ファイバー空間が一点の近くで積に分かれているなら、全空間の Chow 環からその点のファイバーの Chow 環への制限は全射であることを示す。さらに射が固有で底が連結なら、ファイバーの次数と順像の増大が一致し、底の Chow 環は全空間の Chow 環の直和因子として埋め込まれる。固有性が外せないことは、零切断を除いた直線束で確かめる。
前提知識: Chow環, ファイバー束, 射影公式, 直線束, 射影束, 完全列
$k$ は代数的閉体で、標数は任意である。空間は本書『0-3 ファイバー空間と有限エタール被覆』の定義(代数的空間(本書の読み))の意味の代数的空間で、既約とも連結とも限らない。$V$ は非特異な準射影的空間の全体で、$X\in V$ の Chow 環 $A(X)$、引き戻し $f^*$、固有射の順像 $f_*$、増大 $\varepsilon$、次数 $\chi$ は本書『0-4 Chow 環の枠組み』の定義(非特異準射影空間の Chow 環)のとおりである。$f\colon E\to X$ を $X,E\in V$ の間の射、$a\in X$、$F_a=f^{-1}(a)$、$i_a\colon F_a\to E$ を包含とし、$i_a^*$ を $i^*$ とも書く。
本頁の主結果は次の四つである。
原論文 §2 の題は「ファイバー空間の上のサイクルの類」である。冒頭(印字 5-04)で原論文は、続く三つの命題(Proposition 3〜5)が先行する講演で展開された公理的な理論のうち完全性の公理 (E) を満たすもので述べられ証明できると断ったうえで、非特異な準射影的空間の Chow 環でだけ述べると宣言する。先行する講演は同じ tome の exposé 4 Gro58b で、第 6 巻の原典である。本書の札の「Chow 環の枠組みの下では完結」という言い方は、この宣言から始まる。§1 は交叉理論を使わなかったので、Chow 環の性質に依る主結果は本頁が最初である。
§2 の問いは、ファイバー空間 $f\colon E\to X$ の全空間の Chow 環 $A(E)$ が、一つのファイバー $F_a$ の Chow 環をどこまで覆うかである。位相幾何では Leray–Hirsch の定理がこの型の問いに答えるが、原論文が狙うのは、後の章で主束 $P$ とその旗の束 $P/B$ に当て、ファイバー $G/B$ の Chow 環のどの類が全空間から来るかで束の局所自明性を測ることである。本頁の Proposition 3 はその出発点で、束が点 $a$ の近くで積なら障害は無い、と言う。次の頁は束が局所等自明でしかないときの障害を被覆の次数で測り、その次の頁は障害を多重切断の次数に結びつける。本頁の式 (1) は本書『2-3 多重切断と交叉数』の主結果「順像による核の消滅」で、Proposition 3 は本書『6-4 局所自明性の予想』の主結果「予想の必要性」で使われる。
原論文は「espace fibré」を定義せずに使う。Proposition 3 とその系が使うのは、射 $f$ と、一点の近くでの積への分解だけである。本書はそれを次のように読む。
$X,E\in V$ の間の射 $f\colon E\to X$ をファイバー空間ともいう。点 $a\in X$ について、$a$ の開近傍 $U$、空でない代数的空間 $F$、$U$ の上の同型 $\varphi\colon f^{-1}(U)\to U\times F$($\mathrm{pr}_1\circ\varphi=f$)があるとき、$f$(または $E$)は $a$ で局所自明であるという。$X$ のすべての点で局所自明なとき、単に局所自明であるという。ファイバー $F_a=f^{-1}(a)$ は $E$ の被約な閉部分とみる。
局所自明な点では、ファイバーは $V$ に属し、局所的な自明化の二つめの因子と同一視される。本頁で使う形にまとめておく。
$f\colon E\to X$ が $a$ で局所自明で、$\varphi\colon f^{-1}(U)\to U\times F$ をその自明化とする。
(1) $\iota\colon F\to F_a$、$\iota(b)=\varphi^{-1}(a,b)$ は同型で、$F$ と $F_a$ は非特異かつ準射影的である。
(2) $f^{-1}(U)$ の点で $f$ の接写像は全射である。
次の事実は証明せずに引用する。Chow 環の性質は本書『0-4 Chow 環の枠組み』の定理として引き、第 6 巻での所在はそこの対応表にある。
証明の骨組みは短い。局所自明な近傍の上では、ファイバーの類は第 2 因子からの引き戻しで持ち上がり、近傍から全空間へは完全性で戻れる。固有な場合は、ファイバーへの制限と順像を横断的な底変換で結び、射影公式で左逆写像を作る。
$f\colon E\to X$($X,E\in V$)が点 $a$ で局所自明なら、$F_a\in V$ で、$i_a^*\colon A(E)\to A(F_a)$ は全射である。
段 1(自明化の近傍).$\varphi\colon f^{-1}(U)\to U\times F$ を $a$ での自明化とする。上の補題(局所自明な点のファイバー)により $F$ と $F_a$ は非特異かつ準射影的で、$F_a\in V$ である。$U$ は $X$ の開部分なので $U\in V$、$f^{-1}(U)$ は $E$ の開部分なので $f^{-1}(U)\in V$ で、$U\times F\in V$ である。$j\colon f^{-1}(U)\to E$ を包含、$i'\colon F_a\to f^{-1}(U)$ を包含とすると $i_a=j\circ i'$ で、引用する事実 1 により $i_a^*=i'^*\circ j^*$ である。
段 2(積の上での持ち上げ).$y\in A(F_a)$ とし、上の補題の同型 $\iota\colon F\to F_a$ で $y_0=\iota^*(y)\in A(F)$ とおく。$w=\varphi^*\mathrm{pr}_2^*(y_0)\in A(f^{-1}(U))$ とすると、$\mathrm{pr}_2\circ\varphi\circ i'\circ\iota$ は $b\mapsto\mathrm{pr}_2(a,b)=b$、すなわち $F$ の恒等写像なので、引用する事実 1 により $\iota^*i'^*(w)=(\mathrm{pr}_2\circ\varphi\circ i'\circ\iota)^*(y_0)=y_0$ である。$\iota$ は同型なので $\iota^*$ は全単射で、$i'^*(w)=y$ を得る。ゆえに $i'^*$ は全射である。
段 3(全空間へ戻る).引用する事実 2 により $j^*\colon A(E)\to A(f^{-1}(U))$ は全射である。段 2 の $w$ について $w=j^*(z)$ となる $z\in A(E)$ をとれば、$i_a^*(z)=i'^*(j^*z)=i'^*(w)=y$ である。
段 2 の $w$ は、原論文の言い方では $1_U\times y$ に当たる。外積 $1_U\times y_0=\mathrm{pr}_1^*(1_U)\,\mathrm{pr}_2^*(y_0)=\mathrm{pr}_2^*(y_0)$ だからである。これで、局所自明な点ではファイバーの Chow 環に障害が無いことが分かった。ただしこれは近傍 $U$ を選べることに依っていて、束が局所等自明でしかないときは、次の頁で見るように障害が残りうる。
原論文の Proposition 3 の証明(印字 5-04)は「i.」で始まり、自明な場合の計算の後に「これが (i) をこの場合に示す」と書く。しかし Proposition 3 の主張には (i) も ii. も無い。先行する稿の番号の名残とみられ、証明の筋には影響しない。本書は番号を付けずに、自明な場合と一般の場合を上の段 2・段 3 に分けた。
固有な場合、ファイバーの次数は順像を通して底の側から読める。原論文はこれを Proposition 3 の系の証明の中で式 (1) として導く。
$f\colon E\to X$($X,E\in V$)が点 $a$ で局所自明で、固有であり、$X$ が連結であるとする。このとき $F_a$ は完備で、$z\in A(E)$ について
$$\chi(i_a^*z)=\varepsilon(f_*z)$$
である。
段 1(図式).$g\colon F_a\to\{a\}$ をファイバーの構造射、$j_a\colon\{a\}\to X$ を包含とする。$F_a=f^{-1}(a)$ は固有な $f$ の $\{a\}$ の上のファイバーなので完備で、$\chi=g_*$ である($A(\{a\})=\mathbf Z$ と同一視する)。上の定理(局所自明な点でのファイバーへの制限の全射性)により $F_a\in V$ である。
段 2(横断性).$f\times j_a\colon E\times\{a\}\to X\times X$ が対角 $\Delta_X$ に横断的であることを確かめる。$(f\times j_a)^{-1}(\Delta_X)$ の点は $(e,a)$($e\in F_a$)で、そこでの像の接空間は $df_e(T_eE)\oplus0$ である。上の補題(局所自明な点のファイバー)の (2) により $df_e(T_eE)=T_aX$ なので、これと対角の接空間 $\{(w,w)\}$ で $T_aX\oplus T_aX$ が張られる。$E\times\{a\}$、$X\times X$、$\Delta_X$ は非特異なので、横断性の点ごとの条件が満たされる。
段 3(底変換).$E\times_X\{a\}=F_a$ で、$E$ への射影は $i_a$、$\{a\}$ への射影は $g$ である。引用する事実 3 により $j_a^*\circ f_*=g_*\circ i_a^*$、すなわち $j_a^*(f_*z)=\chi(i_a^*z)$ である。
段 4(点への引き戻しは増大).$X$ は非特異かつ連結なので、引用する事実 6 により既約で、引用する事実 1 により $A^0(X)=\mathbf Z\cdot1_X$ である。$j_a^*$ は次数を保つ単位的な環準同型なので、$A^0(X)$ の上で $1_X\mapsto1$、正の次数の成分の上で $A^i(\{a\})=0$($i>0$)への写像として $0$ である。ゆえに $j_a^*=\varepsilon$ で、段 3 と合わせて $\chi(i_a^*z)=\varepsilon(f_*z)$ を得る。
段 4 で底の連結性が使われる。連結でなければ $A^0(X)$ は連結成分の数だけの階数をもち、点への引き戻しは $a$ を含む成分の係数を拾うだけになる。原論文は Proposition 3 の系で「$X$ connexe」を仮定しており、これは原論文の空間が連結とも既約とも限らないという本書の読みと整合する。
上の証明で局所自明性を使うのは、段 1 の $F_a\in V$ と、段 2 の「$f$ の接写像が $F_a$ の各点で全射」の二か所だけである。したがって、$f$ が固有で $X$ が連結で、$f$ の接写像が $F_a$ の各点で全射であれば、局所自明でなくても同じ式 $\chi(i_a^*z)=\varepsilon(f_*z)$ が成り立つ。このとき $F_a\in V$ は引用する事実 3 が与える($X\times_SY\in V$ の部分。$F_a$ は $E$ の閉部分なので準射影的)。本書『2-3 多重切断と交叉数』の主結果「順像による核の消滅」は、この形の式を使う。本書は、この形を独立の主結果には立てない。
式 (1) があれば、点の類を持ち上げた元の順像は増大が $1$ になる。原論文はここから直ちに $f_*(z)=1_X$ と結論するが、そのためには $z$ の取り方に一言が要る。本書は、取り方に依らない形で示す。
$f\colon E\to X$($X,E\in V$)が点 $a$ で局所自明で、固有であり、$X$ が連結であるとする。このとき $f_*(z)=1_X$ となる $z\in A(E)$ があり、$r(z')=f_*(z\,z')$ で定まる $r\colon A(E)\to A(X)$ は $r\circ f^*=\mathrm{id}_{A(X)}$ を満たす。とくに $f^*$ は単射で、$A(E)=f^*A(X)\oplus\ker r$ であり、$f^*$ は $A(X)$ を $A(E)$ の直和因子の上へ同型に写す。
段 1(点の類の持ち上げ).$F_a$ は空でないので点 $p\in F_a$ をとり、その類を $[p]\in A(F_a)$ とする。上の定理(局所自明な点でのファイバーへの制限の全射性)により $i_a^*(z_0)=[p]$ となる $z_0\in A(E)$ がある。一点の順像は $1$ なので $\chi([p])=1$ で、上の定理(順像の増大とファイバーの次数)により $\varepsilon(f_*z_0)=1$ である。
段 2(順像は単元).$X$ は既約(引用する事実 6)なので $f_*z_0=1_X+n$、$n\in\bigoplus_{i\ge1}A^i(X)$ と書ける。$\dim X$ を超える余次元のサイクルは無いので $A^i(X)=0$($i>\dim X$)で、$A(X)$ は次数付き環だから $n^{\dim X+1}=0$ である。ゆえに $u=f_*z_0$ は単元で、$u^{-1}=\sum_{j=0}^{\dim X}(-n)^j$ である。
段 3($z$ の修正).$z=z_0\cdot f^*(u^{-1})$ とおく。射影公式(引用する事実 1)により $f_*(z)=f_*(z_0)\,u^{-1}=1_X$ である。
段 4(左逆写像).$x\in A(X)$ について、射影公式により $r(f^*x)=f_*(z\cdot f^*x)=f_*(z)\,x=x$ である。$r$ は加法的なので、$z'\in A(E)$ を $z'=f^*r(z')+\bigl(z'-f^*r(z')\bigr)$ と分ければ、後の項は $\ker r$ に入る。$f^*A(X)\cap\ker r$ の元 $f^*x$ は $x=r(f^*x)=0$ を満たす。ゆえに $A(E)=f^*A(X)\oplus\ker r$ で、$f^*$ は単射である。
原論文(印字 5-05)は、$i^*(z)$ が $A(F_a)$ の指定した元、とくに $\chi(i^*z)=1$ となる $z$ をとり、$\varepsilon(f_*z)=1$ から「すなわち $f_*(z)=1_X$」と結論する。しかし $\varepsilon(f_*z)=1$ が言うのは $f_*z$ の $A^0(X)$ 成分が $1_X$ であることだけで、正の次数の成分は残りうる。原論文の段を通すには、$z$ を斉次にとる一言が要る。たとえば $n$ を $p$ での $F_a$ の次元とし、$E$ が純次元 $\dim X+n$($E$ が連結ならこうなる)なら、$z$ を余次元 $n$ の斉次成分に替えても $i^*z$ は変わらず($i^*$ は次数を保ち $[p]\in A^n(F_a)$)、$f_*$ は余次元を $n$ だけ下げるので $f_*z\in A^0(X)$ となり、$f_*z=1_X$ が出る。本書は上の段 2・段 3 で、$f_*z_0$ が単元であることを使い、斉次性も純次元性も仮定せずに示した。原論文の段の書き落としで、主張は正しい。
原論文は系の直後に、固有性が本質的であると注意し、零でない点の全体をとった自明でない階数 1 のベクトル束を例に挙げる。本書はこれを主結果として立てる。
$X\in V$ を連結、$L$ を $X$ 上の直線束で $c_1(L)\ne0$ とし、$q\colon L^\times\to X$ を $L$ の全空間から零切断の像を除いた空間の射影とする。このとき $L^\times\in V$ で、$q$ は $X$ の各点で局所自明(ファイバーは $k^*$)であり、したがって各点 $a$ で $i_a^*\colon A(L^\times)\to A(q^{-1}(a))$ は全射である。一方 $q^*\colon A(X)\to A(L^\times)$ は単射でない。とくに上の定理(固有なファイバー空間の引き戻しは直和因子への同型)の結論は $q$ について成り立たない。
段 1($L^\times\in V$).$L$ の全空間は、$L\oplus\mathcal O_X$ の射影束(ファイバーの直線の空間)から $L\oplus0$ の射影束を除いた開部分と、$v\mapsto(v,1)$ の張る直線で同一視でき、準射影的である。$L$ の自明化の近傍 $U$ の上で $L|_U\cong U\times k$ なので非特異である。$L^\times$ はその開部分なので $L^\times\in V$ である。
段 2(局所自明性).同じ自明化で $q^{-1}(U)\cong U\times k^*$ となり、$q$ は第 1 射影に写る。ゆえに $q$ は $U$ の各点で局所自明で、ファイバーは空でない $k^*$ である。上の定理(局所自明な点でのファイバーへの制限の全射性)により各点で $i_a^*$ は全射である。
段 3(単射でない).引用する事実 4 により $\ker q^*=c_1(L)\,A(X)$ で、$c_1(L)=c_1(L)\cdot1_X$ はこれに属し、仮定により $0$ でない。ゆえに $q^*$ は単射でない。上の定理の結論は $q^*$ の単射性を含むので、成り立たない。
上の定理の証明が崩れるのは最初の段で、$q$ は固有でないので順像 $q_*$ が定義されず、点の類の持ち上げから左逆写像を作れない。局所自明性も底の連結性も満たされているので、崩れたのは固有性だけである。
原論文(印字 5-05)の例は「$X$ 上の自明でない階数 1 のベクトル束の零でない点の全体」である。引用する事実 5 により $\operatorname{Pic}(X)\cong A^1(X)$ で、$L$ が自明でないことと $c_1(L)\ne0$ は同じことを言う。本書は主張を $c_1(L)\ne0$ の形で述べ、核が $c_1(L)A(X)$ であることまで確かめた。$X$ が連結でなくても $q^*$ は単射でないが、連結を仮定したのは、上の定理の他の仮定がすべて満たされることを示すためである。
射影束では、系の $z$ が基本類の冪として具体的に書ける。零切断を除いた直線束は、固有性を外した主結果の最も小さい場合である。最後の反例は底の連結性を外す。局所自明でない束の例は次の頁にあり、そこでは上の定理(局所自明な点でのファイバーへの制限の全射性)を、どの点でも局所自明でないことの判定に使う(本書『2-2 被覆の次数と余核の消滅』の例「$\mathrm{PGL}(2)$ の束としての円錐曲線の族」)。
$X\in V$ を連結、$E$ を $X$ 上の階数 $p$ のベクトル束、$f\colon P(E)\to X$ をファイバーの直線の空間とし、$\xi_E=c_1(\mathcal O(1))$ とする。$E$ の自明化の近傍 $U$ の上で $P(E)|_U\cong U\times\mathbf P^{p-1}$ なので $f$ は局所自明で、射影束なので固有である。本書『0-4 Chow 環の枠組み』の定理「射影束公式と旗束の環」の (1) により $f_*(\xi_E^{\,p-1})=1_X$ で、系の $z$ として $\xi_E^{\,p-1}$ がとれる。実際、$c_1$ は引き戻しと両立するので、ファイバー $F_a\cong\mathbf P^{p-1}$ への制限 $i_a^*\xi_E$ は超平面の類 $h$ で、同じ定理を一点の上の束 $k^p$ に当てれば $\chi(h^{p-1})=1$、すなわち $h^{p-1}$ は点の類である。式 (1) も確かめられる。$0\le j\le p-2$ なら $h^j\in A^j$ で $j\ne p-1$ なので、0-4 の定義 (4) により $\chi(h^j)=0$ で、同じ定理により $f_*(\xi_E^{\,j})=0$ なので $\varepsilon(f_*\xi_E^{\,j})=0$ である。同じ定理は $1,\xi_E,\dots,\xi_E^{\,p-1}$ が $A(P(E))$ の $A(X)$ 加群としての基底であることも言うので、$f^*A(X)=A(X)\cdot1$ が直和因子であることはそこからも読める。
$X=\mathbf P^1$ を $k^2$ の直線の空間とし、$L=\mathcal O(-1)$ を同語反復的な直線束(点 $\ell$ の上のファイバーが直線 $\ell$ そのもの)とする。$L^\times=\{(\ell,v):v\in\ell,\ v\ne0\}$ は $v$ だけで決まるので、$L^\times\cong k^2-\{0\}$ で、$q$ は $v$ にその張る直線を対応させる射である。$A(\mathbf P^1)=\mathbf Z\cdot1\oplus\mathbf Z\cdot h$($h=c_1(\mathcal O(1))$ は点の類)で、$c_1(L)=-h\ne0$ である。上の定理(固有性は外せない)により $q^*$ の核は $h\,A(\mathbf P^1)=\mathbf Z\cdot h$($h^2\in A^2(\mathbf P^1)=0$)で、$A(k^2-\{0\})\cong A(\mathbf P^1)/\mathbf Zh=\mathbf Z$、$q^*(h)=0$ である。一方、ファイバー $q^{-1}(\ell)\cong k^*$ の Chow 環は $\mathbf Z$(本書『0-4 Chow 環の枠組み』の定理「アフィン空間の開集合との積」)で、$i^*$ は $1$ を $1$ に写すので全射である。$L=\mathcal O(1)$ でも同じ結論になる。直線束 $M$ について、$M^\times$ から $(M^\vee)^\times$ へ、ファイバーごとに $v$ を $v\mapsto1$ となる一次形式に写す写像は $X$ の上の同型なので、$\mathcal O(1)^\times\cong\mathcal O(-1)^\times\cong k^2-\{0\}$ である。
上の定理(固有なファイバー空間の引き戻しは直和因子への同型)から、底 $X$ の連結性を外す。$X=\{a,b\}$ を 2 点からなる空間、$E=\{a\}$、$f\colon E\to X$ を包含とする。$X,E\in V$ で、$f$ は閉埋め込みなので固有である。$\{a\}$ は $X$ の開集合で $f^{-1}(\{a\})=\{a\}\cong\{a\}\times\mathrm{pt}$ なので、$f$ は $a$ で局所自明で、ファイバー $F_a$ は 1 点である。上の定理(局所自明な点でのファイバーへの制限の全射性)は成り立つ($A(E)=\mathbf Z\to A(F_a)=\mathbf Z$ は恒等写像)。しかし $A(X)=\mathbf Z\cdot1_{\{a\}}\oplus\mathbf Z\cdot1_{\{b\}}$ で、$f^*(1_{\{b\}})=0$ なので $f^*$ は単射でなく、$f_*(A(E))=\mathbf Z\cdot1_{\{a\}}$ は $1_X=1_{\{a\}}+1_{\{b\}}$ を含まない。崩れたのは、上の定理(順像の増大とファイバーの次数)の段 4 の $A^0(X)=\mathbf Z\cdot1_X$ で、$X$ が連結でないと増大 $\varepsilon$ が一つに定まらない。同じ型の反例は、多重切断の系で底の連結性を足す所でも使われる(本書『2-3 多重切断と交叉数』の反例「反例:底の連結性を外すと系 1 は破れる」)。
以下は後代の結果の紹介である。本書は文献の該当箇所を確かめていない。
本頁が対応する原論文は Grothendieck Gro58c の §2 の前半である。
| 本頁 | 原論文 | 印字頁 |
|---|---|---|
| 背景と動機(Chow 環の枠組みの宣言) | §2 冒頭 | 5-04 |
| 定義(ファイバー空間と点での局所自明性)、補題(局所自明な点のファイバー) | Proposition 3 の設定 | 5-04 |
| 定理(局所自明な点でのファイバーへの制限の全射性)、注意(証明の段の番号の名残) | Proposition 3 とその証明 | 5-04 |
| 定理(順像の増大とファイバーの次数)、注意(式 (1) の証明が使うこと) | Proposition 3 の系の証明、式 (1) | 5-04〜5-05 |
| 定理(固有なファイバー空間の引き戻しは直和因子への同型)、注意(原論文の段の書き落としと斉次成分) | Proposition 3 の系とその証明 | 5-04〜5-05 |
| 定理(固有性は外せない)、注意(自明でない直線束と第一 Chern 類) | 系の後の注意 | 5-05 |
| 例(射影束の場合)、例(射影直線の上の零切断を除いた直線束)、反例(連結性を外すと直和因子の主張は崩れる) | (原論文には無い。主結果を確かめるための例) | — |
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