Riemannの写像定理

同義語:リーマンの写像定理Riemann mapping theorem

概要

Riemannの写像定理(Riemann mapping theorem)とは、複素平面全体と異なる単連結な領域 $\Omega$ と点 $a\in\Omega$ に対し、$\Omega$ から単位円板への双正則写像 $\varphi$ で $\varphi(a)=0$、$\varphi'(a)>0$ を満たすものがただ 1 つ存在するという定理である。求める写像は、$a$ を $0$ に写す $\Omega$ から単位円板への単射な正則関数のうち $|\varphi'(a)|$ が最大のものであり、その存在は Montel の定理と Hurwitz の定理から、全射性は平方根をとる操作と Schwarz の補題から従う。複素平面全体と異なる領域では、単連結であること、零点のない正則関数が正則な平方根をもつこと、単位円板と双正則であることは同値である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 正則関数, 単連結空間, Schwarzの補題, 複素解析

Riemann の写像定理 は、複素平面 $\mathbb{C}$ 全体と異なる単連結な領域は、どれも単位円板 $\mathbb{D}:=\{z\in\mathbb{C}\mid|z|<1\}$ と双正則(等角に同値)であるという定理である。単連結という位相的な条件だけから、境界がどれほど複雑な領域でも、内部を円板に正則に一対一に写す写像が存在する。
証明は存在と一意性に分かれる。一意性は円板の自己同型の決定から易しく出る。存在は、基点を $0$ に写す単射な正則関数 $\Omega\to\mathbb{D}$ の中で基点での微分係数の絶対値が最大のものを探す、という極値問題に置き換えて示す。最大のものがあることは正則関数の族のコンパクト性(Montel の定理)と単射性の極限での保存(Hurwitz の定理)から、最大のものが全射であることは平方根をとる操作と Schwarz の補題から出る。この記事ではこの証明を完全に述べ、証明が単連結性を「零点のない正則関数が正則な平方根をもつ」という形でしか使わないことから、$\mathbb{C}$ と異なる平面の領域について単連結性・平方根の存在・円板との双正則性が同値であることを導く。

主張

以下、領域 とは $\mathbb{C}$ の空でない連結な開集合のことである。

双正則写像と等角同値

$U,V\subset\mathbb{C}$ を開集合とする。正則関数 $f\colon U\to V$ が全単射で、逆写像 $f^{-1}\colon V\to U$ も正則であるとき、$f$ を 双正則写像(等角同型)といい、$U$ と $V$ は 双正則(等角同値)であるという。

単射な正則関数 $f\colon U\to\mathbb{C}$ は、像 $f(U)$ が開集合で、$f\colon U\to f(U)$ が双正則写像になる。導関数はどの点でも $0$ にならない(開写像定理(複素解析) の系「単射な正則写像の逆写像」、等角写像 の系「等角写像と正則関数」)。したがって双正則写像を見つけるには、単射かつ全射な正則関数を見つければよい。

Riemann の写像定理

$\Omega\subsetneq\mathbb{C}$ を単連結(単連結空間)な領域、$a\in\Omega$ とする。このとき双正則写像 $\varphi\colon\Omega\to\mathbb{D}$ で
$$\varphi(a)=0,\qquad\varphi'(a)>0$$
を満たすものがただ 1 つ存在する。

正規化と証明の場所

$\varphi'(a)>0$ は「$\varphi'(a)$ が正の実数である」という意味であり、2 つの条件をあわせて 正規化 という。正規化を外すと、$\varphi$ に円板の自己同型を合成したものもまた双正則写像なので、一意性は成り立たない(反例の表の 3 行目)。証明は次の 2 つの節で与える。主張は 等角写像 の定理「Riemann の写像定理」と同じで、その記事は一意性だけを証明している。

証明の準備

円板の自己同型

$b\in\mathbb{D}$ に対し
$$\varphi_b(z):=\frac{z-b}{1-\bar bz}$$
とおく。$\varphi_b$ は $\mathbb{D}$ から $\mathbb{D}$ への双正則写像で、$\varphi_b(b)=0$、$\varphi_b(0)=-b$、逆写像は $\varphi_{-b}$ である(Schwarzの補題 の節「原点を固定しない場合」、Möbius変換)。微分すると $\varphi_b'(z)=(1-|b|^2)/(1-\bar bz)^2$ なので $\varphi_b'(b)=1/(1-|b|^2)>0$ である。
円板の自己同型で $0$ を固定するものは回転 $z\mapsto e^{i\theta}z$ に限る(双正則写像 の定理「単位円板の自己同型群」)。さらに Schwarz の補題(Schwarzの補題 の定理「Schwarz の補題」)により、正則関数 $\Psi\colon\mathbb{D}\to\mathbb{D}$ が $\Psi(0)=0$ を満たせば $|\Psi'(0)|\le1$ であり、等号が成り立つのは $\Psi$ が回転のときだけである。

平方根の性質

証明の中で単連結性を使うのは、次の性質を通してだけである。

平方根の性質

開集合 $\Omega\subset\mathbb{C}$ が 平方根の性質 をもつとは、$\Omega$ 上の正則関数 $g$ で $\Omega$ のどの点でも $0$ にならないものに対し、$\Omega$ 上の正則関数 $s$ で $s^2=g$ を満たすものが必ず存在することをいう。

単連結な領域は平方根の性質をもつ。実際、単連結な領域 $\Omega$ 上の零点のない正則関数 $g$ には $e^L=g$ を満たす正則関数 $L$(対数の分枝)があり、$s:=e^{L/2}$ とおけば $s^2=g$ である(Cauchyの積分定理 の系「単連結領域上の原始関数と対数の分枝」)。

平方根の性質をもたない領域

$\Omega=\mathbb{C}\setminus\{0\}$ 上の $g(z)=z$ には正則な平方根がない。$s^2=z$ となる正則な $s$ があったとすると、$s$ は零点をもたず、微分して $2ss'=1$ だから $s'/s=1/(2z)$ である。$\gamma(t):=e^{it}$($0\le t\le2\pi$)とし、閉曲線 $\sigma:=s\circ\gamma$ を考えると、$\sigma$ は原点を通らず、
$$\frac{1}{2\pi i}\oint_\gamma\frac{s'(z)}{s(z)}\,dz=\frac{1}{2\pi i}\int_0^{2\pi}\frac{s'(\gamma(t))\gamma'(t)}{s(\gamma(t))}\,dt=\frac{1}{2\pi i}\oint_\sigma\frac{dw}{w}$$
は $\sigma$ の原点のまわりの回転数なので整数である(Cauchyの積分公式 の命題「回転数の性質」)。ところが左辺は $\frac{1}{2\pi i}\oint_\gamma\frac{dz}{2z}=\frac12$ であり、矛盾する。

2 つの補題

以下、$\Omega\subsetneq\mathbb{C}$ を平方根の性質をもつ領域、$a\in\Omega$ とし、
$$\mathcal{F}:=\{f\colon\Omega\to\mathbb{D}\mid f\text{ は単射な正則関数で }f(a)=0\}$$
とおく。$f\in\mathcal{F}$ は単射なので $f'(a)\ne0$ である。

族は空でない

$\mathcal{F}$ は空でない。

$\Omega\ne\mathbb{C}$ なので、$c\in\mathbb{C}\setminus\Omega$ がある。$z-c$ は $\Omega$ 上で $0$ にならないので、平方根の性質から $r^2=z-c$ を満たす正則関数 $r\colon\Omega\to\mathbb{C}$ がある。
$r$ は単射である:$r(z)=r(w)$ なら $z-c=r(z)^2=r(w)^2=w-c$ だから $z=w$ である。さらに、どの $z,w\in\Omega$ についても $r(z)\ne-r(w)$ である:$r(z)=-r(w)$ なら両辺を 2 乗して $z=w$ となり、$r(z)=-r(z)$ から $r(z)=0$、つまり $z=c\in\Omega$ となって矛盾する。
$r$ は定数でないので、開写像定理(複素解析) の定理「正則写像の開写像定理」により $r(\Omega)$ は開集合である。$w_0:=r(a)$ とおくと、$-w_0$ は開集合 $-r(\Omega):=\{-w\mid w\in r(\Omega)\}$ に属するので、$\rho>0$ を開円板 $\{|\zeta+w_0|<\rho\}$ が $-r(\Omega)$ に含まれるようにとれる。前段により $r(\Omega)$ と $-r(\Omega)$ は交わらないから、すべての $z\in\Omega$ で $|r(z)+w_0|\ge\rho$ である。そこで
$$k(z):=\frac{\rho}{2\,(r(z)+w_0)}$$
とおくと、$k$ は $\Omega$ 上の正則関数で $|k|\le\frac12$ を満たし、$r$ の単射性から単射である。$k(a)\in\mathbb{D}$ なので $f_0:=\varphi_{k(a)}\circ k$ は $\Omega$ から $\mathbb{D}$ への単射な正則関数で $f_0(a)=0$ を満たし、$f_0\in\mathcal{F}$ である。$\square$

次の補題が証明の核心である。全射でない $f\in\mathcal{F}$ は、基点での微分係数を真に大きくするように改良できる。

平方根による改良

$f\in\mathcal{F}$ が全射でなければ、$h\in\mathcal{F}$ で $|h'(a)|>|f'(a)|$ を満たすものがある。

$q\in\mathbb{D}\setminus f(\Omega)$ をとる。$g:=\varphi_q\circ f$ は $\Omega$ から $\mathbb{D}$ への単射な正則関数で、$f$ は値 $q$ をとらないので $g$ は $\Omega$ 上で $0$ にならない。平方根の性質から $s^2=g$ を満たす正則関数 $s$ がある。$|s|=|g|^{1/2}<1$ なので $s\colon\Omega\to\mathbb{D}$ であり、$s(z)=s(w)$ なら $g(z)=g(w)$ から $z=w$ となるので $s$ は単射である。
$b:=s(a)\in\mathbb{D}$ とおき、$h:=\varphi_b\circ s$ と定める。$h$ は $\Omega$ から $\mathbb{D}$ への単射な正則関数で $h(a)=\varphi_b(b)=0$ だから $h\in\mathcal{F}$ である。
$f$ を $h$ で表す。$s=\varphi_{-b}\circ h$、$g=s^2$、$f=\varphi_{-q}\circ g$ だから、
$$\Psi(w):=\varphi_{-q}\bigl(\varphi_{-b}(w)^2\bigr)\qquad(w\in\mathbb{D})$$
とおくと $f=\Psi\circ h$ である。$\Psi$ は $\mathbb{D}$ から $\mathbb{D}$ への正則関数で、$b^2=g(a)=\varphi_q(0)=-q$ より
$$\Psi(0)=\varphi_{-q}(b^2)=\varphi_{-q}(-q)=0$$
である。$\Psi$ は単射でない:$0$ でない $w\in\mathbb{D}$ をとると、$\varphi_b(w)\ne\varphi_b(-w)$ だが $\Psi(\varphi_b(w))=\varphi_{-q}(w^2)=\Psi(\varphi_b(-w))$ である。したがって $\Psi$ は回転でなく、Schwarz の補題により $|\Psi'(0)|<1$ である。連鎖律から $f'(a)=\Psi'(0)\,h'(a)$ であり、$h$ は単射なので $h'(a)\ne0$ だから
$$|f'(a)|=|\Psi'(0)|\,|h'(a)|<|h'(a)|$$
となる。$\square$

実際に $|\Psi'(0)|$ を計算すると $2\sqrt{|q|}/(1+|q|)$ になる。$|q|<1$ ならこれは $1$ より小さく、$q$ が円周に近いほど $1$ に近い。改良の度合いは、$f(\Omega)$ の外の点がどれだけ $0$ に近いかで決まる。

定理の証明

$\Omega$ は単連結なので、前節により平方根の性質をもつ。前節の記号を使う。
段 1(上限は有限で正)。 $s:=\sup_{f\in\mathcal{F}}|f'(a)|$ とおく。lem-rmt-nonempty により $\mathcal{F}$ は空でなく、$f'(a)\ne0$ なので $s>0$ である。$r>0$ を閉円板 $\{|z-a|\le r\}$ が $\Omega$ に含まれるようにとると、$f\in\mathcal{F}$ は $|f|<1$ を満たすので、Cauchy の評価式(Cauchyの積分公式 の命題「Cauchy の評価式」)により $|f'(a)|\le1/r$ である。よって $s\le1/r<\infty$ である。
段 2(上限をとる関数の存在)。 $f_n\in\mathcal{F}$ を $|f_n'(a)|\to s$ となるようにとる。$\mathcal{F}$ の元はすべて $|f|<1$ を満たすので、$\mathcal{F}$ は局所有界である。複素解析 の定理「Montel の定理」により、部分列をとり直せば $(f_n)$ は $\Omega$ 上で正則関数 $f$ に局所一様収束する。導関数も局所一様収束するので(Cauchyの積分公式 の系「Weierstrass の定理」)、$f'(a)=\lim f_n'(a)$ であり $|f'(a)|=s>0$ である。特に $f$ は定数でない。
段 3(極限は $\mathcal{F}$ に属する)。 各 $f_n$ は単射で、$f$ は定数でないので、偏角の原理 の系「零点をもたない関数と単射な関数の極限」の 2 により $f$ は単射である。$f(a)=\lim f_n(a)=0$ であり、$|f_n|<1$ から $|f|\le1$ である。$f$ は定数でないので $f(\Omega)$ は開集合であり、閉円板 $\{|w|\le1\}$ に含まれる開集合は $\mathbb{D}$ に含まれる。よって $f\in\mathcal{F}$ で、$|f'(a)|=s$ である。
段 4(極値をとる関数は全射)。 $f$ が全射でなければ、lem-rmt-improve により $h\in\mathcal{F}$ で $|h'(a)|>|f'(a)|=s$ となるものがあり、$s$ が上限であることに反する。よって $f\colon\Omega\to\mathbb{D}$ は全単射な正則関数であり、逆写像も正則なので双正則写像である。
段 5(正規化)。 $f'(a)=|f'(a)|e^{i\theta}$ と書き、$\varphi:=e^{-i\theta}f$ とおく。$\varphi$ は双正則写像で $\varphi(a)=0$、$\varphi'(a)=|f'(a)|>0$ である。
段 6(一意性)。 $\varphi_1,\varphi_2$ がともに条件を満たすとする。$\psi:=\varphi_2\circ\varphi_1^{-1}$ は $\mathbb{D}$ の自己同型で $\psi(0)=0$ を満たすので、回転 $\psi(w)=e^{i\alpha}w$ である。連鎖律から $e^{i\alpha}=\psi'(0)=\varphi_2'(a)/\varphi_1'(a)$ は正の実数なので $e^{i\alpha}=1$ であり、$\varphi_2=\varphi_1$ となる。$\square$

段 1〜4 は単連結性を使わず、平方根の性質だけを使っている。したがって証明されたのは「$\mathbb{C}$ と異なる領域が平方根の性質をもてば、$\mathbb{D}$ と双正則である」という主張である。この観察が次の節の同値性を与える。

帰結

単連結性の解析的な特徴づけ

単連結性の 3 つの言い換え

$\Omega\subsetneq\mathbb{C}$ を領域とする。次の 3 条件は同値である。

  1. $\Omega$ は単連結である。
  2. $\Omega$ は平方根の性質をもつ。
  3. $\Omega$ は $\mathbb{D}$ と双正則である。

1 ⇒ 2 は Cauchyの積分定理 の系「単連結領域上の原始関数と対数の分枝」の 3 である(前節)。2 ⇒ 3 は thm-rmt-main の証明の段 1〜4 そのものである(そこでは平方根の性質だけを使った)。
3 ⇒ 1 を示す。$\mathbb{D}$ は凸なので、$\mathbb{D}$ 内の閉曲線 $\gamma\colon[0,1]\to\mathbb{D}$ は $H(t,u):=(1-u)\gamma(t)+u\gamma(0)$ によって基点を固定したまま定値の道にホモトープであり($H(0,u)=H(1,u)=\gamma(0)$)、$\mathbb{D}$ は弧状連結なので単連結である。双正則写像 $\varphi\colon\Omega\to\mathbb{D}$ は同相写像であり、単連結性は同相写像で保たれる(基本群が同型に写る。基本群)。よって $\Omega$ は単連結である。$\square$

条件 1 は道のホモトピーについての位相的な条件、条件 2 は正則関数についての解析的な条件、条件 3 は等角幾何の条件である。2 から 1 を直接導くには別の議論が要るが、写像定理を経由すると上のように短く済む(証明が平方根の存在しか使わないという観察は Leb26c Remark 6.3.4(p. 158)にもある)。

平面の単連結な領域の位相
  1. $\mathbb{C}$ と異なる単連結な領域 $\Omega_1,\Omega_2$ と点 $a_1\in\Omega_1$、$a_2\in\Omega_2$ に対し、双正則写像 $F\colon\Omega_1\to\Omega_2$ で $F(a_1)=a_2$ を満たすものがある。特に、$\Omega_1$ の自己同型群は $\Omega_1$ に推移的に作用する。
  2. $\mathbb{C}$ のどの単連結な領域も、$\mathbb{D}$ と同相である。

1:$\varphi_j\colon\Omega_j\to\mathbb{D}$ を $\varphi_j(a_j)=0$ を満たす双正則写像とし(thm-rmt-main)、$F:=\varphi_2^{-1}\circ\varphi_1$ とおけばよい。$\Omega_1=\Omega_2$ のときの $F$ が自己同型である。2:$\Omega\ne\mathbb{C}$ なら thm-rmt-main の双正則写像が同相写像である。$\Omega=\mathbb{C}$ なら、$z\mapsto z/(1+|z|)$ が $\mathbb{C}$ から $\mathbb{D}$ への同相写像である(逆写像は $w\mapsto w/(1-|w|)$)。$\square$

2 の主張は位相だけについてのものだが、平面の単連結な領域が円板と同相であることを位相的な道具だけで示すには、別の準備が要る。写像定理は、等角写像という強い構造を作ることで、位相的な結論も一緒に与える。

具体的な写像

写像定理は存在を述べるだけで、写像の式を与えない。簡単な領域では、Möbius変換・指数関数・冪などを合成して写像を書き下せる。次の例では、どれも基点 $a$ で正規化した写像を与える。

上半平面・帯・切れ目のある平面
  1. 上半平面 $\mathbb{H}:=\{\operatorname{Im}z>0\}$、$a=i$:$\varphi(z):=i\,\dfrac{z-i}{z+i}$。$\varphi$ は Möbius 変換で、$w=\varphi(z)$ を解くと $z=(1-iw)/(w-i)$ である。$|\varphi(z)|<1$ は $|z-i|<|z+i|$、すなわち $\operatorname{Im}z>0$ と同値なので、$\varphi$ は $\mathbb{H}$ を $\mathbb{D}$ の上へ全単射に写し、逆写像も正則である。$\varphi'(z)=-2/(z+i)^2$ より $\varphi(i)=0$、$\varphi'(i)=\frac12>0$ である。
  2. 帯 $S:=\{|\operatorname{Im}z|<\frac\pi2\}$、$a=0$:$\varphi(z):=\dfrac{e^z-1}{e^z+1}=\tanh\dfrac z2$。$e^{x+iy}=e^xe^{iy}$ なので、指数関数は $S$ を右半平面 $\{\operatorname{Re}w>0\}$ の上へ全単射に写す(偏角 $y\in(-\frac\pi2,\frac\pi2)$ と絶対値 $e^x\in(0,\infty)$ が一対一に対応する)。$|w-1|<|w+1|$ は $\operatorname{Re}w>0$ と同値なので、$w\mapsto(w-1)/(w+1)$ は右半平面を $\mathbb{D}$ の上へ写し、逆写像は $\zeta\mapsto(1+\zeta)/(1-\zeta)$ である。$\varphi(0)=0$、$\varphi'(0)=\frac12$ である。
  3. 切れ目のある平面 $\Omega:=\mathbb{C}\setminus(-\infty,0]$、$a=1$:$\sqrt{z}$ を主値(偏角を $(-\pi,\pi)$ にとり半分にする)とすると、$\sqrt{\phantom{z}}$ は $\Omega$ を右半平面の上へ双正則に写す。$\varphi(z):=\dfrac{\sqrt z-1}{\sqrt z+1}$ とおくと $\varphi(1)=0$、$\varphi'(1)=\frac1{2}\cdot\frac{2}{4}=\frac14>0$ である。
    Koebe 関数 $k(z)=z/(1-z)^2$ は $\mathbb{D}$ を $\mathbb{C}\setminus(-\infty,-\frac14]$ の上に双正則に写す(単葉関数 の例「Koebe 関数とその奇関数版」)。その逆写像が、この領域の点 $0$ で正規化した写像である。

反例:仮定を外した場合

外す条件反例成り立たなくなること
$\Omega\ne\mathbb{C}$$\Omega=\mathbb{C}$単連結な領域だが、$\mathbb{D}$ と双正則でない
単連結$\Omega=\mathbb{C}\setminus\{0\}$$\mathbb{C}$ と異なる領域だが、$\mathbb{D}$ と双正則でない
正規化 $\varphi'(a)>0$$e^{i\theta}\varphi$($\varphi$ は正規化した写像、$e^{i\theta}\ne1$)$\varphi(a)=0$ を満たす双正則写像はただ 1 つ
反例の確かめ

1 行目:$\mathbb{C}$ は凸なので単連結である。正則関数 $\mathbb{C}\to\mathbb{D}$ は有界な整関数なので Liouvilleの定理(複素解析) により定数であり、全単射でない(双正則写像 の命題「平面と単位円板」)。
2 行目:$\mathbb{C}\setminus\{0\}$ は連結な開集合で $\mathbb{C}$ と異なる。双正則写像 $\varphi\colon\mathbb{C}\setminus\{0\}\to\mathbb{D}$ があったとすると、$|\varphi|<1$ なので Riemannの拡張定理 の定理「Riemann の拡張定理」により $\varphi$ は $\mathbb{C}$ 上の正則関数に延び、その延長は $|\cdot|\le1$ を満たす有界な整関数だから定数である。これは $\varphi$ の単射性に反する。thm-rmt-equivalent により $\mathbb{C}\setminus\{0\}$ は単連結でも平方根の性質をもつのでもなく、後者は ex-rmt-no-root でも直接確かめた。
3 行目:$e^{i\theta}\varphi$ も双正則写像で $0$ に $a$ を写すが、$(e^{i\theta}\varphi)'(a)=e^{i\theta}\varphi'(a)$ は $e^{i\theta}\ne1$ なら正の実数でない。正規化のうち $\varphi(a)=0$ だけでは写像は回転の分だけ決まらない。$\square$

境界での振る舞い

写像定理は領域の内部の写像を与えるだけで、境界での振る舞いについては何も言わない。まず、境界へ逃げる点列は円周へ逃げる。

境界へ逃げる点列

$\varphi\colon\Omega\to\mathbb{D}$ を同相写像とし、$\Omega$ の点列 $(z_n)$ は $\Omega$ のどのコンパクト部分集合からも最終的に出ていく(各コンパクト集合 $K\subset\Omega$ に $N$ があって、$n\ge N$ なら $z_n\notin K$)とする。このとき $|\varphi(z_n)|\to1$ である。

$0< r<1$ を固定する。閉円板 $\{|w|\le r\}$ はコンパクトなので、連続写像 $\varphi^{-1}$ による像 $K_r:=\varphi^{-1}(\{|w|\le r\})$ は $\Omega$ のコンパクト部分集合である。仮定から $n\ge N$ なら $z_n\notin K_r$、すなわち $|\varphi(z_n)|>r$ である。$r$ は任意なので $|\varphi(z_n)|\to1$ である。$\square$

境界がよい曲線なら、写像は境界まで延びる。

Carathéodory の定理(引用)

$\Omega$ を有界な単連結領域で、境界 $\partial\Omega$ が Jordan 曲線(平面の単純閉曲線)であるものとし、$\varphi\colon\Omega\to\mathbb{D}$ を双正則写像とする。このとき $\varphi$ は閉包 $\overline\Omega=\Omega\cup\partial\Omega$ から閉円板 $\overline{\mathbb{D}}$ への同相写像に延びる。

証明について

この定理はこの記事では証明しない(主張は Ahl66 第 6 章 1.2 節、p. 224 にある)。境界が Jordan 曲線でないと、写像は境界まで連続には延びないことがある。

切れ目の両側で極限が異なる

ex-rmt-explicit の 3 の $\varphi(z)=(\sqrt z-1)/(\sqrt z+1)$ を、境界の点 $-x$($x>0$)の近くで調べる。$t:=\sqrt x$ とおく。$\varepsilon\downarrow0$ のとき、主値の平方根は $\sqrt{-x+i\varepsilon}\to it$、$\sqrt{-x-i\varepsilon}\to-it$ となるので、
$$\varphi(-x+i\varepsilon)\to\frac{it-1}{it+1}=:\omega,\qquad\varphi(-x-i\varepsilon)\to\frac{-it-1}{-it+1}=\frac1\omega$$
である。$|\omega|=1$ なので $1/\omega=\bar\omega$ であり、$\omega=\dfrac{(t^2-1)+2it}{1+t^2}$ の虚部は $2t/(1+t^2)\ne0$ だから $\omega\ne\bar\omega$ である。よって $\varphi$ は境界の点 $-x$ で連続に延びない。切れ目の 1 点は、上側と下側から近づくと円周の 2 つの点に対応する。

位置づけ

写像定理は Riemann が述べ、完全な証明は 20 世紀の初めに Osgood と Koebe によって与えられた(Ahl66 第 6 章 1.1 節、pp. 221–222 とその脚注)。この記事の証明は、Montel の定理による極値問題の形のもので、Ahl66 第 6 章の定理 1(pp. 222–223)と Leb26c Theorem 6.3.1(p. 156、証明は pp. 157–158)にある。どちらも lem-rmt-improve と同じ平方根の操作を使う。
写像定理によって、円板について示した事実が単連結な領域へそのまま移る。単連結な領域の双曲計量は、円板の Poincaré 計量を写像で引き戻して定義される(双曲計量)。単葉関数の理論(単葉関数、Koebeの1/4定理)は、写像定理の写像 $\mathbb{D}\to\Omega$ の大きさと歪み方を、境界までの距離で評価する。調和関数の境界値問題は、写像で円板の問題に移される(等角写像 の定理「調和関数は等角写像で調和関数に写る」、Dirichlet問題)。単連結でない領域では、円環 $\{r<|z|< R\}$ どうしが比 $R/r$ という不変量で区別されるように、写像定理の形の結論は成り立たない(極値的長さ)。

関連項目

参考文献

[1]
Lars V. Ahlfors, Complex Analysis, 2nd ed., McGraw-Hill, 1966, 第 6 章 1.1 節(pp. 221–223、写像定理の由来と定理 1 とその証明)、1.2 節(p. 224、Jordan 領域での境界への延長の主張。証明は載せていない)

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