半単純群の旗多様体の Chow 環が、Borel 部分群の軌道の閉包の類(後代の Schubert 類)で生成されることを示し、それが基底をなし積の係数が根系だけで決まるという Chevalley の結果を引用する。これを使って、捩れのない半単純群は特殊線形群と斜交群の積に限るという Chevalley–Bott の補題を、原論文の略証どおり複素数体の上の位相的な結果に帰着して述べ、Dynkin 図式による判定にまとめる。補題は第 5 章の超越的な結果に依るので、本書は「原論文はこう述べる」の形で扱う。
前提知識: Bruhat分解, Schubert多様体, Weyl群, Dynkin図式, 半単純代数群, 単連結, Chow環
$k$ は代数的閉体で、標数は任意である。$G$ を連結半単純群、$T\subset B$ を極大トーラスと Borel 部分群、$W=N(T)/T$ を Weyl 群、$N=\dim G/B$ とする。$w\in W$ の $B$ 軌道(Bruhat 胞体)を $X_w=Bg_wB/B$、その次元を $\ell(w)$ とし(本書『0-2 線形代数群と旗多様体』の定義(Weyl 群・Bruhat 胞体・単連結))、閉包 $\overline{X_w}$ の類を
$$z(w)=[\overline{X_w}]\in A^{N-\ell(w)}(G/B)$$
と書く(後代の Schubert 類。原論文は名を付けず $z(w)$ と書く)。特性準同型 $c_G$、捩れなしは本書『4-1 特性準同型と特性部分環』のとおりである。連結線形群 $G$ が半単純でなくても、$G/B\cong\bar G/\bar B$($\bar G=G/R$、$\bar B=B/R$)なので、以下の $A(G/B)$ についての主張はそのまま当てはまる。原論文はこの $\bar G$ と、その単連結な被覆 $\tilde G$ を、どちらも $G'$ と書く(本書『0-5 記号と約束』の記号の衝突の読み分け)。本頁の $\bar G$、$\tilde G$ はこの二つの意味で、$G'$ は使わない。
本頁の主結果は次の四つである。
原論文の Théorème 3(本書『6-3 特別群の特徴づけ』)の十分性は、捩れのない連結アフィン群 $G$ の旗多様体に、積の次数が $1$ になる正因子の類があるという Lemme 8 に帰着された(印字 5-22)。原論文はまず、Lemme 8 の仮定と結論が $G$ を $\bar G=G/R$ に替えても変わらないこと($G/B\cong\bar G/\bar B$)を述べ、次に単連結な半単純群 $\tilde G$ と、根の指数がすべて $1$ の同種写像 $\tilde G\to\bar G$ をとって、$\tilde G/\tilde B\cong\bar G/\bar B$ を示す(印字 5-22〜5-23)。原論文によれば、捩れなしの仮定は「$A(G/B)$ が次数 $1$ の元で生成される」という形でしか使わないので、こうして $G$ は単連結な半単純群で $A(G/B)$ が次数 $1$ で生成されるもの、すなわち捩れのない半単純群としてよい。そこで原論文が述べるのが Lemme 9 である(印字 5-23)。
Lemme 9 により Lemme 8 は $\mathrm{SL}(n)$ と $\mathrm{Sp}(n)$ の場合に帰着され、その二つは直接の計算で確かめられる(本書『6-1 特殊線形群と斜交群の旗多様体』)。原論文は Lemme 9 の証明の「原理」を示す(印字 5-25〜5-26)。旗多様体の Chow 環は Borel 部分群の軌道の閉包の類で生成され、Chevalley によればそれは基底で、積の係数は基礎体に依らない。したがって次数 $1$ の生成を問うには複素数体の上の群で調べれば足り、そこでは位相的な方法(原論文 §6、本書の第 5 章)が使える、という筋である。原論文は §5 の注意 1° で、この証明が超越的な性格のものであると断り、Chevalley の公式を使う代数的な検証は「原理的には」可能だが計算が「解きほぐせないほど複雑」に見えると述べる(印字 5-26)。
本書は章の順を原論文と入れ替え、原論文 §6 の位相的な結果を第 5 章に先に置いた(本書『0-1 本書の読み方』)。これで、本頁の Lemme 9 の証明が引くのはすべて前の頁になる。
Schubert 類は上の「この頁で示すこと」の設定で定めた。$\overline{X_w}$ は一般に特異なので、その類は既約な閉部分集合の類(本書『0-4 Chow 環の枠組み』の定義「非特異準射影空間の Chow 環」の (2))として考える。$w_0$ を $\ell(w_0)=N$ となる元(ただ一つ)とすると $z(w_0)=1_{G/B}$、単位元 $e$ について $X_e$ は一点 $eB$ で $z(e)=[\mathrm{pt}]$ である。
次の事実は証明せずに引用する。出典は、旗多様体の胞体については原論文が引く講演 Laz58、単連結な被覆については Che58ex、Chevalley の結果については原論文の紙面(公式も文献番号も無い)とその後に公刊された Che94、位相的な結果については本書の第 5 章が引く文献である。要点は本書『0-2 線形代数群と旗多様体』と本書『0-4 Chow 環の枠組み』にある。どの文献についても、該当箇所は本頁では確認していない。
$G$ を連結半単純群とする。
(1) $G$ が捩れなしであることと、次の (a)(b) がともに成り立つことは同値である。(a) $c_G\colon\hat T\to A^1(G/B)$ は全射である。(b) $A(G/B)$ は環として $A^1(G/B)$ で生成される。
(2) (a) は $G$ が単連結であることと同値である。
段 1(捩れなしから (a)(b)).$c_G\colon S(\hat T)\to A(G/B)$ は次数付き環準同型で、$S^1(\hat T)=\hat T$ を $A^1$ に写す(本書『4-1 特性準同型と特性部分環』の主結果「特性準同型の環準同型への延長」)。全射なら、次数 $1$ の成分を比べて (a) を得る。また $A(G/B)=\operatorname{Im}c_G$ は $c_G(\hat T)\subset A^1(G/B)$ の生成する部分環なので (b) を得る。
段 2((a)(b) から捩れなし).(b) により $A(G/B)$ は $A^1(G/B)$ の生成する部分環で、(a) により $A^1(G/B)=c_G(\hat T)\subset\operatorname{Im}c_G$ である。$\operatorname{Im}c_G$ は部分環なので $A(G/B)$ 全体である。
段 3(単連結なら (a)).引用する事実 2 の最初の主張である。
段 4((a) なら単連結).引用する事実 2 の $u\colon\tilde G\to G$ をとる。$u(\tilde T)=T$ なので、$u^*\colon\hat T\to\hat{\tilde T}$、$\chi\mapsto\chi\circ u$ は単射である。本書『4-1 特性準同型と特性部分環』の主結果「準同型と特性準同型の両立」により $\bar u^*c_G(\chi)=c_{\tilde G}(u^*\chi)$ で、$\bar u^*\colon A(G/B)\to A(\tilde G/\tilde B)$ は同型、$c_{\tilde G}\colon\hat{\tilde T}\to A^1(\tilde G/\tilde B)$ は同型(事実 2)である。したがって (a) が成り立てば $u^*$ は全射で、$\hat T\cong\hat{\tilde T}$ である。$u$ は根の指数がすべて $1$ なので、$u^*$ は $G$ の根を $\tilde G$ の根に一対一に写し、根系から決まる重み格子を重み格子に写す。$\hat{\tilde T}$ は重み格子の全体なので、$\hat T$ も重み格子の全体で、$G$ は単連結である(本書『0-2 線形代数群と旗多様体』の定義(Weyl 群・Bruhat 胞体・単連結))。
原論文は、胞体の閉包の類が Chow 環を生成することを「すでに注意した」とし、前の講演の Proposition 7 と $A(k^n)=\mathbf Z$ から出ると書く(印字 5-25)。前の講演の Proposition 7(第 6 巻の主結果「層別による生成」)は閉部分の列がどれも非特異であることを求め、胞体の閉包は一般に特異なので、そのままは当たらない。本書は本書『0-4 Chow 環の枠組み』の命題「胞体分割による生成」で受ける。
連結半単純群 $G$ について、$z(w)$($w\in W$)は $A(G/B)$ を加法群として生成する。とくに $A(G/B)$ は階数 $|W|$ 以下の有限生成自由加群の商で、$A^N(G/B)=\mathbf Z\cdot z(e)=\mathbf Z[\mathrm{pt}]$、$A^0(G/B)=\mathbf Z\cdot z(w_0)=\mathbf Z\cdot1$ である。
段 1(胞体は局所閉).引用する事実 1 により、$\overline{X_w}$ は $X_w$ と次元が $\ell(w)$ より小さい軌道 $X_v$ の和である。そのような $X_v$ の閉包 $\overline{X_v}$ は、同じ事実により $X_v$ と次元が $\ell(v)$ より小さい軌道の和なので、$X_w$ と交わらない。したがって $X_w=\overline{X_w}-\bigcup_v\overline{X_v}$($v$ は $\overline{X_w}$ に含まれる $X_w$ 以外の軌道にわたる)は閉集合から閉集合を除いたもので、局所閉である。
段 2(命題の仮定).$G/B$ は非特異な射影的空間で既約(本書『0-2 線形代数群と旗多様体』の定理「線形群の構造」の (2))、とくに $V$ に属し純次元 $N$ である。事実 1 と段 1 により、$X_w$($w\in W$)は $G/B$ の互いに交わらない局所閉部分集合で、それぞれアフィン空間に同型で、各閉包はいくつかの $X_v$ の和である。これは引用する事実 3 の仮定そのものである。
段 3(生成).事実 3 により、閉包の類 $z(w)$ は $A(G/B)$ を生成する。
段 4(両端の次数).$z(w)\in A^{N-\ell(w)}$ で、次元 $0$ の軌道は $X_e$ だけ、次元 $N$ の軌道は $X_{w_0}$ だけである(事実 1)。よって $A^N$ は $z(e)=[\mathrm{pt}]$ で、$A^0$ は $z(w_0)=1$ で生成される。$\chi([\mathrm{pt}])=1$ なので $A^N(G/B)=\mathbf Z[\mathrm{pt}]$ は無限巡回群で、$A^0=\mathbf Z\cdot1$ は $G/B$ が既約であることからも出る。
生成系が得られたので、次は一次独立性と積の構造である。こちらは原論文も証明を与えず、Chevalley に帰属させる。
連結半単純群 $G$ について、$z(w)$($w\in W$)は $A(G/B)$ の $\mathbf Z$ 基底である。積を
$$z(w)\,z(w')=\sum_{w''\in W}c^{w''}_{w,w'}\,z(w'')\qquad(c^{w''}_{w,w'}\in\mathbf Z)$$
と書くと、係数 $c^{w''}_{w,w'}$ は $G$ の根系(したがって Dynkin 図式)と、それによる $W$ の元の同一視だけで決まり、基礎体にも標数にも依らない。
要点のみ述べる。基底であることと係数の性質は引用する事実 4(原論文が Chevalley に帰属させる結果)そのもので、本書は証明しない。生成系であることは上の定理(Schubert 類による生成)で示した。したがって事実 4 から新たに得るのは一次独立性と係数の性質である。特殊線形群と斜交群では、一次独立性も下の命題(特殊線形群と斜交群での基底性)で本書の中で閉じる。
原論文は「Chevalley の公式」を述べないと明言し(印字 5-25)、係数が基礎体によらないという性質だけを「重要な性質」として挙げる。Lemme 9 の略証が使うのはこの性質だけである。一次独立性のほうは、特殊線形群と斜交群では前の頁の計算から数えられる。
$G=\mathrm{SL}(n)$($n\ge2$)または $G=\mathrm{Sp}(n)$($n\ge1$)とする。
(1) $|W|$ は、$\mathrm{SL}(n)$ では $n!$、$\mathrm{Sp}(n)$ では $2^nn!$ である。
(2) $z(w)$($w\in W$)は $A(G/B)$ の $\mathbf Z$ 基底である。
段 1($\mathrm{SL}(n)$ の Weyl 群).$T$ を対角行列の群とする。指標 $\varepsilon_1,\dots,\varepsilon_n$(対角成分)は $T$ の上で互いに異なる($n\ge2$ で $\mathrm{diag}(t,t^{-1},1,\dots,1)$ などで分けられる)ので、$T$ の同時固有直線はちょうど $ke_1,\dots,ke_n$ である。$g\in N(T)$ は同時固有直線を同時固有直線に写すので、$ge_i\in ke_{\tau(i)}$ となる置換 $\tau$ が定まる。$g\mapsto\tau$ は準同型で、核は $\mathrm{SL}(n)$ の対角行列の群 $T$ である。任意の置換 $\tau$ は、置換行列の一つの成分の符号を必要なら変えた行列式 $1$ の単項行列で実現される。よって $W\cong\mathfrak S_n$ で、$|W|=n!$ である。
段 2($\mathrm{Sp}(n)$ の Weyl 群).本書『6-1 特殊線形群と斜交群の旗多様体』の基底 $e_1,\dots,e_n,f_n,\dots,f_1$ をとり、$T$ を $\mathrm{diag}(t_1,\dots,t_n,t_n^{-1},\dots,t_1^{-1})$ の群とする。$2n$ 個の指標 $\pm\varepsilon_i$ は互いに異なるので、同時固有直線は $ke_i$、$kf_i$ の $2n$ 本である。$g\in N(T)$ はこれらを置換し、$\omega$ を保つので、$\omega$ で対になる二本($ke_i$ と $kf_i$)の組を組に写す。こうして $N(T)$ は、$n$ 個の組の置換と各組の中の入れ替えの群(位数 $2^nn!$)へ写る。核は $\omega$ を保つ対角行列の群、すなわち $T$ である。逆に、$e_i\mapsto e_{\tau(i)}$、$f_i\mapsto f_{\tau(i)}$ は $\omega$ を保ち、$e_i\mapsto f_i$、$f_i\mapsto-e_i$(他は動かさない)も $\omega$ を保つので、どの元も実現される。よって $|W|=2^nn!$ である。
段 3(基底).本書『6-1 特殊線形群と斜交群の旗多様体』の主結果「特殊線形群の旗多様体の Chow 環」「斜交群の旗多様体の Chow 環」により、$A(G/B)$ は階数 $n!$、$2^nn!$ の自由加群である。上の定理(Schubert 類による生成)により、それは $|W|$ 個の元 $z(w)$ で生成され、段 1・2 によりその個数は階数に等しい。階数 $r$ の自由加群 $\mathbf Z^r$ から $\mathbf Z^r$ への全射は同型(行列式が $\pm1$)なので、$z(w)$ は基底である。
これで、主結果 2 のうち特殊線形群と斜交群での基底性は、Chow 環の枠組みの下で本書の中で閉じた。一般の型の一次独立性と、係数が基礎体によらないことは、Chevalley の結果に頼るほかない。
いよいよ Lemme 9 に進む。原論文の略証(印字 5-25〜5-26)は、Chevalley の結果で問題を複素数体の上の群に移し、そこで位相的な方法を使う。証明の完結は §6 の最後(印字 5-29)で、Bott の結果による。
半単純で捩れのない代数群 $G$ は、$\mathrm{SL}(n)$ 型と $\mathrm{Sp}(n)$ 型の群の直積に同型である。
段 1(二つの性質への分解).上の補題(半単純群の捩れなしの言い換え)により、$G$ は単連結で、$A(G/B)$ は環として $A^1(G/B)$ で生成される。
段 2(複素数体の上の群への移行).$G$ の Dynkin 図式を $\Delta$ とし、$G_{\mathbf C}$ を $\mathbf C$ の上の単連結な半単純群で図式が $\Delta$ のものとする(引用する事実 2)。上の定理(Schubert 類の基底と構造定数の体によらなさ)により、$A(G/B)$ と $A(G_{\mathbf C}/B_{\mathbf C})$ はどちらも $W$ で添字づけられた基底 $z(w)$ をもち、$z(w)$ の次数は $N-\ell(w)$、積の係数は同じである($W$ と $\ell$ は根系で決まり、根系は $\Delta$ で決まる)。よって二つは次数付き環として同型で、$A(G_{\mathbf C}/B_{\mathbf C})$ も次数 $1$ の元で生成される。$G_{\mathbf C}$ は単連結なので、上の補題により $G_{\mathbf C}$ は捩れなしである。
段 3(位相的な判定).$G_{\mathbf C}$ は捩れなしなので特性部分環は $A(G_{\mathbf C}/B_{\mathbf C})$ 全体で、最高次の部分 $A^N=\mathbf Z[\mathrm{pt}]$(上の定理(Schubert 類による生成))との共通部分も全体、すなわち捩れ指数(本書『4-3 捩れのない群と特性部分環の指数』の定義)は $1$ で、捩れ素数(捩れ指数を割る素数)は無い。引用する事実 5 の前半により、$BG_{\mathbf C}$ の整係数コホモロジーも捩れ素数をもたず、捩れがない。事実 5 の後半により、$G_{\mathbf C}$ は $\mathrm{SL}(n)$ と $\mathrm{Sp}(n)$ の積で、$\Delta$ は $A$ 型と $C$ 型の連結な図式の和である。
段 4(元の体へ戻る).$G$ は単連結で(段 1)、図式 $\Delta$ は $A$ 型と $C$ 型の和である(段 3)。引用する事実 2 により、$G$ は単連結な単純群の直積で、各因子は $A_{n-1}$ 型なら $\mathrm{SL}(n)$、$C_n$ 型なら $\mathrm{Sp}(n)$ に同型である。
段 2 が Chevalley の結果を、段 3 が第 5 章の二つの結果を使う。段 3 の後半の Bott の結果は、原論文の時点で未公刊で、原論文はそれを「知られている」とだけ書いて「(BOTT)」と帰属させる(印字 5-29)。
原論文の Lemme 9 の証明は二か所に分かれている。§5 の略証(印字 5-25〜5-26)は、上の段 2 の移行と、複素数体の上では超越的な方法(「次の節を見よ」)で当の群が $\mathrm{SL}(n)$ と $\mathrm{Sp}(n)$ の積に同種であることが示せること、さらに単連結性と次数 $1$ の生成で捩れなしが言い換えられること(上の補題)を述べる。§6 の最後(印字 5-29)は、半単純な複素群の分類空間が極大コンパクト部分群の分類空間にホモトープであることと、Bott の結果から証明を終える。原論文はその直後の注意(印字 5-29)で、この証明が完全であるためには、§6 の冒頭に述べた事実(サイクル類写像の性質)が証明され、Bott の結果が公刊される必要があると断り、Lemme 9 を直接証明する動機になるはずだと結ぶ。本書の札(主結果 3・4 を[条件付き]とし、Chow 環の枠組みの下でも完結としない)は、この原論文の所見と一致する。原論文の略証は、段 2 で次数 $1$ の生成が図式だけで決まることを言うのに Chevalley の係数の性質を使い、本書もそれに従った。
補題の結論を Dynkin 図式の言葉でまとめると、次のようになる。これは原論文の略証の後半の文をそのまま主張にしたものである。
$G$ を連結半単純群とする。
(a) $A(G/B)$ の次数付き環の構造と、それが次数 $1$ の元で生成されるかどうかは、$G$ の Dynkin 図式だけで決まる。とくに、複素数体の上の同じ図式の群で判定してよい。
(b) $A(G/B)$ が次数 $1$ の元で生成されるのは、図式が $A$ 型と $C$ 型の連結な図式の和であるときに限る。
(c) 次の三つは同値である。(i) $G$ は捩れなし。(ii) $G$ は単連結で、$A(G/B)$ は次数 $1$ の元で生成される。(iii) $G$ は $\mathrm{SL}(n)$ と $\mathrm{Sp}(n)$ の型の群の直積に同型である。
段 1((a)).上の定理(Schubert 類の基底と構造定数の体によらなさ)により、$A(G/B)$ は基底 $z(w)$、次数 $N-\ell(w)$、根系で決まる係数で決まる。$W$、$\ell$、係数は根系で、根系は Dynkin 図式で決まる。
段 2((c) の (i)⇔(ii)).上の補題(半単純群の捩れなしの言い換え)である。
段 3((c) の (i)⇒(iii)).上の定理(捩れのない半単純群は特殊線形群と斜交群の積)である。
段 4((c) の (iii)⇒(i)).$G=G_1\times G_2$ で、$G_1$ が捩れなしの連結半単純群、$G_2$ が $\mathrm{SL}(n)$ か $\mathrm{Sp}(n)$ のとき、$G$ も捩れなしであることを示せば、本書『6-1 特殊線形群と斜交群の旗多様体』の主結果「特殊線形群の旗多様体の Chow 環」「斜交群の旗多様体の Chow 環」の (4)(5)($\mathrm{SL}(n)$、$\mathrm{Sp}(n)$ は捩れなし)から帰納法で出る。捩れなしは同型で保たれる(同型は Borel 部分群と指標を対応させ、本書『4-1 特性準同型と特性部分環』の主結果「準同型と特性準同型の両立」で特性部分環を写し合う)。$B=B_1\times B_2$ は $G$ の Borel 部分群で、$G/B=G_1/B_1\times G_2/B_2$ である。$\mathrm{SL}(n)$、$\mathrm{Sp}(n)$ の旗多様体は一点の上の射影束の塔(本書『6-1 特殊線形群と斜交群の旗多様体』の定義「完全旗多様体と標準旗」「斜交旗多様体と標準旗」)なので、$G_2/B_2$ をそのような塔とすると、$G_1/B_1\times G_2/B_2$ は $G_1/B_1$ の上の、束を引き戻した射影束の塔である。本書『0-4 Chow 環の枠組み』の定理「射影束公式と旗束の環」の (1) を段ごとに当てると、$A(G/B)$ は $\mathrm{pr}_1^*A(G_1/B_1)$ の上で $\mathrm{pr}_2^*\xi'_j$($G_2/B_2$ の塔の基本類)の単項式を基底にもつ。射影 $\mathrm{pr}_k\colon G\to G_k$ は $B$ を $B_k$ に写す準同型なので、同じ主結果「準同型と特性準同型の両立」により $\mathrm{pr}_k^*\operatorname{Im}c_{G_k}\subset\operatorname{Im}c_G$ である。$G_1$、$G_2$ は捩れなしなので $\mathrm{pr}_1^*A(G_1/B_1)$ と $\mathrm{pr}_2^*\xi'_j$ はどれも $\operatorname{Im}c_G$ に入り、$c_G$ は全射である。
段 5((b)).図式が $A$ 型と $C$ 型の和なら、単連結な群 $\prod\mathrm{SL}(n_j)\times\prod\mathrm{Sp}(m_j)$ はその図式をもち、段 4 により捩れなしで、段 2 により $A(G/B)$ は次数 $1$ で生成される。(a) により、同じ図式の $G$ でも次数 $1$ で生成される。逆に $A(G/B)$ が次数 $1$ で生成されるとき、引用する事実 2 の単連結な被覆 $\tilde G$ は同じ図式をもち、$\tilde G/\tilde B\cong G/B$ なので $A(\tilde G/\tilde B)$ も次数 $1$ で生成され、段 2 により $\tilde G$ は捩れなしで、段 3 により $\mathrm{SL}(n)$ と $\mathrm{Sp}(n)$ の型の積である。その図式は $A$ 型と $C$ 型の和である。
(c) の (iii)⇒(i) の向きは、第 5 章の結果も Chevalley の結果も使わず、前の頁の計算と Chow 環の枠組みの性質だけで閉じる。残りの向きは、どれかの段で上の定理(捩れのない半単純群は特殊線形群と斜交群の積)か Chevalley の結果を通る。
原論文は §5 の注意 1°(印字 5-26)で、上に示した証明は超越的な性格のものだと断る。もちろん Chevalley の公式は、単連結な単純群の Dynkin 図式による分類を使えば、Lemme 9 を代数的に確かめる手段を「原理的には」与えるが、その計算は解きほぐせないほど複雑に見える、と所見を添える。本書はこの所見を主張として数えない。本頁の命題(特殊線形群と斜交群での基底性)と上の定理(Dynkin 図式による判定)の段 4 は、捩れのない側($A$ 型と $C$ 型)については代数的に閉じるが、それ以外の型が捩れをもつことの代数的な証明は与えない。
これで、捩れのない半単純群は二つの型の積に限られ、その二つの型の旗多様体の計算は前の頁で済んでいる。次の頁は、この二つを合わせて Lemme 8 を一般の捩れのない連結アフィン群で示し、特別群の特徴づけ(Théorème 3)を完成させる。
最初の例は、小さい群で Schubert 類を前の頁の旗の類で書き、主結果 1・2 を確かめる。二つ目は主結果 4 から捩れをもつ群を読み取る。最後の反例は、補題(半単純群の捩れなしの言い換え)の二条件のうち単連結性を外せないことを示す。
$G=\mathrm{SL}(2)$ では $W=\{e,s\}$、$G/B=\mathbf P^1$ で、$X_e=\{[e_1]\}$ は一点、$X_s$ はその補集合で $k$ に同型である(本書『0-2 線形代数群と旗多様体』の例「射影直線と三次の旗多様体の胞体」)。したがって $z(e)=[\mathrm{pt}]=h$、$z(s)=1$ で、これは $A(\mathbf P^1)=\mathbf Z\oplus\mathbf Zh$ の基底である。積は $z(e)^2=0$、$z(s)z(w)=z(w)$ である。
$G=\mathrm{SL}(3)$ では $G/B=D(k^3)$ は点と直線の組 $\ell\subset H$ の多様体で、標準的な旗 $V_1\subset V_2$ に対する $B$ 軌道の閉包は次の六つである:全体、$\{\ell\subset V_2\}$、$\{H\supset V_1\}$、$\{\ell=V_1\}$、$\{H=V_2\}$、一点 $\{(V_1,V_2)\}$。本書『6-1 特殊線形群と斜交群の旗多様体』の記号で、$\ell$ を与える射 $\pi\colon D\to P(k^3)$ と $H$ を与える射 $q\colon D\to P(\Lambda^2k^3)$ は射影束(ファイバーは $\mathbf P^1$)で、$\eta_1=\xi_1=\pi^*h$、$\eta_2=q^*h'$($h$、$h'$ は二つの射影平面の直線の類)である。$\{\ell\subset V_2\}=\pi^{-1}(P(V_2))$、$\{H\supset V_1\}=q^{-1}(\text{直線})$ の類は $\eta_1$、$\eta_2$ で、$\{\ell=V_1\}$、$\{H=V_2\}$ はファイバーなので、同じ頁の補題「最初の段への射影と次数」の (1) により類は $\eta_1^2=\xi_1^2$、$\eta_2^2$ である。同じ頁の例「射影直線と射影平面の旗」の関係から $\eta_2^2=\xi_1^2+2\xi_1\xi_2+\xi_2^2=\xi_1\xi_2$ で、一点の類は $\chi=1$ の $\xi_1^2\xi_2$ である。こうして Schubert 類は
$$1,\quad\xi_1,\quad\xi_1+\xi_2,\quad\xi_1^2,\quad\xi_1\xi_2,\quad\xi_1^2\xi_2$$
で、同じ頁の基底 $1,\xi_1,\xi_2,\xi_1^2,\xi_1\xi_2,\xi_1^2\xi_2$ に対して係数の行列は対角成分が $1$ の三角行列である。したがって Schubert 類は基底をなし(上の命題(特殊線形群と斜交群での基底性)の $n=3$、$|W|=6$)、次数 $1$ の類 $\eta_1,\eta_2$ で環として生成される。
連結な Dynkin 図式は、$A_m$($m\ge1$)、$B_m$($m\ge2$)、$C_m$($m\ge3$)、$D_m$($m\ge4$)、$E_6$、$E_7$、$E_8$、$F_4$、$G_2$ のどれか一つにちょうど一度ずつ現れる(古典的な分類。Hum75。本書は該当箇所を確かめていない)。上の定理(Dynkin 図式による判定)の (c) により、単連結な単純群が捩れなしであるのは図式が $A_m$ 型か $C_m$ 型のときだけである。$B_2$ 型の図式は $C_2$ 型と同じなので、この一覧では $C_2$ を $B_2$ に含めた。$B_2$ 型の単連結群は $\mathrm{Sp}(2)$ で捩れなしである。したがって、$B_m$($m\ge3$)、$D_m$($m\ge4$)、$E_6$、$E_7$、$E_8$、$F_4$、$G_2$ の型の単連結な単純群($B$ 型・$D$ 型のものは後代の記号でスピン群と呼ばれる)はどれも捩れをもつ。単連結でない半単純群は、上の補題の (2) により (a) を満たさないので、図式によらず捩れをもつ(下の反例)。これは主結果 3・4 からの帰結なので、同じく[条件付き]の結論である。どの素数の捩れが現れ、捩れ指数がいくつかは、本頁では決めない(「その後の発展」)。
上の補題(半単純群の捩れなしの言い換え)の条件 (a)(単連結性)を外し、(b)(次数 $1$ の生成)だけを仮定すると、捩れなしは出ない。$G=\mathrm{PGL}(2)$ では $G/B=\mathbf P^1$ で、$A(\mathbf P^1)=\mathbf Z\oplus\mathbf Zh$ は次数 $1$ の元 $h$ で生成されるので (b) は成り立つ。ところが本書『4-1 特性準同型と特性部分環』の主結果「特性部分環は群に依存する」により、$\hat T=\mathbf Z\alpha$ で $c_G(\alpha)=-2h$ なので、$c_G(\hat T)=2\mathbf Zh\ne A^1(\mathbf P^1)$ で (a) は成り立たず、特性部分環は $\mathbf Z\oplus2\mathbf Zh$ で、$\mathrm{PGL}(2)$ は捩れなしでない。図式は $A_1$ 型で $\mathrm{SL}(2)$ と同じなので、上の定理(Dynkin 図式による判定)の (c) の (ii) から「単連結」を落とすと、(ii)⇒(i) が破れる。
以下は後代の結果の紹介である(時点を明記する。本書は文献を開いて確かめていない)。
本頁が対応する原論文は Grothendieck Gro58c の §5 と、§6 の最後の段である。
| 本頁 | 原論文 | 印字頁 |
|---|---|---|
| 背景と動機(半単純な商と単連結な被覆への帰着) | Lemme 8 の証明の前半(原論文は二つの群をどちらも $G'$ と書く) | 5-22〜5-23 |
| 補題(半単純群の捩れなしの言い換え) | Lemme 8 の証明の「すなわち」、Lemme 9 の略証の最後の段 | 5-23、5-26 |
| 定理(Schubert 類による生成) | Lemme 9 の略証の冒頭(前の講演の Proposition 7 を引く) | 5-25 |
| 定理(Schubert 類の基底と構造定数の体によらなさ) | 同(Chevalley の結果の引用) | 5-25〜5-26 |
| 命題(特殊線形群と斜交群での基底性) | 原論文には無い(本書の補い) | — |
| 定理(捩れのない半単純群は特殊線形群と斜交群の積) | Lemme 9 とその略証、§6 での完結(Bott の結果) | 5-23、5-25〜5-26、5-29 |
| 注意(原論文の略証と証明の完結) | 同、§6 の最後の注意 | 5-25〜5-26、5-29 |
| 定理(Dynkin 図式による判定) | Lemme 9 の略証の後半 | 5-26 |
| 注意(証明の超越性についての原論文の所見) | §5 の注意 1° | 5-26 |
| 反例(単連結性を外すと次数 1 の生成だけでは捩れなしにならない) | 原論文には無い(本書の検算) | — |
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