標数 $p$ の完全体 $k$ 上の滑らかな affine 代数 $A_0$ を、Witt ベクトル環 $W=W(k)$ 上の弱完備な代数(Monsky–Washnitzer 代数)$A^\dagger$ に持ち上げ、その de Rham 複体のコホモロジーを $A_0$ の $p$ 進コホモロジーの候補とする。本頁では、M–W 代数とその微分加群を多変数・商環まで定め、持上げの存在・一意性・関手性(Monsky–Washnitzer の定理)の言明と証明の筋を書き、コホモロジー関手と、affine でない $X_0$ のための持上げの景 $X_{0,WM}$ と $H^n_{WM}(X_0)$ を定義する。最後に、原論文 2.3 の評価(捩れを法とした不変性、有限性の未解決、Lefschetz 不動点公式とゼータ関数の有理性)を整理する。
前提知識: Wittベクトル, 形式スキーム, 弱完備化, de Rhamコホモロジー, 超コホモロジー, Grothendieck位相, 滑らかな射
$k$ を標数 $p>0$ の完全体、$W=W(k)$、$K=W[1/p]$ とする。$v$ は $v(p)=1$ と正規化した $W$ の付値である。$W\{t_1,\dots,t_n\}$ は制限冪級数環、$W\{t_1,\dots,t_n\}^\dagger$ はその中の過収束級数のなす部分環(弱完備化)で、どちらも本書『0-4 形式スキーム・持上げ・divided power』で定義した。M–W 代数とは $W\{t_1,\dots,t_n\}^\dagger$ の商環、$k$ 上有限型で滑らかな代数 $A_0$ の M–W 持上げとは $W$ 上平坦な M–W 代数 $A^\dagger$ と $k$ 同型 $A^\dagger/pA^\dagger\cong A_0$ の組をいう。
本頁の主結果は次の三つである。
本書『2-1 持上げの de Rham コホモロジーの不変性』で見たように、標数 $p$ のスキーム $X_0$ を $W$ 上の固有滑らかなスキーム $X$ に持ち上げて $H^*_{dR}(X/W)$ を取る方法には二つの困難がある。持上げは一般に存在せず、存在しても持上げに依らないことが分からない。滑らかで affine な $X_0$ については形式的持上げ $\operatorname{Spf}\mathfrak A$ が常に存在するが、$\mathbb A^1_k$ の形式的持上げ $W\{t\}$ では $H^1$ が $K$ をテンソルしても無限次元になり、過収束級数の環 $W\{t\}^\dagger$ に取り替えると $H^1\otimes K=0$ になる。
Monsky と Washnitzer(1966 年の謄写版、公刊は 1968 年 MW68)は、この観察を体系にした。過収束級数環の商(弱完備有限生成代数、講義の言葉で M–W 代数)を持上げの受け皿とし、滑らかな affine 代数の持上げが存在して同型を除いて一意であること、持上げの間の準同型がコホモロジーに誘導する写像が還元だけで決まることを示して、affine で滑らかな $X_0$ に $W$ 加群 $H^*(\Omega^\bullet_{A^\dagger/W})$ を対応させた。affine でない $X_0$ には、affine 開集合とその持上げの組を対象とする景を作り、その上の超コホモロジーを取る。原論文 2.2 はこの構成を報告し、M–W 代数が Tate の rigid 解析空間の構成要素 Tat71 に似ていることに触れる。
原論文 2.3 の評価は簡潔である。公刊の範囲では不変性は捩れを法として($K$ をテンソルした後で)しか証明されておらず、方法が微分形式に結びつきすぎて滑らかなスキームに限られ、$X_0$ が射影的でも $W$ 上有限階数であることが証明できていない。それでも Lefschetz 不動点公式の一形が得られ、有限体上の滑らかなスキームのゼータ関数の有理性が導かれる。この評価が、持上げを対象の側に置きながら微分形式に依らない景(本書『6-1 結晶景と接続景』)へ講義を向かわせる。
過収束級数環と弱完備化の定義は本書『0-4 形式スキーム・持上げ・divided power』にある。本頁で使う形を短く繰り返す。
$W$ 係数の形式冪級数 $f=\sum_{\alpha\in\mathbb N^n}a_\alpha t^\alpha$ が過収束であるとは、実数 $\rho>0$ と整数 $N$ があって $|\alpha|\ge N$ のとき $v(a_\alpha)\ge\rho|\alpha|$ となることをいい、過収束級数全体のなす環を $W\{t_1,\dots,t_n\}^\dagger$ と書く(過収束級数、弱完備化)。$W[t]\subset W\{t\}^\dagger\subset W\{t\}$ であり、$W\{t\}^\dagger/pW\{t\}^\dagger=k[t]$ である。$W\{t_1,\dots,t_n\}^\dagger$ の商環を Monsky–Washnitzer 代数(M–W 代数)という。M–W 代数 $A$ に対し $A_0:=A/pA$ と書く。$k$ 上有限型で滑らかな代数 $A_0$ の M–W 持上げとは、$W$ 上平坦な M–W 代数 $A^\dagger$ と $k$ 代数の同型 $A^\dagger/pA^\dagger\cong A_0$ の組をいう。原論文は $W$ 上平坦な M–W 代数を引用符つきで「smooth」と呼ぶ。本頁では平坦で還元が滑らかなものを指してこの語を使う。
$W\{t\}^\dagger$ は $p$ 進完備ではない($\sum_mp^mt^{p^m}$ は $W\{t\}$ の元だが過収束でない。本書『0-4 形式スキーム・持上げ・divided power』の例)。完備化を弱めたことが、$\mathbb A^1_k$ で $H^1\otimes K$ を消す一方で、持上げの存在や準同型の持上げの証明では Newton 反復の極限が環の中に留まることを別に確かめる必要を生む。それが Monsky–Washnitzer の定理の技術的な核である。
微分形式の複体を作るには $\Omega^1_{A/W}$ が要る。M–W 代数は有限生成ではないので、通常の Kähler 微分加群は大きすぎる。原論文は分離的な加群への導分の普遍対象で定義する。
$A$ を M–W 代数とする。$A$ 加群 $M$ が分離的であるとは $\bigcap_{m\ge0}p^mM=0$($p$ 進位相で分離的)であることをいう。$\Omega^1_{A/W}$ を、分離的 $A$ 加群 $M$ への $W$ 導分 $D\colon A\to M$ の普遍対象とする。すなわち $\Omega^1_{A/W}$ は分離的 $A$ 加群で、$W$ 導分 $d\colon A\to\Omega^1_{A/W}$ をもち、任意の分離的 $M$ と $W$ 導分 $D$ に対し $D=\varphi\circ d$ なる $A$ 線型写像 $\varphi\colon\Omega^1_{A/W}\to M$ がただ一つある。$\Omega^p_{A/W}:=\bigwedge^p_A\Omega^1_{A/W}$ とし、$d$ を外微分に延長して de Rham 複体 $\Omega^\bullet_{A/W}$ を得る。
普遍対象は存在すれば同型を除いて一意である。存在は、通常の Kähler微分 加群 $\Omega^1_{\mathrm{alg}}$ の分離商 $\Omega^1_{\mathrm{alg}}/\bigcap_mp^m\Omega^1_{\mathrm{alg}}$ が条件を満たすことから従う(分離商は分離的で、分離的 $M$ への $A$ 線型写像は $\bigcap_mp^m\Omega^1_{\mathrm{alg}}$ を $\bigcap_mp^mM=0$ に送るので分離商を経由する)。原論文(印字 p. 320)は $\Omega^\bullet_{A/W}$ を「complex of M-W-algebras」と印字するが、各項は $A$ 加群であって M–W 代数ではない(読解ノートの E25)。また原論文は「separated」の位相を明示しない。M–W 代数の自然な位相は $p$ 進位相なので、本頁はその読みを採る。
この定義が具体的に何を与えるかは、主結果の最初の命題で確かめる。その前に、affine でない $X_0$ のための景を定義しておく。
$X_0$ が affine でないとき、大域的な M–W 持上げは意味をもたない(大域的な持上げは存在しないことがある。本書『0-4 形式スキーム・持上げ・divided power』の Serre の例)。Monsky–Washnitzer は affine 開集合ごとの持上げを対象とする景を作り、超コホモロジーで貼り合わせる。景の一般論は本書『0-5 景・トポス・微分作用素』にある。
$X_0$ を $k$ 上滑らかなスキームとする。圏 $X_{0,WM}$ の対象は組 $(U_0,A)$、ただし $U_0\subset X_0$ は affine な Zariski 開集合、$A$ は座標環 $\Gamma(U_0,\mathcal O_{X_0})$ の M–W 持上げである。射 $(U_0,A)\to(U_0',A')$ は、包含 $U_0\subset U_0'$ と、制限写像 $\Gamma(U_0',\mathcal O)\to\Gamma(U_0,\mathcal O)$ を持ち上げる $W$ 代数の準同型 $A'\to A$ の組である。被覆族は、$(U_{0,i},A_i)\to(U_0,A)$ の族で $\bigcup_iU_{0,i}=U_0$ なるものとし、これらが生成する Grothendieck位相 を入れて $X_{0,WM}$ を持上げの景という。対応 $(U_0,A)\mapsto\Omega^\bullet_{A/W}$ は(射には誘導準同型を対応させて)$X_{0,WM}$ 上の前層の複体 $\Omega^\bullet_{X_0}$ を定める。$X_0$ の Monsky–Washnitzer コホモロジーを、付随する層の複体の超コホモロジー
$$H^n_{WM}(X_0):=\mathbf H^n\bigl(X_{0,WM},\Omega^\bullet_{X_0}\bigr)$$
で定める(Monsky–Washnitzerコホモロジー)。これは $W$ 加群である。
原論文(印字 p. 320)は対象を「$U_0$ の座標環の M–W 持上げ」と述べるので、$U_0$ は affine と読んだ。射は「obvious fashion」、位相は「that of Zariski」とだけ書かれており、上の被覆族は本書の読みである。原論文は $\Omega^\bullet_{X_0}$ を「complex of sheaves」と呼ぶが、層の条件を満たすことの証明は紙面にない。持上げは同型を除いてしか一意でないので、被覆の交わりでの貼り合わせには次の小節の不変性 (c) が要ると読める。本頁は前層として定義し、超コホモロジーは付随する層の複体で取る。
原論文は添字を「WM」と「M-W」で揺らす(読解ノートの E26)。本書は記号表に従い $X_{0,WM}$、$H^n_{WM}$ と書く。$H^n_{WM}(X_0)$ は上の定義のとおり $W$ 加群で(原論文は $W$ 係数であることを本質的に重要と述べる。印字 p. 321)、affine の場合は $H^n(\Omega^\bullet_{A^\dagger/W})$ を指し(一致は下の注意(コホモロジー層と affine での一致)のとおり報告の段階)、$K$ をテンソルしたものは $H^n_{WM}(X_0)\otimes_WK$ と明示して書く。過収束級数環の記号は記号表と本書『0-4 形式スキーム・持上げ・divided power』に合わせて $W\{t\}^\dagger$ と書く(原論文の印字は $W^+\{t\}$ とも読める字形である)。
次の事実は証明せずに引用する。出典は本書の第 0 章の頁、本書『2-1 持上げの de Rham コホモロジーの不変性』、Monsky–Washnitzer の論文 MW68 で、最後のものは本書では開いていない。
$A:=W\{t_1,\dots,t_n\}^\dagger$ とする。
(i) $A$ は形式微分 $\partial_i=\partial/\partial t_i$ で閉じ、$\delta\colon A\to\bigoplus_{i=1}^nA\,dt_i$、$\delta(f)=\sum_i\partial_if\,dt_i$ は分離的 $A$ 加群への $W$ 導分である。$\delta$ は分離的 $A$ 加群への $W$ 導分の普遍対象であり、したがって $\Omega^1_{A/W}=\bigoplus_iA\,dt_i$(階数 $n$ の自由加群)、$d=\delta$、$\Omega^p_{A/W}=\bigoplus_{i_1<\dots< i_p}A\,dt_{i_1}\wedge\dots\wedge dt_{i_p}$ で、$\Omega^p_{A/W}=0$($p>n$)。
(ii) $I\subset A$ をイデアル、$B:=A/I$ とし、$Q$ を $\bigoplus_iB\,dt_i$ を $\sum_i\overline{\partial_ig}\,dt_i$($g\in I$。$I$ の生成系を動かせば十分)で割った $B$ 加群とすると、$\Omega^1_{B/W}$ は $Q$ の分離商 $Q/\bigcap_mp^mQ$ である。
段 1($\delta$ が分離的加群への導分であること).一変数の場合(本書『2-1 持上げの de Rham コホモロジーの不変性』の補題(過収束級数環の微分加群))と同じで、変わる点だけ書く。$f=\sum a_\alpha t^\alpha$ が $(\rho,N)$ で過収束なら、$\partial_if$ の $t^{\alpha-e_i}$ の係数 $\alpha_ia_\alpha$ は $v(\alpha_ia_\alpha)\ge v(a_\alpha)\ge\rho|\alpha|\ge\rho|\alpha-e_i|$ を満たすので $\partial_if\in A$。Leibniz 則は $W[\![t]\!]$ の形式微分から遺伝し、$A\subset W[\![t]\!]$ で $\bigcap_mp^mW[\![t]\!]=0$(係数ごとに見る)なので $\bigoplus_iA\,dt_i$ は分離的である。
段 2(普遍性).$M$ を分離的 $A$ 加群、$D\colon A\to M$ を $W$ 導分、$\varphi\colon\bigoplus_iA\,dt_i\to M$ を $dt_i\mapsto D(t_i)$ で定まる $A$ 線型写像とする。多項式 $g\in W[t]$ では Leibniz 則から $D(g)=\sum_i\partial_ig\,D(t_i)$。$f=\sum a_\alpha t^\alpha$ が $|\alpha|\ge N_0$ で $v(a_\alpha)\ge\rho|\alpha|$ を満たすとき、$N\ge N_0$ に対し $f=f_{< N}+p^{\lfloor\rho N\rfloor}h_N$、$f_{< N}:=\sum_{|\alpha|< N}a_\alpha t^\alpha\in W[t]$、$h_N:=\sum_{|\alpha|\ge N}\bigl(a_\alpha/p^{\lfloor\rho N\rfloor}\bigr)t^\alpha$ と分けると、$|\alpha|\ge N$ で $v(a_\alpha)\ge\rho N\ge\lfloor\rho N\rfloor$ なので係数は $W$ に入り、$|\alpha|\ge2N$ で $v(a_\alpha/p^{\lfloor\rho N\rfloor})\ge\rho|\alpha|-\rho N\ge(\rho/2)|\alpha|$ なので $h_N\in A$。$\partial_if=\partial_if_{< N}+p^{\lfloor\rho N\rfloor}\partial_ih_N$ とあわせて
$$D(f)-\varphi(\delta(f))=p^{\lfloor\rho N\rfloor}\Bigl(D(h_N)-\sum_i\partial_ih_N\,D(t_i)\Bigr)\in p^{\lfloor\rho N\rfloor}M.$$
$N\to\infty$ で $\lfloor\rho N\rfloor\to\infty$、$M$ は分離的なので $D(f)=\varphi(\delta(f))$。$\varphi$ は $dt_i\mapsto D(t_i)$ で決まるので一意である。よって $\delta$ が普遍対象で、(i) が従う(Kähler 微分加群の分離商との一致は定義の直後の注のとおり)。
段 3(商環).$M$ を分離的 $B$ 加群とすると、$M$ は $A$ 加群としても分離的で、$B$ の $W$ 導分 $B\to M$ は $I$ を零に送る $A$ の $W$ 導分 $D\colon A\to M$ と一対一に対応する($g=\sum h_jg_j$、$g_j$ が $I$ の生成系なら $D(g)=\sum h_jD(g_j)+\sum g_jD(h_j)$ で第二の和は $IM=0$ に入るので、生成系で消えれば $I$ で消える)。(i) により後者は $A$ 線型写像 $\varphi\colon\bigoplus_iA\,dt_i\to M$ で $\varphi(\sum_i\partial_ig\,dt_i)=0$($g\in I$)なるものと対応し、$IM=0$ なのでこれは $B$ 線型写像 $Q\to M$ と対応する。$M$ が分離的なので $Q\to M$ は分離商 $Q/\bigcap_mp^mQ$ を経由し、分離商は分離的である。よって分離商が普遍対象である。
上の命題の (ii) により、$B$ が有限型の代数 $W[t]/I'$ の弱完備化 $A/I'A$ なら、$\Omega^1_{B/W}$ は Kähler 微分加群 $\Omega^1_{(W[t]/I')/W}$ を $B$ に係数拡大した加群 $Q$ の分離商である($I'A$ の生成系として $I'$ の生成系が取れる)。また $\Omega^1_{B/W}\otimes_Wk=\Omega^1_{B_0/k}$ である($\bigcap_mp^mQ\subset pQ$ なので分離商は $k$ をテンソルした後に影響せず、$Q\otimes_Wk$ は Kähler 微分加群の底変換 $\Omega^1_{B_0/k}$ である)。
過収束級数環では微分加群が期待どおりの形をとることが分かった。次に持上げの存在に移る。受け皿を $p$ 進完備化 $W\{t\}$ に取った形式的な版(存在・一意性・関手性)は本書『2-1 持上げの de Rham コホモロジーの不変性』の命題(affine 滑らかなスキームの形式的持上げ)で閉じてあり(引用する事実 3)、その一意性の同型は各段の延長の選び方に依るので一意でない。ただし形式的持上げは $A_0=k[t]$ で $\mathfrak A=W\{t\}$ となり、$H^1\otimes K$ が無限次元になる(引用する事実 2)。Monsky–Washnitzer の定理は、受け皿を $W\{t\}^\dagger$ の商に取り替えて同じ三つの主張を得たうえで、コホモロジーに誘導する写像が持上げの選び方に依らないという第四の主張 (c) を加えるものである。
$k$ を標数 $p>0$ の完全体、$W=W(k)$ とする。
(a) $A_0$ が $k$ 上有限型で滑らかで、Monsky–Washnitzer の付加条件(原論文は「a further mild, and probably unnecessary condition」と述べ、内容を書かない)を満たすなら、$W$ 上平坦な M–W 代数 $A^\dagger$ と $k$ 同型 $A^\dagger\otimes_Wk\cong A_0$ が存在する。
(b) $A_0$ の二つの平坦な M–W 持上げは $A_0$ 上恒等な同型で結ばれる。より一般に、$A$、$B$ を $W$ 上の M–W 代数、$A$ を平坦で還元 $A_0$ が滑らかなものとすると、任意の $k$ 代数の準同型 $u_0\colon A_0\to B_0$ は $W$ 代数の準同型 $u\colon A\to B$ に持ち上がる。
(c) $u\colon A\to B$ を、平坦で還元が滑らかな M–W 代数の間の $W$ 代数の準同型とすると、誘導写像 $u^*\colon H^*(\Omega^\bullet_{A/W})\to H^*(\Omega^\bullet_{B/W})$ は還元 $u_0=u\bmod p\colon A_0\to B_0$ だけで決まる。
要点のみ述べる。証明は MW68 にあり、本書は開いていない。以下は本書が読み取った筋で、評価(Newton 反復の極限が弱完備な環に留まること、積分の分母の評価)は書かない。
段 1((a) の筋).$A_0=k[x_1,\dots,x_n]/(f_1,\dots,f_r)$ と表示し、$f_i$ の持上げ $F_i\in W[x]\subset W\{x\}^\dagger$ を取って $A^\dagger:=W\{x\}^\dagger/(F_1,\dots,F_r)$ とおく。$W\{x\}^\dagger/p=k[x]$ なので $A^\dagger/pA^\dagger=A_0$ は表示から直ちに従う。困難は $A^\dagger$ の平坦性で、$A_0$ が特殊な表示(Jacobi 行列 $(\partial f_i/\partial x_j)$ の階数が $r$ で、その $r$ 次小行列式の一つが $A_0$ で可逆になる完全交叉の表示)をもつとき、$F_1,\dots,F_r$ が $W\{x\}^\dagger$ の正則列になることを示す。滑らかな $A_0$ は Zariski 局所的にはこの表示をもつが、大域的な表示の存在が付加条件に当たると本書は読む(確かめていない)。
段 2((b) の筋、Newton 反復).$A=W\{x\}^\dagger/(F_1,\dots,F_r)$ を段 1 の表示とする。$u_0(\bar x_j)$ の持上げ $b^{(0)}_j\in B$ を任意に取ると $F_i(b^{(0)})\in pB$。$A_0$ の滑らかさから $\sum_j(\partial f_i/\partial x_j)g_{jk}=\delta_{ik}$ なる $g_{jk}\in A_0$ が取れ、その持上げ $G_{jk}$ を用いて $b^{(m+1)}:=b^{(m)}-G(b^{(m)})F(b^{(m)})$ と定めると、Taylor 展開の 2 次以上の項が $p^{2\cdot2^{m-1}}$ で割れることから $F(b^{(m+1)})\in p^{2^m}B$。列 $b^{(m)}$ は $B$ の $p$ 進完備化で収束する。極限が $B$ 自身に入ることが Monsky–Washnitzer の要点で、$B$ が弱完備(過収束級数の代入で閉じる)であることを用いる。$u(x_j):=b_j$ とおけば $F_i\mapsto0$ となり $u$ が定まる。一意性は、両方向の持上げの合成が恒等を持ち上げる自己準同型になることと、本書『2-1 持上げの de Rham コホモロジーの不変性』の補題(平方零拡大の上の恒等写像に合同な自己準同型)の過収束版($\psi\equiv\mathrm{id}\pmod p$ なる自己準同型が同型であること)による。$p$ 進完備でない $B$ では補題の全射性の段が閉じないので、ここでも弱完備性で補う。
段 3((c) の筋、Taylor 展開によるホモトピー).$u$、$u'$ を $u_0$ の二つの持上げ、$\delta_j:=u'(x_j)-u(x_j)\in pB$ とする。$F\in W\{x\}^\dagger$ について
$$u'(F)=\sum_{\alpha\in\mathbb N^n}\frac{1}{\alpha!}\,u\Bigl(\frac{\partial^{|\alpha|}F}{\partial x^\alpha}\Bigr)\delta^\alpha$$
で、引用する事実 2 により $v(\delta^\alpha/\alpha!)\ge|\alpha|-v(\alpha!)\ge|\alpha|\,\frac{p-2}{p-1}$ なので $p\ge3$ なら右辺は $p$ 進収束し、$p=2$ では $\delta_j\in4B$ に取り直す等の工夫が要る(Monsky–Washnitzer の扱いは確かめていない)。この展開を変数 $y$ で補間した $H\colon A\to B\{y\}^\dagger$($y=0$ で $u$、$y=1$ で $u'$)に対し、$\Omega^\bullet_{B\{y\}^\dagger/W}$ 上の「$y$ についての $0$ から $1$ までの積分」が鎖ホモトピー $u'^*-u^*=dh+hd$ を与える。積分で $1/(m+1)$ の分母が出るので過収束条件がここで効き、$W\{y\}$ では本書『2-1 持上げの de Rham コホモロジーの不変性』のとおり閉形式が完全にならない。$W$ 係数で閉じるか $K$ をテンソルした後でだけ閉じるかは、この分母の評価に依る。
(a) の付加条件の内容は原論文に書かれておらず、読解ノートも未解決(U3)としている。段 1 の読みは本書の推測である。後代には Elkik Elk73(1973 年)が条件なしの存在を示した(本書は確かめていない)。(c) が $W$ 係数で主張されているのか $K$ をテンソルした後なのかは原論文の 2.2 からは決まらない(U14)。2.3(印字 p. 321)は、公刊の証明が捩れを法として($\otimes K$ の後で)しか不変性を示していないと述べるので、1966 年の時点で確かめられていたのは $K$ をテンソルした後の (c) と読むのが安全である。
持上げの存在・一意性と (c) の不変性を認めれば、affine で滑らかな $X_0$ にコホモロジーを対応させる関手が得られる。それが原論文の関手 $(*)$ である。
$\mathcal C$ を、$k$ 上有限型で滑らかで上の定理(Monsky–Washnitzer の持上げ定理)の (a) の条件を満たす代数の圏とする。$A_0\in\mathcal C$ に対し M–W 持上げ $A^\dagger$ を一つ選び $H^*(A_0):=H^*(\Omega^\bullet_{A^\dagger/W})$ とおくと、これは持上げの選び方に標準同型を除いて依らず、$\mathcal C$ から $W$ 加群の圏への関手を定める。
段 1(持上げの独立性).$A^\dagger$、$A'^\dagger$ を $A_0$ の二つの持上げとする。(b) により $\mathrm{id}_{A_0}$ を持ち上げる $f\colon A^\dagger\to A'^\dagger$ と $g\colon A'^\dagger\to A^\dagger$ がある。$g\circ f$ と $f\circ g$ は恒等を持ち上げるので、(c) により $H^*$ 上で恒等写像に等しい。よって $f^*$ は同型で、(c) により $f$ の選び方に依らない。これが標準同型である。
段 2(関手性).$u_0\colon A_0\to B_0$ の持上げ $u\colon A^\dagger\to B^\dagger$ を (b) で取り、$u_0\mapsto u^*$ とおく。(c) により $u^*$ は $u$ の選び方に依らない。$v_0\circ u_0$ の持上げとして $v\circ u$ が取れるので合成は保たれ、恒等の持上げとして恒等が取れるので恒等は保たれる。
原論文はこの関手を「well defined "cohomology functor"」と呼び、affine でない $X_0$ には二段構えで対応する。まず Zariski 位相で局所化してコホモロジー層を作り、次に持上げの景を使う。どちらも報告の形で述べられ、証明はない。
原論文 2.2 e)・f)(印字 p. 320–321)の報告。(1) 上の定理(コホモロジー関手)の関手を Zariski 位相で局所化して、$k$ 上滑らかな各 $X_0$ にコホモロジー層 $\mathcal H^*_{WM}(X_0)$ を対応させる。その大域切断は次数 $0$ と $1$ では満足な大域不変量を与えるが、次数 $2$ 以上ではそうでない。それが持上げの景 $X_{0,WM}$ を要する理由である。(2) $X_0$ が affine なら $H^*_{WM}(X_0)$(定義(持上げの景と Monsky–Washnitzer コホモロジー))は上の定理(コホモロジー関手)の値に等しいことが示せる、と記録者は Washnitzer からの伝聞として書く。証明はない。$X_0$ が affine のとき対象 $(X_0,A^\dagger)$ には任意の対象から射が(持上げの一意性を除いて)存在するので、超コホモロジーが一つの対象での値に潰れることが期待されるが、本書はこれを証明していない。
原論文 2.2 g)(印字 p. 321)の期待(「we should have」)。$X_0$ が固有で、$S=\operatorname{Spec}W$ 上固有滑らかな持上げ $X\to S$ をもつなら、標準同型 $H^*_{WM}(X_0)\cong H^*_{dR}(X/S)$ があるはずで、それが成り立てば本書『2-1 持上げの de Rham コホモロジーの不変性』の着想、すなわち $H^*_{dR}(X/S)$ が持上げ $X$ の選び方に依らないことが確立する。原論文はこれを証明せず、本書『3-1 不変性からの帰結と超越的接続』ではこの不変性を精密な形(導来圏での標準同型)で仮定して議論を進める。
ここまでが原論文 2.2 の内容である。2.3 は、この方法の評価と、それでも得られた成果の報告である。主張はすべて報告と評価の形で、本書は証明しない。
原論文 2.3 a)(印字 p. 321)の報告。Monsky–Washnitzer の理論は $W$ 加群に値をもつ $p$ 進コホモロジー理論であるが、公刊された仕事では基本的な不変性(上の定理(Monsky–Washnitzer の持上げ定理)の (c))は捩れを法として、すなわち $K$ をテンソルした後でしか証明されていない。私信で Washnitzer はこの制限を除けたと示唆した(記録者は「as Grothendieck understood it」と留保する)。係数を $K$ でなく $W$ にもつことは、本書『1-2 ℓ 進コホモロジーの批判と p 進コホモロジーの要請』の要請($p$ 捩れを捉えること)のために本質的に重要である、と講義は述べる。一方で $W$ 係数の M–W コホモロジーは $\mathbb A^1_k$ ですでに有限生成でない捩れをもつ(下の例(affine 直線))ので、$W$ 係数で正しい群を得るには理論の作り直しが要る。それが本書『6-1 結晶景と接続景』の動機の一つになる。
原論文 2.3 b)(印字 p. 321)の評価。この方法は微分形式に結びつきすぎており、実際上、滑らかなスキームにしか適用できない。おそらくそのために技術的困難が克服されておらず、$X_0$ が $k$ 上射影的であっても $H^*_{WM}(X_0)$ が $W$ 上有限階数であることは 1966 年の時点で証明されていない。上の注意(固有な持上げとの比較の期待)の比較同型が成り立てば、固有滑らかな持上げをもつ $X_0$ については $H^*_{dR}(X/S)$ の有限性から従うが、比較同型も証明されていない。
原論文 2.3 c)(印字 p. 321–322)の報告。有限性が未証明であっても、Monsky–Washnitzer は完全連続作用素(completely continuous operators)を用いて Lefschetz 不動点定理の一形を与え、有限体上の滑らかなスキームの Frobenius 自己準同型に適用して、ゼータ関数の有理性を Dwork Dwo60 と似た仕方で証明した。本書の読み:$X_0=\operatorname{Spec}A_0$ を $\mathbb F_q$ 上滑らかで affine、$\Phi_0\colon A_0\to A_0$ を $q$ 乗 Frobenius とすると、上の定理(Monsky–Washnitzer の持上げ定理)の (b) により $\Phi_0$ は持上げ $\Phi\colon A^\dagger\to A^\dagger$ をもち、$\Phi^*$ が $H^i(\Omega^\bullet_{A^\dagger/W})\otimes K$ に作用する。$K$ 上の $p$ 進 Banach 空間の完全連続作用素の跡と Fredholm 行列式の理論(Serre Ser62、1962 年)を用いれば、
$$\#X_0(\mathbb F_{q^m})=\sum_i(-1)^i\operatorname{Tr}\bigl((\Phi^*)^m\bigm|H^i_{WM}(X_0)\otimes K\bigr)$$
の形の公式(跡は完全連続作用素の意味)と、$Z(X_0,t)$ が Fredholm 行列式の交代積として $p$ 進有理型であることが得られ、有理性が導かれる。原論文は公式の形を書いておらず、上の形は本書の推測である。有限階数が未証明なので、$\ell$ 進の場合(本書『0-3 エタールコホモロジーと Weil コホモロジーの要請』)と違い、各 $H^i$ の次元とゼータ関数の零点・極の個数の対応は得られない。本書は公式も有理性も証明しない。
2.3 の三つの注意は、Monsky–Washnitzer の方法が $p$ 進コホモロジーへの要請のうち何を満たし何を満たさないかを示している。捩れ($W$ 係数)と有限性が残り、滑らかでないスキームは扱えない。この三つが、第 6 章で結晶景を導入する理由になる。
以下の例は、affine の場合の関手の値の計算と、仮定を外したときに何が破れるかを示す。affine での $H^*_{WM}$ と関手の値の一致は報告の段階(上の注意(コホモロジー層と affine での一致))なので、関手の値 $H^*(\Omega^\bullet_{A^\dagger/W})$ を計算する。
$A_0=k[t]$ の M–W 持上げは $A^\dagger=W\{t\}^\dagger$ である($W$ 上捩れなしなので平坦、$A^\dagger/pA^\dagger=k[t]$)。引用する事実 2(本書『2-1 持上げの de Rham コホモロジーの不変性』)により $H^0=W$、$H^1\otimes K=0$ で、$W$ 係数の $H^1$ は零でない有限生成でない捩れ加群である($t^{p^m-1}dt$ の類の位数はちょうど $p^m$)。したがって関手の値は $K$ 係数で $\mathbb A^1_{\mathbb C}$ の Betti 数 $b_0=1$、$b_1=0$ と一致し、$W$ 係数では捩れが残る。
次は、affine 直線と違って $H^1$ が消えない最初の例である。過収束 Laurent 級数の環の de Rham コホモロジー($H^0\otimes K=K$、$H^1\otimes K=K\cdot[dt/t]$)は本書『2-1 持上げの de Rham コホモロジーの不変性』の例(過収束 Laurent 級数と乗法群)で計算したが、そこではこの環が M–W 持上げであることを確かめていない。本頁では、持上げが $W\{t\}^\dagger$ の商であること、微分加群が自由であることを、命題の (ii) で確かめる。
$A_0=k[t,t^{-1}]$ とする。$A^\dagger$ を、$W$ 係数の Laurent 級数 $\sum_{n\in\mathbb Z}c_nt^n$ で、ある $\rho>0$ と $N$ について $|n|\ge N$ なら $v(c_n)\ge\rho|n|$ となるもの(過収束 Laurent 級数)全体とする。$W\{t,s\}^\dagger\to A^\dagger$、$\sum a_{ab}t^as^b\mapsto\sum_n\bigl(\sum_{a-b=n}a_{ab}\bigr)t^n$ は全射環準同型である(内側の和は $a+b=|n|+2\min(a,b)\to\infty$ と $v(a_{ab})\ge\rho(a+b)-c$ により収束し、係数の付値は $\rho|n|-c$ 以上。$t^n$ は $n\ge0$ なら $t^n$、$n<0$ なら $s^{-n}$ に持ち上がる)。よって $A^\dagger$ は M–W 代数で、捩れがないので平坦、$A^\dagger/pA^\dagger=k[t,t^{-1}]$ である。上の命題(過収束級数環の微分加群)の (ii) により $\Omega^1_{A^\dagger/W}$ は $A^\dagger dt\oplus A^\dagger ds$ を関係式 $\overline{\partial_tg}\,dt+\overline{\partial_sg}\,ds$($g\in I=\ker$)で割った加群の分離商である。$ts-1\in I$ から $s\,dt+t\,ds=0$、両辺に $s$ を掛けて $ds=-s^2dt$。$g\in I$ なら Laurent 級数として $g(t,t^{-1})=0$ で、$t$ で微分すると $\partial_tg(t,t^{-1})-t^{-2}\partial_sg(t,t^{-1})=0$ となるので、すべての関係式は $ds=-s^2dt$ の帰結である。よって $\Omega^1_{A^\dagger/W}=A^\dagger dt$(自由、したがって分離的)、$d(\sum c_nt^n)=\sum nc_nt^{n-1}dt$ で、本書『2-1 持上げの de Rham コホモロジーの不変性』の例の複体と一致する。したがって $H^0\otimes K=K$、$H^1\otimes K=K\cdot[dt/t]$ で、$\mathbb C^\times$ の Betti 数 $b_0=b_1=1$ と一致する。$W$ 係数では $H^1$ は $W[dt/t]$ と捩れ部分の直和で、$t^{\pm p^m-1}dt$ の類の位数は $p^m$($p^m[t^{\pm p^m-1}dt]=[d(\pm t^{\pm p^m})]=0$、$p^{m-1}$ 倍は係数比較で完全でない)、有限生成でない。
(c) の不変性は、同じ還元をもつ二つの持上げの準同型がコホモロジーに同じ作用をすることを言う。乗法群で一つ確かめておく。
上の例(乗法群の M–W 持上げ)の $A^\dagger$ で、$u=\mathrm{id}$ と、$u'\colon t\mapsto t+p$ を考える。$t+p$ は $A^\dagger$ で可逆で、逆元は $\sum_{n\ge0}(-p)^nt^{-n-1}$($t^{-n-1}$ の係数の付値が $n=|{-n-1}|-1$ なので $\rho=1/2$ で過収束)である。$u'$ は $W[t,t^{-1}]$ 上で定まり、過収束 Laurent 級数への代入が再び過収束 Laurent 級数になること($c_n(t+p)^n=\sum_{j\ge0}c_n\binom njp^jt^{n-j}$($n<0$ では二項級数)の係数の付値が $\rho|n|+j$ 以上で、$t^m$ の係数に寄与する $(n,j)$ は $n-j=m$ を満たすので、その付値は $\rho|m|$ から定数を引いたもの以上になることによる)により $A^\dagger$ の自己同型に延びる(逆は $t\mapsto t-p$)。$u$ と $u'$ はどちらも $\mathrm{id}_{A_0}$ を持ち上げる。$H^1$ への作用を比べると
$$u'^*\Bigl[\frac{dt}{t}\Bigr]-u^*\Bigl[\frac{dt}{t}\Bigr]=\Bigl[\frac{dt}{t+p}-\frac{dt}{t}\Bigr]=\Bigl[\frac{-p\,dt}{t(t+p)}\Bigr]=\bigl[d\log(1+pt^{-1})\bigr]$$
で、$\log(1+pt^{-1})=\sum_{n\ge1}(-1)^{n+1}\frac{p^n}{n}t^{-n}$ は $v(p^n/n)=n-v(n)\ge n-\log_pn\ge n/2$($n\ge4$)により $A^\dagger$ の元である。よって差は $W$ 係数でも完全で、$u'^*=u^*$ が $H^1$ の $[dt/t]$ の上で成り立つ。$K$ をテンソルすれば $H^1\otimes K=K[dt/t]$ なので $u'^*=u^*$ で、(c) の予言と一致する。
次の反例は、(b) の滑らかさの仮定が外せないことを示す。滑らかでない代数では、持上げは存在しても一意でなく、コホモロジーが持上げに依る。
外す条件は $A_0$ の滑らかさである。$A_0=k[x]/(x^2)$ とし、$A:=W\{x\}^\dagger/(x^2)$、$A':=W\{x\}^\dagger/(x^2-p)$ とおく。どちらも $W$ 加群として $W\oplus Wx$ に等しい($A$ では $\sum_{n\ge2}a_nx^n=x^2\sum a_nx^{n-2}$、$A'$ では $x^{2m}-p^m=(x^2-p)(x^{2m-2}+px^{2m-4}+\dots+p^{m-1})$ により任意の元が $a+bx$ の形に書け($\sum_ma_{2m}(x^{2m}-p^m)$ を $(x^2-p)$ でくくった商の $x^{2i}$ の係数 $\sum_{m>i}a_{2m}p^{m-1-i}$ は付値 $2\rho i$ 以上で過収束)、$a+bx\in(x^2)$ なら係数比較で $a=b=0$、$a+bx=(x^2-p)\sum_nh_nx^n$ なら $n\ge2$ の係数比較で $h_{n-2}=ph_n$、よって $h_0,h_1\in\bigcap_mp^mW=0$ から順に $h=0$、$a=b=0$)。したがって $A$、$A'$ は $W$ 上自由で平坦な M–W 代数で、$A/pA=A'/pA'=k[x]/(x^2)$、すなわちどちらも $A_0$ の平坦な M–W 持上げである。
最後は、過収束条件を外して $p$ 進完備な持上げを使うと何が失われるかの確認である。
外す条件は持上げの弱完備性(過収束条件)である。引用する事実 3(本書『2-1 持上げの de Rham コホモロジーの不変性』の命題(affine 滑らかなスキームの形式的持上げ))により $A_0=k[t]$ は $p$ 進完備な持上げ $W\{t\}$ をもち、それは同型を除いて一意である。
以下は原論文の主張ではなく、後代の結果の紹介である(本頁の執筆時点 2026 年の知識による。「本書は確かめていない」と付したものは文献を開いていない)。概説は Illusie Ill94 を見よ。
本頁が対応する原論文は Crystals and the De Rham cohomology of schemes Gro68c である。
| 本頁 | 原論文 | 印字頁 |
|---|---|---|
| 定義(Monsky–Washnitzer 代数と持上げ) | 2.2 の定義($W^+\{t_1,\dots,t_n\}$、M-W-algebra) | 318–319 |
| 定理(Monsky–Washnitzer の持上げ定理)(a)、注意(付加条件と整係数の問題) | 2.2 a) | 319 |
| 定理(Monsky–Washnitzer の持上げ定理)(b)(形式的持上げの版は本書『2-1 持上げの de Rham コホモロジーの不変性』) | 2.2 b) | 319 |
| 定義(Monsky–Washnitzer 代数の微分加群)、命題(過収束級数環の微分加群)、定理(Monsky–Washnitzer の持上げ定理)(c) | 2.2 c) | 319–320 |
| 定理(コホモロジー関手) | 2.2 の関手 $(*)$(「cohomology functor」) | 320 |
| 注意(コホモロジー層と affine での一致) | 2.2 の $\mathcal H^*_{WM}(X_0)$ と affine での一致 | 320–321 |
| 定義(持上げの景と Monsky–Washnitzer コホモロジー)、注意(記号と約束) | 2.2 の景 $X_{0,WM}$ と $H^*_{WM}(X_0)$ の定義 | 320 |
| 注意(固有な持上げとの比較の期待) | 2.2 末($H^*_{WM}(X_0)\cong H^*_{DR}(X/S)$ の期待) | 321 |
| 注意(捩れを法とした不変性) | 2.3 第 1〜2 段落 | 321 |
| 注意(有限性の未解決と滑らかさへの限定) | 2.3 第 3 段落 | 321 |
| 注意(Lefschetz 不動点公式とゼータ関数の有理性) | 2.3 末 | 321–322 |
| 例(affine 直線)、反例(過収束条件を外した場合) | 2.1 末($W\{t\}$ と $W^+\{t\}$ の比較) | 318 |
| 例(乗法群の M–W 持上げ)、例(恒等写像の二つの持上げ)、反例(滑らかでない代数では持上げの一意性が破れる) | 対応なし(本書で足した例) | — |
原論文は関手 $(*)$ のラベルを紙面に印字していない(読解ノートの U9)。本頁は「cohomology functor」と呼ばれた関手を指すと読んだ。
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