標数 $p$ の完全体 $k$ 上のスキーム $X_0$ を Witt ベクトル環 $W(k)$ の上で見ても、無限小コホモロジーは $p$ 進コホモロジーの要請を満たさない。原論文はその例を確かめたうえで、冪零はめ込みのイデアルに divided power 構造を添えた結晶景 $\operatorname{Cris}(X/S)$ と、その充満部分圏である接続景 $\operatorname{Conn}(X/S)$ を定義し、無限小景の理論が標数を問わず結晶景に移るという二つの見込み a)・b) を立て、それが成り立てば固有で滑らかな $X_0$ の結晶コホモロジーが $W(k)$ 上の滑らかな持上げの de Rham コホモロジーに一致するという crucial test を導く。この頁では定義と導出を閉じ、見込みの状態を原論文の後注とともに記録する。
前提知識: Grothendieck位相, Wittベクトル, de Rhamコホモロジー, 超コホモロジー, アーベル多様体
$k$ を標数 $p>0$ の完全体、$W=W(k)$ を Witt ベクトル環、$W_n=W/p^{n+1}W$($W_0=k$)、$S=\operatorname{Spec}W$、$S_n=\operatorname{Spec}W_n$ とする。無限小景 $\operatorname{Inf}(X/S)$、stratifying 景 $\operatorname{Strat}(X/S)$、そのトポスと構造層は本書『4-1 infinitesimal 景と stratifying 景』、divided power 構造と PD 冪零性は本書『0-4 形式スキーム・持上げ・divided power』のとおりとする。原論文(小節 7.2)の「nilpotent divided power」は 0-4 の PD 冪零の意である。結晶トポス $(X/S)_{\mathrm{cris}}$ の構造層を $\mathcal O_{X/S}$ と書き、そのコホモロジーを $H^i_{\mathrm{cris}}(X/S)=H^i((X/S)_{\mathrm{cris}},\mathcal O_{X/S})$ と略記する。
本頁の主結果は次の五つである。
第 5 章で、標数 $0$ の底の上の滑らかなスキームについて無限小コホモロジーが代数的 de Rham コホモロジーに一致すること(原論文 Theorem 4.1、本書『5-3 基本定理の証明』)を見た。無限小景は冪零な厚みという幾何だけから定義されるので、この定理は de Rham コホモロジーに微分形式によらない定義を与え、しかも任意の底の上で意味をもつ。そこで、$p$ 進コホモロジーの係数環の候補である Witt ベクトル環 $W(k)$(本書『1-2 ℓ 進コホモロジーの批判と p 進コホモロジーの要請』)を底にとり、$k$ 上のスキーム $X_0$ の $S=\operatorname{Spec}W(k)$ に関する無限小コホモロジーをそのまま $p$ 進コホモロジーの候補にできないか、と問うのは自然である。原論文の小節 7.1 は、この問いに否と答える。本書『5-3 基本定理の証明』の反例(原論文 小節 6.5 末。剰余標数 $p$ の artin 局所環上のアーベルスキームで、形式群がトーラスなら stratifying コホモロジーが次数 $\dim X$ を超えると消える)を $W(k)$ 上へ移せば、無限小コホモロジーは次数 $\dim X_0$ を超えると消えてしまい(とくに次数 $2\dim X_0$ で消え)、Betti 数の要請に反するからである。
原論文の診断は、標数 $p$ で失われているのは「$x^n/n!$」だ、というものである。基本定理の証明の要である形式 Poincaré 補題は、冪級数環の de Rham 複体を $t^n\mapsto t^{n+1}/(n+1)$ で積分することに依り、$\mathbb Q$ を含まない底では使えない。一方、標数 $p$ の環のイデアルは divided power 構造($x^n/n!$ の役をする写像 $\gamma_n$)をもたないことも一意にもたないこともある(本書『0-4 形式スキーム・持上げ・divided power』)。そこで原論文は、冪零はめ込みのイデアルに divided power 構造を添えたものを対象とする結晶景を、無限小景と完全に類比する形で定義し(小節 7.2)、$\operatorname{Strat}$ に当たる接続景を添え、無限小景の理論が標数の仮定なしに結晶景へ移ると見込む。この見込みが正しければ、固有で滑らかな $X_0/k$ で $W(k)$ 上に滑らかな持上げ $X$ をもつものについて、結晶コホモロジーは $X$ の de Rham コホモロジーに一致するはずで、原論文はこれを理論の crucial test と呼ぶ。divided power を入れたもう一つの理由(任意標数での第一 Chern 類の構成)は本書『6-2 divided power の動機と非固有の場合』に置く。
結晶景の定義は無限小景の定義(4-1)に divided power の条件を添えるだけなので、まず 0-4 の divided power 構造を要る範囲で繰り返し、次に結晶景・結晶トポス・接続景を定義する。
環 $A$ のイデアル $J$ 上の divided power 構造とは写像の族 $\gamma_n\colon J\to A$($n\ge0$)で、$\gamma_0(x)=1$、$\gamma_1(x)=x$、$\gamma_n(x)\in J$($n\ge1$)、$\gamma_n(x+y)=\sum_{i+j=n}\gamma_i(x)\gamma_j(y)$、$\gamma_n(ax)=a^n\gamma_n(x)$、$\gamma_m(x)\gamma_n(x)=\binom{m+n}{m}\gamma_{m+n}(x)$、$\gamma_m(\gamma_n(x))=\frac{(mn)!}{m!\,(n!)^m}\gamma_{mn}(x)$ を満たすものをいう(Roby Rob65。本書『0-4 形式スキーム・持上げ・divided power』の「divided power 構造」)。とくに $n!\,\gamma_n(x)=x^n$ である。組 $(J,\gamma)$ を PD イデアルという。$\gamma$ が PD 冪零であるとは、ある $N$ があって $\sum n_i\ge N$ なる任意の積 $\gamma_{n_1}(x_1)\cdots\gamma_{n_r}(x_r)$($x_i\in J$)が $0$ になることをいう。これは原論文(小節 7.2 の脚注)の nilpotent divided power の定義そのものであり、$J$ が冪零イデアルであることより強い。環準同型 $f\colon A\to A'$ と PD イデアル $(J,\gamma)$、$(J',\gamma')$ について、$f(J)\subset J'$ かつ $f(\gamma_n(x))=\gamma'_n(f(x))$ が成り立つとき $f$ を PD 準同型という。スキーム $T$ のイデアル層 $\mathcal I$ 上の divided power 構造とは、各開集合 $V$ の $\Gamma(V,\mathcal I)$ 上の divided power 構造で制限と両立するものをいい、それが PD 冪零であるとは、$T$ の各点のある近傍 $V$ の上で $\Gamma(V,\mathcal I)$ の構造が PD 冪零であることをいう(無限小景のイデアル層の「局所的に冪零」と同じ局所性。$T$ が準コンパクトなら $N$ は一様にとれる)。
$\mathbb Q$ 代数のイデアルでは $\gamma_n(x)=x^n/n!$ が唯一の divided power 構造であり、標数 $p$ では存在も一意性も保証されない(0-4 の例)。この違いが、次に定義する結晶景と無限小景の違いのすべてである。
$S$ を任意のスキーム、$X$ を $S$ 上のスキームとする。圏 $\operatorname{Cris}(X/S)$ を次で定める。対象は三つ組 $(U\hookrightarrow T,\gamma)$、ここで $(U\hookrightarrow T)$ は無限小景 $\operatorname{Inf}(X/S)$ の対象($U$ は $X$ の開集合、$T$ は $S$ スキーム、$U\hookrightarrow T$ は $S$ 射である閉はめ込みで、そのイデアル層 $\mathcal I_T\subset\mathcal O_T$ は局所的に冪零)、$\gamma$ は $\mathcal I_T$ 上の PD 冪零な divided power 構造である。射 $(U\hookrightarrow T,\gamma)\to(U'\hookrightarrow T',\gamma')$ とは、$\operatorname{Inf}(X/S)$ の射 $j\colon T\to T'$($U\subset U'$、$j|_U$ は包含)で、$j^{-1}\mathcal I_{T'}\to\mathcal I_T$ が divided power と両立する($j^*(\gamma'_n(x))=\gamma_n(j^*x)$)ものをいう。被覆族は $T$ の Zariski 開被覆 $(T_i)_i$ から得る族 $\{(U\cap T_i\hookrightarrow T_i,\gamma|_{T_i})\to(U\hookrightarrow T,\gamma)\}_i$ で、これが生成する Grothendieck位相を入れた景を $X$ の $S$ に関する結晶景(crystalline site)といい、同じ記号 $\operatorname{Cris}(X/S)$ で表す。原論文は $S$ に何の構造も課さず、$\gamma$ と $S$ の間に両立条件を置かない。
対象の集合が無限小景と違うのは、divided power をもたない厚みが落ち、divided power を複数もつ厚みが複数の対象に分かれる点だけである。この違いは標数 $0$ では消える(主結果 2)。
$\operatorname{Cris}(X/S)$ 上の層の圏を $X$ の $S$ に関する結晶トポスといい $(X/S)_{\mathrm{cris}}$ と書く(原論文は $X_{\mathrm{cris}}$ とも書く)。対象 $(U\hookrightarrow T,\gamma)$ に環 $\Gamma(T,\mathcal O_T)$ を対応させる前層は層であり(被覆族が $T$ の Zariski 開被覆だから)、これを構造層 $\mathcal O_{X/S}$ という(原論文の $\mathcal O_{X_{\mathrm{cris}}}$)。同じく $(U\hookrightarrow T,\gamma)\mapsto\Gamma(T,\mathcal I_T)$ は $\mathcal O_{X/S}$ のイデアル層で、これを $\mathcal J$ と書く。商 $\mathcal O_{X/S}/\mathcal J$ は $(U\hookrightarrow T,\gamma)\mapsto\Gamma(U,\mathcal O_U)$ である($U\hookrightarrow T$ は閉はめ込みで、$\Gamma(T,\mathcal O_T)\to\Gamma(U,\mathcal O_U)$ の全射性は層としてのもの)。$\mathcal J$ の各切断は局所的に冪零である($\mathcal I_T$ が局所的に冪零だから。$T$ が準コンパクトなら冪零)。$(X/S)_{\mathrm{cris}}$ を $\mathcal O_{X/S}$ で環付きトポスとみなし、アーベル層 $F$ のコホモロジー $H^i((X/S)_{\mathrm{cris}},F)$ を大域切断関手の導来関手とする。$H^i_{\mathrm{cris}}(X/S):=H^i((X/S)_{\mathrm{cris}},\mathcal O_{X/S})$ を $X/S$ の結晶コホモロジーという(結晶コホモロジー)。
被覆族が $T$ の Zariski 開被覆だけなので、4-1 の命題(無限小景の上の層の記述)と同じ証明で、$\operatorname{Cris}(X/S)$ 上の層 $F$ は、各対象 $(U\hookrightarrow T,\gamma)$ の上の Zariski 層 $F_{(U,T,\gamma)}$ と、各射 $j$ に対する遷移射 $j^{-1}F_{(U',T',\gamma')}\to F_{(U,T,\gamma)}$ の両立する系と同じものである。$\mathcal O_{X/S}$ は $(\mathcal O_T)$ の系、$\mathcal J$ は $(\mathcal I_T)$ の系である。本頁ではこの記述を、終対象の部分層が Zariski 局所的な条件で定まること(crucial test の証明)にだけ使う。
無限小景の充満部分圏として stratifying 景を定義したのと同じ手続きで、結晶景の充満部分圏として接続景を定義する。
$\operatorname{Cris}(X/S)$ の対象 $(U\hookrightarrow T,\gamma)$ が局所的にレトラクションをもつとは、$T$ の開被覆 $(T_a)_a$ と $S$ 射 $g_a\colon T_a\to X$ で $g_a|_{U\cap T_a}$ が包含 $U\cap T_a\subset X$ に一致するものが存在することをいう(4-1 と同じ条件。$g_a$ に divided power との関係は課さない)。局所的にレトラクションをもつ対象からなる $\operatorname{Cris}(X/S)$ の充満部分圏に誘導された位相を入れた景を $X$ の $S$ に関する接続景(connecting site)といい $\operatorname{Conn}(X/S)$ と書く。その上の層の圏を $(X/S)_{\mathrm{conn}}$ と書き、構造層とイデアル層は制限で定める。
原論文(小節 7.2、印字 p. 352)は「$U\subset X$ を $S$ 射 $T\to X$ に延ばせる対象」と述べ、「延ばせる」に当たる句を引用符で囲んで、$\operatorname{Inf}$ と $\operatorname{Strat}$ の関係と完全に類比すると断る。$\operatorname{Strat}(X/S)$ の定義(4-1)は延長の局所的な存在を課すので、本書はこの引用符を「局所的に」の意に読み、上の定義を採る。大域的な延長を課す読みでは、形式的滑らかさは局所的な延長しか与えず、延長は重なりの上で貼り合うとは限らないので、主結果 3 は形式的滑らかさだけからは従わない。
次の事実は証明せずに引用する。出典は本書の第 0 章・第 4 章・第 5 章と SGA4、EGA3、EGA4 で、SGA 4 と EGA の該当箇所の番号は本頁では確認していない。
原論文の順序どおり、結晶景を定義する動機となった失敗から始める。
外す条件は「$S$ が標数 $0$」である。破れる含意は、基本定理の同型 $H^*((X_0/S)_{\inf},\mathcal O)\cong H^*_{dR}$ と、$p$ 進コホモロジーへの要請のうち固有で滑らかな $X_0$ について次数 $2\dim X_0$ まで消えないこと(本書『1-2 ℓ 進コホモロジーの批判と p 進コホモロジーの要請』の要請 (P3)・(P5)。$b_{2\dim X_0}=1$)である。
原論文の主張は次のとおりである。$X_0$ を $k$ 上のスキーム、$S=\operatorname{Spec}W(k)$ とし、$X_0$ を $S$ 上のスキームと見る。$H^*((X_0/S)_{\inf},\mathcal O_{X_0/S})$ は $W(k)$ 加群の次数付き列で、少なくとも $X_0$ が固有なら良い $p$ 進コホモロジーになることが望まれるが、そうはならない。$X_0/k$ が形式群がトーラスであるアーベルスキームなら、$H^i((X_0/S)_{\inf},\mathcal O_{X_0/S})=0$($i>\dim X_0$)である。
本書の判定は未完結で、次の筋道までを書く。各 $n$ について $X_0$ の $S_n$ 上への持上げ $X_n$ で、アーベルスキームで形式群がトーラスであり $X_n=X_{n+1}\times_{S_{n+1}}S_n$ なるものが存在すると仮定する(原論文はこの仮定を書かない。ordinary なアーベル多様体の標準持上げがこれを与えることは後代の結果で、本書は確かめていない)。(i) 引用する事実 8 の例(5-3)を $A=W_n$ に適用し、$X_n/S_n$ は滑らかなので $\operatorname{Strat}=\operatorname{Inf}$ を使うと $H^i((X_n/S_n)_{\inf},\mathcal O)\cong H^i(X_n,\mathcal O_{X_n})$ で、$i>\dim X_0$ で $0$。(ii) 冪零はめ込み $X_0\hookrightarrow X_n$($S_n$ 上)に沿った不変性(引用する事実 8、5-2)で $H^i((X_0/S_n)_{\inf},\mathcal O)\cong H^i((X_n/S_n)_{\inf},\mathcal O)$。(iii) 極限移行。下の定理(crucial test の導出)の証明の段 1〜3 を、結晶景を無限小景に替えてそのまま行うと(divided power は段 1〜3 で使わない)、$0\to\varprojlim^1_nH^{i-1}((X_0/S_n)_{\inf},\mathcal O)\to H^i((X_0/S)_{\inf},\mathcal O)\to\varprojlim_nH^i((X_0/S_n)_{\inf},\mathcal O)\to0$ が完全で、$H^{i-1}((X_0/S_n)_{\inf},\mathcal O)\cong H^{i-1}(X_n,\mathcal O_{X_n})$ は有限長 $W_n$ 加群だから $\varprojlim^1=0$(引用する事実 5・6)。よって $H^i((X_0/S)_{\inf},\mathcal O)\cong\varprojlim_nH^i(X_n,\mathcal O_{X_n})=0$($i>\dim X_0$)。
閉じていないのは (i) の例そのもの(5-3 で形式トーラスのコホモロジーの消滅と最高次 de Rham の非消滅が閉じていない)と、持上げの列の存在である。原論文(読解ノートの U-6・U-8)は「形式的にトーラスであるアーベルスキーム」と書くだけで、極限移行の段も書かない。
$W(k)$ を底にとっても、無限小景は $\Omega^1$ 以上の情報を標数 $p$ で失う。原論文はこの失敗を、無限小景を捨てる理由ではなく、その定義に divided power を添える理由と読む。結晶景がどれだけ無限小景と違うかを、標数 $0$ と滑らかな場合について確かめる。
$S$ を $\mathbb Q$ 上のスキームとする。divided power を忘れる関手 $\operatorname{Cris}(X/S)\to\operatorname{Inf}(X/S)$、$(U\hookrightarrow T,\gamma)\mapsto(U\hookrightarrow T)$ は対象と射の全単射で被覆族を保ち、二つの景は同型である。とくに $(X/S)_{\mathrm{cris}}=(X/S)_{\inf}$、$H^*_{\mathrm{cris}}(X/S)=H^*((X/S)_{\inf},\mathcal O_{X/S})$ である。
要点のみ述べる。証明は本書『5-1 基本定理の言明と Čech 型スペクトル系列』の命題(標数 0 では結晶景は無限小景に一致する)にある。$\operatorname{Inf}(X/S)$ の対象のイデアル層 $\mathcal I_T$ は $\mathbb Q$ 代数の局所的に冪零なイデアルなので、その上の divided power 構造は $\gamma_n(x)=x^n/n!$ に限り、それは PD 冪零である(引用する事実 2)。$\operatorname{Inf}(X/S)$ の射はこの構造と自動的に両立する。よって忘却関手は対象と射の全単射で、被覆族は定義により同じである。
標数 $0$ では結晶景は何も新しいものを生まず、第 4・5 章の理論がそのまま結晶景の理論である。滑らかな場合には、接続景もまた新しいものを生まない。
$X$ が $S$ 上滑らかなら、$\operatorname{Cris}(X/S)$ のすべての対象 $(U\hookrightarrow T,\gamma)$ は局所的にレトラクションをもつ。したがって $\operatorname{Conn}(X/S)=\operatorname{Cris}(X/S)$ であり、$(X/S)_{\mathrm{conn}}=(X/S)_{\mathrm{cris}}$ である。
段 1(形式的滑らかさへの帰着).$U$ は $X$ の開集合なので $S$ 上滑らか、とくに形式的滑らかである(引用する事実 3)。求めるのは $S$ 射 $g\colon T'\to X$($T'$ は $T$ を覆う開集合)で $g|_{U\cap T'}$ が包含になるものであり、divided power $\gamma$ は条件に現れない。
段 2(段階的な延長).$T$ の affine 開集合 $T'$ で $\mathcal I_T^{N+1}|_{T'}=0$ なるものをとり、$T_m:=V(\mathcal I_T^{m+1})\cap T'$($0\le m\le N$)とおく。$T_0=U\cap T'$、$T_N=T'$ で、各 $T_m\hookrightarrow T_{m+1}$ は affine スキームの平方零はめ込みである。包含 $g_0\colon T_0\to X$ から始め、形式的滑らかさにより $g_m\colon T_m\to X$ を $g_{m+1}\colon T_{m+1}\to X$ に延ばす。$N$ 段で $g:=g_N\colon T'\to X$ を得る。これは 4-1 の命題(滑らかなら stratifying 景は無限小景に一致する)の証明と同じである。affine 開集合 $T'$ は $T$ を覆う。
接続景は、divided power を忘れれば stratifying 景の対象に落ちる対象からなる。原論文がこの景を定義したのは、$\operatorname{Strat}$ 上の special 加群と stratification の対応(4-1)に当たるものを結晶景の側にも用意するためで、本書の範囲では接続景上の主張は立てない。ここまでで定義が揃ったので、原論文の見込みに移る。
原論文は、第 4・5 章の無限小景の理論のうち二つの主張が、標数 $0$ の仮定なしに結晶景で成り立つと見込む。証明はなく、状態は見込みである。
原論文(小節 7.2、印字 p. 352)は、$\operatorname{Inf}$・$\operatorname{Strat}$ について展開した理論が、$S$ が標数 $0$ という仮定なしに $\operatorname{Cris}$・$\operatorname{Conn}$ について成り立つ「らしい」と述べ、証明すべき点として次の二つを挙げる。
a) $X/S$、$X_0/S$ と $S$ 上の冪零はめ込み $X_0\hookrightarrow X$ が与えられれば、標準同型 $H^*_{\mathrm{cris}}(X/S)\cong H^*_{\mathrm{cris}}(X_0/S)$ がある(小節 5.3 の不変性の結晶版)。
b) $X$ が $S$ 上滑らかなら、標準同型 $H^*_{\mathrm{cris}}(X/S)\cong H^*_{dR}(X/S)$ がある(Theorem 4.1 の結晶版)。
原論文の確信度は見込み(「It seems likely」)であり、本書はどちらも証明しない。
a) は無限小景での不変性(5-2)の、b) は基本定理(5-3)の、それぞれ標数を問わない版である。ただし a) については、原論文自身が後から但し書きを付けている。
原論文の印字 p. 352 の脚注は、a) は述べたままでは正しくなく、少し洗練された形で正しいこと、講義ノートの執筆後に P. Berthelot が b) と a) の正しい版を証明したことを告げる。脚注の参照記号は本文にないが、内容から a) を指すと読む(読解ノート B の U-3)。正しい形は紙面にない。したがって a) の状態は、印字のままでは正しくないと原論文自身が告げる見込みであり、本書は反例も正しい形も書けないので「偽」の札を付けず、見込みのまま記録する。後代の形は「その後の発展」に置く。原論文はさらに、a) が成り立てば、小節 5.3 と同じ類比で de Rham コホモロジー上の標準接続(本書『5-2 冪零はめ込みでの不変性と微分作用素』)の内在的な解釈も得られるだろうと述べる(印字 p. 353)。これも見込みである。
見込み a)・b) が成り立てば何が得られるかを、原論文は $p$ 進コホモロジーの定義として言い切る。
$k$ を標数 $p>0$ の完全体、$S=\operatorname{Spec}W(k)$ とする。$k$ 上のスキーム $X_0$ を $S$ 上のスキームと見て、$W(k)$ 加群
$$H^i_{\mathrm{cris}}(X_0/S)=H^i((X_0/S)_{\mathrm{cris}},\mathcal O_{X_0/S})$$
を $X_0$ の $p$ 進コホモロジーの候補とする(原論文 小節 7.2、印字 pp. 352–353。原論文は a)・b) が確立すれば少なくとも固有な $X_0$ について良い定義になると述べる)。原論文の脚注は、$S=\operatorname{Spec}\mathbb Z$ にとっても本質的に同じ結晶景が得られ、Witt ベクトル環に言及せずに定義できると述べる。この主張の根拠は紙面になく、本書は確かめていない。
この定義が正しい $p$ 進コホモロジーであるための試金石が、滑らかな持上げをもつ場合の de Rham コホモロジーとの一致である。原論文はこれを a)・b) から四段で導く。
$k$ を標数 $p>0$ の完全体、$W=W(k)$、$S=\operatorname{Spec}W$、$S_n=\operatorname{Spec}W_n$($W_n=W/p^{n+1}W$)、$X_0/k$ を固有で滑らか、$X/S$ を固有で滑らかな持上げ($X\times_Sk=X_0$)、$X_n=X\times_SS_n$ とする。次の a)・b) を仮定する。
a) 各 $n$ について、$S_n$ 上の冪零はめ込み $X_0\hookrightarrow X_n$ に沿った標準同型 $H^*_{\mathrm{cris}}(X_n/S_n)\cong H^*_{\mathrm{cris}}(X_0/S_n)$ があり、$n$ について両立する。
b) 各 $n$ について標準同型 $H^*_{\mathrm{cris}}(X_n/S_n)\cong H^*_{dR}(X_n/S_n)$ があり、$n$ について両立する。
このとき標準同型 $H^*_{\mathrm{cris}}(X_0/S)\cong H^*_{dR}(X/S)$ がある。
段 1($S_n$ 上の結晶景を終対象の部分層で切り出す).$\operatorname{Cris}(X_0/S)$ の対象 $(U\hookrightarrow T,\gamma)$ について、$U$ は $k$ 上にあるので $p$ の像は $\Gamma(T,\mathcal I_T)$ に入り局所的に冪零である。$T$ が $S_n$ 上のスキームであることは $\Gamma(T,\mathcal O_T)$ で $p^{n+1}=0$ となることと同値であり、結晶景の定義は $\gamma$ と底の両立を課さないので、$\operatorname{Cris}(X_0/S_n)$ は $\operatorname{Cris}(X_0/S)$ の充満部分圏で、$T$ 上で $p^{n+1}=0$ となる対象の全体である。条件は射に沿って遺伝する($T'\to T$ があれば $T'$ でも $p^{n+1}=0$)。トポス $(X_0/S)_{\mathrm{cris}}$ の終対象 $e$ の部分層 $e_n$ を、$e_n(U,T,\gamma)$ が $T$ 上 $p^{n+1}=0$ なら一点集合、そうでなければ空集合、と定める。条件は $T$ について Zariski 局所的なので $e_n$ は層である(注意(結晶景上の層の記述))。$e_n\subset e_{n+1}$ であり、各対象は affine 開集合の上ではある $e_n$ に入る(affine 上で $p$ は冪零)ので $\varinjlim_ne_n\to e$ は局所全射、部分層の和として単射、よって $e=\varinjlim_ne_n$ である。引用する事実 4 により $\operatorname{Ext}^q(\mathbb Z[e_n],\mathcal O_{X_0/S})=H^q_{\mathrm{cris}}(X_0/S_n)$ である。
段 2(Milnor 完全列).引用する事実 5 を $Y_n=e_n$、$Y=e$ に適用して、完全列
$$0\to\varprojlim{}^1_nH^{q-1}_{\mathrm{cris}}(X_0/S_n)\to H^q_{\mathrm{cris}}(X_0/S)\to\varprojlim_nH^q_{\mathrm{cris}}(X_0/S_n)\to0$$
を得る。遷移写像は $\operatorname{Cris}(X_0/S_n)\subset\operatorname{Cris}(X_0/S_{n+1})$ の制限である。
段 3($\varprojlim^1$ の消滅).a)・b) により $H^{q-1}_{\mathrm{cris}}(X_0/S_n)\cong H^{q-1}_{dR}(X_n/S_n)$ で、$X_n/S_n$ は固有で滑らか、$W_n$ は artin 局所環だから、これは有限長 $W_n$ 加群である(引用する事実 6)。有限長加群の射影系は Mittag-Leffler 条件を満たすので $\varprojlim^1=0$(引用する事実 5)。よって $H^q_{\mathrm{cris}}(X_0/S)\cong\varprojlim_nH^q_{\mathrm{cris}}(X_0/S_n)$。
段 4(a)・b) による置き換え).$n$ についての両立性により $\varprojlim_nH^q_{\mathrm{cris}}(X_0/S_n)\cong\varprojlim_nH^q_{\mathrm{cris}}(X_n/S_n)\cong\varprojlim_nH^q_{dR}(X_n/S_n)$。右辺の遷移写像は底変換 $X_n\to X_{n+1}$ による制限である。
段 5(de Rham コホモロジーの極限移行).$X/S$ は固有だから分離的で、有限 affine 開被覆 $\mathfrak U$ をもつ。$C:=\operatorname{Tot}C^\bullet(\mathfrak U,\Omega^\bullet_{X/S})$ とおく。これは有界な $W$ 加群の複体で、各項 $\Gamma(U_{\lambda_0\cdots\lambda_a},\Omega^b_{X/S})$ は $W$ 上平坦($X/S$ が滑らかなので $\Omega^b$ は局所自由、$\mathcal O_X$ は $W$ 上平坦)であり、$H^q(C)=H^q_{dR}(X/S)$ は有限生成 $W$ 加群である(引用する事実 6・7)。$\Omega^\bullet_{X_n/S_n}=\Omega^\bullet_{X/S}\otimes_WW_n$ と affine 上の準連接層の大域切断がテンソル積と可換なことから $C\otimes_WW_n=\operatorname{Tot}C^\bullet(\mathfrak U\times_SS_n,\Omega^\bullet_{X_n/S_n})$、$H^q(C\otimes_WW_n)=H^q_{dR}(X_n/S_n)$ である。$C$ が平坦なので $0\to C\xrightarrow{p^{n+1}}C\to C\otimes_WW_n\to0$ は完全で、長完全列から短完全列
$$0\to H^q(C)/p^{n+1}H^q(C)\to H^q_{dR}(X_n/S_n)\to H^{q+1}(C)[p^{n+1}]\to0$$
(右は $p^{n+1}$ で消える部分)を得る。$n$ を動かす。左の系は遷移写像が全射なので Mittag-Leffler で、$\varprojlim_n H^q(C)/p^{n+1}$ は $H^q(C)$ の $p$ 進完備化、すなわち $H^q(C)$ 自身である(有限生成、引用する事実 9)。右の系の遷移写像 $H^{q+1}(C)[p^{n+2}]\to H^{q+1}(C)[p^{n+1}]$ は $p$ 倍である(二つの短完全列の間の射が $C\xrightarrow{p}C$、恒等射、還元で与えられるため)。$H^{q+1}(C)$ の捩れ部分は有限生成だからある $p^N$ で消え、$N$ 回の遷移写像の合成は $0$ になる。よって右の系は Mittag-Leffler で $\varprojlim=0$、$\varprojlim^1=0$。$\varprojlim$ の六項完全列(引用する事実 5)により $\varprojlim_nH^q_{dR}(X_n/S_n)\cong H^q(C)=H^q_{dR}(X/S)$ で、同型は還元写像から標準的に定まる。段 3・4 と合わせて定理を得る。
証明で divided power を使ったのは、$S_n$ 上の結晶景が $S$ 上の結晶景の充満部分圏になる段 1 の、$\gamma$ に底との両立を課さないという一点だけである。残りは極限移行の一般論と固有性による有限性で、原論文が省いた段はそこにある。
原論文(印字 p. 353)は左辺を $H^*((X/S)_{\mathrm{cris}},\mathcal O_X)$ と、添字 $0$ を落として印字するが、定義の式と段 (2) の向きから $X_0$ の意である(読解ノート B の T-15)。四段のうち (1)(段 1〜3)は根拠なしに述べられ、$\varprojlim^1$ は論じられない。(4) は形式関数の定理(EGA3 III 4)を引くが、それは連接層のコホモロジーについての定理で、de Rham 複体の超コホモロジーに適用するには段 5 の議論が要る。本書は EGA III 4 を使わずに閉じた。後注(注意(後注と見込み a) の読み方))を反映すると、前件 a) は Berthelot の修正版に置き換えて読まなければならず、本定理の内容は「a)・b) が成り立てば」という含意にとどまる。
crucial test は、結晶コホモロジーが持上げによらず定義されていながら持上げの de Rham コホモロジーを再現する、という二面性の検査である。原論文はこれが通れば $p$ 進コホモロジーの要請がすべて満たされると見込む。
原論文(小節 7.3、印字 p. 354)は、a)・b) が確かめられれば、$W$ へ持ち上がる $k$ 上固有で滑らかな $X_0$ について、$p$ 進コホモロジーの要請(本書『1-2 ℓ 進コホモロジーの批判と p 進コホモロジーの要請』の定義(p 進コホモロジーへの要請))がすべて「容易に従う」と述べ、$\ell$ 進コホモロジーで証明された形式的性質を手本に任意の $X/S$ の結晶コホモロジーを体系的に展開する必要が生じること、持ち上がらない場合や滑らかでない場合にも正しい Betti 数を与える良い不変量になると期待できることを添える。いずれも見込みで、本書は証明しない。本書の読みでは、定義から直ちに出るのは (P1)(係数環 $W(k)$)だけである。(P3) の有限生成性は crucial test と引用する事実 6 から出る。Poincaré 双対・Künneth・底変換と (P5)($\otimes K$ の後の次元が $\ell$ 進 Betti 数に等しいこと)は、持上げ $X$ の de Rham コホモロジーの性質と、$K\hookrightarrow\mathbb C$ を経た比較定理(本書『1-1 代数的 de Rham コホモロジーの長所と限界』)および $\ell$ 進コホモロジーの底変換に帰着するはずだが、原論文はその段を書かず、本書も補わない。(P2)(関手性)は結晶景の定義が持上げによらないことから期待されるが、$X_0$ の射がトポスの射を誘導することの構成は原論文にない。
結晶景の対象がどのようなものか、無限小景の対象と何が違うかを、最も簡単な厚みで確かめる。計算は 0-4 の divided power の例に依る。
$X_0=\operatorname{Spec}k$、$S=\operatorname{Spec}W$ とし、$T=S_n=\operatorname{Spec}W_n$、$U=X_0\hookrightarrow T$ を標準の閉はめ込みとする。イデアルは $J=pW_n$ である。(a) $p\ge3$ のとき、$pW$ 上の標準的な divided power $\gamma_m(px)=p^mx^m/m!$ は $W_n$ に降り、PD 冪零である(0-4 の例:$v(\gamma_m(px))\ge m/2$ なので $\sum m_i\ge2(n+1)$ の積は $p^{n+1}$ で割れる)。よって $(X_0\hookrightarrow S_n,\gamma)$ は $\operatorname{Cris}(X_0/S)$ の対象で、$S_n$ 上で $p^{n+1}=0$ だから $\operatorname{Cris}(X_0/S_n)$ の対象でもある。(b) $p=2$、$n=1$ のとき、$(2)\subset\mathbb Z/4$ 上の標準的な divided power は $\gamma_{2^i}(2)=2\ne0$ がすべての $i$ で成り立ち PD 冪零でない(0-4 の反例)。したがって $(\operatorname{Spec}\mathbb F_2\hookrightarrow\operatorname{Spec}\mathbb Z/4,\gamma^{\mathrm{can}})$ は原論文の結晶景の対象ではない。(c) 一方、平方零イデアル $J$($J^2=0$)には $\gamma_1(x)=x$、$\gamma_m(x)=0$($m\ge2$)で定まる divided power 構造がある。公理のうち確かめるべきは $\gamma_2(x+y)=\gamma_2(x)+xy+\gamma_2(y)$(両辺 $0$、$xy\in J^2=0$)と $\gamma_1(x)^2=2\gamma_2(x)$(両辺 $0$、$x^2\in J^2=0$)で、残りは両辺が $0$ である。これは $J^{[2]}=0$ で PD 冪零である。$J=(2)\subset\mathbb Z/4$ に適用すると、$(\operatorname{Spec}\mathbb F_2\hookrightarrow\operatorname{Spec}\mathbb Z/4,\gamma^{0})$ は原論文の結晶景の対象になる。しかし $\gamma^0_2(2)=0\ne2=\gamma^{\mathrm{can}}_2(2)$ なので、$\gamma^0$ は $W(\mathbb F_2)=\mathbb Z_2$ の $(2)$ 上の標準的な divided power と両立しない。原論文の定義は底 $S$ の divided power を見ないので、この不両立を排除しない。この点が後代に修正される(「その後の発展」)。
上の例は、無限小景の対象が結晶景の対象に「なる」場合を見た。次は「ならない」場合で、これが標数 $p$ で二つの景が分かれる理由である。
外す条件は「$S$ が標数 $0$」である。破れる含意は、命題(標数 0 では結晶景は無限小景に一致する)の同型、したがって結晶コホモロジーと無限小コホモロジーの一致である。$k$ を標数 $p$ の体、$X_0=\operatorname{Spec}k$、$S=\operatorname{Spec}W(k)$、$T=\operatorname{Spec}k[t]/(t^{p+1})$、$U=X_0\hookrightarrow T$ を $t\mapsto0$ とする。イデアル $J=(t)$ は冪零なので $(U\hookrightarrow T)$ は $\operatorname{Inf}(X_0/S)$ の対象である。しかし $J$ は divided power 構造をもたない。もてば $t^p=p!\,\gamma_p(t)=0$ でなければならないが、$t^p\ne0$ だからである。よって忘却関手 $\operatorname{Cris}(X_0/S)\to\operatorname{Inf}(X_0/S)$ は本質的全射でない。逆に、0-4 の例 (e) の環 $\mathbb F_p[t,s]/(t^p,ts,s^2)$(に $k$ をテンソルした環)のイデアル $(t,s)$ は二つの異なる PD 冪零な divided power 構造をもち、同じ厚み $\operatorname{Spec}k\hookrightarrow\operatorname{Spec}k[t,s]/(t^p,ts,s^2)$ が結晶景の二つの対象になる。無限小コホモロジーが $W(k)$ 上で失敗する反例(上の反例)は結晶コホモロジーについては何も言わず、この違いが結晶景に望みを残す。
最後に、見込み a)・b) が標数 $0$ ではすでに第 5 章の定理であることを確かめておく。見込みの実質が標数 $p$ の側だけにあることが分かる。
$S$ を $\mathbb Q$ 上のスキームとする。命題(標数 0 では結晶景は無限小景に一致する)により $\operatorname{Cris}=\operatorname{Inf}$ なので、a) は冪零はめ込みに沿った無限小コホモロジーの不変性(引用する事実 8、原論文 小節 5.3)そのもの、b) は Theorem 4.1(引用する事実 8)そのものである。したがって二つの見込みは標数 $0$ では定理であり(本書の基準では 5-2・5-3 の結果を引く条件付き)、$S$ が等標数 $0$ の完備離散付値環 $R$(剰余体 $\kappa$ も標数 $0$。例えば $R=\mathbb C[\![t]\!]$)のスペクトル、$X_0$ が $\kappa$ 上のスキーム、$X/R$ が固有で滑らかな持上げなら、素元 $\pi$ を $p$ の代わりにとって crucial test の証明がそのまま通り(各 $R/\pi^{n+1}$ が $\mathbb Q$ 代数なので b) が使える)、$H^*((X_0/S)_{\inf},\mathcal O_{X_0/S})\cong H^*_{dR}(X/R)$ が成り立つ。剰余体の標数が $p$ の $W(k)$ では $W_n$ が $\mathbb Q$ 代数でなく b) が使えないので、この議論は通らない(上の反例)。見込みの内容は、標数 $p$ の底で divided power を添えることが Theorem 4.1 と不変性の両方を回復させるか、という一点にある。
以下は後代の結果の紹介である(時点を明記する)。本書は文献の該当箇所を確かめていない。概説は Illusie Ill94 と Stacks の結晶コホモロジーの章(タグ 07GI)を見よ。
本頁が対応する原論文は Crystals and the De Rham cohomology of schemes Gro68c である。
| 本頁 | 原論文 | 印字頁 |
|---|---|---|
| 反例(Witt ベクトル環の上の無限小コホモロジーは p 進コホモロジーにならない) | 小節 7.1 | 351 |
| 定義(PD イデアルと PD 冪零)、定義(結晶景)、定義(結晶トポス・構造層・イデアル層) | 小節 7.2 とその脚注 | 351–352 |
| 命題(標数 0 では結晶景は無限小景に一致する) | 小節 7.2(小節 4.3 末にも) | 352(334) |
| 定義(接続景)、注意(接続景の定義の読み)、命題(滑らかなら結晶景は接続景に一致する) | 小節 7.2 | 352 |
| 予想(結晶景上の二つの見込み)、注意(後注と見込み a) の読み方) | 小節 7.2 の a)・b) とその後注 | 352–353 |
| 定義(p 進コホモロジーの定義案) | 小節 7.2 とその脚注 | 352–353 |
| 定理(crucial test の導出)、注意(crucial test の読み方) | 小節 7.2 の crucial test と四段の導出 | 353 |
| 注意(p 進コホモロジーの要請との対応) | 小節 7.3 | 354 |
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