテンソル冪の商であることを確かめる。次に、閉はめ込みの積が閉はめ込みであることを補題として置く。
次の事実を本書の第 0 章と前の頁から使う。第 0 章の頁の結果の出典は、第 9 巻(原論文が引く第 IV 回 Gro61iv)と第 0 章の各頁の案内のとおりである。表現可能な前層の間の射を表す空間の射とみることは、本書『0-4 表現可能性の判定法』の注意「米田の約束」に従って断らずに行う。
$X$ を環付き空間とする。
(1) 加群 $\mathcal A_1,\dots,\mathcal A_l$($l\ge0$)のテンソル積 $\mathcal A_1\otimes\dots\otimes\mathcal A_l$ は、左から順に括弧を付けた $(\cdots(\mathcal A_1\otimes\mathcal A_2)\otimes\cdots)\otimes\mathcal A_l$ とする。$l=0$ なら $\mathcal O_X$、$l=1$ なら $\mathcal A_1$ である。射のテンソル積 $u_1\otimes\dots\otimes u_l$ も同じ括弧で定める。
(2) 加群 $\mathcal A$ と $n\ge0$ について、$\mathcal A^{\otimes n}$ は $\mathcal A$ の $n$ 個の (1) の意味のテンソル積とする($\mathcal A^{\otimes0}=\mathcal O_X$)。
(3) 加群 $\mathcal E$ と $0$ 以上の整数の列 $m=(m_1,\dots,m_p)$ について、$\mathcal W_m=\bigwedge^{m_1}\mathcal E\otimes\dots\otimes\bigwedge^{m_p}\mathcal E$、$\mathcal T_m=\mathcal E^{\otimes m_1}\otimes\dots\otimes\mathcal E^{\otimes m_p}$ とおく。$\mathcal E$ を明示するときは $\mathcal W_m(\mathcal E)$、$\mathcal T_m(\mathcal E)$ と書く。
$\mathcal T_m$ は $\mathcal E$ の $|m|=m_1+\dots+m_p$ 個のテンソル積で、括弧の付け方と単位の因子 $\mathcal O$ の入れ方だけが (2) の $\mathcal E^{\otimes|m|}$ と違う。両者はテンソル積の結合と単位の同型で結ばれるが、本書はその同型を使わないので、主張は $\mathcal T_m$ で述べる。すべての $m_i$ が $1$ なら $\mathcal T_m=\mathcal E^{\otimes p}$ で、$m_i=0$ の因子は $\mathcal W_m$ でも $\mathcal T_m$ でも $\mathcal O$ である。原論文の 2.4 は一点の上の加群を $\mathcal V$ と書き、直後の 2.5 は同じ $\mathcal V$ をテンソル積に使う(印字 12-10)。本書は前者を $k^N$(本書『4-1 射影束の規約と底変換とファイバー』の記号。$N$ はそこでの自由な加群の階数で、この頁の $|m|$ とは別の字である)、後者を上の $\mathcal W_m$、$\mathcal T_m$ と、記号を分けて書く。
外積はテンソル冪の商である。本書『0-2 環付き空間の上の加群』は外積代数をテンソル代数の商として導入したが、層の上の全射としては述べていないので、ここで確かめる。
$X$ を環付き空間、$\mathcal A$ を加群とする。
(1) $n\ge0$ について、加群の射 $\mu_n\colon\mathcal A^{\otimes n}\to\bigwedge^n\mathcal A$ で、局所切断 $x_1,\dots,x_n$ について $x_1\otimes\dots\otimes x_n\mapsto x_1\wedge\dots\wedge x_n$ となるものがただ一つあり、全射である。$\mu_0$ と $\mu_1$ は恒等射である。
(2) 列 $m$ について、$\mu_m=\mu_{m_1}\otimes\dots\otimes\mu_{m_p}\colon\mathcal T_m\to\mathcal W_m$ は全射である。$\mathcal A=\mathcal E$ が有限表示なら、$\mathcal T_m$ と $\mathcal W_m$ は有限表示である。
段 1(前層の段の射).開集合 $U$ ごとの $\mathcal A(U)$ の $n$ 個のテンソル積($\mathcal O_X(U)$ の上で、左から括弧を付ける)のなす前層を $P_n$ とする。$P_0=\mathcal O_X$、$P_n(U)=P_{n-1}(U)\otimes\mathcal A(U)$ から、帰納的に前層の射 $P_n\to\mathcal A^{\otimes n}$($P_{n-1}(U)\otimes\mathcal A(U)\to\mathcal A^{\otimes(n-1)}(U)\otimes\mathcal A(U)$ と層化への射の合成)を得る。本書『0-2 環付き空間の上の加群』の補題「茎による計算」の (1)(3) により、この射の茎はどちらも $\mathcal A_x^{\otimes n}$ で全単射なので、同じ補題の (1)(2) により $\mathcal A^{\otimes n}$ は $P_n$ の層化と同型である。開集合ごとの $\mathcal A(U)^{\otimes n}\to\bigwedge^n\mathcal A(U)$、$x_1\otimes\dots\otimes x_n\mapsto x_1\wedge\dots\wedge x_n$(本書『0-2 環付き空間の上の加群』の冒頭の約束により、外積代数はテンソル代数の商なので定まる)と層化への射の合成は、前層の射 $P_n\to\bigwedge^n\mathcal A$ で、同じ補題の (1) によりその層化 $\mathcal A^{\otimes n}$ をただ一通りに経由する。これを $\mu_n$ とする。
段 2(全射と一意性).点 $x$ での $\mu_n$ の茎は、$\mathcal A_x^{\otimes n}\to\bigwedge^n\mathcal A_x$、$x_1\otimes\dots\otimes x_n\mapsto x_1\wedge\dots\wedge x_n$ である(同じ補題の (3))。$\bigwedge^n\mathcal A_x$ は $n$ 個の元の外積で生成されるので、これは全射で、$\mu_n$ は全射である。二つの射が局所切断の $x_1\otimes\dots\otimes x_n$ の上で一致すれば、茎の生成元の上で一致するので茎の射が一致し、同じ補題の (2) により等しい。$n=0$ では $\mathcal O_X\to\bigwedge^0\mathcal A=\mathcal O_X$ の恒等射、$n=1$ では $\mathcal A\to\mathcal A$ の恒等射である。
段 3((2)).全射どうしのテンソル積は全射である(本書『0-2 環付き空間の上の加群』の定理「逆像と加群の演算」の (3))。これを (1) の括弧に沿って繰り返せばよい。$\mathcal O_X$ は有限表示で、有限表示であることは $\otimes$ と $\bigwedge^i$ で保たれる(同じ定理の (4))。
次の補題は、本書『3-2 閉はめ込み定理』の補題「全射による自由な加群への帰着」の証明の段 3 で使った議論を、一般の形で述べたものである。
$X$、$X'$、$Z$ を $S$ 上の空間とし、$f\colon X\to X'$ を閉はめ込みである $S$ 射とする。ファイバー積 $X\times_SZ$、$X'\times_SZ$ が存在するとき、$T$ 点の上で $(x,z)\mapsto(f\circ x,z)$ で与えられる $S$ 射 $f\times\mathrm{id}_Z\colon X\times_SZ\to X'\times_SZ$ は閉はめ込みである。$\mathrm{id}_Z\times f\colon Z\times_SX\to Z\times_SX'$ も同じである。
$X\times_SZ$ の $T$ 点 $(x,z)$ に、組 $(x,(f\circ x,z))$ を対応させる。これは、$X$ の $T$ 点 $x$ と $X'\times_SZ$ の $T$ 点 $(x',z)$ で $f\circ x=x'$ となる組の全体への全単射で(逆は $(x,(x',z))\mapsto(x,z)$)、$T$ について自然である。本書『0-4 表現可能性の判定法』の注意「米田の約束」により、$X\times_SZ$ は、第 1 射影と $f\times\mathrm{id}_Z$ によって、$f$ と第 1 射影 $X'\times_SZ\to X'$ のファイバー積である。引用する事実の 4 の (b) により、閉はめ込み $f$ に沿うファイバー積のどの選び方でも射影は閉はめ込みなので、$f\times\mathrm{id}_Z$ は閉はめ込みである。後半は二つの因子を入れ替えて同じ議論をする。
$X\times_SZ$ の存在は、実は $X'\times_SZ$ の存在と引用する事実の 4 の (b) から出る。本頁で使う積はすべて Grassmann 束と射影束の積で、引用する事実の 2 の (1) により存在するので、この補題は存在を仮定した形で置いた。
まず Grassmann 束の積を一つの射影束に入れる。Plücker 射の積と Segre 射の繰り返しの合成で、旗束はこれに Grassmann 束の積への閉はめ込みを前に付ければよい。
$\mathcal E^{(1)},\dots,\mathcal E^{(l)}$($l\ge0$)を有限表示の $\mathcal O_S$ 加群、$n_1,\dots,n_l\ge0$ を整数とし、$\mathcal L_j=\bigwedge^{n_j}\mathcal E^{(j)}$、$\mathcal W=\mathcal L_1\otimes\dots\otimes\mathcal L_l$、$G=\prod_j\underline{\mathrm{Grass}}_{n_j}(\mathcal E^{(j)})$ とする。
(1) $S$ 射 $\Psi\colon G\to\mathcal P(\mathcal W)$ で、$T$ 点 $(q_1,\dots,q_l)$($q_j$ は $\mathcal E^{(j)}_{(T)}$ の階数 $n_j$ の局所自由な商の代表)を、$\bigwedge^{n_1}q_1\otimes\dots\otimes\bigwedge^{n_l}q_l$ を逆像の標準同型 $\mathcal W_{(T)}\cong\bigwedge^{n_1}\mathcal E^{(1)}_{(T)}\otimes\dots\otimes\bigwedge^{n_l}\mathcal E^{(l)}_{(T)}$ で移し替えた可逆な商の類に送るものが、ただ一つある。
(2) $\Psi$ は閉はめ込みである。
(3) $l=0$ なら $G=\mathcal P(\mathcal W)=S$ で $\Psi$ は恒等射であり、$l=1$ なら $\Psi$ は Plücker 射 $\pi_{\mathcal E^{(1)}}$ である。
段 1(射が定まる).本書『2-1 旗の関手と標準の写像』の主結果「Plücker の写像と Segre の写像」の (a) により、$\bigwedge^{n_j}q_j$ は可逆な商で、その類は $q_j$ の類だけで決まる。同じ主結果の (b) を括弧に沿って繰り返せば、可逆な商のテンソル積は可逆な商で、類は各因子の類だけで決まる。$l=0$ では空のテンソル積 $\mathcal O_T$ の恒等射の類と読む。こうして得る写像が $T$ について自然であることは、同じ頁の主結果「標準の写像の関手性」の (c)(d) の証明と同じく、引き戻しが外積とテンソル積と標準同型で両立し、標準同型を組み合わせて同じ二つの加群の間に作った同型がすべて等しいこと(本書『0-2 環付き空間の上の加群』の定理「逆像と加群の演算」の (1)(2))による。ゆえに関手の準同型 $\prod_j\mathbf{Grass}_{n_j}(\mathcal E^{(j)})\to\mathbf P(\mathcal W)$ を得る。左辺は $G$ が表す(引用する事実の 2 の (1))。$\mathcal W$ は有限表示なので(同じ定理の (4))、右辺は $\mathcal P(\mathcal W)$ が表す。本書『0-4 表現可能性の判定法』の定理「点の関手の充満忠実性」により、この準同型に対応する $S$ 射 $\Psi$ がただ一つある。
段 2($l\le1$).$l=0$ なら、$G=S$(引用する事実の 2 の (1))、$\mathcal W=\mathcal O_S$、$\mathcal P(\mathcal O_S)=S$(引用する事実の 5)で、$S$ は $(\mathrm{An})_{/S}$ の終対象なので(本書『0-4 表現可能性の判定法』の補題「スライス圏」の (1))$\Psi$ は恒等射であり、同型なので閉はめ込みである(引用する事実の 4 の (c))。$l=1$ なら (1) の写像は Plücker の写像そのもので、一意性により $\Psi=\pi_{\mathcal E^{(1)}}$ である。これは引用する事実の 3 により閉はめ込みである。
段 3($l\ge2$ の合成).$l$ についての帰納法で (2) を示す。$G'=\prod_{j< l}\underline{\mathrm{Grass}}_{n_j}(\mathcal E^{(j)})$、$\mathcal W'=\mathcal L_1\otimes\dots\otimes\mathcal L_{l-1}$ とし、帰納法の仮定の閉はめ込みを $\Psi'\colon G'\to\mathcal P(\mathcal W')$ とする。上の定義(外積のテンソル積とテンソル冪)の括弧により $\mathcal W=\mathcal W'\otimes\mathcal L_l$ である。$G$ は $G'\times_S\underline{\mathrm{Grass}}_{n_l}(\mathcal E^{(l)})$ と同じ関手を表す(本書『0-4 表現可能性の判定法』の補題「スライス圏」の (2))ので、両者を同一視する。$\mathcal W'$、$\mathcal L_l$ は有限表示なので、次の列の空間はすべて引用する事実の 2 の (1) により存在する。
$$G'\times_S\underline{\mathrm{Grass}}_{n_l}(\mathcal E^{(l)})\xrightarrow{\ \Psi'\times\mathrm{id}\ }\mathcal P(\mathcal W')\times_S\underline{\mathrm{Grass}}_{n_l}(\mathcal E^{(l)})\xrightarrow{\ \mathrm{id}\times\pi_{\mathcal E^{(l)}}\ }\mathcal P(\mathcal W')\times_S\mathcal P(\mathcal L_l)\xrightarrow{\ \sigma_{\mathcal W',\mathcal L_l}\ }\mathcal P(\mathcal W)$$
はじめの二つは、帰納法の仮定と引用する事実の 3 と上の補題(閉はめ込みの積)により閉はめ込みで、最後の Segre 射は引用する事実の 3 により閉はめ込みである。合成は引用する事実の 4 の (c) により閉はめ込みである。
段 4(合成は $\Psi$).段 3 の合成は $T$ 点 $((q_j)_{j< l},q_l)$ を、$(\bigwedge^{n_1}q_1\otimes\dots\otimes\bigwedge^{n_{l-1}}q_{l-1})\otimes\bigwedge^{n_l}q_l$ を標準同型で移し替えた商の類に送る。これは括弧の付け方を含めて (1) の商と同じである(標準同型の両立は段 1 と同じ)。段 1 の一意性により合成は $\Psi$ に等しく、$\Psi$ は閉はめ込みである。
$l=2$ で $n_1=n_2=1$ なら $\Psi$ は Segre 射そのもので、補題は本書『3-2 閉はめ込み定理』の主結果の言い直しである。補題の意味は、どれだけ多くの Grassmann 束の積でも、ただ一つの射影束に閉はめ込めることにある。
旗束は Grassmann 束の積に閉はめ込まれる(引用する事実の 1)ので、上の補題を前に合成すれば射影束に入る。行き先の加群が、原論文の印字の $\mathcal E$ のテンソル積ではなく、成分の外積のテンソル積になる。
$\mathcal E$ を有限表示の $\mathcal O_S$ 加群、$m=(m_1,\dots,m_p)$ を $0$ 以上の整数の増加列とし、$F=\underline{\mathrm{Drap}}_m(\mathcal E)$ とする。
(1) $S$ 射 $\Phi_m\colon F\to\mathcal P(\mathcal W_m)$ で、$T$ 点の旗(成分の代表 $q_1,\dots,q_p$)を、$\bigwedge^{m_1}q_1\otimes\dots\otimes\bigwedge^{m_p}q_p$ を逆像の標準同型で移し替えた可逆な商の類に送るものが、ただ一つある。$\Phi_m$ は閉はめ込みで、したがって $F$ は $\mathcal P(\mathcal W_m)$ のある閉部分空間と $S$ 上同型である。
(2) 上の補題(テンソル冪から外積への全射)の全射 $\mu_m\colon\mathcal T_m\to\mathcal W_m$ から来る射 $\mathcal P(\mathcal W_m)\to\mathcal P(\mathcal T_m)$($T$ 点で可逆な商 $r$ を $r\circ(\mu_m)_{(T)}$ の類に送る)は閉はめ込みで、それと $\Phi_m$ の合成 $F\to\mathcal P(\mathcal T_m)$ も閉はめ込みである。したがって $F$ は、$\mathcal E$ の $|m|=m_1+\dots+m_p$ 個のテンソル積 $\mathcal T_m$ の射影束のある閉部分空間と $S$ 上同型である。
(3) $p=0$ なら $F$、$\mathcal P(\mathcal W_m)$、$\mathcal P(\mathcal T_m)$ はどれも $S$ で、二つの射は恒等射である。
段 1((1)).引用する事実の 1 により、旗を成分の列に送る射 $u\colon F\to G=\prod_i\underline{\mathrm{Grass}}_{m_i}(\mathcal E)$ は閉はめ込みである。上の補題(Grassmann 束の積の射影束への閉はめ込み)を $l=p$、$\mathcal E^{(i)}=\mathcal E$、$n_i=m_i$ で当てると、$\mathcal W=\mathcal W_m$ で、閉はめ込み $\Psi\colon G\to\mathcal P(\mathcal W_m)$ を得る。$\Phi_m=\Psi\circ u$ とおくと、引用する事実の 4 の (c) により閉はめ込みである。$u$ は $T$ 点の上で旗を成分の列に送る(本書『2-1 旗の関手と標準の写像』の主結果「標準の写像の関手性」の (b))ので、$\Phi_m$ は (1) の式で与えられ、一意性は本書『0-4 表現可能性の判定法』の定理「点の関手の充満忠実性」による。閉はめ込みの定義(引用する事実の 4 の最後の文)により、$\Phi_m$ は $F$ から $\mathcal P(\mathcal W_m)$ のある閉部分空間 $Z(\mathcal J)$ への同型と包含の合成である。$Z(\mathcal J)$ に構造射の制限を与えれば、包含と $\Phi_m$ は $S$ 射なので、この同型も $S$ 射である。
段 2((2)).上の補題(テンソル冪から外積への全射)の (2) により、$\mu_m$ は有限表示の加群の間の全射である。引用する事実の 1 の後半を $m=(1)$ で当てると、$\mu_m$ から来る射 $\mathcal P(\mathcal W_m)\to\mathcal P(\mathcal T_m)$ は閉はめ込みである。合成は引用する事実の 4 の (c) により閉はめ込みで、段 1 の最後と同じく $S$ 上の同型を得る。
段 3((3)).$p=0$ なら、本書『2-3 旗束の存在定理』の主結果「旗束の存在定理」により $F=S$ で、定義により $\mathcal W_m=\mathcal T_m=\mathcal O_S$、$\mu_m$ は空のテンソル積として $\mathcal O_S$ の恒等射である。引用する事実の 5 により $\mathcal P(\mathcal O_S)=S$ で、$S$ から $S$ への $S$ 射は恒等射だけである。
証明に使ったのは、原論文の命題 2.2 の四つの射、すなわち成分への射(引用する事実の 1 の前半)、Plücker 射、Segre 射、全射から来る射(同じ事実の後半)のすべてと、閉はめ込みが合成と積で保たれることである。原論文の「(2.2) を使えば」は、この合成を指すと読める。ただし合成の途中には、Grassmann 束と射影束の混じった積の空間が現れ、その存在(引用する事実の 2 の (1))と、閉はめ込みの積が閉はめ込みであること(上の補題(閉はめ込みの積))が要る。原論文はどちらも述べない。$T$ 点で見ると、$\Phi_m$ は旗の成分ごとに Plücker 座標をとり、それらの積をとる写像である。
ここでの「分離的」は、底の位相空間が Hausdorff であることをいう。本書『2-3 旗束の存在定理』の例「成分が一つ以下の旗と同じ階数が続く旗」が示した「対角射が閉はめ込み」という関手的な性質とは別のものだが、下の証明はその性質を、射影束の積の位相の計算と組み合わせて Hausdorff 性に移す。
$S$ を分離的な解析空間とする。
(1) 有限表示の $\mathcal O_S$ 加群 $\mathcal E^{(1)},\dots,\mathcal E^{(l)}$($l\ge0$)と整数 $n_j\ge0$ について、$G=\prod_j\underline{\mathrm{Grass}}_{n_j}(\mathcal E^{(j)})$ は分離的である。有限表示の $\mathcal E$ と増加列 $m$ について、旗束 $\underline{\mathrm{Drap}}_m(\mathcal E)$ も分離的である。
(2) 分離的な $S$ 上の解析空間だけからなる $(\mathrm{An})_{/S}$ の充満部分圏に関手を制限しても、(1) の空間がそれを表す。したがって旗束と Grassmann 束の積の存在、本書『3-2 閉はめ込み定理』の主結果「閉はめ込み定理」の四つの閉はめ込み、上の主結果(旗束の射影束への閉はめ込み(訂正形))は、分離的な解析空間だけの圏でも成り立つ。
段 1(底の上での局所化).$X$ を $G$ または旗束、$p_X$ を構造射とする。$S$ の各点 $s$ が開近傍 $S_\alpha$ で $p_X^{-1}(S_\alpha)$ が分離的なものをもてば、$X$ は分離的である。実際、$X$ の相異なる 2 点は、$S$ での像が違えば $S$ の交わらない開集合の逆像で分かれ、像が同じ点 $s$ なら開集合 $p_X^{-1}(S_\alpha)$ の中で分かれる。本書『3-2 閉はめ込み定理』の補題「底の開集合への制限」の (1) と本書『2-2 Grassmann 束の存在』の主結果「旗の関手の局所性」の (2) により、$p_X^{-1}(S_\alpha)$ は加群を $S_\alpha$ に制限した同じ形の空間と $S_\alpha$ 上同型で、$S_\alpha$ も分離的である。
段 2(自由な加群の射影束への帰着).各 $\mathcal E^{(j)}$ は有限型なので、$s$ の開近傍 $S_\alpha$ を小さくとって、全射 $\mathcal O_{S_\alpha}^{a_j}\to\mathcal E^{(j)}|_{S_\alpha}$ があるとしてよい。段 1 により、$S=S_\alpha$ としてこの場合に示せばよい。$\bigwedge^{n_j}$ と全射のテンソル積は全射を保つ(本書『0-2 環付き空間の上の加群』の定理「逆像と加群の演算」の (3))ので、全射 $\mathcal Q=\bigwedge^{n_1}\mathcal O_S^{a_1}\otimes\dots\otimes\bigwedge^{n_l}\mathcal O_S^{a_l}\to\mathcal W$($\mathcal W$ は上の補題(Grassmann 束の積の射影束への閉はめ込み)のもの)がある。その補題と引用する事実の 1 の後半($m=(1)$)により、閉はめ込み $G\to\mathcal P(\mathcal W)\to\mathcal P(\mathcal Q)$ を得る。旗束は引用する事実の 1 により $G$($\mathcal E^{(i)}=\mathcal E$、$n_i=m_i$)に閉はめ込まれる。閉はめ込みの底の写像は閉集合への同相(引用する事実の 4 の (f))で、分離的な空間の部分空間は分離的なので、$P=\mathcal P(\mathcal Q)$ が分離的なら足りる。$\mathcal Q$ は、基底のテンソル積を基底とする有限階数の自由加群である。実際、基底を送る射 $\mathcal O_S^M\to\mathcal Q$($M=\prod_j\binom{a_j}{n_j}$)は、各点の茎の上で本書『0-2 環付き空間の上の加群』の補題「可換環の上のテンソル積と外積」の (4) の同型なので同型で、同じ頁の補題「茎による計算」の (2)(3) によりもとの射も同型である。基底を $f_1,\dots,f_M$ とする。$M=0$ なら $P=\mathcal P(0)=\emptyset$(本書『4-1 射影束の規約と底変換とファイバー』の主結果「商環の射影束」の (3))で分離的なので、$M\ge1$ とする。
段 3(標準の開集合).$1\le i\le M$ について、引用する事実の 6 を $n=1$、$\mathcal E'=\mathcal O_Sf_i$、$\mathcal E''=\bigoplus_{i'\ne i}\mathcal O_Sf_{i'}$ で当てると、$f_i$ の像が商を生成する可逆な商の部分関手は開部分空間 $X_i\subset P$ で表され、$X_i$ は $T\mapsto\mathrm{Hom}(\mathcal O_T^{M-1},\mathcal O_T)=\Gamma(T,\mathcal O_T)^{M-1}$(本書『0-2 環付き空間の上の加群』の補題「茎による計算」の (4))を表す。引用する事実の 7 により $X_i$ は $S\times E^{M-1}$ と $S$ 上同型で、$X_i$ の点は $S\times k^{M-1}$ と一対一、位相は積位相で、構造射は第 1 成分への射影である。$X_i$ は引用する事実の 2 の (2) の $F_{\{i\}}$(生成族 $(f_i)$、$n=1$)と同じ部分関手を表すので、$X_1,\dots,X_M$ は $P$ を覆う。
段 4(対角).$Y=P\times_SP$ は引用する事実の 2 の (1) により存在する。本書『2-3 旗束の存在定理』の例「成分が一つ以下の旗と同じ階数が続く旗」の (c) により、対角射 $\Delta\colon P\to Y$ は閉はめ込みで、引用する事実の 4 の (f) により $\Delta(P)$ は $Y$ の閉集合である。
段 5($Y$ の位相).解析空間 $X$ の底の位相空間を $|X|$ と書き、$|P|\times_{|S|}|P|$ を位相空間のファイバー積、すなわち積空間 $|P|\times|P|$ の部分空間 $\{(y,y'):p_P(y)=p_P(y')\}$ とする。$\varphi\colon|Y|\to|P|\times_{|S|}|P|$ を $\varphi(z)=(\mathrm{pr}_1(z),\mathrm{pr}_2(z))$ で定める。$\varphi$ は連続で、本書『4-1 射影束の規約と底変換とファイバー』の補題「一点の空間からの射と点」の (3) により全単射である。$W_{ij}=\mathrm{pr}_1^{-1}(X_i)\cap\mathrm{pr}_2^{-1}(X_j)$ は $Y$ の開集合で、本書『0-3 解析空間と数空間』の命題「開はめ込みの底変換と非交和」の (1) により、その開部分空間は $X_i$ の $T$ 点と $X_j$ の $T$ 点の組、すなわち $\Gamma(T,\mathcal O_T)^{M-1}\times\Gamma(T,\mathcal O_T)^{M-1}=\Gamma(T,\mathcal O_T)^{2M-2}$ を表す。引用する事実の 7 により $W_{ij}$ は $S\times E^{2M-2}$ と $S$ 上同型で、その点は $S\times k^{M-1}\times k^{M-1}$ と一対一、位相は積位相である。点は一点 $e$ からの射で読めるので(本書『4-1 射影束の規約と底変換とファイバー』の補題「一点の空間からの射と点」の (1))、$\mathrm{pr}_1$、$\mathrm{pr}_2$ は点の上で $(s,a,b)\mapsto(s,a)$、$(s,b)$ である。ゆえに $\varphi$ は $W_{ij}=\varphi^{-1}(|X_i|\times_{|S|}|X_j|)$ を、$|P|\times_{|S|}|P|$ の開集合 $|X_i|\times_{|S|}|X_j|$ の上へ同相に写す($(s,a,b)\mapsto((s,a),(s,b))$ とその逆 $((s,a),(s,b))\mapsto(s,a,b)$ はどちらも連続)。これらの開集合は $|P|\times_{|S|}|P|$ を覆うので、連続な全単射 $\varphi$ は同相である。
段 6(結論).$y\ne y'$ を $P$ の 2 点とする。$p_P(y)\ne p_P(y')$ なら $S$ の交わらない開集合の逆像で分かれる。$p_P(y)=p_P(y')$ なら、$(y,y')$ は $|P|\times_{|S|}|P|$ の点で、対角集合 $\{(z,z)\}=\varphi(\Delta(P))$(段 4・段 5 により閉)に入らない。ゆえに $y$、$y'$ の開近傍 $U$、$U'$ で $(U\times U')\cap(|P|\times_{|S|}|P|)$ が対角集合と交わらないものがある。$z\in U\cap U'$ なら $(z,z)$ はそこに入るので、$U\cap U'=\emptyset$ である。ゆえに $P$ は分離的で、段 1・段 2 により (1) が示された。$l=0$ なら $G=S$ である。
段 7((2)).分離的な空間の全体は $(\mathrm{An})_{/S}$ の充満部分圏なので、表す空間が分離的なら、関手を分離的な $T$ に制限したものも同じ空間が表す($\mathrm{Hom}_S(T,X)$ は同じ集合である)。(2) に現れる空間は、旗束、Grassmann 束の積、射影束($m=(1)$ の旗束)なので (1) により分離的で、射は同じものである。
証明の要は段 4 と段 5 である。対角射が閉はめ込みであることは、それだけでは底の位相の分離性を与えない。対角の台が $|P\times_SP|$ の閉集合であっても、$|P\times_SP|$ の位相が積の位相と比べられなければ、2 点を開集合で分けることには翻訳できないからである。$P\times_SP$ の台が位相空間のファイバー積であること(段 5)を、標準の開集合が数空間と底の積であることから示して、はじめて対角集合が閉であることが Hausdorff 性に翻訳される。第 9 巻の判定法「開部分関手で覆われる局所的な関手の表現可能性」は分離的な読みでは一般に偽だが(第 9 巻『表現可能関手の一般形式』の頁『4-2 局所的な関手の表現可能性』の反例「反例:分離的な読みでは局所的な関手の判定が崩れる」)、上の命題により、本書の存在定理の結論はその読みでも成り立つ。存在の証明は分離的でない空間の圏を通るが、得られる空間が分離的であることを後から確かめたことになる。ベクトル束の側は本書『1-1 双対規約のベクトル束とその存在』の注意「足した仮定の効き方と分離的な読み」で扱った。本書『0-4 表現可能性の判定法』の命題「分離的な読みでの底の開被覆による判定」を使えば、段 2 の局所的な場合から分離的な読みでの表現可能性だけは直接得られるが、表す空間が $(\mathrm{An})$ の旗束と同じものであることは段 1 の議論で見るのが早い。
まず原論文の印字の形を二つの例で破る。次に訂正形の境界の場合を確かめ、最後に訂正形の最初の本格的な場合を座標で見る。
取り替えるのは射影束に取る加群で、訂正形の $\mathcal W_m$ や $\mathcal T_m$ の代わりに、原論文の印字どおり $\mathcal E$ の $p$ 個のテンソル積 $\mathcal E^{\otimes p}$ を使う。このとき「旗束は $\mathcal P(\mathcal E^{\otimes p})$ の閉部分空間に同型」という結論が破れる。どちらの例も $S=e$、$p=1$ で、$\mathcal E^{\otimes1}=\mathcal E$ である。
(a) $\mathcal E=0$、$m=(0)$ とする。$\mathbf{Grass}_0(0)$ はどの $T$ でも一点をとる(本書『2-1 旗の関手と標準の写像』の例「階数零と空の列と零の加群の旗」の (a))ので、旗束は $(\mathrm{An})_{/e}=(\mathrm{An})$ の終対象 $e$ である(本書『0-3 解析空間と数空間』の補題「一点の解析空間と終対象」の (2))。一方、$e$ から $\mathcal P(0)$ への射は $\mathbf P(0)(e)$ の元に当たり、空でない空間の上では $0$ の可逆な商は無い(同じ例の (c))ので、そのような射は無い。とくに $e$ は $\mathcal P(0)$ のどの閉部分空間とも同型でない。訂正形では $\mathcal W_{(0)}=\bigwedge^00=\mathcal O_e$、$\mathcal T_{(0)}=\mathcal O_e$ で、$\mathcal P(\mathcal O_e)=e$ となり成り立つ。この例は定義だけで閉じ、空でないどの $S$ でも同じである。
(b) $\mathcal E=\mathcal O_e^4=k^4$(基底 $f_1,\dots,f_4$)、$m=(2)$ とし、旗束 $X=\underline{\mathrm{Grass}}_2(k^4)$ が $P=\mathcal P(k^4)$ のある閉部分空間 $Z$ と同型だとする。解析空間の点 $y$ で $\tau(y)=\dim_k\mathfrak m_y/\mathfrak m_y^2$ とおく。同型と開部分空間は局所環を変えないので $\tau$ を保つ。$Z=Z(\mathcal J)$ の点では局所環は $\mathcal O_{P,y}/\mathcal J_y$ で、極大イデアルは $\mathfrak m_y$ の像なので、$\tau_Z(y)\le\tau_P(y)$ である。数空間 $E^d$ の点 $a$ では $\tau(a)=d$ である。実際、$\mathfrak m_a$ は $w_i=z_i-a_i$ で生成される(本書『0-3 解析空間と数空間』の補題「点の部分空間の存在」の (2))ので $\tau(a)\le d$ で、一方 $\mathfrak m_a^2$ の元は定数項の無い収束冪級数の積の和なので一次の項をもたず、収束冪級数に $w_i$ の係数を対応させる $k$ 線形写像は $\mathfrak m_a^2$ の上で $0$、$w_j$ の上で $\delta_{ij}$ である。ゆえに $w_1,\dots,w_d$ の類は一次独立で、$\tau(a)=d$ である。
$P$ の点はどれも、上の命題(分離的な読みでの旗束と Grassmann 束)の証明の段 3 の開部分空間 $X_i$ に入り、$X_i$ は $\Gamma^3$ を表すので $E^3$ と同型である(引用する事実の 7)。ゆえに $P$ の点では $\tau=3$ である。$X$ では、引用する事実の 6 を $\mathcal E'=kf_1\oplus kf_2$、$\mathcal E''=kf_3\oplus kf_4$ で当てると、開部分空間 $X'$ は $\mathrm{Hom}(\mathcal O_T^2,\mathcal O_T^2)=\Gamma(T,\mathcal O_T)^4$(本書『0-2 環付き空間の上の加群』の補題「茎による計算」の (4))を表すので $E^4$ と同型で、その点では $\tau=4$ である。$X'$ は点をもつ($u=0$ に当たる $e$ 点。$X'$ を表す関手は $u\colon\mathcal E''\to\mathcal E'$ の像を許すので $u=0$ もその値であり、本書『4-1 射影束の規約と底変換とファイバー』の補題「一点の空間からの射と点」の (1) により $e$ 点は点である)。$X'$ の点の $Z$ での像を $y$ とすると $4=\tau_Z(y)\le\tau_P(y)=3$ となり、矛盾する。この例は、空間の存在と数空間との同一視を通して連作第 III 回の定理(本書『0-3 解析空間と数空間』の定理「数空間への射と大域関数」)に依る。訂正形の $\mathcal P(\bigwedge^2k^4)$ では点の $\tau$ は $5$ で、矛盾は起きない(下の例「四次元空間の二次元の商と Plücker の二次式」)。
(a) は旗束が点をもつのに印字の射影束が点をもたない例で、(b) は点の数では比べられない場合に、局所環の太さで比べる例である。どちらも $|m|\ne p$ で、上の注意(原論文の注意 2.5 の印字)の (4) のとおり、$|m|=p$ の型では印字の形も正しい。
$\mathcal E$ を有限表示の $\mathcal O_S$ 加群とする。
(a) $p=0$ なら、上の主結果の (3) のとおり両辺は $S$ で、閉はめ込みは恒等射である。これは本書『4-1 射影束の規約と底変換とファイバー』の主結果「商環の射影束」の (3) の $\mathcal P(\mathcal O_S)=S$ による。
(b) $m_i=0$ の成分は、$\bigwedge^0\mathcal E=\mathcal E^{\otimes0}=\mathcal O_S$ の因子と、$\underline{\mathrm{Grass}}_0(\mathcal E)=S$ の因子を与え、Plücker 射は恒等射である(本書『3-1 Plücker 射の局所計算』の主結果「Plücker 射の標準の開集合での計算」の (5))。上の反例の (a) の $\mathcal E=0$、$m=(0)$ では、訂正形は $e\to\mathcal P(\mathcal O_e)=e$ の恒等射である。
(c) $m=(1,\dots,1)$($p$ 個)なら、同じ階数が続く旗は成分がすべて等しく(本書『2-1 旗の関手と標準の写像』の例「階数零と空の列と零の加群の旗」の (d))、旗束は第 1 成分で $\mathcal P(\mathcal E)$ と同型である。$\mathcal W_m=\mathcal T_m=\mathcal E^{\otimes p}$、$\mu_m$ は恒等射で、$\Phi_m$ は可逆な商 $q$ を $q\otimes\dots\otimes q$ の類に送る。$S=e$、$\mathcal E=k^r$ なら、超平面 $\mathrm{Ker}\,\lambda$ を $\mathrm{Ker}(\lambda\otimes\dots\otimes\lambda)$ に送る射である。ここでは印字の形も正しい。
(d) $\mathcal E=0$ で、ある $m_i\ge1$ なら、旗束は空(本書『2-2 Grassmann 束の存在』の例「生成切断が足りない所の Grassmann 束は空」と引用する事実の 1)で、$\bigwedge^{m_i}0=0$ なので $\mathcal W_m=0$、$\mathcal P(0)=\emptyset$ である。空の閉はめ込みで、主結果と合う。
$S=e$、$\mathcal E=k^4$(基底 $f_1,\dots,f_4$)、$m=(2)$ とする。主結果の $\Phi_{(2)}$ は Plücker 射 $\underline{\mathrm{Grass}}_2(k^4)\to\mathcal P(\bigwedge^2k^4)$ である。$\mathcal E'=kf_1\oplus kf_2$、$\mathcal E''=kf_3\oplus kf_4$ として本書『3-1 Plücker 射の局所計算』の主結果「Plücker 射の標準の開集合での計算」を当てる。$u(f_3)=af_1+cf_2$、$u(f_4)=bf_1+df_2$ とすると、同じ頁の主結果「外積の成分の射の計算」により、$\bigwedge^2\rho_u$ は $\omega=f_1\wedge f_2$ を単位として $f_1\wedge f_2\mapsto1$、$f_1\wedge f_3\mapsto c$、$f_1\wedge f_4\mapsto d$、$f_2\wedge f_3\mapsto-a$、$f_2\wedge f_4\mapsto-b$、$f_3\wedge f_4\mapsto ad-bc$ となる一次形式である。その値を $w_{ij}$($f_i\wedge f_j$ での値)と書くと、開部分空間 $Y'$($w_{12}$ が可逆な所)は座標 $(w_{13},w_{14},w_{23},w_{24},w_{34})$ の $E^5$ で、像は
$$w_{12}w_{34}-w_{13}w_{24}+w_{14}w_{23}=0\qquad(w_{12}=1)$$
の零点の部分空間、すなわち $\mathbf V_P\cong E^4$ から $\mathbf V_Q\cong E^1$ への行列式の射のグラフである(同じ頁の補題「ベクトル束への射のグラフ」の (2))。実際、値を代入すると $(ad-bc)-c(-b)+d(-a)=0$ である。古典的な Plücker の二次式で、上の反例の (b) の $\tau$ はここで $4\le5$ となる。本書は一つの標準の開集合でだけ計算した。
以下は後代の文献の紹介である(本書は文献を開いて該当箇所を確かめていない)。
本頁が対応する原論文は Gro61v である。印字頁は PDF の頁番号から 1 を引いたもの(PDF $n$ が印字 12-$(n-1)$)である。
| 本頁 | 原論文 | 印字頁 |
|---|---|---|
| 背景と動機、主結果「旗束の射影束への閉はめ込み(訂正形)」、注意「原論文の注意 2.5 の印字」、反例「反例:テンソル積の個数を印字どおりにすると閉はめ込みが無い」 | 注意 2.5 | 12-10 |
| 補題「Grassmann 束の積の射影束への閉はめ込み」「閉はめ込みの積」 | 命題 2.2 とその前の空間の射の列、§3 の Plücker 射と Segre 射の段 | 12-09、12-12 |
| 定義「外積のテンソル積とテンソル冪」の後の段落 | 2.4 と 2.5 の記号 $\mathcal V$ | 12-10 |
| 命題「分離的な読みでの旗束と Grassmann 束」 | §3 冒頭(第 IV 回の 5.6・5.7 による存在の証明) | 12-10〜12-11 |
| 例「四次元空間の二次元の商と Plücker の二次式」 | §3 の Plücker 射の計算段 | 12-13〜12-14 |
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