原論文の第 1 節の前半(1.1〜1.5)を追い、代数的 de Rham コホモロジーが標数 $0$ で申し分のない理論であること(de Rham の定理から比較定理まで)と、標数 $p>0$ でどこが破れるか(固有でないと有限次元でないこと、固有かつ滑らかでも Betti 数を与えないこと、Lefschetz 不動点公式が標数を法とする値しか与えないこと)を、原論文が省いた段を補って示す。第 0 章と参考書『代数的 de Rham コホモロジー』で済んだ命題は引用にとどめ、本頁は相対 de Rham 層の準連接性・連接性と導来圏での底変換、標数 $p$ の有限性の破綻、Betti 数の交代和の一致を閉じる。
$k$ は本頁では任意の体とし、標数を仮定するときは明記する。$f\colon X\to S$ をスキームの射とし、相対 de Rham 複体を $\Omega^\bullet_{X/S}$、相対 de Rham コホモロジーを $H^n_{dR}(X/S)=\mathbf H^n(X,\Omega^\bullet_{X/S})$、相対 de Rham 層を $H^n_{dR}(X/S)=\mathbf R^nf_*\Omega^\bullet_{X/S}$ と書く(記号表のとおり。層と大域のどちらかは文脈で断る)。$b_n(X)=\dim_{\mathbb Q_\ell}H^n_{\text{ét}}(X_{\bar k},\mathbb Q_\ell)$($\ell\ne\operatorname{char}k$)は $\ell$ 進 Betti 数である。
本頁の主結果は次の 11 個である。
Grothendieck が 1966 年の講義で $p$ 進コホモロジーの構想を語り始めるにあたって出発点に選んだのは代数的 de Rham コホモロジーである。標数 $0$ の体上では、それが位相的コホモロジーと同じ数を与える純代数的な理論だったからである。可微分多様体の de Rham の定理は de Rham 複体を定数層の分解と見れば一行に書け、複素多様体では正則 de Rham 複体の 超コホモロジー が同じ役を果たす。スキームでは Kähler 微分の複体を使い、$\mathbb C$ 上滑らかなスキームについて解析化との比較定理(Grothendieck Gro66、1966 年)が成り立つ。Lefschetz の原理を通せば、標数 $0$ の任意の体上で de Rham コホモロジーの次元は $\ell$ 進 Betti 数に一致する。原論文 1.5 a) はこれを「望ましい性質をすべて持つ」と言い切る(印字 p. 311)。
しかし標数 $p>0$ では話が変わる。$d(f^p)=pf^{p-1}df=0$ という一つの等式のために、固有でないスキームの $H^0_{dR}$ はすでに無限次元になり、固有かつ滑らかであっても Serre の曲面のように $H^1_{dR}$ が $\ell$ 進の $b_1$ より大きくなる。Euler 標数は正しい値を保ち Lefschetz 不動点公式もあるが、$H^i_{dR}(X/k)$ が $k$ ベクトル空間である以上、跡は不動点の個数を $p$ を法としてしか復元せず、ゼータ関数の有理性のように整数値を要する問題には使えない。
原論文 1.5 は、この長所と限界を列挙したうえで、滑らかさへの依存(1.5 b))、Leray スペクトル系列の代数的定義(1.5 c))、双対性の形式(1.5 d))という三つの問題を挙げ、これらを扱うには de Rham 複体より一般の係数の圏が要ると結論する(印字 pp. 312–313)。本頁はそこまでを追い、$\ell$ 進コホモロジーの批判と $p$ 進理論への要請(1.6〜1.8)は本書『1-2 ℓ 進コホモロジーの批判と p 進コホモロジーの要請』に譲る。
三つの舞台(可微分多様体、複素多様体、スキーム)で同じ形の複体を扱う。原論文は三つとも $\Omega^\bullet_{X/\mathbb C}$ と書くが、本頁は $\mathcal A^\bullet_X$、$\Omega^\bullet_X$、$\Omega^\bullet_{X/S}$ と書き分ける。
$X$ をパラコンパクト Hausdorff な $C^\infty$ 多様体とし、$\mathcal A^j_X$ を複素数値 $C^\infty$ 関数を係数とする $C^\infty$ $j$ 形式の層、$d$ を外微分とする。複体 $\mathcal A^\bullet_X\colon\mathcal A^0_X\xrightarrow{d}\mathcal A^1_X\xrightarrow{d}\cdots$ を $X$ の($C^\infty$)de Rham 複体という。実数値の版 $\mathcal A^\bullet_{X,\mathbb R}$ も同様に定める。$X$ が複素多様体のときは、$\Omega^j_X$ を正則 $j$ 形式の層とし、$\Omega^\bullet_X\colon\Omega^0_X\xrightarrow{d}\Omega^1_X\to\cdots$ を正則 de Rham 複体という。$\Omega^j_X$ は連接解析層だが 1 の分割をもたない。原論文は多様体にパラコンパクト性を書かないが、細かい層の非輪状性に要るので本頁は仮定する。
スキームの側の定義は本書『0-2 de Rham コホモロジーと比較定理の復習』に置いたとおりで、ここでは短く繰り返す。
$f\colon X\to S$ をスキームの射とする。相対 Kähler 微分の層 $\Omega^1_{X/S}$(EGA4 §16)の外冪 $\Omega^p_{X/S}$ と外微分 $d$($f^{-1}\mathcal O_S$ 線型だが $\mathcal O_X$ 線型ではない)から相対 de Rham 複体 $\Omega^\bullet_{X/S}$ が定まる。相対 de Rham コホモロジーは超コホモロジー $H^n_{dR}(X/S)=\mathbf H^n(X,\Omega^\bullet_{X/S})$、相対 de Rham 層は $\mathcal O_S$ 加群 $\mathbf R^nf_*\Omega^\bullet_{X/S}$ である(原論文 1.3、印字 pp. 308–309)。愚直な切り捨て $\sigma_{\ge p}\Omega^\bullet_{X/S}$ が定めるスペクトル系列
$$E_1^{p,q}=R^qf_*\Omega^p_{X/S}\Longrightarrow\mathbf R^{p+q}f_*\Omega^\bullet_{X/S}$$
を原論文は式 (1) と呼ぶ(印字 p. 309。後代の名は Hodge–de Rham スペクトル系列)。$S=\operatorname{Spec}k$ のときは $E_1^{p,q}=H^q(X,\Omega^p_{X/k})\Rightarrow H^{p+q}_{dR}(X/k)$ である。
比較定理の主役は、代数的微分形式を解析化して得られる写像である。
$X$ を $\mathbb C$ 上局所有限型で滑らかなスキーム、$X^{an}$ を付随する複素多様体(GAGA、Ser56)、$\varphi\colon X^{an}\to X$ を環付き空間の射とする。$\varphi^*\Omega^p_{X/\mathbb C}\cong\Omega^p_{X^{an}}$ が $d$ と両立するので、超コホモロジーの関手性から標準的な準同型
$$\rho\colon H^n_{dR}(X/\mathbb C)=\mathbf H^n(X,\Omega^\bullet_{X/\mathbb C})\longrightarrow\mathbf H^n(X^{an},\Omega^\bullet_{X^{an}})$$
が定まる(原論文の式 $(*)$、1.4、印字 p. 310)。構成と関手性は参考書『代数的 de Rham コホモロジー』の頁『1-2 解析化と比較写像』による。
本頁の証明の多くは、一つの行に集中したスペクトル系列についての次の補題に帰着する。原論文が「退化する」とだけ書く段を、ここで閉じておく。
$E_r^{p,q}\Rightarrow H^{p+q}$ を第一象限型($p<0$ または $q<0$ で $E_r^{p,q}=0$)の収束するスペクトル系列、$r_0\ge1$ とし、ある行 $q_0$ について $E_{r_0}^{p,q}=0$($q\ne q_0$)とする。このとき $E_{r_0+1}=E_\infty$ で、$H^n\cong E_{r_0+1}^{\,n-q_0,\,q_0}$($n\ge q_0$)、$H^n=0$($n< q_0$)である。とくに $r_0=1$、$q_0=0$ なら $H^n\cong H^n(E_1^{\bullet,0},d_1)$ であり、$r_0\ge2$ なら $E_{r_0}=E_\infty$ で $H^n\cong E_{r_0}^{\,n-q_0,\,q_0}$ である。
段 1(微分の消滅).$d_r\colon E_r^{p,q}\to E_r^{p+r,q-r+1}$ は $q$ を $1-r$ だけ変える。$r\ge\max(r_0,2)$ では $1-r\ne0$ で、$E_r$ は行 $q_0$ に集中している($E_r$ は $E_{r_0}$ の部分商)ので、行 $q_0$ から出る $d_r$ の終点と入る $d_r$ の始点は零の行にあり、$d_r=0$ である。よって $E_{r_0+1}=E_{r_0+2}=\cdots=E_\infty$ で、$r_0\ge2$ なら $d_{r_0}=0$ でもあるから $E_{r_0}=E_\infty$ である。
段 2(収束先の同定).収束により $H^n$ は有限のフィルトレーション $F^pH^n$ をもち $\operatorname{gr}^pH^n\cong E_\infty^{p,n-p}$ である。零でない段は $p=n-q_0$ の一つだけなので $H^n\cong E_\infty^{n-q_0,q_0}$ であり、$n< q_0$ なら $H^n=0$ である。$r_0=1$、$q_0=0$ のときは $E_2^{n,0}=H^n(E_1^{\bullet,0},d_1)$ である。
次の事実は証明せずに引用する。原典の該当箇所は本頁では確認していない。
一行に集中した系列の補題を三つの舞台で順に使う。可微分多様体では第二の系列が、複素多様体では第一の系列が、Stein 多様体と affine スキームでは再び第二の系列が、それぞれ一行に潰れる。
$X$ をパラコンパクト Hausdorff な $C^\infty$ 多様体とする。定数層の増大射 $\mathbb C_X\to\mathcal A^0_X$ が誘導する写像
$$H^n(X,\mathbb C)\longrightarrow H^n\bigl(\Gamma(X,\mathcal A^\bullet_X)\bigr)$$
は各 $n$ で同型である。実係数でも $H^n(X,\mathbb R)\cong H^n(\Gamma(X,\mathcal A^\bullet_{X,\mathbb R}))$ が成り立つ。
段 1(分解).各点は星型開集合に同相な近傍をもつので、引用する事実 1 により $0\to\mathbb C_X\to\mathcal A^0_X\xrightarrow{d}\mathcal A^1_X\to\cdots$ は層の完全列、すなわち $\mathbb C_X\to\mathcal A^\bullet_X$ は擬同型であり、$H^n(X,\mathbb C)=\mathbf H^n(X,\mathbb C_X)\cong\mathbf H^n(X,\mathcal A^\bullet_X)$ である。
段 2(大域切断への帰着).引用する事実 2 により各 $\mathcal A^j_X$ は細かい層で $\Gamma$ 非輪状である。第二のスペクトル系列(引用する事実 3)$E_1^{p,q}=H^q(X,\mathcal A^p_X)$ は $q=0$ の行に集中し、上の補題(一行に集中したスペクトル系列。$r_0=1$、$q_0=0$)により $\mathbf H^n(X,\mathcal A^\bullet_X)\cong H^n(\Gamma(X,\mathcal A^\bullet_X))$ である。段 1 と合成した写像が増大射の誘導する写像であることは、辺写像の構成から従う。
段 3(実係数).Poincaré の補題は実係数でも成り立ち、実数値 $C^\infty$ 形式の層も細かいので、段 1・2 を $\mathbb R$ で繰り返せばよい(原論文は「同様」とだけ書く。1.1 末、印字 p. 307)。
複素多様体では正則形式の層 $\Omega^j_X$ が細かくないので、第二の系列は一般に一行に潰れない。代わりに正則 Poincaré の補題が第一の系列を潰す。第二の系列が潰れるのは Stein 多様体のときである。
$X$ を複素多様体とする。増大射 $\mathbb C_X\to\Omega^0_X$ は同型 $H^n(X,\mathbb C)\cong\mathbf H^n(X,\Omega^\bullet_X)$ を誘導する。$X$ が Stein 多様体なら、さらに $\mathbf H^n(X,\Omega^\bullet_X)\cong H^n(\Gamma(X,\Omega^\bullet_X))$、したがって $H^n(X,\mathbb C)\cong H^n(\Gamma(X,\Omega^\bullet_X))$ である。
段 1(第一の系列).引用する事実 1(正則版)により $\mathcal H^0(\Omega^\bullet_X)=\mathbb C_X$、$\mathcal H^q(\Omega^\bullet_X)=0$($q>0$)である。第一の系列(引用する事実 3)$E_2^{p,q}=H^p(X,\mathcal H^q(\Omega^\bullet_X))$ は $q=0$ の行 $E_2^{p,0}=H^p(X,\mathbb C)$ に集中する。上の補題($r_0=2$、$q_0=0$)により $E_2=E_\infty$ で $\mathbf H^n(X,\Omega^\bullet_X)\cong E_2^{n,0}=H^n(X,\mathbb C)$、辺写像は増大射の誘導する写像である。
段 2(Stein の場合).$\Omega^p_X$ は連接解析層なので、$X$ が Stein なら引用する事実 2 により $H^q(X,\Omega^p_X)=0$($q>0$)である。第二の系列 $E_1^{p,q}=H^q(X,\Omega^p_X)$ は $q=0$ の行 $E_1^{p,0}=\Gamma(X,\Omega^p_X)$ に集中し、$d_1=d$ である。上の補題($r_0=1$、$q_0=0$)により $\mathbf H^n(X,\Omega^\bullet_X)\cong H^n(\Gamma(X,\Omega^\bullet_X))$ である。
Stein 性が外せないことは、本頁の反例「Stein 性を外すと大域正則形式の複体は超コホモロジーを計算しない」が示す。スキームでは、affine スキームが Stein 多様体の役を果たし、同じ論法が相対 de Rham 層の準連接性・連接性まで運んでくれる。
$f\colon X\to S$ をスキームの射とする。
段 1(affine の場合).第二の系列(引用する事実 3)$E_1^{p,q}=H^q(X,\Omega^p_{X/S})$ を考える。$\Omega^p_{X/S}$ は準連接(引用する事実 6)で $X$ は affine なので、引用する事実 4 により $E_1^{p,q}=0$($q>0$)である。上の補題($r_0=1$、$q_0=0$)により主張 1 を得る。$\Omega^\bullet_{X/S}$ が有界でなくても、全次数 $n$ に寄与する項は有限個なので同じ論法が通る。
段 2(切り捨てによる帰着).$K^\bullet$ を $K^p=0$($p<0$)なる層の複体とする。愚直な切り捨ての短完全列 $0\to\sigma_{\ge n+2}K^\bullet\to K^\bullet\to\sigma_{\le n+1}K^\bullet\to0$ の長完全列
$$\mathbf R^nf_*(\sigma_{\ge n+2}K^\bullet)\to\mathbf R^nf_*K^\bullet\to\mathbf R^nf_*(\sigma_{\le n+1}K^\bullet)\to\mathbf R^{n+1}f_*(\sigma_{\ge n+2}K^\bullet)$$
で、$\sigma_{\ge n+2}K^\bullet$ は次数 $n+2$ 以上に集中するので両端は零である。よって $\mathbf R^nf_*K^\bullet\cong\mathbf R^nf_*(\sigma_{\le n+1}K^\bullet)$ であり、有界複体 $\sigma_{\le n+1}\Omega^\bullet_{X/S}$ だけを見ればよい。
段 3(長さについての帰納法).$f$ を準コンパクト準分離、$K^\bullet$ を準連接層の有界複体(次数 $[m,M]$ に集中)とし、各 $\mathbf R^jf_*K^\bullet$ が準連接であることを $M-m$ についての帰納法で示す。$M=m$ なら $K^\bullet=K^m[-m]$ で $\mathbf R^jf_*K^\bullet=R^{j-m}f_*K^m$ は準連接である(引用する事実 4)。一般には短完全列 $0\to\sigma_{\ge m+1}K^\bullet\to K^\bullet\to K^m[-m]\to0$ の長完全列
$$R^{j-1-m}f_*K^m\xrightarrow{\ a\ }\mathbf R^jf_*(\sigma_{\ge m+1}K^\bullet)\to\mathbf R^jf_*K^\bullet\to R^{j-m}f_*K^m\xrightarrow{\ b\ }\mathbf R^{j+1}f_*(\sigma_{\ge m+1}K^\bullet)$$
で、帰納法の仮定により両端の項は準連接なので、$\operatorname{coker}a$ の $\ker b$ による拡大である $\mathbf R^jf_*K^\bullet$ は準連接である(引用する事実 4)。段 2 と合わせて主張 2 を得る。原論文の「系列 (1) を使う」(印字 p. 309)を三角ごとに分けたものである。
段 4(連接性).$f$ が固有なら局所有限型なので $\Omega^p_{X/S}$ は連接(引用する事実 6)で、固有射の有限性定理(引用する事実 5)により $R^qf_*\Omega^p_{X/S}$ は連接である。段 3 の帰納法を、連接層が核・余核・拡大で閉じること(引用する事実 4)で繰り返せば主張 3 の前半を得る。$S=\operatorname{Spec}k$ は一点なので $\mathbf R^nf_*\Omega^\bullet_{X/k}$ の大域切断は $H^n_{dR}(X/k)$ そのものであり、$\operatorname{Spec}k$ 上の連接層は有限次元ベクトル空間である。
固有性を外すと連接性が破れることは、標数 $p$ では本頁の定理(標数 $p$ での有限性の破綻)が示す。次は底変換である。de Rham 複体の微分は $\mathcal O_X$ 線型でないが、項ごとの引き戻しが $d$ と両立する(引用する事実 6)ので $p^*\Omega^\bullet_{X/S}=\Omega^\bullet_{X'/S'}$ は複体として意味をもつ。
$f\colon X\to S$ を準コンパクト・分離的・滑らかな射、$g\colon S'\to S$ を任意の射、$X'=X\times_SS'$、$f'\colon X'\to S'$、$p\colon X'\to X$ とする。標準的な底変換射
$$\beta\colon\mathbf Lg^*\bigl(\mathbf Rf_*\Omega^\bullet_{X/S}\bigr)\longrightarrow\mathbf Rf'_*\bigl(\Omega^\bullet_{X'/S'}\bigr)$$
は $D(S')$ の同型である。とくに $g$ が平坦なら、各 $n$ について $g^*H^n_{dR}(X/S)\cong H^n_{dR}(X'/S')$ である。
段 1(局所化).$\beta$ が同型であることは $S'$ 上局所的である(引用する事実 8。$\mathbf Rf_*$ も $S$ の開集合への制限と可換である)。$S$ の affine 開集合 $\operatorname{Spec}A$ と、その逆像に含まれる $S'$ の affine 開集合 $\operatorname{Spec}A'$ をとれば、$S=\operatorname{Spec}A$、$S'=\operatorname{Spec}A'$ としてよい。
段 2(Čech 模型).$X$ は準コンパクトなので有限 affine 開被覆 $\mathfrak U=(U_i)$ をもち、$X$ が $S$ 上分離的なので交わり $U_{i_0\cdots i_s}$ も affine である(引用する事実 7)。$C^\bullet=\operatorname{Tot}\check C(\mathfrak U,\Omega^\bullet_{X/S})$ とおく。各項は $\Gamma(U,\Omega^p_{X/S})$($U=\operatorname{Spec}B$ は交わりの一つ)の有限直和で、$\Omega^p_{X/S}|_U$ は有限階数の局所自由(引用する事実 6)なので有限生成射影 $B$ 加群、$B$ は $A$ 上平坦なので $A$ 上平坦である。被覆が有限で各 $U_i$ 上 $\Omega^\bullet_{X/S}$ は有界なので、$C^\bullet$ は平坦 $A$ 加群の有界複体である。引用する事実 7 により、付随する準連接層の複体 $\widetilde{C^\bullet}$ は $D(S)$ で $\mathbf Rf_*\Omega^\bullet_{X/S}$ と同型である。
段 3(テンソル).引用する事実 8 により $\mathbf Lg^*\widetilde{C^\bullet}=\widetilde{C^\bullet\otimes_AA'}$ である。項ごとに $\Gamma(U,\Omega^p_{X/S})\otimes_AA'=\Gamma(U\times_SS',p^*\Omega^p_{X/S})$(affine 上の準連接層の底変換)と $p^*\Omega^p_{X/S}=\Omega^p_{X'/S'}$(引用する事実 6、$d$ と両立)から、$C^\bullet\otimes_AA'=\operatorname{Tot}\check C(\mathfrak U',\Omega^\bullet_{X'/S'})$、ここで $\mathfrak U'=(U_i\times_SS')$ は $X'$ の有限 affine 開被覆である。$X'/S'$ も準コンパクト・分離的・滑らか(引用する事実 6)なので、段 2 により付随する準連接層の複体は $D(S')$ で $\mathbf Rf'_*\Omega^\bullet_{X'/S'}$ と同型である。
段 4(射の同一視).$\beta$ は随伴射 $\mathbf Lg^*\mathbf Rf_*\to\mathbf Rf'_*\mathbf Lp^*$ と $\mathbf Lp^*\Omega^\bullet_{X/S}\to p^*\Omega^\bullet_{X/S}=\Omega^\bullet_{X'/S'}$ の合成である。Čech 複体の関手性により、affine 底の上ではこれは段 3 の項ごとの同型 $\Gamma(U,\Omega^p_{X/S})\otimes_AA'\to\Gamma(U',\Omega^p_{X'/S'})$ で表される。$g$ が平坦なら $\mathbf Lg^*=g^*$ は完全なので、コホモロジー層をとって最後の主張を得る。
原論文(印字 p. 309)は $f$ を準コンパクト準分離とし、そのうえで滑らかさを足す。本頁は Čech 複体を使うため準分離を分離に強めた。準分離のみの場合は超被覆による模型が要り、本書は閉じていない。分離性は第 2 章で使う固有な持上げと affine の場合をどちらも覆う。
$g$ が平坦でないときは $\mathbf Lg^*$ のコホモロジー層に Tor 項が混じり、個々の相対 de Rham 層が底変換と可換とは限らない。原論文は続けて、標数 $0$ ならこの困難が消えると述べる。
原論文(1.3 末、印字 pp. 309–310)は、$S$ が標数 $0$($\mathbb Q$ 上のスキーム)で局所ネーター的、$f\colon X\to S$ が固有かつ滑らかなら、各 $H^n_{dR}(X/S)$ は局所自由で、したがって任意の底変換と可換である、と「超越的論法により」とだけ添えて主張する。本頁で閉じられるのは連接性と平坦な底変換(上の二つの定理)だけで、足りない段は三つある。(a) ファイバーごとの次元 $\dim_{\kappa(s)}H^n_{dR}(X_s/\kappa(s))$ が連結成分上で一定であること($\mathbb C$ 上有限型の $S$ の閉点では引用する事実 10 と Ehresmann の定理に帰着するが、一般の $S$ は本書は書いていない)。(b) $S$ が被約でファイバー次元が一定なら局所自由・底変換可換という「コホモロジーと底変換」の判定(EGA3 §7 の型)。(c) $S$ が被約でない場合には Hodge–de Rham スペクトル系列の退化(Deligne Del68、1968 年)が要る。本書『0-2 de Rham コホモロジーと比較定理の復習』の「相対 de Rham 層の基本性質」の第 5 項はこの主張を後代の定理として引いており、本頁も未完結のまま「その後の発展」に送る。
相対理論の土台はこれで揃った。標数 $0$ で de Rham コホモロジーが「望ましい性質をすべて持つ」根拠は、$\mathbb C$ 上の比較定理である。
段 1(主張 1).引用する事実 9 そのものである。原論文は証明を Gro66 に送り、一般には Hironaka の特異点解消が要ると注意する(印字 p. 310)。$X$ が固有なら、第二の系列 $E_1^{p,q}=H^q(X,\Omega^p_{X/\mathbb C})$ と $X^{an}$ の同じ系列を $\rho$ が結び、GAGA(Ser56)により $E_1$ 項が同型なので収束先も同型になる(引用する事実 9 の後半)。
段 2(主張 2).$X^{an}$ は複素多様体なので、上の定理(複素多様体と Stein 多様体の de Rham コホモロジー)により $H^n(X^{an},\mathbb C)\cong\mathbf H^n(X^{an},\Omega^\bullet_{X^{an}})$ である。主張 1 と合成する。
段 3(主張 3).原論文は Theorem 1.2 と Lefschetz の原理による、と述べるだけである。引用する事実 10 がその筋を実行している:$X$ を $\mathbb Q$ 上有限生成な部分体 $k_0\subset k$ の上のスキーム $X_0$ に降ろし、$k_0\hookrightarrow\mathbb C$ で主張 2 に帰着し、エタール側は SGA 4 の比較定理と底変換不変性で $X^{an}_{0,\mathbb C}$ の特異コホモロジーに帰着する。
主張 3 に固有性が要らないことは注目に値する。標数 $0$ では固有でない滑らかなスキームでも de Rham コホモロジーは有限次元で正しい Betti 数を与える。以下、標数 $p>0$ でこれがどう破れるかを見る。
$k$ を標数 $p>0$ の体、$X$ を $k$ 上 affine かつ有限型で $\dim X\ge1$ のスキームとする。$\Gamma(X,\mathcal O_X)^p=\{h^p:h\in\Gamma(X,\mathcal O_X)\}$ は $H^0_{dR}(X/k)$ に含まれ、$H^0_{dR}(X/k)$ は $k$ 上無限次元である。とくに affine 曲線で成り立ち、$H^0_{dR}(X/k)$ は $\operatorname{Spec}k$ 上の連接層ではない。
段 1($H^0$ の記述).$X=\operatorname{Spec}A$ は affine なので、上の定理(相対 de Rham 層の準連接性と連接性)の主張 1 により $H^0_{dR}(X/k)=\ker(d\colon A\to\Omega^1_{A/k})$ である。
段 2($p$ 乗は閉).Leibniz 則により $d(h^p)=ph^{p-1}dh=0$($k$ では $p=0$)なので $A^p\subset H^0_{dR}(X/k)$ である。$A^p$ は $k$ 部分空間ではなく $k^p$ 部分空間だが、以下ではその張る $k$ 部分空間が無限次元であることを示す。
段 3(超越元).$A$ は $k$ 上有限型で $\dim A\ge1$ なので、$k$ 上超越的な元 $x\in A$ がある。実際、$A$ のすべての元が $k$ 上代数的なら $A$ は $k$ 上整で、有限生成なので有限次元 $k$ 代数、したがって Artin 環で $\dim A=0$ となり矛盾する。$x$ が超越的なので $x^{mp}$($m\ge0$)は $A$ の中で $k$ 上線型独立であり、すべて $A^p\subset H^0_{dR}(X/k)$ に入る。よって $H^0_{dR}(X/k)$ は無限次元である。
標数 $0$ で固有性が要らなかった有限次元性は、こうして標数 $p$ では最初の $H^0$ からすでに破れる。固有性を課せば有限次元にはなる(上の定理の主張 3)が、こんどは Betti 数との一致が破れる。
$k$ を標数 $p>0$ の代数閉体とする。$k$ 上固有かつ滑らかな曲面 $X$ で $\dim_kH^1_{dR}(X/k)=1$ かつ $b_1(X)=0$ となるものがある。
原論文は「[5], p. 103」を指すだけで例を書かない(1.5 a) 脚注、印字 p. 311)。その頁は Gro66 の原注 (12) の載る頁で、Serre の曲面($\mathbb Z/p$ が自由に作用する $\mathbb P^3_k$ の非特異曲面 $Y$ の商 $X=Y/(\mathbb Z/p)$)を指す。引用する事実 11 により $\dim H^0(X,\Omega^1_{X/k})=0$、$\dim H^1(X,\mathcal O_X)=1$、$\dim H^1_{dR}(X/k)=1$、$b_1(X)=0$ である。計算は参考書『代数的 de Rham コホモロジー』の頁『5-1 相対 de Rham 層と Serre の反例』が閉じており、本頁は繰り返さない。
原論文は同じ箇所で、$H^1_{dR}$ の次元が Picard 多様体の次元の 2 倍を下回らないと証明なしに述べる。Serre の曲面がその厳密な例であること($b_1=0$ から $\dim\operatorname{Pic}_{X/k}=0$)は本書は確かめていない。
原論文(1.5 a) と脚注、印字 p. 311)は、標数 $p>0$ の体上固有な $X$ について「少なくとも $X$ が幾何的に正規なら」$\dim_kH^1_{dR}(X/k)\ge2\dim\operatorname{Pic}_{X/k}$ であると述べる。本書はこれを閉じていない。想定される道は、$P=(\operatorname{Pic}^0_{X/k})_{\mathrm{red}}$ がアーベル多様体であること($\operatorname{Pic}^0$ の固有性に幾何的正規性が要ると読める。Picardスキーム)、その双対 $A$ への Albanese 型の射 $\alpha\colon X\to A$ について $\alpha^*\colon H^1_{dR}(A/k)\to H^1_{dR}(X/k)$ の単射性、$\dim H^1_{dR}(A/k)=2\dim A$(参考書『代数的 de Rham コホモロジー』の頁『4-2 アーベル多様体の 1 次 de Rham コホモロジーと拡大類』)の三つを合わせるものである。Hodge フィルトレーションの $\operatorname{gr}^0$ での単射性は $P\hookrightarrow\operatorname{Pic}_{X/k}$ の接写像で得られるが、$\operatorname{gr}^1$、すなわち不変 1 形式の引き戻し $H^0(A,\Omega^1_{A/k})\to H^0(X,\Omega^1_{X/k})$ の単射性は標数 $p$ では非分離性のため本書は示せない。
個々の Betti 数は合わなくても、交代和は合う。原論文は「Riemann–Roch により」とだけ書くが、そこには二つの結果が隠れている。
$k$ を標数 $p>0$ の体、$X$ を $k$ 上固有かつ滑らかで純 $n$ 次元のスキーム、$\ell\ne p$ とする。
$$\sum_i(-1)^i\dim_kH^i_{dR}(X/k)=\sum_i(-1)^ib_i(X).$$
段 1(有限個の有限次元の項).上の定理(相対 de Rham 層の準連接性と連接性)の主張 3 により各 $H^i_{dR}(X/k)$ と各 $H^q(X,\Omega^p_{X/k})$ は有限次元である。$\Omega^p_{X/k}=0$($p>n$)、$H^q(X,\Omega^p_{X/k})=0$($q>n$。引用する事実 12)なので、第二の系列の零でない $E_1$ 項は有限個で、すべて有限次元である。
段 2(スペクトル系列で Euler 標数は保たれる).$E_{r+1}=H(E_r,d_r)$ で $d_r$ は全次数を $1$ 上げるので、$E_r$ は全次数について有限次元の有界複体であり、その Euler 標数はコホモロジーのそれに等しい。よって $\chi(E_{r+1})=\chi(E_r)$ であり、$r$ が十分大きければ $E_r=E_\infty$ である。$H^m_{dR}(X/k)$ は有限フィルトレーションをもち $\operatorname{gr}^pH^m_{dR}\cong E_\infty^{p,m-p}$ なので $\dim H^m_{dR}=\sum_p\dim E_\infty^{p,m-p}$ である。合わせて
$$\sum_i(-1)^i\dim_kH^i_{dR}(X/k)=\sum_{p,q}(-1)^{p+q}\dim_kH^q(X,\Omega^p_{X/k})=\sum_p(-1)^p\chi(X,\Omega^p_{X/k}).$$
段 3(Riemann–Roch).引用する事実 12 の後半により右辺は $\deg c_n(T_{X/k})$ である。これが原論文の言う Riemann–Roch の内容である。
段 4($\ell$ 進側).$\bar k$ への底変換は平坦なので、上の定理(導来圏での底変換)により左辺の各次元は変わらず、$b_i(X)$ はもともと $X_{\bar k}$ で定義されている。$k$ 代数閉として引用する事実 13 により $\deg c_n(T_{X/k})=\sum_i(-1)^ib_i(X)$ である。この段は原論文が名指ししない部分で、本頁が補った。
原論文(印字 p. 311)は $X$ を固有としか言わないが、Riemann–Roch と $c_n(T_X)$ のために本頁は滑らかさと純次元を足した。原論文は続けて、de Rham 複体そのものの限界を三つ挙げる。
原論文 1.5 b)(印字 pp. 311–312)は、de Rham コホモロジーが滑らかさの仮定に強く縛られているように見える一方で、滑らかなスキームの間の射のファイバーは滑らかとは限らない(例:$(x,y)\mapsto xy$ の原点上のファイバー。本頁の補足)ので、理論を滑らかなスキームに限るべきでない、と観察する。1.5 c)(印字 p. 312)は、$\mathbb C$ 上滑らかなスキームの滑らかな射 $f\colon X\to Y$ の位相的な Lerayスペクトル系列 $E_2^{p,q}=H^p(Y^{an},R^qf^{an}_*\mathbb C)\Rightarrow H^{p+q}(X^{an},\mathbb C)$ について、収束先は上の定理(比較定理と標数 0 での Betti 数)により、初項も Gauss–Manin接続(本書『3-2 Gauss–Manin 接続の代数的構成』)により代数的に定義できるので、系列そのものの純代数的な定義がほしい、と問う。どちらも観察と問題であり、本書は判定しない。
原論文 1.5 d)(印字 p. 312)は次の三つを証明なしに述べる。(i) $X$ が $k$ 上固有かつ滑らかなら、de Rham コホモロジーに通常の双対性の形式がある(Hodge コホモロジーの Gro57 と類似)。(ii) de Rham の Lefschetz 不動点公式もあるが、$H^i_{dR}(X/k)$ は $k$ ベクトル空間なので不動点の個数を標数を法としてしか与えない。(iii) Har66 の $f_!$・$f^!$ の形式をもつより一般の双対性が de Rham にあれば、特異な $X/k$ のホモロジー群の純代数的定義が得られるだろう(願望)。言明の形は本書『0-2 de Rham コホモロジーと比較定理の復習』の「Poincaré 双対と Lefschetz 不動点公式の状況」に置き、同頁の例「射影直線の Frobenius」(Lefschetz 数は $1$、不動点は $p+1$ 個)が (ii) の「標数を法として」の意味を示す。本書が閉じていないのは、跡写像 $H^{2n}_{dR}(X/k)\cong k$ の構成、Hodge フィルトレーションと両立する非退化性、不動点公式の言明と証明である。よって (i)(ii) は未完結、(iii) は判定対象外である。
(ii) の「標数を法として」が、$p$ 進コホモロジーに整数値の跡を求める動機であり、本書『1-2 ℓ 進コホモロジーの批判と p 進コホモロジーの要請』の要請の一覧へつながる。
まず、標数 $0$ と $p$ の違いが最も簡単に見える affine の例である(参考書『代数的 de Rham コホモロジー』の頁『1-1 de Rham 複体と超コホモロジー』にもある)。
上の定理(相対 de Rham 層の準連接性と連接性)の主張 1 により、$\mathbb A^1_k=\operatorname{Spec}k[x]$ と $\mathbb G_{m,k}=\operatorname{Spec}k[x,x^{-1}]$ の de Rham コホモロジーは複体 $A\xrightarrow{d}A\,dx$ で計算でき、$d(x^m)=mx^{m-1}dx$ である。
固有な場合には、標数 $p$ でも Betti 数が合う例は多い。楕円曲線がそれである。
$k$ を代数閉体、$E$ を $k$ 上の楕円曲線とする。$H^0(E,\mathcal O_E)=k$、$H^1(E,\mathcal O_E)\cong k$、$H^0(E,\Omega^1_{E/k})\cong k$($\Omega^1_{E/k}\cong\mathcal O_E$)、$H^1(E,\Omega^1_{E/k})\cong k$ である。$d_1\colon H^0(\mathcal O_E)\to H^0(\Omega^1_{E/k})$ は定数の微分なので零である。$d_1\colon H^1(E,\mathcal O_E)\to H^1(E,\Omega^1_{E/k})$ も零である:閉点 $P$ をとり $U_0=E\setminus\{P\}$、$U_1$ を $P$ の affine 近傍とすると、$H^1(E,\Omega^1_{E/k})$ の類は $\omega\in\Omega^1(U_0\cap U_1)$ で代表され、留数 $\operatorname{res}_P\omega$ は類にだけ依り($U_1$ 上正則なら明らかに、$U_0$ 上正則なら留数定理により、$P$ での留数は $0$)、$\operatorname{res}_P\colon H^1(E,\Omega^1_{E/k})\to k$ は同型である(Serre 双対、Har77 III.7)。$h\in\mathcal O(U_0\cap U_1)$ の類の像は $[dh]$ で、完全微分の留数は標数によらず $0$($d(\sum a_mt^m)$ に $t^{-1}dt$ の項は無い)なので $d_1[h]=0$ である。よって系列は $E_1$ で退化し、標数によらず $\dim H^1_{dR}(E/k)=2=b_1(E)$ である。同じ留数の論法は種数によらず通り、滑らかな固有曲線では不一致は起きない。
次の二つは反例で、それぞれ Stein 性と滑らかさを外す。
上の定理(複素多様体と Stein 多様体の de Rham コホモロジー)の後半から Stein 性を外す。$X=\mathbb{CP}^1$ はコンパクトなので Stein でない。$\Gamma(X,\Omega^0_X)=\mathbb C$、$\Gamma(X,\Omega^1_X)=0$ なので大域正則形式の複体の $2$ 次コホモロジーは $0$ だが、定理の前半により $\mathbf H^2(X,\Omega^\bullet_X)\cong H^2(X,\mathbb C)\cong\mathbb C$ である。
上の定理(導来圏での底変換)から滑らかさを外し、平坦性は残す。$k$ を標数 $\ne2$ の体、$S=\operatorname{Spec}k[s]$、$X=\operatorname{Spec}A$、$A=k[s,x]/(x^2-s)\cong k[x]$($s=x^2$)とし、$g\colon S'=\operatorname{Spec}k\to S$ を $s=0$ とする。$X$ は $S$ 上 affine・平坦($k[x]$ は $k[x^2]$ 上自由)で、$s=0$ のファイバーで滑らかでない。$\Omega^1_{A/k[s]}=k[x]\,dx/(2x\,dx)$ なので $dh$ は $h'(0)\,dx$ の類に等しく、$H^0_{dR}(X/S)=\{h:h'(0)=0\}=k[x^2]\oplus x^3k[x^2]$($k[s]$ 上自由で階数 $2$)、$H^1_{dR}(X/S)=0$ である。よって $\mathbf Rf_*\Omega^\bullet_{X/S}\simeq H^0_{dR}(X/S)$(次数 $0$)で、$\mathbf Lg^*$ を施すと $k^2$ である。一方 $X'=\operatorname{Spec}k[x]/(x^2)$ では $\Omega^1_{X'/k}=(k[x]/(x^2))dx/(2x\,dx)\cong k\,dx$、$d(a+bx)=b\,dx$ なので $H^0_{dR}(X'/k)=k$、$H^1_{dR}(X'/k)=0$ である。
以下は原論文の主張ではなく後代の結果の紹介である(本頁の執筆時点 2026 年の知識による)。概観は Ill94 と Stacks の結晶コホモロジーの章にある。参考文献表に無い文献は本書は開いていない。
本頁が対応する原論文は Crystals and the De Rham cohomology of schemes Gro68c である。
| 本頁 | 原論文 | 印字頁 |
|---|---|---|
| 定義(可微分多様体と複素多様体の de Rham 複体)、定理(de Rham の定理) | 小節 1.1、Theorem 1.1 | 307 |
| 定理(複素多様体と Stein 多様体の de Rham コホモロジー) | 小節 1.2 | 307–308 |
| 定義(相対 de Rham コホモロジーと相対 de Rham 層)、定理(相対 de Rham 層の準連接性と連接性) | 小節 1.3、式 (1) | 308–310 |
| 定理(導来圏での底変換)、注意(標数 0 での局所自由性と底変換) | 小節 1.3 | 309–310 |
| 定義(比較写像)、定理(比較定理と標数 0 での Betti 数)の 1・2 | 小節 1.4、Theorem 1.2、Corollary | 310 |
| 同 3、定理(標数 $p$ での有限性の破綻)、定理(Serre の曲面と Betti 数の不一致)、注意(Picard 多様体の次元との不等式)、定理(Betti 数の交代和) | 小節 1.5 a) と脚注 | 311 |
| 注意(滑らかさへの依存と Leray スペクトル系列の問題) | 小節 1.5 b)・c) | 311–312 |
| 注意(双対性と Lefschetz 不動点公式の mod p 性)、背景と動機(係数の圏の必要) | 小節 1.5 d) と末尾 | 312–313 |
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