楕円に内接する多角形の最大面積

同義語:楕円に内接する三角形の最大面積largest polygons inscribed in an ellipse

概要

楕円に内接する多角形の最大面積(largest polygons inscribed in an ellipse)とは、楕円 $\frac{x^2}{a^2}+\frac{y^2}{b^2}=1$($a,b>0$)に内接する $n$ 角形の面積の最大値で、$\frac n2ab\sin\frac{2\pi}n$ である。最大になるのは、頂点 $(a\cos t,b\sin t)$ の媒介変数 $t$ が $\frac{2\pi}n$ ずつずれているとき、つまり円 $x^2+y^2=a^2$ に内接する正 $n$ 角形の $y$ 座標を $\frac ba$ 倍した多角形のときに限る。三角形では最大値 $\frac{3\sqrt3}4ab$ で、最大になるのは重心が楕円の中心のときに限る。四角形では最大値 $2ab$ で、最大になるのは 2 本の対角線が共役な直径のときに限る。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 楕円の共役直径, 1次変換と行列式:面積の拡大率, 靴ひも公式, 相加平均・相乗平均と凸関数

高校での出発点:楕円に三角形を入れる

楕円 $\dfrac{x^2}9+\dfrac{y^2}4=1$ の上に 3 つの頂点をとって三角形を作る。どんな三角形の面積がいちばん大きいだろうか。まず 3 つの三角形の面積を比べる。

楕円に内接する 3 つの三角形

(i) 頂点 $(3,0)$、$(0,2)$、$(-3,0)$ の三角形は、底辺 $6$、高さ $2$ なので面積 $6$ である。
(ii) 頂点 $(0,2)$、$\left(-\dfrac{3\sqrt3}2,-1\right)$、$\left(\dfrac{3\sqrt3}2,-1\right)$ の三角形を考える。3 点とも楕円の上にある(たとえば $\dfrac{27/4}9+\dfrac14=\dfrac34+\dfrac14=1$)。底辺は $y=-1$ の上の長さ $3\sqrt3$、高さは $2-(-1)=3$ なので、面積は
$$ \frac12\cdot3\sqrt3\cdot3=\frac{9\sqrt3}2=7.794\ldots $$
である。
(iii) 楕円に内接する正三角形で、1 つの頂点が $(0,2)$ のものを求める。$y$ 軸に関して対称に、残りの頂点を $(\pm x,\ y)$($x>0$)とする。1 辺の長さは $2x$ で、正三角形の高さ $2-y$ は $\dfrac{\sqrt3}2\cdot2x=\sqrt3\,x$ なので、$y=2-\sqrt3\,x$ である。楕円の式に入れて $36$ を掛けると
$$ 4x^2+9\left(2-\sqrt3\,x\right)^2=36,\qquad 31x^2-36\sqrt3\,x=0 $$
で、$x=\dfrac{36\sqrt3}{31}=2.011\ldots$ である。面積は $\dfrac12\cdot2x\cdot\sqrt3\,x=\sqrt3\,x^2=\dfrac{3888\sqrt3}{961}=7.007\ldots$ である。

楕円に内接する 3 つの三角形:(i) 灰色の破線は面積 6、(ii) 青は面積 7.79、(iii) 緑の正三角形は面積 7.01 楕円に内接する 3 つの三角形:(i) 灰色の破線は面積 6、(ii) 青は面積 7.79、(iii) 緑の正三角形は面積 7.01
正三角形 (iii) より、正三角形でない (ii) の方が大きい。(ii) は、次の三角形を縦に $\dfrac23$ 倍に縮めたものである。

円に内接する正三角形を縮める

円 $x^2+y^2=9$ に内接する正三角形 $(0,3)$、$\left(\pm\dfrac{3\sqrt3}2,-\dfrac32\right)$ の面積は $\dfrac12\cdot3\sqrt3\cdot\dfrac92=\dfrac{27\sqrt3}4=11.69\ldots$ である。$y$ 座標を $\dfrac23$ 倍すると頂点は (ii) の 3 点になり、面積は $\dfrac{27\sqrt3}4\cdot\dfrac23=\dfrac{9\sqrt3}2$ で (ii) と一致する。$y$ 座標を $\dfrac23$ 倍する変換は行列式 $\dfrac23$ の 1 次変換なので、どの図形の面積も $\dfrac23$ 倍にする(1次変換と行列式:面積の拡大率)。

この記事で答える問いは次の 3 つである。

  1. 楕円に内接する三角形の面積の最大値はいくらで、どんな三角形で最大になるか。→ thm-lpie-main、cor-lpie-small
  2. 四角形、一般の $n$ 角形ではどうか。→ thm-lpie-main
  3. 「正三角形が最大」「周の長さも最大」のような、円での直感はどこまで正しいか。→ ex-lpie-cx-equilateral、ex-lpie-cx-perimeter
    高校の計算この記事の言葉大学の言葉
    座標で三角形の面積を求める内接多角形の面積の公式行列式・靴ひも公式
    楕円を縦に縮めた円で考える1 次変換で円の場合に帰着するアフィン変換で保たれる量
    円に内接する三角形は正三角形が最大$\sin$ の和の最大(Jensen の不等式)凹関数の不等式と等号の条件

言葉の準備:楕円に内接する多角形

楕円 $E:\ \dfrac{x^2}{a^2}+\dfrac{y^2}{b^2}=1$($a>0$、$b>0$)の点を、楕円の共役直径 と同じく $P(t)=(a\cos t,\ b\sin t)$ で表す。$t$ が増えると $P(t)$ は $E$ を反時計回りに回る。$t$ は中心から見た角ではない(楕円の共役直径 の例「媒介変数と中心から見た角」)。

楕円に内接する $n$ 角形と媒介変数の差

$n\ge3$ とする。実数 $t_1< t_2<\cdots< t_n< t_1+2\pi$ をとり、$E$ の $n$ 個の点 $P(t_1)$、$P(t_2)$、…、$P(t_n)$ をこの順に結んでできる $n$ 角形を、$E$ に内接する $n$ 角形 という。$E$ の上の異なる $n$ 点は、媒介変数を小さい順に並べることで、この形に書ける。
隣り合う媒介変数の差
$$ \theta_1=t_2-t_1,\ \ \theta_2=t_3-t_2,\ \ \ldots,\ \ \theta_{n-1}=t_n-t_{n-1},\ \ \theta_n=t_1+2\pi-t_n $$
を、この $n$ 角形の 媒介変数の差 とよぶ。どれも正で、和は $2\pi$ である。

円 $x^2+y^2=R^2$($a=b=R$)では、$t_k$ は中心から見た頂点の角で、$\theta_k$ は辺 $P(t_k)P(t_{k+1})$ に対する中心角である。ex-lpie-start の (i) は $t=0,\dfrac\pi2,\pi$ で差は $\dfrac\pi2,\dfrac\pi2,\pi$、(ii) は $t=\dfrac\pi2,\dfrac{7\pi}6,\dfrac{11\pi}6$ で差はどれも $\dfrac{2\pi}3$ である。

円に内接する多角形の面積

まず円の場合に、面積を中心角で書く。

円に内接する多角形の面積

円 $x^2+y^2=R^2$ の上の点 $V_k=(R\cos t_k,\ R\sin t_k)$($t_1<\cdots< t_n< t_1+2\pi$、$n\ge3$)をこの順に結んだ $n$ 角形は、頂点が反時計回りに並んだ凸多角形であり、面積は
$$ S=\frac{R^2}2\left(\sin\theta_1+\sin\theta_2+\cdots+\sin\theta_n\right) $$
である。ここで $\theta_k$ は def-lpie-inscribed の差である。

要点:円の 2 点 $V_s$、$V_t$ の行列式は $\det(V_s,V_t)=R^2\sin(t-s)$ である。これを使うと、どの辺 $V_iV_{i+1}$ とほかの頂点 $V_k$ についても靴ひもの和が $2R^2\sin\dfrac x2\sin\dfrac y2\sin\dfrac{x+y}2>0$($x$、$y$ は媒介変数の差)になるので、頂点は反時計回りに並んだ凸多角形である。靴ひも公式 の定理「靴ひも公式(凸多角形)」から、面積は $\dfrac12\sum\det(V_k,V_{k+1})=\dfrac{R^2}2\sum\sin\theta_k$ である。

詳しい証明を開く

方針:靴ひも公式 の定理「靴ひも公式(凸多角形)」を使う。そのために、頂点が反時計回りに並んだ凸多角形であることを確かめる。

段 1(2 点の行列式)。2 点 $V_s=(R\cos s,R\sin s)$、$V_t=(R\cos t,R\sin t)$ について、加法定理から

$$\det(V_s,V_t)=R\cos s\cdot R\sin t-R\sin s\cdot R\cos t=R^2\sin(t-s)$$

である。

段 2(凸で反時計回り)。靴ひも公式 の定義「反時計回りに並んだ凸多角形」により、どの辺 $V_iV_{i+1}$ とほかのどの頂点 $V_k$ についても、靴ひもの和 $S(V_i,V_{i+1},V_k)=\dfrac12\bigl(\det(V_i,V_{i+1})+\det(V_{i+1},V_k)+\det(V_k,V_i)\bigr)$ が正であることを示せばよい。$V_k$ の媒介変数を $t_i+2\pi$ より小さく、$t_{i+1}$ より大きくとり直し、$x=t_{i+1}-t_i$、$y=t_k-t_{i+1}$ とおく。$x>0$、$y>0$、$x+y<2\pi$ である。段 1 により

$$S(V_i,V_{i+1},V_k)=\frac{R^2}2\bigl(\sin x+\sin y-\sin(x+y)\bigr)=2R^2\sin\frac x2\sin\frac y2\sin\frac{x+y}2$$

である(右の等号は下の「詳細」)。$\dfrac x2$、$\dfrac y2$、$\dfrac{x+y}2$ はどれも $0$ と $\pi$ の間にあるので、3 つの $\sin$ は正で、$S(V_i,V_{i+1},V_k)>0$ である。

詳細

和を積に直す公式から $\sin x+\sin y=2\sin\dfrac{x+y}2\cos\dfrac{x-y}2$、2 倍角の公式から $\sin(x+y)=2\sin\dfrac{x+y}2\cos\dfrac{x+y}2$ である。引くと

$$\sin x+\sin y-\sin(x+y)=2\sin\frac{x+y}2\left(\cos\frac{x-y}2-\cos\frac{x+y}2\right)=2\sin\frac{x+y}2\cdot2\sin\frac x2\sin\frac y2$$

となる(最後は差を積に直す公式 $\cos\alpha-\cos\beta=-2\sin\dfrac{\alpha+\beta}2\sin\dfrac{\alpha-\beta}2$ を $\alpha=\dfrac{x-y}2$、$\beta=\dfrac{x+y}2$ に使った)。

段 3(面積)。段 2 により、靴ひも公式 の定理「靴ひも公式(凸多角形)」が使えて、面積は

$$S=\frac12\sum_{k=1}^{n}\det(V_k,V_{k+1})=\frac12\sum_{k=1}^{n}R^2\sin(t_{k+1}-t_k)=\frac{R^2}2\sum_{k=1}^{n}\sin\theta_k$$

である($V_{n+1}=V_1$ とし、$t_{n+1}=t_1+2\pi$ とおいた。$\sin$ は周期 $2\pi$ なので $\sin(t_1-t_n)=\sin\theta_n$ である)。$\square$

中心が多角形の外にあるときは、中心角が $\pi$ を超える差 $\theta_j$ が 1 つあり、$\sin\theta_j<0$ になる。それでも公式はそのまま成り立つ。

中心が内部にない三角形
  1. 円 $x^2+y^2=9$ で $t=0,\dfrac\pi2,\pi$ の三角形 $(3,0)$、$(0,3)$、$(-3,0)$ は、差が $\dfrac\pi2,\dfrac\pi2,\pi$ で、面積は $\dfrac92(1+1+0)=9$ である。底辺 $6$、高さ $3$ の面積 $9$ と一致する。
  2. 同じ円で $t=0,\ 0.5,\ 1.2$ の三角形は、差が $0.5$、$0.7$、$2\pi-1.2=5.083\ldots$ で、中心が三角形の外にある。$\sin5.083\ldots=-0.932\ldots$ なので、面積は $\dfrac92(0.479\ldots+0.644\ldots-0.932\ldots)=0.862\ldots$ である。頂点の座標から 靴ひも公式 で直接計算しても $0.862\ldots$ になる。

主定理:正 $n$ 角形を縮めた多角形が最大

面積の公式の $\sin\theta_1+\cdots+\sin\theta_n$ を最大にすればよい。$\sin$ は $0\le x\le\pi$ で上に凸(凹関数)なので、Jensenの不等式(高校数学) が使える。ただし差 $\theta_k$ が $\pi$ を超えることがあるので、その場合を分ける。

$\sin$ の和の最大

$n\ge3$ とし、正の数 $\theta_1,\ldots,\theta_n$ の和が $2\pi$ であるとする。このとき
$$ \sin\theta_1+\sin\theta_2+\cdots+\sin\theta_n\le n\sin\frac{2\pi}n $$
であり、等号は $\theta_1=\theta_2=\cdots=\theta_n=\dfrac{2\pi}n$ のときに限る。

場合 1(すべての $\theta_k$ が $\pi$ より小さい)。$f(x)=-\sin x$ は $0< x<\pi$ で $f''(x)=\sin x>0$ なので、この区間で(狭義)凸である。Jensenの不等式(高校数学) の定理(重みをすべて $\dfrac1n$ にした形と、$f''>0$ のときの等号の条件)を $f$ に使うと
$$ -\sin\frac{\theta_1+\cdots+\theta_n}n\le\frac{-\sin\theta_1-\cdots-\sin\theta_n}n $$
で、等号はすべての $\theta_k$ が等しいときに限る。$\dfrac{\theta_1+\cdots+\theta_n}n=\dfrac{2\pi}n$ なので、両辺に $-n$ を掛けて $\sin\theta_1+\cdots+\sin\theta_n\le n\sin\dfrac{2\pi}n$ を得る。$n\ge3$ なので $\dfrac{2\pi}n<\pi$ で、等号の $\theta_k=\dfrac{2\pi}n$ はこの場合に入っている。
場合 2($\theta_j\ge\pi$ となる $j$ がある)。$\sin\theta_j\le0$ である($\theta_j<2\pi$ なので)。残りの差の和は $2\pi-\theta_j\le\pi$ である。この場合は等号が成り立たないこと、つまり左辺が $n\sin\dfrac{2\pi}n$ より小さいことを示す。

  • $n=3$ のとき。残りの 2 つを $\theta,\theta'$ とすると、和を積に直す公式で $\sin\theta+\sin\theta'=2\sin\dfrac{\theta+\theta'}2\cos\dfrac{\theta-\theta'}2\le2$ である。よって左辺は $2$ 以下で、$3\sin\dfrac{2\pi}3=\dfrac{3\sqrt3}2=2.598\ldots$ より小さい。
  • $n\ge4$ のとき。$x>0$ なら $\sin x< x$ である($0< x<\dfrac\pi2$ では 正多角形で円周率を挟む の補題「正弦・角・正接の大小」、$x\ge\dfrac\pi2$ では $\sin x\le1< x$)。よって左辺は、残りの差の和 $2\pi-\theta_j\le\pi$ より小さい。一方、$u=\dfrac{2\pi}n$ は $0< u\le\dfrac\pi2$ にあり、$\sin$ は $0\le x\le\dfrac\pi2$ で上に凸なので、グラフは 2 点 $(0,0)$、$\left(\dfrac\pi2,1\right)$ を結ぶ弦より上にあり、$\sin u\ge\dfrac2\pi u$ である(相加平均・相乗平均と凸関数 の凸関数の定義を $-\sin$ に使う)。よって $n\sin\dfrac{2\pi}n\ge n\cdot\dfrac2\pi\cdot\dfrac{2\pi}n=4>\pi$ で、左辺は $n\sin\dfrac{2\pi}n$ より小さい。
    どちらの場合も結論が成り立ち、等号は場合 1 の $\theta_1=\cdots=\theta_n=\dfrac{2\pi}n$ のときだけである。$\square$

場合 2 は、円に内接する多角形の中心が多角形の外か辺の上にある場合である。三角形なら、直角三角形か鈍角三角形の場合にあたる。

楕円に内接する $n$ 角形の最大面積

$n\ge3$ とする。楕円 $E:\ \dfrac{x^2}{a^2}+\dfrac{y^2}{b^2}=1$ に内接する $n$ 角形の面積は
$$ \frac n2\,ab\sin\frac{2\pi}n $$
以下である。等号が成り立つのは、媒介変数の差がすべて $\dfrac{2\pi}n$ のとき、つまり頂点が
$$ P(t_1),\ P\!\left(t_1+\frac{2\pi}n\right),\ P\!\left(t_1+\frac{4\pi}n\right),\ \ldots,\ P\!\left(t_1+\frac{2(n-1)\pi}n\right) $$
のときに限る。これは、円 $x^2+y^2=a^2$ に内接する正 $n$ 角形の $y$ 座標を $\dfrac ba$ 倍した多角形である。

方針:$y$ 座標を $\dfrac ba$ 倍する 1 次変換 $\psi$ で、円に内接する多角形を楕円に内接する多角形に移す。面積は一律に $\dfrac ba$ 倍になるので、円の場合の最大に帰着する。
段 1(円に移す)。$\psi(x,y)=\left(x,\ \dfrac ba\,y\right)$ とする。円 $C:\ x^2+y^2=a^2$ の点 $V(t)=(a\cos t,\ a\sin t)$ は $\psi(V(t))=(a\cos t,\ b\sin t)=P(t)$ に移る。$\psi$ は行列 $\begin{pmatrix}1&0\\0&\frac ba\end{pmatrix}$ による 1 次変換で、線分を線分に移す(楕円の共役直径 の補題「変換 $\varphi$ の性質」の $\varphi$ の逆の変換である)。したがって、$E$ に内接する $n$ 角形 $P(t_1)\cdots P(t_n)$ は、$C$ に内接する $n$ 角形 $V(t_1)\cdots V(t_n)$ の $\psi$ による像である。
段 2(面積の比)。$\psi$ の行列式は $\dfrac ba$ なので、多角形の面積は一律に $\dfrac ba$ 倍になる(1次変換と行列式:面積の拡大率 の主定理)。lem-lpie-circle-area($R=a$)により
$$ S=\frac ba\cdot\frac{a^2}2\sum_{k=1}^n\sin\theta_k=\frac{ab}2\sum_{k=1}^n\sin\theta_k $$
である。ここで $\theta_k$ は媒介変数の差で、$V(t_k)$ の中心角の差でもある。
段 3(最大)。lem-lpie-sines により $\sum\sin\theta_k\le n\sin\dfrac{2\pi}n$ なので、$S\le\dfrac n2ab\sin\dfrac{2\pi}n$ である。等号はすべての $\theta_k$ が $\dfrac{2\pi}n$ のときに限る。このとき $V(t_1),\ldots,V(t_n)$ は円を $n$ 等分する点で、$C$ に内接する正 $n$ 角形の頂点である。$\square$

段 2 の式 $S=\dfrac{ab}2\sum\sin\theta_k$ は、楕円の点どうしの行列式 $\det(P(s),P(t))=ab\sin(t-s)$ を使って、lem-lpie-circle-area と同じ計算で直接も確かめられる。1 次変換の見方は、この $ab$ が円の $a^2$ を $\dfrac ba$ 倍したものだと教えてくれる。

円に内接する正三角形は面積が最大の三角形で、3 つの中心角はどれも 120 度である 円に内接する正三角形は面積が最大の三角形で、3 つの中心角はどれも 120 度である
左の図の y 座標を 2/3 倍した三角形は、楕円に内接する三角形のうち面積が最大のものである 左の図の y 座標を 2/3 倍した三角形は、楕円に内接する三角形のうち面積が最大のものである

図 2 と図 3 は $n=3$、$a=3$、$b=2$、$t_1=\dfrac\pi2$ の場合で、右の三角形は ex-lpie-start の (ii) である。

最大値を数で見る

$a=3$、$b=2$ の楕円(面積 $\pi ab=18.849\ldots$)で、thm-lpie-main の最大値は次のとおりである。

$n$円 $x^2+y^2=R^2$ での最大楕円での最大 $\dfrac n2ab\sin\dfrac{2\pi}n$$a=3$、$b=2$楕円の面積に対する割合
$3$$\dfrac{3\sqrt3}4R^2$$\dfrac{3\sqrt3}4ab$$7.794\ldots$$0.413\ldots$
$4$$2R^2$$2ab$$12$$0.636\ldots$
$6$$\dfrac{3\sqrt3}2R^2$$\dfrac{3\sqrt3}2ab$$15.588\ldots$$0.826\ldots$
$12$$3R^2$$3ab$$18$$0.954\ldots$

$n=3$ の最大値 $\dfrac{3\sqrt3}4\cdot6=\dfrac{9\sqrt3}2$ は ex-lpie-start の (ii) の面積で、(i) の $6$ と (iii) の $7.007\ldots$ はこれより小さい。$n$ を大きくすると $\dfrac n2\sin\dfrac{2\pi}n$ は $\pi$ に近づき(正多角形で円周率を挟む)、最大値は楕円の面積 $\pi ab$ に近づく。

三角形と四角形

$n=3$ と $n=4$ では、最大になる多角形を別の言葉で言いかえられる。

最大の三角形と最大の四角形

楕円 $E:\ \dfrac{x^2}{a^2}+\dfrac{y^2}{b^2}=1$ について、次が成り立つ。
(1) $E$ に内接する三角形の面積の最大値は $\dfrac{3\sqrt3}4ab$ である。$E$ に内接する三角形が最大になるのは、その重心が $E$ の中心 $O$ であるときに限る。
(2) $E$ に内接する四角形の面積の最大値は $2ab$ である。最大になるのは、2 本の対角線が互いに共役な直径であるときに限る。

  1. 最大値は thm-lpie-main で $n=3$ とした $\dfrac32ab\sin\dfrac{2\pi}3=\dfrac{3\sqrt3}4ab$ である。
    最大の三角形の頂点は $P(t)$、$P\!\left(t+\dfrac{2\pi}3\right)$、$P\!\left(t+\dfrac{4\pi}3\right)$ で、重心の $x$ 座標は $\dfrac a3\left\{\cos t+\cos\left(t+\dfrac{2\pi}3\right)+\cos\left(t+\dfrac{4\pi}3\right)\right\}$ である。加法定理で展開すると $\cos\dfrac{2\pi}3+\cos\dfrac{4\pi}3=-1$、$\sin\dfrac{2\pi}3+\sin\dfrac{4\pi}3=0$ なので、括弧の中は $\cos t-\cos t=0$ である。$y$ 座標も同じく $0$ で、重心は $O$ である。
    逆に、内接三角形 $ABC$ の重心が $O$ だとする。thm-lpie-main の証明の段 1 の $\psi$ の逆の変換で円 $x^2+y^2=a^2$ に移すと、1 次変換は重心を重心に移す($\dfrac{A+B+C}3$ の像は像の平均)ので、円に内接する三角形 $A'B'C'$ の重心が $O$ になる。$O$ は外心でもある。辺 $B'C'$ の中点を $M$ とすると、中線 $A'M$ は重心 $O$ を通る。$M\ne O$ である($M=O$ なら $B'C'$ が直径で、重心は中線 $A'O$ の上で $O$ から $\dfrac13A'O$ の位置にあり、$O$ にならない)。外心 $O$ と中点 $M$ を結ぶ直線は $B'C'$ の垂直二等分線なので、中線 $A'M$ は $B'C'$ に垂直で、$A'B'=A'C'$ である。同じく $B'C'=B'A'$ で、三角形 $A'B'C'$ は正三角形である。正三角形の 3 つの中心角は等しいので、媒介変数の差はどれも $\dfrac{2\pi}3$ で、thm-lpie-main により $ABC$ は最大である。
  2. 最大値は $n=4$ として $2ab\sin\dfrac\pi2=2ab$ である。最大の四角形の頂点は $P(t)$、$P\!\left(t+\dfrac\pi2\right)$、$P(t+\pi)$、$P\!\left(t+\dfrac{3\pi}2\right)$、つまり $P$、$Q$、$-P$、$-Q$($P=P(t)$、$Q=P\!\left(t+\dfrac\pi2\right)$)で、対角線 $P(-P)$ と $Q(-Q)$ は 楕円の共役直径 の主定理により互いに共役な直径である。逆に対角線が互いに共役な直径なら、同じ主定理により頂点は $\pm P(t)$、$\pm P\!\left(t+\dfrac\pi2\right)$ の形で、媒介変数の差はどれも $\dfrac\pi2$ なので最大である。$\square$
楕円に内接する面積最大の四角形は、互いに共役な 2 本の直径(赤と緑)を対角線とする平行四辺形である 楕円に内接する面積最大の四角形は、互いに共役な 2 本の直径(赤と緑)を対角線とする平行四辺形である
楕円に内接する面積最大の六角形は、円に内接する正六角形を縦に縮めたものである 楕円に内接する面積最大の六角形は、円に内接する正六角形を縦に縮めたものである
最大の三角形と四角形の例
  1. ex-lpie-start の (ii) の重心は $\dfrac13\left\{(0,2)+\left(-\dfrac{3\sqrt3}2,-1\right)+\left(\dfrac{3\sqrt3}2,-1\right)\right\}=(0,0)$ で、楕円の中心である。辺の長さは $3\sqrt3=5.196\ldots$ と $\sqrt{\dfrac{27}4+9}=\dfrac{\sqrt{63}}2=3.968\ldots$(2 本)で、正三角形ではない。
  2. $a=3$、$b=2$、$t=\dfrac\pi6$ では、楕円の共役直径 の例の共役な半直径 $P=\left(\dfrac{3\sqrt3}2,1\right)$、$Q=\left(-\dfrac32,\sqrt3\right)$ を使って、四角形 $P,Q,-P,-Q$ の面積は $2ab=12$ である(図 4)。$t=\dfrac\pi4$ では頂点 $\left(\pm\dfrac3{\sqrt2},\pm\sqrt2\right)$ の長方形で、面積は $\dfrac6{\sqrt2}\cdot2\sqrt2=12$ である。

例と反例

円の場合の直感をそのまま楕円に持ちこむと、どこで崩れるかを並べる。どれも $a=3$、$b=2$ の楕円 $\dfrac{x^2}9+\dfrac{y^2}4=1$ で確かめる。

外す条件反例成り立たなくなること
「正 $n$ 角形の像」を「楕円に内接する正三角形」にとりかえる頂点 $(0,2)$ の内接正三角形(面積 $7.007\ldots$)最大になる
同じく「楕円に内接する正方形」にとりかえる頂点 $\left(\pm\dfrac6{\sqrt{13}},\pm\dfrac6{\sqrt{13}}\right)$ の正方形(面積 $\dfrac{144}{13}$)最大になる
面積を周の長さにとりかえる面積最大の三角形どうしで周が違う最大になるのが正三角形の像に限る
反例:楕円に内接する正三角形は最大でない

ex-lpie-start の (iii) の正三角形の面積は $\dfrac{3888\sqrt3}{961}=7.007\ldots$ で、最大値 $\dfrac{9\sqrt3}2=7.794\ldots$ より小さい。1 次変換 $\psi$ は長さの比を保たないので、円に内接する正三角形の像は正三角形にならず(ex-lpie-small の (1))、逆に楕円に内接する正三角形は、円に内接する正三角形の像ではない。面積の比は 1 次変換で保たれるが、「正三角形である」という性質は保たれない。

反例:楕円に内接する正方形は最大でない

楕円と直線 $y=\pm x$ の交点 $\left(\pm\dfrac6{\sqrt{13}},\pm\dfrac6{\sqrt{13}}\right)$ は、楕円に内接する正方形を作る($x^2\left(\dfrac19+\dfrac14\right)=1$ から $x^2=\dfrac{36}{13}$)。面積は $\left(\dfrac{12}{\sqrt{13}}\right)^2=\dfrac{144}{13}=11.07\ldots$ で、最大値 $12$ より小さい。最大になるのは、ex-lpie-small の (2) の長方形 $\left(\pm\dfrac3{\sqrt2},\pm\sqrt2\right)$ のように、対角線が共役な直径になる平行四辺形である。正方形の対角線 $y=x$ と $y=-x$ は垂直だが共役ではない(楕円の共役直径 の反例「垂直な直径は共役でない」)。

楕円に内接する正方形(緑)は、面積が 144/13 で最大ではない 楕円に内接する正方形(緑)は、面積が 144/13 で最大ではない
対角線が共役な直径になる長方形(青)は、面積 12 で最大である 対角線が共役な直径になる長方形(青)は、面積 12 で最大である
反例:周の長さは正三角形の像で最大にならない

thm-lpie-main の最大の三角形 $P(t)$、$P\!\left(t+\dfrac{2\pi}3\right)$、$P\!\left(t+\dfrac{4\pi}3\right)$ は、$t$ によらず面積が $\dfrac{9\sqrt3}2$ で等しい。しかし周の長さは $t$ で変わる。

  • $t=0$:頂点 $(3,0)$、$\left(-\dfrac32,\pm\sqrt3\right)$。辺は $2\sqrt3$ と $\sqrt{\dfrac{81}4+3}=\dfrac{\sqrt{93}}2$(2 本)で、周は $2\sqrt3+\sqrt{93}=13.107\ldots$ である。
  • $t=\dfrac\pi6$:頂点 $\left(\pm\dfrac{3\sqrt3}2,1\right)$、$(0,-2)$。辺は $3\sqrt3$ と $\dfrac{\sqrt{63}}2$(2 本)で、周は $3\sqrt3+\sqrt{63}=13.133\ldots$ である。
    もし「周の長さが最大の三角形」がちょうど正三角形の像の全体だったなら、それらの周はみな等しいはずである。周が $t$ で変わるので、そうではない。数値計算で周の長さの大きい三角形を探すと、媒介変数がおよそ $11.3^\circ$、$163.5^\circ$、$261.6^\circ$ の三角形は周が $13.475\ldots$ で、上の 2 つより長く、面積は $7.19\ldots$ で最大値より小さい(図 8)。周の長さは 1 次変換で一律に拡大されないので、円の場合に帰着する方法が使えない。

面積最大の三角形(青、周 13.13)と、周の長さがそれより長い三角形(赤の破線、周 13.48、面積 7.19) 面積最大の三角形(青、周 13.13)と、周の長さがそれより長い三角形(赤の破線、周 13.48、面積 7.19)

Steiner の内接楕円と比べる

この記事の問題は「楕円を固定して、内接する三角形を最大にする」ものだった。逆向きの「三角形を固定して、その中に入る楕円を最大にする」問題の答えは Steiner の内接楕円であることが知られている(Steinerの内接楕円 の注意「面積が最大の内接楕円(証明しない)」)。2 つの問題は、1 次変換で円と正三角形に帰着する点が共通している。この記事の最大の三角形については、次のことが確かめられる。

最大の三角形の Steiner の内接楕円

$E$ に内接する面積最大の三角形の Steiner の内接楕円(3 辺の中点で接する楕円)は、$E$ を中心 $O$ から $\dfrac12$ 倍に縮めた楕円 $\dfrac{x^2}{(a/2)^2}+\dfrac{y^2}{(b/2)^2}=1$ である。円 $x^2+y^2=a^2$ に内接する正三角形の内接円は半径 $\dfrac a2$ の円で、3 辺の中点で接する。これを $\psi$ で移すと、最大の三角形の 3 辺の中点で接する楕円になる(1 次変換は中点と、ただ 1 点を共有することを保つ)。Steinerの内接楕円 の主定理により、中点で接する楕円はただ 1 つなので、これが Steiner の内接楕円である。たとえば ex-lpie-start の (ii) の辺の中点 $\left(\pm\dfrac{3\sqrt3}4,\dfrac12\right)$、$(0,-1)$ は、どれも $\dfrac{x^2}{9/4}+y^2=1$ を満たす。

大学数学で見る:1 次変換で保たれる量

thm-lpie-main の証明が短く済んだのは、問題が「面積の比」だけで述べられていたからである。$y$ 座標を定数倍する変換に限らず、行列式が $0$ でない 1 次変換と平行移動を合わせたもの(アフィン変換)は、直線・平行・中点・重心・面積の比を保つ。楕円はどれもアフィン変換で円に移るので、これらの量だけで述べられる楕円の問題は円の問題に帰着する。一方、長さ・角・「正三角形である」ことは保たれないので、ex-lpie-cx-equilateral、ex-lpie-cx-perimeter のように円での直感が崩れる。

保たれる量で幾何を分ける考え方を開く

どの変換で保たれる性質を調べるかで幾何を分ける考え方は、Steinerの内接楕円 の注意「変換で保たれるもので幾何を分ける」で紹介されている。合同変換で保たれるのが長さ・角(ユークリッド幾何)、アフィン変換で保たれるのが平行・面積の比(アフィン幾何)である。この記事の最大面積の問題はアフィン幾何の問題、次の記事 楕円の周の長さ の問題はユークリッド幾何の問題で、1 次変換では円に帰着しない。

さらに先へ

  • $n$ を大きくすると、最大の $n$ 角形の面積 $\dfrac n2ab\sin\dfrac{2\pi}n$ は楕円の面積 $\pi ab$ に近づく。円の場合は 正多角形で円周率を挟む で扱う正多角形による $\pi$ の評価である。
  • 周の長さを固定して面積を最大にする問題は、三角形の等周問題 で扱う(条件が違う問題である)。
  • 楕円に内接する多角形の周の長さの最大は、面積と違って円に帰着できない。楕円そのものの周の長さを積分で評価するのが次に読む 楕円の周の長さ である。
  • lem-lpie-sines は、上に凸な関数の和の最大を求める Jensenの不等式(高校数学) の使い方の典型で、三角形の $\sin A+\sin B+\sin C$ の最大と同じ形である。

関連項目

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