非特異な空間の射が、底の点の近くで次数の違ういくつかの有限エタール被覆の上に切断をもつなら、その次数の最大公約数をファイバーとの交叉数にもつ類が全空間の Chow 環にあることを、被覆の上の切断の像を順像で戻して示す。固有な場合には、そこから底の Chow 環への引き戻しの核が同じ数で消えることが出る。逆に、ファイバーと横断的に交わる代表があれば交叉数から被覆が作れるが、そのとき被覆に連結性を求めてはいけない。
前提知識: Chow環, 有限エタール被覆, エタール射, 横断性, 射影公式, 正規化
$k$ は代数的閉体で、標数は任意である。空間は本書の読みの代数的空間(既約とも連結とも限らない)で、$V$ は非特異準射影空間の全体である。$f\colon E\to X$ を $V$ の空間の間の射、$a\in X$、$F_a=f^{-1}(a)$、$i_a\colon F_a\to E$ を包含とし、$f$ の接写像 $df_y\colon T_yE\to T_aX$ は $F_a$ のどの点 $y$ でも全射であるとする。このとき $F_a$ は非特異である。原論文の「$n$ は $F_a$ の次元」を、$F_a$ がどの点でも次元 $n$ であることと読む。「$a$ で不分岐な次数 $m$ の被覆」は本書の読み(有限な射で、$a$ のある近傍の上でエタールであり、$a$ の上にちょうど $m$ 点をもつもの。連結とは限らない)で、その上の切断の組を下の定義で多重切断と呼ぶ。
本頁の主結果は次の三つである。
前の頁では、局所等自明な束のファイバーへの制限の余核が、束を自明にする被覆の次数で消えることを見た(本書『2-2 被覆の次数と余核の消滅』の主結果「被覆の次数による余核の消滅」)。そこでは被覆の上で束全体が自明になることを使ったが、ファイバーの点を指定する類を作るだけなら、被覆の上で切断が一つあれば足りる。原論文の Proposition 5(印字 5-07)はこの観察を、束の構造を仮定しない一般の射の形で述べる。仮定は、ファイバーに沿って接写像が全射であることと、被覆の上の切断の存在だけである。
考え方は次のとおりである。次数 $n_i$ の被覆 $X_i\to X$ の上で切断 $s_i$ があれば、その像は $E_i=X_i\times_XE$ の中で底と同じ次元の閉部分で、$a$ の上の $n_i$ 個の点でファイバーと横断的に交わる。これを $E$ へ順像で戻すと、ファイバーとの交叉数が $n_i$ の類になる。最大公約数 $d$ を整数係数の一次結合で作れば、交叉数 $d$ の類が得られる。被覆の上の切断は、ファイバーの中の $n_i$ 個の点を $a$ の近くで連続的に選ぶ「多価の切断」なので、本書は多重切断と呼ぶ。
原論文はこの命題を、後の §4 で捩れ指数を被覆の次数として読むための準備に置いている。系 1 は、束が固有なら底の Chow 環が全空間の Chow 環へ $d$ 倍を除いて単射に入ることを言い、Proposition 3 の系(本書『2-1 局所自明な点でのファイバーへの制限』の主結果「固有なファイバー空間の引き戻しは直和因子への同型」)の $d=1$ の場合を一般にしたものになっている。命題の後の注意は逆向きを問い、ファイバーと横断的に交わる代表の存在を条件に挙げる。この条件が一般に成り立つことは、原論文では期待として述べられるだけである(下の予想(横断的な代表の存在(原論文の期待)))。
主結果 1 の仮定と結論に現れる二つの言葉を定める。一つは被覆の上の切断で、もう一つは完備とは限らない空間の上の 0 サイクルの次数である。
$f\colon E\to X$ を代数的空間の射、$a\in X$、$m$ を正の整数とする。$a$ で不分岐な次数 $m$ の被覆 $g\colon X'\to X$(本書『0-3 ファイバー空間と有限エタール被覆』の定義(点で不分岐な被覆(本書の読み))の意味)と、引き戻し $g^{-1}(E)=X'\times_XE\to X'$ の、$g^{-1}(a)$ のある開近傍の上で定義された正則な切断 $s$ の組 $(g,s)$ を、$E$ の $a$ での次数 $m$ の多重切断という(本書の言葉)。
次数 $1$ の多重切断は、$a$ の近傍の上の $f$ の切断と同じものである(次数 $1$ の有限エタールな射は同型なので、本書『0-3 ファイバー空間と有限エタール被覆』の定理(不分岐な射とエタールな射の基本)の (3) を使って $a$ の近傍に縮めればよい)。原論文の Proposition 5 の条件 i は、「最大公約数が $d$ の次数 $n_i$ の多重切断がある」と言い換えられる。
$Y\in V$ とし、点 $y\in Y$ の類を $[y]\in A(Y)$ と書く。有限個の点の整数係数の和 $\sum_yc_y\,y$ を $Y$ の 0 サイクルといい、$\sum_yc_y$ をその次数という。$A(Y)$ の元が次数 $d$ の 0 サイクルの類であるとは、それが次数 $d$ のある 0 サイクル $\sum_yc_y\,y$ について $\sum_yc_y[y]$ に等しいことをいう。
点 $y$ の類は、包含 $\iota_y\colon\mathrm{pt}\to Y$ による順像 $\iota_{y*}(1_{\mathrm{pt}})$ である。$Y$ が完備なら、次数 $\chi\colon A(Y)\to\mathbf Z$ は構造射 $Y\to\mathrm{pt}$ による順像で、順像の関手性により $\chi([y])=1$ なので、次数 $d$ の 0 サイクルの類の $\chi$ は $d$ である。$Y$ が完備でないと $\chi$ は定義されず、点の類が $0$ になることもある(アフィン直線 $\mathbf A^1$ では $A^1(\mathbf A^1)=0$)。そのため主結果 1 は 0 サイクルの形で述べ、$F_a$ が完備なときに $\chi$ の式を添えた。
主結果 2 では、原論文が Proposition 3 の後に置く式 (1)(本書『2-1 局所自明な点でのファイバーへの制限』の主結果「順像の増大とファイバーの次数」)が要る。そこでは $f$ が点 $a$ で局所自明なファイバー空間であることを仮定するが、証明に効くのは接写像の全射性だけなので、本頁の設定で述べ直して証明しておく。
$f\colon E\to X$ を $V$ の空間の間の固有な射、$a\in X$ とし、$X$ は連結で、$f$ の接写像は $F_a$ のどの点でも全射であるとする。このとき $F_a$ は完備な非特異空間で、$w\in A(E)$ について $\chi(i_a^*w)=\varepsilon(f_*w)$ である。
段 1(ファイバー).$F_a$ は $E$ の閉部分で、$f$ が固有なので $F_a\to\{a\}$ も固有、すなわち $F_a$ は完備である。$f$ は $F_a$ の各点で点 $\{a\}$ に横断的なので、第 6 巻『交叉理論の基本性質』の頁『1-2 横断的な底変換と射影公式』の主結果「横断的な逆像」により $F_a$ は非特異で、準射影的な $E$ の閉部分なので $V$ に属する。
段 2(底変換).$j\colon\{a\}\to X$ を包含とする。$f(y)=a$ となる $y$ で、$d(f\times j)$ の像は $df_y(T_yE)\oplus0=T_aX\oplus0$ で、これと対角の接空間 $\{(v,v)\}$ で $T_aX\oplus T_aX$ が張られる。ゆえに $f\times j$ は対角に横断的で、$E\times_X\{a\}=F_a$ である。同じ頁の主結果「横断的な底変換公式」により、$\psi\colon F_a\to\{a\}$ を構造射として $j^*f_*w=\psi_*i_a^*w=\chi(i_a^*w)\cdot1_{\mathrm{pt}}$ である。
段 3(点への引き戻し).$X$ は非特異かつ連結なので既約である(本書『0-3 ファイバー空間と有限エタール被覆』の定義(代数的空間(本書の読み))の後の段)。第 6 巻の頁『1-1 データと公理と積の構造』の主結果「単位元と外積の基本式」により、既約な $X$ の点への引き戻しは $j^*x=\varepsilon(x)\cdot1_{\mathrm{pt}}$ である。$x=f_*w$ として段 2 と比べれば $\chi(i_a^*w)=\varepsilon(f_*w)$ を得る。
$f$ が点 $a$ で局所自明なファイバー空間なら、接写像はファイバーの各点で全射なので、この補題は式 (1) を含む。逆に本頁の $f$ はファイバー空間とは限らない。式 (1) の証明が局所自明性を接写像の全射性を通してしか使わないことは、本書『2-1 局所自明な点でのファイバーへの制限』の注意「式 (1) の証明が使うこと」でも述べられている。
次の事実は証明せずに引用する。Chow 環の性質は本書『0-4 Chow 環の枠組み』の定理(完全性)・定理(横断的な底変換)・射影公式の形で、第 6 巻『交叉理論の基本性質』Gro58b の頁と主結果の名前で引く。被覆とエタール射の事実は本書『0-3 ファイバー空間と有限エタール被覆』にまとめたもので、出典は Zariski Zar47 と Serre Ser55 である。どの文献についても、該当箇所は本頁では確認していない。
多重切断の像はファイバーと横断的に交わるので、その類をファイバーに制限すると点の類の和になる。証明の骨組みはこの一点で、残りは、類が定義される空間に縮めることと、底変換で順像とファイバーへの制限を入れ替えることである。
$f\colon E\to X$ を $V$ の空間の間の射、$a\in X$ とし、$f$ の接写像は $F_a$ のどの点でも全射で、$F_a$ はどの点でも次元 $n$ であるとする。最大公約数が $d$ の正の整数 $n_1,\dots,n_s$ について、$E$ が $a$ で次数 $n_i$ の多重切断をもつなら、$i_a^*z$ が $F_a$ の次数 $d$ の 0 サイクルの類になる $z\in A^n(E)$ がある。とくに $F_a$ が完備なら $\chi(i_a^*z)=d$ である。
段 1(一次結合の係数).$\gcd(n_1,\dots,n_s)=d$ なので、整数 $m_1,\dots,m_s$ で $\sum_im_in_i=d$ となるものがある。$i$ 番目の多重切断を $(g_i\colon X_i\to X,\ s_i)$ とする。
段 2(接写像が全射な開部分).$E^\circ$ を、$df_y$ が全射で $\dim_yE=\dim_{f(y)}X+n$ となる点 $y\in E$ の全体とする。接写像の階数は下に半連続で、非特異な空間の局所次元は局所的に一定なので、$E^\circ$ は開である。$F_a$ の点 $y$ では $df_y$ が全射なので、引用する事実 2 により $\dim_yF_a=\dim_yE-\dim_aX$ で、$\dim_yF_a=n$ だから $y\in E^\circ$ である。すなわち $F_a\subset E^\circ$ である。
段 3(底を縮める).$E_i=X_i\times_XE$、$h_i\colon E_i\to E$、$f_i\colon E_i\to X_i$ を射影とする。$W_i\subset X_i$ を、$g_i$ がエタールで、$s_i$ が定義され、$s_i$ の値が開集合 $h_i^{-1}(E^\circ)$ に入る点の全体とする。$b\in g_i^{-1}(a)$ では $s_i(b)$ は $h_i^{-1}(F_a)\subset h_i^{-1}(E^\circ)$ に入るので、$W_i$ は $g_i^{-1}(a)$ を含む開集合である。本書『0-3 ファイバー空間と有限エタール被覆』の命題(被覆の縮小と非交和)の (1) を $i=1,\dots,s$ について使い、共通部分をとって、$a$ の開近傍 $X_0$ で $g_i^{-1}(X_0)\subset W_i$(すべての $i$)となるものをとる。$E_0=E^\circ\cap f^{-1}(X_0)$ とおくと、$i_a$ は開部分 $E_0$ を経由する。引用する事実 1 により $A(E)\to A(E_0)$ は全射で次数を保つので、$E_0$ の上で主張の $z_0\in A^n(E_0)$ を作れば、その持ち上げの $A^n$ 成分 $z$ が主張をみたす。以下、$X$、$E$、$X_i$ をそれぞれ $X_0$、$E_0$、$g_i^{-1}(X_0)$ に替える。これで $g_i$ は有限エタールな射(有限射の開集合への制限は有限)、$s_i$ は $X_i$ 全体で定義された切断、$f$ は接写像がどの点でも全射で、どの点でも $\dim_yE=\dim_{f(y)}X+n$ である。
段 4(切断の像の類).$h_i$ は有限エタールな射の底変換なので有限エタールで、引用する事実 5 により $E_i\in V$、$X_i\in V$ である。$Z_i=s_i(X_i)$ は $s_i(f_i(\sigma))=\sigma$ となる点 $\sigma\in E_i$ の全体で、$E_i$ が分離的なので閉であり、$s_i\colon X_i\to Z_i$ は $f_i$ を逆にもつ同型である。とくに $Z_i$ は非特異で $V$ に属する。$h_i$ はエタールなので局所次元を保ち、$f_i$ の接写像はどの点でも全射($df$ の全射性がエタールな底変換で移る)なので、$\dim_{s_i(b')}E_i=\dim_{b'}X_i+n$ である。ゆえに $Z_i$ はどの点でも余次元 $n$ で、類 $z_i=[Z_i]\in A^n(E_i)$ が定まる。
段 5(底変換).$F_i=h_i^{-1}(F_a)=f_i^{-1}(g_i^{-1}(a))$ とし、$j_i\colon F_i\to E_i$ を包含、$\bar h_i\colon F_i\to F_a$ を $h_i$ の制限とする。$h_i$ はエタールなので、引用する事実 3 により $i_a^*h_{i*}=\bar h_{i*}j_i^*$ である($E_i\times_EF_a=F_i$)。
段 6(横断性).$b\in g_i^{-1}(a)$、$\sigma=s_i(b)$ とする。$f_i\circ s_i=\mathrm{id}$ なので $d(s_i)_b$ は単射で、$T_\sigma Z_i=d(s_i)_b(T_bX_i)$ と $\ker d(f_i)_\sigma$ は $0$ で交わる。引用する事実 2 により $F_i$ の $\sigma$ での接空間は $\ker d(f_i)_\sigma$ で、次元は $n$ である。$\dim T_\sigma Z_i+n=\dim_bX_i+n=\dim_\sigma E_i$ なので $T_\sigma E_i=T_\sigma Z_i\oplus T_\sigma F_i$、すなわち $j_i$ は $Z_i$ に $\sigma$ で横断的である。$j_i^{-1}(Z_i)=Z_i\cap F_i=\{s_i(b):b\in g_i^{-1}(a)\}$ はちょうど $n_i$ 点なので、引用する事実 2 により
$$j_i^*z_i=\sum_{b\in g_i^{-1}(a)}[s_i(b)]$$
である。
段 7(順像と一次結合).点の類は点の包含による順像なので、順像の関手性(引用する事実 4)により $\bar h_{i*}[s_i(b)]=[\bar h_i(s_i(b))]$ である。段 5 と合わせて、$i_a^*h_{i*}z_i$ は $F_a$ の $n_i$ 個の点 $\bar h_i(s_i(b))$ の類の和、すなわち次数 $n_i$ の 0 サイクルの類である。$h_i$ は有限で局所次元を保つので $h_{i*}z_i\in A^n(E)$ で、$z_0=\sum_im_ih_{i*}z_i\in A^n(E)$ とおくと、$i_a^*z_0$ は次数 $\sum_im_in_i=d$ の 0 サイクルの類である。$F_a$ が完備なら、上の定義(0 サイクルの次数)の後の段により $\chi(i_a^*z_0)=d$ である。
これで、多重切断の次数の最大公約数が、ファイバーとの交叉数として Chow 環の中に現れた。証明で被覆の有限性が効くのは順像 $h_{i*}$ が定義される所(段 5・7)で、平坦性(エタール性)が効くのは $E_i$ が非特異になり底変換の横断性が成り立つ所(段 4・5)である。
原論文は「不分岐な被覆」の定義を書かず、証明では底変換の公式(前の講演の Proposition 2)を黙って $h_i$ に当てる。本書の読み($a$ の近くで有限エタール)を外し、閉埋め込みのように不分岐だが平坦でない射を許すと、主張は偽になる。実際、包含 $\{a\}\to X$ は有限で $a$ で不分岐、$a$ の上に 1 点をもち、引き戻し $F_a\to\{a\}$ は $F_a$ の点を一つ選べば切断をもつ。これを次数 $1$ の多重切断と認めれば、どの $f$ でも $d=1$ となり、$\chi(i_a^*z)=1$ となる類があることになる。ところが本書『2-2 被覆の次数と余核の消滅』の円錐曲線の族(標数が $2$ でない $\mathbf G_m^2$ の上の $x_0^2+sx_1^2+tx_2^2=0$。その頁の座標 $x,y,z$ をここでは $x_0,x_1,x_2$ と書く)では、その頁の反例「反例:被覆の平坦性を外すと余核の消滅は破れる」の前で示すとおり、ファイバーへの制限の次数はすべて偶数である。原論文の段が通るには、$h_i$ がエタールであることが要る。有限性を外した場合の反例は、本頁では立てていない。
原論文の証明(印字 5-07〜5-08)には、添字と記号の打ち損じがある。(a) 冒頭は「$\sum n_im_i=d$ となる整数 $n_i$」と打つが、$n_i$ は主張の i で被覆の次数として置かれたものなので、係数の方を $m_i$ と読む。(b) 次の頁の「$\chi(i_a^*(z'_i))=m_i$」は $n_i$ と読む。証明の末尾の $\sum n_im_i=d$ が、この読みで正しい役割を与える。(c) 「$Z_i$ の類」の記号は印字がつぶれているが、次の頁の $h_{i*}(z_i)$ から $z_i$ と読む。(d) 「$F_i=h^{-1}(F)$」は添字が落ちたもので、$F_i=h_i^{-1}(F_a)$ と読む。原論文は $Z_i$ を $s_i(U_i)$ の閉包として定めるが、本書は段 3 で底を縮めて切断を $X_i$ 全体で定義したので、閉包をとる必要がない。
原論文の Proposition 5 は、$f$ の固有性も $F_a$ の完備性も仮定せずに $\chi(i_a^*z)=d$ と書く。$\chi$ は完備な空間でしか定義されないので、$F_a$ が完備でないとき、印字の式はそのままでは意味をもたない。本書は、証明が実際に与える形($i_a^*z$ が次数 $d$ の 0 サイクルの類であること)を主張とし、$F_a$ が完備なときにだけ $\chi$ の式を述べた。系 1 と命題の後の注意は $f$ を固有と仮定するので、そこでは $F_a$ は完備で、二つの形は一致する(上の補題(接写像が全射なファイバーでの順像の増大)の段 1)。$F_a$ が完備でないと 0 サイクルの形は弱い主張になりうる。たとえば $E=X\times\mathbf A^1$ では $A^1(F_a)=A^1(\mathbf A^1)=0$ で、結論は自明に成り立つ。
$f$ が固有なら、順像 $f_*$ が使え、上の補題で交叉数が順像の増大に移る。底が連結で、ファイバーと交わる部分の次元がそろっていれば、順像は $A^0$ に落ち、$d$ 倍の単位元になる。
上の定理(多重切断からの交叉数)の仮定に加えて、$f$ が固有で $X$ が連結であるとする。このとき、$\chi(i_a^*z)=d$ かつ $f_*z=d\cdot1_X$ となる $z\in A^n(E)$ がある。とくに、$x\in A(X)$ が $f^*x=0$ をみたせば $dx=0$ である。
段 1(底は既約).$X$ は非特異かつ連結なので既約で、$A^0(X)=\mathbf Z\cdot1_X$ である。$F_a$ は完備である(上の補題(接写像が全射なファイバーでの順像の増大)の段 1)。上の定理により、$\chi(i_a^*z_1)=d$ となる $z_1\in A^n(E)$ がある。
段 2(ファイバーと交わる成分だけを残す).$E'$ を、$E$ の連結成分のうち $F_a$ と交わるものの和とする。$E$ は非特異なので、連結成分は既約で、互いに交わらない開かつ閉な部分集合である。ゆえに包含 $\iota\colon E'\to E$ は開かつ閉な埋め込みで、固有かつエタールである。$y\in F_a$ では $\dim_yE=\dim_aX+\dim_yF_a=\dim X+n$(引用する事実 2)なので、$E'$ は純次元 $\dim X+n$ である。$z=\iota_*\iota^*z_1$ とおく。$\iota$ は開かつ閉な埋め込みなので余次元を保ち、$z\in A^n(E)$ である。
段 3(ファイバーへの制限は変わらない).$F_a\subset E'$ なので $i_a=\iota\circ i'_a$($i'_a\colon F_a\to E'$)と書ける。$\iota$ はエタールで $E'\times_EF_a=F_a$ なので、引用する事実 3 により $i_a^*\iota_*=i'^*_a$ で、$i_a^*z=i'^*_a\iota^*z_1=i_a^*z_1$ である。ゆえに $\chi(i_a^*z)=d$ である。
段 4(順像は $A^0$ に落ちる).$f_*z=(f\circ\iota)_*\iota^*z_1$ で、$f\circ\iota\colon E'\to X$ は純次元 $\dim X+n$ の空間から純次元 $\dim X$ の空間への固有射である。引用する事実 4 により $f_*z\in A^0(X)=\mathbf Z\cdot1_X$ で、上の補題により $\varepsilon(f_*z)=\chi(i_a^*z)=d$ だから、$f_*z=d\cdot1_X$ である。
段 5(核).$f^*x=0$ なら、射影公式(引用する事実 4)により $dx=f_*(z)\cdot x=f_*(z\cdot f^*x)=0$ である。
これで、多重切断の次数の最大公約数 $d$ が、底の Chow 環から全空間の Chow 環への引き戻しの単射性をどれだけ損なうかの上界になることが分かった。$d=1$ なら $f^*$ は単射で、$r(w)=f_*(z\cdot w)$ が左逆を与えるので、$f^*A(X)$ は $A(E)$ の直和因子になる(本書『2-1 局所自明な点でのファイバーへの制限』の主結果「固有なファイバー空間の引き戻しは直和因子への同型」と同じ形)。
原論文の系 1(印字 5-08)は、$f$ が固有なら $f_*(z)=d\cdot1_X$ であり、それは Proposition 3 の後の式 (1) から出る、と述べる。本書はここに二点を補った。(a) 式 (1) は原論文では $X$ が連結な場合の式である(Proposition 3 の系は「$X$ connexe」を仮定する)。系 1 は連結性を書かないが、本書の読みの空間では底は連結とは限らず、連結性を外すと結論は偽になる(下の反例「反例:底の連結性を外すと系 1 は破れる」)。本書は底の連結性を、本書が足した仮定として主張に入れた。(b) Proposition 5 の $z$ は存在だけが言われ、取り方に自由度がある。$E$ に、ファイバーと交わらず次元の違う連結成分があると、Proposition 5 の結論をみたす $z$ でも $f_*z=d\cdot1_X$ とは限らない。たとえば $X=\mathbf P^2$、$C\subset X$ を $a$ を通らない直線、$E=(X\times\mathbf P^1)\sqcup C$、$f$ を射影と包含の和とすると、$d=1$ で、$z=[X\times\{c\}]+[q]$($c\in\mathbf P^1$、$q\in C$)は $A^1(E)$ の元で $\chi(i_a^*z)=1$ だが、$f_*z=1_X+[q]$ である。本書は段 2 で $z$ をファイバーと交わる成分に制限して、原論文の式が成り立つ $z$ をとった。原論文が「variétés」と書く Proposition 5 の空間を既約と読めば、(a)(b) はどちらも起こらない。
原論文は命題の後の注意(印字 5-08)で、$f$ が固有なら逆向き(ii から i)も成り立ちそうだと述べ、それには $E$ のどのサイクルの類にもファイバーと横断的に交わる代表があることが分かれば足りる、と書く。本書はこの十分条件の部分を主張として証明する。横断的に交わる成分は $a$ の近くで底の上にエタールで、その正規化が求める被覆になる。
$f\colon E\to X$ を $V$ の空間の間の固有な射、$a\in X$ とし、$f$ の接写像は $F_a$ のどの点でも全射で、$F_a$ はどの点でも次元 $n$ であるとする。$d>0$ とし、$z\in A^n(E)$ が $\chi(i_a^*z)=d$ をみたし、$z=\sum_jc_j[Z_j]$($c_j\in\mathbf Z$、$Z_j$ は $E$ の相異なる既約な閉部分で余次元 $n$)と書けて、$F_a$ と交わる $Z_j$ はすべて $F_a$ と横断的に交わる($Z_j\cap F_a$ は有限で、その各点 $y$ で $Z_j$ は非特異で $T_yZ_j\oplus T_yF_a=T_yE$)とする。このとき、正の整数 $n_1,\dots,n_s$ で最大公約数が $d$ のものと、$E$ の $a$ での次数 $n_i$ の多重切断がある。とくに、$A^n(E)$ のどの類もこの形の代表をもつなら、上の定理(多重切断からの交叉数)の結論からその仮定が出る。
段 1(交点でのエタール性).$Z_j\cap F_a$ の点 $y$ をとる。引用する事実 2 により $T_yF_a=\ker df_y$ で、横断性から $df_y$ は $T_yZ_j$ の上で単射である。$\dim T_yZ_j=\dim T_yE-n=\dim_aX$($df_y$ は全射)なので、$df_y\colon T_yZ_j\to T_aX$ は同型である。$Z_j$ は $y$ の近傍で非特異(非特異な点の全体は開)なので、引用する事実 5 により $f|_{Z_j}\colon Z_j\to X$ は $y$ でエタールである。
段 2(交叉数の式).$r_j=\#(Z_j\cap F_a)$ とおく。$Z_j$ の特異点の全体 $S_j$ は閉で $F_a$ と交わらないので、$E^\circ=E-\bigcup_jS_j$ は $F_a$ を含む開部分である。引用する事実 1 により $A(E)\to A(E^\circ)$ で $[Z_j]$ は $[Z_j\cap E^\circ]$ に写り、$Z_j\cap E^\circ\in V$ である。$i_a$ は $E^\circ$ を経由し、$F_a$ と交わる $Z_j$ については $F_a\to E^\circ$ が $Z_j\cap E^\circ$ に横断的なので、引用する事実 2 により $i_a^*[Z_j]=[Z_j\cap F_a]$ は $r_j$ 個の点の類の和である。$F_a$ と交わらない $Z_j$ については、横断性の条件が空なので同じ事実により $i_a^*[Z_j]=[\emptyset]=0$ である($r_j=0$)。$F_a$ は完備なので、$d=\chi(i_a^*z)=\sum_jc_jr_j$ である。
段 3($a$ の近くで有限エタール).以下、$c_j\ne0$ かつ $r_j>0$ の $j$ を考える($d>0$ なのでそのような $j$ はある)。$Z_j\to X$ は閉部分から固有射への制限なので固有である。準有限でない点の全体 $Q_j$ とエタールでない点の全体 $N_j$ は $Z_j$ の閉集合で(引用する事実 5)、段 1 と $Z_j\cap F_a$ の有限性により $a$ の上の点を含まない。$X$ は非特異なので、$a$ を含む既約成分 $X^a$ は開かつ閉である。$U=X^a-f(Q_j\cup N_j)$ は $a$ の開近傍で、$Z_j|_U\to U$ は固有・準有限・エタールなので、有限エタールである(引用する事実 5)。
段 4(正規化による被覆).$Z_j\to X$ は $y$ でエタールで、エタールな射は開写像なので、$Z_j$ の像は $X^a$ の空でない開集合を含む。ゆえに $Z_j\to X^a$ は支配的で、次元が等しいので、関数体 $L_j=k(Z_j)$ は $k(X^a)$ の有限次拡大である。$X_j$ を $L_j$ での $X^a$ の正規化とすると、$X_j\to X^a$ は有限な射(引用する事実 5)で、$X^a\to X$ は閉埋め込みなので $X_j\to X$ も有限である。$U$ のアフィン開集合 $U'$ の上では、$Z_j|_{U'}$ の座標環は $U'$ の座標環の上で有限で、商体は $L_j$ なので、$L_j$ での二つの座標環の整閉包は一致する。すなわち $U$ の上で $X_j$ は $Z_j$ の正規化である。$Z_j$ は $a$ の上の点で非特異、とくに正規なので、正規化は $Z_j\cap F_a$ の近傍の上で同型である(引用する事実 5)。ゆえに $X_j$ の $a$ の上の点はちょうど $r_j$ 個で、そこで $X_j\to X$ はエタールである。エタールでない点の全体は閉で、有限射で閉集合に写り $a$ を含まないので、$X_j\to X$ は $a$ のある近傍の上でエタールである。こうして $X_j\to X$ は $a$ で不分岐な次数 $r_j$ の被覆である。
段 5(被覆の上の切断).$Z_j\subset E$ なので、$Z_j\times_XE\to Z_j$ は切断 $y\mapsto(y,y)$ をもつ。段 4 の同型 $X_j\cong Z_j$($a$ の上の点の近傍)で移すと、$X_j\times_XE\to X_j$ は $a$ の上の点の近傍の上で切断をもつ。ゆえに $E$ は $a$ で次数 $r_j$ の多重切断をもつ。
段 6(最大公約数を $d$ に合わせる).$\delta=\gcd\{r_j:c_j\ne0,\ r_j>0\}$ とおく。段 2 の式 $d=\sum_jc_jr_j$ により $\delta$ は $d$ を割る。$e=d/\delta$ とし、各 $X_j$ を $e$ 個並べた非交和をとると、本書『0-3 ファイバー空間と有限エタール被覆』の命題(被覆の縮小と非交和)の (2) により $a$ で不分岐な次数 $e\,r_j$ の被覆で、各成分の上の切断を並べれば切断をもつ。次数 $e\,r_j$ の最大公約数は $e\delta=d$ である。
段 6 の非交和は連結でない被覆である。本書の読みが被覆に連結性を求めないのはこの段のためで、連結なものに限ると主張は破れる(下の反例「反例:被覆を連結なものに限ると逆は破れる」)。ただし、それが起こるのは $a$ が $X$ の孤立点のときだけである。
本書の他の主結果はこの注意に依らないので、筋だけを述べる。$a$ を含む $X$ の既約成分の次元 $\dim_aX$ が $1$ 以上なら、上の定理の段 6 の非交和は、連結な被覆に替えられる。段 4 の $X_j$ は連結な正規多様体で、$\dim X_j=\dim_aX\ge1$ である。$S_j$ を $X_j$ の $a$ の上の $r_j$ 点とし、$e=e_0p^t$($e_0$ は標数 $p$ と素。標数 $0$ なら $t=0$)と分ける。$S_j$ に属さない非特異な点 $c$ と、$S_j\cup\{c\}$ を含むアフィン開集合をとり、その上の正則関数 $\varphi$ で、$S_j$ の各点で値 $1$、$c$ で局所パラメータ($c$ の極大イデアルに入り、その平方に入らない)となるものをとる(アフィンな空間での有限個の点での補間)。$\varphi$ は $c$ を通るある素因子に沿って位数 $1$ の零をもつ。(a) $T^{e_0}-\varphi$ はその素因子の離散付値環で Eisenstein 多項式なので既約で、それが定める拡大での $X_j$ の正規化は連結かつ有限であり、$\varphi$ が可逆な所では $\mathcal O[T]/(T^{e_0}-\varphi)$ が(微分 $e_0T^{e_0-1}$ が可逆なので)エタール、ゆえに正規で、正規化と一致してエタールである。$S_j$ の各点の上には $T^{e_0}=1$ の $e_0$ 個の根に当たる点がある。(b) $p>0$ なら、$\psi=1/\varphi$ は同じ素因子に沿って位数 $1$ の極をもつので、$x^p-x=\psi$ は関数体に解をもたず(解の付値を比べると $p$ の倍数になる)、Artin–Schreier 多項式 $T^p-T-\psi$ は既約で、その微分は $-1$ なので、同じく $S_j$ の近くでエタールな次数 $p$ の連結な被覆を与える。得た被覆はまた連結な正規多様体なので、(b) を $t$ 回、(a) を 1 回繰り返せる。合成は $a$ の近傍の上でエタールで、$a$ の上に $e\,r_j$ 点をもつ連結な被覆で、$X_j$ の上の切断が引き戻される。次数 $e\,r_j$ の最大公約数は $d$ である。$a$ が孤立点だと、$a$ の上の連結な有限エタール被覆は $a$ 自身だけなので、この構成はできない。$X$ が連結でない場合は、$\dim X\ge1$ でも $a$ が孤立点になりうる(下の反例の二つ目の例)。
原論文は、横断的な代表がつねに存在することを期待として述べる。本書はこれを判定しない。
$f\colon E\to X$ を固有な射で、上の定理(横断的な代表をもつときの逆)の設定にあるものとする。原論文は、$E$ のどのサイクルの類にも、ファイバー $F_a$ と横断的に交わる代表サイクルがあるという主張が、交叉理論の「lemme de Chow」(Chow の移動補題)を精密にする形で一般に成り立つことを期待する。これが成り立てば、上の定理と合わせて、固有な $f$ について「最大公約数 $d$ の次数の多重切断がある」ことと「$\chi(i_a^*z)=d$ となる $z\in A^n(E)$ がある」ことが同値になる。
原論文は期待を述べるだけで、証明も精確な形も書かない(印字 5-08)。上の注意によれば、この同値は被覆に連結性を求めない読みでだけ意味をもつ。
主結果の仮定と結論を、切断をもつ束と、切断を被覆の上でしかもたない円錐曲線の族で確かめる。続く二つの反例は、本書が足した二つの仮定(被覆は連結とは限らない、系 1 の底は連結)をそれぞれ外す。
$X\in V$ を連結、$\mathcal E$ を $X$ 上の階数 $p$ のベクトル束、$f\colon P(\mathcal E)\to X$ をその射影束(ファイバーの直線の空間)とする。$f$ は局所自明で、ファイバーは $\mathbf P^{p-1}$ なので、接写像はどの点でも全射で、$n=p-1$、ファイバーは完備である。$a$ の近傍 $U$ の上で $\mathcal E$ を自明にすれば、定数の直線が $U$ の上の $f$ の切断を与える。これは恒等写像を被覆とする次数 $1$ の多重切断なので、主結果 1・2 により $\chi(i_a^*z)=1$、$f_*z=1_X$ となる $z\in A^{p-1}(P(\mathcal E))$ があり、$f^*$ は単射である。実際、基本類 $\xi=c_1(\mathcal O(1))$ について、$\xi^{p-1}$ のファイバーへの制限は $\mathbf P^{p-1}$ の超平面の類の $p-1$ 乗、すなわち点の類で、$\chi(i_a^*\xi^{p-1})=1$ である。射影束公式(本書『0-4 Chow 環の枠組み』)の $f_*\xi^{p-1}=1_X$ はこの $z=\xi^{p-1}$ についての主結果 2 の式に当たる。
標数が $2$ でないとし、$X=\mathbf G_m^2$(座標 $s,t$)、$E=\{((s,t),(x_0:x_1:x_2)):x_0^2+sx_1^2+tx_2^2=0\}\subset X\times\mathbf P^2$、$f$ を射影とする。本書『2-2 被覆の次数と余核の消滅』の例「$\mathrm{PGL}(2)$ の束としての円錐曲線の族」の族で、座標の名前だけを替えた。偏微分 $2x_0,2sx_1,2tx_2$ は $s,t\ne0$ で同時に $0$ にならないので、$E$ は非特異で、$f$ は射影的、ファイバーは非特異な円錐曲線で、接写像はどの点でも全射である($n=1$)。$X'=\{(u,s,t):u^2=-s\}\to X$ は微分 $2u$ が $0$ にならないので次数 $2$ の有限エタール被覆で、$u\mapsto(u:1:0)$ は $X'\times_XE$ の切断である($u^2+s=0$)。ゆえに $E$ は各点で次数 $2$ の多重切断をもち、主結果 1 で $d=2$ である。対応する類は具体的に書ける。$D=E\cap\{x_2=0\}=\{x_0^2+sx_1^2=0,\ x_2=0\}$ は $X'$ に同型な閉部分で、各ファイバーと相異なる 2 点 $(\pm\sqrt{-s}:1:0)$ で交わる。$D\to X$ はエタールなので $T D$ はファイバーの接空間と補い合い、交わりは横断的である。ゆえに $\chi(i_a^*[D])=2$ で、主結果 2 により $f_*[D]=2\cdot1_X$、$f^*$ の核は $2$ で消える。一方、同じ頁で示すとおり、この族のファイバーへの制限の次数はすべて偶数なので、$\chi(i_a^*z)=1$ となる類は無い。$d=2$ はこの族で最良である。$D$ は主結果 3 の横断的な代表でもあり、その証明の正規化は $X'$ そのもの($r=2$)を返す。
主結果 3 の被覆から「連結とは限らない」を外し、連結な被覆だけを許す。$X=\{a\}$(1 点)、$E=\mathbf P^1$、$f$ を構造射とする(標数は任意)。$f$ は固有で、接写像 $T_yE\to T_aX=0$ は全射、$n=1$、$F_a=E$ である。$A^1(E)=\mathbf Z[\mathrm{pt}]$ のどの類も点の整数係数の和で代表され、点 $\{y\}$ は $T_y\{y\}\oplus T_yE=T_yE$ なので $F_a=E$ と横断的に交わる。$z=2[\mathrm{pt}]$ は $\chi(i_a^*z)=2$ をみたす。ところが 1 点の上の有限エタールな空間は($k$ が代数的閉なので)有限個の点の非交和で、連結なものは次数 $1$ の $\{a\}$ 自身だけである。ゆえに連結な被覆に限れば、多重切断の次数はすべて $1$ で、最大公約数はちょうど $2$ にならない。非連結を許せば、2 点の非交和 $\{a'_1,a'_2\}\to\{a\}$ は次数 $2$ の被覆で、$E\sqcup E$ の各成分の点を選べば切断をもつので、主結果 3 の結論が $d=2$ で成り立つ。$X=\{a\}\sqcup\mathbf A^1$、$E=X\times\mathbf P^1$ としても同じである。$a$ の上に点をもつ連結な被覆は $\{a\}$ の上にあって次数 $1$、$\mathbf A^1$ の成分の上にある連結な被覆は $a$ の上に点をもたない。$\dim X=1$ でも $a$ は孤立点で、上の注意(底の点の次元が 1 以上なら被覆は連結にとれる)の仮定は満たされない。
主結果 2 から底の連結性を外す。$X=\{a\}\sqcup\mathbf A^1$、$E=\{a\}$、$f\colon E\to X$ を包含とする。$f$ は固有で、$n=0$、接写像 $T_aE=0\to T_aX=0$ は全射である。恒等写像 $X\to X$ と開集合 $\{a\}$ の上の切断は次数 $1$ の多重切断なので、$d=1$ で主結果 1 の仮定をみたし、$z=1_E$ は $\chi(i_a^*z)=1$ をみたす。$\iota\colon\mathbf A^1\to X$ を開かつ閉な埋め込みとし、$w=\iota_*(1_{\mathbf A^1})\in A(X)$ とおく。$\iota$ はエタールで $\mathbf A^1\times_X\mathbf A^1=\mathbf A^1$ なので $\iota^*w=1_{\mathbf A^1}\ne0$、ゆえに $w\ne0$ である。一方 $E\times_X\mathbf A^1=\emptyset$ なので $f^*w=0$ である。すなわち $\ker f^*$ は $d=1$ で消えない。また $A(E)=\mathbf Z$ なので $z$ は $c\cdot1_E$ の形しかなく、$\iota^*f_*z=0$(同じく底変換)だが $\iota^*1_X=1_{\mathbf A^1}\ne0$ なので、どの $z$ についても $f_*z=1_X$ にはならない。壊れたのは上の定理(順像による核の消滅)の段 1($A^0(X)=\mathbf Z\cdot1_X$)である。
以下は後代の結果の紹介である(時点を明記する。本書は文献を開いて確かめていない)。
本頁が対応する原論文は Torsion homologique et sections rationnelles Gro58c の第 2 節の後半である。
| 本頁 | 原論文 | 印字頁 |
|---|---|---|
| 定義(多重切断)、定義(0 サイクルの次数) | Proposition 5 の条件 i と結論 ii | 5-07 |
| 補題(接写像が全射なファイバーでの順像の増大) | Proposition 3 の後の式 (1)、系 1 の証明 | 5-05、5-08 |
| 定理(多重切断からの交叉数)、注意(被覆の読みと平坦性)、注意(印字の読み(Proposition 5 の証明))、注意(完備でないファイバーと次数) | Proposition 5 とその証明 | 5-07〜5-08 |
| 定理(順像による核の消滅)、注意(原論文の系 1 の読み(底の連結性と類の取り方)) | Proposition 5 の系 1 | 5-08 |
| 定理(横断的な代表をもつときの逆)、注意(底の点の次元が 1 以上なら被覆は連結にとれる) | Proposition 5 の後の注意(十分条件の部分) | 5-08 |
| 予想(横断的な代表の存在(原論文の期待)) | 同じ注意(期待の部分) | 5-08 |
| 例(射影束と多重切断)、例(円錐曲線の族の二重切断)、反例(被覆を連結なものに限ると逆は破れる)、反例(底の連結性を外すと系 1 は破れる) | (原論文には無い。仮定を確かめるための例) | — |
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