Chern 類の公理的理論(Grothendieck「La théorie des classes de Chern」を読む)

Chern 類の公理的理論(Grothendieck「La théorie des classes de Chern」を読む)の表紙

概要

本書は、A. Grothendieck の論文「La théorie des classes de Chern」(Bulletin de la Société Mathématique de France 第 86 巻、1958 年、137–154 頁)を道案内にして、代数的ベクトル束の Chern 類の公理的理論を解説する参考書である。原論文は Borel と Serre による Riemann–Roch の定理の解説論文の付録として書かれた 18 頁の短い論文で、非特異な代数多様体の上のベクトル束の Chern 類を、Grassmann 多様体を使わずに、射影束のサイクル類環の構造だけから定義し、関手性・正規化・加法性の三つの性質で一意に特徴づけた。Chow 環でも Hodge 型のコホモロジーでも整係数コホモロジーでも同じ議論が通るこの定式化は、その後の交叉理論と Riemann–Roch の定理の標準的な道具になった。 本書は原論文の翻訳ではない。原論文の節の順序ではなく、射影束と旗多様体による分裂、公理系とそのモデル、Chern 類の定義と特徴づけ、λ 環と Chow 環への応用、正則切断の零点サイクル、という主題ごとに五つの章を立て、現代の記号と言葉で書き直した。各頁は、その頁で示すこと、背景と動機、定義と準備、主結果と証明、例と反例、その後の発展、原論文との対応という同じ形で書いてある。 原論文は「いつものように旗多様体へ移って」「形式的に確かめられる」「ここでは証明しない」で多くの段を済ませている。本書はその段を補って証明を閉じ、各主張が、本書の中で証明し切れたもの(完結)、引用した定理に依るもの(条件付き)、証明を閉じられなかったもの(未完結)、そのままでは成り立たないもの(偽)のどれに当たるかを区別して示す。λ 環の構造を与える普遍多項式の存在、横断性の局所計算、Chow 環と $K$ 群の随伴次数付き環の比較の式は本書で補い、原論文が証明を与えない式は、後代の Chern 指標による説明と分けて扱う。 読むには、スキーム論と局所自由層、Chow 環と交叉理論の初歩、層コホモロジーの基本が要る。第 2 章の後半では Hodge 型のコホモロジーと Leray スペクトル系列が、第 4 章では Grothendieck 群と対称関数が加わる。すべてを先に学ぶ必要はない。分野ごとの要点、頁ごとに要る前提の対応表、読む順序の案は第 0 章の「本書の読み方」に、全頁に共通する記号と約束は「記号と約束」にまとめた。各章で何を扱い、原論文の何を補い、どこを直したかは、下の目次の各章の説明に書いた。

目次

  1. 第0章 前提知識と読み方

    本章は、原論文の議論を追うための最小限の語彙と規約をそろえる。完全体上の滑らかな有限型スキームを基本の対象とし、ベクトル束、射影束、旗の束、Chow環、交叉積、二種類のGrothendieck群、Hodgeコホモロジー、整係数コホモロジーを、後の頁で実際に使う範囲に限って導入する。射影束を直線の空間とみる規約、標準線束の双対、次数を半分にする規約、通常積とstar積、ベクトル束のK群と連接層のG群を明瞭に区別する。原論文の記法の揺れと本書の統一記法も一覧にし、原典の語を後代の語へ無言で置き換えない。最後に、全頁の完成後に実測した前提関係から、定理1を中心に読む経路、λ環とChow環へ進む経路、零点サイクルだけを読む経路、原論文と後代補足を対比する経路を示す。

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    1. 0-1 本書の読み方
    2. 0-2 ベクトル束・射影束・旗多様体
    3. 0-3 Chow 環と交叉理論の初歩
    4. 0-4 コホモロジー的モデルと K 群
    5. 0-5 記号と約束
  2. 第1章 射影束と分裂

    Chern類の構成と一意性を支える幾何を、後章で参照できる形にまとめる。射影束を線の空間として定義し、標準部分束の双対である標準線束、その基本類、底変換との両立を確かめる。次に旗の束を階数について帰納的に作り、その上で元の束が階数1の商をもつ完全な旗を得ること、射影束公式から各段の引き戻しが単射となることを示す。この単射性が、分裂後に得たChern類の等式を元の空間へ戻す核心であり、束そのものの分裂や器Aの一意性を意味しない。この区別を後章の全証明で一貫して用いる。最後に切断の零点での横断性を局所座標と接写像で特徴づけ、被約零点と重複度付き零点サイクルを区別し、横断性を外した誤った一般化を二重零点の反例で退ける。

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    1. 1-1 射影束と標準線束
    2. 1-2 旗多様体と完全分裂
    3. 1-3 正則切断・零点サイクル・横断性
  3. 第2章 公理系とモデル

    原論文の公理化を、器とChern類の特徴づけという二層に分けて読む。まず対象の圏、反変次数付き環A、線束の類、閉埋め込みの基本類を与え、射影束公式、横断的零点、押し出し、射影公式という公理A 1〜A 4を整理する。空集合が圏に属する条件とAが空集合を零環へ送る条件は別々に追加し、階数0をA 1へ代入して代用しない。補題2の帰納では、各段で使う公理と添字を明示する。次にChow環、Hodgeコホモロジー、整係数コホモロジーの三モデルを検証し、準射影性や外部定理への依存を状態札に残す。非準射影Chow環については1958年当時の未解決の表明と、Fulton流の後代的枠組みを分け、器A自身の一意性は主張しない。

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    1. 2-1 公理 A 1〜A 4 と補題 2
    2. 2-2 三つのモデル
  4. 第3章 Chern 類の定義と特徴づけ

    射影束公式の基底性からChern類を定義し、関手性、線束での正規化、短完全列に対する全Chern類の乗法性によって一意に特徴づける。ここで一意なのは、与えられた器Aと三つの性質に対するChern類であって、環Aそのものではない。一意性は旗の束へ移して完全分裂させ、そこで得た式を補題1の単射性で底へ戻す。存在証明では、射影束の標準切断、完全分裂した束に付随する部分束列、補題2、横断性の局所計算を順に用い、完全分裂の場合の積公式を加法性の証明より先に確立する。最後にChern根を計算装置として導入し、双対、外冪、テンソル積の公式を対称式へ降ろす。原論文がHirzebruchへ委ねた計算も本書内で必要な範囲を示す。

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    1. 3-1 Chern 類の定義と一意性
    2. 3-2 存在の証明
    3. 3-3 双対・外冪・テンソル積
  5. 第4章 λ 環と Chow 環への応用

    全Chern類を階数と組にして加法的に扱う完備Chern類を導入し、直和、テンソル積、外冪を一つのλ環構造へまとめる。普遍多項式は形式的Chern根上で構成し、対称式として降ろすが、任意の完備係数列への降下と表示独立性に必要な外部入力を明示する。続いて連接層のGrothendieck群を支持余次元で濾過し、その随伴次数付き環とChow環を、写像phi・psiおよびstar積で比較する。式 (16) は、段階的横断完全交叉では整数係数で完結、一般の非特異閉埋め込みではGrothendieck–Riemann–Rochによる有理係数の条件付き完結、一般整数係数では未完結という三層に分ける。したがってphiの有理同型から整数同型を推論せず、捩れを残す。

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    1. 4-1 λ 環と完備 Chern 類
    2. 4-2 K 群のフィルトレーションと Chow 環
  6. 第5章 正則切断の零点サイクル

    公理系に横断的引き戻しの条件と公理A 5を加え、ベクトル束Eを射影的完備化へ埋めて零切断の像の類を計算する。補題3では、階数を一つ増やした束の旗の束へ移り、標準切断と補題2を用いる。部分束列の最後が空集合になること、横断性、A 5を使う位置、補題1の単射性で底へ戻る段を明示する。定理2では横断的切断の零点部分空間の基本類が最高次Chern類に等しいことを証明し、任意切断について成り立つ引き戻し公式とは区別する。さらにChow理論で期待余次元をもつ任意切断へ進む際には、被約零点ではなく局所重複度をもつ零点サイクルを用い、refined Gysinまたは局所化最高Chern類という後代の入力を条件として明記する。

    $$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$
    1. 5-1 射影的完備化と補題 3
    2. 5-2 零点サイクルの類

参考文献

[3]
Friedrich Hirzebruch, Neue topologische Methoden in der algebraischen Geometrie, Ergebnisse der Mathematik und ihrer Grenzgebiete (N.F.) 9, Springer, 1956
[8]
Séminaire C. Chevalley(Claude Chevalley 他), Classification des groupes de Lie algébriques, tome 1(années 1956–1958), Secrétariat mathématique, Paris, 1958
[9]
Alexander Grothendieck, Théorèmes de dualité pour les faisceaux algébriques cohérents, Séminaire Bourbaki 1956/57–1957/58, exposé 149(Numdam: SB_1956-1958\_\_4\_), 1957, 169–193
[12]
Alexander Grothendieck, Sur quelques propriétés fondamentales en théorie des intersections, Séminaire C. Chevalley, Anneaux de Chow et applications 2e année, tome 3, exposé 4, 1958, 36 p.
[27]
Alexander Grothendieck, Jean Dieudonné, Éléments de géométrie algébrique II : Étude globale élémentaire de quelques classes de morphismes, Publications Mathématiques de l'IHÉS, 1961, 5–222
[32]
Alexander Grothendieck, Jean Dieudonné, Éléments de géométrie algébrique IV(4部構成:Première–Quatrième partie), Publications Mathématiques de l'IHÉS 20, 24, 28, 32, 1964

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