標数 $0$ の底スキーム $S$ 上の滑らかなスキーム $X$ について、無限小トポスの構造層のコホモロジーが代数的 de Rham コホモロジーと標準的に同型になるという原論文の基本定理(Theorem 4.1)を言明し、証明を本書『5-3 基本定理の証明』へ送る前に、その証明の土台となる Čech 型の計算を閉じる。stratifying 景では恒等射 $X\to X$ の表す層が終対象を覆うので、係数の二条件の下で、$X$ が affine なら stratifying コホモロジーは対角線に沿った形式完備化の値の余単体複体で、一般には $X_{\mathrm{zar}}$ 上の余単体層の超コホモロジーで計算できる。無限小景では恒等射の表す層が終対象を覆わないので、形式的滑らかなスキーム $Y$ へのはめ込みを取って同じ計算を行う。
前提知識: Grothendieck位相, スペクトル系列, 超コホモロジー, Čechコホモロジー, de Rhamコホモロジー
$S$ を底スキーム、$X$ を $S$ 上のスキームとし、無限小景 $\operatorname{Inf}(X/S)$、stratifying 景 $\operatorname{Strat}(X/S)$、そのトポス $(X/S)_{\inf}$、$(X/S)_{\mathrm{strat}}$ と構造層 $\mathcal O_{X/S}$ は本書『4-1 infinitesimal 景と stratifying 景』のとおりとする。$X^{\nu+1}=X\times_S\cdots\times_SX$($\nu+1$ 個)の対角線の $n$ 次無限小近傍を $\Delta^{(n)}_\nu$、その $\nu+1$ 個の射影を $p_0,\dots,p_\nu$ と書く($\nu=1$ のとき 4-1 の $p_1,p_2$ が本頁の $p_0,p_1$)。景の対象 $Z$ が表す層を $\tilde Z$ と書き、恒等射 $(X\hookrightarrow X)$ が表す層を $\tilde X$ と書く。「標数 $0$」は $S$ が $\mathbb Q$ 上のスキームであることをいう。
本頁の主結果は次の八つである。
第 4 章で、$X$ の開集合の冪零な厚み $U\hookrightarrow T$ を対象とする無限小景と、局所的にレトラクションをもつ対象だけからなる stratifying 景を定義し、stratifying 景の上の special 加群が stratification 付き $\mathcal O_X$ 加群と同じものであることを見た(本書『4-1 infinitesimal 景と stratifying 景』)。標数 $0$ で滑らかなら stratification は可積分接続と同じものである(本書『4-2 接続・stratification・可積分性』)。原論文の §4 はこの枠組みの上に、構造層 $\mathcal O_{X/S}$ のコホモロジーが標数 $0$ で代数的 de Rham コホモロジーを再現するという基本定理(Theorem 4.1)を置く。原論文はここから、標数 $p$ では無限小景を結晶景に替えれば同じ定理が成り立つだろうと見込み(本書『6-1 結晶景と接続景』)、結晶の構想へ進む。
定理を証明するには、トポスのコホモロジーを Zariski 位相の上の具体的な複体に翻訳する道具が要る。原論文の §5 がそれで、方法は Čech 型のスペクトル系列である。トポスの対象 $\tilde X$ が終対象を覆えば、$\tilde X$ の積の Čech 脈体からトポスのコホモロジーへ収束するスペクトル系列がある(本書『0-5 景・トポス・微分作用素』)。stratifying 景では恒等射 $X\to X$ が表す層がこの役を果たし、その $\nu+1$ 重積は $X^{\nu+1}$ の対角線の無限小近傍が表す層の帰納極限になる。係数が準連接ではめ込みに沿って引き戻しで決まるなら、$X$ が affine のとき高次の項が消えて、コホモロジーは「対角線に沿った形式完備化の上の値」の余単体複体で計算できる。これは位相空間の定数層の Čech–Alexander 余鎖の代数的な類似であり(本書『5-2 冪零はめ込みでの不変性と微分作用素』)、基本定理の証明(本書『5-3 基本定理の証明』)は、この余単体複体を微分作用素の複体と比べることで進む。
景と景上の層、トポスのコホモロジー、Čech 型スペクトル系列、Milnor 完全列、余単体対象の一般論は本書『0-5 景・トポス・微分作用素』に置いた。ここでは本頁で使う対象と記号を定める。
$\nu\ge0$ について $X^{\nu+1}=X\times_S\cdots\times_SX$($\nu+1$ 個)とし、対角射 $X\to X^{\nu+1}$ の像が閉となる開部分スキームの中でそのイデアル層を $\mathcal I_\nu$ とする。$\Delta^{(n)}_\nu=V(\mathcal I_\nu^{n+1})$ を対角線の $n$ 次無限小近傍という($n\ge0$、$\Delta^{(0)}_\nu=X$、$\Delta^{(n)}_1=\Delta^{(n)}$)。$X\hookrightarrow\Delta^{(n)}_\nu$ は冪零はめ込みで、$\nu+1$ 個の射影 $p_j\colon\Delta^{(n)}_\nu\to X$($j=0,\dots,\nu$)はどれもそのレトラクションであり、底空間はすべて $X$ の底空間と同相である。したがって $(X\hookrightarrow\Delta^{(n)}_\nu)$ は $\operatorname{Strat}(X/S)$ の対象で、$n\le n'$ について閉はめ込み $\Delta^{(n)}_\nu\hookrightarrow\Delta^{(n')}_\nu$ は景の射である。$\nu$ を動かすと、順序を保つ写像 $[\mu]\to[\nu]$ による座標の忘却・重複が $\Delta^{(n)}_\nu\to\Delta^{(n)}_\mu$ を誘導し、$\nu\mapsto\Delta^{(n)}_\nu$ は $\operatorname{Strat}(X/S)$ の単体的対象である。$\operatorname{Strat}(X/S)$ 上の加群 $F$ について
$$F(\Delta^{(n)}_\nu):=\Gamma\bigl(\Delta^{(n)}_\nu,F_{(X,\Delta^{(n)}_\nu)}\bigr),\qquad F(X^\nu_{/X}):=\varprojlim_nF(\Delta^{(n)}_\nu)$$
とおく。記号 $X^\nu_{/X}$ は $X^{\nu+1}$ の対角線に沿った形式完備化を指すが、本頁では右辺の射影極限の略記としてだけ使う。$X$ の開集合 $U$ についても $\Delta^{(n)}_\nu\times_XU=\Delta^{(n)}_{\nu,U}$($U^{\nu+1}$ の対角線の近傍)と $F(U^\nu_{/U})$ を同様に定める。
無限小近傍の表す層を帰納極限で束ねたものが Čech 脈体になる。
景 $\mathcal C$ の対象 $Z$ が表す前層 $\operatorname{Hom}(-,Z)$ は、本頁で扱う景(被覆族が $T$ の Zariski 開被覆から来るもの)では層であり、これを $\tilde Z$ と書く。トポスの終対象を $e$ と書く。層 $G$ が終対象を覆うとは $G\to e$ がエピ射であること、すなわち $\mathcal C$ の各対象 $T$ に被覆族 $(T_\lambda\to T)$ があって各 $T_\lambda$ で $G(T_\lambda)\ne\emptyset$ となることをいう。$\tilde Z$ についてはこれは「各対象が局所的に $Z$ への射をもつ」ことである。
$\operatorname{Strat}(X/S)$ または $\operatorname{Inf}(X/S)$ 上の $\mathcal O_{X/S}$ 加群 $F$ を、各対象の上の $\mathcal O_T$ 加群 $F_{(U,T)}$ と遷移射の系とみなす(本書『4-1 infinitesimal 景と stratifying 景』の「無限小景の上の層の記述」)。$F$ が係数の二条件(原論文 5.1 の (1)(2)。本頁では条件 (Q) と呼ぶ)をみたすとは、(1) 各対象 $(U\hookrightarrow T)$ について $F_{(U,T)}$ が $T$ 上の準連接層であり、(2) 射 $j\colon(U\hookrightarrow T)\to(U'\hookrightarrow T')$ で $j\colon T\to T'$ がはめ込みであるものについて遷移射 $j^*F_{(U',T')}\to F_{(U,T)}$ が同型であることをいう。構造層 $\mathcal O_{X/S}$ と、stratification 付きの準連接 $\mathcal O_X$ 加群 $\mathcal E$ に対応する special 加群 $\mathcal E_{\mathrm{strat}}$(4-1 の圏同値)は条件 (Q) をみたす。
原論文は条件 (Q) を「かなり緩められる」と注記するだけで、緩めた形は書かない。本頁では (1) を affine 上の消滅に、(2) を遷移射の全射性(Mittag-Leffler 条件)に使う。
$X_{\mathrm{zar}}$ 上のアーベル群の層の余単体対象 $\mathcal F^\bullet=(\mathcal F^{(\nu)})_{\nu\ge0}$(本書『0-5 景・トポス・微分作用素』の「余単体対象と余単体複体」)に付随する複体を $\mathcal F^{(0)}\to\mathcal F^{(1)}\to\cdots$、微分は余面射の交代和 $\sum_j(-1)^j\partial^j$ とし、その超コホモロジーを $\mathbf H^*(X_{\mathrm{zar}},\mathcal F^\bullet)$ と書く。この複体の $\Gamma$ 非輪状分解を二重複体に取ると、スペクトル系列 $E_2^{pq}=H^p(\nu\mapsto H^q(X_{\mathrm{zar}},\mathcal F^{(\nu)}))\Rightarrow\mathbf H^{p+q}(X_{\mathrm{zar}},\mathcal F^\bullet)$ が得られる。余単体アーベル群 $A^\bullet$ については、付随する複体のコホモロジーを $H^*(\nu\mapsto A^\nu)$ と書く。
$X\hookrightarrow Y$ を $S$ はめ込みで、$Y$ が $S$ 上形式的滑らか(本書『0-4 形式スキーム・持上げ・divided power』)なものとする。$\operatorname{Inf}(X/S)$ 上の集合の前層 $\tilde Y$ を、対象 $(U\hookrightarrow T)$ に「$S$ 射 $T\to Y$ で $U$ 上では合成 $U\subset X\hookrightarrow Y$ に一致するもの」の集合を対応させて定める。被覆族が $T$ の Zariski 被覆なので $\tilde Y$ は層である。$X\hookrightarrow Y$ は冪零とは限らないので $(X\hookrightarrow Y)$ は $\operatorname{Inf}(X/S)$ の対象ではなく、原論文はこの層を引用符付きで「$Y$ が表す層」と呼ぶ。$Y$ における $X$ の $n$ 次無限小近傍を $Y(n)$ とすると $(X\hookrightarrow Y(n))$ は $\operatorname{Inf}(X/S)$ の対象で、$\tilde Y=\varinjlim_n\widetilde{Y(n)}$ である($T$ の中で $U$ のイデアルが冪零なので、$T\to Y$ は $X$ のイデアルの引き戻しをある冪で消し、ある $Y(n)$ を通る)。同様に $Y^{\nu+1}$ における $X$(対角的にはめ込む)の $n$ 次無限小近傍を $X^{(n)}_{Y,\nu}$、$U\subset X$ 開についてその $U$ 上の部分を $U^{(n)}_{Y,\nu}$ と書き、$F(Y^\nu_{/U}):=\varprojlim_nF\bigl(U\hookrightarrow U^{(n)}_{Y,\nu}\bigr)$ とおく。
このようなはめ込みは、$X$ と $S$ が affine なら多項式環のスペクトルへの閉埋入として、$X$ が $S$ 上準射影的で $S$ が豊富な加群をもつなら射影空間束への局所閉はめ込みとして存在する(原論文が挙げる二つの例)。
次の事実は証明せずに引用する。出典は主に SGA4、EGA4、本書の第 0 章と第 4 章で、SGA 4 と EGA の該当箇所の番号は本頁では確認していない。
原論文は Theorem 4.1 を小節 4.3 に置き、証明を §6 へ送る。本書も同じ順序を取る。
$S$ を標数 $0$ のスキーム($\mathbb Q$ 上のスキーム)、$X$ を $S$ 上滑らかなスキームとする。このとき標準同型
$$H^*\bigl((X/S)_{\inf},\mathcal O_{X/S}\bigr)\;\cong\;H^*_{dR}(X/S)=\mathbf H^*(X_{\mathrm{zar}},\Omega^\bullet_{X/S})$$
がある。より一般に、$S$ に関する stratification をもつ準連接 $\mathcal O_X$ 加群 $\mathcal E$ と対応する special 加群 $\mathcal E_{\mathrm{strat}}$ について、$H^*((X/S)_{\mathrm{strat}},\mathcal E_{\mathrm{strat}})\cong\mathbf H^*(X_{\mathrm{zar}},\Omega^\bullet_{X/S}\otimes\mathcal E)$(右辺は stratification の定める可積分接続 $\nabla$ による de Rham 複体の超コホモロジー)。
要点のみ述べる。証明は本書『5-3 基本定理の証明』に置き、ここでは三つの段への帰着だけを示す。
段 1(stratifying 景へ移る).$X/S$ が滑らかなので $\operatorname{Strat}(X/S)=\operatorname{Inf}(X/S)$(引用する事実 7)であり、左辺は $H^*((X/S)_{\mathrm{strat}},\mathcal O_{X/S})$ に等しい。原論文はこの一致を明示しない。
段 2(Čech 計算).構造層は条件 (Q) をみたすので、下の定理(一般の場合の余単体層による計算)により左辺は $X_{\mathrm{zar}}$ 上の余単体層 $\mathcal F^\bullet$、$\mathcal F^{(\nu)}(U)=\mathcal O(U^\nu_{/U})$ の超コホモロジーである。stratification をもつ $\mathcal E$ についても同じで、$\mathcal E_{\mathrm{strat}}$ の余単体層は 5-3 で無限階微分作用素の複体 $C^\bullet(\mathcal E)$ として扱う。
段 3(de Rham 複体との比較).5-3 では、$\mathcal O_X$ 加群 $M$ に Artin–Rees pro-加群 $Q^\circ(M)=(P^n_{X/S}\otimes M)_n$ を対応させる formalizing functor を作り、微分作用素の複体 $M^\bullet$ について $\mathbf H^*(X_{\mathrm{zar}},M^\bullet)\cong\mathbf H^*((X/S)_{\mathrm{strat}},Q^\circ(M^\bullet)_{\mathrm{strat}})$ を示す。$M^\bullet=\Omega^\bullet_{X/S}\otimes\mathcal E$(stratification の定める接続 $\nabla$ が可積分なので複体をなす。引用する事実 7)に取ると、$\mathcal E_{\mathrm{strat}}\to Q^\circ(\Omega^\bullet\otimes\mathcal E)_{\mathrm{strat}}$ が $\operatorname{Strat}(X/S)$ 上の複体の射を与え、標数 $0$ で $X/S$ が滑らかなら形式 Poincaré 補題により擬同型になる。これが同型を与える。
段 3 は「$\mathcal O_X[\![t_1,\dots,t_r]\!]$ の連続 de Rham 複体が $\mathcal O_X$ の分解である」という形式 Poincaré 補題に帰着し、そこで $\mathbb Q\subset\mathcal O_S$ を使う。
(a) 右辺は Kähler 微分の de Rham 複体の Zariski 超コホモロジーで、左辺は冪零な厚みの圏の上の層のコホモロジーである。左辺の定義には微分形式も座標も現れないので、定理は標数 $0$ の de Rham コホモロジーに厚みの幾何だけによる定義を与える。
(b) divided power も Witt ベクトルも言明には現れない。原論文は直後に、任意の標数では無限小景を結晶景に替えれば同じ定理が成り立つ「ように思われる」と述べる(見込み。本書『6-1 結晶景と接続景』)。標数 $p$ で無限小景のままでは定理が破れることは、原論文 6.5 末のアーベルスキームの例(本書『5-3 基本定理の証明』。本書はその計算を閉じていない)から見てとれる。
(c) 原論文はこの定理から、de Rham コホモロジー上の標準接続が無限小景上の stratification から来ることを導くと予告する。実行は本書『5-2 冪零はめ込みでの不変性と微分作用素』にある。
基本定理は滑らかな $X$ に限られる。原論文は滑らかさを外した形を予想として立て、複素数体上の比較定理と組み合わせる。
原論文 Conjecture 4.2(印字 p. 335)。$X$ が $\mathbb C$ 上局所有限型のスキーム(滑らかとは限らない)なら、標準同型
$$H^*\bigl((X/\mathbb C)_{\mathrm{strat}},\mathcal O\bigr)\cong H^*\bigl((X/\mathbb C)_{\inf},\mathcal O\bigr)\cong H^*(X^{an},\mathbb C)$$
がある。原論文は、第一の群から $H^*_{dR}(X/\mathbb C)$ への標準準同型を §6 で定義し、それが同型であることも予想する。この予想が正しければ、無限小トポスは標数 $0$ の体上の有限型スキームについて、超越的に定義される複素コホモロジーの純代数的な類似を与える。
$X$ が $\mathbb C$ 上滑らかなら、上の予想の三つの群は標準同型である。
段 1(第一の同型).滑らかなら $\operatorname{Strat}(X/\mathbb C)=\operatorname{Inf}(X/\mathbb C)$(引用する事実 7)。
段 2(第二の同型).基本定理により $H^*((X/\mathbb C)_{\inf},\mathcal O)\cong H^*_{dR}(X/\mathbb C)$、de Rham の比較定理(引用する事実 8)により $H^*_{dR}(X/\mathbb C)\cong H^*(X^{an},\mathbb C)$。
滑らかでない $X$ では第一の同型からして自明でない。無限小景では $\tilde X$ が終対象を覆わず(下の反例)、二つの景の Čech 計算が別の余単体層を与えるからである。
標数 $0$ での結晶景については、原論文は小節 4.3 で一言だけ述べる。結晶景の定義は本書『6-1 結晶景と接続景』にあるが、主張は divided power の一意性だけで閉じるので、ここで証明しておく。
$S$ を標数 $0$ のスキームとする。結晶景 $\operatorname{Cris}(X/S)$(対象は冪零 $S$ はめ込み $U\hookrightarrow T$ にそのイデアル層上の冪零な divided power 構造 $\gamma$ を添えたもの、射は $\gamma$ と両立する $\operatorname{Inf}(X/S)$ の射、被覆族は同じ。本書『6-1 結晶景と接続景』)は、$\gamma$ を忘れる関手により $\operatorname{Inf}(X/S)$ と同型な景である。
段 1(一意性).対象 $U\hookrightarrow T$ のイデアル層 $\mathcal J$ は $\mathbb Q$ 代数のイデアルなので、その上の divided power 構造は $\gamma_n(x)=x^n/n!$ に限る(引用する事実 9)。
段 2(冪零性).$\mathcal J$ は局所的に冪零($\mathcal J^{N}=0$)だから、$\sum n_i\ge N$ なら $\gamma_{n_1}(x_1)\cdots\gamma_{n_r}(x_r)\in\mathcal J^{\sum n_i}=0$ で、この divided power 構造は冪零である。
段 3(射).$\operatorname{Inf}(X/S)$ の射 $j\colon T\to T'$ は $j^*(x^n/n!)=(j^*x)^n/n!$ をみたすので自動的に divided power と両立する。よって忘却関手は対象と射の全単射で、被覆族も同じである。
以上が小節 4.3 の内容である。ここからが §5 で、基本定理の証明の段 2 に当たる Čech 計算を stratifying 景・無限小景の順に閉じる。
Čech 型スペクトル系列を使うには終対象を覆う層が要る。stratifying 景ではそれが恒等射の表す層である。
$\operatorname{Strat}(X/S)$ の対象 $(X\hookrightarrow X)$ が表す層 $\tilde X$ は $(X/S)_{\mathrm{strat}}$ の終対象を覆う。$\operatorname{Inf}(X/S)$ では、$X/S$ が滑らかでなければ一般に覆わない。
段 1(局所的な射の存在).対象 $(U\hookrightarrow T)$ を取る。stratifying 景の定義により、$T$ の開被覆 $(T_\lambda)$ と $S$ 射 $g_\lambda\colon T_\lambda\to X$ で $g_\lambda|_{U\cap T_\lambda}$ が包含に一致するものがある。$g_\lambda$ は景の射 $(U\cap T_\lambda\hookrightarrow T_\lambda)\to(X\hookrightarrow X)$ であるから $\tilde X(U\cap T_\lambda,T_\lambda)\ne\emptyset$ で、エピ射の判定(引用する事実 3)により $\tilde X\to e$ はエピ射である。
段 2(無限小景).$\operatorname{Inf}(X/S)$ の対象で局所的にもレトラクションをもたないものがあれば、その上で $\tilde X$ は局所的にも空である。滑らかでない例は「例と反例」で与える。
$\operatorname{Strat}(X/S)$ 上の任意のアーベル群の層 $F$ について、スペクトル系列
$$E_2^{pq}=H^p\bigl(\nu\mapsto H^q(\tilde X^{\nu+1},F)\bigr)\Rightarrow H^{p+q}\bigl((X/S)_{\mathrm{strat}},F\bigr)$$
がある。ここで $\tilde X^{\nu+1}$ は層の圏での $\nu+1$ 重積である。
上の命題(stratifying 景では恒等射の表す層が終対象を覆う)と Čech 型スペクトル系列(引用する事実 1)。
$E_2$ 項を計算するには $\tilde X^{\nu+1}$ を具体的に知る必要がある。$\nu\ge1$ ではこれは一般に表現可能でないが、対角線の無限小近傍の表す層の帰納極限である。
層の圏で $\tilde X^{\nu+1}=\varinjlim_n\widetilde{\Delta^{(n)}_\nu}$ である。ここで遷移射は閉はめ込み $\Delta^{(n)}_\nu\hookrightarrow\Delta^{(n+1)}_\nu$ から来るモノ射で、単体的構造は座標の忘却・重複の射から来る。
段 1(値の記述).対象 $(U\hookrightarrow T)$ について $\tilde X^{\nu+1}(U,T)$ は、$S$ 射 $T\to X$ で $U$ 上包含を誘導するものの $\nu+1$ 組、すなわち $S$ 射 $h\colon T\to X^{\nu+1}$ で $U$ を対角線へ送るものの集合である。
段 2(近傍を通ること).$U$ のイデアル層 $\mathcal J\subset\mathcal O_T$ は局所的に冪零である。$h$ は $U$ を対角線へ送るので $h^{-1}(\mathcal I_\nu)\mathcal O_T\subset\mathcal J$、したがって $T$ の各点の近傍で $h^{-1}(\mathcal I_\nu^{n+1})\mathcal O_T=0$ となる $n$ があり、そこで $h$ は $\Delta^{(n)}_\nu$ を通る。逆に $\Delta^{(n)}_\nu$ を通る射は $U$ を対角線へ送る。よって前層として $\tilde X^{\nu+1}=\varinjlim_n\widetilde{\Delta^{(n)}_\nu}$ が、$T$ が準コンパクトな対象の上で成り立つ。
段 3(層化).層の帰納極限は前層の帰納極限の層化であり(引用する事実 3)、$T$ の準コンパクトな開集合は基底をなすので、両辺は層として一致する。単体的構造の対応は、$\tilde X^{\nu+2}\to\tilde X^{\nu+1}$ の射影が $X^{\nu+2}\to X^{\nu+1}$ の座標の忘却に対応することから従う。
次に、一つの対象の表す層のコホモロジーを Zariski コホモロジーに戻す。原論文はこれを「標準同型」と述べるだけである。
$\operatorname{Strat}(X/S)$(または $\operatorname{Inf}(X/S)$)の対象 $(U\hookrightarrow T)$ とアーベル群の層 $F$ について、標準同型 $H^*(\widetilde{(U,T)},F)\cong H^*(T_{\mathrm{zar}},F_{(U,T)})$ がある。
段 1(局所化).左辺は $\operatorname{Ext}^*(\mathbb Z[\widetilde{(U,T)}],F)$ で、$(U,T)$ の上へ局所化した景 $\mathcal C_{/(U,T)}$ のトポス $\mathcal T'$ のコホモロジー $H^*(\mathcal T',F|)$ に一致する(引用する事実 3)。
段 2(トポスの射).景の関手 $\rho\colon\operatorname{Zar}(T)\to\mathcal C_{/(U,T)}$、$T'\mapsto\bigl((U\cap T'\hookrightarrow T')\to(U\hookrightarrow T)\bigr)$($T'\subset T$ 開)は開被覆を被覆族へ送り、有限極限($T'\cap T''$ と終対象 $T$)を保つ。よってトポスの射 $j\colon\mathcal T'\to\operatorname{Sh}(T_{\mathrm{zar}})$ が定まり、$j_*F=F\circ\rho$、すなわち $(j_*F)(T')=F(U\cap T',T')$ で $j_*F=F_{(U,T)}$ である。
段 3($j_*$ の完全性).$\mathcal T'$ の層のエピ射 $F\to F'$ は局所全射、すなわち各対象 $((U',T')\to(U,T))$ と $s\in F'(U',T')$ について $T'$ の Zariski 被覆の上で $s$ が持ち上がることである。$T'$ が $T$ の開集合の場合に限れば、これは $j_*F\to j_*F'$ の局所全射性そのものである。$j_*$ は右随伴として核を保つので完全であり、$j^{-1}$ も完全なので $j_*$ は入射的対象を保つ。
段 4(結論).$F$ の入射的分解 $F\to I^\bullet$ について $j_*I^\bullet$ は $F_{(U,T)}$ の入射的分解で、$\Gamma(T,j_*I^q)=I^q(U,T)=\Gamma(\mathcal T',I^q)$($(U,T)$ は局所化した景の終対象)。両辺のコホモロジーを取ると主張を得る。
$X$ が affine なら各無限小近傍も affine で、条件 (Q) が高次の消滅と極限の交換を保証する。原論文が「Mittag-Leffler 型の議論」と呼ぶのは次の補題である。
$X$ が affine で $S$ の affine 開集合の上にあり、$F$ が条件 (Q) をみたすとする。各 $\nu$ について $H^q(\tilde X^{\nu+1},F)=0$($q>0$)、$H^0(\tilde X^{\nu+1},F)=F(X^\nu_{/X})=\varprojlim_nF(\Delta^{(n)}_\nu)$ である。
段 1(各近傍での消滅).$\Delta^{(n)}_\nu$ は affine(引用する事実 4)で、上の命題(対象の上のコホモロジーは Zariski コホモロジーである)と条件 (Q)(1) により $H^q(\widetilde{\Delta^{(n)}_\nu},F)=H^q(\Delta^{(n)}_\nu,F_{(X,\Delta^{(n)}_\nu)})$ は $q>0$ で消える。
段 2(Milnor 完全列).上の補題(恒等射の表す層の積は無限小近傍の表す層の帰納極限である)により $\tilde X^{\nu+1}=\varinjlim_n\widetilde{\Delta^{(n)}_\nu}$ で、遷移射はモノ射である。Milnor 完全列(引用する事実 2)
$$0\to\varprojlim{}^1_nH^{q-1}(\widetilde{\Delta^{(n)}_\nu},F)\to H^q(\tilde X^{\nu+1},F)\to\varprojlim_nH^q(\widetilde{\Delta^{(n)}_\nu},F)\to0$$
において、$q\ge2$ では両端が段 1 により $0$ である。$q=1$ では左端が $\varprojlim^1_nF(\Delta^{(n)}_\nu)$ で、$q=0$ の場合は $H^0(\tilde X^{\nu+1},F)=\varprojlim_nF(\Delta^{(n)}_\nu)$ を与える。
段 3(遷移射の全射性).$i_n\colon\Delta^{(n)}_\nu\hookrightarrow\Delta^{(n+1)}_\nu$ は閉はめ込みなので条件 (Q)(2) により $F_{(X,\Delta^{(n)}_\nu)}=i_n^*F_{(X,\Delta^{(n+1)}_\nu)}$ であり、$\Delta^{(n+1)}_\nu$ が affine で係数が準連接だから、閉部分スキームへの制限 $F(\Delta^{(n+1)}_\nu)\to F(\Delta^{(n)}_\nu)$ は準連接層の全射の大域切断として全射である(引用する事実 4)。よって $\varprojlim^1=0$(引用する事実 2)で $H^1(\tilde X^{\nu+1},F)=0$。
原論文は小節 5.1(印字 p. 337)でこの射影極限の二つ目を帰納極限の記号で印字するが、射影極限の意である。以上を合わせてスペクトル系列が退化する。
$X$ が affine で $S$ の affine 開集合の上にあり、$F$ が条件 (Q) をみたすなら、標準同型
$$H^*\bigl((X/S)_{\mathrm{strat}},F\bigr)\;\cong\;H^*\bigl(\nu\mapsto F(X^\nu_{/X})\bigr)$$
がある。右辺の余単体構造は、$\nu\mapsto\Delta^{(n)}_\nu$ の単体的構造(座標の忘却・重複)から誘導される。
上の系(stratifying トポスの Čech 型スペクトル系列)の $E_2^{pq}$ は、上の補題(affine の場合の高次コホモロジーの消滅)により $q>0$ で $0$、$q=0$ で $H^p(\nu\mapsto F(X^\nu_{/X}))$ である。第一象限のスペクトル系列は一行に退化し $E_2^{p0}\cong H^p$。余面射の対応は、Čech 脈体の射影 $\tilde X^{\nu+2}\to\tilde X^{\nu+1}$ が上の補題(恒等射の表す層の積は無限小近傍の表す層の帰納極限である)の下で $\Delta^{(n)}_{\nu+1}\to\Delta^{(n)}_\nu$ の座標の忘却に対応することから従う。
$X$ が affine でないときは、affine 開集合ごとの計算を貼り合わせる。原論文は「affine 開被覆を取れば導かれる」とだけ書く。分離性を仮定していないので affine 開集合の交わりが affine とは限らず、Čech 被覆の代わりに「affine 開集合が底空間の基底をなす」ことと、Zariski 位相への射影を使う。
$X$ を $S$ 上の任意のスキーム、$F$ を条件 (Q) をみたす $\operatorname{Strat}(X/S)$ 上の加群とする。$U\mapsto\mathcal F^{(\nu)}(U):=F(U^\nu_{/U})$ は $X_{\mathrm{zar}}$ 上の層で、$\nu\mapsto\mathcal F^{(\nu)}$ は余単体層 $\mathcal F^\bullet$ をなし、標準同型
$$H^*\bigl((X/S)_{\mathrm{strat}},F\bigr)\;\cong\;\mathbf H^*(X_{\mathrm{zar}},\mathcal F^\bullet)$$
がある。したがってスペクトル系列 $E_2^{pq}=H^p(\nu\mapsto H^q(X_{\mathrm{zar}},\mathcal F^{(\nu)}))\Rightarrow H^{p+q}((X/S)_{\mathrm{strat}},F)$ がある。$X$ が affine なら上の定理に戻る。
段 1($\mathcal F^{(\nu)}$ が層であること).$\Delta^{(n)}_{\nu,U}=\Delta^{(n)}_\nu\times_XU$ で、条件 (Q)(2) により $F_{(U,\Delta^{(n)}_{\nu,U})}=F_{(X,\Delta^{(n)}_\nu)}|_{\Delta^{(n)}_{\nu,U}}$ だから、$U\mapsto F(\Delta^{(n)}_{\nu,U})$ は $X$ の底空間上の層 $(p_0)_*F_{(X,\Delta^{(n)}_\nu)}$ である。層の射影極限は層なので $\mathcal F^{(\nu)}=\varprojlim_n(p_0)_*F_{(X,\Delta^{(n)}_\nu)}$ は層である。
段 2(Zariski 位相への射影).景の関手 $\varphi\colon\operatorname{Strat}(X/S)\to\operatorname{Zar}(X)$、$(U,T)\mapsto U$ を取る。$(U,T)$ の被覆族($T$ の Zariski 被覆)と $U$ の Zariski 被覆は底空間の同相で一対一に対応する。Zariski 層 $G$ に対し $\pi^{-1}G:=G\circ\varphi$ は $\operatorname{Strat}(X/S)$ 上の層で、被覆が対応するので層化と可換、よって $\pi^{-1}$ は完全で余極限を保つ。右随伴 $\pi_*$ は $(\pi_*F)(V)=\operatorname{Hom}(\pi^{-1}\tilde V,F)$ で与えられ、$\pi$ はトポスの射で $\pi_*$ は入射的対象を保つ(引用する事実 3)。
段 3(終対象の部分層).$X$ の開集合 $V$ について $e_V:=\pi^{-1}\tilde V$ は「$U\subset V$ なる対象 $(U,T)$」の上で一点、他で空となる終対象の部分層である。$U\subset V$ なる対象は $\operatorname{Strat}(V/S)$ の対象と同じもの(レトラクション $T\to X$ は底空間が $U\subset V$ に入るので $V$ を通る)だから $(\pi_*F)(V)=\Gamma((V/S)_{\mathrm{strat}},F|)$、とくに $\Gamma(X,\pi_*F)=\Gamma((X/S)_{\mathrm{strat}},F)$ である。
段 4($\tilde V\to e_V$ はエピ射).対象 $(V\hookrightarrow V)$ の表す層を $\tilde V$ と書く。その像は $e_V$ に入り、$U\subset V$ なる対象は局所的にレトラクション $T_\lambda\to X$ をもち、それは $V$ を通るので $(U_\lambda,T_\lambda)\to(V,V)$ を与える。よって $\tilde V\to e_V$ は局所全射で、引用する事実 1 の一般形により $\mathbb Z[\tilde V^{\bullet+1}]\to\mathbb Z[e_V]$ は分解である($e_V\subset e$ はモノ射なので $e_V$ 上の積は $e$ 上の積 $\tilde V^{\nu+1}$ に等しい)。
段 5(二重複体).$F\to I^\bullet$ を入射的分解とし、$X_{\mathrm{zar}}$ 上の前層の二重複体 $K^{\nu,q}(V):=\operatorname{Hom}(\mathbb Z[\tilde V^{\nu+1}],I^q)$ を作る。$q$ を固定した列は、段 4 と $I^q$ の入射性により $0\to(\pi_*I^q)(V)\to K^{0,q}(V)\to K^{1,q}(V)\to\cdots$ が完全で、$\pi_*I^\bullet\to\operatorname{Tot}K$ は各 $V$ で擬同型である。$\nu$ を固定した行 $K^{\nu,\bullet}(V)$ は $H^*(\tilde V^{\nu+1},F)$ を計算し、その $H^0$ は $\operatorname{Hom}(\tilde V^{\nu+1},F)=\varprojlim_nF(\Delta^{(n)}_{\nu,V})=\mathcal F^{(\nu)}(V)$(上の補題(恒等射の表す層の積は無限小近傍の表す層の帰納極限である)を $V$ について適用)、$V$ が affine($S$ の affine 開集合の上にあるもの)なら $q>0$ で $0$(上の補題(affine の場合の高次コホモロジーの消滅)を $V$ について適用)。よって affine な $V$ では $\mathcal F^\bullet(V)\to\operatorname{Tot}K(V)$ が擬同型である。
段 6(結論).前層の複体の射 $\pi_*I^\bullet\to\operatorname{Tot}K\leftarrow\mathcal F^\bullet$ は、左が各 $V$ で、右が affine な $V$ で擬同型である。affine 開集合は底空間の基底をなすので、両者のコホモロジー前層の層化は一致し、層化の完全性により層の複体の擬同型 $\pi_*I^\bullet\to(\operatorname{Tot}K)^a\leftarrow\mathcal F^\bullet$ を得る。$\pi_*I^q$ は入射的で $\Gamma(X,\pi_*I^\bullet)=\Gamma((X/S)_{\mathrm{strat}},I^\bullet)$ だから $\mathbf H^*(X_{\mathrm{zar}},\pi_*I^\bullet)=H^*((X/S)_{\mathrm{strat}},F)$ で、擬同型は超コホモロジーの同型を誘導する(引用する事実 5)。同型はこの zigzag で標準的に与えられ、$F$ について関手的で、affine な $V$ へ制限すると上の定理(affine の場合の余単体複体による計算)の同型に一致する。スペクトル系列は余単体層の定義のとおり。
原論文が使う「affine 被覆」は段 5・6 の「affine な $V$ で行が完全」という形で入っており、Čech 複体そのものは要らない。
無限小景では $\tilde X$ が終対象を覆わないので、形式的滑らかな $Y$ へのはめ込みを取り、$\tilde Y$ で代える。
$X\hookrightarrow Y$ を $S$ 上形式的滑らかな $Y$ への $S$ はめ込みとする。層 $\tilde Y$ は $(X/S)_{\inf}$ の終対象を覆い、したがって $\operatorname{Inf}(X/S)$ 上の任意のアーベル群の層 $F$ についてスペクトル系列 $E_2^{pq}=H^p(\nu\mapsto H^q(\tilde Y^{\nu+1},F))\Rightarrow H^{p+q}((X/S)_{\inf},F)$ がある。
対象 $(U\hookrightarrow T)$ について、$U\subset X\hookrightarrow Y$ は $S$ 射で $U\hookrightarrow T$ は冪零な厚みだから、形式的滑らかさ(引用する事実 6)により $T$ の Zariski 被覆 $(T_\lambda)$ の上に延長 $T_\lambda\to Y$ がある。これが $\tilde Y(U\cap T_\lambda,T_\lambda)$ の元で、$\tilde Y\to e$ は局所全射である。スペクトル系列は引用する事実 1。
$X\hookrightarrow Y$ を上のとおりとし、$F$ を条件 (Q) をみたす $\operatorname{Inf}(X/S)$ 上の加群とする。
(a) $X$ が affine で $S$ の affine 開集合の上にあれば $H^*((X/S)_{\inf},F)\cong H^*(\nu\mapsto F(Y^\nu_{/X}))$。
(b) 一般に、$X_{\mathrm{zar}}$ 上の余単体層 $\mathcal F^{(\nu)}(U):=F(Y^\nu_{/U})$ について $H^*((X/S)_{\inf},F)\cong\mathbf H^*(X_{\mathrm{zar}},\mathcal F^\bullet)$ とスペクトル系列 $E_2^{pq}=H^p(\nu\mapsto H^q(X_{\mathrm{zar}},\mathcal F^{(\nu)}))\Rightarrow H^{p+q}((X/S)_{\inf},F)$ がある。
段 1($\tilde Y^{\nu+1}$ の記述).$\tilde Y^{\nu+1}(U,T)$ は $S$ 射 $T\to Y^{\nu+1}$ で $U$ を対角線の $X$ へ送るものの集合で、$U$ のイデアルの冪零性により、局所的にある $X^{(n)}_{Y,\nu}$ を通る。上の補題(恒等射の表す層の積は無限小近傍の表す層の帰納極限である)と同じ議論で $\tilde Y^{\nu+1}=\varinjlim_n\widetilde{X^{(n)}_{Y,\nu}}$ である。$(X\hookrightarrow X^{(n)}_{Y,\nu})$ は $\operatorname{Inf}(X/S)$ の対象で、$X$ が affine なら底空間が同相な冪零な厚みとして affine である(引用する事実 4)。
段 2(affine の場合).上の命題(対象の上のコホモロジーは Zariski コホモロジーである)は無限小景でも成り立つので、上の補題(affine の場合の高次コホモロジーの消滅)の三つの段が $\Delta^{(n)}_\nu$ を $X^{(n)}_{Y,\nu}$ に替えてそのまま通る(条件 (Q)(2) は閉はめ込み $X^{(n)}_{Y,\nu}\hookrightarrow X^{(n+1)}_{Y,\nu}$ に適用する)。上の命題(形式的滑らかなスキームの表す層は終対象を覆う)のスペクトル系列が一行に退化して (a) を得る。
段 3(一般の場合).上の定理(一般の場合の余単体層による計算)の段 2〜6 を、$\pi\colon(X/S)_{\inf}\to\operatorname{Sh}(X_{\mathrm{zar}})$、$e_V=\pi^{-1}\tilde V$ として繰り返す。$\tilde V$ の代わりに $\tilde Y_V:=\tilde Y\times e_V$($U\subset V$ なる対象で $\tilde Y$ の値、他で空)を使う。$\tilde Y_V\to e_V$ は上の命題により局所全射、$\tilde Y_V^{\nu+1}=\varinjlim_n\widetilde{V^{(n)}_{Y,\nu}}$、$\operatorname{Hom}(\tilde Y_V^{\nu+1},F)=\mathcal F^{(\nu)}(V)$、affine な $V$ で $H^q(\tilde Y_V^{\nu+1},F)=0$($q>0$、段 2)である。二重複体 $K^{\nu,q}(V)=\operatorname{Hom}(\mathbb Z[\tilde Y_V^{\nu+1}],I^q)$ について段 5・6 がそのまま通る。
原論文は (b) の $E_2$ 項を $H^p(\nu\mapsto H^q(X_{\mathrm{zar}},\mathcal F^*))$ と印字するが(印字 p. 339)、$\mathcal F^*$ は $\mathcal F^{(\nu)}$ の意である。
(a) の右辺は $Y$ を含むが左辺は含まないので、余単体複体 $\nu\mapsto F(Y^\nu_{/X})$ のコホモロジーは $Y$ の取り方によらない。原論文は次の小節でこれを「無限小コホモロジーは冪零はめ込み $X_0\hookrightarrow X$ を見ない」という不変性に言い換える(本書『5-2 冪零はめ込みでの不変性と微分作用素』)。$X/S$ が滑らかなら $Y=X$ と取れて stratifying 景の計算に戻る。
余単体複体が何を計算するかを、簡単な場合で確かめる。
$X$ が $S$ 上エタールなら対角射は開はめ込みで、すべての $n$ について $\Delta^{(n)}_\nu=X$ である。よって条件 (Q) をみたす $F$ について $\mathcal F^{(\nu)}=F_{(X,X)}$ は $\nu$ によらない定数余単体層で、付随する複体は $F_{(X,X)}\xrightarrow{0}F_{(X,X)}\xrightarrow{\mathrm{id}}F_{(X,X)}\xrightarrow{0}\cdots$、上の定理(一般の場合の余単体層による計算)により $H^*((X/S)_{\mathrm{strat}},F)\cong H^*(X_{\mathrm{zar}},F_{(X,X)})$ である。$\Omega^1_{X/S}=0$ なので基本定理の両辺はともに $H^*(X_{\mathrm{zar}},\mathcal O_X)$ で、標数によらず一致する。
$k$ を任意の体、$S=\operatorname{Spec}k$、$X=\operatorname{Spec}k[\epsilon]/(\epsilon^2)$ とする。$X$ は滑らかでないので $Y=\mathbb A^1_k=\operatorname{Spec}k[x]$ へ $x\mapsto\epsilon$ ではめ込む。$X$ の底空間は一点なので、$Y^{\nu+1}$ の $X$ に沿った形式完備化は原点に沿った完備化と同じで、$\mathcal O(Y^\nu_{/X})=k[\![x_0,\dots,x_\nu]\!]$ である。上の定理(無限小景での形式的滑らかなスキームによる計算)(a) により $H^*((X/k)_{\inf},\mathcal O)=H^*(\nu\mapsto k[\![x_0,\dots,x_\nu]\!])$ で、余面射は変数の挿入 $g\mapsto g(x_0,\dots,\hat x_j,\dots,x_{\nu+1})$ である。この複体は $h(g)(x_0,\dots,x_{\nu-1}):=g(0,x_0,\dots,x_{\nu-1})$ を縮約ホモトピーにもつ。実際、添字を付け替えると $\nu\ge1$ で $(dh+hd)(g)=g$、$\nu=0$ で $(hd)(g)=g-g(0)$ が確かめられる。よって $H^0=k$、$H^q=0$($q>0$)で、標数によらない。stratifying 景の側では $\tilde X$ が終対象を覆い、$\Delta^{(n)}_\nu$ は $n$ が大きいと $X^{\nu+1}$ 自身(対角線のイデアルは冪零)だから、複体は $\nu\mapsto B^{\otimes(\nu+1)}$($B=k[\epsilon]/(\epsilon^2)$、Amitsur 複体)で、$k$ 代数の切断 $B\to k$ が同じ型の縮約ホモトピーを与え、これも $k$ を分解する。したがって $k=\mathbb C$ のとき上の予想(特異な場合の予想)の三つの群はすべて $\mathbb C$(次数 $0$)で一致する。$X$ を一点に替えても同じ複体が現れ、これは本書『5-2 冪零はめ込みでの不変性と微分作用素』の冪零不変性の最も簡単な例である。
外す条件は $X/S$ の滑らかさである。上の例の $X=\operatorname{Spec}k[\epsilon]/(\epsilon^2)$ と $T=\operatorname{Spec}k[x]/(x^3)$、$X\hookrightarrow T$ を $x\mapsto\epsilon$ で定める。$(X\hookrightarrow T)$ は $\operatorname{Inf}(X/k)$ の対象で、$T$ は局所スキームなので「局所的に」は「大域的に」と同じである。レトラクション $T\to X$ は $k$ 代数の準同型 $k[\epsilon]/(\epsilon^2)\to k[x]/(x^3)$、$\epsilon\mapsto g$ で $g\equiv x\pmod{x^2}$、$g^2=0$ をみたすものだが、$g=x+ax^2$ なら $g^2=x^2\ne0$ である。よって $\tilde X(X,T)=\emptyset$ で $\tilde X\to e$ はエピ射でなく、上の系(stratifying トポスの Čech 型スペクトル系列)は無限小景では使えない。上の例の計算で $Y$ が要ったのはこのためである。
以下は後代の結果の紹介である。本書は文献の該当箇所を確かめていない。
本頁が対応する原論文は Crystals and the De Rham cohomology of schemes Gro68c である。
| 本頁 | 原論文 | 印字頁 |
|---|---|---|
| 定理(基本定理の言明) | Theorem 4.1(小節 4.3)。後半の一般形は小節 6.5 | 334、350 |
| 注意(基本定理の読み方) | 小節 4.3 の見込みと予告 | 334–335 |
| 予想(特異な場合の予想)、系(滑らかな場合の Conjecture 4.2) | Conjecture 4.2 とその直後 | 335 |
| 命題(標数 0 では結晶景は無限小景に一致する) | 小節 4.3 末、小節 7.2 | 334、352 |
| 命題(stratifying 景では恒等射の表す層が終対象を覆う)、系(stratifying トポスの Čech 型スペクトル系列)、補題(恒等射の表す層の積は無限小近傍の表す層の帰納極限である)、定義(係数の二条件) | 小節 5.1 | 335–336 |
| 命題(対象の上のコホモロジーは Zariski コホモロジーである)、補題(affine の場合の高次コホモロジーの消滅) | 小節 5.1 | 336–337 |
| 定理(affine の場合の余単体複体による計算) | 小節 5.1 の (*) | 337 |
| 定理(一般の場合の余単体層による計算) | 小節 5.1 末 | 337 |
| 定義(形式的滑らかなスキームへのはめ込みと層 $\tilde Y$)、命題(形式的滑らかなスキームの表す層は終対象を覆う) | 小節 5.2 | 337–338 |
| 定理(無限小景での形式的滑らかなスキームによる計算) | 小節 5.2 の (*) とその直後 | 338–339 |
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