連結可解群をその閉連結部分群で割った空間が、トーラスの上の自明なファイバー空間で、ファイバーがアフィン空間になることを示し、そこから等質空間がアフィン空間とトーラスの積、したがってアフィン空間の開集合に同型であることを導く。ファイバーがアフィン空間であることの証明は、前の頁の主束の自明性を単冪群の正規化群の列に沿って使う二重の帰納法である。
前提知識: 可解群, 単冪群, トーラス, 等質空間, 半直積, 主ファイバー空間
$k$ は代数的閉体で、標数は任意である。$R$ を連結可解アフィン群、$R'$ をその閉連結部分群とし、$N=R_u$、$N'=R'_u$ をそれぞれの単冪な元の全体(単冪部分)、$T'$ を $R'$ の極大トーラス、$T\supset T'$ を $R$ の極大トーラスとする。$R=T\cdot N$、$R'=T'\cdot N'$ は半直積で、$R/N\cong T$、$R'/N'\cong T'$ から自然な射 $p\colon R/R'\to T/T'$ が定まる(下の定義)。
本頁の主結果は次の二つである。
原論文の第 1 節の題は「可解アフィン群の等質空間」で、前の頁の Proposition 1 はこの頁の Proposition 2 のための準備として置かれている。連結可解群 $R$ はトーラス $T$ と単冪部分 $N$ の半直積で、閉連結部分群 $R'$ も同じ形 $T'\cdot N'$ をもつ。等質空間 $R/R'$ はトーラスの部分 $T/T'$ と単冪の部分 $N/N'$ に分かれ、しかもその分かれ方は自明である、というのが Proposition 2 の (i) である。
単冪の部分がアフィン空間になるという (ii) は、単冪群が 1 次元の加法群から積み上がっていることの幾何的な現れである。$N'$ を含む連結な正規化群 $N''$ をとると、$N/N'$ は $N/N''$ の上の構造群 $N''/N'$ の主束になる。$N''/N'$ は連結単冪群で、底 $N/N''$ は帰納法でアフィン空間なので、前の頁の Proposition 1 によりこの主束は自明で、$N/N'$ は二つのより小さい等質空間の積になる。原論文の証明はこの帰納法を $\dim N$ と $\dim N-\dim N'$ の二重の帰納法として書く(印字 5-03〜5-04)。
系は、$R/R'$ がアフィン空間とトーラスの積 $k^m\times k^{*r}$ で、アフィン空間の開集合に同型であることを言う。原論文は二つの指数を同じ文字で打つが、二つの次元は一般に異なる(下の注意)。この系は後の章で二度使われる。本書『2-2 被覆の次数と余核の消滅』の主結果「連結線形群の元と単位元を結ぶ直線(訂正形)」は、Borel 部分群の中で元と単位元をアフィン直線の開集合でつなぐのにこれを使う。本書『4-2 特性部分環と引き戻しの像』の主結果「Borel 部分群の間の引き戻しと指標の制限」は、二つの Borel 部分群の商がアフィン空間の開集合であることから、Chow 環の引き戻しの全射性を引き出す。
主結果の記号を定める。等質空間は本書『0-2 線形代数群と旗多様体』の定理「等質空間の基本」の意味の商で、ここでは射の存在と一意性を前の頁の補題(部分群による商の束)の 3 の形で使う。
$R$ を連結可解アフィン群、$R'$ をその閉連結部分群とする。$N=R_u$、$N'=R'_u$ を単冪部分、$T'$ を $R'$ の極大トーラス、$T$ を $T'$ を含む $R$ の極大トーラスとする(下の引用する事実 1 によりとれる)。$R=T\cdot N$ と $R'=T'\cdot N'$ は半直積で、$N'=R'\cap N$ である。射影 $R\to R/N\cong T\to T/T'$ は $R'=T'N'$ の右からの作用で不変なので、射 $p\colon R/R'\to T/T'$、$p(tnR')=tT'$($t\in T$、$n\in N$)を定める。
$p$ が射になることは、$R\to R/R'$ が局所切断をもつこと(引用する事実 3)と前の頁の補題(部分群による商の束)の 3 から分かる。以下、主張 (i) の自明化を具体的に書くために、$T$ の中に $T'$ の補トーラスをとる。
トーラス $T$ の連結閉部分群 $T'$ について、$T$ の閉部分群 $T''$ で次をみたすものがある。$T''$ はトーラスで、積 $T''\times T'\to T$、$(t'',t')\mapsto t''t'$ は代数群の同型である。とくに $T/T'\cong T''$ で、$T'$ もトーラスであり、$\dim T''=\dim T-\dim T'$ である。
段 1(座標の取り替え).$n=\dim T$ とする。第 7 巻『アフィン代数群と可換アフィン代数群』の頁『3-1 トーラスの関数環と閉部分群』の主結果「トーラスの閉部分群の構造」の 3・4 により、$T$ の有理指標の群 $\hat T\cong\mathbf Z^n$ の基底 $e_1,\dots,e_n$ と正の整数 $d_1,\dots,d_s$($0\le s\le n$)があって、$\varphi=(e_1,\dots,e_n)\colon T\to k^{*n}$ は代数群の同型で、$\varphi(T')=\{y:y_i^{d_i}=1\ (1\le i\le s)\}=\mu_{d_1}\times\dots\times\mu_{d_s}\times k^{*(n-s)}$ である。
段 2(連結性から $d_i=1$).ある $d_i>1$ なら、第 $i$ 成分への射影 $\varphi(T')\to\mu_{d_i}$ は $d_i$ 個の点からなる有限集合への全射な射で、各点の逆像は $\varphi(T')$ を互いに交わらない $d_i$ 個の閉集合に分ける。これは $T'$ の連結性に反する。ゆえに $d_1=\dots=d_s=1$ で、$\varphi(T')=\{1\}^s\times k^{*(n-s)}$ である。
段 3(補トーラス).$T''=\varphi^{-1}(k^{*s}\times\{1\}^{n-s})$ とおく。$k^{*n}=(k^{*s}\times\{1\}^{n-s})\times(\{1\}^s\times k^{*(n-s)})$ は座標の分け方による代数群の直積なので、$\varphi$ で引き戻して $T''\times T'\to T$ は代数群の同型である。$T''\cong k^{*s}$、$T'\cong k^{*(n-s)}$ はトーラスで、$\dim T''=s=\dim T-\dim T'$ である。$T/T'\cong T''$ は、$T\cong T''\times T'$ の第 1 成分への射影が $T'$ の剰余類の上で一定で、その剰余類をちょうどファイバーとすることから分かる。
補トーラスは一つに決まらない。どの部分トーラスが補トーラスになるかは指標群の基底の取り方で決まり、見かけの次元が合うだけでは足りない(下の例「トーラスの商」)。
原論文は補トーラスの存在を、文献 [4](Gro56、第 7 巻の原典)の「定理 2 の系 3・4、p. 4」から「容易に」出るとする(印字 5-02)。第 7 巻の実物では、系 3 は印字 4-06〜4-07、系 4 は印字 4-07 にあり、「p. 4」との対応は本書では確かめていない。系 3 は a)〜c) の三項目からなり、補トーラスに関わる c)(閉部分群と指標群の部分群の対応)は第 7 巻『アフィン代数群と可換アフィン代数群』の頁『3-2 指標群との双対性』の主結果「閉部分群と指標群の部分群の対応」で、第 7 巻の基準では[条件付き]である。系 4(有理準同型と指標群の準同型の対応)は同じ頁の主結果「準同型の群と指標群の準同型の群」である。本書はそれを経ず、同じ第 7 巻の頁『3-1 トーラスの関数環と閉部分群』の主結果「トーラスの閉部分群の構造」(系 1 の後の観察。第 7 巻で完結)から上の補題を導いた。補トーラスが存在するという結論は、どちらの経路でも同じである。
次の事実は証明せずに引用する。出典は Borel Bor56、原論文が引く Grothendieck Gro56・Gro58car、Rosenlicht Ros57 で、現代の標準は Bor91、Hum75 である。要点は本書『0-2 線形代数群と旗多様体』の定理「連結単冪群と連結可解群の構造」の (1)〜(5)(事実 1・2)、定理「等質空間の基本」の (1)(2)(事実 4。アフィン群の閉正規部分群による商がアフィン群であることは (2) の後半)、定理「Rosenlicht の局所切断」(事実 3)にある。どの文献についても、該当箇所は本頁では確認していない。
$N$ を連結単冪アフィン群、$N'\subset N''$ をその連結閉部分群とし、$N'$ は $N''$ の正規部分群であるとする。$N/N'\to N/N''$、$nN'\mapsto nN''$ は、$N''/N'$ の $N/N'$ への右作用 $nN'\cdot hN'=nhN'$ について、構造群 $N''/N'$ の局所自明な主束である。$N''/N'$ は連結単冪アフィン群である。
段 1(二つの主束).$N''$、$N'$ は連結単冪なので可解で、引用する事実 3 により $N\to N/N''$ は構造群 $N''$ の局所自明な主束、$N''\to N''/N'$ は構造群 $N'$ の局所自明な主束である。$N'$ は $N''$ で正規なので、引用する事実 4・2 により $N''/N'$ は連結単冪アフィン群である。
段 2(商の束).本書『1-1 単冪群を構造群とする主束』の補題(部分群による商の束)を、$P=N$、$X=N/N''$、$G=N''$、$H=N'$ に当てる。その 1 により $N/N''$ の上の構造群 $N''/N'$ の局所自明な主束 $P/H$ が得られ、その 2 により $N\to P/H$ は構造群 $N'$ の局所自明な主束である。
段 3($P/H$ と $N/N'$ の同一視).$N\to N/N'$ も構造群 $N'$ の局所自明な主束である(引用する事実 3)。同じ補題の 3 により、$N$ から $N'$ の軌道の上で一定な射は $P/H$ と $N/N'$ のどちらをもただ一通りに経由するので、$N\to N/N'$ と $N\to P/H$ は互いに射を与え合い、それらの合成は恒等である。ゆえに $N/N'\cong P/H$ で、この同一視のもとで $N''/N'$ の作用と $N/N''$ への射は上に書いたものになる。
右作用 $nN'\cdot hN'=nhN'$ が矛盾なく定まるのは、$h\in N''$ が $N'$ を正規化するからである($nn'h=nh(h^{-1}n'h)$ で、$h^{-1}n'h\in N'$)。二重の帰納法では、この主束を前の頁の主結果で自明にする。
半直積の座標で $R$ の元を $t''t'n$ と書けば、$R'$ の右からの作用は $t'$ と $n$ の部分だけを動かし、$t''$ を動かさない。$t'$ を $n$ の側へ共役で移すと、$R'$ の軌道は $(t'',nN')$ の組で決まることが分かる。
上の定義(連結可解群の分解と等質空間の射影)の記号で、$T''$ を上の補題(部分トーラスの補トーラス)の補トーラスとし、$T/T'$ を $T''$ と同一視する。
段 1(座標).上の補題(部分トーラスの補トーラス)により $T''\times T'\to T$ は同型で、引用する事実 1 により $T\times N\to R$ は多様体の同型である。ゆえに $\mu\colon T''\times T'\times N\to R$、$(t'',t',n)\mapsto t''t'n$ は多様体の同型である。
段 2($f$ の構成).$f_0\colon T''\times N\to R/R'$ を $f_0(t'',n)=t''nR'$ で定める。$n'\in N'\subset R'$ について $f_0(t'',nn')=f_0(t'',n)$ である。$N'$ は連結単冪なので、引用する事実 3 により $N\to N/N'$ は局所自明で、$T''$ との積 $T''\times N\to T''\times(N/N')$ も構造群 $N'$ の局所自明な主束である。本書『1-1 単冪群を構造群とする主束』の補題(部分群による商の束)の 3 により、$f_0$ は射 $f\colon T''\times(N/N')\to R/R'$ を経由する。
段 3($g$ の構成).$N$ は $R$ で正規なので $t'nt'^{-1}\in N$ で、$g_0\colon R\to T''\times(N/N')$ を $g_0(t''t'n)=(t'',\,t'nt'^{-1}N')$ で定める。これは $\mu^{-1}$ と積・逆元・商の射の合成なので射である。$r=t''t'n\in R$、$r'=t'_1n'\in R'$($t'_1\in T'$、$n'\in N'$)について
$$rr'=t''\,(t't'_1)\,(t_1'^{-1}nt'_1n')$$
で、右辺は $\mu$ の座標の形($t't'_1\in T'$、$t_1'^{-1}nt'_1n'\in N$)である。ゆえに
$$g_0(rr')=\bigl(t'',\;(t't'_1)(t_1'^{-1}nt'_1n')(t't'_1)^{-1}N'\bigr)=\bigl(t'',\;(t'nt'^{-1})\,\bigl(t't'_1n't_1'^{-1}t'^{-1}\bigr)N'\bigr).$$
後の因子 $t't'_1n't_1'^{-1}t'^{-1}$ は、$N'$ の元 $n'$ を $T'$ の元 $t't'_1$ で共役したもので、$N'$ は $R'$ で正規なので $N'$ に属する。したがって $g_0(rr')=g_0(r)$ である。$R'$ は連結可解なので、引用する事実 3 により $R\to R/R'$ は局所自明で、同じ補題の 3 により $g_0$ は射 $g\colon R/R'\to T''\times(N/N')$ を経由する。
段 4(互いに逆).$g(f(t'',nN'))=g(t''nR')=g_0(t''\cdot e\cdot n)=(t'',nN')$ である。逆に $x=t''t'nR'$ について $f(g(x))=t''(t'nt'^{-1})R'=t''t'n\,t'^{-1}R'=t''t'nR'$($t'^{-1}\in R'$)である。ゆえに $f$ は同型で、$g$ がその逆である。
段 5($p$ との両立).$p(f(t'',nN'))=p(t''nR')=t''T'$ で、これは同一視 $T/T'\cong T''$ のもとで $t''$ に当たる。これで 1 が示された。
段 6(2 の帰納法の設定).主張「連結単冪アフィン群 $N$ とその連結閉部分群 $N'$ について $N/N'\cong k^{\dim N-\dim N'}$」を、$n=\dim N$ についての帰納法で示す。$n$ を固定し、次元が $n$ 未満の群とその連結閉部分群の組ではすべて成り立つとして、$d=\dim N-\dim N'$ についての帰納法で示す。連結な代数群は既約なので、$N'\subsetneq N$ なら $\dim N'<\dim N$ であることを以下で使う。
段 7($d=0$).$\dim N'=\dim N$ なので $N'=N$ で、$N/N'$ は 1 点、すなわち $k^0$ である。
段 8($d>0$、正規化群による分解).$N'\ne N$ なので、引用する事実 2 により $N'$ の正規化群の単位成分 $N''$ は $N'$ より真に大きく、$N'$ は $N''$ の正規部分群である。上の補題(正規化群を経由する主束)により、$N/N'\to N/N''$ は構造群 $N''/N'$(連結単冪アフィン群)の局所自明な主束である。$\dim N-\dim N''< d$ なので、$d$ についての帰納法の仮定により $N/N''\cong k^{\dim N-\dim N''}$ で、とくにアフィンである。本書『1-1 単冪群を構造群とする主束』の主結果「単冪群の主束はアフィンな底の上で自明」によりこの主束は自明で、$N/N'\cong(N/N'')\times(N''/N')$ である。残るのは $N''/N'\cong k^{\dim N''-\dim N'}$ を示すことである。
段 9($N''\ne N$ の場合).$\dim N''< n$ なので、$n$ についての帰納法の仮定を組 $(N'',N')$ に当てればよい。
段 10($N''=N$ で $N'\ne\{e\}$ の場合).$N'$ は $N$ の正規部分群で、引用する事実 4・2 により $Q=N/N'$ は次元 $d$ の連結単冪アフィン群である。$N'$ は連結で $\{e\}$ でないので $\dim N'>0$、ゆえに $d< n$ で、$n$ についての帰納法の仮定を組 $(Q,\{e\})$ に当てると $Q\cong k^d$ である。
段 11($N'=\{e\}$ の場合).$N$ 自身が $k^n$ に同型であることを示す。$n=1$ なら引用する事実 2 により $N\cong\mathbf G_a=k$ である。$n\ge2$ なら、引用する事実 2 により $\{e\}$ とも $N$ とも異なる連結閉正規部分群 $N_1$ がある。$N\to N/N_1$ は構造群 $N_1$ の局所自明な主束(引用する事実 3)で、底 $N/N_1$ は次元が $n$ 未満の連結単冪アフィン群なので、$n$ についての帰納法の仮定により $k^{n-\dim N_1}$ に同型である。前の頁の同じ主結果によりこの主束は自明で、$N\cong(N/N_1)\times N_1$ である。$\dim N_1< n$ なので、帰納法の仮定により $N_1\cong k^{\dim N_1}$ で、$N\cong k^n$ を得る。
段 2〜4 の計算は、原論文が「ただちに確かめられる」とした部分を書き出したものである。二重の帰納法の各段で前の頁の主結果が使われるのは段 8 と段 11 で、どちらも底がアフィン空間であることを帰納法の仮定から得てから使う。前の頁で直した帰納法の順序(先に底のアフィン性を確かめる)が、ここでも同じ形で現れている。
原論文の Proposition 2 の証明には、記号の打ち損じが四つある。(a) 印字 5-02 で、$T/T'$ を補トーラスと同一視する先が「$T^*$」に近い字形で打たれているが、直前で置いた $T''$ と読む。(b) 印字 5-03 で、$(t'',t',n)\mapsto t''t'n$ が「$G$ への」同型と書かれているが、Proposition 2 に $G$ は現れないので $R$ と読む。(c) 同じ頁の $g_0(rr')$ の最後の式で、第 1 成分が「$t^*$」に近い字形で打たれ、左の括弧が落ちているが、直前の式と同じ $(t'',\,t'nt'^{-1}\bmod N')$ と読む。(d) 同じ頁の (ii) の証明の冒頭の帰納法の変数は「$\dim(N')=n$」と打たれているが、直後に「$n=1$ なら $N$ は $k$ に同型」と続き、別に $d=\dim N-\dim N'$ を置くので、$\dim N=n$ と読む。どれも証明の筋に影響しない。
主結果 1 の二つの部分を合わせ、補トーラスがトーラスであることを使えば、等質空間の形がそのまま読み取れる。
上の定義(連結可解群の分解と等質空間の射影)の記号で、$m=\dim N-\dim N'$、$r=\dim T-\dim T'$ とおく。$R/R'$ は多様体として $k^m\times k^{*r}$ に同型で、したがってアフィン空間 $k^{m+r}$ の開集合に同型である。
上の定理(可解群の等質空間のファイバー構造)の 1・2 により $R/R'\cong T''\times(N/N')\cong T''\times k^m$ である。上の補題(部分トーラスの補トーラス)により $T''$ は $\dim T''=r$ のトーラス、すなわち $k^{*r}$ に同型である。$k^{*r}=\{x\in k^r:x_1\cdots x_r\ne0\}$ は $k^r$ の開集合なので、$k^m\times k^{*r}$ は $k^{m+r}$ の開集合である。
これで、連結可解群の等質空間は、次元 $m+r$ のアフィン空間の中の、座標の積の零点を除いた開集合として実現された。とくに $R/R'$ はアフィンで既約であり、その正則関数は $m+r$ 個の変数と $r$ 個の変数の逆元の多項式である。後の章では、この形から、元と単位元を結ぶ直線と、Chow 環の引き戻しの全射性が引き出される(本書『2-2 被覆の次数と余核の消滅』、本書『4-2 特性部分環と引き戻しの像』)。
原論文の系(印字 5-02)は $R/R'$ を「$k^n\times k^{*n}$」、それを含むアフィン空間を「$k^{n+n}$」と打つ。二つの指数は $N/N'$ の次元 $m$ と $T/T'$ の次元 $r$ で、一般に異なる(下の例「上三角群を対角群で割った空間」の (b) では $m=1$、$r=2$)。原論文は (ii) では $k^m$ と書いているので、系は $k^m\times k^{*r}$、$k^{m+r}$ と読む。原論文はトーラスの商がトーラスであることを文献 [4](Gro56)に委ねるが、本書では上の補題(部分トーラスの補トーラス)がこれを与える。
主結果の構成を、一般線形群の上三角群とトーラスで具体的に見る。最後の反例は可解性を外す。
$R=B$ を $\mathrm{GL}(2)$ の上三角行列の群とする。$R$ は連結可解で、$T$ は対角行列の群、$N=\left\{\left(\begin{smallmatrix}1&x\\0&1\end{smallmatrix}\right)\right\}\cong k$ である。
(a) $R'=T$ のとき.$N'=\{e\}$、$T'=T$、$T''=\{e\}$ で、$m=1$、$r=0$ である。$\left(\begin{smallmatrix}a&b\\0&d\end{smallmatrix}\right)=\mathrm{diag}(a,d)\left(\begin{smallmatrix}1&b/a\\0&1\end{smallmatrix}\right)$ なので、上の定理(可解群の等質空間のファイバー構造)の証明の $g_0$ は $\mathrm{diag}(a,d)\left(\begin{smallmatrix}1&b/a\\0&1\end{smallmatrix}\right)\mathrm{diag}(a,d)^{-1}=\left(\begin{smallmatrix}1&b/d\\0&1\end{smallmatrix}\right)$、すなわち $b/d$ を与える。実際、$\mathrm{diag}(s,u)$ を右から掛けると $(b,d)$ は $(bu,du)$ に移り、$b/d$ は変わらない。こうして $B/T\cong k$ で、$f$ は $x\mapsto\left(\begin{smallmatrix}1&x\\0&1\end{smallmatrix}\right)T$ である。
(b) $R'=\{e\}$ のとき.$m=1$、$r=2$ で、$B\cong k^{*2}\times k$ は $\left(\begin{smallmatrix}a&b\\0&d\end{smallmatrix}\right)\mapsto(a,d,b)$ で与えられる。二つの指数 $m$、$r$ は異なる。
(c) $R'$ がスカラー行列の群 $\{\mathrm{diag}(t,t)\}$ のとき.$T'=R'$、$N'=\{e\}$ で、補トーラスとして $T''=\{\mathrm{diag}(x,1)\}$ がとれ、$m=r=1$ である。$\left(\begin{smallmatrix}a&b\\0&d\end{smallmatrix}\right)\mapsto(a/d,\,b/d)$ はスカラー倍で不変で、$B/R'\cong k^*\times k$ を与える。
$R=k^{*2}$ とする($N=\{e\}$ で、$m=0$)。
(a) $R'=\{(t,t)\}$ のとき.$T''=\{(x,1)\}$ は補トーラスで、$(x,y)=(x/y,1)\cdot(y,y)$ と一意に書ける。$R/R'\cong k^*$ は $(x,y)\mapsto x/y$ で与えられ、$r=1$ である。$\{(1,y)\}$ も補トーラスで、補トーラスは一つに決まらない。
(b) $R'=\{(t,t^2)\}$ のとき.$\{(1,y)\}$ は補トーラスで、$(a,b)=(1,b/a^2)\cdot(a,a^2)$ と一意に書ける。一方 $\{(x,1)\}$ は次元が合うが、補トーラスではない。$R'$ との交わりは $t^2=1$、$x=t$ で決まる。標数が $2$ でなければ、交わりは位数 $2$ の部分群 $\{(1,1),(-1,1)\}$ で、積 $(x,t)\mapsto(xt,t^2)$ は $(a,b)$ の上に $t=\pm\sqrt b$ の二つの逆像をもつ。標数 $2$ では $t^2=1$ の解は $t=1$ だけなので交わりは単位元だけで、積は全単射だが、逆写像が $t=\sqrt b$ を含むので射でない。どちらの標数でも積は代数群の同型にならない。上の補題(部分トーラスの補トーラス)の証明では、補トーラスは指標群 $\mathbf Z^2$ の基底 $e_1=X_2X_1^{-2}$、$e_2=X_1$($R'$ の上で $e_1=1$)から $T''=\{e_2=1\}=\{(1,y)\}$ と定まる。
主結果 2 から群の可解性を外す。$G=\mathrm{SL}(2)$ は可解でない。実際、可解なら引用する事実 1 により単冪な元の全体 $G_u$ は部分群である。行の基本変形により $\mathrm{SL}(2)$ は単冪な元 $\left(\begin{smallmatrix}1&x\\0&1\end{smallmatrix}\right)$、$\left(\begin{smallmatrix}1&0\\x&1\end{smallmatrix}\right)$ で生成されるので $G_u=\mathrm{SL}(2)$ となるが、$t\ne1$ の $\mathrm{diag}(t,t^{-1})$ は単冪でない。$G$ を連結閉部分群 $B$ で割ると、第 1 列の張る直線を対応させる写像により $\mathrm{SL}(2)/B\cong\mathbf P^1$ である(本書『0-2 線形代数群と旗多様体』の例「一般線形群と特殊線形群の旗多様体」)。$\mathbf P^1$ はアフィン空間のどの開集合にも同型でない。実際、$\mathbf P^1$ の正則関数は定数だけである(本書『1-1 単冪群を構造群とする主束』の例「加法群の主束と構造層の 1 次コホモロジー」の (a))から、$\mathbf P^1$ から $k^{m+r}$ への射は座標がすべて定数で、1 点に潰れる。開集合への同型は単射なので、2 点以上をもつ $\mathbf P^1$ はそれに同型になり得ない。壊れたのは主結果 1 の出発点である半直積 $R=T\cdot N$ で、$\mathrm{SL}(2)$ はトーラスと単冪部分の積に分かれない。
以下は後代の結果の紹介である(本書が文献を開いて確かめていないものはそう書く)。
本頁が対応する原論文は Torsion homologique et sections rationnelles Gro58c の第 1 節の後半である。
| 本頁 | 原論文 | 印字頁 |
|---|---|---|
| 定義(連結可解群の分解と等質空間の射影) | Proposition 2 の設定 | 5-01〜5-02 |
| 定理(可解群の等質空間のファイバー構造) | Proposition 2 の (i)(ii) とその証明 | 5-02〜5-04 |
| 補題(部分トーラスの補トーラス)、注意(原論文が引く文献の所在と本書の経路) | (i) の証明の冒頭の補トーラス | 5-02 |
| 補題(正規化群を経由する主束) | (ii) の証明の「付随する束」 | 5-03 |
| 注意(印字の読み(Proposition 2 とその証明)) | (i)(ii) の証明の記号 | 5-02〜5-03 |
| 定理(可解群の等質空間はアフィン空間とトーラスの積)、注意(系の指数の印字) | Proposition 2 の系 | 5-02 |
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