0-1 本書の読み方

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

本書の目的と原論文の位置づけ、章立て(第 0〜6 章、全 21 頁)と各章の要点、頁ごとに要る前提の対応表、読む順序の案、状態語(完結/条件付き/未完結/偽)と原論文の確信度(定理/主張/期待/予想/提案/撤回)の使い分け、本書全体の集計、原論文が閉じていない点の一覧とその後の発展をまとめる。分野ごとの要点と教科書の案内は本書『0-2 de Rham コホモロジーと比較定理の復習』から『0-5 景・トポス・微分作用素』までの四頁に、全頁に共通する記号と約束は本書『0-6 記号と約束』に分けて置く。

本書の使い方

本書は、A. Grothendieck が 1966 年 11 月から 12 月にかけて IHÉS で行った 5 回の講演の記録「Crystals and the De Rham cohomology of schemes」(J. Coates と O. Jussila による記録。論文集『Dix exposés sur la cohomologie des schémas』、North-Holland・Masson、1968 年、印字 306–358 頁。本書では Gro68c と引く)を道案内にして、標数 $p$ の代数多様体に対する $p$ 進コホモロジーの構想、すなわち後に結晶コホモロジーと呼ばれる理論の出発点を主題ごとに解説する。原論文は自らを講演の「粗い要約」と呼び、番号付きの主張は Theorem 1.1(de Rham の定理)・Theorem 1.2(比較定理)・Theorem 4.1(基本定理)・Conjecture 4.2・Conjecture 5.1 の五つしかない。それ以外の定義・主張・見込みはすべて無番号の段落の中にあり、本書はそれを「小節 3.4 の構成」「7.2 の見込み a)」のように小節と内容で指し、印字頁を添える。記録の後に付けられた脚注(本書の呼び名は「後注」。7.2 の見込み a) が述べたままでは正しくないと告げるもの、1.6 の Lubkin の指摘、Introduction の Berthelot への言及)は講義の内容と分けて扱う。この引き方の細則は本書『0-6 記号と約束』にある。
講義は、代数的 de Rhamコホモロジー の長所と限界の検討(§1)から始め、$\ell$ 進コホモロジーでは見えない $p$ 捩れを捉える理論に何が要るかを列挙し(1.7〜1.8)、Monsky と Washnitzer の持上げによる方法(§2)、族の de Rham コホモロジーに入る接続(§3)、無限小トポスと stratification(§4)、Čech 型の計算(§5)、標数 $0$ での基本定理の証明(§6)を経て、divided power を備えた結晶トポスの定義を提案する(§7)。本書は講義録の翻訳ではない。この流れを六つの主題に組み直し、前提知識の第 0 章を加えて 7 章 21 頁とした。原論文の Appendix($n$-connection と stratification)は第 4 章の後半の頁に、§4.3 の基本定理の言明は §5・§6 とともに第 5 章に置いた。
講義録は完成した理論ではなく、着想と見込みを多く含む。本書の方針は三つある。第一に、原論文が「明らか」「よく知られている」「Mittag-Leffler 型の議論で」の一言で済ませた段(Cartan のホモトピー公式、持上げの間の標準同型の推移性、標数 $p$ の楕円曲線の族で標準的な stratification が存在しないこと、affine の場合の余単体複体による計算、形式 Poincaré 補題など)を補って閉じる。第二に、各主張の状態(完結/条件付き/未完結/偽)を本書の判定として付け、これとは別に原論文自身の確信度(定理/主張/期待/予想/提案/撤回)を添える。第三に、原論文が「期待する」「おそらく」と述べた見込みは原論文の状態として記録し、Berthelot の結晶コホモロジーや rigid コホモロジーなど後代の理論で何がどう定着したかを、時点を明記して「その後の発展」に分けて書く。
使い方は三通りを想定している。

  1. 最初に通して読む:次の「本書の章立てと各章の要点」で全体の地図をつかみ、本書『0-2 de Rham コホモロジーと比較定理の復習』から『0-5 景・トポス・微分作用素』までの各概念の要点は見出しだけ拾う。
  2. 頁を読んでいて分からない語に出会ったら引く:第 0 章の各項目は分野ごとに頁を分け、定義または定理の要点をボックスに書き、続けて本書での使いどころと案内を付けた。
  3. どこから読むかを決める:本頁の「頁ごとの前提の対応表」と「読む順序の案」を見る。
    第 1 章以後の各頁は、その頁で示すこと、背景と動機、定義と準備、主結果と証明、例と反例、その後の発展、原論文との対応表、という同じ形で書いてある。「この頁で示すこと」には主結果の名前と原論文の小節・印字頁、状態札が並び、「定義と準備」の中の「引用する事実」には、その頁が証明せずに使う事実が第 0 章の頁名とともに列挙してある。ある頁の前提を確かめたいときは、まずそこを見ればよい。第 1 章は参考書『代数的 de Rham コホモロジー』の内容を要約して引くので、同じ命題を二重に証明せず「参考書『代数的 de Rham コホモロジー』の頁『n-m 名前』」の形で引く。用語解説記事へのリンク(de Rhamコホモロジー超コホモロジーGauss–Manin接続エタールコホモロジーGrothendieck位相結晶コホモロジー など)は、記事が未作成のものもリンクの形で示してある。

本書の章立てと各章の要点

章ごとに、頁と原論文の対応、各頁で示すことを挙げる。頁の「この頁で示すこと」に並ぶ主結果の名前と状態札をそのまま要約したものなので、詳しくは各頁の冒頭を見よ。

原論文要点
第 0 章 前提知識と読み方0-1〜0-6読み方、分野ごとの前提(四頁)、記号と約束
第 1 章 de Rham コホモロジーの批判と p 進コホモロジーの要請1-1、1-2§1(印字 307–317)標数 $p$ での破綻、$\ell$ 進の限界、$p$ 進コホモロジーへの要請と係数環の制約
第 2 章 Monsky–Washnitzer の方法2-1、2-2§2(317–322)持上げの de Rham コホモロジー、過収束級数、M–W 代数とコホモロジー
第 3 章 接続と Gauss–Manin 接続3-1〜3-4§3(322–330)超越的接続、代数的構成、導来圏での絶対標準接続、標準的 stratification の非存在
第 4 章 無限小トポスと stratifying トポス4-1、4-2§4.1〜4.2、Appendix(330–334、356–357)無限小景と stratifying 景、stratification と可積分接続
第 5 章 基本定理と Čech 計算5-1〜5-3§4.3、§5、§6(334–351)Theorem 4.1 の言明と証明、Čech 型スペクトル系列、冪零不変性、Conjecture 4.2・5.1
第 6 章 結晶トポスの構想6-1、6-2§7(351–356)結晶景と接続景、見込み a)・b) と crucial test、第一 Chern 類、非固有の場合

第 1 章は原論文の §1 を二頁に分ける。『1-1 代数的 de Rham コホモロジーの長所と限界』は、de Rham の定理、相対 de Rham 層の連接性と導来圏での底変換、比較定理と標数 $0$ での Betti 数の一致を引用の形で整理したうえで、標数 $p$ で何が破れるかを閉じる。affine で次元 $1$ 以上なら $H^0_{dR}$ が無限次元になること(完結)、固有かつ滑らかでも Serre の曲面で $\dim H^1_{dR}=1$$b_1=0$ となること、それでも Betti 数の交代和は一致すること、Lefschetz 不動点公式が標数を法とする値しか与えないことである。『1-2 ℓ 進コホモロジーの批判と p 進コホモロジーの要請』は、$\ell$ 進コホモロジーが標数 $p$ では $p$ 捩れを原理的に与えないことを確かめ、原論文が $p$ 進コホモロジーに課す要請を (P1)〜(P5) の公理の列として書き、超特異楕円曲線の自己準同型環から係数環が $\mathbb Z_p$ にも $\mathbb Q_p$ にもできないという Serre の議論を導き、fppf 位相の有限群スキーム係数では Poincaré 双対が成り立たないという Artin の指摘を証明する。
第 2 章は原論文の §2 を二頁に分ける。『2-1 持上げの de Rham コホモロジーの不変性』は、固有滑らかな持上げの de Rham コホモロジーが正しい Betti 数を与えること、affine 直線 $\mathbb A^1_k$ の形式的持上げ $\operatorname{Spf}W\{t\}$ では $H^1$$K=W[1/p]$ をテンソルしても無限次元であること(完結)、過収束級数 $W\{t\}^\dagger$ に取り替えると $H^1\otimes K=0$ となって $\mathbb A^1$ の Betti 数が戻ること(完結)を計算で確かめる。『2-2 弱完備代数と Monsky–Washnitzer コホモロジー』は、M–W 代数とその微分加群を定め(完結)、持上げの存在・一意性・関手性という Monsky–Washnitzer の定理を言明して証明の筋を書き(本書は MW68 を開いていないので未完結)、コホモロジー関手と持上げの景 $X_{0,WM}$$H^n_{WM}(X_0)$ を定義し、原論文 2.3 の評価(有限性の未解決、Lefschetz 不動点公式とゼータ関数の有理性)を注意として整理する。
第 3 章は原論文の §3 を四頁に分ける。『3-1 不変性からの帰結と超越的接続』は、不変性を導来圏での標準同型という精密な形で仮定すると持上げの族の相対 de Rham 複体の切断ごとの引き戻しが互いに標準同型になること、複素数体上の固有滑らかな族の相対 de Rham 層が局所系から来る可積分接続(超越的接続)をもつことを示す。『3-2 Gauss–Manin 接続の代数的構成』は、Cartan のホモトピー公式と形式的滑らかな射に沿った導分の持上げを閉じ(完結)、$f$ が affine かつ形式的滑らかなら相対 de Rham 層に持上げに依らない絶対可積分接続が定まることを定理にし、非 affine で導分が持ち上がらないことを Legendre 族で示す。『3-3 絶対標準接続の構成』は、平方零の厚みの上の二つの滑らかな持上げの間に大域的な同型がなくても、持上げの同型の トーサー から de Rham 複体の間の導来圏の標準同型が作れることを Čech 表示まで補って閉じる。『3-4 標準的 stratification の非存在』は、標数 $p$ の楕円曲線の族の $H^1_{dR}(E/T)$ に射と両立する stratification を与えることはできないという原論文 3.5 の Hasse 不変量による論証を、Legendre 族($p\ge3$)と族 $y^2+axy+y=x^3$$p=2$)の上で補って閉じる。
第 4 章は原論文の §4.1〜4.2 と Appendix を二頁に分ける。『4-1 infinitesimal 景と stratifying 景』は、無限小景 $\operatorname{Inf}(X/S)$ と stratifying 景 $\operatorname{Strat}(X/S)$ を定義し、その上の層が各対象上の Zariski 層の両立系と同じものであること(完結)、$\Omega^1_{X/S}\ne0$ なら終対象がないこと、滑らかなら二つの景が一致すること、special 加群の圏と stratification 付き加群の圏が同値であることを示す。『4-2 接続・stratification・可積分性』は、1-connection と接続の対応、stratification が可積分接続を誘導すること(任意標数。本書の補い)、標数 $0$ では両者が同値であること、標数 $p$ では $\mathbb A^1_k$ の接続 $d/dx+1$ が可積分だがどの stratification にも延びないこと(完結)を、局所座標による計算で閉じる。
第 5 章は原論文の §4.3・§5・§6 を三頁に分ける。『5-1 基本定理の言明と Čech 型スペクトル系列』は、標数 $0$ の底の上の滑らかなスキームについて無限小コホモロジーが代数的 de Rham コホモロジーに一致するという Theorem 4.1 を言明し、stratifying 景では恒等射の表す層が終対象を覆うこと、affine なら対角線に沿った形式完備化の値の余単体複体で、一般には $X_{\mathrm{zar}}$ 上の余単体層の超コホモロジーで計算できること、無限小景では形式的滑らかな $Y$ へのはめ込みを取って同じ計算ができることを閉じる。『5-2 冪零はめ込みでの不変性と微分作用素』は、無限小コホモロジーが冪零はめ込み $X_0\hookrightarrow X$ を見ないことをトポスの射から閉じ、stratifying 景では破れること、標数 $0$ の de Rham コホモロジーが滑らかな持上げの取り方によらないこと、余単体層の構造射が微分作用素であること、Conjecture 5.1 から固有な場合の比較が従うことを扱う。『5-3 基本定理の証明』は、微分作用素を対角線の無限小近傍の系の上で線形化する formalizing functor $Q^\circ$(完結)、formalization による分解(条件付き。二重複体の全複体の擬同型を引く)、形式 Poincaré 補題(完結)を経て Theorem 4.1 を証明し、標数 $p$ のアーベルスキームで標準準同型が同型でないという原論文の例は未完結とする。
第 6 章は原論文の §7 を二頁に分ける。『6-1 結晶景と接続景』は、$W(k)$ 上で無限小コホモロジーが $p$ 進コホモロジーの要請に反するという原論文 7.1 の例(未完結)を確かめたうえで、冪零はめ込みのイデアルに divided power 構造を添えた結晶景 $\operatorname{Cris}(X/S)$ と接続景 $\operatorname{Conn}(X/S)$ を定義し、二つの見込み a)(冪零はめ込みに沿った不変性)・b)(滑らかなら de Rham コホモロジーに一致)を原論文の状態(未完結。a) は後注が撤回)のまま記録し、a)・b) が成り立てば固有で滑らかな $X_0$ の結晶コホモロジーが $W(k)$ 上の固有で滑らかな持上げの de Rham コホモロジーに一致するという crucial test の導出を閉じる。『6-2 divided power の動機と非固有の場合』は、divided power イデアル上の指数・対数が与える同型 $(1+\mathcal J)\cong\mathcal J$(完結。原論文の $\log$ の符号の誤植を正す)から任意標数で可逆層の第一 Chern 類 $c(L)\in H^2_{\mathrm{cris}}(X/S)$ を構成し、非固有の場合に結晶コホモロジーが $W$ 上無限階数になるという原論文 7.5 の指摘(未完結)と Monsky–Washnitzer の景の構想を記録する。

本書を読むのに要る分野

分野ごとに、本書で要る水準の目安を示す。「◎」は本書の多くの頁で証明の中で使うもの、「○」は一部の頁で使うもの、「△」は背景や言明の理解のために触れるだけのものである。

分野主な内容水準の目安主に使う章第 0 章の頁
スキーム論と連接層コホモロジー分離・固有・滑らかな射、affine 上の消滅、固有射の有限性、Čech 計算、Kähler 微分、エタール座標Har77 第 II・III 章程度。主張の形を知っていれば証明は引用でよい全章0-2、0-5
代数的 de Rham コホモロジーと比較定理de Rham 複体と超コホモロジー、Hodge–de Rham スペクトル系列、比較定理、相対 de Rham 層の連接性と底変換、標数 $p$ の病理、Gauss–Manin 接続の言明◎ 参考書『代数的 de Rham コホモロジー』の主結果を言明の形で知っていること全章0-2
ホモロジー代数導来圏、超コホモロジーのスペクトル系列、射影極限と $\varprojlim^1$、Mittag-Leffler 条件、Čech 二重複体◎ 二重複体のスペクトル系列と Milnor 完全列を自分で書けること全章0-2、0-5
エタールコホモロジーと Weil コホモロジーℓ進コホモロジーと Betti 数、Artin の比較定理、Weil コホモロジーの公理、超特異楕円曲線の自己準同型環、Serre の曲面○ 第 1 章で必須、他の章では Betti 数の言明だけ1・2・6 章0-3
Witt ベクトル環$W(k)$ の定義と完全体上の基本性質、$W_n=W/p^{n+1}W$、商体 $K$◎ 第 2 章以後の係数環。Ser79 第 II 章程度2・3・6 章0-3
形式スキームと持上げ$p$ 進完備化と制限冪級数環、形式的滑らかさ、平方零拡大の持上げの障害類(SGA 1 III)、弱完備化と過収束級数◎ 第 2・3 章の証明の中心2・3・4・6 章0-4
divided power 構造Roby の公理、PD 冪零性、divided power 包絡、指数と対数○ 第 6 章で必須。第 5 章では標数 $0$ での一意性だけ5・6 章0-4
景とトポスGrothendieck位相と景、景上の層とトポス、環付きトポス、トポスの射、終対象を覆う対象と Čech 型スペクトル系列◎ 第 4 章以後の証明の中心。SGA4 の該当節の主張を知っていること4・5・6 章0-5
無限小近傍と微分作用素対角線の無限小近傍と主要部の層、微分作用素の層(EGA IV 16)、Taylor 展開、pro-対象と Artin–Rees の条件、余単体対象◎ 第 4・5 章の証明の中心3・4・5 章0-5
楕円曲線と Hasse 不変量Legendre 族、Frobenius と Hasse–Witt 写像、超特異性、Deuring の定理○ 『3-4』と『1-2』だけで使い、Hasse 不変量の定義は『3-4』の中に置く1・3 章0-3(超特異楕円曲線と Deuring の定理)、Sil09
複素解析空間と GAGA解析化、固有射の相対 GAGA、Ehresmann の定理、局所系と可積分接続△〜○ 『3-1』『5-2』の解析側の段だけ1・3・5 章参考書『代数的 de Rham コホモロジー』の頁『0-4 複素解析空間と GAGA』

第 0 章に頁を設けない分野(楕円曲線の Hasse 不変量、stratification の定義、Čech–Alexander 余鎖)は、使う頁の「定義と準備」で定義する。

頁ごとの前提の対応表

行は本書の頁、列は第 0 章の頁と参考書『代数的 de Rham コホモロジー』(de Rham 本)である。「◎」はその頁の証明の中心で使うもの、「○」は一部の段や引用で使うもの、空欄はほとんど使わないものを表す。印は各頁の「引用する事実」に列挙された事実から付けた。「頁の前提」の列には、その頁の前に読んでおくとよい本書の頁を挙げた(第 0 章の頁は省く)。

de Rham・比較定理(0-2)エタール・Weil・Witt(0-3)形式スキーム・持上げ・PD(0-4)景・トポス・微分作用素(0-5)de Rham 本頁の前提
1-1 代数的 de Rham コホモロジーの長所と限界なし
1-2 ℓ 進コホモロジーの批判と p 進コホモロジーの要請なし
2-1 持上げの de Rham コホモロジーの不変性『1-1 代数的 de Rham コホモロジーの長所と限界』
2-2 弱完備代数と Monsky–Washnitzer コホモロジー『2-1 持上げの de Rham コホモロジーの不変性』
3-1 不変性からの帰結と超越的接続『1-1 代数的 de Rham コホモロジーの長所と限界』、『2-1 持上げの de Rham コホモロジーの不変性』
3-2 Gauss–Manin 接続の代数的構成『3-1 不変性からの帰結と超越的接続』
3-3 絶対標準接続の構成『1-1 代数的 de Rham コホモロジーの長所と限界』、『3-2 Gauss–Manin 接続の代数的構成』
3-4 標準的 stratification の非存在『3-3 絶対標準接続の構成』
4-1 infinitesimal 景と stratifying 景『4-2 接続・stratification・可積分性』の命題(延長の対に対する推移的同型系との対応)だけを先に
4-2 接続・stratification・可積分性『4-1 infinitesimal 景と stratifying 景』
5-1 基本定理の言明と Čech 型スペクトル系列『4-1 infinitesimal 景と stratifying 景』、『4-2 接続・stratification・可積分性』
5-2 冪零はめ込みでの不変性と微分作用素『4-1 infinitesimal 景と stratifying 景』、『5-1 基本定理の言明と Čech 型スペクトル系列』
5-3 基本定理の証明『4-1 infinitesimal 景と stratifying 景』、『4-2 接続・stratification・可積分性』、『5-1 基本定理の言明と Čech 型スペクトル系列』
6-1 結晶景と接続景『4-1 infinitesimal 景と stratifying 景』、『5-1 基本定理の言明と Čech 型スペクトル系列』、『5-2 冪零はめ込みでの不変性と微分作用素』、『5-3 基本定理の証明』
6-2 divided power の動機と非固有の場合『2-1 持上げの de Rham コホモロジーの不変性』、『2-2 弱完備代数と Monsky–Washnitzer コホモロジー』、『6-1 結晶景と接続景』

表から読み取れることを三つ挙げておく。

  • 前半(第 1〜3 章)と後半(第 4〜6 章)で道具が入れ替わる:前半は de Rham コホモロジーの一般論と持上げの理論(0-2・0-4)を、後半は景とトポスと微分作用素(0-5)を証明の中心で使う。0-3 が証明の中心にあるのは『1-2 ℓ 進コホモロジーの批判と p 進コホモロジーの要請』だけで、他の頁では Betti 数の言明と Witt ベクトル環だけを引く。
  • 第 4 章の二頁は他の頁からほとんど独立に読める:景の定義と主要部の層の局所座標表示だけを入力にもち、第 1〜3 章の結果を引かない。トポス側から入る読者の出発点である。
  • 第 5・6 章の主結果はほぼすべて条件付きである:『4-1 infinitesimal 景と stratifying 景』の景の定義を入力にもつので、本書の基準では景の上の主張は「完結」にならない。閉じ切れなかった段(未完結)とは区別して読む。

読む順序の案

原論文の順序は §1 から §7 まで一本道だが、本書は三つの道筋を想定している。どの道筋でも、各頁の冒頭の「この頁で示すこと」に主結果と原論文の小節・印字頁の対応、状態札がまとめてあるので、まずそこだけを全頁通して読み、原論文のどの主張がどこまで閉じているかの全体像を先につかむのも一つの方法である。

de Rham 側から読む

原論文の順序に沿って、de Rham コホモロジーの批判から接続を経て結晶トポスへ至る道筋である。
『1-1 代数的 de Rham コホモロジーの長所と限界』→『1-2 ℓ 進コホモロジーの批判と p 進コホモロジーの要請』→『2-1 持上げの de Rham コホモロジーの不変性』→『2-2 弱完備代数と Monsky–Washnitzer コホモロジー』→『3-1 不変性からの帰結と超越的接続』→『3-2 Gauss–Manin 接続の代数的構成』→『3-3 絶対標準接続の構成』→『3-4 標準的 stratification の非存在』→ 第 4 章 → 第 5 章 → 第 6 章
『1-1』で標数 $p$ の破綻を確かめ、『1-2』で要請 (P1)〜(P5) を立て、第 2 章で持上げの de Rham コホモロジーという最初の候補とその限界を見る。『3-1』から『3-3』は、不変性が精密な形で成り立てば族の de Rham コホモロジーに接続が入るはずだという観察を代数的に実現する段で、『3-4』はその接続が stratification に延びないという標数 $p$ の障害を示す。この障害が、無限小景でなく divided power 付きの結晶景を要する理由であり、第 4 章以後はその答えである。参考書『代数的 de Rham コホモロジー』を読み終えた読者に向く。

トポス側から読む

景とトポスに慣れた読者が、無限小景の定義から入って基本定理の証明を先に閉じ、後から動機と障害に戻る道筋である。
本書『0-5 景・トポス・微分作用素』→『4-1 infinitesimal 景と stratifying 景』→『4-2 接続・stratification・可積分性』→『5-1 基本定理の言明と Čech 型スペクトル系列』→『5-3 基本定理の証明』→『5-2 冪零はめ込みでの不変性と微分作用素』→『6-1 結晶景と接続景』→『6-2 divided power の動機と非固有の場合』→『3-4 標準的 stratification の非存在』→『2-1 持上げの de Rham コホモロジーの不変性』
『4-1』『4-2』は第 1〜3 章の結果を引かないので最初に読める。『5-1』で Theorem 4.1 を言明して Čech 計算を閉じ、『5-3』で証明を閉じる。『5-2』は冪零不変性と Conjecture 5.1 を扱うので、証明の後に読んでも支障はない。第 6 章で結晶景の定義と crucial test を見た後、なぜ divided power が要るのか(『3-4』の標数 $p$ の障害)、なぜ形式的持上げでは足りないのか(『2-1』の病理)を遡って確かめる。

結晶トポスの構想だけを追う

原論文の到達点である §7 の提案を、それに要る最小限の頁で追う道筋である。
『1-2 ℓ 進コホモロジーの批判と p 進コホモロジーの要請』(要請 (P1)〜(P5) と係数環 $W(k)$ の見通し)→『2-1 持上げの de Rham コホモロジーの不変性』(固有な持上げは正しい Betti 数を与えるが形式的持上げでは足りないこと)→『4-1 infinitesimal 景と stratifying 景』(無限小景の定義)→『5-1 基本定理の言明と Čech 型スペクトル系列』(Theorem 4.1 の言明と、標数 $0$ で結晶景が無限小景に一致すること)→『6-1 結晶景と接続景』(結晶景の定義、見込み a)・b)、crucial test)→『6-2 divided power の動機と非固有の場合』(第一 Chern 類と非固有の場合)
基本定理の証明(『5-3』)と接続の構成(第 3 章)を飛ばすので、Theorem 4.1 は言明のまま引くことになる。『6-1』の例($W(k)$ 上の無限小コホモロジーが失敗すること)は『5-3』の末尾の例に依るので、そこだけは『5-3』の「例と反例」を見る。

状態語と原論文の確信度

各主結果には、本書の判定として状態語を一つ付ける。「完結」は本書の中で証明し切ったもの、「条件付き」は引用した定理に依るもの(何を引用したかを札の中に添える)、「未完結」は証明を閉じられなかったもの、「偽」はそのままでは成り立たないもの(反例と正しい形を添える)である。本書の基準は、第 0 章の事実や古典的定理(GAGA、EGA の定理、SGA 4 のトポスの一般論など)を引いた段が一つでもあれば「条件付き」とするもので、たとえば『5-1 基本定理の言明と Čech 型スペクトル系列』の主結果はすべて景の定義を入力にもつため条件付きになる。「条件付き」は証明の欠落を意味せず、何に依って閉じたかを示す札であり、「未完結」は本書が閉じられなかった段が実際にある主張で、各頁の注意にその段を書いてある。
これとは別に、原論文自身の確信度を六つの語で添える。「定理」は証明または証明の筋がある主張(Theorem 1.1・1.2・4.1)、「主張」は断定形だが証明のないもの(1.3 の標数 $0$ での局所自由性など)、「期待」は hope、should、would と述べる箇所(3.3 の非 affine での接続、7.3 の要請の充足)、「予想」は Conjecture 4.2・5.1 と、it seems likely、presumably、we expect と述べる箇所(2.3 の有限性、7.2 の見込み a)・b))、「提案」は tentatively と述べる定義の試案(7.5 の Monsky–Washnitzer トポス)、「撤回」は後注で「述べたままでは正しくない」と認めた 7.2 の a) である。状態語は本書がその頁で証明を閉じたかどうかだけで決まり、原論文で「期待」だった主張が後代に定理になっていても変わらない。細則は本書『0-6 記号と約束』にある。

本書全体の集計

第 1〜6 章の 15 頁の「この頁で示すこと」に並ぶ主結果の状態札を数えた(2026 年 9 月 22 日時点の各頁の正本による実測)。主結果は合わせて 89 個で、内訳は次のとおりである。

主結果完結条件付き未完結
1-1 代数的 de Rham コホモロジーの長所と限界111730
1-2 ℓ 進コホモロジーの批判と p 進コホモロジーの要請80710
2-1 持上げの de Rham コホモロジーの不変性42200
2-2 弱完備代数と Monsky–Washnitzer コホモロジー31110
3-1 不変性からの帰結と超越的接続30300
3-2 Gauss–Manin 接続の代数的構成42200
3-3 絶対標準接続の構成40400
3-4 標準的 stratification の非存在50500
4-1 infinitesimal 景と stratifying 景51400
4-2 接続・stratification・可積分性52300
5-1 基本定理の言明と Čech 型スペクトル系列80800
5-2 冪零はめ込みでの不変性と微分作用素1101010
5-3 基本定理の証明82510
6-1 結晶景と接続景50320
6-2 divided power の動機と非固有の場合51310
合計891267100

「偽」が零であるのは、原論文の主張のうちそのままでは成り立たないものを、本書が主結果でなく別の形で扱ったからである。原論文の印字の誤り(7.4 の $\log$ の符号、5.1 の極限の向きなど)は本書の読みとして訂正し『0-6 記号と約束』の表に集め、原論文自身が後注で撤回した 7.2 の見込み a) は『6-1 結晶景と接続景』で未完結の見込みとして記録し、原論文が「非零標数では偽」と述べる Appendix の同値は『4-2 接続・stratification・可積分性』で反例($\mathbb A^1_k$ の接続 $d/dx+1$)を完結の主結果として与えた。主結果として立てた反例は 4-2・5-2・5-3・6-1 にあり、このほか仮定を一つ外すと結論が破れることを示す反例のボックスが、第 1 章以後のほぼ全頁の「例と反例」にある。

原論文が閉じていない点とその後の発展

原論文の紙面で証明が閉じておらず、本書も閉じなかった点を、原論文の確信度と扱う頁とともに挙げる。

箇所内容原論文の確信度本書の頁と状態
Conjecture 4.2(印字 p. 335)特異な $X/\mathbb C$ でも stratifying コホモロジー・無限小コホモロジーが $H^*(X^{an},\mathbb C)$ に一致する予想『5-1 基本定理の言明と Čech 型スペクトル系列』。滑らかな場合だけ条件付きで閉じる
Conjecture 5.1(印字 p. 343)固有な $X/\mathbb C$ の解析的な余単体層の複体が $\mathbb C$ の分解である予想『5-2 冪零はめ込みでの不変性と微分作用素』。予想を前件とする含意は条件付き、発見的根拠は特異点で未完結
7.2 の見込み a)・b) と後注(印字 p. 352)結晶コホモロジーの冪零不変性と、滑らかな場合の de Rham コホモロジーとの一致予想。a) は撤回『6-1 結晶景と接続景』。未完結。crucial test の導出は a)・b) を前件として条件付き
7.1 の例(印字 p. 351)と 6.5 末の例(pp. 350–351)形式群がトーラスであるアーベルスキームで無限小コホモロジーが高次で消えること主張『5-3 基本定理の証明』『6-1 結晶景と接続景』。未完結
7.5 の非固有の場合(印字 p. 355)固有でない $X_0$ の結晶コホモロジーは $W$ 上無限階数である主張『6-2 divided power の動機と非固有の場合』。未完結
2.3 の有限性(印字 p. 321)Monsky–Washnitzer コホモロジーの有限性予想『2-2 弱完備代数と Monsky–Washnitzer コホモロジー』。注意として記録。持上げ定理自体も MW68 を開いていないため未完結
1.3・1.5 の主張(印字 pp. 309–312)標数 $0$ での局所自由性、Picard 多様体の次元との不等式、双対性の形式主張『1-1 代数的 de Rham コホモロジーの長所と限界』。未完結
1.8 の一般の有限群スキーム係数(印字 p. 316)$\mathbb Z/p^\nu$ 加群スキーム係数一般での高次消滅主張『1-2 ℓ 進コホモロジーの批判と p 進コホモロジーの要請』。定数係数と $\mu_{p^\nu}$ だけ閉じる

これらがその後どうなったかを、時点を明記して要約する。本書が開いていない文献は各頁の「その後の発展」で「本書は確かめていない」と断ってある。

  • 1968 年:Monsky–Washnitzer MW68 と Monsky Mon68 が持上げ定理とコホモロジー関手を公刊した。Katz–Oda KO68 が Gauss–Manin 接続を $\Omega^\bullet_{X/k}$ のフィルトレーションから代数的に構成し、原論文 3.3 が「期待」した非 affine の場合の接続が、導分の持上げを経ずに定理になった(『3-2』。本書の affine の場合の接続との一致は本書は確かめていない)。
  • 1970〜73 年:Katz Kat70Kat72 が Gauss–Manin 接続の正則特異点と $p$ 曲率を扱い、Elkik Elk73 により滑らかな affine 代数の弱完備な持上げが付加条件なしに存在することが従う(『2-2』。本書は確かめていない)。
  • 1974 年:Berthelot Ber74 が結晶景を、底の PD 環と両立する divided power 付きの厚みで定義し直し(PD 冪零性を要求しない)、b) と a) の正しい形、固有で滑らかな $X_0/k$ の結晶コホモロジーの有限生成性、Poincaré 双対、Künneth 公式、底変換を証明した。これで crucial test の同型 $H^*_{\mathrm{cris}}(X_0/W)\cong H^*_{dR}(X/W)$ が定理になり、『1-2』の要請 (P1)〜(P4) が実現された(『6-1』)。(P5) は Katz と Messing KM74(1974 年)が Weil 予想を用いて示したと本書は理解しているが、文献を開いていない。
  • 1975 年:Hartshorne Har75 が標数 $0$ の特異多様体の de Rham コホモロジーを形式完備化で定義し、Conjecture 4.2・5.1 の問いはこの枠組みで扱われたと本書は理解しているが、文献を開いていない(『5-1』『5-2』)。
  • 1978 年:Berthelot–Ogus BO78 が結晶コホモロジーの教科書的な記述を与えた。『5-3』の formalizing functor に当たる線形化の関手で比較定理を扱うと本書は理解しているが、文献を開いていない。
  • 1986 年以後:Berthelot Ber86 の rigid コホモロジー(教科書は Le Stum LS07、van der Put vdP86 も参照)が Monsky–Washnitzer の方法を一般のスキームへ拡張し、滑らかな affine では $H^*_{WM}(X_0)\otimes K$ に一致する。有限性は Berthelot Ber97(1997 年)が示し、2.3 の有限性の問題と 7.5 の非固有の場合は $K$ 係数の側で解決した(『2-2』『6-2』。本書は確かめていない)。
  • 2011 年:Bhatt–de Jong BdJ11 が結晶コホモロジーと de Rham コホモロジーの比較を、原論文 5.5 が類比として触れた Čech–Alexander 複体によって扱った(『5-2』『6-1』)。概説は Illusie Ill94、教科書的な記述は Stacks の結晶コホモロジーの章(タグ 07GI)にある。

記号と約束

全頁に共通する記号($k$$W=W(k)$$W_n=W/p^{n+1}W$$K=W[1/p]$$H^n_{dR}(X/S)$$W\{t\}^\dagger$$H^n_{WM}$$\Delta^{(n)}$$P^n_{X/S}$$\operatorname{Inf}(X/S)$$\operatorname{Strat}(X/S)$$\operatorname{Cris}(X/S)$$\operatorname{Conn}(X/S)$$\gamma_n$ など)、原論文の引き方と記号との対応表、状態語と確信度の細則、後代の名称の扱い、原論文の誤植のうち数学に関わるもの、紙面からは決まらない点のうち本書が読みを決めたものは、本書『0-6 記号と約束』にまとめてある。Grothendieck 位相の site は「景」、groupoid は「亜群」と書く。

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