複素解析空間(complex analytic space)とは、$\mathbb{C}^n$ の開集合の中で有限個の正則関数の共通零点集合に、正則関数の層をそれらで割った層を載せた局所模型を貼り合わせて得られる、$\mathbb{C}$ 代数の層をもつ局所環付き空間である。複素多様体を特異点や冪零元をもつ場合に広げたもので、正則関数の零点集合・正則写像の像・スキームの解析化 $X^{\mathrm{an}}$ が自然にこの枠組みに入る。構造層は Oka の定理により連接であり、点が滑らかであることは局所環が正則局所環であることと同値で、特異点の全体は解析的部分集合をなす。尖点 $z^2=w^3$ や 2 重点 $\mathbb{C}\{w\}/(w^2)$ が代表的な例で、Stein 空間・Grauert の直像定理・GAGA を通して代数幾何と結び付く。
前提知識: 局所環付き空間, 正則関数, 連接層, 複素多様体, 局所環, Noether環
複素解析空間は、複素多様体を「特異点をもつもの」「冪零元をもつもの」にまで広げた概念である。スキームが多項式環の商を貼り合わせて作られるように、複素解析空間は $\mathbb{C}^n$ の開集合上の正則関数の層を有限個の正則関数で割ったものを貼り合わせて作られる。まず部品となる局所模型を定め、次に空間と射を定める。
$D\subset\mathbb{C}^n$ を開集合、$\mathcal{O}_D$ を $D$ 上の正則関数の層とし、$f_1,\dots,f_r\in\mathcal{O}_D(D)$ を有限個の正則関数とする($r=0$ も許す)。共通零点集合
$$
V:=V(f_1,\dots,f_r):=\{z\in D\mid f_1(z)=\cdots=f_r(z)=0\}
$$
は $D$ の閉集合である。$\mathcal{I}:=(f_1,\dots,f_r)\mathcal{O}_D$ を $f_1,\dots,f_r$ が生成するイデアル層とし、商層 $\mathcal{O}_D/\mathcal{I}$ の $V$ への制限を
$$
\mathcal{O}_V:=(\mathcal{O}_D/\mathcal{I})|_V
$$
と書く。$\mathcal{O}_D/\mathcal{I}$ の茎は $V$ の外では $0$ なので($z\notin V$ なら、ある $f_i$ が $z$ の近くで単元である)、制限で情報は失われない。組 $(V,\mathcal{O}_V)$ を $f_1,\dots,f_r$ が定める局所模型(local model)という。点 $x\in V$ における茎は、収束冪級数環 $\mathbb{C}\{z_1-x_1,\dots,z_n-x_n\}$ を用いて
$$
\mathcal{O}_{V,x}=\mathcal{O}_{D,x}/(f_1,\dots,f_r)\mathcal{O}_{D,x}\cong\mathbb{C}\{z-x\}/(f_1,\dots,f_r)
$$
と書ける。これは極大イデアル $\mathfrak{m}_x$($x$ で消える芽の全体の像)をただ 1 つの極大イデアルとする局所環であり、剰余体は $\mathbb{C}$ である。したがって $(V,\mathcal{O}_V)$ は $\mathbb{C}$ 代数の層を構造層とする局所環付き空間である。
複素解析空間(complex analytic space)とは、Hausdorff空間で第2可算公理を満たす位相空間 $X$ と、$X$ 上の $\mathbb{C}$ 代数の層 $\mathcal{O}_X$ の組 $(X,\mathcal{O}_X)$ であって、$X$ の各点がある局所模型と($\mathbb{C}$ 代数の層をもつ局所環付き空間として)同型な開近傍をもつものをいう。$\mathcal{O}_X$ を構造層、その切断 $f\in\mathcal{O}_X(U)$ を $U$ 上の正則関数という。複素解析空間の間の正則写像(holomorphic map)とは、$\mathbb{C}$ 代数の層をもつ局所環付き空間の射 $(\varphi,\varphi^{\sharp})\colon(X,\mathcal{O}_X)\to(Y,\mathcal{O}_Y)$、すなわち連続写像 $\varphi\colon X\to Y$ と $\mathbb{C}$ 代数の層の射 $\varphi^{\sharp}\colon\mathcal{O}_Y\to\varphi_*\mathcal{O}_X$ の組で、各点 $x$ で誘導される $\mathcal{O}_{Y,\varphi(x)}\to\mathcal{O}_{X,x}$ が局所準同型であるものをいう。複素解析空間と正則写像は圏をなす。
構造層 $\mathcal{O}_X$ が冪零元をもたないとき、すなわち各茎 $\mathcal{O}_{X,x}$ が被約環であるとき、$X$ は被約(reduced)であるという。冪零元の層(各茎の冪零根基 $\mathcal{N}_x\subset\mathcal{O}_{X,x}$ からなる部分層)を $\mathcal{N}\subset\mathcal{O}_X$ とすると、$X_{\mathrm{red}}:=(X,\mathcal{O}_X/\mathcal{N})$ は被約な複素解析空間であり(rem-complex-analytic-space-oka-source)、これを $X$ の被約化という。
正則関数 $f\in\mathcal{O}_X(U)$ と点 $x\in U$ に対し、$f$ の芽の剰余体 $\mathcal{O}_{X,x}/\mathfrak{m}_x=\mathbb{C}$ における像を $f(x)$ と書き、$f$ の $x$ での値という。局所模型では $f(x)$ は $D$ 上の正則関数としての値と一致する。こうして $f$ は連続な関数 $U\to\mathbb{C}$ を定めるが、対応 $f\mapsto(x\mapsto f(x))$ は $X$ が被約のときに限って単射である。実際、冪零元 $f\ne0$ は $f^k=0$ から $f(x)^k=0$、つまりすべての点で値 $0$ をとる。逆に被約な空間では、$f(x)=0$ がすべての $x$ で成り立てば $f=0$ である(Rückert の零点定理。GR84 第 4 章)。したがって被約な複素解析空間の間の正則写像は「正則関数を正則関数に引き戻す連続写像」と同じものであり、$\varphi^{\sharp}$ は $\varphi$ から決まる。被約でない空間では $\varphi^{\sharp}$ は独立した情報を担う(prop-complex-analytic-space-double-point)。
複素解析空間 $X$ の部分集合 $A\subset X$ が解析的部分集合(analytic subset)であるとは、$X$ の各点 $x$ に対して開近傍 $U$ と有限個の正則関数 $g_1,\dots,g_s\in\mathcal{O}_X(U)$ があって $A\cap U=\{y\in U\mid g_1(y)=\cdots=g_s(y)=0\}$ となることをいう。解析的部分集合は閉集合である。連接(連接層)なイデアル層 $\mathcal{J}\subset\mathcal{O}_X$ に対し、$\mathcal{O}_X/\mathcal{J}$ の台(台(層))$A=\{x\mid\mathcal{J}_x\ne\mathcal{O}_{X,x}\}$ に $(\mathcal{O}_X/\mathcal{J})|_A$ を載せたものは複素解析空間であり(局所的には局所模型に有限個の関数を追加することにあたる)、$X$ の閉解析的部分空間という。その台は解析的部分集合である。逆に解析的部分集合 $A$ には、$A$ 上で消える芽の全体からなるイデアル層 $\mathcal{I}_A$(Cartan により連接、rem-complex-analytic-space-oka-source)による被約な閉解析的部分空間の構造が入る。開集合 $U\subset X$ に $\mathcal{O}_X|_U$ を載せたものを開部分空間という。
複素解析空間は単に複素空間(complex space)、解析空間とも呼ばれる。Serre Ser56 や Cartan の初期の理論では被約な空間だけを扱い、冪零元を許す現在の定義は Grauert Gra60 による。Hausdorff 性は常に仮定するが、第 2 可算性は文献により仮定しないことがある。本記事では複素多様体・Stein空間の記事に合わせて仮定する。局所模型を「$D$ 上の連接なイデアル層 $\mathcal{J}$ による $(\operatorname{supp}\mathcal{O}_D/\mathcal{J},(\mathcal{O}_D/\mathcal{J})|)$」と定める流儀もあるが、連接なイデアル層は局所的に有限個の切断で生成されるので同じ概念になる。$\mathbb{C}$ の代わりに $p$ 進体などの完備付値体をとる理論(剛解析空間)は本記事では扱わない。
複素多様体は「局所的に $\mathbb{C}^n$ の開集合と見分けがつかない空間」であり、正則写像の像や正則関数の零点集合のような自然に現れる集合の多くはそこからはみ出す。たとえば $\mathbb{C}^2$ の曲線 $\{z^2=w^3\}$ は原点で尖っていて、どの近傍も $\mathbb{C}$ の開集合と正則に同一視できない(prop-complex-analytic-space-cusp)。複素解析空間は、このような集合を「有限個の正則関数の零点集合に、それらで割った関数の層を載せたもの」として直接扱う枠組みである。
構造層に冪零元を許す理由はスキームと同じである。$\mathbb{C}$ の中の 1 点は $V(w)$ とも $V(w^2)$ とも書けるが、後者の構造層 $\mathbb{C}\{w\}/(w^2)=\mathbb{C}\oplus\mathbb{C}w$ は「点とそこでの 1 階の無限小」を覚えており、この空間からの正則写像は接ベクトル(接空間の元)にほかならない(prop-complex-analytic-space-double-point)。ファイバー・交叉・変形を扱うと非被約な空間は避けられず、Grauert が非被約な空間を導入したのも複素構造の変形(モジュライ)のためであった(Gra60)。
代数幾何との対応では、$\mathbb{C}$ 上局所有限型のスキーム $X$ に複素解析空間 $X^{\mathrm{an}}$ が付随し(解析化)、固有なら連接層のコホモロジーが両者で一致する(GAGA)。アフィン多様体(アフィン多様体)に対応する解析的概念がStein空間、固有射に対する連接層の高次順像の連接性(Grothendieck)に対応するのが Grauert の直像定理(thm-complex-analytic-space-grauert)である。複素解析空間では代数幾何の局所的な道具(Noether環、Krull次元、正則局所環)と解析の道具(一致の定理、逆関数定理、コンパクト性(コンパクト空間))の両方が使え、その基礎は $\mathbb{C}\{z_1,\dots,z_n\}$ の Noether 性(Rückert の基底定理)と Oka の連接定理である。
$r=0$ の局所模型は $(D,\mathcal{O}_D)$ そのものなので、$\mathbb{C}^n$ の開集合、より一般に複素多様体は複素解析空間である。逆に、各点が $r=0$ の局所模型と同型な近傍をもつ複素解析空間は複素多様体である。したがって複素多様体とは、すべての点が正則点($\mathcal{O}_{X,x}$ が正則局所環)である複素解析空間にほかならない(prop-complex-analytic-space-smooth-point)。複素多様体は被約であり($\mathbb{C}\{z\}$ は整域)、複素多様体の間の正則写像は通常の意味の正則写像(局所座標で正則関数の組)と一致する。
$D=\mathbb{C}^2$、$f=z^2-w^3$ が定める局所模型 $C:=V(z^2-w^3)$ は、原点に尖点をもつ被約な 1 次元の複素解析空間である。正則写像 $\nu\colon\mathbb{C}\to C$、$t\mapsto(t^3,t^2)$ は同相写像であるが同型ではなく、$C$ は原点の近傍で複素多様体にならない(prop-complex-analytic-space-cusp)。つまり $C$ は位相多様体であるが複素多様体ではない。$\nu$ は $C$ の正規化である。原点以外では $C$ は複素多様体である($f$ の Jacobi行列 $(2z,-3w^2)$ の階数が原点以外で 1)。
$D=\mathbb{C}$、$f=w^2$ が定める局所模型 $\{0\}$ は、台が 1 点で構造層が
$$
\mathbb{C}\{w\}/(w^2)=\mathbb{C}\oplus\mathbb{C}\,\varepsilon\qquad(\varepsilon:=w\bmod w^2,\ \varepsilon^2=0)
$$
の複素解析空間である($\mathbb{C}\{w\}$ の元 $a_0+a_1w+w^2g(w)$ は $(w^2)$ を法として $a_0+a_1w$ に等しい)。これを 2 重点といい $D_2$ と書く。$D_2$ は被約でなく、$(D_2)_{\mathrm{red}}$ は 1 点 $(\{0\},\mathbb{C})$ である。$D_2$ はスキーム $\operatorname{Spec}\mathbb{C}[t]/(t^2)$ の解析化であり(prop-complex-analytic-space-analytification)、複素解析空間 $Y$ への正則写像 $D_2\to Y$ は $Y$ の点と接ベクトルの組に対応する(prop-complex-analytic-space-double-point)。同様に $V(w^k)$ は $k$ 重点で、構造層は $\mathbb{C}[t]/(t^k)$ である。
複素射影空間 $\mathbb{P}^n(\mathbb{C})$ は複素多様体である。斉次多項式 $F_1,\dots,F_r$ が定める射影多様体(射影多様体) $X=V(F_1,\dots,F_r)\subset\mathbb{P}^n_{\mathbb{C}}$ の解析化 $X^{\mathrm{an}}$ は $\mathbb{P}^n(\mathbb{C})$ の閉解析的部分空間で、アフィン開集合 $U_i=\{z_i\ne0\}\cong\mathbb{C}^n$ 上では非斉次化した多項式 $F_1/z_i^{d_1},\dots,F_r/z_i^{d_r}$ が定める局所模型である。$X^{\mathrm{an}}$ はコンパクトである。逆に $\mathbb{P}^n(\mathbb{C})$ の閉解析的部分空間はすべて代数的である(Chow の定理、GAGA)。とくに楕円曲線 $y^2=x^3+ax+b$($4a^3+27b^2\ne0$)の解析化はコンパクト Riemann面で、複素トーラス $\mathbb{C}/\Lambda$ と同型である。
$A:=\{1/n\mid n=1,2,\dots\}\cup\{0\}\subset\mathbb{C}$ は閉集合であるが、$\mathbb{C}$ の解析的部分集合ではない。実際、$A$ が原点の連結空間である開近傍 $U$ で $g_1,\dots,g_s\in\mathcal{O}(U)$ の共通零点集合であったとすると、各 $g_i$ は $U$ 内に集積点 $0$ をもつ集合 $\{1/n\}$ の上で消えるので、一致の定理により $U$ 上で恒等的に $0$ である。すると $A\cap U=U$ となり、$A$ が内点をもたないことに反する。一方、$A\setminus\{0\}$ は $\mathbb{C}^{\ast}=\mathbb{C}\setminus\{0\}$ の解析的部分集合である。解析的であることは局所的な条件であり、$\mathbb{C}^{\ast}$ の離散閉集合 $A\setminus\{0\}$ は各点の十分小さい近傍 $U$ で空集合($g=1$ の零点集合)か 1 点 $\{1/n\}$($g=z-1/n$ の零点集合)だからである。この例は、解析的部分集合が「有限個の関数の零点集合」であるだけでなく、prop-complex-analytic-space-discrete のように局所有限性の制約を受けることを示す。満たす性質は「$\mathbb{C}$ の閉集合で、$\mathbb{C}^{\ast}$ の中では解析的」、満たさない性質は「$\mathbb{C}$ の中で解析的」であり、破る含意は「閉集合 $A$ が稠密な開集合 $X'$ との交わりで $X'$ の解析的部分集合ならば $X$ の解析的部分集合」である。
$\mathbb{C}$ の中の局所模型 $V(w)$ と $V(w^2)$ は、位相空間としてはどちらも 1 点 $\{0\}$ であるが、複素解析空間としては同型でない。前者の構造層は $\mathbb{C}\{w\}/(w)=\mathbb{C}$、後者は $\mathbb{C}\oplus\mathbb{C}\varepsilon$(ex-complex-analytic-space-double-point)で、後者は冪零元 $\varepsilon\ne0$ をもつ。同型な局所環付き空間の構造層は同型な環なので、両者は同型でない。同じことは $\mathbb{C}^2$ の中の $V(z)$ と $V(z^2)$(直線と「2 重直線」)、$V(z,w)$ と $V(z^2,zw,w^2)$(点と「太った点」)でも起こる。この例が破る含意は「台が同相ならば複素解析空間として同型」である。被約な空間に限れば、def-complex-analytic-space の後で述べたように正則関数は値で決まり、同型は正則関数を保つ台の同相写像と同じである。
複素解析空間の局所理論の出発点は、$\mathbb{C}^n$ の正則関数の層が連接層であるという Oka の定理である。
$D\subset\mathbb{C}^n$ を開集合とする。$\mathcal{O}_D$ は $\mathcal{O}_D$ 加群の層として連接である。すなわち、任意の開集合 $U\subset D$ と任意の $\mathcal{O}_U$ 加群の射 $u\colon\mathcal{O}_U^{\oplus p}\to\mathcal{O}_U$ に対し、核 $\ker u$(関係の層)は局所的に有限個の切断で生成される。
Oka Oka50 による。証明は $\mathbb{C}\{z\}$ に対する Weierstrass の割り算定理(Weierstrassの予備定理)を用いた変数の個数に関する帰納法で、GR84 第 2 章、GuR65 第 IV 章、Hor90 第 6 章にある。帰結として、任意の複素解析空間 $X$ の構造層 $\mathcal{O}_X$ は連接である。実際、局所模型では $\mathcal{I}=(f_1,\dots,f_r)\mathcal{O}_D$ は連接層 $\mathcal{O}_D$ の有限個の切断が生成する部分層なので連接であり、連接層の連接な部分層による商 $\mathcal{O}_D/\mathcal{I}$ は連接である(連接層の記事の基本性質)。したがって $\mathcal{O}_X$ 加群の層について、連接性は「局所的に $\mathcal{O}_X^{\oplus p}\to\mathcal{O}_X^{\oplus q}$ の余核として書ける」ことと一致し、連接層の核・余核・拡大はまた連接である。さらに Cartan Car50 は、解析的部分集合 $A\subset X$ 上で消える芽のなすイデアル層 $\mathcal{I}_A$ が連接であることを示した(GR84 第 4 章)。これから、冪零元の層 $\mathcal{N}=\mathcal{I}_X$ が連接で $X_{\mathrm{red}}$ が複素解析空間になること、解析的部分集合が被約な閉解析的部分空間の構造をもつことが従う。
$X$ を複素解析空間、$A\subset X$ を解析的部分集合とする。$A$ は既約な(2 つの真の解析的部分集合の和集合として書けない)解析的部分集合 $A_i$ の和集合 $A=\bigcup_iA_i$ として、$A_i\not\subset A_j$($i\ne j$)となるように一意的に書ける。族 $\{A_i\}$ は局所有限である。すなわち $X$ の各点は、有限個の $A_i$ としか交わらない開近傍をもつ。$A_i$ を $A$ の既約成分という。
GR84 第 9 章、GuR65 第 III 章。局所的には、$\mathcal{O}_{X,x}$ が Noether 環であることから $A$ の $x$ での芽が有限個の既約な芽の和になり、大域的な成分はそれらを貼り合わせて得られる。局所有限性は、各点を通る既約な芽が有限個しかないことの言い換えである。とくに、各点で $\dim_x A=0$ である(def-complex-analytic-space-dimension)解析的部分集合は離散な閉集合で、局所有限である。1 次元の場合は次のように直接示せる。
$D\subset\mathbb{C}$ を連結な開集合、$A\subsetneq D$ を解析的部分集合とする。このとき $A$ は $D$ の離散な閉部分集合であり、したがって局所有限である。すなわち $D$ の各点は $A$ と高々有限個の点でしか交わらない近傍をもつ。
$A$ が $D$ 内に集積点 $a$ をもつとする。$A$ は閉集合なので $a\in A$ である。$a$ の連結な開近傍 $U$ と $g_1,\dots,g_s\in\mathcal{O}(U)$ で $A\cap U=\{g_1=\cdots=g_s=0\}$ となるものをとる。各 $g_i$ は、$U$ 内に集積点 $a$ をもつ集合 $A\cap U$ の上で消えるので、一致の定理(一致の定理)により $U$ 上で恒等的に $0$ である。よって $U\subset A$ である。したがって $A$ の内部 $A^{\circ}$ は $A$ のすべての集積点を含む。$A^{\circ}$ は開集合であり、その $D$ での閉包の点は $A$ の集積点なので $A^{\circ}$ に属する。ゆえに $A^{\circ}$ は $D$ の開かつ閉な部分集合(開かつ閉集合)であり、$D$ の連結性と $A\ne D$ から $A^{\circ}=\emptyset$ である。すると $A$ は集積点をもたず、離散である。局所有限性は、各点 $x\in D$ のコンパクトな近傍が $A$ と交わる点は有限個であること(無限なら集積点をもつ)から従う。
$X$ を複素解析空間、$x\in X$ とする。
局所模型 $V=V(f_1,\dots,f_r)\subset D$ の点 $x$ では、$\mathfrak{m}_x/\mathfrak{m}_x^2$ は $\mathbb{C}^n$ の双対空間を $df_1(x),\dots,df_r(x)$ の張る部分空間で割ったものなので、$T_xX=\{v\in\mathbb{C}^n\mid df_1(x)v=\cdots=df_r(x)v=0\}$ であり、$\operatorname{emb}_xX=n-\operatorname{rank}(\partial f_i/\partial z_j)(x)$ である。Noether 局所環では一般に $\dim\le\operatorname{emb}$ が成り立つ(AM69 第 11 章)。次の 2 つの補題は、$\mathbb{C}\{z\}$ が多項式環の局所化と同じように振る舞うことを保証する。
$f\in\mathbb{C}\{z_1,\dots,z_n\}$ とし、$1\le k\le n$ とする。$f(0,\dots,0,z_{k+1},\dots,z_n)$ が $\mathbb{C}\{z_{k+1},\dots,z_n\}$ の元として $0$ ならば、$g_1,\dots,g_k\in\mathbb{C}\{z_1,\dots,z_n\}$ があって $f=z_1g_1+\cdots+z_kg_k$ と書ける。したがって、制限写像 $\mathbb{C}\{z_1,\dots,z_n\}\to\mathbb{C}\{z_{k+1},\dots,z_n\}$、$f\mapsto f(0,\dots,0,z_{k+1},\dots,z_n)$ は全射で、核はイデアル $(z_1,\dots,z_k)$ である。
$f=\sum_{\alpha}a_{\alpha}z^{\alpha}$ とし、$\rho=(\rho_1,\dots,\rho_n)$(各 $\rho_i>0$)を $\sum_{\alpha}|a_{\alpha}|\rho^{\alpha}<\infty$ となるようにとる(収束冪級数の定義)。仮定は、$\alpha_1=\cdots=\alpha_k=0$ となるすべての $\alpha$ について $a_{\alpha}=0$ ということである。$i=1,\dots,k$ に対し、$\alpha_1=\cdots=\alpha_{i-1}=0$ かつ $\alpha_i\ge1$ となる $\alpha$ の全体を $S_i$ とおくと、$S_1,\dots,S_k$ は互いに交わらず、$a_{\alpha}\ne0$ となる $\alpha$ はいずれかの $S_i$ に属する。
$$
g_i:=\sum_{\alpha\in S_i}a_{\alpha}z^{\alpha-e_i}\qquad(e_i\text{ は第 }i\text{ 単位ベクトル})
$$
とおくと、$\sum_{\alpha\in S_i}|a_{\alpha}|\rho^{\alpha-e_i}=\rho_i^{-1}\sum_{\alpha\in S_i}|a_{\alpha}|\rho^{\alpha}<\infty$ なので $g_i\in\mathbb{C}\{z\}$ であり、$\sum_iz_ig_i=\sum_{\alpha}a_{\alpha}z^{\alpha}=f$ である。制限写像が全射であることは、$h\in\mathbb{C}\{z_{k+1},\dots,z_n\}$ を $z_1,\dots,z_k$ を含まない級数と見ればよい。核が $(z_1,\dots,z_k)$ を含むことは明らかで、逆の包含が前半の主張である。
$R=\mathbb{C}\{z_1,\dots,z_n\}$ は極大イデアル $\mathfrak{m}=(z_1,\dots,z_n)$ をもつ Noether 局所環で、整域であり、Krull 次元 $n$ の正則局所環である。
$R$ が Noether 環であることは Rückert の基底定理(GR84 第 2 章、GuR65 第 II 章)による。$R$ が整域であることは、$R$ が形式的冪級数環 $\mathbb{C}[\![z_1,\dots,z_n]\!]$ の部分環であることから従う。定数項が $0$ でない収束冪級数は $R$ の単元であり(逆級数もまた収束する。Hor90 第 2 章)、定数項が $0$ の級数の全体は $\mathfrak{m}=(z_1,\dots,z_n)$ に等しい(lem-complex-analytic-space-hadamard の $k=n$ の場合)。単元でない元がすべて $\mathfrak{m}$ に属するので、$R$ は $\mathfrak{m}$ を唯一の極大イデアルとする局所環である。
次元を求める。$k=0,1,\dots,n$ に対し $P_k:=(z_1,\dots,z_k)$ とおく($P_0=0$)。lem-complex-analytic-space-hadamard により $R/P_k\cong\mathbb{C}\{z_{k+1},\dots,z_n\}$ は整域なので、$P_k$ は素イデアルである。$z_{k+1}$ の $R/P_k$ での像は $0$ でないので $P_k\subsetneq P_{k+1}$ である。よって $0=P_0\subsetneq P_1\subsetneq\cdots\subsetneq P_n=\mathfrak{m}$ は長さ $n$ の素イデアルの鎖であり、$\dim R\ge n$ である。他方、Krull の高さ定理(Krullの単項イデアル定理の一般形)により、$n$ 個の元で生成される $\mathfrak{m}$ の高さは $n$ 以下なので $\dim R\le n$ である(AM69 第 11 章)。ゆえに $\dim R=n$ である。$\mathfrak{m}^2$ は 2 次以上の項からなる級数の全体なので(2 次以上の級数 $f$ を lem-complex-analytic-space-hadamard で $f=\sum z_ig_i$ と書くと各 $g_i$ の定数項は $0$)、$\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2$ は $z_1,\dots,z_n$ の像を基底とする $n$ 次元のベクトル空間であり、$\dim R=\dim_{\mathbb{C}}\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2$、すなわち $R$ は正則局所環である。
$X$ を複素解析空間、$x\in X$ とする。次は同値である。
(1 $\Rightarrow$ 2):$\mathcal{O}_{X,x}\cong\mathcal{O}_{E,x}\cong\mathbb{C}\{z_1,\dots,z_m\}$ であり、これは lem-complex-analytic-space-power-series により正則局所環である。
(3 $\Rightarrow$ 1):座標を並べ替えて、$r\times r$ 小行列 $(\partial f_i/\partial z_j)(0)_{1\le i,j\le r}$ が可逆であるとしてよい。写像
$$
\Phi:=(f_1,\dots,f_r,z_{r+1},\dots,z_n)\colon D\to\mathbb{C}^n
$$
は正則で、$0$ での Jacobi 行列は可逆である。多変数の正則な逆関数定理(Hor90 第 2 章)により、$0$ の開近傍 $D'\subset D$ と $\Phi(0)$ の開近傍 $D''$ があって $\Phi\colon D'\to D''$ は双正則(双正則写像)である。$D''$ の座標を $u=(u_1,\dots,u_n)$ とすると $f_i=u_i\circ\Phi$($1\le i\le r$)なので、$\Phi$ が誘導する同型 $(D',\mathcal{O}_{D'})\cong(D'',\mathcal{O}_{D''})$ はイデアル層 $(f_1,\dots,f_r)\mathcal{O}_{D'}$ を $(u_1,\dots,u_r)\mathcal{O}_{D''}$ に写し、局所模型 $V(f)\cap D'$ を局所模型 $V(u_1,\dots,u_r)\cap D''$ の上に同型に写す。$E:=\{u''\in\mathbb{C}^{n-r}\mid(0,u'')\in D''\}$ は $\mathbb{C}^{n-r}$ の開集合で、$V(u_1,\dots,u_r)\cap D''=\{0\}\times E$ は $E$ と同相である。制限 $g\mapsto g(0,u'')$ は層の射 $\rho\colon\mathcal{O}_{D''}/(u_1,\dots,u_r)\to\iota_*\mathcal{O}_E$($\iota\colon E\to D''$、$u''\mapsto(0,u'')$)を定め、各点 $(0,p)$ での茎の写像 $\mathbb{C}\{u-(0,p)\}/(u_1,\dots,u_r)\to\mathbb{C}\{u''-p\}$ は lem-complex-analytic-space-hadamard(原点を $(0,p)$ に平行移動したもの)により同型である。よって $\rho$ は $\{0\}\times E$ 上で層の同型であり、$V(u_1,\dots,u_r)\cap D''\cong(E,\mathcal{O}_E)$ を得る。$m=n-r$ である。
(2 $\Rightarrow$ 3):$x$ のまわりの局所模型 $V(f_1,\dots,f_r)\subset D\subset\mathbb{C}^n$ を 1 つとり、$x=0$ とする。$R:=\mathbb{C}\{z\}$、$I:=(f_1,\dots,f_r)R$、$A:=\mathcal{O}_{X,0}=R/I$ とおく。$s:=\operatorname{rank}(\partial f_i/\partial z_j)(0)$ とし、$f_i$ を並べ替えて $df_1(0),\dots,df_s(0)$ が一次独立(線形独立)であるとする。$j>s$ に対し、$df_j(0)$ は $df_1(0),\dots,df_s(0)$ の一次結合(線形結合)$\sum_{i\le s}c_{ji}df_i(0)$ なので、$f_j$ を $f_j-\sum_{i\le s}c_{ji}f_i$ に取り替える。これはイデアル層 $(f_1,\dots,f_r)\mathcal{O}_D$ も零点集合も変えないので、局所模型は変わらず、$df_j(0)=0$($j>s$)としてよい。
$f_1,\dots,f_s$ だけが定める局所模型 $V':=V(f_1,\dots,f_s)$ は、(3 $\Rightarrow$ 1) の議論により、$0$ の近傍 $W\subset D$ 上で $(E,\mathcal{O}_E)$($E\subset\mathbb{C}^{n-s}$ 開)と同型である。この同型のもとで $f_j$($j>s$)の $V'$ への制限は $E$ 上の正則関数 $g_j$ に対応し、$g_j(0)=0$、$dg_j(0)=0$ である($df_j(0)=0$ と、双正則写像・制限が微分を線形に写すことによる)。$V(f_1,\dots,f_r)\cap W$ は $V'\cap W$ の中で $f_{s+1},\dots,f_r$ が定める閉解析的部分空間なので、
$$
A\cong\mathcal{O}_{E,0}/(g_{s+1},\dots,g_r)=R'/J,\qquad R':=\mathbb{C}\{u_1,\dots,u_{n-s}\},\quad J:=(g_{s+1},\dots,g_r)R'
$$
である。$\mathfrak{m}'$ を $R'$ の極大イデアルとすると $dg_j(0)=0$ から $J\subset\mathfrak{m}'^2$ であり、$A$ の極大イデアルを $\mathfrak{m}_A=\mathfrak{m}'/J$ とすると
$$
\mathfrak{m}_A/\mathfrak{m}_A^2=\mathfrak{m}'/(\mathfrak{m}'^2+J)=\mathfrak{m}'/\mathfrak{m}'^2
$$
は $n-s$ 次元である。仮定 2 により $\dim A=\operatorname{emb}_0X=n-s=\dim R'$ である(lem-complex-analytic-space-power-series)。
ここで $J=0$ を示す。$J\ne0$ とする。$R'/J$ の次元は $J$ を含む素イデアル $P$ にわたる $\dim R'/P$ の最大値なので、$\dim R'/P=n-s$ となる素イデアル $P\supset J$ があり、$R'$ は整域で $J\ne0$ だから $P\ne0$ である。$R'/P$ の長さ $d$ の素イデアルの鎖 $P=P_0\subsetneq P_1\subsetneq\cdots\subsetneq P_d$ の前に $0\subsetneq P_0$ を付け加えると $R'$ の長さ $d+1$ の鎖になるので、$\dim R'/P+1\le\dim R'=n-s$ となり矛盾する。ゆえに $J=0$ である。
$J=0$ は、各 $g_j$ が $0$ の近傍 $E'\subset E$ 上で恒等的に $0$ であることを意味する。$E'$ に対応する $V'$ の開集合を $V'\cap W'$($W'\subset W$ は $0$ の開近傍)とすると、各点 $p\in V'\cap W'$ で $f_j$ の芽は $V'$ 上で $0$ なので、lem-complex-analytic-space-hadamard((3 $\Rightarrow$ 1) の同型を通して $p$ に平行移動したもの)により $f_j\in(f_1,\dots,f_s)\mathcal{O}_{D,p}$ である。$V'$ の外の点では $(f_1,\dots,f_s)\mathcal{O}_{D,p}$ は単位イデアルである。よって $W'$ 上でイデアル層 $(f_1,\dots,f_r)\mathcal{O}_{W'}$ と $(f_1,\dots,f_s)\mathcal{O}_{W'}$ は一致し、局所模型 $V(f_1,\dots,f_r)\cap W'$ と $V(f_1,\dots,f_s)\cap W'$ は一致する。後者の Jacobi 行列 $(\partial f_i/\partial z_j)(0)_{i\le s}$ の階数は $s$、すなわち関数の個数に等しいので、条件 3 が成り立つ。
最後の主張:(3 $\Rightarrow$ 1) で $m=n-r$ を得た。(2 $\Rightarrow$ 3) の議論で $\dim_xX=\dim A=n-s=\operatorname{emb}_xX$ であり、条件 3 の局所模型では $r=s$ である。
$X$ を複素解析空間とする。
1 と 3 は GR84 第 5 章(次元論。Krull 次元による定義が、有限正則写像 $X\to\mathbb{C}^d$ の存在による定義、位相次元の半分、既約成分の次元と一致することを含む)、2 は GR84 第 6 章(特異点集合の解析性)、GuR65 第 V 章、Hor90 第 6 章。被約な $X$ に対する 2 の証明の要点は、$\operatorname{Sing}X$ が各既約成分の上で「Kähler微分の層 $\Omega^1_X$ の階数が落ちる点」として Jacobi 行列の小行列式で書けることであり、$\Omega^1_X$ の連接性(thm-complex-analytic-space-oka)を用いる。一般の $X$ では、prop-complex-analytic-space-smooth-point により $x$ が正則点であることは「$X_{\mathrm{red}}$ が $x$ の近くで複素多様体で、かつ $x$ の近くで $\mathcal{N}=0$」と同値なので、$\operatorname{Sing}X=\operatorname{Sing}X_{\mathrm{red}}\cup\operatorname{supp}\mathcal{N}$ であり、連接層 $\mathcal{N}$ の台は解析的部分集合だから被約の場合に帰着する。被約でない空間では $\operatorname{Sing}X$ は台全体になりうる(ex-complex-analytic-space-double-point:$D_2$ の唯一の点は $\dim=0<\operatorname{emb}=1$ なので特異点である)。
$C:=V(z^2-w^3)\subset\mathbb{C}^2$ とし、$\nu\colon\mathbb{C}\to C$、$t\mapsto(t^3,t^2)$ とする。
$D_2=(\{0\},\mathbb{C}[\varepsilon])$($\varepsilon^2=0$)を 2 重点、$Y$ を複素解析空間とする。正則写像 $D_2\to Y$ の全体は、組 $(y,v)$($y\in Y$、$v\in T_yY=(\mathfrak{m}_y/\mathfrak{m}_y^2)^{\ast}$)の全体と 1 対 1 に対応する。とくに $Y$ が $y$ の近くで $m$ 次元の複素多様体なら、$y$ を像とする正則写像 $D_2\to Y$ は $\mathbb{C}^m$ の元と 1 対 1 に対応する。
正則写像 $(\varphi,\varphi^{\sharp})\colon D_2\to Y$ は、点 $y:=\varphi(0)\in Y$ と、$\mathbb{C}$ 代数の層の射 $\varphi^{\sharp}\colon\mathcal{O}_Y\to\varphi_*\mathbb{C}[\varepsilon]$ からなる。$\varphi_*\mathbb{C}[\varepsilon]$ は $y$ を含む開集合上で $\mathbb{C}[\varepsilon]$、含まない開集合上で $0$ の層(1 点 $y$ の上の摩天楼層)なので、$\varphi^{\sharp}$ を与えることは茎での $\mathbb{C}$ 代数準同型 $\theta\colon\mathcal{O}_{Y,y}\to\mathbb{C}[\varepsilon]$ を与えることと同じである。局所準同型の条件は $\theta(\mathfrak{m}_y)\subset\mathbb{C}\varepsilon$ である。$\mathbb{C}[\varepsilon]=\mathbb{C}\oplus\mathbb{C}\varepsilon$ の分解に従って $\theta(f)=\theta_0(f)+\delta(f)\varepsilon$ と書くと、$\varepsilon^2=0$ により $\theta(f)\theta(g)=\theta_0(f)\theta_0(g)+(\theta_0(f)\delta(g)+\theta_0(g)\delta(f))\varepsilon$ なので、$\theta$ が $\mathbb{C}$ 代数の準同型であることは、$\theta_0\colon\mathcal{O}_{Y,y}\to\mathbb{C}$ が $\mathbb{C}$ 代数の準同型で、$\delta$ が $\mathbb{C}$ 線形かつ $\delta(fg)=\theta_0(f)\delta(g)+\theta_0(g)\delta(f)$ を満たすことと同値である。$\mathcal{O}_{Y,y}=\mathbb{C}\oplus\mathfrak{m}_y$ なので、局所準同型の条件により $\theta_0(f)=f(y)$($f$ の値)でなければならず、$\theta_0$ は一意である。$\delta$ は $\mathbb{C}$ 上で $0$($\delta(1)=\delta(1\cdot1)=2\delta(1)$)、$\mathfrak{m}_y^2$ 上で $0$($f,g\in\mathfrak{m}_y$ なら $\delta(fg)=f(y)\delta(g)+g(y)\delta(f)=0$)なので、$\delta$ は線形写像 $v\colon\mathfrak{m}_y/\mathfrak{m}_y^2\to\mathbb{C}$、すなわち $T_yY$ の元を定め、$v$ で決まる。逆に $v\in T_yY$ が与えられたとき、$\delta(c+f):=v(f\bmod\mathfrak{m}_y^2)$($c\in\mathbb{C}$、$f\in\mathfrak{m}_y$)とおくと、$\delta$ は $\mathbb{C}$ 線形で、$(c+f)(c'+f')=cc'+(cf'+c'f)+ff'$ から $\delta((c+f)(c'+f'))=cv(f')+c'v(f)=\theta_0(c+f)\delta(c'+f')+\theta_0(c'+f')\delta(c+f)$ を満たす。よって $\theta:=\theta_0+\delta\varepsilon$ は局所準同型で、$(y,v)$ から正則写像が定まる。2 つの構成は互いに逆である。
$Y$ が $y$ の近くで $m$ 次元の複素多様体なら $\mathcal{O}_{Y,y}\cong\mathbb{C}\{u_1,\dots,u_m\}$ で、$\mathfrak{m}_y/\mathfrak{m}_y^2$ は $u_1,\dots,u_m$ を基底とする $m$ 次元空間なので、$T_yY\cong\mathbb{C}^m$ である。この対応で $v$ に対応する $\theta$ は $f\mapsto f(y)+\sum_iv_i(\partial f/\partial u_i)(y)\varepsilon$、すなわち「$y$ での値と方向 $v$ への方向微分」である。
$X$ を $\mathbb{C}$ 上有限型(局所有限型)の分離的なスキームとする(より一般に、局所有限型・分離的で可算個のアフィン開集合で覆えるスキームでよい)。複素解析空間 $X^{\mathrm{an}}$ と、$\mathbb{C}$ 代数の層をもつ局所環付き空間の射 $\phi\colon X^{\mathrm{an}}\to X$ の組で、次の普遍性をもつものが同型を除いて一意に存在する:任意の複素解析空間 $S$ に対し、$\phi$ との合成は全単射
$$
\operatorname{Hom}_{\text{解析空間}}(S,X^{\mathrm{an}})\longrightarrow\operatorname{Hom}_{\mathbb{C}\text{-局所環付き空間}}(S,X)
$$
を与える。$X^{\mathrm{an}}$ の台は $X$ の閉点の集合 $X(\mathbb{C})$ で、位相は $X$ の Zariski位相より細かい。$X\mapsto X^{\mathrm{an}}$ は関手でファイバー積と両立し、$X$ が被約であることと $X^{\mathrm{an}}$ が被約であること、$X$ が滑らか(滑らかな射)であることと $X^{\mathrm{an}}$ が複素多様体であることは、それぞれ同値である。
構成は GAGA の記事の定義のとおりである。アフィンスキーム $X=\operatorname{Spec}A$、$A=\mathbb{C}[z_1,\dots,z_n]/(F_1,\dots,F_r)$ に対しては、多項式 $F_i$ を $\mathbb{C}^n$ 上の正則関数と見て、局所模型 $X^{\mathrm{an}}:=V(F_1,\dots,F_r)\subset\mathbb{C}^n$ とおく。普遍性は、スキームの普遍性 $\operatorname{Hom}(S,\operatorname{Spec}A)=\operatorname{Hom}_{\mathbb{C}\text{-alg}}(A,\mathcal{O}(S))$ と、「$S$ から $V(F)$ への正則写像は $F_i(s_1,\dots,s_n)=0$ を満たす正則関数の組 $s_1,\dots,s_n\in\mathcal{O}(S)$ と 1 対 1 に対応する」という局所模型の普遍性から従い、$X^{\mathrm{an}}$ が表示 $(F_1,\dots,F_r)$ のとり方によらないことも分かる。一般の $X$ はアフィン開集合で覆い、普遍性によって $U_i^{\mathrm{an}}$ を貼り合わせる。Hausdorff 性は $X$ が分離的なとき(分離射)の対角線の閉性から、第 2 可算性はアフィン開被覆が可算にとれることから従う(Ser56 §1、SGA1 Exposé XII §1、Har77 付録 B)。局所環の比較 $\mathcal{O}_{X,x}\to\mathcal{O}_{X^{\mathrm{an}},x}$ が忠実平坦(忠実平坦)で完備化の同型を与えること、および固有なスキームに対する連接層のコホモロジーの一致(Serre の GAGA)は GAGA の記事に譲る。被約性・滑らかさの同値は、この完備化の同型と「Noether 局所環が被約・正則であることは完備化で判定できる」ことから従う(SGA1 Exposé XII §3。滑らかさについては複素多様体の記事も参照)。ex-complex-analytic-space-double-point の $D_2$ は $\operatorname{Spec}\mathbb{C}[t]/(t^2)$ の解析化、ex-complex-analytic-space-cusp の $C$ は $\operatorname{Spec}\mathbb{C}[z,w]/(z^2-w^3)$ の解析化である。逆に、解析化として得られない複素解析空間は多く、コンパクトなものにも代数的でない複素トーラスや Hopf曲面がある(複素多様体)。
複素解析空間 $X$ が Stein 空間であるとは、正則凸(各コンパクト集合 $K$ の正則凸包 $\{x\mid|f(x)|\le\sup_K|f|\ (f\in\mathcal{O}(X))\}$ がコンパクト)であり、大域正則関数が点を分離し、各点で有限個の大域正則関数が $\mathbb{C}^N$ の開集合の閉解析的部分空間への同型(埋め込み)を与えることをいう(Stein空間)。$\mathbb{C}^n$ の開集合のうち正則領域(正則領域)であるもの、アフィン多様体の解析化、Stein 空間の閉解析的部分空間は Stein 空間である。Stein 空間上では Cartan の定理 A・B が成り立ち、任意の連接層 $\mathcal{F}$ について $H^q(X,\mathcal{F})=0$($q\ge1$)である。これはアフィンスキーム上の準連接層のコホモロジーの消滅の解析的な対応物であり、定義の詳細・例・Cartan の定理の言明と出典は Stein空間 の記事にある。コンパクトな複素解析空間 $X$ は、正の次元の連結成分をもてば Stein でない。実際、$\mathcal{O}(X)$ は有限次元なので(Cartan–Serre、rem-complex-analytic-space-grauert-source)各 $f\in\mathcal{O}(X)$ は $\mathbb{C}$ 上の代数方程式を満たし、その値は有限個の根しかとれず、連結成分上で定数になるから、点を分離できない。
固有射(固有射)に対する連接層の高次順像(高次順像)の連接性の解析的対応物が、Grauert の直像定理である。
$f\colon X\to Y$ を複素解析空間の間の固有な(コンパクト集合の逆像がコンパクトな。固有写像)正則写像、$\mathcal{F}$ を $X$ 上の連接層とする。すべての $q\ge0$ に対し、高次順像 $R^qf_*\mathcal{F}$ は $Y$ 上の連接層である。
Grauert Gra60 による。証明は GR84 第 10 章にあり、Forster–Knorr と Kiehl–Verdier による簡略化を経ている。$Y$ が 1 点の場合が Cartan–Serre の有限性定理で、コンパクトな複素解析空間 $X$ 上の連接層 $\mathcal{F}$ について $H^q(X,\mathcal{F})$ はすべて有限次元の $\mathbb{C}$ ベクトル空間である。$\mathcal{F}=\mathcal{O}_X/\mathcal{I}_A$($A\subset X$ 解析的部分集合)と $q=0$ に適用すると、$f_*(\mathcal{O}_X/\mathcal{I}_A)$ の台として $f(A)$ が $Y$ の解析的部分集合になる($f$ が固有なので $f(A)$ は閉で、$y\in f(A)$ でのみ茎が $0$ でない)。これが Remmert の固有写像定理(固有な正則写像による解析的部分集合の像は解析的。GR84 第 10 章)である。代数幾何では、固有射 $f\colon X\to Y$($Y$ Noether)に対する $R^qf_*\mathcal{F}$ の連接性(Grothendieck。射影的な場合は Har77 III.8.8)が対応し、$(R^qf_*\mathcal{F})^{\mathrm{an}}\cong R^qf^{\mathrm{an}}_*\mathcal{F}^{\mathrm{an}}$ が相対版の GAGA である(GAGA)。
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