本書は、A. Grothendieck が 1966 年に IHÉS で行った 5 回の講演の記録「Crystals and the De Rham cohomology of schemes」(J. Coates と O. Jussila による記録。『Dix exposés sur la cohomologie des schémas』、North-Holland・Masson、1968 年、306–358 頁)を道案内にして、標数 p の代数多様体に対する p 進コホモロジーの構想、後の結晶コホモロジーの出発点を解説する参考書である。講義は代数的 de Rham コホモロジーの限界の検討から始め、ℓ 進コホモロジーでは見えない p 捩れを捉える理論への要請を列挙し、Monsky–Washnitzer の持上げの方法、接続と stratification、無限小トポスと標数 0 の基本定理を経て、divided power を備えた結晶トポスの定義を提案する。 本書は翻訳ではない。de Rham コホモロジーの批判と p 進理論の要請、Monsky–Washnitzer の方法、接続と Gauss–Manin 接続、無限小トポスと stratifying トポス、基本定理と Čech 計算、結晶トポスの構想、という主題ごとに六つの章を立て、現代の記号と言葉で書き直した。各頁は、その頁で示すこと、定義と準備、主結果と証明、例と反例、その後の発展、原論文との対応表の同じ形で書く。 講義録は着想と見込みを多く含む。本書は、講義が一行で済ませた段(形式的持上げの一意性、Cartan のホモトピー公式、標数 p の楕円曲線族での標準的な stratification の非存在、形式 Poincaré 補題と基本定理の証明など)を補って閉じ、第 1〜6 章の 89 個の主結果を、本書の中で証明し切れたもの(完結、13 件)、引用した定理に依るもの(条件付き、66 件)、証明を閉じられなかったもの(未完結、10 件)、そのままでは成り立たないもの(偽、0 件)に分けて札で示す。印字の誤り(対数の符号など)は訂正した形で述べ、根拠を注意に書く。講義が「期待する」と述べた見込み(結晶トポスの二つの性質、二つの予想、Monsky–Washnitzer コホモロジーの有限性など)は原論文の状態として記録し、Berthelot の結晶コホモロジー(1974 年)など後代の理論での定着を時点を明記して分けて書く。 読むには、スキーム論と連接層のコホモロジー、代数的 de Rham コホモロジーと比較定理、エタールコホモロジーの初歩が要る。第 2 章からは Witt ベクトルと形式スキーム、第 4 章からは景とトポスと微分作用素の初歩が加わる。すべてを先に学ぶ必要はなく、要点は第 0 章に、頁ごとに要る前提の対応表と読む順序の案は「本書の読み方」に、記号と約束、原論文の引き方は「記号と約束」にまとめた。各章で何を扱い、原論文の何を補い、どこを直したかは、目次の各章の説明に書いた。
本書を読むのに要る分野を一覧にし、各概念の要点をボックスに書き、本書での使いどころと教科書への案内を添える章である。代数的 de Rham コホモロジーと比較定理、相対 de Rham 層、標数 p の病理、Gauss–Manin 接続(0-2)、ℓ 進コホモロジーと Weil 予想、Weil コホモロジーの係数体への制約、Serre の曲面、Witt ベクトル環(0-3)、形式スキーム、持上げの障害類、過収束級数、divided power 構造(0-4)、景とトポス、無限小近傍と微分作用素、pro-対象と余単体対象(0-5)の順に並べ、証明は参考書『代数的 de Rham コホモロジー』と用語解説記事に委ねる。頁ごとに要る前提の対応表と読む順序の案は 0-1 に、記号と約束、原論文の番号・頁の引き方、数学に関わる誤植の読み方、状態語と原論文の確信度の使い分けは 0-6 にまとめる。
原論文 §1 に当たり、代数的 de Rham コホモロジーの長所と限界を検討して、p 進コホモロジーに何が要るかを列挙する章である。1-1 は相対 de Rham 層の連接性と比較定理を整理し、標数 p では affine 多様体の 0 次コホモロジーが無限次元になること、Serre の曲面で Betti 数が破れることを示す。Betti 数の交代和には滑らかさと純次元の仮定を足した。1-2 は ℓ 進に現れない p 捩れ、超特異楕円曲線による p 進係数の Weil コホモロジーの不可能性、fppf コホモロジーでの Poincaré 双対の不成立を証明し、予想定理と Dieudonné 加群への期待は原論文の状態で記録する。標数 0 での局所自由性と双対性の形式は証明なしの主張なので未完結に残し、Berthelot の結晶コホモロジー(1974 年)による要請の実現を対照する。
原論文 §2 に当たり、標数 p の affine 滑らかなスキームを Witt ベクトル環の上へ持ち上げて de Rham コホモロジーを取る Monsky と Washnitzer の方法を扱う章である。2-1 は形式的持上げの存在・一意性・関手性を SGA 1 の持上げの定理から閉じ、affine 直線の形式的持上げでは 1 次コホモロジーが有限生成にならず、過収束級数なら有理係数で消えることを計算で示す。原論文の「有限次元ベクトル空間」は「有限生成 W 加群」と読み替えた。2-2 は弱完備化と Monsky–Washnitzer 代数を定義し、持上げ定理は公刊論文(1968 年)の報告として未完結に置く。捩れを法とした不変性、有限性の未解決、ゼータ関数の有理性は注意として記録し、有限性が rigid コホモロジー(Berthelot、1997 年)で解決したことを添える。
原論文 §3 に当たり、不変性の帰結から接続と stratification の問題へ進む章である。3-1 は不変性の精密形の下で持上げの族の切断ごとに de Rham コホモロジーが標準同型になることを導来圏での底変換で示し、複素数体上の固有滑らかな族の超越的接続を相対 GAGA で閉じる。3-2 は Cartan のホモトピー公式と導分の持上げを証明し、affine かつ形式的滑らかな射では原論文が「望む」と書いた絶対可積分接続が定理になることを示す。3-3 は平方零の厚みの上の二つの持上げの間の de Rham 複体の標準同型を導来圏に構成する。3-4 は標数 p の楕円曲線の族に関手的な stratification が存在しないことを、Legendre 族と標数 2 の族について Hasse 不変量と反復 Frobenius の議論で証明する。
原論文 4.1・4.2 と Appendix に当たり、冪零はめ込みを対象とする無限小景と、局所的にレトラクションをもつ対象に限った stratifying 景を定義する章である。4-1 は景の上の層を Zariski 層と遷移射の系で記述し、終対象が存在しない条件と存在する場合を補い、滑らかなら二つの景が一致することを示す。special 加群と stratification 付き加群の圏同値では、原論文が「明らか」とする逆向きの関手を作る。4-2 は 1-connection と接続の対応、stratification が可積分接続を誘導すること、標数 0 では両者が同値であることを局所座標の計算で閉じる。原論文が「非零標数では偽」と書くだけの反例は標数 p の直線の上の接続で与え、Appendix に書かれていない延長の対に対する推移的同型系との対応を本書で証明した。
原論文 4.3・§5・§6 に当たり、Theorem 4.1(標数 0 の滑らかなスキームで無限小コホモロジーは de Rham コホモロジーに一致する)を言明し、証明する章である。5-1 は基本定理と Conjecture 4.2 を記録し、stratifying 景では恒等射の表す層が終対象を覆うことから Čech 型スペクトル系列と affine での余単体複体による計算を導き、原論文が一言で済ませた段を閉じた。5-2 は無限小コホモロジーの冪零はめ込みでの不変性を証明し、Conjecture 5.1 は含意の形で記録する。5-3 は formalizing functor で微分作用素を線形化し、形式 Poincaré 補題を経て基本定理を証明する。標数 p のアーベルスキームの例は証明が欠けて未完結に残す。特異多様体の場合は Hartshorne(1975 年)で扱われた。
原論文 §7 に当たり、divided power を備えた冪零はめ込みを対象とする結晶景を定義し、p 進コホモロジーの候補として提案する章である。6-1 は Witt ベクトル環の上で無限小コホモロジーが不適切になる例を記録し、結晶景と接続景を定義して無限小景・接続景と一致する条件を示す。見込み a)・b) は証明がなく、a) は後注が修正を要すると告げるので未完結とし、両者から crucial test が従う段は本書で閉じた。6-2 は指数と対数の同型(原論文の対数の符号を訂正)と第一 Chern 類の構成で動機を示し、非固有では無限階数になるという主張は段が欠けて未完結とする。見込みの定着(Berthelot、1974 年)、de Rham–Witt 複体(Illusie、1979 年)、overconvergent 景(Le Stum、2011 年)と対照する。
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