Grothendieckの公理化は、コホモロジー理論の器を指定する層と、その器の上でChern類を特徴づける層に分かれる。本頁では前者を構成する圏、反変次数付き環、線束の類、閉埋め込みの押し出し、公理 A 1〜A 4を整理し、部分束列に沿って零点の基本類を積へ分解する補題2を証明する。
$k$ を完全体とし、$k$ 上滑らか・分離的・有限型のスキームの圏の充満部分圏 $\mathbf V$ を考える。$\mathbf V$ は同型と射影束で閉じ、空スキームを含むものとする。以下で定める反変次数付き環関手 $A$、線束の類、滑らかな閉埋め込みの押し出しが公理 A 1〜A 4を満たすと仮定する。
本頁の主結果は次の2つである。
原論文 Gro58 の目的は、一つの具体的なChow環だけでChern類を作ることではない。射影束公式、切断の零点、押し出し、射影公式という少数の性質を備えた複数の理論を同じ器として扱い、その上でChern類の構成と一意性を同時に証明することである。
この公理化には二つの層がある。第1層は、本頁で定める器 $A$ と公理 A 1〜A 4である。第2層は、与えられた器の上でChern類が関手性、線束での正規化、短完全列に対する乗法性を満たすという特徴づけであり、本書『3-1 Chern 類の定義と一意性』で扱う。第2層の一意性から、器 $A$ 自身の一意性を結論してはならない。
補題2は両層をつなぐ。ベクトル束の部分束列に沿って切断の零点を一段ずつ切り出すと、最終零点の基本類が線束の類の積になる。後に射影束上の標準切断へこの補題を適用すると、Chern根の積と射影束関係式が得られ、Chern類の存在証明が動き始める。
原論文の印刷では、横断性を課す添字が $1\leq i\leq p-1$ となり、帰納の出発に必要な $Y_0$ が定義されていない。本頁は $Y_0=X$ と定め、最初の切断 $s_0$ を含む $0\leq i\leq p-1$ を正しい範囲として採用する。
射影束と零点部分スキームを同じ圏の中で扱うため、まず対象の閉性を明示する。空対象に関する条件は、圏と関手に一つずつ必要である。
$\mathbf V$ を、$k$ 上滑らか・分離的・有限型のスキームの圏の充満部分圏で、同型で閉じるものとする。次を仮定する。
(V 0) は空スキームを公理の対象として扱えることを言い、(A 0) はその基本類が0になることを言う。一方から他方は従わず、階数0へ射影束公理を形式的に適用して代用することもしない。
器のデータは、反変な環、線束の第1類、閉埋め込みの押し出しの三つからなる。次数は原論文の半分に直し、$c_i$ が次数 $i$ に入る規約を用いる。
各 $X\in\mathbf V$ に対して次を与える。
記号 $p_X$ は原論文で線束の類を送る写像にも閉部分空間の基本類にも用いられる。本書は混同を避け、線束には $p_X([L])=c_1(L)$、閉部分空間には $[Y]_X$ を使う。
四つの公理は役割が異なる。A 1は射影束上の環を底の環から記述し、A 2〜A 4は横断的零点の基本類を段階的に押し出す。
与件 a・b・c に次を課す。
A 1は本頁の補題2の証明には現れないが、後で旗の束への引き戻しを単射にし、射影束関係式の係数を一意にする。A 2〜A 4は補題2で使い切られ、Chern類の構成にはその系である積の消滅を通じて入る。
切断を商束へ順に写すと、条件が一つずつ増える零点スキームの列が生じる。
$E$ を $X\in\mathbf V$ 上の階数 $p\geq1$ の束とし、
$$
E=E_0\supset E_1\supset\cdots\supset E_p=0,
\qquad \operatorname{rank}E_i=p-i,
$$
を部分束の減少列とする。$s\in\Gamma(X,E)$ を切断とし、$0\leq i\leq p$ に対して
$$
Y_i:=Z(s\bmod E_i)
$$
を商束 $E/E_i$ の誘導切断の零点スキームとする。特に $Y_0=X$、$Y_p=Z(s)$ である。
$Y_i$ 上では $s$ は $E_i|_{Y_i}$ の切断を定め、その線束商
$$
(E_i/E_{i+1})|_{Y_i}
$$
への像を $s_i$ と書く。さらに
$$
\xi_{i+1}:=c_1(E_i/E_{i+1})\in A^1(X)
\qquad(0\leq i\leq p-1)
$$
と置く。
局所的に列を同時に自明化し、$s=(f_1,\ldots,f_p)$ と書けば、$Y_i$ は $(f_1,\ldots,f_i)$ で定まり、$s_i$ は $Y_i$ 上の関数 $f_{i+1}$ である。従って $Z(s_i)=Y_{i+1}$ で、$Y_{i+1}\subset Y_i$ がスキームとして成り立つ。
本頁では次の標準事実を用いる。局所自由層と正則局所環について EGA4、Mat89 を挙げるが、本書は現時点で該当定理番号を実読確認していない。
各段では線束の切断だけを扱う。A 2で一段の零点の類を線束の第1類へ替え、A 3と A 4でそれを底 $X$ まで運ぶ。
誘導切断と零点列の定義のもとで、次を仮定する。
段 1(零点列と滑らかさ).局所的に $E_i$ の列を座標部分束へ直し、$s=(f_1,\ldots,f_p)$ と書く。$Y_i$ は $(f_1,\ldots,f_i)$、$Y_{i+1}$ は $(f_1,\ldots,f_i,f_{i+1})$ で定まるから、$Y_{i+1}=Z(s_i)\subset Y_i$ である。$Y_0=X$ は滑らかである。$Y_i$ が滑らかで $X$ 内の余次元 $i$ なら、$s_i$ の横断性と本書『1-3 正則切断・零点サイクル・横断性』により $Y_{i+1}$ は $Y_i$ 内で滑らかかつ余次元1である。余次元の加法性から、$Y_{i+1}$ は $X$ 内で余次元 $i+1$ となる。帰納法により全 $Y_i$ について主張が従う。
段 2(帰納の出発).$Y_0=X$ 上の線束 $E_0/E_1$ の切断 $s_0$ は横断的で、その零点は $Y_1$ である。A 2により
$$
[Y_1]_X=c_1(E_0/E_1)=\xi_1.
$$
ここで $s_0$ の横断性が必要である。従って原論文の印刷どおり横断性の範囲を $1\leq i$ から始めると、帰納の出発が欠ける。
段 3(一段の零点の類).$1\leq j\leq p-1$ とし、$u_j\colon Y_j\hookrightarrow X$、$v_j\colon Y_{j+1}\hookrightarrow Y_j$ を埋め込みとする。$Y_j$ 上の線束
$$
M_j:=(E_j/E_{j+1})|_{Y_j}=u_j^*(E_j/E_{j+1})
$$
の横断的切断 $s_j$ の零点は $Y_{j+1}$ である。A 2と $p_X$ の関手性から
$$
[Y_{j+1}]_{Y_j}
=c_1(M_j)
=u_j^*c_1(E_j/E_{j+1})
=u_j^*(\xi_{j+1}).
$$
段 4(底への押し出し).合成 $u_{j+1}=u_j\circ v_j$ に A 3を用いると
$$
[Y_{j+1}]_X
=u_{j+1*}(1)
=u_{j*}v_{j*}(1)
=u_{j*}[Y_{j+1}]_{Y_j}
=u_{j*}u_j^*(\xi_{j+1}).
$$
A 4を $b=1_{Y_j}$、$a=\xi_{j+1}$ に用いれば
$$
u_{j*}u_j^*(\xi_{j+1})
=u_{j*}(1_{Y_j})\,\xi_{j+1}
=[Y_j]_X\,\xi_{j+1}.
$$
従って
$$
[Y_{j+1}]_X=[Y_j]_X\xi_{j+1}.
$$
段 5(帰納の完了).段2を出発とし、段4を繰り返すと
$$
[Y_j]_X=\xi_1\cdots\xi_j
$$
を $j=p$ まで得る。全 $\xi_i$ は次数1にあるが、本書の次数は原論文の偶数次数を半減したものであり、対象とする理論ではこの積は可換である。
証明での公理の分担は明確である。A 2は各段の線束切断、A 3は二段の閉埋め込みの合成、A 4は押し出しの外へ第1類を出す操作に使った。A 1はこの補題では使っていない。
切断がどこでも零にならないなら、最終零点 $Y_p$ は空になる。積を0と結論するには、空スキームを対象として扱えることと、その値が零になることの双方が要る。
部分束列に沿う零点の類の補題の仮定を満たし、さらに $s$ がどこでも零にならないとする。このとき
$$
\xi_1\xi_2\cdots\xi_p=0
$$
が $A^p(X)$ で成り立つ。
$E_p=0$ だから、$Y_p=Z(s\bmod E_p)=Z(s)$ である。$s$ がどこでも零にならないので $Y_p=\emptyset$。条件 (V 0) により $Y_p$ は $\mathbf V$ の対象であり、補題を最終段まで適用できる。条件 (A 0) により $A(\emptyset)=0$ なので、空埋め込み $i\colon\emptyset\hookrightarrow X$ の押し出しは零写像であり、
$$
[Y_p]_X=[\emptyset]_X=0.
$$
補題の $j=p$ の式から
$$
\xi_1\cdots\xi_p=[Y_p]_X=0
$$
を得る。
この系が後の存在証明へ渡す出力である。射影束上の標準部分線束の包含から作る切断はどこでも零にならず、適切な部分束列に沿う各誘導切断は横断的になる。そのため、この積の消滅がChern多項式の関係式へ変わる。
(V 0) と (A 0) は異なる役割をもつ。(V 0) がなければ $Y_p=\emptyset$ を補題の対象として扱えず、(A 0) がなければ $[\emptyset]_X=0$ を結論できない。射影束公理 A 1は階数 $r\geq1$ の束に対する公理なので、階数0の束へ適用して (A 0) を導くことはしない。
圏の閉性と関手の値を分けたことで、原論文が省略した論理が見える。三つのモデルでこれらの条件が満たされるかは、本書『2-2 三つのモデル』で個別に確認する。
低階数では、補題の帰納と各公理の役割を直接読める。
$p=1$ なら列は $E=E_0\supset E_1=0$ だけで、$Y_0=X$、$Y_1=Z(s)$、$\xi_1=c_1(E)$ である。補題は
$$
[Z(s)]_X=c_1(E)
$$
となり、これは A 2そのものである。$s$ がどこでも零にならなければ $Z(s)=\emptyset$ なので、系は $c_1(E)=0$ を与える。
この最後の結論は、どこでも零にならない線束の切断が自明化を与えるという幾何とも一致する。
階数1では A 3と A 4はまだ現れない。二段目を底へ押し戻す階数2から、両公理が必要になる。
$E=E_0\supset E_1\supset E_2=0$ とし、二つの商線束の第1類を $\xi_1$、$\xi_2$ とする。横断性のもとで
$$
[Y_1]_X=\xi_1,
\qquad [Y_2]_{Y_1}=u_1^*(\xi_2).
$$
A 3で $Y_2\hookrightarrow Y_1\hookrightarrow X$ の押し出しを合成し、A 4で $u_1^*(\xi_2)$ を押し出しの外へ出すと
$$
[Y_2]_X=u_{1*}u_1^*(\xi_2)
=[Y_1]_X\xi_2
=\xi_1\xi_2.
$$
この計算が一般の帰納の一段である。
この例から、A 2だけでは二段目以後の類を底 $X$ 上の積へ変換できないことが分かる。A 3と A 4は、零点列の情報を常に同じ環 $A(X)$ で比較するために必要である。
原論文の印刷された仮定を字義どおり使うと、最初の段の横断性が無い。これは単なる番号の好みではなく、A 2を使う根拠の欠落になる。
$X=\mathbb A_k^1$、$E=\mathcal O_X$、$p=1$ とし、$s$ を零切断とする。印刷された範囲 $1\leq i\leq p-1$ は空なので、横断性を一つも要求しない。また $Y_1=Z(s)=X$ は滑らかで $\mathbf V$ の対象になりうる。しかし $Y_1$ の $X$ 内での余次元は0であり、補題が必要とする余次元1ではない。このため、余次元1の閉埋め込みに対する基本類として $[Y_1]_X$ を置き、A 2を適用する段が成立しない。
従って、横断性を $i=1$ から課すだけでは補題の最初の結論を導けない。破れている条件は $s_0$ の横断性であり、本頁が採る訂正形 $0\leq i\leq p-1$ ではこの例は仮定を満たさない。
この反例は、補題の結論そのものを反証するものではなく、印刷された仮定だけでは証明が開始できないことを示す。$Y_0=X$ と $s_0$ を明示する訂正によって穴は閉じる。
補題2が必要とする射影公式は、A 4の全一般性のうち特別な場合だけである。
補題の証明で A 4を使うのは
$$
u_{j*}(1_{Y_j}\cdot u_j^*a)=u_{j*}(1_{Y_j})\cdot a
$$
という $b=1_{Y_j}$ の場合だけである。従って、Chern類の存在証明だけを目的とするなら、この限定形を公理として置いても同じ積の消滅を得られる。
原論文自身も、A 2〜A 4が系を導くために置かれていると注意する。ただし、本書は三つの標準モデルとの比較を保つため、通常の射影公式の形で A 4を記録する。
ここからは1958年の原論文自身の証明ではなく、後代の言葉による位置づけである。
Chow環では、A 1は射影束公式、A 2は横断的な因子の類、A 3は固有押し出しの関手性、A 4は射影公式に対応する。これらは現代の交叉理論では一つの体系として扱われる Ful98。しかし、本頁では後代の体系から原論文の公理を自動的に同一視せず、各モデルで必要な仮定と文献を本書『2-2 三つのモデル』に分けて記す。
補題2の帰納は、ベクトル束を線束商へ分解するデヴィサージュである。各段で失われるのは切断の具体的な局所式であり、残るのは零点の基本類である。A 3と A 4が、途中の空間 $Y_j$ 上の類を底 $X$ の積へ戻す役割を果たす。
後代の局所化最高 Chern 類は、横断性が無い場合にも零点スキームの近傍に支持された類を作る。これは本頁の補題を単純に横断性なしへ拡張するものではなく、非被約構造と重複度を保持する追加の交叉理論である。本書『5-2 零点サイクルの類』では、その外部入力を条件付きの主張として分離する。
公理化の要点は、Chow環、Hodgeコホモロジー、整係数コホモロジーを同じものとみなすことではない。それぞれ異なる環 $A(X)$ と押し出しをもちながら、A 1〜A 4が共通の証明を動かすことである。この意味で、器の多様性とChern類の特徴づけの一意性は両立する。
本頁が対応する原論文は Gro58 である。
| 本頁 | 原論文 | 印字頁 |
|---|---|---|
| 対象の圏と空対象の条件 | §2 の圏 $\mathbf V$、空対象は本書の補足 | p.140 |
| 公理的Chern理論の与件 | §2 の与件 a・b・c | p.140 |
| 公理 A 1〜A 4 | §2 の A 1〜A 4 | pp.140–141 |
| 誘導切断と零点列 | §2 補題 2 の $Y_i$ と $s_i$ | pp.141–142 |
| 部分束列に沿う零点の類 | §2 補題 2 と式 (★) | pp.141–142 |
| 零にならない切断の積の消滅 | §2 補題 2 の系 | p.142 |
原論文は補題2の証明を帰納法として短く記し、各公理を使う位置、$Y_0$、空対象の扱いを明示しない。本頁では横断性の範囲を $0\leq i\leq p-1$ へ訂正し、(V 0) と (A 0) を独立の条件として追加したうえで、A 2、A 3、A 4の使用箇所を一段ずつ示した。A 1は補題2そのものには不要だが、次章以降で旗の束から等式を戻し、Chern類を射影束関係式から定義するために必要である。
したがって、本頁の系を別の方法で保証できる理論では A 2〜A 4を弱める余地がある一方、原論文の三モデルを共通の形で比較するには、ここで掲げた四公理をそろえておくのが最も見通しよい。
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