Vojta予想

同義語:Vojta's conjectureヴォイタ予想Vojtaの辞書Vojta's dictionary

概要

Vojta予想(Vojta's conjecture)とは、代数体 $k$ 上の滑らかな射影多様体 $X$ と正規交差因子 $D$ について、$k$ 有理点 $x$ の $D$ への近接関数 $m_S(D,x)$ と標準束の高さ $h_K(x)$ の和が、真の Zariski 閉集合の外のほとんどすべての点で豊富な直線束の高さの $\varepsilon$ 倍と定数の和を超えないとする予想である。Nevanlinna 理論と Diophantus 近似の対応(Vojta の辞書)から第二主要定理の数論版として定式化され、射影直線の場合は Roth の定理そのもので、種数 2 以上の曲線の場合から Faltings の定理の有限性が出る。打ち切った個数関数の形は abc 予想を含み、一般には未解決である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Weil高さ, Rothの定理, Nevanlinna理論, Diophantus幾何学, 因子

Vojta 予想(Vojta's conjecture)とは、代数体 $k$ 上の滑らかな射影多様体 $X$ と正規交差因子 $D$ について、$X$ の $k$ 有理点 $x$ が $D$ に近づく度合い(近接関数 $m_S(D,x)$)と標準束の高さ $h_K(x)$ の和が、ほとんどすべての点で豊富な直線束の高さの $\varepsilon$ 倍程度を超えないと予想する主張である。P. Vojta が 1987 年の本で、Nevanlinna 理論との類似から定式化した(Voj11 §6、p. 130、Oes88 I.5、p. 171)。
Nevanlinna 理論と Diophantus 近似のあいだの記号の対応を Vojta の辞書(Vojta's dictionary)という。辞書の 1 次元の場合、Nevanlinna 理論の第一主要定理は高さの性質に、欠除関係は Rothの定理 に対応する。Vojta 予想は、これを高次元の多様体に広げたときに第二主要定理に対応すると予想される不等式である。$X$ が射影直線の場合が Roth の定理そのもの、種数 $2$ 以上の曲線で $D=0$ の場合から Faltings の定理(Mordell 予想)の有限性が出る。打ち切った個数関数を使う形は abc予想 を含む。
この記事では、辞書の 1 次元の場合について、数論の第一主要定理と、Roth の定理から数論の欠除関係が従うことを完全に証明する。次に予想を述べ、予想から Roth の定理の形と Faltings の定理の形が出ることを示す(どちらも予想からの導出であり、予想そのものは未解決である)。最後に、予想の各仮定が外せないことを反例で確かめる。

辞書の 1 次元の場合

以下 $k$ を 代数体、$M_k$ をその素点全体とし、$\|\cdot\|_v$ を Weil高さ の節「素点と正規化された絶対値」の正規化された絶対値とする。$S\subset M_k$ を無限素点をすべて含む有限集合とする。$v$ が実素点なら $N_v:=1$、複素素点なら $N_v:=2$、有限素点なら $N_v:=0$ とおくと、$\sum_{v}N_v=[k:\mathbb{Q}]$ であり、すべての $v$ と $x,y\in k$ について
$$ \|x+y\|_v\le2^{N_v}\max(\|x\|_v,\|y\|_v) \qquad(1) $$
である(有限素点では超距離不等式、実素点では三角不等式、複素素点では $\|\cdot\|_v=\lvert\cdot\rvert^2$ なので $(\lvert x\rvert+\lvert y\rvert)^2\le4\max(\lvert x\rvert,\lvert y\rvert)^2$)。

数論の近接関数・個数関数・高さ

$x\in k$ について
$$ m_S(x):=\sum_{v\in S}\log^+\|x\|_v,\qquad N_S(x):=\sum_{v\notin S}\log^+\|x\|_v,\qquad h_k(x):=\sum_{v\in M_k}\log^+\|x\|_v $$
とおく。$a\in k$、$x\ne a$ について $m_S(a,x):=m_S\bigl(1/(x-a)\bigr)$、$N_S(a,x):=N_S\bigl(1/(x-a)\bigr)$ とおく。$m_S$ を 近接関数、$N_S$ を 個数関数 という。

これは Voj11 Definition 5.1(p. 126)と同じである。$h_k(x)=m_S(x)+N_S(x)$ は定義から明らかで、$h_k(x)=[k:\mathbb{Q}]\,h(x)$($h$ は Weil高さ、$x$ を $\mathbb{P}^1$ の点 $[x:1]$ とみる)である。$m_S(a,x)$ は $S$ の素点で $x$ が $a$ に近いほど大きく、$N_S(a,x)$ は $S$ の外の素点で $x-a$ が素イデアルで割れる度合いを重み $\log N(\mathfrak{p})$ で数えたものである。これが Nevanlinna 理論の近接関数と個数関数(Nevanlinna理論 の定義「近接関数・個数関数・特性関数」)に対応する。

数論の第一主要定理

$a\in k$ とする。$x\ne a$ となるすべての $x\in k$ について
$$ \bigl\lvert h_k(x)-m_S(a,x)-N_S(a,x)\bigr\rvert\le h_k(a)+[k:\mathbb{Q}]\log2 $$
である。特に $h_k(x)=m_S(a,x)+N_S(a,x)+O(1)$ である。

逆数の高さ.$y\in k^\times$ について $h_k(1/y)=h_k(y)$ である。実際、$t>0$ について $\log^+(1/t)-\log^+t=-\log t$ なので、$h_k(1/y)-h_k(y)=-\sum_v\log\|y\|_v$ であり、これは積公式により $0$ である(アデール環 の定理「積公式」)。和は、$\|y\|_v\ne1$ となる $v$ が有限個なので有限和である。
差の高さ.$m_S(a,x)+N_S(a,x)=h_k\bigl(1/(x-a)\bigr)=h_k(x-a)$ なので、$\lvert h_k(x)-h_k(x-a)\rvert\le h_k(a)+[k:\mathbb{Q}]\log2$ を示せばよい。各 $v$ で、(1) と $\log^+\max(s,t)\le\log^+s+\log^+t$ から
$$ \log^+\|x\|_v\le N_v\log2+\log^+\|x-a\|_v+\log^+\|a\|_v,\qquad \log^+\|x-a\|_v\le N_v\log2+\log^+\|x\|_v+\log^+\|a\|_v $$
である。これを $v$ について足すと、$\sum_vN_v=[k:\mathbb{Q}]$ なので主張を得る。$\square$

主張は Voj11 Theorem 5.5(pp. 127–128)と同じで、証明も同所の Lemma 5.4 と同じ考え方による。Nevanlinna 理論の第一主要定理(Nevanlinna理論 の定理「第一主要定理」)では Jensen の公式が使われ、ここでは積公式が使われる。辞書で Jensen の公式と積公式が対応するのはこのためである(Voj11 Table 1、p. 131)。

Roth の定理と欠除関係

Rothの定理 は、代数体と有限個の素点の形で次のように言い換えられる(Voj11 Theorem 3.5、pp. 121–122 の不等式を $[k:\mathbb{Q}]$ 倍したもの)。互いに異なる $a_1,\dots,a_q\in k$、$\varepsilon>0$、$c\in\mathbb{R}$ について、
$$ \sum_{j=1}^qm_S(a_j,x)\le(2+\varepsilon)\,h_k(x)+c \qquad(2) $$
が、有限個を除くすべての $x\in k$ で成り立つ。これは Nevanlinna 理論の第二主要定理の誤差項を粗くした形 $\sum_jm_f(a_j,r)\le(2+\varepsilon)T_f(r)+c$(例外集合を除いて)と同じ形である(Voj11 (4.9)・§5、pp. 125, 128)。

数論の欠除

$\Sigma\subset k$ を無限集合、$a\in k$ とする。
$$ \delta_{S,\Sigma}(a):=\liminf_{x\in\Sigma}\frac{m_S(a,x)}{h_k(x)} $$
を $a$ の $\Sigma$ に沿った 欠除 という。ここで $\liminf_{x\in\Sigma}$ は、$\Sigma$ から有限集合($a$ を含むもの)を除いたときの下限の、除く集合を大きくしたときの上限である。

$\Sigma$ は無限集合なので、Weil高さ の定理「Northcott の定理」により、高さが有界な $x\in\Sigma$ は有限個である。したがって $\Sigma$ の有限個を除けば $h_k(x)>0$ で、定義は意味をもつ。さらに thm-vc-first-main と $N_S\ge0$ により $m_S(a,x)\le h_k(x)+O(1)$ なので、$0\le\delta_{S,\Sigma}(a)\le1$ である。これは Voj11 Definition 5.6(p. 129)と同じである。

Roth の定理からの欠除関係

$\Sigma\subset k$ を無限集合とする。互いに異なる $a_1,\dots,a_q\in k$ について
$$ \sum_{j=1}^q\delta_{S,\Sigma}(a_j)\le2 $$
である。

$\varepsilon>0$ を任意にとる。(2) を $c=0$ で使うと、有限集合 $F\subset k$ があって、$x\in\Sigma\setminus F$ で $\sum_jm_S(a_j,x)\le(2+\varepsilon)h_k(x)$ である。Northcott の定理により、$F$ をさらに有限個だけ大きくして、$a_1,\dots,a_q\in F$ かつ $x\in\Sigma\setminus F$ で $h_k(x)>0$ としてよい。このとき、$\Sigma$ から $F$ を含む有限集合 $G$ を除いた範囲で
$$ \sum_{j=1}^q\inf_{x\in\Sigma\setminus G}\frac{m_S(a_j,x)}{h_k(x)}\le\inf_{x\in\Sigma\setminus G}\sum_{j=1}^q\frac{m_S(a_j,x)}{h_k(x)}\le2+\varepsilon $$
である(左の不等式は、下限の和が和の下限以下であることによる)。$G$ を大きくした上限をとれば、左辺は $\sum_j\delta_{S,\Sigma}(a_j)$ に収束するので、$\sum_j\delta_{S,\Sigma}(a_j)\le2+\varepsilon$ である。$\varepsilon>0$ は任意なので主張を得る。$\square$

これは Voj11 §5(p. 129)が述べている対応であり、Nevanlinna 理論の欠除関係(Nevanlinna理論 の定理「欠除関係」)と同じ形をしている。辞書で Roth の定理に対応するのは、誤差項まで込めた第二主要定理ではなく、この欠除関係である。第二主要定理の誤差項 $O(\log^+T_f(r))$ に対応する精密な形 $\sum_jm_S(a_j,x)\le2h_k(x)+O(\log h_k(x))$ は、予想として残っている(Voj11 §5、p. 128 と Table 1、p. 131)。
辞書で「定数でない有理型関数 $f$」に対応するのは、$k$ の元の 無限列 であり、1 つの点ではない。第二主要定理は不等式に反する関数が存在しないことを述べ、Roth の定理は不等式に反する無限列が存在しないことを述べる(Voj11 §6、p. 130)。

予想の主張

用語

高次元に広げるための用語を、Voj11 に従って用意する。$k$ を代数体、$S$ を前節のとおりとする。

  • Weil 関数.$X$ を $k$ 上の射影多様体、$D$ を $X$ 上の Cartier 因子 とする。$D$ の Weil 関数 $\lambda_D=(\lambda_{D,v})_{v\in M_k}$ は、$D$ の台の外で定義された関数の族で、局所的に $D$ が関数 $f$ で定義されるところでは $\lambda_{D,v}(x)=-\log\|f(x)\|_v+(\text{有界な連続関数})$ の形をもつもの(有界性は素点について一様)である。存在し、有界な差($M_k$ 定数)を除いて一意で、因子について加法的である(Voj11 Definition 8.6、Theorem 8.7、Theorem 8.8 (a)(d)、pp. 140–141)。直観的には、$\lambda_{D,v}(x)$ は $v$ 進的に $x$ が $D$ に近いほど大きい。
  • 近接関数・個数関数・高さ.$x\in X(k)$ が $D$ の台の上になければ $m_S(D,x):=\sum_{v\in S}\lambda_{D,v}(x)$、$N_S(D,x):=\sum_{v\notin S}\lambda_{D,v}(x)$ とおく。和 $h_{D,k}(x)=m_S(D,x)+N_S(D,x)$ は、有界な差を除いて $D$ の線形同値類(直線束 $O(D)$)だけで決まり、Weil高さ の定理「Weil の高さ機械」の高さ $h_{O(D)}$ の $[k:\mathbb{Q}]$ 倍に有界な差を除いて等しい(Voj11 Definition 9.6、Theorem 9.7、pp. 144–145、Definition 10.1、p. 148)。$m_S$ と $N_S$ は $D$ について加法的である(同 Proposition 10.2 (a)、pp. 148–149)。
  • 正規交差因子.非特異な多様体 $X$ 上の因子 $D$ が 正規交差 であるとは、$D$ が被約(重複度がすべて $0$ か $1$)で、局所的に(エタール位相で)既約成分が非特異で横断的に交わっていることをいう(Voj11 Definition 14.4、p. 159)。$X=\mathbb{P}^n$ で $D$ が超平面の和のときは、超平面が一般の位置にあることと同値である(同 Conjecture 14.2 の後の段落、p. 159)。
  • 生成的.$X(k)$ の部分集合が 生成的(generic)であるとは、その無限部分集合がすべて $X$ の中で Zariski 稠密であることをいう(Voj11 Definition 14.5、p. 160)。曲線では無限集合はすべて生成的である。

主張

Vojta 予想

$k$ を代数体、$S\subset M_k$ を無限素点をすべて含む有限集合、$X$ を $k$ 上の滑らかな射影多様体、$D$ を $X$ 上の正規交差因子、$K$ を $X$ の標準束、$A$ を $X$ 上の豊富な直線束とする。高さ $h_{K,k}$、$h_{A,k}$ は上の正規化で有界な差を除いて定まるものとする。

  1. $\Sigma$ を $X(k)\setminus\operatorname{Supp}D$ の生成的な部分集合とすると、定数 $C_1,C_2$ があって、すべての $x\in\Sigma$ で
    $$ m_S(D,x)+h_{K,k}(x)\le C_1\log^+h_{A,k}(x)+C_2 $$
    が成り立つ。
  2. 任意の $\varepsilon>0$ について、$X,D,A,\varepsilon$ だけによる $X$ の真の Zariski 閉集合 $Z$ があって、任意の $C\in\mathbb{R}$ について
    $$ m_S(D,x)+h_{K,k}(x)\le\varepsilon\,h_{A,k}(x)+C $$
    が、$(X\setminus Z)(k)$ の有限個を除くすべての点 $x$ で成り立つ。

これは Voj11 Conjecture 14.6(p. 160)である。Nevanlinna 理論の側の対応物は、$\mathbb{C}$ から $X$ への正則曲線 $f$ について
$$ m_f(D,r)+T_{K,f}(r)\le O(\log^+T_{A,f}(r))+o(\log r)\qquad(\text{例外集合を除いて}) $$
と予想する Griffiths の予想で(Voj11 Conjecture 14.2、p. 158)、$X$ が曲線の場合は定理である(同 p. 159)。$X=\mathbb{P}^1$ では標準束は $O(-2)$ なので、この不等式は第二主要定理(Nevanlinna理論 の定理「第二主要定理」)そのものになる(同 p. 158)。

高次元の辞書

辞書は高次元にも広がる(Voj11 §7、§13、§14、§22)。

Nevanlinna 理論数論
像が Zariski 稠密な正則曲線 $f\colon\mathbb{C}\to X$$X(k)$ の生成的な無限部分集合
Cartan の定理(超平面)Schmidtの部分空間定理
Borel の補題($e^{g_1}+\dots+e^{g_n}=1$)S 単数定理
Griffiths の予想Vojta 予想
一般型の多様体への正則曲線は退化する(予想)一般型の多様体の整数点は稠密でない(予想)
打ち切った個数関数の第二主要定理(曲線では定理)打ち切った個数関数の予想(abc予想 を含む、未解決)

Borel の補題と単数定理は Voj11 Theorem 13.1(p. 156)と Theorem 13.2(p. 157)、Cartan と Schmidt は Theorem 7.7(p. 134)と Theorem 7.11・7.12(pp. 135–136)、一般型の場合は Proposition 14.3(p. 159)と Proposition 14.9(p. 161)、打ち切りの形は Theorem 22.2(p. 188)と Conjecture 22.5(p. 189)である。S 単数定理は Schmidtの部分空間定理 の記事で証明されている。

予想から出ること

予想の特別な場合が、既知の大きな定理と一致する。以下の 2 つは「予想の特別な場合が既知の定理の形になる」ことの説明であり、予想そのものの証明ではない。

射影直線の場合は Roth の定理

$X=\mathbb{P}^1_k$、$D=[a_1]+\dots+[a_q]$($a_j\in k$ は互いに異なる)、$A=O(1)$ とする。このとき conj-vc-main の 2 の主張は、Roth の定理の形 (2) と同値である。

$\mathbb{P}^1$ の真の Zariski 閉集合は有限集合なので、2 の「$(X\setminus Z)(k)$ の有限個を除く」は「$k$ の有限個を除く」と同じである。点 $x\in k$ を $[x:1]$ と同一視する。
高さ.$\mathbb{P}^1$ の標準束は $O(-2)$ で(Voj11 §14 冒頭、p. 158)、Weil の高さ機械の正規化と加法性により $h_{K,k}(x)=-2h_k(x)+O(1)$、$h_{A,k}(x)=h_k(x)+O(1)$ である。
近接関数.点 $[a]$ は 1 次形式 $\ell=X_0-aX_1$ の零点で、その Weil 関数として $\lambda_v([x:1])=\log\bigl(\max(\|x\|_v,1)/\|x-a\|_v\bigr)$ がとれる(Schmidtの部分空間定理 の定義「一般の位置と Weil 関数」の $\lambda_{\ell,v}$)。$t>0$ について $-\log t=\log^+(1/t)-\log^+t$ なので
$$ \lambda_v([x:1])-\log^+\frac{1}{\|x-a\|_v}=\log^+\|x\|_v-\log^+\|x-a\|_v $$
であり、thm-vc-first-main の証明の不等式により、右辺の絶対値は $N_v\log2+\log^+\|a\|_v$ 以下である。$S$ で足して、$m_S([a],x)=m_S(a,x)+O(1)$ である。加法性により $m_S(D,x)=\sum_jm_S(a_j,x)+O(1)$ である。
同値性.以上により、2 の不等式は、定数 $C'$ を $C$ と上の $O(1)$ でずらせば
$$ \sum_{j=1}^qm_S(a_j,x)\le(2+\varepsilon)h_k(x)+C' $$
となり、$C$ が任意なら $C'$ も任意である。これが有限個を除くすべての $x\in k$ で成り立つことは (2) そのものである。$\square$

  1. は Roth の定理(代数体と有限個の素点の形)なので、この場合の予想の 2 は正しい。Voj11 p. 160 は、曲線の場合の 2 が、種数 $0$ では Roth の定理、種数 $1$ では Lang の定理、種数 $2$ 以上では Faltings の定理により知られていると述べている。種数 $2$ 以上の場合を次に確かめる。
種数 2 以上の曲線の場合は Faltings の定理

$X$ を $k$ 上の種数 $g\ge2$ の滑らかな射影曲線とする。conj-vc-main の 2 を $D=0$ で認めると、$X(k)$ は有限集合である。

種数 $g$ の曲線の標準束の次数は $2g-2$ で(Riemann–Rochの定理)、$g\ge2$ ではこれは正なので、標準束 $K$ は豊富である(曲線上では正の次数の直線束は豊富である。豊富な直線束)。そこで $A:=K$ ととる。$D=0$ では $m_S(D,x)=0$ である。2 を $\varepsilon=1/2$、$C=0$ で使うと、真の Zariski 閉集合 $Z$(曲線なので有限集合)があって、$(X\setminus Z)(k)$ の有限個を除くすべての $x$ で
$$ h_{K,k}(x)\le\tfrac12h_{K,k}(x),\qquad\text{すなわち}\qquad h_{K,k}(x)\le0 $$
である。$K$ は豊富なので、Northcott の性質(Weil高さ の定理「Weil の高さ機械」の 5)により $h_{K,k}(x)\le0$ となる $x\in X(k)$ は有限個である。$Z$ と除いた有限個を合わせても有限なので、$X(k)$ は有限である。$\square$

Faltings の定理(Mordell 予想)は予想なしに証明されている(Diophantus幾何学 の節「曲線の有理点と整数点」)。したがってこの命題は、予想が既知の定理と矛盾しないことと、予想がどの程度強いかを示すものである。同じ議論を $\operatorname{Supp}D$ の外の整数点に当てると、$X\setminus D$ が対数的一般型なら $S$ 整数点の集合は Zariski 稠密でない、という形になる(Voj11 Proposition 14.9、p. 161)。$D=0$ の場合は、一般型の多様体の有理点は Zariski 稠密でないという Bombieri–Lang 予想(Diophantus幾何学 の節「高次元の予想」)の形である。

知られていること

Voj11 §14(pp. 160–161)と RV16 によれば、次の場合が知られている。

  • 曲線.2 は種数によらず知られている(前節)。1 は誤差項を除けば 2 と同じ形だが、射影直線の場合の 1 は誤差項 $O(\log^+h_k(x))$ をもつ Roth の定理の精密化で、知られていない(Voj11 p. 160、Table 1、p. 131)。
  • 射影空間と超平面.$X=\mathbb{P}^n$、$D$ が一般の位置にある超平面の和の場合は、Schmidtの部分空間定理 により、1 の誤差項と 2 の $Z$ の依存の仕方を除いて知られている(Voj11 p. 160)。
  • アーベル多様体・半アーベル多様体.$X$ がアーベル多様体で $D$ が豊富な場合の 2 は Faltings(1991)、半アーベル多様体の整数点に限った形は Vojta(1999)による(Voj11 p. 161)。
  • Nevanlinna 定数.Ru と Vojta は、射影多様体上の有効 Cartier 因子 $D$ に対する数 $\operatorname{Nev}_{\mathrm{bir}}(D)$ を定め、各 $\varepsilon>0$ について $m_S(D,x)\le(\operatorname{Nev}_{\mathrm{bir}}(D)+\varepsilon)h_{D}(x)$ が真の Zariski 閉集合の外のすべての $x\in X(k)$ で成り立つことを示した(RV16 Theorem 1.5、pp. 3–4)。$D$ が豊富で $\operatorname{Nev}_{\mathrm{bir}}(D)< 1$ なら、$D$ 整数点は真の Zariski 閉集合の外に有限個しかない(同 Corollary 1.6、p. 4)。同じ形の定理が Nevanlinna 理論の側でも成り立つ(同 Theorem 1.4、p. 3)。
    一般の場合は未解決であり、打ち切った個数関数の形(abc予想 を含む)は、Nevanlinna 側で曲線の場合が定理であるのに対し、数論側ではどの場合も知られていない(Voj11 p. 190)。代数的な点(次数が有界な点)に広げた形では、体の判別式の項が加わる(同 Conjecture 24.1、p. 200)。その曲線で $D=0$ の場合(「$1+\varepsilon$ 予想」)からも abc 予想が従う(同 Conjecture 25.1、Proposition 25.2、p. 202)。

反例と注意

予想の仮定を外すと、主張は成り立たなくなる。確かめは表の下にある。

外す条件反例成り立たなくなること
標準束の項 $h_{K,k}$$\mathbb{P}^1$、$D=[\infty]$、整数の点$m_S(D,x)\le\varepsilon h_{A,k}(x)+C$
$D$ が被約(正規交差)$\mathbb{P}^1$、$D=3[\infty]$、整数の点2 の不等式
2 の例外集合 $Z$$\mathbb{P}^2$、4 直線、点 $[2^n:-2^n:1]$$Z=\emptyset$ としての 2
1 の「生成的」同じ点の集合(1 本の直線の上)1 の不等式

各行の反例が、どの条件を破っているかを確かめる。

各行の確認を開く

以下 $k=\mathbb{Q}$ とする。

1 行目:$\mathbb{P}^1$ の点 $\infty=[1:0]$ の Weil 関数として $\lambda_v([x:1])=\log^+\|x\|_v+O(1)$ がとれる($\ell=X_1$ の $\lambda_{\ell,v}$ は $\log\max(\|x\|_v,1)$)。$S=\{\infty\}$ で整数 $x=n$($\lvert n\rvert\ge2$)をとると $m_S([\infty],n)=\log\lvert n\rvert=h_{\mathbb{Q}}(n)$ である。よって $m_S(D,x)\le\varepsilon h_{A}(x)+C$($\varepsilon<1$)は無限個の点で破れる。標準束の項を入れると $m_S(D,x)+h_K(x)=-h(x)+O(1)$ となり、2 は成り立つ。$D=[\infty]$ は正規交差で、整数の集合は $\mathbb{P}^1$ の中で生成的である。

2 行目:$D=3[\infty]$ は重複度 $3$ をもち、被約でないので正規交差でない。加法性により $m_S(D,n)=3\log\lvert n\rvert+O(1)$、$h_K(n)=-2\log\lvert n\rvert+O(1)$ なので、左辺は $\log\lvert n\rvert+O(1)$ で、$\varepsilon<1$ の 2 は無限個の整数で破れる。$\mathbb{P}^1$ の真の閉集合は有限なので、$Z$ で除くこともできない。

3 行目:$\mathbb{P}^2$ の 4 直線 $x_0=0$、$x_1=0$、$x_2=0$、$x_0+x_1+x_2=0$ は一般の位置にあるので、和 $D$ は正規交差である。$S=\{\infty,2\}$、$P_n=[2^n:-2^n:1]$($n\ge1$)とする。座標 $(2^n,-2^n,1)$ も 4 つの 1 次形式の値 $2^n,-2^n,1,1$ も、$2$ 以外の素数 $p$ では $p$ 進単数なので、$S$ の外の素点で $\lambda_{\ell,v}(P_n)=0$、すなわち $N_S(\ell_j,P_n)=0$ である。Schmidtの部分空間定理 の補題「近接関数と個数関数の和」により $m_S(\ell_j,P_n)=h_{\mathbb{Q}}(P_n)=n\log2$ であり、$m_S(D,P_n)=4n\log2+O(1)$ である。標準束は $O(-3)$ なので $h_K(P_n)=-3n\log2+O(1)$ で、左辺は $n\log2+O(1)$ となる。$A=O(1)$ で $\varepsilon<1$ なら 2 は無限個の $P_n$ で破れるので、$Z$ は直線 $x_0+x_1=0$ を含まなければならない。この例は Voj11 Example 13.3(p. 157)の $u+(-u)+1=1$ と同じ形である。

4 行目:$\{P_n\}$ は直線 $x_0+x_1=0$ に含まれる無限集合で、$\mathbb{P}^2$ の中で Zariski 稠密でないので生成的でない。左辺 $n\log2+O(1)$ は $C_1\log^+h(P_n)+C_2=C_1\log(n\log2)+C_2$ より速く増えるので、1 の不等式はこの集合では成り立たない。


注意を 2 つ挙げる。

  • $Z$ は $\varepsilon$ によってよい.2 の例外集合 $Z$ を $\varepsilon$ によらずにとることはできない。Levin–McKinnon–Winkelmann は、無限個の有理曲線 $Z_i$ をもつ曲面で、1 の不等式が $Z_i$ の上で成り立たない例を与えている(Voj11 Theorem 14.10、p. 161)。これは 2 と矛盾しないが、1 と 2 を 1 つの主張にまとめることを妨げる(同 p. 162)。
  • 証明の方法は対応しない.Nevanlinna 側の証明は導関数(対数微分の補題)を使うが、数論にはその類似物が見つかっていない(Voj11 §5、p. 128)。辞書は主張の対応であり、証明の対応ではない。

関連項目

参考文献

[1]
Paul Vojta, Diophantine approximation and Nevanlinna theory, Arithmetic Geometry, Lecture Notes in Mathematics 2009, 2011, 著者サイトの版(刊行版と同じ頁番号)。Theorem 3.5 pp. 121–122、(4.9) p. 125、Definition 5.1 p. 126、Lemma 5.4・Theorem 5.5 pp. 127–128、§5 の証明についての段落 p. 128、Definition 5.6 と欠除関係 p. 129、§6 p. 130、Table 1 p. 131、Theorem 7.7 p. 134、Theorem 7.11・7.12 pp. 135–136、Definition 8.6・Theorem 8.7・8.8 pp. 140–141、Definition 9.6・Theorem 9.7 pp. 144–145、Definition 10.1・Proposition 10.2 pp. 148–149、Theorem 13.1 p. 156、Theorem 13.2・Example 13.3 p. 157、Conjecture 14.2 p. 158、Proposition 14.3・Definition 14.4 p. 159、Definition 14.5・Conjecture 14.6 と既知の場合 p. 160、Proposition 14.9・Theorem 14.10 p. 161、p. 162、Theorem 22.2 p. 188、Conjecture 22.5 p. 189、p. 190、Conjecture 24.1 p. 200、Conjecture 25.1・Proposition 25.2 p. 202
[2]
Min Ru, Paul Vojta, A birational Nevanlinna constant and its consequences, arXiv:1608.05382, 2016, arXiv 版 §1:Definition 1.2・Theorem 1.4 p. 3、Theorem 1.5 pp. 3–4、Corollary 1.6 p. 4
[3]
Joseph Oesterlé, Nouvelles approches du « théorème » de Fermat, Séminaire Bourbaki, 1988, I.5(Vojta の予想は Nevanlinna 理論との類似から来て abc 予想を導くこと)p. 171

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