Liouville–Arnoldの定理(Liouville–Arnold theorem)とは、$2n$ 次元のシンプレクティック多様体の上で Poisson 括弧が互いに $0$ になる $n$ 個の関数 $f_1,\dots,f_n$ について、正則値での等位集合のコンパクトで連結な成分は $n$ 次元トーラスで、各 $f_i$ の Hamilton ベクトル場の流れはその上の直線運動になるという定理である。さらにその近くには、シンプレクティック形式が $\sum_j d\varphi_j\wedge dI_j$ の形になり各 $f_i$ が作用変数 $I$ だけの関数になる作用・角変数 $(I,\varphi)$ がとれる。完全可積分な Hamilton 系の運動は、$\dot I=0$、$\dot\varphi$ が一定という形に解ける。
前提知識: シンプレクティック多様体, Lagrange部分多様体, ベクトル場の流れ, トーラス
古典力学の運動方程式は、相空間($2n$ 次元のシンプレクティック多様体)の上の Hamilton ベクトル場の流れとして書ける(シンプレクティック多様体 の定義「Hamilton ベクトル場と Poisson 括弧」)。エネルギー $H$ のほかに保存量がたくさんあれば、運動はそれだけ制約される。Liouville–Arnold の定理(Liouville–Arnold theorem)は、互いに Poisson 可換で独立な保存量が自由度の数 $n$ だけあるとき、運動が驚くほど単純になることを述べる。保存量の値を固定した集合がコンパクトで連結なら、それは $n$ 次元トーラスで、その上で運動はトーラスの直線運動(いくつかの角が一定の速さで回る運動)になる。さらにその近くでは、作用・角変数 とよばれる座標 $(I,\varphi)$ がとれ、Hamilton 関数は作用変数 $I$ だけの関数になり、運動方程式は $\dot I=0$、$\dot\varphi=\text{一定}$ と解ける。
この記事では次のことを示す。
以下 $(M,\omega)$ を $2n$ 次元のシンプレクティック多様体とする。Hamilton ベクトル場と Poisson 括弧は シンプレクティック多様体 の規約に従う:関数 $f$ に対し $\iota_{X_f}\omega=df$ で $X_f$ を定め、$\{f,g\}=\omega(X_f,X_g)$ とおく。$\{f,g\}=df(X_g)=-dg(X_f)$ なので、$\{f,g\}=0$ は「$g$ が $X_f$ の流れに沿って一定」と同値である。Darboux 座標 $(x,y)$ では $\omega=\sum_idx_i\wedge dy_i$、$X_H=\sum_i\bigl(\frac{\partial H}{\partial y_i}\frac{\partial}{\partial x_i}-\frac{\partial H}{\partial x_i}\frac{\partial}{\partial y_i}\bigr)$ である。
滑らかな関数 $f_1,\dots,f_n\colon M\to\mathbb R$ が 包合的(Poisson 可換)であるとは、すべての $i,j$ で $\{f_i,f_j\}=0$ となることをいう。包合的な $f_1=H,f_2,\dots,f_n$ が、稠密な開集合の各点で $df_1,\dots,df_n$ が 1 次独立になるとき、$(M,\omega,H)$ を($f_1,\dots,f_n$ を保存量とする)完全可積分系 という。$f=(f_1,\dots,f_n)\colon M\to\mathbb R^n$ とおき、$c\in\mathbb R^n$ が $f$ の 正則値 であるとは、$f^{-1}(c)$ の各点で $df_1,\dots,df_n$ が 1 次独立であることをいう。
シンプレクティック多様体 の命題「Hamilton の流れの保存則」により $H$ 自身は $X_H$ の流れで保存され、$\{f_j,H\}=0$ は $f_j$ も保存されることを意味する。1 次独立な包合的関数は $n$ 個までしかとれない(lem-la-commute の後の注意)ので、完全可積分系は保存量を最大限にもつ系である(CdS06 Definition 18.10、p. 110)。
$f_1,\dots,f_n$ を包合的な関数とする。
1.$\mathcal L_{X_f}\omega=d\iota_{X_f}\omega=d(df)=0$(Cartan の公式、Lie微分 の定理「Cartan の公式」)と、ベクトル場 $X,Y$ について $\iota_{[X,Y]}=\mathcal L_X\iota_Y-\iota_Y\mathcal L_X$ が微分形式に作用する等式であること(CdS06 §18.3、p. 108)から
$$
\iota_{[X_f,X_g]}\omega=\mathcal L_{X_f}(dg)=d\bigl(dg(X_f)\bigr)=-d\{f,g\}
$$
である。$\{f_i,f_j\}=0$ なら右辺は $0$ で、$\omega$ は非退化なので $[X_{f_i},X_{f_j}]=0$ である。可換なベクトル場の流れは、定義される範囲で可換である(Lee13 Theorem 9.44、p. 233)。
2.正則値定理(正則値定理)により $f^{-1}(c)$ は $n$ 次元の部分多様体で、$T_pf^{-1}(c)=\ker df_p$ である。$df_j(X_{f_i})=\{f_j,f_i\}=0$ なので $X_{f_i}(p)\in\ker df_p$ である。$v\mapsto\iota_v\omega_p$ は $T_pM\to T_p^*M$ の同型で、$X_{f_i}(p)$ を 1 次独立な $df_i(p)$ に写すので、$X_{f_1}(p),\dots,X_{f_n}(p)$ は 1 次独立であり、次元を比べて $\ker df_p$ の基底である。$\omega(X_{f_i},X_{f_j})=\{f_i,f_j\}=0$ なので接空間は等方的で、次元 $n$ なので Lagrange 部分空間である(シンプレクティック多様体 の定理「線形シンプレクティック形式の標準形」の 2)。$\square$
一般に、1 次独立な包合的関数の Hamilton ベクトル場は各点で等方部分空間を張るので、その個数は $\dim M/2=n$ 以下である。
$\mathbb T^n=\mathbb R^n/2\pi\mathbb Z^n$ と書き、その座標 $\varphi=(\varphi_1,\dots,\varphi_n)$ を $2\pi$ を法とする角とする。
$(M,\omega)$ を $2n$ 次元のシンプレクティック多様体、$f_1,\dots,f_n$ を包合的な関数、$c^0\in\mathbb R^n$ を $f=(f_1,\dots,f_n)$ の正則値とし、$L_0$ を $f^{-1}(c^0)$ のコンパクトで連結な成分とする。
$I_j$ を 作用変数、$\varphi_j$ を 角変数 という。$L_0$ のようなトーラスを Liouville トーラス という(CdS06 p. 110)。主張と名前は CdS06 Theorem 18.12(pp. 110–111)による。以下で 1 と 2 をともに証明する。
2 で $\omega$ が Darboux 座標の形 $\sum dx_j\wedge dy_j$($x_j=\varphi_j$、$y_j=I_j$)になるので、Hamilton の運動方程式は $\dot\varphi_j=\partial h/\partial I_j$、$\dot I_j=-\partial h/\partial\varphi_j=0$ となる。運動は、作用変数で決まる振動数 $\nu(I)=\partial h/\partial I$ でトーラスの上をまっすぐ回る運動である。作用変数 $I_j$ は一般には与えられた保存量 $f_i$ そのものではなく、その関数である。
段 1($\mathbb R^n$ の作用). lem-la-commute の 2 により $X_{f_i}$ は $f^{-1}(c^0)$ に接し、$L_0$ は $f^{-1}(c^0)$ の開かつ閉な部分集合なので、$X_{f_i}$ を $L_0$ に制限したベクトル場 $Y_i$ が定まる。$L_0$ はコンパクトなので $Y_i$ は完備で、包含写像について $Y_i$ と $X_{f_i}$ は関係にあるから $[Y_i,Y_j]$ は $[X_{f_i},X_{f_j}]=0$ と関係にあり、$[Y_i,Y_j]=0$ である(Lie括弧 の命題「Lie 括弧の自然性」)。したがって $Y_i$ の流れ $\phi^i_s$ は互いに可換で(Lie括弧 の定理「流れが可換であることの判定」)、
$$
\Phi(t,p)=\phi^1_{t_1}\circ\cdots\circ\phi^n_{t_n}(p)\qquad(t\in\mathbb R^n,\ p\in L_0)
$$
は $\Phi(s+t,p)=\Phi(s,\Phi(t,p))$ をみたす $\mathbb R^n$ の $L_0$ への滑らかな作用である。
段 2(作用は推移的). $p\in L_0$ を固定し、$\Phi_p(t)=\Phi(t,p)$ とおく。可換性から $\Phi(t+se_i,p)=\phi^i_s(\Phi(t,p))$ なので、$d\Phi_p$ は $t$ で $\partial/\partial t_i$ を $Y_i(\Phi(t,p))$ に写す。lem-la-commute の 2 によりこれらは接空間の基底なので、$\Phi_p\colon\mathbb R^n\to L_0$ は局所微分同相で、とくに開写像である。よって各軌道は開集合で、軌道どうしは交わらないので、連結な $L_0$ は 1 つの軌道である。
段 3(固定部分群は格子). $\Lambda=\{t\in\mathbb R^n\mid\Phi(t,p)=p\}$ は $\mathbb R^n$ の閉部分群で、$\Phi_p$ が $0$ の近くで単射なので離散的である。作用が可換なので $\Lambda$ は $p$ によらない。$\Phi_p$ は全単射 $\mathbb R^n/\Lambda\to L_0$ を誘導し、これは連続な局所微分同相なので微分同相である。$L_0$ はコンパクトなので、$\Lambda$ の張る部分空間 $V$ は $\mathbb R^n$ 全体である(そうでなければ $\mathbb R^n/\Lambda\to\mathbb R^n/V\cong\mathbb R^k$($k\ge1$)がコンパクト空間からの連続な全射になり矛盾)。$\Lambda$ の中に 1 次独立な $w_1,\dots,w_n$ をとり、$\Lambda'=\bigoplus\mathbb Zw_i$ とおく。$\Lambda$ の各元は $\Lambda'$ の元を引いて平行体 $\{\sum a_iw_i\mid0\le a_i<1\}$ に入れられる。平行体の閉包はコンパクトで、$\Lambda$ は離散的な閉集合なので、そこにある $\Lambda$ の元は有限個である。よって $N=[\Lambda:\Lambda']$ は有限で、$N\Lambda\subset\Lambda'$、すなわち $\Lambda\subset\frac1N\Lambda'\cong\mathbb Z^n$ である。自由アーベル群 の命題「有限階数の自由アーベル群の部分群」から $\Lambda$ は階数 $n$ 以下の自由アーベル群で、$\Lambda'$ を含むので階数はちょうど $n$ である。その基底 $v_1,\dots,v_n$ は $\mathbb R^n$ を張るので 1 次独立である。
段 4(角座標). $Av_k=2\pi e_k$ となる 1 次写像 $A$ をとると、$\varphi=A\,\Phi_p^{-1}$ は微分同相 $L_0\cong\mathbb R^n/\Lambda\cong\mathbb R^n/2\pi\mathbb Z^n=\mathbb T^n$ を与える。$X_{f_i}$ の流れは $\Phi(t,q)\mapsto\Phi(t+se_i,q)$ なので、この座標で $\varphi\mapsto\varphi+s\,Ae_i$ と書ける。$\nu_i=Ae_i$ とおけばよい。$L_0$ が Lagrange 部分多様体であることは lem-la-commute の 2 による。$\square$
段 3 の議論から、コンパクトという仮定を外すと、連結成分は $\mathbb R^n/\Lambda\cong\mathbb T^k\times\mathbb R^{n-k}$ の形になる(流れが完備なとき。CdS06 Lemma 18.11、p. 110)。
証明は 4 段からなる。(i) $L_0$ の近くの等位集合もすべてトーラスで、近傍が $D\times\mathbb T^n$ の形になる。(ii) 周期の格子の基底が等位集合の値 $c$ について滑らかに動く。(iii) 作用変数を閉じた軌道に沿った積分で定め、その Hamilton ベクトル場の流れが周期 $2\pi$ をもつことを示す。(iv) 作用変数の流れの時刻を角変数にとり、$\omega$ の残りの項を角の取り替えで消す。
要点:作用変数 $I_k$ は、周期の格子の基底 $v_k(c)$ を使って $dI_k=\frac1{2\pi}\sum_iv_k(c)_i\,dc_i$ をみたす関数として、閉じた軌道に沿った $\lambda$($d\lambda=\omega$)の積分から得られる。$X_{I_k}$ の流れは周期 $2\pi$ をもつので、その時刻が角変数になる。
段 1(近くの等位集合).臨界点($df_1,\dots,df_n$ が 1 次従属な点)の集合と $f^{-1}(c^0)\setminus L_0$ はどちらも閉集合で、コンパクトな $L_0$ と交わらない($L_0$ は $f^{-1}(c^0)$ の開かつ閉な成分)。そこで $L_0$ の開近傍 $V$ を、閉包 $\bar V$ がコンパクトで、これら 2 つの閉集合と交わらないようにとる。$\bar V\cap f^{-1}(c^0)=L_0\subset V$ なので、境界 $\partial V=\bar V\setminus V$ のコンパクトな像 $f(\partial V)$ は $c^0$ を含まず、$c^0$ を中心とする開球 $B$ で $f(\partial V)$ と交わらないものがある。$W=V\cap f^{-1}(B)$ とおく。$p\in W$ を通る $X_{f_i}$ の積分曲線は等位集合 $f^{-1}(f(p))$ の中を動き、$V$ を出るには $\partial V$ を通らなければならないが、$\partial V$ はこの等位集合と交わらない。よって積分曲線はコンパクト集合 $\bar V\cap f^{-1}(f(p))$ にとどまり、すべての時刻で定義される(ベクトル場の流れ の定理「完備性の判定」と同じ理由)。こうして 1 の証明の段 1 と同じ式で、可換な流れから $\mathbb R^n$ の $W$ への作用 $\Phi$ が定まり、$f\circ\Phi(t,\cdot)=f$ である。
段 2(切断と局所座標).点 $p_0\in L_0$ を固定する。$df_{p_0}$ は全射なので、$p_0$ を通る $n$ 次元の部分多様体 $S\subset W$ で $f|_S$ が $c^0$ の近傍への微分同相になるものがある($df_{p_0}$ の核の補空間に接するように、座標で 1 次の部分空間をとり、逆関数定理 を使う)。$B$ を小さくとり直して、逆写像を $\sigma\colon B\to S$($f\circ\sigma=\mathrm{id}$)とする。$E(c,s)=\Phi(s,\sigma(c))$ の $(c^0,0)$ での微分は、$\partial/\partial s_i$ を $X_{f_i}(p_0)$($\ker df_{p_0}$ の基底)に、$\partial/\partial c_i$ を $f$ で写すと $\partial/\partial c_i$ になるベクトルに写すので同型である。よって $E$ は $(c^0,0)$ の近傍 $B_1\times\{|s|< r\}$ から $p_0$ の近傍への微分同相である。とくに $c\in B_1$、$0<|s|< r$ なら $\Phi(s,\sigma(c))\ne\sigma(c)$ である。
段 3(周期の格子が滑らかに動く).$c\in B$ について $\Lambda(c)=\{t\mid\Phi(t,\sigma(c))=\sigma(c)\}$ とおき、1 の証明で得た $\Lambda(c^0)$ の基底を $v_1^0,\dots,v_n^0$ とする。$(c,t)$ が $(c^0,v_k^0)$ に近いとき $\Phi(t,\sigma(c))$ は $p_0$ に近く、$f$ の値が $c$ なので $\Phi(t,\sigma(c))=E(c,S(c,t))$ となる滑らかな $S(c,t)$ がただ 1 つある。小さい $u$ について $\Phi(t+u,\sigma(c))=\Phi(u,\Phi(t,\sigma(c)))=E(c,S(c,t)+u)$ なので $S(c,t+u)=S(c,t)+u$ で、$\partial S/\partial t$ は単位行列である。$S(c,t)=0$ は $t\in\Lambda(c)$ と同値なので、陰関数定理 により、$c^0$ の近くで滑らかな $v_k(c)\in\Lambda(c)$ で $v_k(c^0)=v_k^0$ となるものがある。$c$ が $c^0$ に十分近ければ $v_1(c),\dots,v_n(c)$ は 1 次独立で、$\Lambda(c)$ を生成する。実際、そうでない $c_m\to c^0$ があれば、$\Lambda(c_m)$ の元で $v_k(c_m)$ の整数結合でないものを、整数結合を引いて $w_m=\sum_ka_{m,k}v_k(c_m)$($0\le a_{m,k}<1$)とできる。部分列で $a_{m,k}\to a_k\in[0,1]$ とすると、極限 $w=\sum_ka_kv_k^0$ は $\Phi(w,\sigma(c^0))=\sigma(c^0)$ をみたし、$a_k\in\{0,1\}$ である。$w_m-\sum_ka_kv_k(c_m)$ は $\Lambda(c_m)$ の $0$ でない元で $0$ に近づくので、段 2 の最後の主張に反する。$B$ を小さくとり直して、これらが $B$ の上で成り立つとする。
段 4(近傍の形).$\Psi(c,\theta)=\Phi\bigl(\frac1{2\pi}\sum_k\theta_kv_k(c),\ \sigma(c)\bigr)$ は $B\times\mathbb T^n$ から $W$ への写像として定まる。$f\circ\Psi(c,\theta)=c$ と 1 の証明(各等位集合の上の軌道は $\mathbb R^n/\Lambda(c)$)から $\Psi$ は単射で、微分は $\theta$ の方向を等位集合の接空間に同型に写し、$c$ の方向は $f$ で写すと $\partial/\partial c$ になるので、$\Psi$ は局所微分同相である。よって $U=\Psi(B\times\mathbb T^n)$ は $L_0$ を含む開集合で、$\Psi\colon B\times\mathbb T^n\to U$ は微分同相である。
段 5($\omega$ は完全).$\chi\colon\mathbb R\to[0,1]$ を $s\le0$ で $0$、$s\ge1$ で $1$ となる滑らかな関数(de Rhamコホモロジー の系「ホモトピー不変性と Poincaré の補題」の 2 の証明のもの)とする。$r_s(\Psi(c,\theta))=\Psi(c^0+\chi(s)(c-c^0),\theta)$($s\in\mathbb R$)は $U$ の恒等写像 $r_1$ と、$L_0$ への写像 $r_0$ を結ぶ滑らかなホモトピーである。$L_0$ は Lagrange 部分多様体なので $\omega$ の $L_0$ への引き戻しは $0$ で、$r_0^*\omega=0$ である。de Rhamコホモロジー の系「ホモトピー不変性と Poincaré の補題」の 1 から $[\omega]=[r_1^*\omega]=[r_0^*\omega]=0$ で、$U$ の上で $\omega=d\lambda$ となる 1 次形式 $\lambda$ がある。
段 6(作用変数).閉曲線 $\gamma_k(c)\colon[0,1]\to U$、$s\mapsto\Phi(s\,v_k(c),\sigma(c))$ をとり、$A_k(c)=\int_{\gamma_k(c)}\lambda$、$I_k(c)=-\frac1{2\pi}A_k(c)$ とおく。$B$ の中の曲線 $c(\tau)$ について $\Gamma(\tau,s)=\Phi(s\,v_k(c(\tau)),\sigma(c(\tau)))$ とすると、$s=0$ と $s=1$ の辺はどちらも $\sigma(c(\tau))$ で打ち消し合うので、Stokes の定理から $A_k(c(\tau_1))-A_k(c(0))=\int_0^{\tau_1}\!\int_0^1\omega(\partial_\tau\Gamma,\partial_s\Gamma)\,ds\,d\tau$ である。$\partial_s\Gamma=\sum_iv_k(c)_iX_{f_i}$ で、$\omega(\partial_\tau\Gamma,X_{f_i})=-df_i(\partial_\tau\Gamma)=-\dot c_i(\tau)$($f_i\circ\Gamma=c_i(\tau)$)なので、$\frac{d}{d\tau}A_k(c(\tau))=-\sum_iv_k(c)_i\dot c_i$、すなわち $$dI_k=\frac1{2\pi}\sum_{i=1}^nv_k(c)_i\,dc_i$$ である。$v_k(c)$ は 1 次独立なので $c\mapsto I(c)$ は局所微分同相で、$B$ を小さくとり直して $B$ から開球 $D$ への微分同相としてよい。$U$ の上の関数 $I_k\circ f$ も $I_k$ と書くと、$dI_k=\frac1{2\pi}\sum_iv_k(c)_i\,df_i$ と $\iota_X\omega$ の線形性から $X_{I_k}=\frac1{2\pi}\sum_iv_k(c)_iX_{f_i}$ である。係数は等位集合の上で一定なので、$X_{I_k}$ の時刻 $\tau$ の流れは $\Phi\bigl(\frac\tau{2\pi}v_k(c),\cdot\bigr)$ で、$\tau=2\pi$ で恒等写像になる。
段 7(角変数).$\Psi$ を座標 $(I,\theta)\in D\times\mathbb T^n$ で読み直すと、$\partial/\partial\theta_k=X_{I_k}$ である。よって $\iota_{\partial/\partial\theta_k}\omega=dI_k$ で、$\omega=\sum_{j< k}a_{jk}d\theta_j\wedge d\theta_k+\sum_{j,k}b_{jk}d\theta_j\wedge dI_k+\sum_{j< k}c_{jk}dI_j\wedge dI_k$ と書いて比べると $a_{jk}=0$、$b_{jk}=\delta_{jk}$ である。$\beta=\sum_{j< k}c_{jk}dI_j\wedge dI_k$ とおくと $d\omega=0$ から $d\beta=0$ で、$d\beta$ の $d\theta_l\wedge dI_j\wedge dI_k$ の係数 $\partial c_{jk}/\partial\theta_l$ は $0$ である。よって $\beta$ は球 $D$ の上の閉 2 形式で、Poincaréの補題 により $\beta=d\bigl(\sum_jb_j(I)\,dI_j\bigr)$ と書ける。$\varphi_j=\theta_j+b_j(I)$ とおくと $\omega=\sum_jd\theta_j\wedge dI_j+\sum_jdb_j\wedge dI_j=\sum_jd\varphi_j\wedge dI_j$ である。$(I,\theta)\mapsto(I,\varphi)$ は $D\times\mathbb T^n$ の微分同相なので、$(I,\varphi)$ が求める座標である。各 $f_i$ は $c=c(I)$ の成分なので $I$ だけの関数である。$\square$
自由度 $1$($n=1$)では、$\Lambda(c)$ の生成元 $v_1(c)$ を正にとると、それは等位集合 $H=c$ の閉軌道の周期 $T(c)$ であり、段 6 の式は $\dfrac{dI}{dc}=\dfrac{T(c)}{2\pi}$ になる。したがって角変数の速さ $\dot\varphi=dh/dI$ は $2\pi/T$ で、閉軌道を 1 周するあいだに角変数がちょうど $2\pi$ 進む。
$M=\mathbb R^2$、$\omega=dx\wedge dy$、$H=\frac12(x^2+y^2)$ とする($n=1$)。$X_H=y\,\partial_x-x\,\partial_y$ で、積分曲線は $(x,y)=(r\sin(t+t_0),\ r\cos(t+t_0))$、周期は $2\pi$ である。$c>0$ は正則値で、等位集合は半径 $\sqrt{2c}$ の円、すなわち 1 次元トーラスである。
$$
x=\sqrt{2I}\,\sin\varphi,\qquad y=\sqrt{2I}\,\cos\varphi\qquad(I>0)
$$
とおくと
$$
dx\wedge dy=\Bigl(\tfrac{\sin\varphi}{\sqrt{2I}}dI+\sqrt{2I}\cos\varphi\,d\varphi\Bigr)\wedge\Bigl(\tfrac{\cos\varphi}{\sqrt{2I}}dI-\sqrt{2I}\sin\varphi\,d\varphi\Bigr)=(\cos^2\varphi+\sin^2\varphi)\,d\varphi\wedge dI
$$
なので $\omega=d\varphi\wedge dI$ で、$H=I$ である。$(I,\varphi)$ は作用・角変数で、$\dot\varphi=1$、$\dot I=0$ である。作用変数 $I=r^2/2$ は、等位集合の円が囲む面積 $\pi r^2$ を $2\pi$ で割ったものに等しい。prf-la-main-2 の段 6 の作り方で $\lambda=x\,dy$ をとると、流れに沿って 1 周する積分は $\int_0^{2\pi}r\sin t\,(-r\sin t)\,dt=-\pi r^2$ で、$I=-\frac1{2\pi}(-\pi r^2)=r^2/2$ と一致する。
$M=\mathbb R^{2n}$、$\omega=\sum_jdx_j\wedge dy_j$ とし、正の数 $\alpha_1,\dots,\alpha_n$ について $H=\sum_j\frac{\alpha_j}2(x_j^2+y_j^2)$ とする。$f_j=\frac12(x_j^2+y_j^2)$ は互いに別の変数の関数なので包合的で、$H=\sum_j\alpha_jf_j$ である。すべての $c_j>0$ なら $c$ は $f$ の正則値で、等位集合は円の直積 $\mathbb T^n$ である。ex-la-oscillator の座標を各 $(x_j,y_j)$ ごとにとると $I_j=f_j$、$h(I)=\sum_j\alpha_jI_j$ で、角変数は $\dot\varphi_j=\alpha_j$ で回る。運動は振動数 $(\alpha_1,\dots,\alpha_n)$ のトーラスの直線運動である。
この例では作用変数が与えられた $f_j$ そのものである。一般には $I$ は $f$ の関数で、prf-la-main-2 の段 6 のように周期から求める。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $L_0$ がコンパクト | $\mathbb R^2$、$\omega=dx\wedge dy$、$H=y$、$c^0=0$ | $L_0$ は $\mathbb T^n$ と微分同相 |
| $c^0$ が正則値 | $\mathbb R^2$、$\omega=dx\wedge dy$、$H=\frac12(x^2+y^2)$、$c^0=0$ | $L_0$ は $n$ 次元のトーラス |
| $f_1,\dots,f_n$ が包合的 | $\mathbb R^4$、$\omega=dx_1\wedge dy_1+dx_2\wedge dy_2$、$f_1=\frac12(x_1^2+y_1^2+x_2^2+y_2^2)$、$f_2=y_2$、$c^0=(1,0)$ | $L_0$ は $\mathbb T^n$ と微分同相 |
1 行目:$dH=dy\ne0$ なので $0$ は正則値で、$X_H=\partial_x$ である。等位集合 $\{y=0\}$ は連結だが直線 $\mathbb R$ で、流れは平行移動である。コンパクトでないので、prf-la-main-1 の段 3 の格子は $\{0\}$ になる。
2 行目:$dH=x\,dx+y\,dy$ は原点で $0$ なので、$0$ は正則値でない。等位集合は 1 点 $\{0\}$ でコンパクトかつ連結だが、1 次元のトーラス(円)ではない。
3 行目:$X_{f_2}=\partial_{x_2}$ なので $\{f_1,f_2\}=df_1(X_{f_2})=x_2$ で、包合的でない。$df_1$ と $df_2=dy_2$ が 1 次従属になるのは $x_1=y_1=x_2=0$ のときで、そこで $f_2=0$ なら $y_2=0$、$f_1=0\ne1$ なので、$(1,0)$ は正則値である。等位集合は $\{x_1^2+y_1^2+x_2^2=2,\ y_2=0\}$、すなわち 2 次元球面で、コンパクトかつ連結だがトーラスではない(球面は単連結で、トーラスの基本群は $\mathbb Z^2$。トーラス)。
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