標数 $p$ の完全体 $k$ 上のスキーム $X_0$ を Witt ベクトル環 $W=W(k)$ の上へ持ち上げ、持上げ $X$ の代数的 de Rhamコホモロジー $H^i_{dR}(X/W)$ を $X_0$ の $p$ 進コホモロジーとする、という Monsky–Washnitzer の着想を検討する。固有滑らかな持上げは正しい Betti 数を与えるが一般には存在せず、affine では形式的持上げ $\operatorname{Spf}W\{t\}$ がつねに存在する代わりに $H^1$ が $K=W[1/p]$ をテンソルしても無限次元になる。この病理が制限冪級数を過収束級数 $W\{t\}^\dagger$ に取り替えると消えることを、$\mathbb A^1_k$ の場合に計算で確かめる。
$k$ を標数 $p>0$ の完全体、$W=W(k)$ を Witt ベクトル環、$K=W[1/p]$ をその商体、$S=\operatorname{Spec}W$、$W_n=W/p^{n+1}W$、$S_n=\operatorname{Spec}W_n$ とする。$X_0$ は $k$ 上のスキーム、$X$ はその $S$ 上への持上げである。付値 $v$ は $v(p)=1$ と正規化する。
本頁の主結果は次の四つである。
第 1 章で見たように、標数 $p$ の体 $k$ 上の滑らかなスキーム $X_0$ の代数的 de Rham コホモロジー $H^i_{dR}(X_0/k)$ は、固有でなければ有限次元でなく、固有であっても $\ell$ 進 Betti 数と一致しない(本書『1-1 代数的 de Rham コホモロジーの長所と限界』)。一方、$\ell$ 進コホモロジーは $p$ 捩れを見ることができず、$\mathbb Q_p$ 係数の Weil コホモロジーは存在しない(本書『1-2 ℓ 進コホモロジーの批判と p 進コホモロジーの要請』)。求められているのは、$W(k)$ に係数をもち、$p$ 捩れを捉え、標数 $0$ で正しい Betti 数を与える理論である。
原論文 Gro68c の §2(印字 pp. 317–322)は、この要請に対する Monsky と Washnitzer の答え MW68 を紹介する。その本質的な着想は、原論文の言葉では「おそらく」次のことである。$X_0$ を $S=\operatorname{Spec}W$ 上の固有滑らかなスキーム $X$ に持ち上げると、標数 $0$ の一般論により $H^i_{dR}(X/S)$ は有限生成 $W$ 加群で(原論文は「$W(k)$ 上の有限次元ベクトル空間」と印字するが、$W$ は体ではないので有限生成加群と読む)、その階数は正しい Betti 数である。もしこの加群が標準同型を除いて $X_0$ だけで決まり持上げの選び方に依らないなら、それを $X_0$ の $p$ 進コホモロジーと定義できる。
原論文は直ちに二つの困難を指摘する。第一に、固有滑らかな持上げは一般に存在しない。原論文は例を挙げないが、Serre による持ち上がらない射影多様体の例を本書『0-4 形式スキーム・持上げ・divided power』に記した。第二に、affine では持上げがつねに存在するが、それは形式スキーム $\mathfrak X$ への形式的持上げであって、その de Rham コホモロジーは大きすぎる。$X_0=\operatorname{Spec}k[t]$ の形式的持上げ $\operatorname{Spf}W\{t\}$ では、閉形式 $\sum a_nt^ndt$ の原始関数 $\sum\frac{a_n}{n+1}t^{n+1}$ が分母 $n+1$ のために $W\{t\}$ に入らないことがあり、$H^1$ は $K$ をテンソルしても無限次元になる。原論文はこの観察に続けて、係数の付値が $\rho n$ 以上に増大する過収束級数の環を使えば「このコホモロジーは零になっていたはずだ」と述べ、これが Monsky–Washnitzer の持上げの構成へ導くと言う。本頁はこの二つの計算を閉じ、「零」を $K$ をテンソルした後の意に読む根拠を示す。
持上げには三つの種類がある。$W$ 上のスキームへの代数的な持上げ、$W_n$ 上の持上げの両立する系である形式的持上げ、そして次頁で扱う過収束級数による持上げである。本頁ではまず前二者と、それぞれの de Rham 複体を定める。
$X_0$ を $k$ 上のスキームとする。$X_0$ の $S=\operatorname{Spec}W$ 上への持上げとは、$S$ 上滑らかなスキーム $X$ と $k$ 同型 $X\times_S\operatorname{Spec}k\cong X_0$ の組をいう(固有な持上げというときは $X\to S$ が固有)。$X_0$ の形式的持上げとは、$S_n=\operatorname{Spec}W_n$ 上滑らかなスキーム $X_n$ と $S_n$ 同型 $X_{n+1}\times_{S_{n+1}}S_n\cong X_n$ の両立する系 $(X_n)_{n\ge0}$ で $n=0$ で与えられた $X_0$ になるもの、すなわち $S$ 上の形式スキーム $\mathfrak X=\varinjlim_nX_n$ をいう(本書『0-4 形式スキーム・持上げ・divided power』)。$X_0=\operatorname{Spec}A_0$ が affine なら、形式的持上げは $W_n$ 代数の系 $(A_n)$ で各 $A_n$ が $W_n$ 上滑らか、$A_{n+1}\otimes_{W_{n+1}}W_n\cong A_n$ なるものと同じであり、$\mathfrak A=\varprojlim_nA_n$ とおくと $\mathfrak X=\operatorname{Spf}\mathfrak A$ である。代数的な持上げ $X$ は $X_n=X\times_SS_n$ により形式的持上げを定める。
固有な持上げでは de Rham コホモロジーは第 0 章の相対 de Rham 層 $H^i_{dR}(X/S)=\mathbf R^if_*\Omega^\bullet_{X/S}$ の大域切断であり、新しい定義は要らない。形式的持上げでは、各段の微分形式の射影極限をとる。
$\mathfrak X=\varinjlim X_n$ を形式的持上げとする。$\Omega^q_{\mathfrak X/S}=\varprojlim_n\Omega^q_{X_n/S_n}$(連続微分形式の層)とおき、外微分は各段の $d$ の極限とする。affine の場合 $\mathfrak X=\operatorname{Spf}\mathfrak A$ には、大域切断の複体
$$\Omega^\bullet_{\mathfrak A/W}=\varprojlim_n\Omega^\bullet_{A_n/W_n}$$
のコホモロジー $H^i(\Omega^\bullet_{\mathfrak A/W})$ を形式的持上げの de Rham コホモロジーと呼ぶ。$X_0=\operatorname{Spec}k[t]$ のとき、$A_n=W_n[t]$ が形式的持上げを与え、$\mathfrak A=W\{t\}=\{\sum_{n\ge0}a_nt^n:\ a_n\in W,\ v(a_n)\to\infty\}$ は制限冪級数環、$\Omega^1_{W\{t\}/W}=W\{t\}\,dt$、$d(\sum a_nt^n)=\sum na_nt^{n-1}dt$、$\Omega^q=0$($q\ge2$)である(本書『0-4 形式スキーム・持上げ・divided power』)。
原論文は affine の形式スキームで $\mathbf H^*(\mathfrak X,\Omega^\bullet_{\mathfrak X/S})\cong H^*(\Gamma(\mathfrak X,\Omega^\bullet_{\mathfrak X/S}))$ を「標準同型」として使う。本頁はこの同一視を $\operatorname{Spf}W\{t\}$ について主結果の後で確かめ、それまでは大域切断の複体だけを扱う。
第二の病理を避ける道具は、制限冪級数のうち係数の付値が一次関数の速さで増大するものだけを残す環である。定義は本書『0-4 形式スキーム・持上げ・divided power』にあるので、要点だけ繰り返す。
$W$ 係数の形式冪級数 $f=\sum_{n\ge0}a_nt^n$ が過収束級数であるとは、ある実数 $\rho>0$ と整数 $N$ があって、$n\ge N$ のとき $v(a_n)\ge\rho n$ となることをいう。過収束級数全体は $W[t]\subset W\{t\}^\dagger\subset W\{t\}$ なる部分環をなし(積については $\rho$ の小さい方をとる)、$W[t]$ の弱完備化という。$W\{t\}^\dagger/pW\{t\}^\dagger=k[t]$ である。$K\{t\}^\dagger=W\{t\}^\dagger\otimes_WK$ は分母が有界な過収束級数の環、$K\{t\}=W\{t\}\otimes_WK=\{\sum c_nt^n:\ c_n\in K,\ c_n\to0\}$ である。$W\{t\}^\dagger$ の微分加群 $\Omega^1_{W\{t\}^\dagger/W}$ は、$p$ 進分離的な($\bigcap_mp^mM=0$ なる)$W\{t\}^\dagger$ 加群への $W$ 導分の普遍対象、すなわち Kähler 微分加群の $p$ 進分離商と定める。これが形式微分 $f\mapsto f'(t)dt$ をもつ階数 $1$ の自由加群 $W\{t\}^\dagger dt$ であることは本頁の補題で示す。
分離商をとるのは、$W\{t\}^\dagger$ が多項式環上の代数として有限生成でないため、代数的な Kähler 微分加群が無限個の余分な生成元をもつからである。$W\{t\}$ について射影極限で定めた約束と同じ趣旨で、Monsky–Washnitzer もこの意味で微分加群を用いる。
次の事実は証明せずに引用する。出典は主に本書の第 0 章、EGA3、SGA1、Har77 で、該当箇所の番号は本頁では確認していない。
$f\colon X\to S=\operatorname{Spec}W$ を固有かつ滑らかな射、$X_K=X\otimes_WK$ を生成ファイバーとする。各 $i$ について次が成り立つ。
段 1(有限生成性).$W$ はネーター環で $f$ は固有かつ滑らかなので、引用する事実 1 により $H^i_{dR}(X/S)$ は $S$ 上の連接層であり、$S$ が affine なのでその大域切断は有限生成 $W$ 加群である。引用する事実 2 によりこの大域切断が $\mathbf H^i(X,\Omega^\bullet_{X/S})$ である。
段 2(生成ファイバーへの底変換).$g\colon\operatorname{Spec}K\to\operatorname{Spec}W$ は局所化なので平坦である。引用する事実 1 の平坦な場合により $g^*H^i_{dR}(X/S)\cong H^i_{dR}(X_K/K)$ であり、左辺の大域切断は $H^i_{dR}(X/S)\otimes_WK$ である。
段 3(Betti 数).有限生成 $W$ 加群 $M$ について $\operatorname{rank}_WM=\dim_KM\otimes_WK$ である($W$ は単項イデアル整域)。$K$ は標数 $0$ で、$X_K$ は $K$ 上固有かつ滑らか、とくに分離的・有限型なので、引用する事実 3 により $\dim_KH^i_{dR}(X_K/K)$ は $X_K$ の $\ell$ 進 Betti 数に等しい。
原論文の「正しい Betti 数」とは、この定理の 3 の右辺、すなわち生成ファイバーの $\ell$ 進 Betti 数である。特殊ファイバー $X_0$ の $\ell$ 進 Betti 数($\ell\ne p$)との一致は、固有滑らかな射についての底変換定理(SGA 4 XVI)から従うが、原論文には書かれておらず、本書も確かめていない。
上の定理は、固有滑らかな持上げ $X$ を一つ固定したときの $H^i_{dR}(X/S)$ の性質だけを述べる。二つの持上げ $X$、$X'$ について $H^i_{dR}(X/S)\cong H^i_{dR}(X'/S)$ が標準的に成り立つこと(原論文が Monsky–Washnitzer の着想の核心と呼ぶ不変性)は本頁では証明しない。原論文は小節 2.3(印字 p. 321)で、公刊された証明が捩れを法とした形にとどまることを報告し、小節 3.1 ではこの不変性を仮定して接続の存在を導く(本書『2-2 弱完備代数と Monsky–Washnitzer コホモロジー』『3-1 不変性からの帰結と超越的接続』)。また持上げが存在しない $X_0$ には定理は何も言わず、Serre の例(本書『0-4 形式スキーム・持上げ・divided power』の「持上げの非存在の言明(Serre)」)により、滑らかな射影多様体でも持上げの非存在が実際に起こる。
固有な持上げが無いときに残る道は、affine 開集合ごとの持上げである。affine 滑らかなスキームは各段 $W_n$ の上へつねに持ち上がり、その系が形式的持上げを与える。次にそれを、第 0 章の持上げの定理を段ごとに重ねて確かめる。
段ごとの持上げを貼るとき、二つの持上げの間の射が同型であることを確かめる必要がある。それを保証するのが次の補題で、次頁の過収束持上げでも同じ形で使う。
$R$ を環、$N\ge2$ とし、$R$ の中で $p^N=0$ とする。$M$ を平坦 $R$ 加群、$\psi\colon M\to M$ を $R$ 線型な自己準同型で、すべての $x\in M$ について $\psi(x)\equiv x\pmod{p^{N-1}M}$ なるものとする。このとき $\psi$ は全単射である。
段 1(全射性).仮定から $M=\psi(M)+p^{N-1}M$ である。右辺の $M$ にこの等式を代入することを繰り返すと、$\psi(M)$ が部分加群なので $M=\psi(M)+p^{N(N-1)}M$ を得る。$N\ge2$ より $N(N-1)\ge N$ で $p^N=0$ だから $M=\psi(M)$。
段 2(平坦加群での $p$ 冪の核).任意の $j$ について $\ker(p^j\colon M\to M)=\operatorname{Ann}_R(p^j)\,M$ である。実際、完全列 $0\to\operatorname{Ann}_R(p^j)\to R\xrightarrow{p^j}R$ に平坦な $M$ をテンソルすると $0\to\operatorname{Ann}_R(p^j)\otimes_RM\to M\xrightarrow{p^j}M$ が完全で、左の項の像が $\operatorname{Ann}_R(p^j)M$ である。
段 3(単射性).$\psi(x)=0$ とする。$x\equiv\psi(x)=0\pmod{p^{N-1}M}$ より $x=p^{N-1}y$ と書ける。$0=\psi(x)=p^{N-1}\psi(y)$ なので、段 2 により $\psi(y)\in\operatorname{Ann}_R(p^{N-1})M$。また $y\equiv\psi(y)\pmod{p^{N-1}M}$ なので $y\in\operatorname{Ann}_R(p^{N-1})M+p^{N-1}M$。したがって
$$x=p^{N-1}y\in p^{N-1}\operatorname{Ann}_R(p^{N-1})M+p^{2(N-1)}M=0$$
である。前の項は $p^{N-1}\operatorname{Ann}_R(p^{N-1})=0$、後の項は $2(N-1)\ge N$ と $p^N=0$ による。
$N=1$ では仮定 $\psi(x)\equiv x\pmod{M}$ が空になり、補題は成り立たない。$R=W_{N-1}=W/p^NW$ のときは $\operatorname{Ann}_R(p^j)=p^{N-j}R$ なので、段 2 は $\ker(p^j\colon M\to M)=p^{N-j}M$ を与える。この形を次の命題で使う。
$A_0$ を $k$ 上有限型で滑らかな代数とする。
段 1(各段の持上げ).$S_n\hookrightarrow S_{n+1}$ はイデアル $p^{n+1}W_{n+1}$ による閉埋め込みで、$W_{n+1}$ の中で $p^{2(n+1)}=0$ なので平方零である。$\operatorname{Spec}A_n$ が $S_n$ 上滑らかな affine スキームなら、引用する事実 4 により $S_{n+1}$ 上滑らかな affine の持上げ $\operatorname{Spec}A_{n+1}$ が存在する。帰納的に形式的持上げの系を得る。
段 2(極限の商).遷移写像 $A_m\to A_n$($m\ge n$)は $A_m/p^{n+1}A_m\cong A_n$ により全射なので、$\mathfrak A\to A_n$ は全射である(逆像を一段ずつ選ぶ)。核が $p^{n+1}\mathfrak A$ であることを示す。$x=(x_m)_m\in\mathfrak A$ で $x_n=0$ とすると、$m\ge n$ について $x_m\in p^{n+1}A_m$ で、$x_m=p^{n+1}y_m$ と書ける。$A_m$ は $W_m$ 上滑らかなので平坦であり、上の補題の段 2 の形により $y_m$ は $\ker(p^{n+1}\colon A_m\to A_m)=p^{m-n}A_m$ を法として一意である。よって $y_m$ の $A_{m-n-1}=A_m/p^{m-n}A_m$ における像 $\bar y_m$ は選び方に依らず、$y_{m+1}$ の $A_m$ への像も $y_m$ の資格をもつので $(\bar y_m)_m$ は両立し、$\varprojlim_mA_{m-n-1}=\mathfrak A$ の元 $y$ を定める。$p^{n+1}y$ の $A_{m-n-1}$ 成分は $p^{n+1}\bar y_m=x_{m-n-1}$ なので $x=p^{n+1}y$。したがって $\mathfrak A/p^{n+1}\mathfrak A\cong A_n$ で、$\varprojlim_n\mathfrak A/p^{n+1}\mathfrak A=\mathfrak A$ となり $\mathfrak A$ は $p$ 進完備分離的である。
段 3(平坦性).引用する事実 5 により $p$ 捩れがないことを示せばよい。$px=0$、$x=(x_m)$ とすると各 $A_m$ で $px_m=0$ で、補題の段 2 の形により $x_m\in p^mA_m$。よって $x_{m-1}\in p^mA_{m-1}=0$ がすべての $m$ で成り立ち、$x=0$。
段 4(一意性).$\varphi_0=\mathrm{id}$ とし、$\varphi_n\colon A_n\cong A'_n$ が得られたとする。引用する事実 4 の射の延長を、affine な $\operatorname{Spec}A'_{n+1}$ から滑らかな $\operatorname{Spec}A_{n+1}$ への射($\operatorname{Spec}\varphi_n$ の延長)に適用して、$W_{n+1}$ 代数の準同型 $f\colon A_{n+1}\to A'_{n+1}$ で $f\bmod p^{n+1}=\varphi_n$ なるものを得る。向きを替えて $g\colon A'_{n+1}\to A_{n+1}$ で $g\bmod p^{n+1}=\varphi_n^{-1}$ なるものを得る。$g\circ f\equiv\mathrm{id}\pmod{p^{n+1}A_{n+1}}$ なので、上の補題($R=W_{n+1}$、$N=n+2$、$M=A_{n+1}$)により $g\circ f$ は全単射、同様に $f\circ g$ も全単射である。したがって $f$ は同型で、$\varphi_{n+1}=f$ とおく。延長 $f$ の選び方は一意でないので $\varphi_{n+1}$ も一意でない。
段 5(準同型の持上げ).$u_n$ から $u_{n+1}$ へは、引用する事実 4 の射の延長を $\operatorname{Spec}B_{n+1}$(affine)から $\operatorname{Spec}A_{n+1}$(滑らか)への射に適用すればよい。
これで、affine 滑らかな $X_0$ にはつねに形式的持上げがあり、それが同型を除いて一意であることが分かった。原論文が 2.1 で affine の場合に「形式スキームへの持上げがある」と述べるのはこのことである(原論文は $X_0$ の滑らかさを書かないが、$\mathbb A^1_k$ の例では問題にならない)。次に、この形式的持上げの de Rham コホモロジーを $\mathbb A^1_k$ で計算し、それが大きすぎることを見る。
$W\{t\}$ の de Rham 複体 $W\{t\}\xrightarrow{d}W\{t\}dt$ について次が成り立つ。
段 1($H^0$).$d(\sum a_nt^n)=\sum_{n\ge1}na_nt^{n-1}dt=0$ は $na_n=0$($n\ge1$)と同値で、$W$ には捩れがないので $a_n=0$($n\ge1$)。よって核は定数 $W$ である。
段 2($\otimes K$ の計算).$\otimes_WK$ は局所化なので完全であり、$H^1\otimes K=\operatorname{coker}(d\otimes K)=K\{t\}dt/d(K\{t\})$。ここで $W\{t\}\otimes_WK=\bigcup_rp^{-r}W\{t\}=K\{t\}$ である。$\omega_j$ の係数 $p^m$ は $m\to\infty$ で $v(p^m)=m\to\infty$ なので $\omega_j\in W\{t\}dt$ である。
段 3(線型独立性).$J$ を $p\nmid j$ なる正整数の有限集合、$\lambda_j\in K$($j\in J$)とし、$\sum_{j\in J}\lambda_j\omega_j=dg$、$g=\sum_{N\ge0}g_Nt^N\in K\{t\}$ とする。$t^{N-1}dt$ の係数を比べると、$N$ が $N=jp^m$($j\in J$、$m\ge1$)と書けるとき $Ng_N=\lambda_jp^m$、それ以外のとき $Ng_N=0$ である。$N=jp^m$ から $m=v(N)$、$j=N/p^{v(N)}$ が決まるので、異なる組 $(j,m)$ は異なる $N$ を与える。よって $g_{jp^m}=\lambda_jp^m/(jp^m)=\lambda_j/j$ がすべての $m\ge1$ で成り立つ。$g\in K\{t\}$ より $g_N\to0$ だから $\lambda_j/j=0$、すなわち $\lambda_j=0$ である。
$X_0=\mathbb A^1_k=\operatorname{Spec}k[t]$ の形式的持上げ $\operatorname{Spf}W\{t\}$ について、$H^1(\Omega^\bullet_{W\{t\}/W})=W\{t\}dt/dW\{t\}$ は零でなく、$K$ をテンソルしても有限次元でない。したがって、標数 $0$ の $\mathbb A^1$ の Betti 数 $b_1=0$ は戻らない。
上の補題の 2 により、$H^1\otimes_WK$ は無限個の線型独立な元 $[\omega_j]$($p\nmid j$)をもつので $K$ 上無限次元であり、とくに $H^1\ne0$ である。
原論文はこの定理を、「$\sum\frac{a_n}{n+1}t^{n+1}$ が $W\{t\}$ に入らない」という一行で述べる。上の補題の $\omega_j$ はその一行を具体化したもので、係数 $p^m$ が原始関数では $p^m/(jp^m)=1/j$ に化けて $0$ に収束しなくなる。分母に現れる $p$ の冪が、標数 $p$ の affine 直線で $x^{mp-1}dx$ が完全でないこと(本書『0-2 de Rham コホモロジーと比較定理の復習』の「標数 $p$ の affine 直線の de Rham コホモロジー」)の混標数での姿である。
原論文はこの計算を形式スキーム $\mathfrak X=\operatorname{Spf}W\{t\}$ の de Rham 超コホモロジーについて述べ、affine だから大域切断の複体で計算できるとする。その同一視を確かめておく。
$\mathfrak X=\operatorname{Spf}W\{t\}$、$\Omega^q_{\mathfrak X/S}=\varprojlim_n\Omega^q_{X_n/S_n}$($X_n=\operatorname{Spec}W_n[t]$)とする。$q=0,1$ について $H^r(\mathfrak X,\Omega^q_{\mathfrak X/S})=0$($r>0$)、$\Gamma(\mathfrak X,\Omega^q_{\mathfrak X/S})=\Omega^q_{W\{t\}/W}$ であり、したがって 超コホモロジー $\mathbf H^i(\mathfrak X,\Omega^\bullet_{\mathfrak X/S})\cong H^i(\Omega^\bullet_{W\{t\}/W})$ が成り立つ。
段 1(高次元の消滅).$\mathfrak X$ の底空間は $X_0=\operatorname{Spec}k[t]$ の底空間で、次元 $1$ のネーター位相空間である。引用する事実 6 により、任意のアーベル群の層について $H^r=0$($r\ge2$)。
段 2(Čech 複体の極限).$\mathfrak U$ を $X_0$ の有限個の基本開集合 $D(f_i)$ による被覆とする。各 $D(f_i)$ とその交わり $D(f_i\cdots f_j)$ は、$X_n$ と $X_0$ の底空間が同じなので $X_n$ の affine 開集合 $\operatorname{Spec}W_n[t]_f$($f$ は $f_i\cdots f_j$ の $W_n[t]$ への任意の持上げ)に対応し、$\Omega^q_{X_n/S_n}$ は準連接なので、引用する事実 6 により Čech 複体 $C^\bullet_n=\check C^\bullet(\mathfrak U,\Omega^q_{X_n/S_n})$ は正の次数で完全で、$H^0(C^\bullet_n)=\Omega^q_{W_n[t]/W_n}$ である。遷移写像 $C^\bullet_{n+1}\to C^\bullet_n$ は各項で $W_{n+1}[t]_f\,(dt)\to W_n[t]_f\,(dt)$ の形で全射である。層の射影極限の切断は切断の射影極限なので $\check C^\bullet(\mathfrak U,\Omega^q_{\mathfrak X/S})=\varprojlim_nC^\bullet_n$。引用する事実 7 の完全列で、$r\ge1$ について $\varprojlim H^r(C^\bullet_n)=0$ であり、$\varprojlim^1H^{r-1}(C^\bullet_n)$ は $r\ge2$ で $0$、$r=1$ では遷移写像が全射な系 $(\Omega^q_{W_n[t]/W_n})_n$ の $\varprojlim^1$ なので $0$。よって $\check H^r(\mathfrak U,\Omega^q_{\mathfrak X/S})=0$($r\ge1$)、$\check H^0=\Omega^q_{W\{t\}/W}$。
段 3($H^1$ の消滅).有限個の基本開集合による被覆は $X_0$ の開被覆の中で共終なので、段 2 により $\check H^1(X_0,\Omega^q_{\mathfrak X/S})=0$ で、引用する事実 6 により $H^1(\mathfrak X,\Omega^q_{\mathfrak X/S})=\check H^1=0$。
段 4(超コホモロジー).$\Omega^q_{\mathfrak X/S}=0$($q\ge2$)と段 1・3 により、引用する事実 8 のスペクトル系列は行 $q=0$ に退化し、$\mathbf H^i(\mathfrak X,\Omega^\bullet_{\mathfrak X/S})\cong H^i(\Gamma(\mathfrak X,\Omega^\bullet_{\mathfrak X/S}))=H^i(\Omega^\bullet_{W\{t\}/W})$。
こうして、形式的持上げは存在しても、その de Rham コホモロジーは(超コホモロジーとして見ても)$\mathbb A^1$ の Betti 数を戻さない。原因は完備化が関数を増やしすぎたことにある。次に、制限冪級数を過収束級数に取り替えると何が変わるかを見る。
過収束級数環の微分加群は分離商で定めたので、それが期待どおり $dt$ で生成される自由加群であることをまず確かめる。
$A=W\{t\}^\dagger$ とする。$A$ は形式微分 $f\mapsto f'(t)$ で閉じ、階数 $1$ の自由加群 $A\,dt$ と $W$ 導分 $\delta\colon A\to A\,dt$、$\delta(f)=f'(t)dt$ は、$p$ 進分離的な $A$ 加群への $W$ 導分の普遍対象である。すなわち $\Omega^1_{A/W}=A\,dt$ であり、$\Omega^q_{A/W}=0$($q\ge2$)である。
段 1(形式微分と分離性).$f=\sum a_nt^n$ が $n\ge N$ で $v(a_n)\ge\rho n$ を満たせば $v(na_n)\ge v(a_n)\ge\rho n$ なので $f'\in A$。$A\,dt\cong A\subset W[\![t]\!]$ で、$\bigcap_mp^mW[\![t]\!]=0$(係数ごとに見る)だから $A\,dt$ は $p$ 進分離的である。Leibniz 則は $W[\![t]\!]$ の形式微分のものが遺伝する。
段 2(普遍性).$M$ を $p$ 進分離的な $A$ 加群、$D\colon A\to M$ を $W$ 導分とする。$f=\sum a_nt^n\in A$ について $n\ge N_0$ で $v(a_n)\ge\rho n$ とし、$N\ge N_0$ をとる。$f=f_{< N}+p^{\lfloor\rho N\rfloor}h_N$ と分ける。ここで $f_{< N}=\sum_{n< N}a_nt^n\in W[t]$、$h_N=\sum_{n\ge N}(a_n/p^{\lfloor\rho N\rfloor})t^n$ である。$n\ge N$ なら $v(a_n)\ge\rho n\ge\rho N\ge\lfloor\rho N\rfloor$ なので $h_N$ の係数は $W$ に入り、$n\ge2N$ なら $v(a_n/p^{\lfloor\rho N\rfloor})\ge\rho n-\rho N\ge(\rho/2)n$ なので $h_N\in A$ である。多項式 $g\in W[t]$ については Leibniz 則から $D(g)=g'(t)D(t)$ が従う。$D$ は $W$ 線型なので
$$D(f)-f'(t)D(t)=p^{\lfloor\rho N\rfloor}\bigl(D(h_N)-h_N'(t)D(t)\bigr)\in p^{\lfloor\rho N\rfloor}M$$
である($f'=f_{< N}'+p^{\lfloor\rho N\rfloor}h_N'$ に注意)。$N\to\infty$ で $\lfloor\rho N\rfloor\to\infty$ であり、$M$ は分離的なので $D(f)=f'(t)D(t)$。よって $D=\varphi\circ\delta$、$\varphi\colon A\,dt\to M$、$\varphi(g\,dt)=gD(t)$ であり、$\varphi$ は $A$ 線型で、$dt\mapsto D(t)$ から一意に決まる。
段 3(分離商との一致).代数的な Kähler 微分加群 $\Omega$ の分離商 $\bar\Omega=\Omega/\bigcap_mp^m\Omega$ は分離的であり($\bigcap_mp^m\Omega\subset p^n\Omega$ より $\bigcap_np^n\bar\Omega=0$)、分離的な $M$ への $A$ 線型写像 $\Omega\to M$ は $\bigcap_mp^m\Omega$ を $\bigcap_mp^mM=0$ に送るので $\bar\Omega$ を経由する。よって $\bar\Omega$ も同じ普遍性をもち、表現対象の一意性により $\bar\Omega\cong A\,dt$。$\Omega^q=\bigwedge^qA\,dt=0$($q\ge2$)。
$A=W\{t\}^\dagger$ の de Rham 複体 $A\xrightarrow{d}A\,dt$($d(\sum a_nt^n)=\sum na_nt^{n-1}dt$)について次が成り立つ。
段 1($H^0$).制限冪級数環の場合と同じく、$na_n=0$($n\ge1$)から $a_n=0$。
段 2(原始関数の過収束性).$\omega=\sum_{n\ge0}b_nt^ndt\in A\,dt$、$n\ge N$ で $v(b_n)\ge\rho n$ とする。$g=\sum_{n\ge0}\frac{b_n}{n+1}t^{n+1}\in K[\![t]\!]$ とおくと $dg=\omega$ である。$p^{v(n+1)}$ は $n+1$ を割るので $v(n+1)\le\log_p(n+1)$ であり、$n\ge n_1$ なら $\log_p(n+1)\le\rho n/2$ となる $n_1$ がとれる。$N'=\max(N,n_1)$ とすると $n\ge N'$ で
$$v\Bigl(\frac{b_n}{n+1}\Bigr)\ge\rho n-\frac{\rho n}{2}=\frac{\rho}{2}n\ge\frac{\rho}{4}(n+1)\ge0$$
である。よって $g$ は、$n< N'$ の有限個の項(係数は $K$)と、$\rho/4$ と $N'+1$ について過収束条件を満たす $W$ 係数の級数との和であり、$g\in K\{t\}^\dagger=A\otimes_WK$。$\otimes_WK$ は完全なので $H^1\otimes K=\operatorname{coker}(d\otimes K)=0$。
段 3(捩れの位数).$p^m\eta_m=d(t^{p^m})$ は完全である。$p^{m-1}\eta_m=dg$、$g=\sum g_nt^n\in A$ とすると、$t^{p^m-1}dt$ の係数の比較で $p^mg_{p^m}=p^{m-1}$、すなわち $g_{p^m}=1/p\notin W$ となり矛盾する。よって $[\eta_m]$ の位数はちょうど $p^m$。$m=1$ で $H^1\ne0$。段 2 により任意の類は $p$ の冪で消えるので $H^1$ は捩れ加群である。有限生成な捩れ $W$ 加群は、有限個の生成元の位数の最大値 $p^r$ で零になるが、$H^1$ は任意に大きい位数の元をもつので有限生成でない。
$\mathbb A^1_k$ の形式的持上げ $W\{t\}$ の代わりに過収束級数の環 $W\{t\}^\dagger$ を用いると、$H^0(\Omega^\bullet_{W\{t\}^\dagger/W})=W$、$H^1(\Omega^\bullet_{W\{t\}^\dagger/W})\otimes_WK=0$ である。すなわち $\mathbb A^1_k$ の過収束持上げの de Rham コホモロジーは、$K$ 係数では標数 $0$ の $\mathbb A^1$ の Betti 数 $b_0=1$、$b_1=0$ を与える。$W$ 係数では $H^1$ は零でない捩れ加群で、有限生成でない。
上の二つの補題による。
これで、制限冪級数を過収束級数に取り替えると、$\mathbb A^1$ の場合に $K$ 係数の Betti 数が戻ることが分かった。効いているのは、原始関数の分母 $n+1$ が生む $\log_p(n+1)$ 程度の付値の損失を、過収束条件の一次関数的な増大 $\rho n$ が吸収することである。ただし $W$ 係数では捩れが残る。原論文の言い方をどう読むかを注意しておく。
原論文(小節 2.1 末、印字 p. 318)は、過収束級数を使えば「このコホモロジーは零になっていたはずだ」と述べ、$\otimes K$ を書かない。しかし上の定理のとおり $W$ 係数の $H^1$ は零でない($t^{p-1}dt$ の原始関数は $t^p/p$ に定数を足したものしかない)。したがって印字のまま「$W$ 係数で零」と読めば主張は偽になる。本書は原論文の意図を $K$ をテンソルした後の意に読み、その形で定理を述べたので、「偽」の項目は立てない。この読みは、小節 2.3(印字 p. 321)が Monsky–Washnitzer の不変性の公刊された証明を「捩れを法として」と報告することとも整合する。$W$ 係数の捩れをどう扱うかは、affine の持上げの de Rham コホモロジーでは決着せず、結晶コホモロジーの捩れの問題として本書『6-2 divided power の動機と非固有の場合』に続く。
過収束級数の環 $W\{t\}^\dagger$ を一変数から多変数へ、多項式環からその商へ広げたものが Monsky–Washnitzer 代数であり、その上で持上げの存在・一意性・関手性がどこまで成り立つかが次頁の主題である。
まず、固有な持上げで定理どおり Betti 数が戻る最も簡単な例を見る。
$X=\mathbb P^1_W$ は $\mathbb P^1_k$ の固有滑らかな持上げである。$\Omega^1_{\mathbb P^1_W/W}\cong\mathcal O(-2)$ で、任意の環の上の射影直線の $\mathcal O(n)$ のコホモロジーの計算(Har77 III.5)により $H^0(\mathcal O)=W$、$H^1(\mathcal O)=0$、$H^0(\mathcal O(-2))=0$、$H^1(\mathcal O(-2))=W$ である。Hodge–de Rham スペクトル系列の $E_1$ 項は $E_1^{0,0}=W$、$E_1^{1,1}=W$ 以外が零なので次数の理由で退化し、$H^0_{dR}=W$、$H^1_{dR}=0$、$H^2_{dR}=W$ を得る。階数 $1,0,1$ は $\mathbb P^1$ の Betti 数であり、捩れは現れない。
次は、固有性を外すと定理のどの部分が破れるかを見る例である。多項式環による持上げでも $\mathbb A^1$ の Betti 数は戻るが、有限生成性が破れる。
外す条件は $X\to S$ の固有性である。$X=\mathbb A^1_W=\operatorname{Spec}W[t]$ は $\mathbb A^1_k$ の滑らかな持上げで、affine なので $H^i_{dR}(X/S)=H^i(\Omega^\bullet_{W[t]/W})$ である。$d(\sum g_nt^n)=\sum ng_nt^{n-1}dt$ から $H^0=W$ であり、$H^1=W[t]dt/dW[t]$ は $t^{n-1}dt$ の類が生成する巡回加群の直和で、$[t^{n-1}dt]$ の位数は $p^{v(n)}$ なので
$$H^1(\Omega^\bullet_{W[t]/W})\cong\bigoplus_{n\ge1}W/p^{v(n)}W$$
である。これは捩れ加群で $\otimes K$ は $0$(階数は $b_1=0$ と一致する)だが、任意に大きい位数の元をもつので有限生成でない。破れるのは定理の 1 の有限生成性だけで、2 と 3 は形式的にはこの例でも成り立っている。
同じ $\mathbb A^1_k$ の三つの持上げ、多項式環 $W[t]$、過収束級数環 $W\{t\}^\dagger$、制限冪級数環 $W\{t\}$ を並べると、本頁の計算の全体が一目で見える。
$W[t]\subset W\{t\}^\dagger\subset W\{t\}$ の de Rham 複体はいずれも $A\to A\,dt$、$d=$ 形式微分であり、$H^0=W$ である。$H^1$ は次のとおりである。
| 環 | $H^1\otimes_WK$ | $H^1$ の $W$ 加群としての構造 |
|---|---|---|
| $W[t]$ | $0$ | $\bigoplus_{n\ge1}W/p^{v(n)}W$。捩れ、有限生成でない |
| $W\{t\}^\dagger$ | $0$ | 零でない捩れ加群、有限生成でない($[t^{p^m-1}dt]$ の位数は $p^m$) |
| $W\{t\}$ | $K$ 上無限次元($[\omega_j]$、$p\nmid j$) | 捩れ元 $[t^{p^m-1}dt]$(位数 $p^m$。$p^{m-1}t^{p^m-1}dt=dg$ なら $g_{p^m}=1/p\notin W$)と無限位数の元 $[\omega_j]$ をともにもち、有限生成でない |
閉形式 $\sum b_nt^ndt$ の原始関数の係数は $b_n/(n+1)$ で、その付値は $v(b_n)$ から高々 $\log_p(n+1)$ だけ下がる。多項式では有限和なので問題にならず、過収束級数では $\rho n$ の増大が吸収し、制限冪級数では $v(b_n)\to\infty$ の速さが $\log_p(n+1)$ より遅いことがあるため原始関数が $K\{t\}$ に入らない。多項式環で足りないのは Betti 数ではなく持上げの一意性であり(次の反例)、そのために完備性が要る。
過収束級数の計算を、原点を除いた直線 $\mathbb G_{m,k}=\operatorname{Spec}k[t,t^{-1}]$ に広げると、$b_1=1$ が現れる。
$A=W\{t,t^{-1}\}^\dagger$ を、両側無限の Laurent 級数 $\sum_{n\in\mathbb Z}a_nt^n$($a_n\in W$)で、ある $\rho>0$ と $N$ について $|n|\ge N$ のとき $v(a_n)\ge\rho|n|$ となるもの全体とする。積 $\sum_{\alpha+\beta=\gamma}a_\alpha b_\beta$ は、$\gamma$ を固定すると $|\alpha|\to\infty$ で $|\beta|\to\infty$ なので $p$ 進収束し、$v(a_\alpha)\ge\rho|\alpha|-c$、$v(b_\beta)\ge\rho|\beta|-c$ から積の係数の付値は $\rho|\gamma|-2c$ 以上で、$A$ は環である。微分加群は上の補題(過収束級数環の微分加群)と同じ議論で $A\,dt$ であり、$H^0=W$。$\omega=\sum_nb_nt^ndt$ について、$n\ne-1$ の項は $\frac{b_n}{n+1}t^{n+1}$ を原始関数にもち、$|n|\to\infty$ で $v(b_n/(n+1))\ge\rho|n|-\log_p|n+1|$ は $(\rho/2)|n|$ 以上になるので、$\omega-b_{-1}\frac{dt}{t}$ は $K$ 係数で完全である。一方 $\frac{dt}{t}$ は $K$ 係数でも完全でない($dg$ の $t^{-1}dt$ の係数は $0\cdot g_0=0$)。よって $H^1(\Omega^\bullet_{A/W})\otimes_WK=K\cdot[\frac{dt}{t}]$ で、$b_0=1$、$b_1=1$ が戻る。この環が $k[t,t^{-1}]$ の Monsky–Washnitzer 持上げ $W\{t,u\}^\dagger/(tu-1)$ と一致することは本書は確かめていない。
最後に、多項式環による持上げは一般の affine 曲線では同型を除いて一意でないことを見る。形式的持上げの一意性(上の命題の 2)が完備化に依っていることの例である。
外す条件は持上げの $p$ 進完備性である。$p\ge5$ とし、$A_0=k[x,y]/(y^2-x^3-x)$ を楕円曲線 $y^2=x^3+x$ から無限遠点を除いた affine 曲線の座標環とする(判別式 $-4\ne0$ なので滑らか)。$A=W[x,y]/(y^2-x^3-x-p)$、$A'=W[x,y]/(y^2-x^3-x-2p)$ はどちらも $A_0$ の $W$ 上滑らかな持上げである($W$ 上自由で、生成ファイバーは判別式 $-4-27b^2$($b=p,2p$)が単元なので滑らか)。もし $W$ 代数として $A\cong A'$ なら生成ファイバーの affine 曲線が $K$ 上同型になり、滑らかな射影モデルの一意性により楕円曲線 $y^2=x^3+x+p$ と $y^2=x^3+x+2p$ が $K$ 上同型になるが、$j$ 不変量 $j=6912/(4+27b^2)$ は $b=p$ と $b=2p$ で異なる。よって $A\not\cong A'$ である。一方、$p$ 進完備化 $\hat A$、$\hat A'$ は上の命題により $W$ 代数として同型である。
以下は原論文の主張ではなく、後代の結果の紹介である(時点を明記する。本書が文献を開いて確かめていないものはそう書く)。
本頁が対応する原論文は Crystals and the De Rham cohomology of schemes Gro68c の小節 2.1 である。
| 本頁 | 原論文 | 印字頁 |
|---|---|---|
| 背景と動機:Monsky–Washnitzer の着想、「有限次元ベクトル空間」の読み替え | 小節 2.1 冒頭 | 317 |
| 定理(持上げの de Rham コホモロジーは正しい Betti 数を与える) | 小節 2.1(「正しい Betti 数を与える」) | 317 |
| 注意(持上げに依らないことは示していない)、持上げの非存在 | 小節 2.1(第一の困難)、小節 2.3 | 317、321 |
| 命題(affine 滑らかなスキームの形式的持上げ)、補題(平方零拡大の上の恒等写像に合同な自己準同型) | 小節 2.1(affine なら形式スキームへの持上げがある)。原論文は SGA 1 III を引かず、証明も書かない | 317 |
| 命題(形式スキームの超コホモロジーとの一致) | 小節 2.1(affine 形式スキームでの「標準同型」) | 317 |
| 補題(制限冪級数環の de Rham 複体)、定理(形式的持上げの de Rham コホモロジーは大きすぎる) | 小節 2.1($W\{t\}$ の $H^1$。原論文は $S_n$ を「$S=\operatorname{Spec}(W(k)/\mathfrak m^{n+1})$」と印字し、$W\{t\}$ を「収束冪級数」と呼ぶ) | 317–318 |
| 補題(過収束級数環の微分加群)、補題(過収束級数環の de Rham 複体)、定理(過収束級数では有理係数の de Rham コホモロジーが消える)、注意(「零になっていたはず」の読み方) | 小節 2.1 末(過収束級数なら「零になっていたはず」) | 318 |
原論文は小節 2.1 で $W$ 上の有限生成加群を「$W(k)$ 上の有限次元ベクトル空間」と印字し、$S_n=\operatorname{Spec}(W/\mathfrak m^{n+1})$ を「$S=$」と印字する。いずれも記録の誤りまたは誤植と読み、本頁は訂正した形で述べた。
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