行列のn乗と割り算の余り(matrix powers via polynomial remainders)とは、2 次正方行列 $A$ の $n$ 乗を、$t^n$ を固有多項式 $\chi_A(t)=t^2-(\operatorname{tr}A)t+\det A$ で割った余り $r_nt+s_n$ から $A^n=r_nA+s_nE$ と求める方法である。根拠は 2 次の Cayley–Hamilton の定理 $\chi_A(A)=O$ である。余りの係数は固有多項式の解を代入して求まり、重解のときは微分した式も使う。三項間漸化式 $a_{n+2}=pa_{n+1}+qa_n$($q\ne0$)では $a_n=r_na_1+s_na_0$ となり、$r_n$ は同じ漸化式を初期値 $0,1$ で解いた数列である。
前提知識: 漸化式の行列表示, 多項式の割り算, 因数定理, 微分係数と導関数の定義(高校数学)
高校では、「$x^n$ を 2 次式で割った余り」を、割る式の解を代入して求める。
$t^n$ を $t^2-3t+2=(t-1)(t-2)$ で割った余りを求める。割る式が 2 次なので、余りは 1 次以下で $r_nt+s_n$ と書け、
$$
t^n=Q(t)(t-1)(t-2)+r_nt+s_n
$$
となる($Q(t)$ は商)。$t=1$ を代入すると $1=r_n+s_n$、$t=2$ を代入すると $2^n=2r_n+s_n$ である。2 式を引いて $r_n=2^n-1$、すると $s_n=1-r_n=2-2^n$ である。たとえば $n=5$ で、$t^5$ を $t^2-3t+2$ で割った余りは $31t-30$ である。
この計算は、行列の $n$ 乗の計算にそのまま使える。たとえば $M=\begin{pmatrix}3&-1\\2&0\end{pmatrix}$ について、この記事の結果から
$$
M^n=(2^n-1)M+(2-2^n)E
$$
が従う(ex-mpr-m2-power)。$M$ を $n$ 回掛けなくても、余りの係数を行列に代入するだけで $M^n$ が求まる。鍵になるのは、2 次正方行列 $A$ が自分の固有多項式を「満たす」という Cayley–Hamilton の定理(2 次の場合)である。
| 高校の計算 | 行列での意味 | ボックス |
|---|---|---|
| 多項式に数を代入する | 多項式に行列を代入する | def-mpr-subst |
| $t^n$ を 2 次式で割った余り $r_nt+s_n$ | $A^n=r_nA+s_nE$ | thm-mpr-cayley-hamilton |
| 余りの係数を解の代入で求める | 固有値での値を合わせる | prop-mpr-remainder |
| 重解では微分して代入する | 重解(Jordan 細胞)で $n\alpha^{n-1}$ が出る | prop-mpr-remainder |
行列の積・単位行列 $E$・冪・跡 $\operatorname{tr}$・行列式 $\det$・固有多項式 $\chi_A(t)=\det(tE-A)=t^2-(\operatorname{tr}A)t+\det A$、三項間漸化式のコンパニオン行列 $C=\begin{pmatrix}p&q\\1&0\end{pmatrix}$ と $v_n=\begin{pmatrix}a_{n+1}\\a_n\end{pmatrix}=C^nv_0$ は、漸化式の行列表示 のとおりとする。以下、数と言えば複素数とする。
多項式 $f(t)=f_0+f_1t+\cdots+f_mt^m$ と 2 次正方行列 $A$ に対し、
$$
f(A):=f_0E+f_1A+f_2A^2+\cdots+f_mA^m
$$
と定める(定数項 $f_0$ には単位行列 $E$ を掛ける)。
例の 2 は偶然ではない(thm-mpr-cayley-hamilton)。その前に、代入が計算の規則を保つことを確かめる。
多項式 $f(t),g(t)$ と 2 次正方行列 $A$ について
$$
(f+g)(A)=f(A)+g(A),\qquad (fg)(A)=f(A)\,g(A)
$$
が成り立つ。ここで $fg$ は多項式としての積である。
段 1(和):$f(t)+g(t)$ の $t^k$ の係数は $f_k+g_k$ なので、$(f+g)(A)=\sum_k(f_k+g_k)A^k=\sum_kf_kA^k+\sum_kg_kA^k=f(A)+g(A)$ である。
段 2(指数法則):すべての $i,j\ge0$ で $A^iA^j=A^{i+j}$ を、$j$ についての数学的帰納法で示す。$j=0$ では $A^iE=A^i$ である。$j$ で正しければ、冪の定義 $A^{j+1}=A^jA$ と結合法則により $A^iA^{j+1}=(A^iA^j)A=A^{i+j}A=A^{i+j+1}$ である。
段 3(積):$f(t)g(t)=\sum_{i,j}f_ig_j\,t^{i+j}$ なので、定義により $(fg)(A)=\sum_{i,j}f_ig_j\,A^{i+j}$ である。一方、分配法則で展開すると
$$
f(A)\,g(A)=\Bigl(\sum_if_iA^i\Bigr)\Bigl(\sum_jg_jA^j\Bigr)=\sum_{i,j}f_ig_j\,A^iA^j
$$
である(数 $f_i,g_j$ は行列の積のどの位置にあっても前に出せる)。段 2 により $A^iA^j=A^{i+j}$ なので、両者は等しい。$\square$
段 3 で、$f$ と $g$ に同じ行列 $A$ を代入していることが大切である。違う行列を代入すると、積の順序が入れ替えられず、展開の公式が崩れることがある(ex-mpr-noncommuting)。
任意の 2 次正方行列 $A$ について
$$
\chi_A(A)=A^2-(\operatorname{tr}A)A+(\det A)E=O
$$
である。したがって、多項式 $f(t)$ を $\chi_A(t)$ で割った余りを $r(t)$ とすると、$f(A)=r(A)$ である。
段 1(前半):$A=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}$ とすると
$$
A^2=\begin{pmatrix}a^2+bc&ab+bd\\ca+dc&cb+d^2\end{pmatrix},\qquad (a+d)A=\begin{pmatrix}a^2+ad&ab+bd\\ac+dc&ad+d^2\end{pmatrix}
$$
である。引き算すると
$$
A^2-(a+d)A=\begin{pmatrix}bc-ad&0\\0&bc-ad\end{pmatrix}=-(ad-bc)E=-(\det A)E
$$
となる。移項して $A^2-(\operatorname{tr}A)A+(\det A)E=O$ を得る。
段 2(後半):多項式の割り算により $f(t)=Q(t)\chi_A(t)+r(t)$ と書ける($Q(t)$ は商)。prop-mpr-subst-hom により両辺に $A$ を代入してよく、
$$
f(A)=Q(A)\,\chi_A(A)+r(A)=Q(A)\,O+r(A)=r(A)
$$
である。$\square$
$A=\begin{pmatrix}1&2\\3&4\end{pmatrix}$ では $\operatorname{tr}A=5$、$\det A=4-6=-2$ で、ex-mpr-subst の $A^2=\begin{pmatrix}7&10\\15&22\end{pmatrix}$ を使うと
$$
A^2-5A-2E=\begin{pmatrix}7-5-2&10-10-0\\15-15-0&22-20-2\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0&0\\0&0\end{pmatrix}
$$
である。ex-mpr-subst の 2 の $M$ も、$g(M)=\chi_M(M)=O$ であった。
$M=\begin{pmatrix}3&-1\\2&0\end{pmatrix}$ の固有多項式は $\chi_M(t)=t^2-3t+2$ である。ex-mpr-remainder-hs により $t^n$ をこれで割った余りは $(2^n-1)t+(2-2^n)$ なので、thm-mpr-cayley-hamilton により
$$
M^n=(2^n-1)M+(2-2^n)E
$$
である。$n=5$ では $M^5=31M-30E=\begin{pmatrix}93-30&-31\\62&-30\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}63&-31\\62&-30\end{pmatrix}$ で、$M$ を 5 回掛けた結果と一致する。
コンパニオン行列 $C$ では $\chi_C(t)=t^2-pt-q$ である(漸化式の行列表示)。thm-mpr-cayley-hamilton を $C$ に当てはめると、漸化式の一般項が余りの係数で書ける。
$q\ne0$ とし、$t^n$ を $t^2-pt-q$ で割った余りを $r_nt+s_n$ とする。漸化式 $a_{n+2}=pa_{n+1}+qa_n$ のコンパニオン行列 $C$ と、どの解 $(a_n)$ についても、すべての $n\ge0$ で
$$
C^n=r_nC+s_nE,\qquad a_n=r_na_1+s_na_0
$$
である。
段 1:thm-mpr-cayley-hamilton を $A=C$、$f(t)=t^n$ として使う。$\chi_C(t)=t^2-pt-q$ なので余りは $r(t)=r_nt+s_n$ で、$C^n=f(C)=r(C)=r_nC+s_nE$ である。
段 2:漸化式の行列表示 により $v_n=C^nv_0$、$v_1=Cv_0$ である。段 1 と、行列とベクトルの積の分配法則 $(X+Y)v=Xv+Yv$、$(cX)v=c(Xv)$(成分を計算すると分かる)から
$$
v_n=(r_nC+s_nE)v_0=r_n\,Cv_0+s_n\,Ev_0=r_nv_1+s_nv_0
$$
である。
段 3:$v_n=\begin{pmatrix}a_{n+1}\\a_n\end{pmatrix}$ の下の成分は $a_n$、$v_1$ の下の成分は $a_1$、$v_0$ の下の成分は $a_0$ である。段 2 の式の下の成分を比べて $a_n=r_na_1+s_na_0$ を得る。$\square$
つまり、$n$ 乗の計算は、$t^n$ を固有多項式で割った余りの計算に置き換わる。
$a_{n+2}=2a_{n+1}+3a_n$、$a_0=0$、$a_1=4$ のコンパニオン行列は $C=\begin{pmatrix}2&3\\1&0\end{pmatrix}$、$\chi_C(t)=t^2-2t-3=(t-3)(t+1)$ である。$t^5=Q(t)(t-3)(t+1)+r_5t+s_5$ に $t=3$、$t=-1$ を代入すると $243=3r_5+s_5$、$-1=-r_5+s_5$ で、引き算して $4r_5=244$、$r_5=61$、$s_5=60$ である。よって cor-mpr-recurrence により
$$
C^5=61C+60E=\begin{pmatrix}122+60&183\\61&60\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}182&183\\61&60\end{pmatrix}
$$
であり、$a_5=r_5a_1+s_5a_0=61\cdot4+0=244=3^5-(-1)^5$ である。
余りの係数 $r_n,s_n$ は、一般に次のように求まる。
$t^n$ を $t^2-pt-q$($q\ne0$)で割った余りを $r_nt+s_n$ とする。
割り算の式を $t^n=Q(t)(t-\alpha)(t-\beta)+r_nt+s_n$ と書く(重解では $\beta=\alpha$)。
段 1(異なる 2 解):$t=\alpha$、$t=\beta$ を代入すると、$(t-\alpha)(t-\beta)$ が $0$ になるので
$$
\alpha^n=r_n\alpha+s_n,\qquad \beta^n=r_n\beta+s_n
$$
である。引き算して $\alpha^n-\beta^n=r_n(\alpha-\beta)$、$\alpha\ne\beta$ なので $r_n=\frac{\alpha^n-\beta^n}{\alpha-\beta}$ である。2 つ目の式に戻すと
$$
s_n=\beta^n-r_n\beta=\frac{\beta^n(\alpha-\beta)-(\alpha^n-\beta^n)\beta}{\alpha-\beta}=\frac{\alpha\beta^n-\alpha^n\beta}{\alpha-\beta}
$$
である。
段 2(重解):$t^n-r_nt-s_n=Q(t)(t-\alpha)^2$ の両辺を $t$ で微分する(多項式の導関数。右辺は積の微分)。
$$
nt^{n-1}-r_n=Q'(t)(t-\alpha)^2+2Q(t)(t-\alpha).
$$
(高校の微分は実数の関数についてのものだが、多項式の微分は係数だけで決まる計算 $t^k\mapsto kt^{k-1}$ なので、$\alpha$ や係数が虚数のときも同じ計算で定義でき、積の微分の公式もそのまま成り立つ。$p,q$ が実数なら重解 $\alpha=\frac p2$ も実数である。)右辺は $t=\alpha$ で $0$ になる。したがって $t=\alpha$ を代入すると $n\alpha^{n-1}=r_n$ である。元の式に $t=\alpha$ を代入した $\alpha^n=r_n\alpha+s_n$ と合わせて、$s_n=\alpha^n-n\alpha^{n-1}\cdot\alpha=(1-n)\alpha^n$ である。
段 3(漸化式):$t^0=1$、$t^1=t$ はそのまま余りなので $r_0=0$、$s_0=1$、$r_1=1$、$s_1=0$ である。次に $t^{n+1}=t\cdot t^n$ を考える。$t^n=Q(t)(t^2-pt-q)+r_nt+s_n$ の両辺に $t$ を掛けると
$$
t^{n+1}=tQ(t)(t^2-pt-q)+r_nt^2+s_nt
$$
であり、$r_nt^2=r_n(t^2-pt-q)+r_npt+r_nq$ と書き直すと
$$
t^{n+1}=\bigl(tQ(t)+r_n\bigr)(t^2-pt-q)+(pr_n+s_n)\,t+qr_n
$$
となる。最後の $(pr_n+s_n)t+qr_n$ は 1 次以下なので、これが $t^{n+1}$ の余りである。よって $r_{n+1}=pr_n+s_n$、$s_{n+1}=qr_n$ である。1 つ目の式で $n$ を $n+1$ にして 2 つ目を代入すると $r_{n+2}=pr_{n+1}+s_{n+1}=pr_{n+1}+qr_n$ である。$\square$
段 2 は、重解のとき $t^n$ と余り $r_nt+s_n$ が $t=\alpha$ で値だけでなく微分係数まで一致しなければならない、ということである。その条件 $r_n=n\alpha^{n-1}$ から $n$ 倍が現れる。これは、Jordan 細胞の $n$ 乗の右上に現れる $n\alpha^{n-1}$(重解とJordan細胞)と同じものである。
$t^n$ を $(t-2)^2=t^2-4t+4$ で割った余りは、prop-mpr-remainder の 2 により $n2^{n-1}t+(1-n)2^n$ である。$n=3$ では $12t-16$ で、実際 $t^3=(t+4)(t^2-4t+4)+12t-16$(右辺を展開すると $t^3-4t^2+4t+4t^2-16t+16+12t-16=t^3$)である。$C=\begin{pmatrix}4&-4\\1&0\end{pmatrix}$(漸化式 $a_{n+2}=4a_{n+1}-4a_n$)では、$n=5$ の余り $80t-128$ から
$$
C^5=80C-128E=\begin{pmatrix}320-128&-320\\80&-128\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}192&-320\\80&-128\end{pmatrix}
$$
である。
prop-mpr-remainder の 3 を cor-mpr-recurrence と合わせると、$C^n$ は 1 つの数列 $r_n$ だけで書ける。
$q\ne0$ とし、$(r_n)$ を、漸化式 $r_{n+2}=pr_{n+1}+qr_n$ を初期値 $r_0=0$、$r_1=1$ で解いた数列とする。このとき $r_nt+qr_{n-1}$($n\ge1$)は $t^n$ を $t^2-pt-q$ で割った余りであり、漸化式 $a_{n+2}=pa_{n+1}+qa_n$ のコンパニオン行列 $C$ とどの解 $(a_n)$ についても、$n\ge1$ で
$$
C^n=r_nC+qr_{n-1}E,\qquad a_n=r_na_1+qr_{n-1}a_0
$$
である。
$t^n$ を $t^2-pt-q$ で割った余りを $r'_nt+s'_n$ とする。prop-mpr-remainder の 3 により、$r'_0=0$、$r'_1=1$、$r'_{n+2}=pr'_{n+1}+qr'_n$ である。$(r'_n)$ と $(r_n)$ は同じ漸化式を同じ初期値で解いた数列なので、2 項ずつ進む帰納法($r'_n=r_n$ かつ $r'_{n+1}=r_{n+1}$ を仮定すると $r'_{n+2}=pr'_{n+1}+qr'_n=pr_{n+1}+qr_n=r_{n+2}$)により、すべての $n$ で $r'_n=r_n$ である。さらに prop-mpr-remainder の 3 から $n\ge1$ で $s'_n=qr'_{n-1}=qr_{n-1}$ である。これを cor-mpr-recurrence に入れて主張を得る。$\square$
つまり、余りの 1 次の係数 $r_n$ は、元と同じ漸化式を初期値 $0,1$ で解いた数列である。
多項式を割った余りを根の値の代入で決める方法(重なった因数の場合を含む)は 剰余の定理と因数定理 で扱う。
Fibonacci数 の漸化式 $F_{n+2}=F_{n+1}+F_n$ では $p=q=1$ で、$F_0=0$、$F_1=1$ なので、cor-mpr-single の $r_n$ は $F_n$ である。よって $t^n$ の $t^2-t-1$ による余りは $F_nt+F_{n-1}$($n\ge1$)で、実際 $t^2,t^3,t^4,t^5$ の余りは $t+1$、$2t+1$、$3t+2$、$5t+3$ である。cor-mpr-single により、$C=\begin{pmatrix}1&1\\1&0\end{pmatrix}$ について、$n\ge1$ で
$$
C^n=F_nC+F_{n-1}E=\begin{pmatrix}F_n+F_{n-1}&F_n\\F_n&F_{n-1}\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}F_{n+1}&F_n\\F_n&F_{n-1}\end{pmatrix}
$$
である。$n=10$ では $t^{10}$ の余り $55t+34$ から $C^{10}=\begin{pmatrix}89&55\\55&34\end{pmatrix}$ である。行列式は積を保つ($\det(XY)=\det X\det Y$。2 次なら成分の計算で確かめられるが、本記事では計算を省く)ので、$\det C^n=(\det C)^n=(-1)^n$ から
$$
F_{n+1}F_{n-1}-F_n^2=(-1)^n
$$
を得る(Cassini の恒等式)。$n=10$ で $89\cdot34-55^2=3026-3025=1$ である。
$a_{n+2}=a_{n+1}-a_n$ のコンパニオン行列 $C=\begin{pmatrix}1&-1\\1&0\end{pmatrix}$ の固有多項式は $t^2-t+1$ である。$t^3+1=(t+1)(t^2-t+1)$ なので $t^3=(t+1)(t^2-t+1)-1$ であり、$t^3$ の余りは $-1$ である。thm-mpr-cayley-hamilton により $C^3=-E$、したがって $C^6=(C^3)^2=E$ である。すると $v_{n+6}=C^6v_n=v_n$ となり、どの解も 6 項ごとに同じ値をくり返す。たとえば $100=6\cdot16+4$ なので $C^{100}=(C^6)^{16}C^4=C^4=C^3C=-C$ である。
$C=\begin{pmatrix}2&1\\1&0\end{pmatrix}$(漸化式 $a_{n+2}=2a_{n+1}+a_n$)の固有多項式 $t^2-2t-1$ の解は $\alpha=1+\sqrt2$、$\beta=1-\sqrt2$ である。$T_n:=\operatorname{tr}(C^n)$ とおく。cor-mpr-recurrence の $C^n=r_nC+s_nE$ の跡をとると $T_n=r_n\operatorname{tr}C+2s_n=2r_n+2s_n$ である。一方、prop-mpr-remainder の証明の段 1 の 2 式 $\alpha^n=r_n\alpha+s_n$、$\beta^n=r_n\beta+s_n$ を足すと $\alpha^n+\beta^n=r_n(\alpha+\beta)+2s_n=2r_n+2s_n$ なので、
$$
T_n=(1+\sqrt2)^n+(1-\sqrt2)^n
$$
である。$r_n,s_n$ は $0,1,2,5,12,29,\dots$ と $1,0,1,2,5,12,\dots$ で整数なので、$T_n=2,2,6,14,34,82,\dots$ も整数である。$|1-\sqrt2|=\sqrt2-1<1$ なので、$(1+\sqrt2)^n=T_n-(1-\sqrt2)^n$ と整数 $T_n$ の差 $(\sqrt2-1)^n$ は、$n$ が大きくなると急速に小さくなる。$(1-\sqrt2)^n$ の符号が交互に変わるので、$(1+\sqrt2)^n$ は $n$ が偶数なら $T_n$ より小さく、奇数なら大きい。たとえば $(1+\sqrt2)^5=82.0121\ldots$、$(1+\sqrt2)^{10}=6725.99985\ldots$($T_{10}=6726$)、$(1+\sqrt2)^{20}=45239073.99999997\ldots$ である。
図1:1 たす根号 2 の n 乗と整数との差は、n が 1 増えるごとに約 0.414 倍になる
図 1 は差 $|(1+\sqrt2)^n-T_n|=(\sqrt2-1)^n$ を対数目盛で描いたものである。点が一直線に並ぶのは、差が $n$ が 1 増えるごとに $\sqrt2-1=0.414\ldots$ 倍になるからである。
| 外した仮定 | 崩れる結論 | ボックス |
|---|---|---|
| 割る式が $A$ の固有多項式 | $f(A)=r(A)$ | ex-mpr-wrong-divisor |
| 代入するのは 1 つの行列 | 多項式の展開の公式がそのまま使える | ex-mpr-noncommuting |
$C=\begin{pmatrix}2&3\\1&0\end{pmatrix}$(固有多項式 $t^2-2t-3$)について、$t^2$ を別の 2 次式 $t^2-t$ で割ると、$t^2=1\cdot(t^2-t)+t$ で余りは $t$ である。もし「余りを代入すればよい」が成り立つなら $C^2=C$ となるはずだが、$C^2=\begin{pmatrix}4+3&6\\2&3\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}7&6\\2&3\end{pmatrix}\ne C$ である。$C$ を代入して $O$ になるのは固有多項式 $t^2-2t-3$ であって、$t^2-t$ ではない($C^2-C=\begin{pmatrix}5&3\\1&3\end{pmatrix}\ne O$)。仮定「割る式を $A$ に代入すると $O$」が崩れると、結論も崩れる。
$A=\begin{pmatrix}1&2\\3&4\end{pmatrix}$、$B=\begin{pmatrix}0&1\\1&1\end{pmatrix}$ とする。数なら $(x+y)^2=x^2+2xy+y^2$ だが、行列では
$$
(A+B)^2=\begin{pmatrix}13&18\\24&37\end{pmatrix},\qquad A^2+2AB+B^2=\begin{pmatrix}12&17\\24&38\end{pmatrix}
$$
で等しくない。$(A+B)^2=A^2+AB+BA+B^2$ であり、$AB=\begin{pmatrix}2&3\\4&7\end{pmatrix}$ と $BA=\begin{pmatrix}3&4\\4&6\end{pmatrix}$ が等しくないため、差 $BA-AB=\begin{pmatrix}1&1\\0&-1\end{pmatrix}$ が残る。prop-mpr-subst-hom は、1 つの行列 $A$ の冪どうしが交換する($A^iA^j=A^jA^i=A^{i+j}$)から成り立つのである。
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