全Chern類は直和を積へ送るが、テンソル積や外冪に対しては通常の積だけでは公式を書けない。本頁では、階数と全Chern類を一組にした完備Chern類を導入し、直和・テンソル積・外冪をそれぞれ一つの環の加法・乗法・λ演算として表す。有限個の形式的Chern根による計算と、任意の完備係数列への普遍的な降下とを分離し、証明が外部入力に依存する場所を明示する。
$A=\bigoplus_{i\geq0}A^i$ を単位元をもつ可換な正次数付き環とし、$\widehat A^+=\prod_{i\geq1}A^i$ とする。主結果は次の5つである。
階数 $r$ の束 $E$ の全Chern類は
$$
c(E)=1+c_1(E)+c_2(E)+\cdots+c_r(E)
$$
である。短完全列に対する乗法性は
$$
c(E)=c(E')c(E'')
$$
と書けるので、直和は全Chern類の積に対応する。一方、テンソル積の第1類には
$$
c_1(E\otimes F)=\operatorname{rank}(F)c_1(E)+\operatorname{rank}(E)c_1(F)
$$
と階数が現れる。全Chern類だけを保存して階数を捨てると、この式を一つの普遍演算として扱えない。
そこで階数と全Chern類を組にする。名称の「完備」は、無限級数を全部並べるという意味だけではなく、テンソル積と外冪の計算に必要な階数も記録するという意味である。
$X\in\mathbf V$ 上の階数 $r$ のベクトル束 $E$ に対して
$$
\widetilde c(E):=(r,c(E))
$$
を $E$ の完備Chern類と呼ぶ。これは原論文の式 (14) である。
完備Chern類は束を分類しない。同じ階数と同じChern類をもつ非同型な束はあり得る。本頁が構成するのは、束の三つの操作から特性類に残る情報を一貫して計算する装置である。
正次数の元を無限に足せるように、次数方向の完備化を用いる。
$$
\widehat A:=\prod_{i\geq0}A^i,
\qquad
\widehat A^+:=\prod_{i\geq1}A^i
$$
と置き、
$$
\widetilde A:=\mathbb Z\times(1+\widehat A^+)
$$
とする。第二成分の積を使って
$$
(r,a)+(s,b):=(r+s,ab)
$$
と定める。
$1+\widehat A^+$ の元は次数0成分が1なので、次数ごとの再帰計算により積について逆元をもつ。従って $\widetilde A$ の加法零元は $(0,1)$、加法逆元は
$$
-(r,a)=(-r,a^{-1})
$$
である。ここで「加法」と呼ぶ演算が第二成分では積になっているのは、ベクトル束の直和に対するWhitney積公式をそのまま群演算にするためである。
$X\in\mathbf V$ 上のベクトル束の短完全列
$$
0\longrightarrow E'\longrightarrow E\longrightarrow E''\longrightarrow0
$$
に対して
$$
\widetilde c(E)=\widetilde c(E')+\widetilde c(E'')
$$
が成り立つ。[完結]
階数の加法性から
$$
\operatorname{rank}(E)=\operatorname{rank}(E')+\operatorname{rank}(E'')
$$
である。本書『3-2 存在の証明』の乗法性から
$$
c(E)=c(E')c(E'')
$$
である。$\widetilde A$ の加法の定義へ代入すれば結論を得る。これは原論文の式 (5 bis) である。
階数 $r\geq0$ の形式変数 $x=(x_1,\ldots,x_r)$ に対し
$$
c_x:=\prod_{i=1}^r(1+x_i)
$$
と置く。その係数は基本対称式 $e_i(x)$ である。別の変数群 $y=(y_1,\ldots,y_s)$ に対し、テンソル積に対応する根の多重集合を
$$
x\boxtimes y:=\{x_i+y_j\mid 1\leq i\leq r,\ 1\leq j\leq s\}
$$
と書く。
各 $n$ について $e_n(x\boxtimes y)$ は、$e_1(x),\ldots,e_r(x)$ と $e_1(y),\ldots,e_s(y)$ の整数係数多項式として一意に書ける。また、$m$ 元部分集合 $I$ に対する部分和 $x_I=\sum_{i\in I}x_i$ を根とする基本対称式も、$e_1(x),\ldots,e_r(x)$ の整数係数多項式として一意に書ける。[完結]
$e_n(x\boxtimes y)$ は $x$ の置換と $y$ の置換にそれぞれ不変である。二群の変数について対称多項式の基本定理を順に使えば、両群の基本対称式の整数係数多項式になる。部分和 $x_I$ 全体の集合は $x$ の置換で保たれるので、その基本対称式も $x$ に対称である。同じ定理を使えば結論を得る。一意性も対称多項式の基本定理による。
この補題は有限階数の実在する根についての主張である。末尾に零根を加えたときの安定性や、有限個の形式根の差についての次数ごとの計算も直接確認できる。しかし、任意の整数 $r$ と任意の列 $1+a_1+a_2+\cdots$ が有限個の根の差として表されるわけではない。
本頁では次の外部入力を用いる。
有限アルファベットの和・積・外冪・反復外冪で得られる安定な対称式は、整数階数と完備Chern成分に関する整数値普遍演算を定める。各固定次数の値は有限個の成分だけに依存し、形式差の表示に依存せず、任意の正次数完備環へ特殊化できる。
この入力を「普遍降下定理」と呼ぶ。自由特殊λ環または完備対称関数環の理論に属する外部定理であり、本書では証明しない。
有限根の補題と普遍降下定理の役割を混同してはいけない。前者だけで有限階数の束の公式は計算できるが、$\widetilde A$ の全ての仮想元に対する表示独立な演算まで得るには後者が必要である。対称関数による後代的な整理は Mac95、λ環の体系的な扱いは SGA6 を参照する。
正の階数で根が与えられている場合には、積を
$$
\left(r,\prod_i(1+x_i)\right)
\left(s,\prod_j(1+y_j)\right)
=
\left(rs,\prod_{i,j}(1+x_i+y_j)\right)
$$
と定めたい。これはテンソル積の根の公式そのものである。
普遍降下定理を仮定する。$\widetilde A$ には次を満たす可換環構造が一意に存在する。
有限個の根については、補題により積の各成分が入力の基本対称式の整数係数多項式になる。普遍降下定理によって、その式を任意の階数と任意の完備係数列へ表示に依らず評価する。
可換律は $x_i+y_j=y_j+x_i$ から従う。三つの変数群について、$(x_i+y_j)+z_k=x_i+(y_j+z_k)$ なので結合律が従う。また、$y$ と $z$ の根の合併に $x$ を掛けて得る根は、$x\boxtimes y$ と $x\boxtimes z$ の合併である。従って分配律も有限根上で成り立ち、普遍降下によって $\widetilde A$ 上で成り立つ。
空の根集合に対応する $(0,1)$ は積の吸収元である。一つの零根に対応する $(1,1)$ を掛けると $x_i+0=x_i$ なので乗法単位になる。線元同士では根が一つずつだから
$$
(1,1+x)(1,1+y)=(1,1+x+y),
$$
これが原論文の式 (8) である。
一意性について、自由な普遍対象では全ての式が線元の形式和と形式差により決まる。分配律と式 (8) は有限根上の積を強制し、普遍降下定理の特殊化一意性が任意の完備係数列上の積を強制する。各環 $A$ の元が $A$ 自身の中で実際に線元へ分裂すると仮定したのではない。
第1成分と第2成分の最初の次数を検算する。$(r,a)$、$(s,b)$ に対して積の階数は $rs$、第1 Chern成分は
$$
s a_1+r b_1
$$
である。これは $\sum_{i,j}(x_i+y_j)=s\sum_i x_i+r\sum_jy_j$ に一致する。
外冪は直和を展開する公式
$$
\bigwedge^n(E\oplus F)\cong
\bigoplus_{i+j=n}\bigwedge^iE\otimes\bigwedge^jF
$$
を満たす。これを環の演算として抽象化する。
可換環 $R$ 上の演算 $\lambda^n\colon R\to R$ が
$$
\lambda^0(u)=1,
\qquad
\lambda^1(u)=u,
\qquad
\lambda^n(u+v)=\sum_{i+j=n}\lambda^i(u)\lambda^j(v)
$$
を満たすとき、$R$ をpre-λ環と呼ぶ。全λ類
$$
\lambda_t(u):=\sum_{n\geq0}\lambda^n(u)t^n
$$
を用いれば、最後の式は
$$
\lambda_t(u+v)=\lambda_t(u)\lambda_t(v)
$$
である。
原論文が λ-anneau と呼ぶものは、現在pre-λ環と呼ばれる構造に対応する。用語を読み替えても、原論文自身にλ演算が現れるという歴史的事実は変わらない。
普遍降下定理を仮定する。$\widetilde A$ には一意なpre-λ構造があり、正の分裂元
$$
u=\ell_{x_1}+\cdots+\ell_{x_r}
$$
に対して
$$
\lambda_t(u)=\prod_{i=1}^r(1+\ell_{x_i}t)
$$
である。特に線元 $\ell_x$ について
$$
\lambda^n(\ell_x)=0_{\widetilde A}=(0,1)\qquad(n>1)
$$
である。[条件付き完結:普遍降下定理]
正の分裂元について $t^n$ の係数を取ると、$n$ 個の異なる根の部分和 $x_{i_1}+\cdots+x_{i_n}$ が得られる。有限根上の対称式の補題により、その完備Chern成分は $u$ の成分の整数係数多項式である。
形式差には
$$
\lambda_t(u-v):=\lambda_t(u)\lambda_t(v)^{-1}
$$
と置く。$t$ の各固定次数では有限回の演算しか現れない。普遍降下定理により、共通の線元を分子と分母へ加えても値が変わらず、任意の完備係数列で評価できる。
定義から $\lambda_t(u+v)=\lambda_t(u)\lambda_t(v)$ であり、係数比較でpre-λ公式を得る。線元では $\lambda_t(\ell_x)=1+\ell_xt$ だから高次係数は加法零元である。これが原論文の式 (9)〜(11) である。
一意性は、線元上の式と加法公式が線元の有限和と形式差に対する全λ類を強制し、普遍降下定理がその式を任意の元へ一意に特殊化することから従う。
線束 $L,M$ の $K$ 類の差 $[L]-[M]$ に対して
$$
\lambda_t([L]-[M])=\frac{1+[L]t}{1+[M]t}
$$
である。右辺を $t$ について展開すると高い次数にも一般に非零の項が現れる。従って「階数0だから $\lambda^n=0$」という推論は誤りである。線元の高い外冪が零になる式は、仮想差へそのまま移してはならない。
pre-λ公理は加法に対する外冪の振る舞いしか指定しない。テンソル積 $uv$ の外冪と、外冪をさらに外冪する操作を普遍式で統制するには特殊性が必要である。
pre-λ環 $R$ が特殊であるとは、$\lambda^n(uv)$ が $\lambda^i(u),\lambda^j(v)$ の整数値普遍多項式で、$\lambda^m(\lambda^n(u))$ が $\lambda^k(u)$ の整数値普遍多項式で表されることをいう。
同値な定式化では、$1+tR[\![t]\!]$ の通常の級数積を加法とし、線型因子について
$$
(1+at)\circ(1+bt)=1+abt,
\qquad
\lambda^n(1+at)=1\quad(n>1)
$$
と定めた標準λ構造を用いる。全λ類 $\lambda_t$ がこの構造を保つ環準同型であることが特殊性である。
二つ目の式の右辺 $1$ は、通常の級数積を加法とみたときの加法零元である。$\widetilde A$ の加法零元が $(0,1)$ であったのと同じ種類の記法上の注意が必要である。
普遍降下定理を仮定すると、前定理で構成した $\widetilde A$ のpre-λ構造は特殊である。[条件付き完結:普遍降下定理]
$u=\sum_i\ell_{x_i}$、$v=\sum_j\ell_{y_j}$ と形式的に分裂させる。普遍環積により
$$
uv=\sum_{i,j}\ell_{x_i+y_j}.
$$
従って $\lambda^n(uv)$ は、異なる $n$ 個の対 $(i,j)$ を選び、その根 $x_i+y_j$ を足して得られる。これは $x$ 群と $y$ 群の置換にそれぞれ不変だから、両群の基本対称式、従って $\lambda^i(u)$ と $\lambda^j(v)$ の普遍式へ降りる。
また、$\lambda^n(u)$ の根は $n$ 元部分集合 $I$ ごとの $x_I=\sum_{i\in I}x_i$ である。$\lambda^m(\lambda^n(u))$ の根は、異なる $m$ 個の部分集合から選んだ $x_{I_1}+\cdots+x_{I_m}$ である。全体は $x$ の置換に不変なので、$u$ のλ成分の普遍式へ降りる。
有限根上のこの計算を形式差と任意の完備係数列へ移す段に普遍降下定理を使う。線元では積と高い外冪の式がそれぞれ原論文の式 (12)、(13) を与える。これらとpre-λの加法公式が自由な普遍対象上の全演算を決めるため、特殊性と一意性が従う。
抽象的な普遍演算をベクトル束へ戻す。本書『3-3 双対・外冪・テンソル積』では、旗の束上で外冪の根が部分和、テンソル積の根が $x_i+y_j$ になることを証明した。
$X\in\mathbf V$ とする。ベクトル束 $E,F$ と整数 $n\geq0$ に対して
$$
\widetilde c(E\otimes F)=\widetilde c(E)\widetilde c(F),
\qquad
\widetilde c(\bigwedge^nE)=\lambda^n(\widetilde c(E))
$$
が成り立つ。これら二式と完全列に対する加法性は、実在するベクトル束について完結している。[完結]
$E$ と $F$ を同時に完全分裂させる旗の束へ引き戻す。そこで根を $x_1,\ldots,x_r$ と $y_1,\ldots,y_s$ とすると、テンソル積の根は全ての $x_i+y_j$ であり、階数は $rs$ である。これは $\widetilde A$ の積の定義と一致する。
$\bigwedge^nE$ の根は $n$ 元部分集合 $I$ ごとの $\sum_{i\in I}x_i$ であり、階数は $\binom rn$ である。これは $\lambda^n(\widetilde c(E))$ の定義と一致する。旗の束への引き戻しは単射なので、二式は $X$ 上で成り立つ。
テンソル積と外冪に関する二式は原論文の式 (7 bis) である。ここまでが有限根の計算と分裂原理で閉じる完結部分である。
普遍降下定理により $\widetilde{A(X)}$ の環積と特殊λ構造が表示に依らず定まること、および $K_0^{\mathrm{vb}}(X)$ の標準λ構造を仮定する。このとき
$$
\widetilde c\colon K_0^{\mathrm{vb}}(X)\longrightarrow\widetilde{A(X)}
$$
は環準同型かつλ演算を保つ準同型である。[条件付き完結:普遍降下定理と標準λ構造]
完全列に対する加法性により $\widetilde c$ はGrothendieck群へ一意に延びる。前定理のテンソル積と外冪の二式により、束の類では積とλ演算を保つ。標準λ構造の普遍性により、この両立性は仮想類全体へ延びる。このとき仮想類の表示に依らず標的の演算を評価できることを普遍降下定理から用いている。
従って、実在するベクトル束についての三公式と、任意の仮想元を含むλ環準同型という二つの層を同じ状態札で扱ってはいけない。前者は有限階数の旗の束上の計算で閉じ、後者には普遍降下入力を保持する。
線束 $L,M$ の第1 Chern類を $x,y$ とする。すると
$$
\widetilde c(L)=(1,1+x),
\qquad
\widetilde c(M)=(1,1+y)
$$
であり、普遍積から
$$
\widetilde c(L\otimes M)=(1,1+x+y)
$$
を得る。一方、加法は
$$
\widetilde c(L\oplus M)=(2,(1+x)(1+y))
$$
である。加法と乗法は同じ演算ではなく、前者が直和、後者がテンソル積に対応する。
$E$ の階数を2、根を $x_1,x_2$ とする。$\bigwedge^2E=\det E$ の根は $x_1+x_2$ なので
$$
\lambda^2(\widetilde c(E))=(1,1+c_1(E))
$$
である。第二Chern類 $c_2(E)=x_1x_2$ は右辺には現れない。外冪操作は元の全Chern類の情報を常に保存するわけではない。
ここまで使った $K_0^{\mathrm{vb}}(X)$ はベクトル束の完全列から作るGrothendieck群である。原論文 §4 3° が用いる連接層の群 $K_0^{\mathrm{coh}}(X)$ と無条件に同一視してはいけない。
$X$ を滑らかな準射影 $k$-スキームとする。各連接層が有限長の局所自由分解をもち、自然写像
$$
K_0^{\mathrm{vb}}(X)\longrightarrow K_0^{\mathrm{coh}}(X)
$$
が環同型であるという外部定理を仮定する。このとき完備Chern類は
$$
\widetilde c\colon K_0^{\mathrm{coh}}(X)\longrightarrow\widetilde{A(X)}
$$
というλ環準同型を定める。[条件付き完結:有限局所自由分解定理]
連接層 $\mathcal F$ の有限局所自由分解
$$
0\longrightarrow E_m\longrightarrow\cdots\longrightarrow E_0
\longrightarrow\mathcal F\longrightarrow0
$$
を選ぶ。外部定理による逆同型は
$$
[\mathcal F]\longmapsto\sum_{a=0}^m(-1)^a[E_a]
$$
であり、分解の選択に依存しない。これと $K_0^{\mathrm{vb}}(X)$ 上の完備Chern類を合成する。
連接層側の積は局所自由分解を用いた導来テンソル積、すなわちTorの交代和で表され、比較写像は環同型である。λ構造も比較写像を通じてベクトル束側から移す。従って合成は積とλ演算を保つ。
この延長を「滑らかだから明らか」と済ませない。準射影性と有限局所自由分解が外部入力であり、原論文は二つのGrothendieck群の橋を紙面上では説明していない。後代の体系については SGA6 を参照する。
原論文 Gro58 は、λ環の研究がBorel–SerreのRiemann–Roch証明の鍵であり、その当時の証明は標数0に限られると記す。この制限を、普遍環積やλ演算そのものの仮定へ移してはいけない。有限根上の対称式と普遍多項式は整数係数で構成され、定理の記述に体の標数0は現れない。
標数0は、1958年当時にλ環形式をRiemann–Rochへ応用した外部の証明範囲に付く歴史的制限である。本頁はその外部証明を再構成せず、原論文の報告として保存する。後代の定理を使って歴史的な状態語を無言で書き換えない。
有限根について対称式が見つかったことから、「任意の $(r,1+a_1+a_2+\cdots)$ は有限個の線元の差として表される」と結論することはできない。一般の完備係数列には無限個の非零成分があり、与えられた環内に個々の根が存在する保証もない。
破れているのは、有限アルファベットの対称式から自由特殊λ環上の表示独立な演算へ移る段である。本頁ではこの段を普遍降下定理として分離した。従って有限根の計算だけを根拠に、普遍環構造の状態を完結へ上げてはならない。
Chow環モデル $A(X)=\operatorname{CH}^*(X)$ をとり、$X=\mathbb P^1$、$M=\mathcal O(1)$、$E=\mathcal O_X^{\oplus2}$ とする。$h=c_1(M)$ と置けば
$$
\operatorname{CH}^*(\mathbb P^1)\cong\mathbb Z[h]/(h^2),
\qquad h\neq0
$$
である Ful98。$c(E)=1$ だが
$$
c(E\otimes M)=c(M^{\oplus2})=(1+h)^2=1+2h
$$
である。一方、階数1の自明束も全Chern類は1だが、$\mathcal O_X\otimes M=M$ の全Chern類は $1+h$ である。
従って全Chern類 $c(E)=1$ だけではテンソル積後の第1類を決められない。破れているのは階数情報を捨てた点であり、完備Chern類 $(\operatorname{rank}E,c(E))$ が必要である。
原論文は λ-anneau と λ-anneau spécial を定義し、式 (8)〜(14) を記している。従ってλ環そのものを後代の発明として扱うのは誤りである。一方、pre-λ環という現在の呼称、自由特殊λ環・完備対称関数環による厳密な普遍降下、γ演算、Adams演算、Chern指標との統一的な整理は後代の言葉である。
本頁の普遍降下定理は、原論文が証明を省略した存在・一意性・表示独立性を補う外部入力である。原論文の主張を記録することと、その紙面にない証明を後代の理論で補うことを区別した。次頁では、ここで得た完備Chern類を連接層のK群の支持フィルトレーションへ適用し、Chow環との比較を行う。
本頁が直接対応する原論文は Gro58 である。
| 本頁 | 原論文 | 印字頁 | 状態 |
|---|---|---|---|
| $\widetilde A$ の積と線元の式 | §4 2°、式 (8) | pp.148–149 | 条件付き完結 |
| pre-λ構造 | §4 2°、式 (9)〜(11) | p.149 | 条件付き完結 |
| 特殊λ環 | §4 2°、式 (12)、(13) | p.149 | 条件付き完結 |
| 完備Chern類 | §4 2°、式 (14) | p.149 | 完結 |
| 直和・テンソル積・外冪との両立 | §4 2°、式 (5 bis)、(7 bis) | p.149 | ベクトル束では完結 |
| 連接層のK群への延長 | §4 3°直前 | p.149 | 条件付き完結 |
| λ環とRiemann–Rochの標数0制限 | §4 2°末尾 | p.149 | 歴史的記録 |
原論文は式 (8)〜(13) によって望む普遍演算を特徴づけるが、有限根から任意の完備係数列へ降ろす証明を記さない。本頁は有限対称式の計算を本文内で示し、残る表示独立な降下を外部入力として明示した。完備Chern類のベクトル束上の三公式は、本書『3-2 存在の証明』と本書『3-3 双対・外冪・テンソル積』の分裂原理で完結する。連接層への延長だけは有限局所自由分解定理に依存する。
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