複素数体上の固有滑らかな族の相対 de Rham 層に入る標準的な接続(本書『3-1 不変性からの帰結と超越的接続』)を純代数的に定める道として、原論文 3.3 は Manin の関数体での構成を一般化した二段の手順を示す。すなわち、$\mathcal O_S$ の導分を $\mathcal O_X$ の導分に持ち上げ、持ち上げた導分の Lie 微分を相対 de Rham 複体に作用させ、持上げの取り替えによる差が Cartan のホモトピー公式により零にホモトピックであることを使って、$\mathcal O_S$ の導分を相対 de Rham 層 $H^i_{dR}(X/S)$ に作用させる。本頁はこの手順を、$f$ が affine かつ形式的滑らかな場合に絶対可積分接続の定理として閉じ、非 affine の場合に何が足りないかを例で示す。
前提知識: de Rhamコホモロジー, 微分形式, 超コホモロジー, Gauss–Manin接続, 形式的滑らかさ
$f\colon X\to S$ をスキームの射とし、$\Omega^\bullet_{X/S}$ を相対 de Rham 複体、$H^i_{dR}(X/S)=\mathbf R^if_*\Omega^\bullet_{X/S}$ を相対 de Rham 層とする(記号表のとおり)。$\operatorname{Der}_S(\mathcal O_X)=\mathcal{H}om_{\mathcal O_X}(\Omega^1_{X/S},\mathcal O_X)$ は $f^{-1}\mathcal O_S$ 線型な導分の層、$\operatorname{Der}(\mathcal O_S)$ は $\mathcal O_S$ の($\mathbb Z$ 上の)導分の層で、対 $\langle\partial,\omega\rangle$ は $\langle\partial,da\rangle=\partial(a)$ で正規化する。「$f$ が affine かつ形式的滑らか」は、$f$ が affine 射で、$S$ の各 affine 開 $V$ について環の射 $\mathcal O_S(V)\to\mathcal O_X(f^{-1}V)$ が形式的滑らかであることの意味にとる($f$ が affine かつ滑らかならこの条件をみたす)。
本頁の主結果は次の四つである。
Gauss は超幾何級数の研究で、パラメータ付きの積分(周期)がパラメータについて微分方程式をみたすことを見出した。族 $E_\lambda\colon y^2=x(x-1)(x-\lambda)$ の周期 $\int_\gamma dx/y$ がみたす Picard–Fuchs 方程式がその典型である(参考書『代数的 de Rham コホモロジー』の頁『5-2 Gauss–Manin 接続と係数付き理論』、記事 Gauss–Manin接続)。周期は局所定数なサイクル $\gamma$ と相対 de Rham 層の切断との対であるから、周期の微分方程式は相対 de Rham 層 $H^i_{dR}(X/S)$ の上の接続、すなわち切断をパラメータで微分する規則に他ならない。複素数体上ではこの接続は解析的に定まる(本書『3-1 不変性からの帰結と超越的接続』)。原論文 3.2 はこの超越的接続が代数的に定義できると予告し、3.3 でその構成を与える。
代数的構成の原型は Manin Man63 の関数体での議論である。Manin は関数体上の曲線の Mordell 予想を扱う中で、体 $k$(幾何的には底の曲線の関数体)の導分を、$k$ 上の多様体の関数体 $K$ の導分に延ばし、$H^i_{dR}(K/k)$ に作用させた。原論文はこの双有理的構成を「より一般の設定に置く」と述べ、その道具として、ベクトル場に沿う Lie 微分が内積を鎖ホモトピーとして零にホモトピックであるという微分幾何の古典的な等式、Cartan のホモトピー公式を、任意のスキームの射について代数的に述べる。
構成の要点は、二つの持上げの差が $\operatorname{Der}_S(\mathcal O_X)$ の切断であり、その Lie 微分が Cartan の公式により零にホモトピックなので、持上げの Lie 微分が $H^i_{dR}(X/S)$ に誘導する写像は $\partial$ だけに依る、という観察である。残るのは持上げの存在で、$f$ が affine かつ形式的滑らかならこれは形式的滑らかさの定義から直ちに従う。原論文は「したがって絶対可積分接続を定めることを望む」と述べ、$f$ が affine でないときには導分が局所的にも持ち上がらないことを困難として挙げる。この困難を、平方零持上げの torsor と Hom 複体を使って導来圏の中で乗り越えるのが 3.4(本書『3-3 絶対標準接続の構成』)であり、後代の Katz–Oda の構成(記事 Gauss–Manin接続)は別のフィルトレーションの方法をとる。
相対 de Rham 複体 $\Omega^\bullet_{X/S}$ と相対 de Rham 層 $H^i_{dR}(X/S)=\mathbf R^if_*\Omega^\bullet_{X/S}$ は本書『0-2 de Rham コホモロジーと比較定理の復習』のとおりとする。外微分 $d$ は $f^{-1}\mathcal O_S$ 線型で、次数付き Leibniz 則 $d(\alpha\wedge\beta)=d\alpha\wedge\beta+(-1)^{\deg\alpha}\alpha\wedge d\beta$ をみたす。$\Omega^\bullet_{X/S}$ は局所的に $\mathcal O_X$ と $d\mathcal O_X$ で環として生成される。すなわち $\Omega^p_{X/S}$ の切断は局所的に $a\,db_1\wedge\cdots\wedge db_p$ の形の切断の和である。
本頁で扱う導分には、$\mathcal O_X$ の $f^{-1}\mathcal O_S$ 線型な導分 $\partial\in\operatorname{Der}_S(\mathcal O_X)$ と、$\mathcal O_S$ の導分に一致するように $f^{-1}\mathcal O_S$ の上で定めた $\mathcal O_X$ の $\mathbb Z$ 上の導分 $D$(持上げ)の二種類がある。まず前者について内積と Lie 微分を定める。
$f\colon X\to S$ をスキームの射、$\partial\in\operatorname{Der}_S(\mathcal O_X)$ とする。
原論文は $\theta(\partial)$ を「$\Omega^0$ 上で $\partial$ とし、$d$ と可換で積の微分の公式にしたがうように延長したもの」と定義し、Cartan の公式の証明を「両辺が $d$ と可換で $\Omega^0$ 上一致するから直ちに」と書く。この論法が通るには両辺が導分であることが要り、それは上の一意性の主張にあたる。原論文は対を $\langle dx_i,\partial\rangle$ とも $\langle\partial,dx\rangle$ とも印字するが、本頁は $\langle\partial,\omega\rangle$ に統一する。
持上げの Lie 微分は $\mathcal O_X$ 線型でない導分 $D$ に対して同じ規則で定めたい。$D$ が $f^{-1}\mathcal O_S$ を保たないので、相対 de Rham 複体への作用が well-defined であることは確かめる必要がある。
$\partial$ を $\mathcal O_S$ の($\mathbb Z$ 上の)導分とする。$\mathcal O_X$ の $\mathbb Z$ 上の導分 $D$ が $\partial$ の持上げであるとは、$f^{-1}\mathcal O_S\subset\mathcal O_X$ の上で $D(s)=\partial(s)$(正確には $D(f^\sharp s)=f^\sharp(\partial s)$)が成り立つことをいう。$D$ が $\partial$ の持上げのとき、$D$ の Lie 微分 $\theta(D)$ とは、$\Omega^\bullet_{X/S}$ の次数 $0$ の導分で $\Omega^0$ 上 $D$ に一致し $d$ と可換なものをいう。上と同じ理由でこれは存在すればただ一つで、存在は下の補題(持上げの Lie 微分)で示す。$\theta(D)$ は $f^{-1}\mathcal O_S$ について半線型である:$\theta(D)(s\omega)=\partial(s)\omega+s\,\theta(D)\omega$。
次に、$H^i_{dR}(X/S)$ の上に入れたい構造を、導分の作用の言葉で定める。原論文の Appendix は接続を対角線の一次近傍の言葉で定義し(本書『4-2 接続・stratification・可積分性』)、$S$ が滑らかならそれは次の $\rho$ 表示と同値である。本頁の定理は $S$ に滑らかさを仮定しないので、$\rho$ 表示を定義として採る。
$\mathcal E$ を $\mathcal O_S$ 加群とする。$\mathcal E$ の絶対接続($\mathbb Z$ に関する接続)の導分表示とは、層の写像 $\rho\colon\operatorname{Der}(\mathcal O_S)\to\mathcal{E}nd_{\mathbb Z}(\mathcal E)$ で、局所切断 $a\in\mathcal O_S$、$\partial,\partial'\in\operatorname{Der}(\mathcal O_S)$、$e\in\mathcal E$ について
$$\rho(a\partial)=a\rho(\partial),\qquad\rho(\partial+\partial')=\rho(\partial)+\rho(\partial'),\qquad\rho(\partial)(ae)=\partial(a)e+a\rho(\partial)(e)$$
をみたすものをいう。さらに
$$\rho(\partial\partial'-\partial'\partial)=\rho(\partial)\rho(\partial')-\rho(\partial')\rho(\partial)$$
が成り立つとき可積分という。$\nabla_\partial:=\rho(\partial)$ とも書く。$S$ が体 $k$ 上滑らかなら、$k$ 線型な導分に制限した $\rho$ は $\nabla\colon\mathcal E\to\Omega^1_{S/k}\otimes_{\mathcal O_S}\mathcal E$ と一対一に対応し、可積分性は曲率 $\nabla^2=0$ と同値である(記事 Gauss–Manin接続、本書『4-2 接続・stratification・可積分性』)。
次の事実は証明せずに引用する。出典は主に EGA4 $0_{\mathrm{IV}}$ §19–20 と、本書第 0 章の要約である。該当箇所の番号は本頁では確認していない。
準備した三つの道具(内積と Lie 微分、持上げ、接続の導分表示)を順に結ぶ。最初は Cartan の公式で、これが「持上げの取り替えは見えない」ことの根拠になる。
次数付き導分の交換子がまた導分であることを先に確かめる。Cartan の公式の右辺が導分であることはここから従う。
$\Theta_1,\Theta_2$ をそれぞれ次数 $r,s$ の $\Omega^\bullet_{X/S}$ の導分とすると、$[\Theta_1,\Theta_2]:=\Theta_1\Theta_2-(-1)^{rs}\Theta_2\Theta_1$ は次数 $r+s$ の導分である。とくに、次数 $-1$ と次数 $1$ の導分の反交換子 $\Theta_1\Theta_2+\Theta_2\Theta_1$ と、次数 $0$ の導分どうしの交換子は、それぞれ次数 $0$ の導分である。
段 1(展開).$\alpha$ を次数 $a$ とする。Leibniz 則を二度使って
$$\Theta_1\Theta_2(\alpha\wedge\beta)=\Theta_1\Theta_2\alpha\wedge\beta+(-1)^{r(a+s)}\Theta_2\alpha\wedge\Theta_1\beta+(-1)^{sa}\Theta_1\alpha\wedge\Theta_2\beta+(-1)^{(r+s)a}\alpha\wedge\Theta_1\Theta_2\beta,$$
$$\Theta_2\Theta_1(\alpha\wedge\beta)=\Theta_2\Theta_1\alpha\wedge\beta+(-1)^{s(a+r)}\Theta_1\alpha\wedge\Theta_2\beta+(-1)^{ra}\Theta_2\alpha\wedge\Theta_1\beta+(-1)^{(r+s)a}\alpha\wedge\Theta_2\Theta_1\beta.$$
段 2(交差項の消去).第一式から第二式の $(-1)^{rs}$ 倍を引くと、$\Theta_2\alpha\wedge\Theta_1\beta$ の係数は $(-1)^{ra+rs}-(-1)^{rs+ra}=0$、$\Theta_1\alpha\wedge\Theta_2\beta$ の係数は $(-1)^{sa}-(-1)^{rs+sa+sr}=0$ となり、残るのは $[\Theta_1,\Theta_2]\alpha\wedge\beta+(-1)^{(r+s)a}\alpha\wedge[\Theta_1,\Theta_2]\beta$ である。
$f\colon X\to S$ をスキームの射、$\partial\in\operatorname{Der}_S(\mathcal O_X)$ とする。$\partial$ の Lie 微分 $\theta(\partial)$ は存在し、
$$\theta(\partial)=i(\partial)\circ d+d\circ i(\partial)$$
で与えられる。したがって $\theta(\partial)$ は、複体 $\Omega^\bullet_{X/S}$ の自己準同型として、$i(\partial)$ を鎖ホモトピーとして零にホモトピックである。
段 1(右辺の性質).$\Theta:=i(\partial)d+d\,i(\partial)$ とおく。$d$ は $f^{-1}\mathcal O_S$ 線型、$i(\partial)$ は $\mathcal O_X$ 線型なので $\Theta$ は $f^{-1}\mathcal O_S$ 線型である。$d^2=0$ から $d\Theta=d\,i(\partial)d=\Theta d$ で、$\Theta$ は $d$ と可換である。$i(\partial)$ は次数 $-1$、$d$ は次数 $1$ の導分なので、上の補題(次数付き導分の交換子)により反交換子 $\Theta$ は次数 $0$ の導分である。
段 2($\Omega^0$ での値).$a\in\mathcal O_X$ について $\Theta(a)=i(\partial)(da)+d(i(\partial)a)=\langle\partial,da\rangle+0=\partial(a)$。
段 3(一意性による同定).段 1・2 により $\Theta$ は Lie 微分の定義の条件をすべてみたすので、$\theta(\partial)$ は存在して $\Theta$ に等しい。式 $\theta(\partial)=d\circ i(\partial)+i(\partial)\circ d$ は、$i(\partial)$ を鎖ホモトピーとして $\theta(\partial)$ が $0$ とホモトピックであることの定義そのものである。
これで、相対的な導分の Lie 微分はコホモロジーに何の作用も残さないことが分かった。次に、底の導分を上に持ち上げる段に移る。
(a) $A\to B$ を環の形式的滑らかな射、$\partial\colon A\to A$ を導分とする。$B$ の導分 $D\colon B\to B$ で $D(a\cdot1_B)=\partial(a)\cdot1_B$($a\in A$)をみたすものが存在する。
(b) $f\colon X\to S$ が affine かつ形式的滑らかなら、$S$ の各 affine 開 $V$ と $\partial\in\Gamma(V,\operatorname{Der}(\mathcal O_S))$ について、$f^{-1}V$ の上に $\partial$ の持上げ $D\in\Gamma(f^{-1}V,\operatorname{Der}_{\mathbb Z}(\mathcal O_X))$ が存在する。
段 1(二重数環による言い換え).$B[\varepsilon]:=B\otimes_{\mathbb Z}\mathbb Z[\varepsilon]/(\varepsilon^2)$ とおく。写像 $\alpha\colon A\to B[\varepsilon]$、$a\mapsto a+\partial(a)\varepsilon$ は、$\partial$ が導分であることと $\varepsilon^2=0$ から環準同型である。$B[\varepsilon]$ を $\alpha$ により $A$ 代数と見ると、射影 $\pi\colon B[\varepsilon]\to B$($\varepsilon\mapsto0$)は $A$ 代数の全射で、核 $(\varepsilon)$ は平方零である。恒等写像 $\mathrm{id}_B\colon B\to B=B[\varepsilon]/(\varepsilon)$ は $A$ 代数の射である($a\cdot1_B$ の像は $\pi(\alpha(a))=a\cdot1_B$)。
段 2(持上げ).形式的滑らかさ(引用する事実 1)により、$A$ 代数の射 $\tilde\beta\colon B\to B[\varepsilon]$ で $\pi\circ\tilde\beta=\mathrm{id}_B$ となるものがある。$\tilde\beta(b)=b+D(b)\varepsilon$ と書くと、$\tilde\beta$ が環準同型であることは $D$ が加法的で $D(bc)=b\,D(c)+c\,D(b)$ をみたすことと同値であり、$\tilde\beta$ が $A$ 代数の射であること $\tilde\beta(a\cdot1_B)=\alpha(a)$ は $D(a\cdot1_B)=\partial(a)\cdot1_B$ と同値である。これで (a) が出た。
段 3(層への延長).(b) では $V=\operatorname{Spec}A$、$f^{-1}V=\operatorname{Spec}B$ とし、$A\to B$ に (a) を適用する。得られた $B$ の導分 $D$ は、引用する事実 4 により $\mathcal O_X|_{f^{-1}V}$ の導分に一意に延びる。$A$ の元 $a$ と $g\in A$ について $D(a/g^n)$ は局所化の公式で $\partial(a/g^n)$ に一致するので、延びた $D$ は $f^{-1}(\mathcal O_S|_V)$ の上で $\partial$ に一致し、$\partial$ の持上げである。
原論文(印字 p. 326)は (a) を、EGA4 $0_{\mathrm{IV}}$ 20 の完全列
$$0\to\operatorname{Der}_A(B,B)\to\operatorname{Der}_{\mathbb Z}(B,B)\to\operatorname{Der}_{\mathbb Z}(A,B)\to\operatorname{Exalcom}_A(B,B)\to\cdots$$
と、$A\to B$ が形式的滑らかなら $\operatorname{Exalcom}_A(B,B)=0$ であることから導く。第三項の写像は $D\mapsto D|_A$ で、その全射性が (a) の内容である。本頁の証明は完全列を作らず、形式的滑らかさの定義を二重数環 $B[\varepsilon]$ に直接使った($\partial$ に対応する $\operatorname{Exalcom}$ の元が $B[\varepsilon]$ で、その分裂が $D$ である)。完全列の左端は二つの持上げの差が $\operatorname{Der}_A(B,B)$ の元であることを示し、次の定理の「持上げに依らない」段はこれと Cartan の公式を組み合わせたものである。
持上げは一意でない。しかし、持上げの Lie 微分がコホモロジーに誘導する作用は一意である。それを言うには、まず持上げの Lie 微分が相対 de Rham 複体の上で意味をもつことを確かめる。
$\partial$ を $\mathcal O_S$ の導分、$D$ をその持上げとする。$\Omega^\bullet_{X/S}$ の次数 $0$ の導分 $\theta(D)$ で、$\Omega^0$ 上 $D$ に一致し $d$ と可換なものがただ一つ存在し、局所的に
$$\theta(D)(a\,db_1\wedge\cdots\wedge db_p)=D(a)\,db_1\wedge\cdots\wedge db_p+\sum_{j=1}^pa\,db_1\wedge\cdots\wedge d(Db_j)\wedge\cdots\wedge db_p$$
で与えられる。$\theta(D)$ は $f^{-1}\mathcal O_S$ について半線型であり、$D,D'$ がそれぞれ $\partial,\partial'$ の持上げなら $\theta(D+D')=\theta(D)+\theta(D')$、$a\in\mathcal O_S$ について $\theta(aD)=a\,\theta(D)$、$\theta([D,D'])=[\theta(D),\theta(D')]$ が成り立つ。
段 1(絶対微分加群での定義).引用する事実 3 の表示で $\Omega^1_{X/\mathbb Z}$ を考える。生成元 $db$ の自由 $\mathcal O_X$ 加群の上で $\tilde\theta(a\,db)=D(a)\,db+a\,d(Db)$($a$ について加法的に延ばす)と定めると、関係 $d(b+c)-db-dc$ の像は $d(Db+Dc)-d(Db)-d(Dc)$、関係 $d(bc)-b\,dc-c\,db$ の像は $d(b\,Dc+c\,Db)-b\,d(Dc)-D(b)\,dc-c\,d(Db)-D(c)\,db$ で、どちらも関係の生成する部分加群に入る(後者は関係 $d(b\,Dc)=b\,d(Dc)+Dc\,db$ 等を使って $0$ になる)。また $\tilde\theta(a\,r)=D(a)\,r+a\,\tilde\theta(r)$ なので、関係の生成する部分加群は $\tilde\theta$ で保たれる。よって $\tilde\theta$ は $\Omega^1_{X/\mathbb Z}$ の加法的な自己準同型に降り、$\tilde\theta(a\omega)=D(a)\omega+a\tilde\theta(\omega)$ をみたす。
段 2(相対微分加群への降下).部分加群 $\mathcal O_X\cdot d(f^{-1}\mathcal O_S)$ は保たれる:$s\in f^{-1}\mathcal O_S$ について $\tilde\theta(a\,ds)=D(a)\,ds+a\,d(\partial s)$ で、$\partial s\in f^{-1}\mathcal O_S$ である。よって $\tilde\theta$ は商 $\Omega^1_{X/S}$ に降りる。これを $\theta_1$ と書く。$\theta_1(db)=d(Db)$ である。
段 3(外積代数への延長).$\Omega^p_{X/S}=\bigwedge^p_{\mathcal O_X}\Omega^1_{X/S}$ の上で $\theta(\omega_1\wedge\cdots\wedge\omega_p)=\sum_j\omega_1\wedge\cdots\wedge\theta_1\omega_j\wedge\cdots\wedge\omega_p$ と定める。右辺は各 $\omega_j$ について加法的で、係数 $a\in\mathcal O_X$ を隣の因子へ移しても値が変わらない(どちらも $D(a)$ の項と $a$ の項に分かれて一致する)ので $\mathcal O_X$ 上のテンソル冪の上で定まり、$\omega\otimes\omega$ を $(\omega+\theta_1\omega)^{\otimes2}-(\theta_1\omega)^{\otimes2}-\omega^{\otimes2}$ に送るので交代性の関係で生成されるイデアルを保つ。したがって $\theta$ は $\Omega^\bullet_{X/S}$ の次数 $0$ の導分に降り、表示の式をみたす。
段 4($d$ との可換性と一意性).$d$ と可換であることは、生成元 $a\,db_1\wedge\cdots\wedge db_p$ の上で両辺を表示の式と Leibniz 則で展開すれば分かる($d^2=0$ で $d(Db_j)$ を含む項の $d$ は消え、残る項は $dD(a)\wedge db_1\wedge\cdots$ と $\sum_jda\wedge\cdots\wedge d(Db_j)\wedge\cdots$ で両辺一致する)。一意性は定義に述べたとおりである。
段 5(半線型性と関係式).半線型性は表示の式で $a=s\in f^{-1}\mathcal O_S$ の倍数を見れば分かる。$\theta(D)+\theta(D')$、$a\,\theta(D)$、$[\theta(D),\theta(D')]$ はいずれも次数 $0$ の導分(三つ目は上の補題(次数付き導分の交換子))で $d$ と可換($a\,\theta(D)$ については $d(a\,\theta(D)\omega)=da\wedge\theta(D)\omega+a\,d\theta(D)\omega$ で、$a\in f^{-1}\mathcal O_S$ なので $\Omega^1_{X/S}$ の中で $da=0$)、$\Omega^0$ 上でそれぞれ $D+D'$、$aD$、$[D,D']$ に一致する。$D+D'$、$aD$、$[D,D']$ はそれぞれ $\partial+\partial'$、$a\partial$、$[\partial,\partial']$ の持上げなので、一意性により関係式が従う。
道具が揃った。$f$ が affine かつ形式的滑らかなら、$\mathcal O_S$ の導分は局所的に持ち上がり、持上げの Lie 微分は相対 de Rham 複体に作用し、持上げの取り替えは Cartan の公式により見えない。これを一つの定理にまとめる。
$f\colon X\to S$ を affine かつ形式的滑らかな射とする。各 $i$ について、$H^i_{dR}(X/S)$ の上に絶対可積分接続の導分表示 $\rho\colon\operatorname{Der}(\mathcal O_S)\to\mathcal{E}nd_{\mathbb Z}(H^i_{dR}(X/S))$ が次の性質で一意に定まる:$S$ の affine 開 $V$ と $\partial\in\Gamma(V,\operatorname{Der}(\mathcal O_S))$ について、$\partial$ の任意の持上げ $D$($f^{-1}V$ 上)をとると、$\rho(\partial)|_V$ は $\theta(D)$ が $H^i_{dR}(X/S)|_V=\mathcal H^i(f_*\Omega^\bullet_{X/S})|_V$ に誘導する写像に等しい。
段 1(局所的な定義).$V=\operatorname{Spec}A$ を affine 開、$B=\mathcal O_X(f^{-1}V)$ とし、上の定理(形式的滑らかな射に沿った導分の持上げ)により $\partial$ の持上げ $D$ をとる。上の補題(持上げの Lie 微分)により $\theta(D)$ は複体 $\Omega^\bullet_{B/A}$ の $d$ と可換な加法的自己準同型で、$A$ について半線型である。よってコホモロジー $H^i(\Omega^\bullet_{B/A})$ に加法的な自己準同型 $\rho_D$ を誘導し、$\rho_D(sc)=\partial(s)c+s\rho_D(c)$($s\in A$)をみたす。引用する事実 5 により $H^i_{dR}(X/S)|_V$ は $H^i(\Omega^\bullet_{B/A})$ に付随する準連接層であり、$D$ の各局所化 $B_g$($g\in A$)への延長(引用する事実 4)についても同じことが成り立つので、$\rho_D$ は層 $H^i_{dR}(X/S)|_V$ の $\mathbb Z$ 線型な自己準同型を定める。
段 2(持上げに依らないこと).$D_1,D_2$ を $\partial$ の二つの持上げとすると、$D_1-D_2$ は $f^{-1}\mathcal O_S$ を殺す $\mathcal O_X$ の導分、すなわち $\operatorname{Der}_S(\mathcal O_X)$ の切断である。補題の関係式により $\theta(D_1)-\theta(D_2)=\theta(D_1-D_2)$ で、上の定理(Cartan のホモトピー公式)によりこれは複体 $\Omega^\bullet_{B/A}$ の自己準同型として零にホモトピックである。零にホモトピックな自己準同型はコホモロジーに $0$ を誘導するので $\rho_{D_1}=\rho_{D_2}$。よって段 1 の写像は $\partial$ だけに依り、$\rho(\partial)|_V$ と書ける。
段 3(貼り合わせ).$V,V'$ を affine 開、$V''\subset V\cap V'$ を affine 開とする。$V$ 上の持上げ $D$ の $f^{-1}V''$ への制限は $\partial|_{V''}$ の持上げであり、$V'$ 上の持上げ $D'$ の制限も同様なので、段 2 により $\rho(\partial)|_{V''}$ は $V$ から作っても $V'$ から作っても一致する。$V\cap V'$ は affine 開で覆われるから、$\rho(\partial)$ は $S$ の affine 開被覆の上で貼り合い、$S$ 全体で定まる。$\partial$ が affine でない開集合の上の切断のときも、affine 開への制限ごとに定めて貼り合わせる。一意性は構成から明らかである。
段 4(接続の公理).$D$ が $\partial$ の持上げなら、補題の関係式により $\theta(aD)=a\theta(D)$($a\in A$)、$\theta(D+D')=\theta(D)+\theta(D')$ で、$aD$、$D+D'$ はそれぞれ $a\partial$、$\partial+\partial'$ の持上げなので $\rho(a\partial)=a\rho(\partial)$、$\rho(\partial+\partial')=\rho(\partial)+\rho(\partial')$ が従う。Leibniz 則 $\rho(\partial)(sc)=\partial(s)c+s\rho(\partial)(c)$ は段 1 の半線型性である。
段 5(可積分性).$D,D'$ をそれぞれ $\partial,\partial'$ の持上げとすると $[D,D']$ は $[\partial,\partial']$ の持上げで、補題の関係式により $\theta([D,D'])=[\theta(D),\theta(D')]$ である。コホモロジーへの誘導は合成と差を保つので $\rho([\partial,\partial'])=[\rho(\partial),\rho(\partial')]$。
こうして、affine かつ形式的滑らかな族の相対 de Rham 層には、持上げの選び方に依らない絶対可積分接続が入った。原論文はこの段を「望む」と書き、その理由を非 affine の場合の困難に置く。何が足りないのかを注意に書く。
原論文(印字 p. 326)は、Cartan の公式から局所持上げの作用がホモトピーを除いて $\partial$ だけに依ることを述べ、$\mathcal O_S$ の導分を $H^i_{dR}(X/S)$ に作用させられるとしたうえで、「絶対可積分接続を定めることを望む」と書く。affine かつ形式的滑らかなら上のとおり定理になるので、望みにとどめた理由は $f$ が affine でない場合にある。そのとき $\mathcal O_S$ の導分は、$S$ の開集合 $V$ をどう小さくとっても $f^{-1}V$ 全体の導分には持ち上がらないことがある($X$ の affine 開の上には持上げがある)。下の例(反例:affine を外した場合)の Legendre 族がその例である。affine 開ごとの持上げの貼り合わせを導来圏で処理するのが原論文 3.4 の構成(本書『3-3 絶対標準接続の構成』)で、そこでは $H^i_{dR}(X/S)$ に降ろすのに局所自由性が要る。
原論文が「Manin の双有理的構成」と呼ぶものは、上の定理の最も簡単な場合、すなわち底が体のスペクトル、上が体のスペクトルの場合である。
$k$ を体、$K$ を $k$ の分離拡大(体)とする。$k$ の各導分 $\partial$ は $K$ の導分 $\bar\partial$ に延び、$\theta(\bar\partial)$ は $\Omega^\bullet_{K/k}$ に作用して $H^i_{dR}(K/k)=H^i(\Omega^\bullet_{K/k})$ の上に自己準同型 $\rho(\partial)$ を誘導する。$\rho(\partial)$ は延長 $\bar\partial$ の選び方に依らず、$\partial\mapsto\rho(\partial)$ は $H^i_{dR}(K/k)$ の上の $k$ の($\mathbb Z$ に関する)絶対可積分接続の導分表示である。
要点のみ述べる。$X=\operatorname{Spec}K\to S=\operatorname{Spec}k$ は affine で、引用する事実 2 により $k\to K$ は形式的滑らかである。よって上の定理(affine かつ形式的滑らかな射の相対 de Rham 層上の絶対可積分接続)が適用でき、$H^i_{dR}(X/S)$ は $H^i(\Omega^\bullet_{K/k})$ である。延長 $\bar\partial$ は上の定理(形式的滑らかな射に沿った導分の持上げ)(a) で与えられる持上げそのものである。
原論文(印字 p. 324)は「$H^i_{dR}(K/k)$ 上の作用は $\bar\partial$ だけに依り延長 $\bar\partial$ に依らない」と読める形で印字されている(上線は細く、印字痕の可能性も残る)が、文意は「$\partial$ だけに依る」であり、上の系はそう読んで立てた。原論文は系の内容を Manin Man63 の結果として報告し、証明を書かない。本頁の証明は原論文 3.3 後半(Cartan の公式と持上げ)を $K/k$ に当てはめたもので、Manin の原論文は本書は開いていない。幾何的には、$k$ が曲線 $C$ の関数体、$K$ が $C$ 上の族の生成ファイバーの関数体のとき、系は族の Gauss–Manin 接続を生成点と関数体の水準で作っている。
原論文(印字 p. 325)は続けて、$X$ が関数体 $K$ の滑らかなモデルのとき、Manin が標準単射 $H^1_{dR}(X/k)\hookrightarrow H^1_{dR}(K/k)$ により $H^1_{dR}(K/k)$ の接続から $H^1_{dR}(X/k)$ の接続を誘導することを示した、と報告する。原論文は単射性の根拠と $X$ の条件(固有性など)を書かない。本書もこの段は証明しない。標数 $0$ で $X$ が $k$ 上滑らかなら次数 $1$ の単射性は余次元フィルトレーションの純性から従う(参考書『代数的 de Rham コホモロジー』の頁『3-2 Cousin 分解と余次元スペクトル系列』)と本書は理解しているが、本頁に当てはめて確かめてはいない。$H^1_{dR}(X/k)$ の像が $\rho(\partial)$ で保たれることも本頁では閉じない。任意の滑らかな $f$ に対する構成は本書『3-3 絶対標準接続の構成』が導来圏で与える。
例はすべて Weierstrass 型の族である。affine 部分の相対 de Rham コホモロジーの基底を先に計算し、持上げと接続を実際に書き、持上げの非一意性、形式的滑らかさを外したときの持上げの非存在、affine を外したときの持上げの非存在を順に見る。
$A$ を $\mathbb Q$ を含む整域、$g=x^3+a_2x^2+a_1x+a_0\in A[x]$ とし、$B=A[x,y]/(y^2-g)$、$U=\operatorname{Spec}B\to S=\operatorname{Spec}A$ とする。$g$ と $g_x=dg/dx$ が $B$ の中で単位イデアルを生成する(判別式が $A$ の単位)と仮定すると $U/S$ は滑らかである。$\Omega^1_{B/A}$ は $2y\,dy=g_x\,dx$ で定まる $B$ 加群で、$\omega:=dx/y$ を形式的に導入すると $dx=y\omega$、$dy=\tfrac12g_x\omega$ であり、$\Omega^1_{B/A}$ は $\omega$ を基底とする自由 $B$ 加群である($2yu+g_xv=1$ となる $u,v\in B$ をとれば $\omega=2(u\,dx+v\,dy)$ が $\Omega^1_{B/A}$ の元として $dx=y\omega$、$dy=\tfrac12g_x\omega$ をみたし、$\Omega^1_{B/A}$ を生成する。$U/S$ が滑らかで相対次元 $1$ なので $\Omega^1_{B/A}$ は階数 $1$ の局所自由加群であり、一元で生成されるから自由である)。$\Omega^2_{B/A}=0$ なので $H^1_{dR}(U/S)=\Omega^1_{B/A}/dB$ である。$B$ は $A$ 加群として $x^i,x^iy$($i\ge0$)を基底とし、
$$d(x^i)=ix^{i-1}y\,\omega,\qquad d(x^iy)=\bigl(ix^{i-1}g+\tfrac12x^ig_x\bigr)\omega=\bigl((i+\tfrac32)x^{i+2}+(i+1)a_2x^{i+1}+(i+\tfrac12)a_1x^i+ia_0x^{i-1}\bigr)\omega$$
である。$\mathbb Q\subset A$ なので、第一式からすべての $x^jy\,\omega$($j\ge0$)は完全形式、第二式から $x^{j}\omega$($j\ge2$)は $\omega,x\omega$ の $A$ 係数の一次結合と完全形式の和である。逆に $c_0\omega+c_1x\omega\in dB$($c_0,c_1\in A$)とすると、$dB$ の元は $\sum_i\alpha_id(x^i)+\sum_i\beta_id(x^iy)$($\alpha_i,\beta_i\in A$)の形で、第一項は $y$ を含む部分、第二項は $x$ の多項式の部分に入るので $\sum\beta_id(x^iy)=c_0\omega+c_1x\omega$ となり、$\beta_i\ne0$ となる最大の $i$ があれば左辺の $x$ の次数は $i+2\ge2$(先頭係数 $(i+\tfrac32)\beta_i\ne0$)で矛盾する。よって $H^1_{dR}(U/S)$ は $[\omega],[x\omega]$ を基底とする階数 $2$ の自由 $A$ 加群である。
$k$ を標数 $0$ の体、$A=k[t,t^{-1}]$、$g=x^3-t$ とし、$U\colon y^2=x^3-t$ を $S=\operatorname{Spec}A$ 上の affine 曲線(楕円曲線 の族から無限遠点を除いたもの)とする(判別式は $-27t^2$ の単位倍で、上の例の仮定をみたす)。$\partial=d/dt$ の持上げ $D=\partial_t+\alpha\partial_x+\beta\partial_y$ は $D(y^2-x^3+t)=2y\beta-3x^2\alpha+1\equiv0$ をみたせばよく、$B$ の中で $t=x^3-y^2$ なので $\alpha=x/(3t)$、$\beta=y/(2t)$ が解である:
$$D=\partial_t+\frac{x}{3t}\partial_x+\frac{y}{2t}\partial_y.$$
これは $\mathbb G_m$ の作用 $(t,x,y)\mapsto(u^6t,u^2x,u^3y)$ の無限小生成元を $\partial_t$ に正規化したものである。$\theta(D)$ を基底の形式 $\omega=dx/y$、$x\omega$ に施すと、$\theta(D)(y^{-1}dx)=D(y^{-1})dx+y^{-1}d(Dx)=-\tfrac{1}{2t}\omega+\tfrac{1}{3t}\omega$ から
$$\rho(\partial_t)[\omega]=-\frac{1}{6t}[\omega],\qquad\rho(\partial_t)[x\omega]=\Bigl(\frac{1}{3t}-\frac{1}{2t}+\frac{1}{3t}\Bigr)[x\omega]=\frac{1}{6t}[x\omega]$$
となる。接続行列は対角で、水平切断 $t^{1/6}\omega$、$t^{-1/6}x\omega$ は $t=u^6$ の後で代数的になる。これは族が $t=u^6$ の後で定数族 $y^2=x^3-1$ に同型になること($j=0$)と整合する。持上げは一意でない。$\partial_v=2y\partial_x+3x^2\partial_y$ は $\partial_v(y^2-x^3+t)=0$ をみたす $\operatorname{Der}_S(\mathcal O_U)$ の切断で、$D'=D+x\partial_v$ も $\partial_t$ の持上げである。Cartan の公式により $\theta(x\partial_v)\omega=d(i(x\partial_v)\omega)+i(x\partial_v)d\omega=d(2x)=2y\omega$ で、これは鎖の水準では $0$ でないが完全形式なので、$\theta(D')$ と $\theta(D)$ は $H^1_{dR}(U/S)$ に同じ作用を誘導する。この族の $\partial_t$ は射影閉包 $E\colon Y^2Z=X^3-tZ^3$ の上にも持ち上がる。無限遠点の近くの座標 $u=x/y$、$v=1/y$ について $D(u)=-u/(6t)$、$D(v)=-v/(2t)$ なので $D$ は $E$ 全体の導分に延びる。affine であることは持上げの十分条件であって必要条件ではない。
外す条件は $f$ の形式的滑らかさである。$k$ を標数 $2$ でない体、$A=k[t]$、$B=k[t,x]/(x^2-t)\cong k[x]$ とし、$f\colon\operatorname{Spec}B\to\operatorname{Spec}A$ とする。$f$ は affine かつ有限であるが、$x=0$ で分岐し滑らかでない。$\partial=d/dt$ の持上げ $D$ があれば $1=D(t)=D(x^2)=2x\,D(x)\in x\,k[x]$ となり矛盾する。$t\ne0$ の上では $f$ はエタールで、持上げ $D=\frac{1}{2x}\partial_x$ が一意に存在する。破れる結論は上の定理(形式的滑らかな射に沿った導分の持上げ)の (b)、したがって上の定理(affine かつ形式的滑らかな射の相対 de Rham 層上の絶対可積分接続)の構成である。
外す条件は $f$ が affine であることである。$A=\mathbb C[\lambda,\lambda^{-1},(\lambda-1)^{-1}]$、$S=\operatorname{Spec}A$、$E\to S$ を Legendre 族 $y^2=x(x-1)(x-\lambda)$ の射影閉包(無限遠点 $O$ を加えた固有滑らかな楕円曲線の族)、$U=E\setminus O$ をその affine 部分とする。$\partial=\partial_\lambda$ は $S$ 上局所的にも $\mathcal O_E$ の導分に持ち上がらないことを示す。
(a) affine 部分での接続.$g=x(x-1)(x-\lambda)$、$g_x=3x^2-2(1+\lambda)x+\lambda$ について $g_x=\lambda(\lambda-1)+(x-\lambda)(3x+\lambda-2)$ が成り立つ。$U$ の上では $B=A[x,y]/(y^2-g)$ で、
$$D=\partial_\lambda+\frac{x(x-1)}{\lambda(\lambda-1)}\partial_x+\frac{y(3x+\lambda-2)}{2\lambda(\lambda-1)}\partial_y$$
は $D(y^2-g)=\frac{x(x-1)}{\lambda(\lambda-1)}\bigl((x-\lambda)(3x+\lambda-2)-g_x\bigr)+x(x-1)=0$ をみたすので $\partial_\lambda$ の持上げである。$\theta(D)(dx/y)=D(y^{-1})dx+y^{-1}d(Dx)$ を計算すると
$$\theta(D)\omega=\frac{x-\lambda}{2\lambda(\lambda-1)}\,\omega\qquad(\omega=dx/y)$$
であり、上の例(affine Weierstrass 型の族の相対 de Rham コホモロジー)の基底で $\rho(\partial_\lambda)[\omega]=\frac{1}{2\lambda(\lambda-1)}([x\omega]-\lambda[\omega])$ となる。同様に $x^2\omega\equiv\frac{2(1+\lambda)x-\lambda}{3}\omega$ を使って $\rho(\partial_\lambda)[x\omega]=\frac{1}{2(\lambda-1)}([x\omega]-[\omega])$ である。周期 $P=\int\omega$、$Q=\int x\omega$ について $P'=\frac{Q-\lambda P}{2\lambda(\lambda-1)}$、$Q'=\frac{Q-P}{2(\lambda-1)}$ から $Q$ を消去すると $\lambda(1-\lambda)P''+(1-2\lambda)P'-\tfrac14P=0$ となり、記事 Gauss–Manin接続 の Picard–Fuchs 方程式と一致する。
(b) 大域的な持上げが無いこと.$V\subset S$ を空でない開集合とし、$f^{-1}V=E_V$ の上に $\partial_\lambda$ の持上げ $D_E$ があったとする。$V$ を基本開集合に縮めて $V=\operatorname{Spec}A'$($A'$ は $A$ の局所化)としてよい。$\theta(D_E)$ は $\Omega^1_{E_V/V}$ の大域切断を大域切断に送るので $\eta:=\theta(D_E)\omega$ は $E_V$ 上の相対 $1$ 形式で、$U_V$ 上では $\eta=h\omega$($h\in B'=B\otimes_AA'$)と書ける。各ファイバー $E_\lambda$ で $x,y,\omega$ の $O$ での位数は $-2,-3,0$(Sil09 III.1)なので、$h=\sum_ia_ix^i+\sum_ib_ix^iy$ の $E_\lambda$ への制限が $O$ で正則であるためには $i\ge1$ の $a_i$ と すべての $b_i$ が $\lambda$ で消えねばならず、これがすべての閉点 $\lambda\in V$ で成り立つから $h\in A'$ である。一方、$D_E|_{U_V}$ は $\partial_\lambda$ の $U_V$ 上の持上げなので、上の定理(affine かつ形式的滑らかな射の相対 de Rham 層上の絶対可積分接続)の段 2 により $[h\omega]=\rho(\partial_\lambda)[\omega]=\frac{1}{2\lambda(\lambda-1)}([x\omega]-\lambda[\omega])$ が $H^1_{dR}(U_V/V)$ で成り立つ。$[\omega],[x\omega]$ は $A'$ 上一次独立だから $[x\omega]$ の係数を比べて $\frac{1}{2\lambda(\lambda-1)}=0$、矛盾である。破れる結論は上の定理(形式的滑らかな射に沿った導分の持上げ)の (b) で、$E\to S$ は滑らかだが affine でない。接続の言葉では、大域的な持上げがあれば $\rho(\partial_\lambda)$ が Hodge の部分 $F^1=\Gamma(E,\Omega^1_{E/S})$ の像を保つことになり、Legendre 族で Kodaira–Spencer 写像が零でないこと($\nabla_{\partial_\lambda}\omega\notin F^1$。Griffiths の横断性は $\nabla F^1\subset F^0$ の包含で、これとは別)に反する。
以下は原論文の主張ではなく、後代の結果の紹介である(本頁の執筆時点 2026 年の知識による。文献を開いていないものは「本書は確かめていない」と記す)。
本頁が対応する原論文は Crystals and the De Rham cohomology of schemes Gro68c の小節 3.3(印字 pp. 324–326)である。
| 本頁 | 原論文 | 印字頁 |
|---|---|---|
| 背景と動機(Manin の構成の一般化、Gauss の着想) | 3.3 冒頭 | 324 |
| 系(Manin の関数体での構成)、注意(原論文の印字と Manin の原論文) | 3.3、Manin [7] の報告と $\bar\partial$ の印字 | 324–325 |
| 注意(滑らかなモデルの $H^1$ への制限) | 3.3、$H^1_{dR}(X/k)\hookrightarrow H^1_{dR}(K/k)$ | 325 |
| 定義(内積と Lie 微分) | 3.3、inner product $i(\partial)$ と $\theta(\partial)$ の定義 | 325 |
| 補題(次数付き導分の交換子)、定理(Cartan のホモトピー公式) | 3.3、Cartan's homotopy formula とその証明(「両辺が $d$ と可換で $\Omega^0$ 上一致」) | 325 |
| 定理(形式的滑らかな射に沿った導分の持上げ)、注意(原論文の経路) | 3.3、formally smooth かつ affine の場合、EGA $0_{\mathrm{IV}}$ 20 の完全列と Exalcom の消滅 | 325–326 |
| 補題(持上げの Lie 微分)、定理(affine かつ形式的滑らかな射の相対 de Rham 層上の絶対可積分接続) | 3.3、局所持上げの作用がホモトピーを除いて $\partial$ だけに依ること、導分の $H^i_{dR}(X/S)$ への作用 | 326 |
| 注意(非 affine の場合の困難と原論文の「望み」)、例(反例:affine を外した場合) | 3.3 末、「one hopes」と非 affine の困難、3.4 の予告 | 326 |
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