本書は、A. Grothendieck が 1958 年 6 月に Chevalley セミナー「Anneaux de Chow et applications」で行った講演「Torsion homologique et sections rationnelles」(exposé 5、29 頁)を道案内にして、代数群を構造群とする主束がいつ局所自明になるかを、旗多様体の Chow 環で測る理論を解説する参考書である。講演は、前の講演の交叉理論を使って、有限エタール被覆の上でしか自明にならない主束の障害を、旗多様体の Chow 環の中の特性部分環の指数という一つの整数(捩れ指数)に集約し、局所等自明な主束がすべて局所自明になる特別群を、アフィン・連結・捩れなしの三条件で特徴づけた。複素数体の上では、捩れ指数の素因子が分類空間の整係数コホモロジーの捩れと一致することも示した。 本書は翻訳ではない。可解群の等質空間、ファイバーの Chow 環、線形表現による有理切断、特性環と捩れ指数、ホモロジー的な捩れ、特別群、という主題ごとに六つの章を立て、現代の記号と言葉で書き直した。各頁は、その頁で示すこと、背景と動機、定義と準備、主結果と証明、例と反例、その後の発展、原論文との対応表の同じ形で書く。 原論文は「ただちに」「読者に委ねる」「よく知られている」で多くの段を済ませている。本書はその段を補って閉じ、第 1〜6 章の 71 個の主結果を、本書の中で証明し切れたもの(完結、1 件)、引用した事実に依るもの(条件付き、65 件)、証明を閉じられなかったもの(未完結、5 件)に分けて札で示す。札の基準は厳しく、代数群の構造論や交叉理論の古典的な定理、前の講演が与える Chow 環の性質を一つでも引けば条件付きとする。条件付きのうち 26 件は Chow 環の性質と古典的な定理だけで閉じ、7 件は古典的な定理だけで閉じることを札に書き分けた。原論文が証明なしに認めるサイクル類写像や未公刊の Bott の結果に依る部分は、引用として分けて述べる。原論文が黙って使う仮定は本書が足した仮定として明示した。印字のままでは成り立たない四つの主張は、反例を示し、正しい形に直して述べる。 読むには、線形代数群の構造(Borel 部分群と旗多様体)、主ファイバー空間とエタール射の初歩、Chow 環の基本的な性質が要る。Chow 環の性質は同じシリーズの『交叉理論の基本性質』で証明したものを引き、頁ごとの対応表を付けた。代数群の基礎は同じシリーズの『アフィン代数群と可換アフィン代数群』の結果を引く。原論文と同じく、空間は代数的閉体の点の集合として扱う。要点は第 0 章に、読む順序の案は「本書の読み方」に、記号と本書が足した仮定は「記号と約束」にまとめた。
本書を読むのに要る分野を一覧にし、要点と本書での使いどころを添える章である。線形代数群の構造、Borel 部分群と旗多様体、単冪群と可解群、Rosenlicht の局所切断、半単純群の Bruhat 分解(0-2)、主ファイバー空間と付随束、局所自明と局所等自明、構造群の簡約、有限エタール被覆、連接層の基本(0-3)、同じセミナーの前の講演が与える Chow 環の性質と、それを示した第 6 巻の頁との対応(0-4)の順に並べる。原論文は 1958 年の講演で、スキームの言葉を使わず、代数的閉体の点の集合として空間を扱う。本書もこの枠組みで読む。頁ごとの前提の対応表と読む順序は 0-1 に、記号、本書が足した仮定、原論文の引き方と誤植の読み方、状態札の意味は 0-5 にまとめる。
原論文 §1 に当たり、連結な単冪群を構造群とする主束と、連結可解群の等質空間の形を扱う章である。1-1 は、アフィンな底の上の局所自明な主束が自明であることを、単冪群の正規列による帰納法と、底のアフィン性による構造層の 1 次コホモロジーの消滅で示す。原論文の帰納法は順序を入れ替えないと通らないので、先に商の束を自明化する形に直した。原論文が付言する「群が連結でなくてもよい」は、底が可約だと破れる。二つの曲線が 2 点で交わる底での反例を示し、底が既約なら正しいという形に直した。1-2 は、可解群を閉連結部分群で割った空間が、アフィン空間とトーラスの積に同型であることを示す。これは第 4 章で、Borel 部分群の間の引き戻しが全射であることに使われる。
原論文 §2 に当たり、ファイバー空間の全空間の Chow 環から一つのファイバーの Chow 環への制限を調べる章である。前の講演の交叉理論を仮定として使う。2-1 は、束が点で局所自明なら制限が全射であり、束が固有なら底の Chow 環が全空間の Chow 環の直和因子になることを示す。固有性を外せないことは、零切断を除いた直線束で確かめる。2-2 は、束が局所等自明でしかないときの障害を扱う。有限エタール被覆の上で持ち上がった類を順像で戻すと次数倍になるので、制限の余核は被覆の次数で消える。原論文の「不分岐な被覆」は平坦かつ有限の意味に読まないと主張が偽になり、円錐曲線の族で反例を作った。2-3 は、被覆の上の切断(多重切断)から、ファイバーとの交叉数が被覆の次数の最大公約数になる類を作る命題と、横断的な代表があるときのその逆を扱う。逆では被覆の連結性を求めてはいけない。
原論文 §3 に当たり、主束の構造群を部分群へ簡約する非線形の問題を、等質ベクトル束の切断の零点という線形の問題に移す章である。3-1 は、部分群の線形表現から等質空間の上のベクトル束を作り、その大域切断の空間が群の有理表現になること、主束の族に拡げても切断の空間が底の上のベクトル束になることを示す。原論文が読者に委ねた族での同一視は、切断を主束の上の同変な関数とみて直接確かめ、有限エタール被覆に沿った降下は固有性にだけ使った。3-2 は、零切断に横断的な切断の零点の族が、底の点の近傍で次数が零点の数に等しい有限エタール被覆になり、その上で構造群が簡約されることを示す。零点の数が 1 以上であることは原論文が暗に使う仮定で、本書が足した。原論文の引く補題は長さの計算で証明し、原論文の対角線の議論も積を底の上のファイバー積と読めば通ることを確かめた。3-3 は、特別群の例と、特別な部分群へ簡約された主束が被覆の上で自明になることを扱う。
原論文 §4 に当たり、連結アフィン群の旗多様体の Chow 環の中に、指標の直線束の類で生成される特性部分環を置き、その指数から捩れ指数という整数を取り出す章である。4-1 は特性準同型を定義し、特性部分環が旗多様体だけでは決まらないことを示す。4-2 は、特性部分環が一般線形群への埋め込みで引き戻される類の全体に一致するという定理 1 を示す。4-3 は、捩れのない群の判定、特別群が捩れなしであること、特性部分環の指数が有限であることを示し、捩れ指数を定める。4-4 は、原論文が示せなかった重複度 1 の交わりを、係数を大きくした正因子で回り道する。4-5 は捩れ指数の五つの特徴づけ(定理 2)を示す。原論文が省いた倍数の場合は 4-4 で補った。4-6 は群自身の Chow 環を扱う。原論文の「有限環である」は次数 0 の部分で破れ、正次数部分が有限であるという形に直した。
原論文 §6 に当たり、複素数体の上で、代数群の捩れ指数を位相群の分類空間の整係数コホモロジーの捩れと比べる章である。原論文はサイクルの類を整係数コホモロジーへ送る写像の存在と性質を、当時文献に無いと断ったうえで認めて議論する。本書もそれを引用として扱い、証明したとは書かない。5-1 は、その写像が胞体分割をもつ多様体、とくに旗多様体で環の同型になることを示す。非完備な場合は Borel–Moore ホモロジーを補った。5-2 は、特性準同型が位相的な特性準同型に一致することから、代数的な捩れ素数が分類空間の捩れ素数に一致するという定理 4 を示し、原論文が未公刊とする Bott の結果と合わせて、捩れのない半単純群の決定を与える。この結果は次章の特別群の特徴づけで使う。
原論文 §5 に当たり、局所等自明な主束がすべて局所自明になる特別群を、アフィン・連結・捩れなしの三条件で特徴づける定理 3 を扱う章である。6-1 は、特殊線形群と斜交群の旗多様体の Chow 環を射影束の反復で計算し、積の次数が 1 になる正因子の類を与える。原論文は特殊線形群の計算で符号の約束を書かず、双対の類と読まないと正因子の主張が崩れる。6-2 は、Schubert 類が旗多様体の Chow 環を生成すること、Chevalley の公式に依る基底性、捩れのない半単純群が二つの型の積であるという Chevalley–Bott の補題を扱う。補題は第 5 章の超越的な結果に依る。6-3 は定理 3 を証明する。6-4 は、一点での局所自明性が交叉数で判定できるかという原論文の予想を扱い、連結性を書かない言い換えでは有限群で破れることを示す。
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