本書で引用として使う、標数 $p$ のスキームを混標数の環の上へ持ち上げる道具(形式スキーム、形式的滑らかさ、平方零拡大の持上げの障害類、持ち上がらない多様体、弱完備化と過収束級数、divided power 構造と指数・対数)の要点を集めた頁である。項目ごとに定義または定理の要点をボックスに書き、続けて本書での使いどころと案内を書く。Witt ベクトル環 $W=W(k)$ そのものの復習は本書『0-3 エタールコホモロジーと Weil コホモロジーの要請』に、景と対角線の無限小近傍は本書『0-5 景・トポス・微分作用素』にある。
$k$ を標数 $p>0$ の完全体、$W=W(k)$ を Witt ベクトル環とする。$W$ は $p$ を素元とする完備離散付値環で、剰余体は $k$、商体 $K=W[1/p]$ は標数 $0$、付値 $v$ は $v(p)=1$ と正規化する。$v(n!)=(n-s_p(n))/(p-1)$($s_p(n)$ は $n$ の $p$ 進展開の桁の和)、したがって $v(n!)\le(n-1)/(p-1)$、$v(n)\le\log_pn$ である。$W$ 代数 $A$ の $p$ 進完備化は $\hat A=\varprojlim_nA/p^nA$ である。多項式環 $W[t_1,\dots,t_n]$ の $p$ 進完備化を制限冪級数環といい $W\{t_1,\dots,t_n\}$ と書く。それは形式冪級数 $\sum_\alpha a_\alpha t^\alpha$($\alpha\in\mathbb N^n$、$|\alpha|=\alpha_1+\dots+\alpha_n$)で $|\alpha|\to\infty$ のとき $v(a_\alpha)\to\infty$ となるもの全体の環であり、$W[t]\subset W\{t\}\subset W[\![t]\!]$、$W\{t\}/pW\{t\}=k[t]$ で、$W\{t\}$ はネーター環である。$K\{t\}=W\{t\}\otimes_WK$ は閉単位多重円板上の解析関数の環(Tate 代数)にあたる。$p$ 進完備分離な($\mathfrak A\cong\hat{\mathfrak A}$ なる)$W$ 代数 $\mathfrak A$ に対し、affine 形式スキーム $\operatorname{Spf}\mathfrak A$ とは、スキームの増大列 $X_n=\operatorname{Spec}\mathfrak A/p^{n+1}\mathfrak A$ の帰納極限、すなわち位相空間 $X_0$ に構造層 $\varprojlim_n\mathcal O_{X_n}$ を載せた環付き空間であり、$S=\operatorname{Spec}W$ 上の形式スキーム $\mathfrak X$ はこれを貼り合わせたものである。$W$ 上固有なスキーム $X$ と連接層 $\mathcal F$ について $H^q(X,\mathcal F)\cong\varprojlim_nH^q(X_n,\mathcal F_n)$ が成り立つ(形式関数の定理、EGA III 4)。$\mathfrak X$ の相対微分形式は $\Omega^1_{\mathfrak X/S}=\varprojlim_n\Omega^1_{X_n/S_n}$($S_n=\operatorname{Spec}W/p^{n+1}W$)で定め、$\mathfrak A=W\{t\}$ のときは $\Omega^1_{W\{t\}/W}=W\{t\}\,dt$、$d(\sum a_nt^n)=\sum na_nt^{n-1}dt$ である。
環の準同型 $A\to B$ が形式的滑らかであるとは、任意の $A$ 代数 $C'$ と冪零イデアル $N\subset C'$(平方零 $N^2=0$ の場合に確かめれば十分)について、任意の $A$ 代数の準同型 $B\to C'/N$ が $A$ 代数の準同型 $B\to C'$ に持ち上がることをいう。持上げが高々一つのとき形式的不分岐、ちょうど一つのとき形式的エタールという(EGA $0_{\mathrm{IV}}$ §19(形式的滑らかは 19.3、形式的不分岐・エタールは 19.10。番号は本書では確かめていない)。EGA は位相環について定義する)。スキームの射 $f\colon X\to S$ が形式的滑らかであるとは、任意の affine $S$ スキーム $T'$ と平方零イデアルによる閉部分スキーム $T\subset T'$ について、任意の $S$ 射 $T\to X$ が $S$ 射 $T'\to X$ に延びることをいう。$f$ が滑らか(エタール)であることは、局所有限表示かつ形式的滑らか(形式的エタール)であることと同値である(EGA IV 17.1、17.3)。基本的な事実:(a) 多項式環 $A[t_1,\dots,t_n]$ は $A$ 上形式的滑らかで、形式的滑らかさは底変換・合成・局所化で保たれる。体の分離拡大 $k\subset L$ も形式的滑らかである。(b) $A\to B$ が形式的滑らかで $\partial\colon A\to A$ が導分なら、$B$ の導分 $D$ で $D(a\cdot1_B)=\partial(a)\cdot1_B$ となるものが存在する($B[\varepsilon]=B\otimes_{\mathbb Z}\mathbb Z[\varepsilon]/(\varepsilon^2)$ を $a\mapsto a+\partial(a)\varepsilon$ で $A$ 代数と見て、恒等写像 $B\to B$ を $B\to B[\varepsilon]$ に持ち上げる。原論文 3.3 は EGA $0_{\mathrm{IV}}$ 20 の $\operatorname{Exalcom}_A(B,B)=0$ から導く)。(c) $X\to S$ が滑らかで、$U\subset X$ が開、$U\hookrightarrow T$ が冪零な $S$ はめ込みなら、$T$ の各点のある近傍で $S$ 射 $T\to X$ が包含 $U\to X$ を延長する(イデアルの冪で濾過して平方零の段を重ねる。局所レトラクション)。
$S\hookrightarrow S'$ を、イデアル層 $I$ で $I^2=0$ なる閉埋め込み(平方零拡大)とする。$I$ は $\mathcal O_S$ 加群である。$S$ 上滑らかなスキーム $X$ の $S'$ への持上げとは、$S'$ 上滑らかなスキーム $X'$ と $S$ 同型 $X'\times_{S'}S\cong X$ の組をいう。$X'$ は $S'$ 上平坦なので $I\mathcal O_{X'}\cong I\otimes_{\mathcal O_S}\mathcal O_X$、$\Omega^p_{X'/S'}\otimes_{\mathcal O_{X'}}\mathcal O_X\cong\Omega^p_{X/S}$ である。$k$ 上のスキーム $X_0$ を $W/p^{n+1}W$ の上へ持ち上げる問題は、$S_{n-1}=\operatorname{Spec}W/p^nW\hookrightarrow S_n=\operatorname{Spec}W/p^{n+1}W$(イデアル $p^nW/p^{n+1}W\cong k$)に沿った持上げを一段ずつ重ねる問題であり、$W$ 上の形式的持上げ $\mathfrak X$ とは全部の段の両立する系 $(X_n)_n$ のことである。
$S\hookrightarrow S'$ を平方零拡大、$X$ を $S$ 上滑らかなスキーム、$T_{X/S}=\mathcal{H}om_{\mathcal O_X}(\Omega^1_{X/S},\mathcal O_X)$ を接層とする。(a) 局所存在と局所一意性:$X$ が affine なら持上げ $X'$ が存在し、二つの持上げ $X'$、$X''$ の間には $X$ 上恒等を誘導する $S'$ 同型が(一意ではないが)存在する。また $X'$ が affine で $Y'$ が $S'$ 上滑らかなら、$S$ 射 $X\to Y$ は $S'$ 射 $X'\to Y'$ に延びる。(b) 自己同型の層と torsor:持上げ $X'$ の、$X$ 上恒等を誘導する $S'$ 自己同型の層 $\underline G$ は、$\sigma\mapsto\sigma^\sharp-\mathrm{id}$ により $\mathcal{H}om_{\mathcal O_X}(\Omega^1_{X/S},I\otimes_{\mathcal O_S}\mathcal O_X)=T_{X/S}\otimes_{\mathcal O_S}I$ に同型なアーベル群の層であり、二つの持上げ $X'$、$X''$ の間の $X$ 上恒等を誘導する $S'$ 同型の層 $\underline P$ は $\underline G$ の torsor(主等質空間)である。(c) 障害類:持上げが存在するための障害類 $o\in H^2(X,T_{X/S}\otimes_{\mathcal O_S}I)$ が定まり、$o=0$ と持上げの存在は同値である。持上げが存在するとき、持上げの同型類の集合は $H^1(X,T_{X/S}\otimes_{\mathcal O_S}I)$ の torsor であり、与えられた持上げの $X$ 上恒等を誘導する自己同型群は $H^0(X,T_{X/S}\otimes_{\mathcal O_S}I)$ である。$S_{n-1}\hookrightarrow S_n$ の場合は $T_{X_{n-1}/S_{n-1}}\otimes I\cong T_{X_0/k}$ なので、障害・持上げの集合・自己同型群はそれぞれ $H^2$、$H^1$、$H^0$ の $(X_0,T_{X_0/k})$ で測られる。
$X_0$ が $k$ 上滑らかな曲線なら、ネーターな $1$ 次元スキームでは $q>1$ で $H^q=0$(Grothendieck の消滅定理)なので $H^2(X_0,T_{X_0/k})=0$ となり、上の定理 (c) により各段の持上げがあって $W$ 上の形式的持上げ $\mathfrak X$ が存在する。$X_0$ が固有なら $H^2(X_0,\mathcal O_{X_0})=0$ により豊富な可逆層も各段に持ち上がり、$\mathfrak X$ は $W$ 上固有滑らかなスキームに代数化される(Grothendieck の存在定理、EGA III 5。該当番号は本書では確かめていない)。$X_0$ が affine なら $H^1=H^2=0$ なので持上げは各段で存在し同型を除いて一意である。射影空間・アーベル多様体・K3 曲面も $W$ 上に持ち上がる(後の二つは本書は確かめていない)。
Serre Ser61(1961 年)は、代数閉体 $k$(標数 $p>0$)上の滑らかな射影多様体 $X_0$ で、$W(k)$ 上に、より強く剰余体 $k$ をもつ標数 $0$ の任意の局所環の上に、固有滑らかなスキームとして持ち上がらないものを構成した。構成の要点(本書の理解):$p$ 群 $G$ を射影空間 $\mathbb P^N_k$ に線型に作用させ、$G$ が自由に作用する滑らかな完全交叉 $Y_0\subset\mathbb P^N_k$(次元 $3$ 以上)をとって $X_0=Y_0/G$ とおく。$X_0$ が持ち上がれば、固有なスキームの基本群の不変性(SGA 1)によりエタール被覆 $Y_0\to X_0$ も $G$ の自由な作用ごと持ち上がり、次元 $3$ 以上の完全交叉では $\operatorname{Pic}Y_0=\mathbb Z$(Grothendieck–Lefschetz)なので $\mathcal O(1)$ も持ち上がって、標数 $0$ の生成ファイバーで $G$(の中心拡大)の線型作用つきの射影空間への埋め込みが得られる。標数 $0$ では有限位数の線型変換は対角化可能で固有空間ごとに $\mathbb P^N$ に不動点をもつので、$G$(Serre の例では基本アーベル $p$ 群、と本書は理解している)の階数を $N$ に比べて大きくとると、次元の勘定から $Y$ の生成ファイバーに不動点が現れて自由性に反する。本書は Serre の原論文を開いておらず、言明と筋の紹介にとどめる(最後の次元の勘定の細部は本書では確かめていない)。この例により、原論文 Gro68c 2.1 の「持上げは一般に存在しない」は固有滑らかな場合にも実際に起こる。
$W$ 係数の形式冪級数 $f=\sum_\alpha a_\alpha t^\alpha\in W[\![t_1,\dots,t_n]\!]$ が過収束であるとは、ある実数 $\rho>0$ と整数 $N$ があって $|\alpha|\ge N$ のとき $v(a_\alpha)\ge\rho|\alpha|$ となることをいう(同じことだが、ある $\rho>0$ と定数 $c$ ですべての $\alpha$ について $v(a_\alpha)\ge\rho|\alpha|-c$)。過収束級数全体は環をなし、これを $W\{t_1,\dots,t_n\}^\dagger$ と書いて $W[t]$ の弱完備化という。$W[t]\subset W\{t\}^\dagger\subset W\{t\}$ であり、$W\{t\}^\dagger/pW\{t\}^\dagger=k[t]$ である($\rho|\alpha|\ge1$ となる項は $p$ で割れるので、法 $p$ では有限個の項しか残らない)。絶対値 $|x|=p^{-v(x)}$ で見ると、$f$ が過収束であることは、ある $r>1$ について $|a_\alpha|r^{|\alpha|}\to0$、すなわち $f$ が半径 $1$ より大きいある閉多重円板の上で収束することと同値である($v(a_\alpha)\ge\rho|\alpha|$ なら $1< r< p^\rho$ でよく、逆に $|a_\alpha|r^{|\alpha|}\le1$ なら $\rho=\log_pr$ でよい)。有限生成 $W$ 代数 $A=W[t_1,\dots,t_n]/I$ の弱完備化を $A^\dagger=W\{t\}^\dagger/IW\{t\}^\dagger$ で定める(Monsky–Washnitzer の内在的な定義との一致は本書は確かめていない)。$W\{t_1,\dots,t_n\}^\dagger$ の商環を Monsky–Washnitzer 代数(M–W 代数、弱完備有限生成代数)という。$k$ 上有限型で滑らかな代数 $A_0$ の M–W 持上げとは、$W$ 上平坦な M–W 代数 $A^\dagger$ と $k$ 同型 $A^\dagger/pA^\dagger\cong A_0$ の組をいう。$A=W\{t\}^\dagger$ の相対微分形式は $\Omega^1=W\{t\}^\dagger dt$ で、$d$ は形式微分の制限である($v(na_n)\ge v(a_n)$ なので過収束性は保たれる)。ここで $\Omega^1$ は Kähler 微分加群そのものではなく、$p$ 進分離な加群への $W$ 導分の普遍対象(Kähler 微分加群の分離商)である。$W\{t\}$ について射影極限で定めた約束と同じ趣旨で、Monsky–Washnitzer もこの意味で用いる。
$n=1$ とする。(a) $f=\sum_{m\ge0}p^mt^{p^m}$ は、$t^{p^m}$ の係数の付値が $m=\log_p(p^m)$ で無限大に発散するので $W\{t\}$ の元だが、$m\ge\rho p^m$ はどんな $\rho>0$ についても大きい $m$ で破れるので過収束でない。収束半径はちょうど $1$ である。一方 $g=\sum_{m\ge0}p^mt^m=1/(1-pt)$ は $\rho=1$ で過収束し、半径 $p$ の開円板で収束する。(b) 原始関数の有無:$\omega=\sum_{m\ge1}p^mt^{p^m-1}dt$ は $W\{t\}\,dt$ の元で、その原始関数は定数を除き $\sum_{m\ge1}t^{p^m}$ しかないが、これは係数が $0$ に収束しないので $K\{t\}$ にも入らない。よって $\omega$ の類は $H^1(\Omega^\bullet_{W\{t\}/W})\otimes_WK$ の中で零でない。過収束な $\omega=\sum_mb_mt^mdt$($v(b_m)\ge\rho m$、$m\ge N$)では、原始関数の係数 $b_m/(m+1)$ の付値が $\rho m-\log_p(m+1)$ 以上で、大きい $m$ では $(\rho/2)m$ 以上になるから、原始関数は $K\{t\}^\dagger=W\{t\}^\dagger\otimes_WK$ に入り、$H^1(\Omega^\bullet_{W\{t\}^\dagger/W})\otimes_WK=0$ である。$W$ 係数では捩れが残る:$t^{p-1}dt$ の原始関数は $t^p/p$ に定数を足したものしかなく $W\{t\}^\dagger$ に入らないので、その類は零でなく、$p\,[t^{p-1}dt]=[d(t^p)]=0$ により位数 $p$ である。
環 $A$ のイデアル $J$ 上の divided power 構造(分割冪構造、PD 構造)とは、写像の族 $\gamma_n\colon J\to A$($n\ge0$)で次を満たすものをいう。(1) $\gamma_0(x)=1$、$\gamma_1(x)=x$、$n\ge1$ なら $\gamma_n(x)\in J$。(2) $\gamma_n(x+y)=\sum_{i+j=n}\gamma_i(x)\gamma_j(y)$。(3) $a\in A$ について $\gamma_n(ax)=a^n\gamma_n(x)$。(4) $\gamma_m(x)\gamma_n(x)=\binom{m+n}{m}\gamma_{m+n}(x)$。(5) $\gamma_m(\gamma_n(x))=\dfrac{(mn)!}{m!\,(n!)^m}\gamma_{mn}(x)$。(4) から $n!\,\gamma_n(x)=x^n$ となるので $\gamma_n(x)$ は「$x^n/n!$」の役をし、原論文は $x^{(n)}$ と書く。組 $(J,\gamma)$ を PD イデアル、$(A,J,\gamma)$ を PD 環という。$\gamma$ と両立する環準同型を PD 準同型という。$J'\subset J$ が部分 PD イデアルであるとは $\gamma_n(J')\subset J'$($n\ge1$)なることをいい、このとき $A/J'$ のイデアル $J/J'$ に $\gamma$ が降りる。$J^{[n]}$ を、$\sum n_i\ge n$ なる積 $\gamma_{n_1}(x_1)\cdots\gamma_{n_r}(x_r)$($x_i\in J$)が生成するイデアルとする($J^n\subset J^{[n]}$)。ある $N$ で $J^{[N]}=0$ となるとき $\gamma$ を PD 冪零という。これは原論文 7.2 の脚注が言う「$\sum n_i$ が大きいとき $\gamma_{n_1}(x_1)\cdots\gamma_{n_r}(x_r)=0$」と同じ条件であり、$J$ 自身が冪零であることより強い。
(a) 標数 $0$:$A$ が $\mathbb Q$ 代数なら、任意のイデアル $J$ はただ一つの divided power 構造 $\gamma_n(x)=x^n/n!$ をもつ(一意性は $n!\,\gamma_n(x)=x^n$ から、公理は二項定理と多項係数の整数性から)。$J$ が冪零なら PD 冪零でもある($\gamma_{n_1}(x_1)\cdots\gamma_{n_r}(x_r)\in J^{\sum n_i}$)。(b) $p$ 進:$W=W(k)$ のイデアル $pW$ について $\gamma_n(px)=p^nx^n/n!$ とおく。$v(p^n/n!)=n-\dfrac{n-s_p(n)}{p-1}=\dfrac{(p-2)n+s_p(n)}{p-1}\ge1$($n\ge1$)なので $\gamma_n(px)\in pW$ であり、$K$ の構造の制限だから公理を満たす。$W$ は $p$ 捩れがないので、これは $pW$ 上のただ一つの divided power 構造である。(c) $\mathbb Z/p^n$:$p^nW\subset pW$ は部分 PD イデアルである($v(\gamma_m(p^ny))\ge nm-(m-1)/(p-1)\ge n$)。よって $W/p^nW$ の $pW/p^nW$、とくに $\mathbb Z/p^n$ の $(p)$ に標準的な divided power 構造が降りる。$p\ge3$ ならこれは PD 冪零である($v(\gamma_m(p))\ge\dfrac{(p-2)m+1}{p-1}\ge m/2$ なので $\sum m_i\ge2n$ の積は $p^n$ で割れる)。(d) 標数 $p$:$J$ が divided power 構造をもてば $x^p=p!\,\gamma_p(x)=0$ がすべての $x\in J$ で成り立たねばならないので、$\mathbb F_p[t]$ のイデアル $(t)$ はどの divided power 構造ももたない。$\mathbb F_p[t]/(t^p)$ の $(t)$ は $n< p$ で $\gamma_n(t)=t^n/n!$、$n\ge p$ で $\gamma_n(t)=0$ とする構造をもつ(divided power 多項式環 $\mathbb F_p\langle t\rangle$ を、$t^{[n]}$($n\ge p$)が張る部分 PD イデアルで割ったものがこの環で、$t^{[n]}=t^n/n!$($n< p$)である)。(e) 一意でない例:$B=\mathbb F_p[t,s]/(t^p,\,ts,\,s^2)$ のイデアル $J=(t,s)$ は二つの異なる divided power 構造をもつ。一つは $\mathbb F_p\langle t\rangle$ を $t^{[n]}$($n\ge p+1$)が張る部分 PD イデアルで割ったもので(基底 $t^{[0]},\dots,t^{[p]}$、$s=t^{[p]}$、$t\cdot t^{[p-1]}=p\,t^{[p]}=0$)、$\gamma_p(t)=s\ne0$。もう一つは $\mathbb F_p\langle t,s\rangle$ を $t^{[n]}$($n\ge p$)、$s^{[m]}$($m\ge2$)、$ts$ が生成する部分 PD イデアル($\gamma_k(ts)=t^ks^{[k]}$ が入るので部分 PD イデアルである)で割ったもので、同じ環 $B$ と同じイデアル $J$ を与えるが $\gamma_p(t)=0$。標数 $p$ では一般に存在も一意性も保証されない(BO78 §3)。
外す条件は「PD 冪零」である。$p=2$、$A=\mathbb Z/4$、$J=(2)$ に (c) の標準的な構造を入れる。$\gamma_{2^i}(2)=2^{2^i}/(2^i)!$ の $2$ 進付値は $2^i-(2^i-1)=1$ なので、$\gamma_{2^i}(2)=2\ne0$ が $\mathbb Z/4$ の中ですべての $i$ について成り立ち、$J^2=0$ にもかかわらず $J^{[N]}\ne0$ がすべての $N$ で成り立つ(とくに $J^{[2]}\ne J^2$)。したがって $p=2$ のとき、$\operatorname{Spec}\mathbb F_2\hookrightarrow\operatorname{Spec}\mathbb Z/4$ に標準的な divided power を添えたものは、原論文 7.2 の(PD 冪零を要求する)結晶景の対象ではない。Berthelot の理論(Ber74、1974)が底の PD 環 $(W,pW,\gamma)$ との両立を課して PD 冪零性を要求しない理由の一つである(『6-1 結晶景と接続景』の「その後の発展」)。
$(A,I,\gamma)$ を PD 環、$B$ を $A$ 代数、$J\subset B$ を $IB\subset J$ なるイデアルとする。$B$ 代数 $D=D_{B,\gamma}(J)$ とその PD イデアル $(\bar J,\bar\gamma)$ で、$JD\subset\bar J$ かつ $\bar\gamma$ が $\gamma$ と両立するものが存在し、$\gamma$ と両立する PD イデアル $(K,\delta)$ をもつ $B$ 代数 $C$ で $JC\subset K$ なるものへの $B$ 代数の PD 準同型 $D\to C$ がただ一つ存在するという普遍性をもつ。$D$ を $J$ の divided power 包絡という。例:$I=0$、$B=A[t_1,\dots,t_n]$、$J=(t_1,\dots,t_n)$ のとき $D=A\langle t_1,\dots,t_n\rangle$ は divided power 多項式環で、$A$ 加群として $t^{[\alpha]}=\prod_it_i^{[\alpha_i]}$ を基底とする自由加群、積は $t^{[\alpha]}t^{[\beta]}=\binom{\alpha+\beta}{\alpha}t^{[\alpha+\beta]}$ である。$B$ が $\mathbb Q$ 代数なら $D=B$ である。$\mathbb Z\langle X,Y\rangle$ は捩れがなく、$X^{[a]}\mapsto X^a/a!$ で $\mathbb Q[X,Y]$ に埋め込まれる。
$(J,\gamma)$ を環 $A$ の PD 冪零な PD イデアルとする。$x\in J$ について
$$\exp(x)=\sum_{n\ge0}\gamma_n(x),\qquad\log(1+x)=\sum_{n\ge1}(-1)^{n-1}(n-1)!\,\gamma_n(x)$$
とおく。どちらも有限和であり、$\exp\colon(J,+)\to(1+J,\times)$ と $\log\colon(1+J,\times)\to(J,+)$ は互いに逆な群同型である。原論文 7.4 の式 (*) は $\log$ の符号を $(-1)^n$ と印字するが、それでは $\log(1+x)=-x+\cdots$ となって $\exp$ の逆にならない。正しい符号は $(-1)^{n-1}$ である。
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