Cayleyグラフ

同義語:Cayley graphケイリーグラフ

概要

Cayleyグラフ(Cayley graph)とは、群 $\Gamma$ と、単位元を含まず逆元をとる操作で閉じた部分集合 $S$ に対し、$\Gamma$ の元を頂点とし、$g$ と $gs$($s\in S$)を辺で結んだグラフのことである。連結であることは $S$ が $\Gamma$ を生成することと同値で、そのとき 2 頂点の距離は語の長さ $\lvert g^{-1}h\rvert_S$ に等しい。左からの積は頂点に自由かつ推移的に作用する自己同型で、この性質をもつ自己同型の群があるグラフは Cayley グラフに限る(Petersen グラフは頂点推移的だが Cayley グラフではない)。有限な生成系を取り替えても語距離は定数倍の範囲でしか変わらず、群を距離空間として調べる幾何学的群論の出発点になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 群の表示, グラフ, 距離(グラフ), 群の作用

群とその生成元が与えられると、群の元を頂点とし、生成元を右から掛ける操作を辺とするグラフが作れる。これを Cayley グラフ という。群の代数的な情報(生成元が群全体を生成するか、元が生成元の何個の積で書けるか、どんな関係式があるか)が、グラフの連結性、頂点の間の距離、閉路として目に見えるようになる。
Cayley グラフは、群が左からの積で頂点の上に「自由かつ推移的に」作用するグラフとして特徴づけられる(thm-cg-sabidussi)。とくにどの頂点から見ても同じ形をしている(頂点推移的)。逆は成り立たず、Petersen グラフは頂点推移的だが Cayley グラフではない(prop-cg-petersen)。無限群では、Cayley グラフの距離(語距離)が生成元の取り替えに対して大きく変わらないこと(prop-cg-change-generators)が、群を幾何学的な対象として調べる幾何学的群論の出発点になる。

定義

群 $\Gamma$ の単位元を $1$ と書き、部分集合 $S\subset\Gamma$ について $S^{-1}:=\{s^{-1}\mid s\in S\}$ とおく。定義は 連結グラフ の記事の定義「Cayley グラフの定義」と同じである。

Cayley グラフの定義

群 $\Gamma$ と、$1\notin S$ かつ $S^{-1}=S$ を満たす部分集合 $S\subset\Gamma$ に対し、頂点の集合を $\Gamma$、辺の集合を
$$ \bigl\{\{g,gs\}\bigm|g\in\Gamma,\ s\in S\bigr\} $$
とするグラフを、$\Gamma$ の $S$ に関する Cayley グラフ(Cayley graph)といい、$\operatorname{Cay}(\Gamma,S)$ と書く。辺 $\{g,gs\}$ に $s$ と $s^{-1}$ の組をラベルとして付けたものを、ラベル付きの Cayley グラフ という。

$g$ と $h$ が隣接することは $g^{-1}h\in S$ と同値であり、$S^{-1}=S$ なのでこれは $h^{-1}g\in S$ とも同値である。$1\notin S$ なのでループはなく、$\operatorname{Cay}(\Gamma,S)$ は単純無向グラフで、各頂点の次数は $\lvert S\rvert$ である($s\mapsto gs$ は単射)。
連結グラフ の記事の定理「Cayley グラフの連結性と生成系」により、$g$ を含む連結成分は剰余類 $g\langle S\rangle$ であり、$\operatorname{Cay}(\Gamma,S)$ が連結であることと $S$ が $\Gamma$ を生成することは同値である。以下、多くの場合 $S$ は $\Gamma$ の生成系とする。
$S^{-1}=S$ を課さない場合は、各 $g$ と $s\in S$ について $g$ から $gs$ への向きのある辺を引いた有向グラフを考え、これも Cayley グラフと呼ぶことがある。また、辺を $\{g,sg\}$(左から掛ける)とする流儀もあるが、全単射 $g\mapsto g^{-1}$ は辺 $\{g,gs\}$ を $\{g^{-1},s^{-1}g^{-1}\}$ に写すので、2 つの流儀のグラフは同型である。

例

基本的な例
  1. 整数:加法群 $\mathbb{Z}$ と $S=\{\pm1\}$ の Cayley グラフは、両側に無限に伸びた道である。$S=\{\pm2,\pm3\}$ でも $\gcd(2,3)=1$ なので連結で、各頂点の次数は $4$ である。
  2. 格子:$\mathbb{Z}^2$ と $S=\{\pm e_1,\pm e_2\}$($e_1=(1,0)$、$e_2=(0,1)$)の Cayley グラフは、平面の正方格子である。
  3. 巡回群:$n\ge3$ のとき $\operatorname{Cay}(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z},\{\pm1\})$ は閉路グラフ $C_n$、$\operatorname{Cay}(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z},\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}\setminus\{0\})$ は完全グラフ $K_n$ である。$(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})^d$ と標準的な $d$ 個の生成元の Cayley グラフは $d$ 次元の超立方体グラフ $Q_d$ である(連結グラフ の記事の例「Cayley グラフの例」)。
同じ群の異なる生成系

対称群 $S_3$ の元は 6 個で、$\rho:=(1\,2\,3)$、$\tau:=(1\,2)$ とおく。

  1. $S=\{(1\,2),(2\,3)\}$ なら、$\operatorname{Cay}(S_3,S)$ は長さ $6$ の閉路 $C_6$ である(連結グラフ の記事の例「Cayley グラフの例」の 5)。
  2. $S=\{\tau,\rho,\rho^{-1}\}$ なら、$\rho$ のラベルの辺は 2 つの剰余類 $\{1,\rho,\rho^2\}$ と $\{\tau,\tau\rho,\tau\rho^2\}$ のそれぞれを三角形にし、$\tau$ のラベルの辺 $\{g,g\tau\}$ は 2 つの三角形を 3 本の辺でつなぐ。グラフは三角柱の辺の形である。
  3. $S$ を 3 つの互換の全体とすると、$g$ の隣接頂点 $gt$($t$ は互換)は $g$ と符号が逆の置換で、3 つとも相異なる。よって偶置換の 3 つと奇置換の 3 つの間にすべての辺がある完全二部グラフ $K_{3,3}$ になる。
    2 と 3 はどちらも 6 頂点の 3-正則グラフだが、2 は三角形を含み 3 は含まないので同型でない。Cayley グラフは群だけでなく生成系の選び方に依存する。
自由群の Cayley グラフは木

$F_2$ を $a,b$ が生成する自由群、$S=\{a^{\pm1},b^{\pm1}\}$ とする。$\operatorname{Cay}(F_2,S)$ は各頂点の次数が $4$ の木(閉路をもたない連結グラフ)である。連結性は $S$ が $F_2$ を生成することによる。長さ $k\ge3$ の閉路 $g_0,g_1,\dots,g_k=g_0$ があったとすると、$s_i:=g_{i-1}^{-1}g_i\in S$ について $s_1s_2\cdots s_k=1$ であり、$s_{i+1}=s_i^{-1}$ なら $g_{i+1}=g_{i-1}$ となって閉路の頂点が重複するので、語 $s_1s_2\cdots s_k$ は既約語である。ところが 自由群 の記事の定理「既約語の群」により、$F_2$ の元は既約語として表され、単位元は空語なので、長さ $k\ge3$ の既約語 $s_1s_2\cdots s_k$ が表す元は単位元でない。よって閉路はない。この木の上に $F_2$ が左からの積で作用していることは、8 の字形の空間の普遍被覆(普遍被覆)の記述にも現れる。

左からの積による対称性

グラフの自己同型と自己同型群 $\operatorname{Aut}$ は グラフ同型 の記事の定義による。$\gamma\in\Gamma$ について $L_\gamma(g):=\gamma g$ とおく。

左からの積は自己同型

$\operatorname{Cay}(\Gamma,S)$ について次が成り立つ。

  1. 各 $\gamma\in\Gamma$ について $L_\gamma$ は $\operatorname{Cay}(\Gamma,S)$ の自己同型であり、$\gamma\mapsto L_\gamma$ は $\Gamma$ から $\operatorname{Aut}\operatorname{Cay}(\Gamma,S)$ への単射準同型である。
  2. その像 $\{L_\gamma\}$ は頂点の集合に自由かつ推移的に作用する。すなわち、任意の頂点 $g,h$ について $L_\gamma(g)=h$ となる $\gamma$ がただ 1 つある。とくに $\operatorname{Cay}(\Gamma,S)$ は 頂点推移的(自己同型群が頂点の集合に推移的に作用する)である。
  3. $\Gamma$ の群の自己同型 $\alpha$ で $\alpha(S)=S$ を満たすものは、$1$ を動かさない $\operatorname{Cay}(\Gamma,S)$ の自己同型である。

1:$L_\gamma$ は $L_{\gamma^{-1}}$ を逆写像とする全単射である。$(\gamma g)^{-1}(\gamma h)=g^{-1}h$ なので、$g,h$ が隣接することと $\gamma g,\gamma h$ が隣接することは同値であり、$L_\gamma$ は自己同型である。$L_{\gamma\delta}=L_\gamma\circ L_\delta$ で、$L_\gamma=\mathrm{id}$ なら $\gamma=L_\gamma(1)=1$ である。
2:$L_\gamma(g)=h$ は $\gamma=hg^{-1}$ と同値である。
3:$\alpha$ は全単射で、$\alpha(g)^{-1}\alpha(h)=\alpha(g^{-1}h)$ である。$\alpha(S)=S$ なので $g^{-1}h\in S$ と $\alpha(g^{-1}h)\in S$ は同値であり、$\alpha$ は隣接関係を保つ。$\alpha(1)=1$ である。$\square$

右からの積 $g\mapsto g\gamma$ は一般に自己同型でない。たとえば $C_6=\operatorname{Cay}(S_3,\{(1\,2),(2\,3)\})$ で $\gamma=(1\,2)$ とすると、辺 $\{1,(2\,3)\}$ は $\{(1\,2),(2\,3)(1\,2)\}$ に写るが、$(1\,2)^{-1}(2\,3)(1\,2)=(1\,3)\notin S$ なので後者は辺でない。
3 により、自己同型群は $\Gamma$ より大きくなりうる。$C_n=\operatorname{Cay}(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z},\{\pm1\})$ では $k\mapsto-k$ が 3 の自己同型で、自己同型群は位数 $2n$ の二面体群である(グラフ同型 の記事の定理「閉路グラフの自己同型群」)。しかし、辺のラベルまで保つ自己同型は左からの積に限る。

ラベルを保つ自己同型

$S$ が $\Gamma$ を生成するとする。全単射 $F\colon\Gamma\to\Gamma$ がすべての $g\in\Gamma$、$s\in S$ について $F(gs)=F(g)s$ を満たすことと、ある $\gamma\in\Gamma$ について $F=L_\gamma$ であることは同値である。このとき $\gamma=F(1)$ である。したがって、ラベル付きの Cayley グラフの、辺のラベルと向き($g$ から $gs$ へ)を保つ自己同型全体の群は $\Gamma$ と同型である。

$L_\gamma(gs)=\gamma gs=L_\gamma(g)s$ である。逆に $F$ が条件を満たすとし、$\gamma:=F(1)$ とおく。$S^{-1}=S$ なので、$\Gamma$ の元は $S$ の元の有限個の積 $s_1\cdots s_k$($k=0$ は $1$)として書ける(部分群 の記事の命題「生成される部分群の元の記述」)。$k$ についての帰納法で $F(s_1\cdots s_k)=\gamma s_1\cdots s_k$ を示す。$k=0$ は $\gamma$ の定義である。$k-1$ まで正しければ $F(s_1\cdots s_{k-1}s_k)=F(s_1\cdots s_{k-1})s_k=\gamma s_1\cdots s_{k-1}s_k$ である。よって $F=L_\gamma$ である。$\square$

有限群 $\Gamma$ について、自己同型群が $\Gamma$ と同型になる(ラベルのない)グラフを作る研究があり、そこで作られるグラフは、ラベル付きの Cayley グラフの頂点や辺を小さなグラフで置き換え、ラベルを形で区別したものになっている(Sab58 の序文と Definition 3, pp. 800, 803。この記事では証明しない)。

語距離

語の長さと語距離

$S$ が $\Gamma$ を生成するとする($1\notin S$、$S^{-1}=S$)。$g\in\Gamma$ を $S$ の元の積 $g=s_1\cdots s_k$ で書くときの $k$ の最小値を $g$ の 語の長さ といい、$\lvert g\rvert_S$ と書く($\lvert1\rvert_S=0$)。$d_S(g,h):=\lvert g^{-1}h\rvert_S$ を 語距離(word metric)という。

語距離はグラフの距離

$S$ が $\Gamma$ を生成するとき、$d_S(g,h)$ は $\operatorname{Cay}(\Gamma,S)$ における $g$ と $h$ の距離(グラフ)に等しい。したがって $d_S$ は $\Gamma$ 上の距離関数であり、左からの積で不変($d_S(\gamma g,\gamma h)=d_S(g,h)$)である。

$g$ から $h$ への長さ $k$ の歩道 $g=g_0,g_1,\dots,g_k=h$ があると、$s_i:=g_{i-1}^{-1}g_i\in S$ について $g^{-1}h=s_1\cdots s_k$ である。逆に $g^{-1}h=s_1\cdots s_k$ なら $g,\ gs_1,\ gs_1s_2,\ \dots,\ gs_1\cdots s_k=h$ は長さ $k$ の歩道である。よって $g$ から $h$ への歩道の長さの最小値は $\lvert g^{-1}h\rvert_S$ に等しい。歩道の長さの最小値は道の長さの最小値に等しい(距離(グラフ) の記事の補題「歩道からの道の取り出し」)ので、これはグラフの距離である。グラフは連結なので、同記事の命題「距離空間の公理」により $d_S$ は距離関数である。不変性は $(\gamma g)^{-1}(\gamma h)=g^{-1}h$ による。$\square$

生成系の取り替え

$S,T$ を $\Gamma$ の有限な生成系($1\notin S,T$、$S^{-1}=S$、$T^{-1}=T$)とし、$C:=\max_{s\in S}\lvert s\rvert_T$ とおく。このとき、すべての $g,h\in\Gamma$ について $d_T(g,h)\le C\,d_S(g,h)$ である。とくに、ある定数 $C'\ge1$ について
$$ \frac1{C'}\,d_S(g,h)\le d_T(g,h)\le C'\,d_S(g,h) $$
が成り立つ。

$S$ は有限なので $C$ は有限である。$k:=d_S(g,h)$ とし $g^{-1}h=s_1\cdots s_k$ と書く。各 $s_i$ は $T$ の元 $C$ 個以下の積なので、$g^{-1}h$ は $T$ の元 $Ck$ 個以下の積であり、$d_T(g,h)\le Ck$ である。$S$ と $T$ を入れ替えた不等式と合わせ、2 つの定数の大きい方を $C'$ とすればよい($C'\ge1$ は $\Gamma\neq\{1\}$ なら $C\ge1$ から、$\Gamma=\{1\}$ なら距離がすべて $0$ であることから成り立つ)。$\square$

$\mathbb{Z}$ の $S=\{\pm1\}$ と $T=\{\pm2,\pm3\}$ では $\lvert1\rvert_T=2$($1=3-2$)、$\lvert2\rvert_S=2$、$\lvert3\rvert_S=3$ なので $d_T\le2d_S$、$d_S\le3d_T$ である。生成系が無限だとこの比較は成り立たない(ex-cg-infinite-generators)。
prop-cg-change-generators は、恒等写像 $(\Gamma,d_S)\to(\Gamma,d_T)$ が双 Lipschitz であることを述べている。たとえば球 $B_S(r):=\{g\mid\lvert g\rvert_S\le r\}$ について $B_S(r)\subset B_T(C'r)$ が成り立つので、$B_S(r)$ の元の個数が $r$ の多項式で上から押さえられるかどうかは生成系によらない。これが、有限生成群を距離空間として調べる幾何学的群論の出発点である。

Cayley グラフの特徴づけ

thm-cg-left の 2 は、Cayley グラフの自己同型群が、頂点の集合に自由かつ推移的に作用する部分群をもつことを述べている。逆も成り立つ。

正則に作用する群による特徴づけ

$X$ を頂点の集合 $V$ が空でない単純無向グラフとし、$H$ を $\operatorname{Aut}X$ の部分群で、$V$ に自由かつ推移的に作用するものとする。頂点 $v_0$ を 1 つ選び、
$$ S:=\{h\in H\mid hv_0\text{ と }v_0\text{ が隣接する}\} $$
とおく。このとき $1\notin S$、$S^{-1}=S$ であり、$\Phi(h):=hv_0$ はグラフの同型 $\operatorname{Cay}(H,S)\to X$ である。したがって、グラフ $X$ がある群の Cayley グラフと同型であることと、$\operatorname{Aut}X$ が $V$ に自由かつ推移的に作用する部分群をもつことは同値である。

作用が自由かつ推移的なので、各頂点 $v$ について $hv_0=v$ となる $h\in H$ がただ 1 つあり、$\Phi$ は全単射である。単純グラフにループはないので $v_0$ は $v_0$ と隣接せず、$1\notin S$ である。$s\in S$ なら、自己同型 $s^{-1}$ を $sv_0$ と $v_0$ の辺に施すと $v_0$ と $s^{-1}v_0$ が隣接するので、$s^{-1}\in S$ である。
$h,h'\in H$ について
$$ h^{-1}h'\in S\iff h^{-1}h'v_0\text{ と }v_0\text{ が隣接}\iff h'v_0\text{ と }hv_0\text{ が隣接} $$
である。2 つ目の同値は、自己同型 $h$(またはその逆)を施すと隣接関係が保たれることによる。左辺は $\operatorname{Cay}(H,S)$ で $h$ と $h'$ が隣接すること、右辺は $X$ で $\Phi(h)$ と $\Phi(h')$ が隣接することなので、$\Phi$ は同型である。逆向きは thm-cg-left の 2 による。$\square$

有限グラフについてのこの特徴づけは Sabidussi による(Sab58 Lemma 4, p. 802。そこでは「頂点の個数と同じ位数の推移的な部分群」と述べられており、有限集合の上では推移的な作用が自由であることと位数が頂点の個数に等しいことは同値である(群の作用 の記事の定理「軌道・安定化群定理」))。
Cayley グラフは頂点推移的だが、逆は成り立たない。

Petersen グラフは Cayley グラフでない

Petersenグラフ は頂点推移的だが、どの群のどの $S$ についての Cayley グラフとも同型でない。

頂点推移的であることは Petersenグラフ の記事の定理「自己同型群」による。Petersen グラフ $P$ は 10 頂点の 3-正則グラフで、内周(最短の閉路の長さ)は $5$ である(同記事の命題「共通の隣接頂点と内周」)。
$P\cong\operatorname{Cay}(\Gamma,S)$ とすると $\lvert\Gamma\rvert=10$、$\lvert S\rvert=3$ である。まず、$S$ の元の積 $s_1s_2\cdots s_k=1$($k=3$ または $4$)で $s_{i+1}\neq s_i^{-1}$($1\le i\le k-1$)を満たすものはないことを示す。そのような積があると、頂点の列 $g_i:=s_1\cdots s_i$($g_0=g_k=1$)は $g_{i+1}\neq g_{i-1}$ を満たす閉じた歩道になる。$g_i=g_j$($i< j$)となる組のうち $j-i$ が最小のものをとると、$j-i=1$ はループになり、$j-i=2$ は $g_{i+2}=g_i$ となるので起こらず、$g_i,\dots,g_j$ は長さ $3$ 以上 $k$ 以下の閉路になって、内周が $5$ であることに反する。
$\lvert S\rvert=3$ は奇数で、$s\ne s^{-1}$ となる元は $\{s,s^{-1}\}$ の組で現れるので、$S$ は位数 $2$ の元 $a$ を含む。

場合 1:$S=\{a,b,b^{-1}\}$、$b\ne b^{-1}$ を開く

$b$ の位数を $k$ とする。$k=3$ なら積 $bbb$、$k=4$ なら $bbbb$ が上の性質をもつので、$k\ge5$ で、Lagrangeの定理により $k=5$ または $10$ である。$k=10$ なら $\Gamma=\langle b\rangle$ は可換なので $abab^{-1}=1$ で、$b\neq a=a^{-1}$、$a\neq b^{-1}$ より、これは上の性質をもつ長さ $4$ の積である。$k=5$ なら $N:=\langle b\rangle$ は指数 $2$ なので正規部分群で(左剰余類も右剰余類も $N$ と $\Gamma\setminus N$)、$a\notin N$(位数が $2$)である。よって $aba=b^m$($0< m< 5$)と書け、$b=a(aba)a=ab^ma=(aba)^m=b^{m^2}$ なので $m^2\equiv1\pmod5$、すなわち $m=1$ か $4$ である。$m=1$ なら $abab^{-1}=1$、$m=4$ なら $abab=1$ で、どちらも上の性質をもつ長さ $4$ の積である。


場合 2:$S=\{a,b,c\}$ がすべて位数 $2$ を開く

$x\neq y$ を $S$ の元とする。$xy$ の位数が $2$ なら $xyxy=1$ が上の性質をもつので起こらない。$xy$ の位数が $10$ なら $\Gamma$ は位数 $10$ の巡回群で、位数 $2$ の元はただ 1 つ($\mathbb{Z}/10\mathbb{Z}$ の $5$)しかなく、$S$ に反する。よって $xy$ の位数は $5$ である。位数 $5$ の部分群はただ 1 つである(2 つの相異なるもの $N,N'$ があれば $N\cap N'=\{1\}$ で、積 $nn'$($n\in N$、$n'\in N'$)はすべて相異なり $25$ 個になって $\lvert\Gamma\rvert=10$ に反する)。その部分群を $N$ とすると、6 個の積 $xy$($x\neq y$)はすべて $N\setminus\{1\}$(4 元)に入るので、$xy=zw$ となる相異なる組 $(x,y)\neq(z,w)$ がある。$x=z$ なら $y=w$ なので $x\neq z$、同様に $y\neq w$ であり、$xywz=1$ は上の性質をもつ長さ $4$ の積である。


どちらの場合も矛盾が生じるので、$P$ は Cayley グラフでない。$\square$

巡回群の Cayley グラフの固有値

隣接行列 の固有値は、Cayley グラフでは群の言葉で書ける。巡回群の場合は次のとおりである。

巡回群の Cayley グラフの固有値

$n\ge2$、$S\subset\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ を $0\notin S$、$-S=S$ を満たす部分集合とし、$\omega:=e^{2\pi i/n}$ とおく。$\operatorname{Cay}(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z},S)$ の隣接行列 $A$ の固有値は、重複も込めて
$$ \lambda_j=\sum_{s\in S}\omega^{js}=\sum_{s\in S}\cos\frac{2\pi js}{n}\qquad(j=0,1,\dots,n-1) $$
であり、$v_j:=(\omega^{jk})_{k\in\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}}$ が $\lambda_j$ の固有ベクトルである。

$(Av_j)_k=\sum_{s\in S}(v_j)_{k+s}=\sum_{s\in S}\omega^{j(k+s)}=\lambda_j\,\omega^{jk}$ なので $Av_j=\lambda_jv_j$ である。$v_0,\dots,v_{n-1}$ を並べた行列は、相異なる $1,\omega,\dots,\omega^{n-1}$ についての Vandermonde 行列なので正則であり、$v_j$ は基底をなす。よって $A$ の固有値は重複を込めて $\lambda_0,\dots,\lambda_{n-1}$ である。$-S=S$ なので $s$ と $-s$ の項をまとめると虚部が消え、$\lambda_j$ は余弦の和になる。$\square$

閉路グラフ $C_n$($S=\{\pm1\}$)の固有値は $2\cos(2\pi j/n)$、完全グラフ $K_n$ の固有値は $n-1$($j=0$)と $-1$($j\neq0$、$\sum_{s=0}^{n-1}\omega^{js}=0$ による)である。一般の有限アーベル群でも、指標を使って同じように固有値が求まる(BH11 §1.4.9, p. 11。この記事では証明しない)。

条件を外したときの反例

外す条件反例成り立たなくなること
$S$ が $\Gamma$ を生成する$\operatorname{Cay}(\mathbb{Z}/6\mathbb{Z},\{2,4\})$連結である(2 つの三角形に分かれる)
$S$ が有限$\mathbb{Z}$ と $S=\mathbb{Z}\setminus\{0\}$語距離が $\{\pm1\}$ の語距離と双 Lipschitz 同値(ex-cg-infinite-generators)
辺のラベルを保つ$C_n=\operatorname{Cay}(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z},\{\pm1\})$ の $k\mapsto-k$自己同型が左からの積である
自己同型群が頂点に自由かつ推移的に作用する部分群をもつPetersen グラフ(prop-cg-petersen)Cayley グラフと同型である
反例:無限の生成系

$S=\mathbb{Z}\setminus\{0\}$ とすると、どの 2 つの相異なる整数も隣接し、$\operatorname{Cay}(\mathbb{Z},S)$ は可算無限個の頂点の完全グラフである。$d_S(0,n)=1$($n\neq0$)だが $d_{\{\pm1\}}(0,n)=\lvert n\rvert$ なので、$d_{\{\pm1\}}\le C'd_S$ となる定数 $C'$ はない。prop-cg-change-generators の仮定「有限」を外すと結論が成り立たなくなる。

3 行目の $k\mapsto-k$ は $0$ を動かさない自己同型で、ラベル $+1$ の向きの辺($k$ から $k+1$)をラベル $+1$ の逆向き($-k$ から $-k-1$)に写す。$n\ge3$ では恒等写像でないので左からの積($0$ を動かすか恒等写像)でない。4 行目の Petersen グラフでは、自己同型群 $S_5$ は頂点に推移的に作用するが、頂点の安定化群は位数 $12$ で自由でなく、自由かつ推移的に作用する位数 $10$ の部分群はない。

関連項目

参考文献

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