Monsky–Washnitzer の不変性、すなわち標数 $p$ のスキーム $X_0$ の $W(k)$ 上の固有滑らかな持上げの de Rham コホモロジーが持上げの選び方に依らないことを、導来圏での標準同型という精密な形で仮定すると、持上げの代数的族 $f\colon Y\to M$ の相対 de Rham 複体 $\mathbf Rf_*\Omega^\bullet_{Y/M}$ は、$M$ の切断ごとの引き戻しが互いに標準同型になる。原論文はここから $\mathbf Rf_*\Omega^\bullet_{Y/M}$ が stratification をもつことを示唆し、しかし標数 $p$ の楕円曲線の族ではそうならないらしいという「パズル」を予告する。肯定的な方向の最初の指標として、複素数体上の固有滑らかな族の相対 de Rham 層の解析化が局所系から来る標準的な可積分接続をもつこと(超越的接続)を確かめる。
$k$ を標数 $p>0$ の完全体、$W=W(k)$、$S=\operatorname{Spec}W$ とし、$X_0$ を $k$ 上滑らかなスキームとする。持上げの族については、$M\to S$ を有限型の射、$f\colon Y\to M$ を固有かつ滑らかな射、$t_0$ を閉ファイバー $M_0=M\otimes_Wk$ の点で $Y_{t_0}=X_0$ となるものとし、$K^\bullet=\mathbf Rf_*\Omega^\bullet_{Y/M}$ を $\mathcal O_M$ 加群の導来圏 $D(\mathcal O_M)$ の対象とする。超越的接続については、$S$ を $\mathbb C$ 上有限型で滑らかなスキーム、$f\colon X\to S$ を固有かつ滑らかな射とし、$H^i_{dR}(X/S)=\mathbf R^if_*\Omega^\bullet_{X/S}$ と書く。
本頁の主結果は次の三つである。
Monsky と Washnitzer の着想は、標数 $p$ の滑らかなスキーム $X_0$ を $W=W(k)$ 上の滑らかなスキーム $X$ に持ち上げ、$X$ の de Rham コホモロジーを $X_0$ の $p$ 進コホモロジーとして採用することであった(本書『2-1 持上げの de Rham コホモロジーの不変性』)。この方法が意味をもつには、$H^*_{dR}(X/W)$ が持上げ $X$ の選び方に依らないことが要る。原論文は小節 2.3(印字 p. 321)で、公刊された証明が捩れを法とした形にとどまることを報告し(本書『2-2 弱完備代数と Monsky–Washnitzer コホモロジー』の注意(捩れを法とした不変性))、小節 3.1 では「簡単のため」その精密な形、すなわち二つの固有滑らかな持上げの間の $D(\mathcal O_S)$ での推移的な標準同型を仮定して先へ進む。
仮定を認めると、持上げを一つずつ比べる代わりに、持上げを代数的に動かす族 $f\colon Y\to M$ を考えられる。族の底 $M$ の $S$ 上の切断 $g$ は一つの持上げ $X_g$ を切り出し、不変性は $\mathbf Lg^*K^\bullet$ たちが切断によらず標準同型であることを言う。原論文はこれを「$K^\bullet$ が $t_0$ の近傍で stratification をもつ」ことの強い示唆と読む。stratification とは、無限小に近い二つの点での値の間の推移的な同型系であり(本書『4-2 接続・stratification・可積分性』)、同じ点を通る二つの切断は無限小に近い点の対の極限と見られるからである。ところが原論文は同時に、標数 $p$ の楕円曲線の族を考えると「そうはならないらしい」こと、すなわち関手的な stratification が存在しないこと(小節 3.5、本書『3-4 標準的 stratification の非存在』)を予告し、これを「パズル」と呼ぶ。どの仮定を落とすべきかは原論文には書かれておらず、この緊張が §4 の無限小トポスと §7 の結晶トポスへ進む動機になる。
小節 3.2 は肯定的な方向の最初の指標である。複素数体上では、固有滑らかな族の相対 de Rham 層の解析化はファイバーのコホモロジーの局所系から来る局所自由層であり、局所系のテンソル積として標準的な可積分接続(超越的接続)をもつ。この接続が「純代数的に定義できる」接続から来ること(Gauss–Manin接続)は予告にとどまり、affine の場合の構成が本書『3-2 Gauss–Manin 接続の代数的構成』、一般の場合の導来圏での構成が本書『3-3 絶対標準接続の構成』である。
持上げの族と、そこに現れる導来圏の対象をまず固定する。記号は本書『0-6 記号と約束』のとおり、$W_n=W/p^{n+1}W$、$W_0=k$ とする。
$X_0$ を $k$ 上滑らかなスキームとする。$X_0$ の $S=\operatorname{Spec}W$ 上の固有滑らかな持上げとは、固有かつ滑らかな射 $h\colon X\to S$ と $k$ 上の同型 $X\times_Sk\cong X_0$ の組をいう。$X_0$ の持上げの代数的族とは、有限型の射 $M\to S$、固有かつ滑らかな射 $f\colon Y\to M$、閉ファイバー $M_0=M\times_Sk$ の点 $t_0$ と同型 $Y_{t_0}\cong X_0$ の組をいう。$M$ の $S$ 上の切断 $g\colon S\to M$ が $t_0$ を通るとは、$S$ の閉点の像が $t_0$ であることをいい、そのとき $X_g=Y\times_{M,g}S$、$f_g\colon X_g\to S$ と書く。$K^\bullet=\mathbf Rf_*\Omega^\bullet_{Y/M}\in D(\mathcal O_M)$ とおく。
切断 $g$ が $t_0$ を通れば、$X_g$ の閉ファイバーは $Y_{t_0}=X_0$ なので、$X_g$ は $X_0$ の持上げの候補である。それが固有滑らかであることは主結果の中で確かめる。次に、原論文が「簡単のため」置く仮定を本書の言葉で定める。
$X_0$ を $k$ 上滑らかなスキームとする。仮定 H とは次をいう。$X_0$ の $S$ 上の固有滑らかな持上げ $h\colon X\to S$、$h'\colon X'\to S$ の任意の対に対して $D(\mathcal O_S)$ の同型
$$c_{X,X'}\colon\mathbf Rh_*\Omega^\bullet_{X/S}\xrightarrow{\ \sim\ }\mathbf Rh'_*\Omega^\bullet_{X'/S}$$
が与えられていて、$c_{X,X}=\mathrm{id}$ であり、三つの持上げについて $c_{X',X''}\circ c_{X,X'}=c_{X,X''}$ が成り立つ(推移的な系)。
仮定 H は原論文の小節 3.1(印字 p. 322)が「Monsky と Washnitzer が不変性をより精密な形で証明したと仮定する」と述べるものである。原論文は $k$ の完全性を書かないが、$W(k)$ を用いるので本書は完全体と読む。本書『2-2 弱完備代数と Monsky–Washnitzer コホモロジー』の注意(固有な持上げとの比較の期待)のとおり、公刊された Monsky–Washnitzer の結果は $K=W[1/p]$ をテンソルした後、または捩れを法とした形であり、仮定 H はそれより強い。本頁は仮定 H を証明せず、主結果の前件として置く。
示唆される構造を述べるには、導来圏の対象に対する stratification の言葉が要る。加群に対する stratification($n$-connection の両立系)は本書『4-2 接続・stratification・可積分性』で定義し、そこで、冪零な厚みへの二つの延長の間の推移的同型系という言い換えと同値であることを示す。導来圏の対象に対しては、後者の形をそのまま定義に採る。
$M$ を $S$ 上のスキーム、$K^\bullet\in D(\mathcal O_M)$ とする。$K^\bullet$ の($S$ に関する)導来圏での stratification とは、次のデータをいう。$S$ 上のスキーム $Z$ と、$Z$ の冪零イデアルで定まる閉部分スキーム $T\subset Z$ の上で一致する $S$ 射の対 $u_1,u_2\colon Z\to M$ のすべてに対して(族の全空間 $Y$ と区別するため閉部分スキームは $T$ と書く) $D(\mathcal O_Z)$ の同型 $\tau_{u_1,u_2}\colon\mathbf Lu_1^*K^\bullet\xrightarrow{\sim}\mathbf Lu_2^*K^\bullet$ が与えられ、(i) $\tau_{u,u}=\mathrm{id}$、(ii) 三つの延長について $\tau_{u_1,u_3}=\tau_{u_2,u_3}\circ\tau_{u_1,u_2}$、(iii) $S$ 射 $v\colon Z'\to Z$ について $\mathbf Lv^*(\tau_{u_1,u_2})=\tau_{u_1v,u_2v}$ が成り立つ。$M$ の点 $t_0$ の近傍での stratification とは、$t_0$ のある開近傍 $U$ の上の $K^\bullet|_U$ の stratification をいう。
$K^\bullet$ が次数 $0$ に集中した平坦な $\mathcal O_M$ 加群 $\mathcal F$ なら、$\mathbf Lu_i^*\mathcal F=u_i^*\mathcal F$ であり、上の定義は本書『4-2 接続・stratification・可積分性』の定義(延長の対に対する推移的同型系)に一致し、同頁でそれが $n$-connection の両立系としての stratification と一対一に対応することを示す。原論文の小節 3.1 は「$\mathcal O_M$ 加群の導来圏での stratification」とだけ書き、$S$ に関するものか $\mathbb Z$ に関する(絶対の)ものかを述べない。切断 $g$ が $S$ 射であることから本書は $S$ に関する形を採る。絶対の形はこれより強い。
超越的接続のためには、解析化と接続の言葉を復習する。
$\mathbb C$ 上局所有限型のスキーム $X$ に付随する複素解析空間を $X^{an}$、射 $f$ の解析化を $f^{an}$、連接層 $\mathcal F$ の解析化を $\mathcal F^{an}=\mathcal O_{X^{an}}\otimes_{\mathcal O_X}\mathcal F$ と書く(参考書『代数的 de Rham コホモロジー』の頁『0-4 複素解析空間と GAGA』)。複素多様体 $T$ 上の $\mathcal O_T$ 加群 $\mathcal E$ の絶対接続とは $\mathbb C$ 線型な写像 $\nabla\colon\mathcal E\to\Omega^1_{T}\otimes_{\mathcal O_T}\mathcal E$ で Leibniz 則 $\nabla(ae)=da\otimes e+a\nabla e$ を満たすものをいい、$\Omega^2_T\otimes\mathcal E$ への延長との合成 $\nabla\circ\nabla$(曲率)が $0$ のとき可積分という。$\nabla e=0$ となる $e$ を水平切断という。$\mathcal L$ を有限次元 $\mathbb C$ ベクトル空間の局所系(局所定数層)とするとき、$\mathcal L\otimes_{\mathbb C}\mathcal O_T$ の標準接続とは $\nabla(\sigma\otimes a)=\sigma\otimes da$($\sigma$ は $\mathcal L$ の局所切断)で定まる絶対接続をいう。
標準接続は $\sigma$ と $a$ の双方について $\mathbb C$ 線型なので well-defined であり、可積分で、水平切断の層は $\mathcal L$ である(参考書『代数的 de Rham コホモロジー』の頁『5-2 Gauss–Manin 接続と係数付き理論』の定理(標準接続の解析的定義)の 3)。局所系 $\mathcal L$ からは接続付き局所自由層が戻るが、逆に接続からは $\mathbb C$ 局所系までしか戻らず、$\mathbb Z$ 局所系の整構造は接続からは決まらない。この点は例(Legendre 族の超越的接続と Picard–Fuchs 方程式)で見る。
次の事実は証明せずに引用する。出典は主に Stacks、SGA1、EGA3、EGA4、Voi02、Wei94 と参考書『代数的 de Rham コホモロジー』で、該当箇所は本頁では確認していない。
道具は揃った。まず持上げの族で、切断ごとの引き戻しを底変換によって持上げの de Rham コホモロジーに結び、仮定 H で切断どうしを比べる。
$X_0$ の持上げの代数的族 $(M\to S,\ f\colon Y\to M,\ t_0)$ をとり、$K^\bullet=\mathbf Rf_*\Omega^\bullet_{Y/M}$ とおく。
段 1(持上げであること).固有性と滑らかさは底変換で保たれるので $f_g\colon X_g\to S$ は固有かつ滑らかである。$g$ は $S$ の閉点を $t_0$ へ送るので、剰余体の射 $k(t_0)\to k$ は $k$ 上の射であり $k(t_0)=k$、すなわち $t_0$ は $k$ 有理点である。よって $X_g$ の閉ファイバーは $X_g\times_Sk=Y\times_{M,t_0}\operatorname{Spec}k=Y_{t_0}=X_0$ である。
段 2(底変換).$f$ は固有なので準コンパクトかつ分離的であり、引用する事実 1 を $g\colon S\to M$ に適用すれば $\mathbf R(f_g)_*\Omega^\bullet_{X_g/S}\cong\mathbf Lg^*\mathbf Rf_*\Omega^\bullet_{Y/M}=\mathbf Lg^*K^\bullet$ を得る。
段 3(切断の比較).$X_g$、$X_{g'}$ はともに $X_0$ の固有滑らかな持上げなので、仮定 H の同型 $c_{X_g,X_{g'}}$ と段 2 の同型を合成して
$$\mathbf Lg^*K^\bullet\cong\mathbf R(f_g)_*\Omega^\bullet_{X_g/S}\xrightarrow{\ c\ }\mathbf R(f_{g'})_*\Omega^\bullet_{X_{g'}/S}\cong\mathbf Lg'^*K^\bullet$$
を得る。推移性と恒等性は、仮定 H の系の推移性と、段 2 の同型が $g$ ごとに一つに決まっていること(引用する事実 1 の標準性)から従う。
原論文(印字 p. 323)は脚注で「もちろん導来圏で」と断る。同型は $D(\mathcal O_S)$ の同型であって、個々の $H^i$ の同型は直ちには従わない。$H^i(K^\bullet)$ が局所自由なら、導来引き戻しが通常の引き戻しに戻り、同型は各次数に降りる。
上の定理(持上げの族での標準同型)の設定で、$t_0$ のある開近傍 $U$ の上ですべての $H^i(K^\bullet)=H^i_{dR}(Y/M)$ が局所自由(有限階数)であるとする。$t_0$ を通る切断 $g$ ごとに $H^i(\mathbf Lg^*K^\bullet)=g^*H^i_{dR}(Y/M)$、したがって $H^i_{dR}(X_g/S)\cong g^*H^i_{dR}(Y/M)$ であり、仮定 H の下で、$t_0$ を通る切断 $g,g'$ について $W$ 加群の同型 $H^i_{dR}(X_g/S)\cong H^i_{dR}(X_{g'}/S)$ が推移的な系として成り立つ。
段 1(切断の像).$S=\operatorname{Spec}W$ の空でない開集合はすべて生成点を含むので、$g^{-1}(U)$ は閉点を含む開集合、すなわち $S$ 全体である。よって $g$ は $U$ を経由し、$K^\bullet$ を $K^\bullet|_U$ に取り替えてよい。$K^\bullet$ は有界である($\Omega^\bullet_{Y/M}$ は有界で、$f$ は固有なので $\mathbf Rf_*$ は有界な複体を有界な複体に送る)。
段 2(切り捨てによる帰納法).$H^q=H^q(K^\bullet)$ が $U$ 上平坦なので、引用する事実 2 により $\mathbf Lg^*(H^q[-q])=g^*H^q[-q]$ である。$q$ についての帰納法で「$\mathbf Lg^*\tau_{\le q}K^\bullet$ のコホモロジーは次数 $j\le q$ で $g^*H^j$、次数 $j>q$ で $0$」を示す。$K^\bullet$ は有界なので、$q$ が小さければ $\tau_{\le q}K^\bullet=0$ で主張は自明である。完全三角 $\tau_{\le q-1}K^\bullet\to\tau_{\le q}K^\bullet\to H^q[-q]\to$ に $\mathbf Lg^*$ を施した長完全列で、第三項のコホモロジーは次数 $q$ の $g^*H^q$ だけ、第一項のコホモロジーは帰納法の仮定により次数 $q-1$ 以下に集中するので、$H^q(\mathbf Lg^*\tau_{\le q}K^\bullet)=g^*H^q$、$j< q$ では $H^j(\mathbf Lg^*\tau_{\le q}K^\bullet)=H^j(\mathbf Lg^*\tau_{\le q-1}K^\bullet)=g^*H^j$、$j>q$ では $0$ である。$q$ を十分大きくとれば $\tau_{\le q}K^\bullet=K^\bullet$ なので $H^q(\mathbf Lg^*K^\bullet)=g^*H^q(K^\bullet)$ がすべての $q$ で成り立つ。
段 3(降下).上の定理の 1 の同型に $H^i$ を取ると $H^i_{dR}(X_g/S)=H^i(\mathbf R(f_g)_*\Omega^\bullet_{X_g/S})\cong H^i(\mathbf Lg^*K^\bullet)=g^*H^i_{dR}(Y/M)$。上の定理の 2 の同型に $H^i$ を取れば $H^i_{dR}(X_g/S)\cong H^i_{dR}(X_{g'}/S)$ であり、推移性は関手性から従う。
ここまでで、仮定 H が族の言葉でどう見えるかが分かった。切断の対ごとの同型系である。原論文はここから stratification を示唆するが、二つの構造の間には埋めるべき段がある。
上の定理(持上げの族での標準同型)が与えるのは、$t_0$ を通る $S$ 値点(切断)の対ごとの同型 $\mathbf Lg^*K^\bullet\cong\mathbf Lg'^*K^\bullet$ の推移的な系である。一方、$t_0$ の近傍での導来圏での stratification(定義(導来圏での stratification))が要求するのは、冪零な厚み $T\subset Z$ とその上で一致する任意の $Z$ 値点の対 $u_1,u_2\colon Z\to M$ について $\mathbf Lu_1^*K^\bullet\cong\mathbf Lu_2^*K^\bullet$ を、底変換と両立するように与えることである。$S$ 値点の対から任意の $Z$ 値点の対へ移るには、仮定 H の同型が持上げの対について代数的であること、すなわち $Z$ 値点の族に沿って両立することが要る。仮定 H はそれを主張しておらず、原論文の「強く示唆する」はこの段を指す。切断の対ごとの推移的な同型系だけからは stratification が決まらないことを、例(切断の対の同型系は stratification を定めない)で示す。逆に、$t_0$ の近傍での stratification は、切断を $W_n$ 値点に切り詰めて極限を取ることで切断の対ごとの同型系を与えるが、導来圏の対象に対する極限移行の段は原論文の範囲になく、本頁も扱わない。
示唆と反対方向の予告が「パズル」である。両者がどう衝突するかを、本書の言葉で分解しておく。
原論文の小節 3.5(本書『3-4 標準的 stratification の非存在』)が否定するのは、標数 $p$ の体 $k$ 上の楕円曲線の族 $E\to T$ に対する $H^1_{dR}(E/T)$ の($k$ に関する)関手的な stratification の存在である。小節 3.1 が示唆する stratification は $S=\operatorname{Spec}W(k)$ 上の $M$ の上の $K^\bullet$ の($S$ に関する)ものなので、両者を結ぶには、(a) 切断の対から $Z$ 値点の対への移行(上の注意)、(b) $M$ 上の $K^\bullet$ の stratification を閉ファイバー $M_0=M\otimes k$ に制限すれば $\mathbf R(f_0)_*\Omega^\bullet_{Y_0/M_0}$ の $k$ に関する stratification が得られること($k$ 上のスキーム $Z$ とその $M_0$ 値点の対は $S$ 上のスキームとその $M$ 値点の対でもあり、$K^\bullet$ の $M_0$ への制限が引用する事実 1 により $\mathbf R(f_0)_*\Omega^\bullet_{Y_0/M_0}$ なので、定義の条件 (i)〜(iii) がそのまま引き継がれる)、(c) それが $H^1_{dR}(Y_0/M_0)$ に降り(局所自由なら上の系と同じ議論)、しかも楕円曲線の族の間の射と底変換について関手的であること、の三段が要る。(c) の関手性がどこから来るかは原論文に無い。したがって「パズル」は、仮定 H と (a)(b)(c) を認めると小節 3.5 と矛盾する、という形の背理であり、原論文はどの仮定を捨てるべきかを書かない。本書は、どの段が落ちるべきかを判定していない。後代の理論がどこを弱めたかは「その後の発展」に記す。
stratification が存在するかどうかは標数 $p$ では「パズル」として残る。標数 $0$、それも複素数体の上では、少なくとも 1 次の構造、すなわち接続は超越的な方法で直ちに得られる。
$S$ を $\mathbb C$ 上有限型で滑らかなスキーム、$f\colon X\to S$ を固有かつ滑らかな射とし、$H^i=H^i_{dR}(X/S)=\mathbf R^if_*\Omega^\bullet_{X/S}$ とおく。
段 1(連接性).$S$ は $\mathbb C$ 上有限型なので局所ネーター的であり、$f$ は固有かつ滑らかなので、引用する事実 6 により $H^i$ は連接である。
段 2(相対 de Rham 複体の解析化).$(\Omega^p_{X/S})^{an}=\Omega^p_{X^{an}/S^{an}}$ を示す。引用する事実 4 により $X$ は局所的に $\mathbb A^d_S$ 上エタールで、座標 $x_1,\dots,x_d$ について $\Omega^1_{X/S}$ は $dx_1,\dots,dx_d$ を基底とする。エタール射の解析化は局所双正則なので $X^{an}\to\mathbb C^d\times S^{an}$ も局所同型であり、解析的な相対微分の層 $\Omega^1_{X^{an}/S^{an}}=\Omega^1_{X^{an}}/f^{an*}\Omega^1_{S^{an}}$ も $dx_1,\dots,dx_d$ を基底とする。標準の比較射 $(\Omega^1_{X/S})^{an}\to\Omega^1_{X^{an}/S^{an}}$ は $dx_i\mapsto dx_i$ なので同型で、$p$ 次は外積を取って同じである。比較射は外微分と可換なので、複体の射 $(\Omega^\bullet_{X/S})^{an}\to\Omega^\bullet_{X^{an}/S^{an}}$ は同型である。
段 3(相対 GAGA).$\Omega^\bullet_{X/S}$ は次数 $0$ から $d$ に集中した有界複体なので、引用する事実 5 のスペクトル系列 $E_1^{p,q}=R^qf_*\Omega^p_{X/S}\Rightarrow H^{p+q}$ とその解析側 $E_1^{p,q}=R^qf^{an}_*\Omega^p_{X^{an}/S^{an}}\Rightarrow\mathbf R^{p+q}f^{an}_*\Omega^\bullet_{X^{an}/S^{an}}$ が得られ、解析化($\mathcal O_{S^{an}}\otimes_{\mathcal O_S}-$ は平坦なので完全)と段 2 の複体の射がスペクトル系列の射を与える。$E_1$ の各項では引用する事実 3($f$ 固有、$\Omega^p_{X/S}$ 連接)と段 2 により同型なので、到達項でも同型であり、$(H^i)^{an}\cong\mathbf R^if^{an}_*\Omega^\bullet_{X^{an}/S^{an}}$ を得る。
段 4(標準接続).引用する事実 7 により $\mathbf R^if^{an}_*\Omega^\bullet_{X^{an}/S^{an}}\cong R^if^{an}_*\mathbb C_{X^{an}}\otimes_{\mathbb C}\mathcal O_{S^{an}}$ であり、$R^if^{an}_*\mathbb C_{X^{an}}$ は有限次元ベクトル空間の局所系、右辺は標準接続による可積分接続をもち、水平切断の層は $R^if^{an}_*\mathbb C_{X^{an}}$ である。局所系のテンソル積なので右辺は有限階数の局所自由層である。これで 3 と、2 のうち $\mathbb C$ 係数の部分が得られた。
段 5(整係数への戻り).$\mathbb Z_{X^{an}}\to\mathbb C_{X^{an}}$ から層の射 $R^if^{an}_*\mathbb Z_{X^{an}}\otimes_{\mathbb Z}\mathbb C\to R^if^{an}_*\mathbb C_{X^{an}}$ が得られる。$f^{an}$ は固有($f$ が固有なので)で、$X^{an}$、$S^{an}$ は局所コンパクト Hausdorff なので、引用する事実 8 の固有底変換により両辺の $s\in S^{an}$ での茎はそれぞれ $H^i(X_s^{an},\mathbb Z)\otimes_{\mathbb Z}\mathbb C$ と $H^i(X_s^{an},\mathbb C)$ であり、$X_s^{an}$ はコンパクト複素多様体、$\mathbb C$ は $\mathbb Z$ 上平坦なので、普遍係数定理により茎の射は同型である。よって $R^if^{an}_*\mathbb C_{X^{an}}=R^if^{an}_*\mathbb Z_{X^{an}}\otimes_{\mathbb Z}\mathbb C$ であり、
$$R^if^{an}_*\mathbb C_{X^{an}}\otimes_{\mathbb C}\mathcal O_{S^{an}}=R^if^{an}_*\mathbb Z_{X^{an}}\otimes_{\mathbb Z_{S^{an}}}\mathcal O_{S^{an}}$$
となって、原論文の形の 2 が得られる。$\mathbb Z$ 局所系 $R^if^{an}_*\mathbb Z_{X^{an}}$ の捩れは $\mathcal O_{S^{an}}$ をテンソルすると消える。
これで、複素数体上では相対 de Rham 層が接続をもつことが分かった。原論文の書き方との違いを二つ断っておく。一つは引く定理の形、もう一つは底の滑らかさである。
原論文(印字 p. 324)は段 3・段 4 の同型を「代数的と解析的 de Rham コホモロジーの比較定理により」と一言で述べる。原論文で比較定理(Comparison Theorem)と呼ばれる主張は Theorem 1.2(本書『0-2 de Rham コホモロジーと比較定理の復習』の定理(比較定理(Theorem 1′ の言明)))であり、それは底が $\operatorname{Spec}\mathbb C$ の絶対形で、ここで要るのは相対形である。本書はその相対形を、固有射の相対 GAGA(引用する事実 3)と、相対 Poincaré の補題・Ehresmann の定理・固有底変換に依る標準接続の解析的定義(引用する事実 7)とに分けて名指しし、Theorem 1.2 からは導かない(本書『0-6 記号と約束』の「未解決のうち本書が判断したもの」の表)。また原論文は $S$ を $\mathbb C$ 上有限型としか書かないが、引用する事実 7 は $S$ の滑らかさを仮定するので本書はそれを足した。$S$ が被約なら落とせると思われるが、本書は滑らかな場合だけを閉じる。
原論文の小節 3.2 の後半は、上の超越的接続が代数的な $H^i_{dR}(X/S)$ の上の接続から来ること、しかもその接続が純代数的に定義できることを「後で分かるだろう」と予告する。affine かつ形式的滑らかな場合の構成は本書『3-2 Gauss–Manin 接続の代数的構成』、一般の滑らかな射に対する導来圏での構成は本書『3-3 絶対標準接続の構成』で扱う。しかし、そこで構成する代数的接続の解析化が本頁の超越的接続に一致することは、原論文の範囲内では証明されず、本書でも閉じない。後代の定式化(Katz–Oda の Gauss–Manin 接続)との関係は「その後の発展」に記す。
以下の例は、主結果の適用と、示唆のどこに飛躍があるかを示す。最初は、示唆が自明に成り立つ族である。
$h\colon X\to S$ を $X_0$ の固有滑らかな持上げの一つとし、$\pi\colon M\to S$ を有限型の射、$Y=X\times_SM$、$f=\mathrm{pr}_M$、$t_0$ を $M_0$ の任意の $k$ 有理点とする。$f$ は固有かつ滑らかで $Y_{t_0}=X_0$ なので、これは持上げの代数的族である。引用する事実 1 を $\pi$ に適用すると $K^\bullet=\mathbf Rf_*\Omega^\bullet_{Y/M}\cong\mathbf L\pi^*L^\bullet$、$L^\bullet=\mathbf Rh_*\Omega^\bullet_{X/S}$ である。$t_0$ を通る切断 $g$ については $\pi\circ g=\mathrm{id}_S$ なので $X_g=X$、$\mathbf Lg^*K^\bullet\cong L^\bullet$ であり、定理(持上げの族での標準同型)の同型系は仮定 H の $c_{X,X}=\mathrm{id}$ に対応する恒等の系である。さらに $K^\bullet$ は $t_0$ の近傍どころか $M$ 全体で $S$ に関する導来圏での stratification をもつ。$S$ 射 $u_1,u_2\colon Z\to M$ について $\pi\circ u_1=\pi\circ u_2$ は $Z$ の構造射なので、$\mathbf Lu_1^*K^\bullet\cong\mathbf L(\pi u_1)^*L^\bullet=\mathbf L(\pi u_2)^*L^\bullet\cong\mathbf Lu_2^*K^\bullet$ を $\tau_{u_1,u_2}$ とすればよく、(i)〜(iii) は関手性から従う。持上げを動かさない族では示唆は自明に正しい。
次は持上げが本当に動く族で、系(個々のコホモロジー層への降下)が使える例である。
$p\ge3$ とし、$M=\operatorname{Spec}W[\lambda,\lambda^{-1},(1-\lambda)^{-1}]$、$Y\subset\mathbb P^2_M$ を $y^2=x(x-1)(x-\lambda)$ で定まる Legendre 族、$f\colon Y\to M$ とする。$2$ と $\lambda(1-\lambda)$ が $M$ 上可逆なので $f$ は固有かつ滑らかで、各ファイバーは楕円曲線である。$\lambda_0\in k\setminus\{0,1\}$ をとり、$t_0$ を $M_0=\operatorname{Spec}k[\lambda,\lambda^{-1},(1-\lambda)^{-1}]$ の点 $\lambda=\lambda_0$、$X_0=E_{\lambda_0}$ とする。$t_0$ を通る切断は $\lambda\equiv\lambda_0\pmod p$ となる $\lambda\in W$(たとえば Teichmüller 持上げ)と一対一に対応し、$X_g=E_\lambda$ は $E_{\lambda_0}$ の $W$ 上の固有滑らかな持上げである。
$H^i_{dR}(Y/M)$ はすべて局所自由である。実際、各ファイバーで $h^0(\mathcal O)=h^1(\mathcal O)=h^0(\Omega^1)=h^1(\Omega^1)=1$ が定数で $M$ は被約なので、コホモロジーと底変換の定理(Har77 III.12 の型)により $f_*\mathcal O_Y=\mathcal O_M$ で、$R^1f_*\mathcal O_Y$、$f_*\Omega^1_{Y/M}$、$R^1f_*\Omega^1_{Y/M}$ は可逆層であり、形成は底変換と可換である。Hodge–de Rham スペクトル系列(引用する事実 5)の $E_1$ の微分のうち $f_*\mathcal O_Y\to f_*\Omega^1_{Y/M}$ は $\mathcal O_M$ の元の外微分なので $0$ であり、$d_1\colon R^1f_*\mathcal O_Y\to R^1f_*\Omega^1_{Y/M}$ は可逆層の間の $\mathcal O_M$ 線型射で、各点 $m\in M$ でのファイバーは曲線 $Y_m$ の $H^1(Y_m,\mathcal O)\to H^1(Y_m,\Omega^1)$ に等しい。この写像は $0$ である。$P$ を無限遠点(剰余体上有理な点)、$U_0=Y_m\setminus\{P\}$ と $P$ の affine 開近傍 $U_1$ の Čech 余鎖 $\varphi\in\mathcal O(U_0\cap U_1)$ の類は $d\varphi$ の類へ写り、$H^1(Y_m,\Omega^1)$ は $P$ での留数で剰余体と同一視されるが、完全形式 $d\varphi$ の留数は $0$ だからである。被約なスキーム上の局所自由層の間の射が各点のファイバーで $0$ なら $0$ なので $d_1=0$、系列は $E_1$ で退化し、$H^0_{dR}(Y/M)=\mathcal O_M$、$H^1_{dR}(Y/M)$ は $R^1f_*\mathcal O_Y$ の $f_*\Omega^1_{Y/M}$ による拡大で階数 $2$ の局所自由層、$H^2_{dR}(Y/M)=R^1f_*\Omega^1_{Y/M}$ は可逆層である。
したがって系(個々のコホモロジー層への降下)により、$H^1_{dR}(E_\lambda/W)\cong g^*H^1_{dR}(Y/M)$ は階数 $2$ の自由 $W$ 加群であり、仮定 H の下では $\lambda\equiv\lambda'\pmod p$ となるすべての $\lambda,\lambda'$ について $H^1_{dR}(E_\lambda/W)\cong H^1_{dR}(E_{\lambda'}/W)$ が推移的な系として成り立つ。すなわち、仮定 H は「$E_{\lambda_0}$ のすべての持上げの $H^1_{dR}$ が一つの階数 $2$ の自由 $W$ 加群に標準的に同一視される」ことを要求する。この要求を持上げなしの定義で満たすのが後代の結晶コホモロジーである(「その後の発展」)。一方、閉ファイバー $M_0$ 上の Legendre 族に $k$ に関する関手的な stratification が無いことが本書『3-4 標準的 stratification の非存在』の主題であり、そこで「パズル」が具体的になる。
示唆の飛躍を見るには、切断の対ごとの推移的な同型系という型のデータが stratification を決めないことを確かめればよい。最も簡単な族で示す。
$k=\mathbb F_p$、$W=\mathbb Z_p$、$M=\mathbb A^1_S=\operatorname{Spec}\mathbb Z_p[t]$、$Y=M$、$f=\mathrm{id}_M$(ファイバーが一点の定数族。$X_0=\operatorname{Spec}k$)、$K^\bullet=\mathcal O_M$ とし、$a_0\in\{0,1,\dots,p-1\}$ をとり(以下 $a_0$ を $\mathbb Z_p$ の元とも $\mathbb F_p$ の元とも見る)、$t_0$ を $M_0=\mathbb A^1_k$ の点 $t=a_0$ とする。$t_0$ を通る切断は $a\equiv a_0\pmod p$ となる $a\in\mathbb Z_p$ と対応し($g_a\colon t\mapsto a$)、$\mathbf Lg_a^*\mathcal O_M=\mathbb Z_p$ である。切断の対ごとの推移的な同型系として、$\varphi\colon\{a\in\mathbb Z_p:a\equiv a_0\}\to\mathbb Z_p^\times$ を $\varphi(a_0+p^2)=1+p$、それ以外で $\varphi(a)=1$ と定め、$c_{a,b}=\varphi(b)/\varphi(a)$ とおく。$c_{a,a}=1$、$c_{b,c}c_{a,b}=c_{a,c}$ なので、これは定理(持上げの族での標準同型)が与える型のデータである。
この系は、$t_0$ の近傍での $S$ に関する導来圏での stratification のどれからも得られない。stratification $\tau$ が $t_0$ の開近傍 $U$ の上にあるとする。$Z=\Delta^1_{U/S}(1)$($U\times_SU$ の対角線の $1$ 次無限小近傍)、$u_1,u_2$ を二つの射影、$T=U$ を対角線とすると、$\mathbf Lu_i^*\mathcal O_M=\mathcal O_Z$ なので $\tau_{u_1,u_2}$ は $\Gamma(Z,\mathcal O_Z)^\times$ の元であり、(i) と (iii)(対角線 $U\to Z$ による引き戻し)から対角線上で $1$ である。$Z$ の底空間は $U$ のそれと同じで、$\mathcal O_Z=\mathcal O_U\oplus\mathcal O_U\,(t'-t)$($u_1^*$ による分裂。$(t'-t)$ の生成するイデアルは $\Omega^1_{U/S}=\mathcal O_U\,dt$ に等しい)だから $\Gamma(Z,\mathcal O_Z)=\Gamma(U,\mathcal O_U)\oplus\Gamma(U,\mathcal O_U)\,(t'-t)$ であり $\tau_{u_1,u_2}=1+h\cdot(t'-t)$、$h\in\Gamma(U,\mathcal O_U)$ と書ける。$a\equiv b\pmod p$ とすると $(b-a)^2\in p^2\mathbb Z_p$ なので、$(t,t')\mapsto(a,b)$ は $S$ 射 $v\colon\operatorname{Spec}W_1\to Z$($W_1=\mathbb Z/p^2$)を定め(切断 $g_a$、$g_b$ の像は $U$ に入る。系の証明の段 1)、(iii) により $W_1$ 上の対 $(g_a|_{W_1},g_b|_{W_1})$ での値は $v^*\tau_{u_1,u_2}=1+h(a)(b-a)\in W_1^\times$ である。とくに $b\equiv a\pmod{p^2}$ ならこの値は $1$ である。一方、stratification が切断の対に誘導する同型 $\tau(a,b)\in\mathbb Z_p^\times$ は、$W_m$ 値点の対 $(g_a|_{W_m},g_b|_{W_m})$ での値の逆系((iii) により両立する)の極限であり、$\tau(a,b)\equiv1+h(a)(b-a)\pmod{p^2}$ を満たす。$(a,b)=(a_0,a_0+p^2)$ では $\tau(a,b)\equiv1\pmod{p^2}$ だが $c_{a,b}=1+p\not\equiv1\pmod{p^2}$ である。
破れるのは、切断の対ごとの同型が $(a,b)$ について「代数的」であること、すなわち $b-a$ の冪に沿って $1$ に近づき、しかも $1$ 次の項が $a$ の関数 $h$ で一様に書けることである。仮定 H はこの性質を持上げの対について何も主張しない。注意(切断の対から stratification への飛躍)の (a) の段がこれである。
超越的接続の側では、接続が周期の微分方程式にほかならないことと、接続が整構造を忘れることを見る。
$S=\operatorname{Spec}\mathbb C[\lambda,\lambda^{-1},(1-\lambda)^{-1}]$ の上の Legendre 族 $f\colon X\to S$、$E_\lambda\colon y^2=x(x-1)(x-\lambda)$ をとる。定理(複素数体上の固有滑らかな族の超越的接続)により $(H^1_{dR}(X/S))^{an}\cong R^1f^{an}_*\mathbb Z\otimes_{\mathbb Z}\mathcal O_{S^{an}}$ で、$R^1f^{an}_*\mathbb Z$ は各点でトーラス $E_\lambda^{an}$ の $H^1(E_\lambda^{an},\mathbb Z)\cong\mathbb Z^2$ を茎とする階数 $2$ の $\mathbb Z$ 局所系である。枠 $\omega=dx/y$ の超越的接続による微分は、局所定数な閉路 $\gamma$ 上の周期 $\rho(\lambda)=\int_\gamma\omega$ の微分に対応し、$\rho$ は Gauss の超幾何方程式
$$\lambda(1-\lambda)\rho''+(1-2\lambda)\rho'-\tfrac14\rho=0$$
を満たす。したがって接続の言葉では $\lambda(1-\lambda)\nabla_{\partial_\lambda}^2\omega+(1-2\lambda)\nabla_{\partial_\lambda}\omega-\tfrac14\omega=0$ であり、これが Picard–Fuchs 方程式である。計算($\partial_\lambda^2\omega$ を $\omega$、$\partial_\lambda\omega$ と完全形式で書く)は参考書『代数的 de Rham コホモロジー』の頁『5-2 Gauss–Manin 接続と係数付き理論』の例(Legendre 族と Picard–Fuchs 方程式)にあり、本頁では繰り返さない。
接続から戻るのは $\mathbb C$ 局所系 $R^1f^{an}_*\mathbb C$(水平切断の層)までである。$\mathbb Z$ 局所系 $R^1f^{an}_*\mathbb Z$ と、その部分局所系 $2\cdot R^1f^{an}_*\mathbb Z$ とは、$\mathcal O_{S^{an}}$ をテンソルすると同じ層と同じ接続を与える。原論文が同型の右辺を $\mathbb Z$ 係数で書くのは、整構造が相対 de Rham 層の解析化に「余分に」載っていることの記録であり、接続だけからそれが決まるわけではない。
最後は、定理(複素数体上の固有滑らかな族の超越的接続)の固有性の仮定が外せないことを示す反例である。
外す条件は $f$ の固有性である。$X=\mathbb A^2_{\mathbb C}\setminus\{(0,0)\}$、$S=\mathbb A^1_{\mathbb C}$、$f(x,s)=s$ とする。$f$ は滑らかな射 $\mathbb A^2\to\mathbb A^1$ の開部分スキームへの制限なので滑らかだが、固有ではない。ファイバーは $s\ne0$ で $\mathbb A^1$、$s=0$ で $\mathbb A^1\setminus\{0\}$ である。$0\in S^{an}$ を中心とする円板 $D$ について $f^{-1}(D)=(\mathbb C\times D)\setminus\{(0,0)\}$ は $\mathbb R^4$ から一点を除いた空間と同相で $S^3$ にホモトピー同値なので $H^1(f^{-1}(D),\mathbb C)=0$、よって $(R^1f^{an}_*\mathbb C)_0=0$ である。一方 $H^1(f^{-1}(0),\mathbb C)=H^1(\mathbb C^\times,\mathbb C)=\mathbb C$ である。
以下は原論文の主張ではなく、後代の結果の紹介である(本頁の執筆時点 2026 年の知識による。時点を明記し、文献を開いていないものは「本書は確かめていない」と書く)。全体像は Ill94 と Stacks の結晶コホモロジーの章を見よ。
本頁が対応する原論文は Crystals and the De Rham cohomology of schemes Gro68c である。
| 本頁 | 原論文 | 印字頁 |
|---|---|---|
| 定義(持上げと持上げの代数的族) | 小節 3.1、「algebraic family of liftings」 | 322 |
| 定義(不変性の精密形(仮定 H)) | 小節 3.1、「we assume that Monsky and Washnitzer have proven」 | 322 |
| 定義(導来圏での stratification) | §3 冒頭の Appendix I への参照、Appendix I | 322、356–357 |
| 定理(持上げの族での標準同型) | 小節 3.1、図式と $\mathbf Lg^*(K^\bullet)$ の標準同型 | 322–323 |
| 系(個々のコホモロジー層への降下) | 小節 3.1 の脚注「in the derived category, of course」の補い | 323 |
| 注意(切断の対から stratification への飛躍) | 小節 3.1、「This strongly suggests」 | 323 |
| 注意(小節 3.5 との「パズル」) | 小節 3.1 末、「thereby raising a puzzle」 | 323 |
| 定義(解析化と局所系のテンソル積の標準接続) | 小節 3.2、「canonical connection on the tensor product」 | 324 |
| 定理(複素数体上の固有滑らかな族の超越的接続) | 小節 3.2 | 324 |
| 注意(比較定理の引き方と底の滑らかさ) | 小節 3.2、「by the Comparison Theorem」 | 324 |
| 注意(代数的接続との一致は予告) | 小節 3.2 末、「It will turn out」 | 324 |
| 例(Legendre 族の W 上の持上げ)、例(切断の対の同型系は stratification を定めない) | 原論文にない(本書の補い) | — |
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