幾何学的実現(geometric realization)とは、単体的集合 $X$ の各 $n$ 単体に位相的単体 $\lvert\Delta^n\rvert$ を 1 枚ずつ対応させ、面写像と退化写像が指示するとおりに貼り合わせ・つぶして得られる位相空間 $\lvert X\rvert$ のことである。位相空間 $Y$ から標準単体への連続写像を集めた特異単体的集合 $\operatorname{Sing}Y$ に対し、随伴 $\lvert\cdot\rvert\dashv\operatorname{Sing}$ が成り立つ。Eilenberg–Zilber の補題により、$\lvert X\rvert$ は非退化な $n$ 単体ごとに $1$ つの $n$ 胞体をもつ CW 複体になり、単体的集合の組合せ論と位相空間のホモトピー論をつなぐ。
単体的集合 $X$ は、各 $n$ 単体を「頂点に番号の付いた $n$ 次元の三角形」とみて、面写像が指示するとおりに貼り合わせれば、1 つの位相空間を描き出す。こうして得られる空間 $\lvert X\rvert$ が 幾何学的実現 である。逆向きに、位相空間 $Y$ からは、標準単体から $Y$ への連続写像をすべて集めた単体的集合 $\operatorname{Sing}Y$(特異単体的集合)が得られる。この 2 つの構成は随伴 $\lvert\cdot\rvert\dashv\operatorname{Sing}$ をなし、単体的集合の組合せ的なホモトピー論と位相空間のホモトピー論をつなぐ橋になる。この記事では、2 つの構成を定義し、随伴を証明し、さらに $\lvert X\rvert$ が非退化単体を胞体とする CW複体 であることを、Eilenberg–Zilber の補題から完全に証明する。
記号は 単体的集合 と 単体圏Δ に従う。$X_n$ は $X$ の $n$ 単体の集合、$\Delta$ の射 $\alpha\colon[m]\to[n]$ に対する構造写像を $\alpha^*\colon X_n\to X_m$ と書く($d_i=(\delta^i)^*$、$s_i=(\sigma^i)^*$)。
$n\ge0$ に対し、$\mathbb R^{n+1}$ の部分空間
$$
\lvert\Delta^n\rvert=\{(t_0,\ldots,t_n)\in\mathbb R^{n+1}\mid t_i\ge0,\ t_0+\cdots+t_n=1\}
$$
を 位相的 $n$ 単体 という。$\Delta$ の射 $\alpha\colon[m]\to[n]$ に対し、連続写像 $\lvert\alpha\rvert\colon\lvert\Delta^m\rvert\to\lvert\Delta^n\rvert$ を
$$
\lvert\alpha\rvert(t)_j=\sum_{i\,:\,\alpha(i)=j}t_i\qquad(0\le j\le n)
$$
で定める(和が空なら $0$)。
$\lvert\alpha\rvert$ は頂点 $e_i$ を $e_{\alpha(i)}$ に送るアフィン写像である。$\lvert\alpha\circ\beta\rvert=\lvert\alpha\rvert\circ\lvert\beta\rvert$ は $\sum_{i:\alpha(i)=j}\sum_{l:\beta(l)=i}t_l=\sum_{l:\alpha\beta(l)=j}t_l$ から従い、$[n]\mapsto\lvert\Delta^n\rvert$ は $\Delta$ から位相空間の圏への関手になる(Ker26 Notation 1.2.2.1(Tag 050B)、Example 1.2.2.9(Tag 001U))。$\lvert\delta^i\rvert$ は $i$ 番目に座標 $0$ を挿入する埋め込みで、像は面 $\{t_i=0\}$ である。$\lvert\sigma^i\rvert$ は $i$ 番目と $i+1$ 番目の座標を足し合わせる写像である。
点 $t\in\lvert\Delta^n\rvert$ の 台 を $\{i\mid t_i>0\}$ とし、台が $[n]$ 全体である点(すべての $t_i>0$)の集合を 内部 $\operatorname{Int}\lvert\Delta^n\rvert$、残りを 境界 $\partial\lvert\Delta^n\rvert$ という。台が $\{i_0<\cdots< i_p\}$ である点 $t$ は、その集合を像とする単射 $\delta\colon[p]\to[n]$ と内部の点 $t'\in\operatorname{Int}\lvert\Delta^p\rvert$ により $t=\lvert\delta\rvert(t')$ とただ 1 通りに書ける($t'$ は $t$ の $0$ でない座標を並べたもの)。これを $t$ の 台による分解 と呼ぶ。全射 $\beta$ に対し $\lvert\beta\rvert$ は内部の点を内部の点に送る(各座標が空でない和になる)。
位相空間 $Y$ に対し、$n$ 単体の集合を連続写像 $\sigma\colon\lvert\Delta^n\rvert\to Y$ 全体、$\alpha\colon[m]\to[n]$ に対する構造写像を $\alpha^*\sigma=\sigma\circ\lvert\alpha\rvert$ とする単体的集合を $\operatorname{Sing}Y$ と書き、$Y$ の 特異単体的集合(singular simplicial set)という。連続写像 $g\colon Y\to Y'$ は $\sigma\mapsto g\circ\sigma$ により単体的写像 $\operatorname{Sing}g$ を定め、$\operatorname{Sing}$ は位相空間の圏から単体的集合の圏への関手になる。
$\operatorname{Sing}Y$ の面写像 $d_i$ は特異単体を面 $\{t_i=0\}$ へ制限する操作で、$\operatorname{Sing}Y$ の $n$ 単体の形式的な整数係数の和が 特異ホモロジー の $n$ 鎖である(Ker26 Construction 1.2.2.2(Tag 001R))。
単体的集合 $X$ に対し、各 $X_n$ に離散位相を入れた積空間の非交和 $\bigsqcup_{n\ge0}X_n\times\lvert\Delta^n\rvert$ を、
$$
(\alpha^*x,\,t)\sim(x,\,\lvert\alpha\rvert(t))\qquad(\alpha\colon[m]\to[n],\ x\in X_n,\ t\in\lvert\Delta^m\rvert)
$$
が生成する同値関係で割った商空間(位相)を
$$
\lvert X\rvert=\Bigl(\bigsqcup_{n\ge0}X_n\times\lvert\Delta^n\rvert\Bigr)\Big/\sim
$$
と書き、$X$ の 幾何学的実現(geometric realization)という。点 $(x,t)$ の類を $[x,t]$ と書く。単体的写像 $f\colon X\to X'$ に対し $\lvert f\rvert[x,t]=[f(x),t]$ と定める。
$x\in X_n$ ごとに、連続写像
$$
\iota_x\colon\lvert\Delta^n\rvert\to\lvert X\rvert,\qquad t\mapsto[x,t]
$$
を $x$ の 特性写像 と呼ぶ。同値関係の定義から $\iota_{\alpha^*x}=\iota_x\circ\lvert\alpha\rvert$ である。
$$
\xymatrix{
\lvert\Delta^m\rvert \ar[rr]^{\lvert\alpha\rvert} \ar[dr]_{\iota_{\alpha^*x}} & & \lvert\Delta^n\rvert \ar[dl]^{\iota_x} \\
& \lvert X\rvert &
}
$$
つまり $\lvert X\rvert$ は、単体ごとに位相的単体を 1 枚ずつ用意し、面をとる・退化させるという $X$ の構造に合わせて、それらを貼り合わせ・つぶした空間である。$\lvert f\rvert$ は各 $X_n\times\lvert\Delta^n\rvert$ の上で連続で同値関係を保つ($(f(\alpha^*x),t)=(\alpha^*f(x),t)\sim(f(x),\lvert\alpha\rvert t)$)ので、連続写像として定まり、$\lvert\cdot\rvert$ は関手になる。商位相の定義から、$\lvert X\rvert$ の部分集合 $F$ が閉集合であることと、すべての単体 $x$ で $\iota_x^{-1}(F)$ が $\lvert\Delta^n\rvert$ の閉集合であることは同値である。
$\lvert X\rvert$ を作るとき、退化単体 $s_ix$ に対応する単体は $\lvert\sigma^i\rvert$ でつぶされて $x$ の単体に重なるので、新しい部分を付け加えない。面 $d_ix$ に対応する単体は $x$ の単体の $i$ 番目の面に貼り付けられる。したがって、実質的に効いているのは非退化単体だけで、$\lvert X\rvert$ は非退化単体ごとに $1$ つの開いた単体(胞体)をもつ空間になる。これが下の thm-gr-cw の内容である。一方 $\operatorname{Sing}Y$ は、$Y$ の中のあらゆる「三角形の像」を記録した巨大な単体的集合で、随伴 $\lvert\cdot\rvert\dashv\operatorname{Sing}$ は「$\lvert X\rvert$ から $Y$ への連続写像」と「$X$ の単体ごとに $Y$ の特異単体を整合的に選ぶこと」が同じであることを述べる。
標準単体 $\Delta^n$($m$ 単体は $\alpha\colon[m]\to[n]$)の幾何学的実現は、位相的単体 $\lvert\Delta^n\rvert$ と同相である。写像 $\Psi\colon\lvert\Delta^n\rvert_{\text{実現}}\to\lvert\Delta^n\rvert$ を $\Psi[\alpha,t]=\lvert\alpha\rvert(t)$ で定めると、$(\beta^*\alpha,t)=(\alpha\circ\beta,t)\mapsto\lvert\alpha\rvert\lvert\beta\rvert t$ と $(\alpha,\lvert\beta\rvert t)\mapsto\lvert\alpha\rvert\lvert\beta\rvert t$ が一致するので $\Psi$ は矛盾なく定まり、連続である。$\alpha=\alpha^*\mathrm{id}_{[n]}$ なので $[\alpha,t]=[\mathrm{id}_{[n]},\lvert\alpha\rvert t]$ であり、どの点も $[\mathrm{id}_{[n]},s]$ と書ける。$\Psi[\mathrm{id}_{[n]},s]=s$ なので、$\Psi$ の逆写像は連続写像 $\iota_{\mathrm{id}_{[n]}}\colon s\mapsto[\mathrm{id}_{[n]},s]$ である。
集合 $S$ に対し、すべての次数で $S$、構造写像がすべて恒等写像の定値単体的集合を $\underline S$ とする。$(s,t)\sim(s,\lvert\alpha\rvert t)$ により各 $\{s\}\times\lvert\Delta^n\rvert$ は $\{s\}\times\lvert\Delta^0\rvert$ の 1 点に同一視され($\alpha\colon[n]\to[0]$ に対し $\lvert\alpha\rvert$ は 1 点への写像)、異なる $s$ の点は同一視されないので、$\lvert\underline S\rvert$ は離散空間 $S$ である。とくに $\lvert\Delta^0\rvert$ は 1 点である。$\Delta^0$ は各次数に $1$ つずつ単体をもつが、実現は $1$ 点であり、正の次数の単体はすべて退化している。
単体的集合 $X$ と位相空間 $Y$ に対し、
$$
\Theta\colon\operatorname{Hom}_{\mathrm{Top}}(\lvert X\rvert,Y)\longrightarrow\operatorname{Hom}_{\mathrm{sSet}}(X,\operatorname{Sing}Y),\qquad
\Theta(f)(x)=f\circ\iota_x
$$
は全単射であり、$X$ と $Y$ について自然である。したがって $\lvert\cdot\rvert$ は $\operatorname{Sing}$ の左随伴である。単位と余単位は
$$
\eta_X\colon X\to\operatorname{Sing}\lvert X\rvert,\ x\mapsto\iota_x,\qquad
\varepsilon_Y\colon\lvert\operatorname{Sing}Y\rvert\to Y,\ [\sigma,t]\mapsto\sigma(t)
$$
である。
段 1($\Theta$ が矛盾なく定まる).連続写像 $f\colon\lvert X\rvert\to Y$ と $x\in X_n$ に対し $f\circ\iota_x\colon\lvert\Delta^n\rvert\to Y$ は連続なので $\operatorname{Sing}Y$ の $n$ 単体である。$\alpha\colon[m]\to[n]$ に対し
$$
\Theta(f)(\alpha^*x)=f\circ\iota_{\alpha^*x}=f\circ\iota_x\circ\lvert\alpha\rvert=\alpha^*\bigl(\Theta(f)(x)\bigr)
$$
なので、$\Theta(f)$ は構造写像と可換であり、単体的写像である。
段 2(逆写像).単体的写像 $g\colon X\to\operatorname{Sing}Y$ に対し、写像 $\tilde g\colon\bigsqcup_nX_n\times\lvert\Delta^n\rvert\to Y$ を $\tilde g(x,t)=g(x)(t)$ で定める。$X_n$ は離散なので $X_n\times\lvert\Delta^n\rvert$ は $\lvert\Delta^n\rvert$ の複製の非交和であり、各複製の上で $\tilde g=g(x)$ は連続なので、$\tilde g$ は連続である。さらに
$$
\tilde g(\alpha^*x,t)=g(\alpha^*x)(t)=\bigl(\alpha^*g(x)\bigr)(t)=g(x)\bigl(\lvert\alpha\rvert t\bigr)=\tilde g(x,\lvert\alpha\rvert t)
$$
なので $\tilde g$ は同値関係を保ち、商位相の普遍性により連続写像 $\Xi(g)\colon\lvert X\rvert\to Y$、$[x,t]\mapsto g(x)(t)$ を誘導する。
段 3(互いに逆).$\Theta(\Xi(g))(x)=\Xi(g)\circ\iota_x=g(x)$ であり、$\Xi(\Theta(f))[x,t]=(f\circ\iota_x)(t)=f[x,t]$ である。
段 4(自然性).単体的写像 $u\colon X'\to X$ と連続写像 $v\colon Y\to Y'$ に対し、$\lvert u\rvert\circ\iota_{x'}=\iota_{u(x')}$ なので
$$
\Theta(v\circ f\circ\lvert u\rvert)(x')=v\circ f\circ\iota_{u(x')}=(\operatorname{Sing}v\circ\Theta(f)\circ u)(x')
$$
である。よって $\Theta$ は $X$ と $Y$ の両方について自然である。
単位は $\Theta(\mathrm{id}_{\lvert X\rvert})$、余単位は $\Xi(\mathrm{id}_{\operatorname{Sing}Y})$ として得られ(随伴関手 の命題「随伴から単位・余単位を取り出す」)、上の式になる。$\blacksquare$
この随伴は、$\Delta$ から位相空間への関手 $[n]\mapsto\lvert\Delta^n\rvert$ に一般的な「脈体と実現」の構成を当てはめたものである(Rie16 Proposition 6.5.12(p. 248)と Exercise 6.5.vi(p. 251)、Ker26 Corollary 1.2.3.5(Tag 0022))。
幾何学的実現は任意の余極限を保ち、$\operatorname{Sing}$ は任意の極限を保つ。とくに、単体的集合の押し出し $X\sqcup_AB$ の実現は、実現の押し出し $\lvert X\rvert\sqcup_{\lvert A\rvert}\lvert B\rvert$ と同相であり、非交和の実現は実現の非交和である。
左随伴は余極限を、右随伴は極限を保つ(随伴関手 の命題「随伴による保存」)ので、thm-gr-adjunction による。$\blacksquare$
たとえば単体的円周 $\Delta^1/\partial\Delta^1$ は押し出し $\Delta^1\sqcup_{\partial\Delta^1}\Delta^0$ なので、その実現は線分 $\lvert\Delta^1\rvert$ の両端を 1 点にした空間、つまり円周である(ここで $\lvert\partial\Delta^1\rvert$ が 2 点であることは ex-gr-discrete と非交和の保存による)。
特異単体的集合については次が成り立つ。$\operatorname{Sing}Y$ はいつも Kan複体 である(Kan複体 の定理「特異単体的集合は Kan 複体である」)。$\operatorname{Sing}Y$ の頂点は $Y$ の点、辺は $Y$ の道なので、$\operatorname{Sing}Y$ の連結成分の集合は $Y$ の弧状連結成分の集合である(Kan複体 の節「連結成分とホモトピー圏」)。
単体的集合 $X$ の $n$ 単体 $x$ が 退化 しているとは、ある退化写像 $s_i$ の像に入ることをいい、そうでないとき 非退化 という。単体圏Δ の定理「射の標準形」により、恒等写像でない全射 $p\colon[n]\to[m]$ はある $\sigma^j$ を最初に施す形 $p=p'\circ\sigma^j$ に書けるので、$p^*w=s_j(p'^*w)$ は退化している。逆に退化単体 $s_jw=(\sigma^j)^*w$ はこの形である。
単体的集合 $X$ の任意の $n$ 単体 $x$ は、全射 $\beta\colon[n]\to[m]$ と非退化な $m$ 単体 $y$ により $x=\beta^*y$ と書け、この組 $(\beta,y)$ はただ 1 つである。$y$ を $x$ の 根 と呼ぶ。
存在:$x=\mathrm{id}^*x$ なので、$x=\beta^*y$($\beta\colon[n]\to[m]$ は全射)と書ける組はある。そのうち $m$ が最小のものをとる。$y$ が退化していて $y=s_jz=(\sigma^j)^*z$ なら、$x=(\sigma^j\beta)^*z$ で $\sigma^j\beta\colon[n]\to[m-1]$ は全射なので、$m$ の最小性に反する。よって $y$ は非退化である。
一意性:$\beta_1^*y_1=\beta_2^*y_2=x$($\beta_k\colon[n]\to[m_k]$ は全射、$y_k$ は非退化)とする。$\beta_1$ の切断、つまり $\beta_1\gamma_1=\mathrm{id}$ となる順序を保つ写像 $\gamma_1\colon[m_1]\to[n]$ を任意にとる(各 $j$ に対し $\gamma_1(j)$ を $\beta_1^{-1}(j)$ の任意の元とすればよい。$\beta_1$ の各ファイバーは区間なので、これは順序を保つ)。すると
$$
y_1=\gamma_1^*\beta_1^*y_1=\gamma_1^*\beta_2^*y_2=(\beta_2\gamma_1)^*y_2 .
$$
$\beta_2\gamma_1$ を全射 $p$ と単射 $\iota$ の合成 $\iota\circ p$ に分解すると(単体圏Δ の補題「射は像とつぶれる位置で決まる」)、$y_1=p^*(\iota^*y_2)$ である。$p$ が恒等写像でなければ $y_1$ は退化してしまうので、$p$ は恒等写像で、$\beta_2\gamma_1$ は単射、とくに $m_1\le m_2$ である。同じ議論を入れ替えて $m_2\le m_1$ なので $m_1=m_2$ であり、$\beta_2\gamma_1\colon[m_1]\to[m_1]$ は順序を保つ単射なので恒等写像である。よって $y_1=y_2$ である。
最後に $\beta_1=\beta_2$ を示す。ある $i$ で $\beta_1(i)\ne\beta_2(i)$ とする。切断 $\gamma_1$ を $\gamma_1(\beta_1(i))=i$ となるように選ぶと、上で示したとおり $\beta_2\gamma_1=\mathrm{id}$ なので、$\beta_2(i)=\beta_2\gamma_1\beta_1(i)=\beta_1(i)$ となり矛盾する。$\blacksquare$
この補題と証明は Hat02 Appendix, Proposition A.19 の証明(pp. 537–538)、Ker26 Proposition 1.1.3.8(Tag 0014)にある。同じ名前の Eilenberg–Zilberの定理(積空間の特異鎖複体が、各因子の特異鎖複体のテンソル積と鎖ホモトピー同値であるというホモロジーの定理)とは別の主張である。
$\lvert X\rvert$ の各点は、非退化単体 $y\in X_m$ と内部の点 $u\in\operatorname{Int}\lvert\Delta^m\rvert$ により $[y,u]$ とただ 1 通りに書ける。具体的には、$(x,t)$($x\in X_n$)の類について、$t$ の台による分解を $t=\lvert\delta\rvert(t')$、$\delta^*x$ の根による表示を $\delta^*x=\beta^*y$ とすれば、$[x,t]=[y,\lvert\beta\rvert(t')]$ がその表し方である。
$(x,t)$ に対し、上の手順で得られる組を $R(x,t)=(y,\lvert\beta\rvert t')$ とおく。$\lvert\beta\rvert$ は内部の点を内部に送るので $\lvert\beta\rvert t'$ は内部の点であり、lem-gr-eilenberg-zilber と台による分解の一意性から $R$ は写像として定まる。また $(x,t)=(x,\lvert\delta\rvert t')\sim(\delta^*x,t')=(\beta^*y,t')\sim(y,\lvert\beta\rvert t')$ なので、$[x,t]$ は $R(x,t)$ の類に等しい。
あとは、この組が代表 $(x,t)$ の選び方によらないこと($R$ が同値関係を保つこと)と、非退化単体と内部の点の組では $R$ が何も変えないことを確かめればよい。
$R$ が同値関係を保つこと、つまり $\alpha\colon[m]\to[n]$、$x\in X_n$、$t\in\lvert\Delta^m\rvert$ について $R(\alpha^*x,t)=R(x,\lvert\alpha\rvert t)$ を示す。$t=\lvert\delta\rvert t'$ を台による分解とし、$\alpha\delta=\iota\circ p$($p$ は全射、$\iota$ は単射)と分解する。$\lvert\alpha\rvert t=\lvert\iota\rvert(\lvert p\rvert t')$ で $\lvert p\rvert t'$ は内部の点なので、これが $\lvert\alpha\rvert t$ の台による分解である。$\iota^*x=\beta^*y$ を根による表示とすれば、$R(x,\lvert\alpha\rvert t)=(y,\lvert\beta\rvert\lvert p\rvert t')$ である。一方 $\delta^*\alpha^*x=(\alpha\delta)^*x=p^*\iota^*x=(\beta p)^*y$ で、$\beta p$ は全射、$y$ は非退化なので、補題の一意性によりこれが $\delta^*\alpha^*x$ の根による表示であり、$R(\alpha^*x,t)=(y,\lvert\beta p\rvert t')$ となって一致する。
よって $R$ は写像 $\bar R\colon\lvert X\rvert\to\{(y,u)\}$ を誘導し、$[\,\cdot\,]\circ\bar R$ は恒等写像である。$y$ が非退化で $u$ が内部の点なら、台による分解は $(\mathrm{id},u)$、根による表示は $(\mathrm{id},y)$ なので $R(y,u)=(y,u)$ である。したがって $(y,u)\mapsto[y,u]$ と $\bar R$ は互いに逆である。$\blacksquare$
$X$ の部分単体的集合 $A$ に対し、$\lvert X\rvert_A:=\{[a,t]\mid a\in A\}\subseteq\lvert X\rvert$ とおく。
$A$ を $X$ の部分単体的集合とする。
(R1) $\lvert X\rvert$ の点が $\lvert X\rvert_A$ に入ることと、その標準の代表 $[y,u]$ の $y$ が $A$ に入ることは同値である。
(R2) $\lvert X\rvert_A$ の部分集合 $F$ が $\lvert X\rvert$ の閉集合であることと、$A$ のすべての非退化単体 $y$ について $\iota_y^{-1}(F)$ が閉集合であることは同値である。とくに $\lvert X\rvert_A$ は閉集合である。
(R3) 包含の実現 $\lvert A\rvert\to\lvert X\rvert$ は、$\lvert A\rvert$ から閉集合 $\lvert X\rvert_A$ への同相写像である。
要点:根は切断で引き戻せるので部分単体的集合に残る。閉集合の判定は、非退化単体 $y$ の特性写像の逆像を、$\delta^*y\in A$ となる有限個の閉じた面の上に分けて調べればよい。
(i) $A$ の単体 $a$ の根 $y$ は、$\beta$ の切断 $\gamma$ により $y=\gamma^*\beta^*y=\gamma^*a$ と書けるので $A$ に入る。$A$ の単体の面 $\delta^*a$ も $A$ に入るので、prop-gr-standard-representative の手順から $[a,t]$ の標準の代表は $A$ の単体である。逆は明らかである。
(ii) 必要性は $\iota_y$ の連続性による。十分性を示す。商位相の定義により、すべての単体 $x$ で $\iota_x^{-1}(F)$ が閉集合であることを示せばよい。$x=\beta^*y$ を根による表示とすれば $\iota_x=\iota_y\circ\lvert\beta\rvert$ なので、非退化な $y\in X_m$ についてだけ示せばよい。$D_y:=\{\delta\colon[p]\to[m]\text{ 単射}\mid\delta^*y\in A\}$ とおく。$\iota_y(t)\in\lvert X\rvert_A$ となる $t$ の全体は $\bigcup_{\delta\in D_y}\lvert\delta\rvert(\lvert\Delta^p\rvert)$ に等しい:$t=\lvert\delta\rvert s$、$\delta\in D_y$ なら $\iota_y(t)=[\delta^*y,s]\in\lvert X\rvert_A$ であり、逆に $t$ の台による分解を $t=\lvert\delta_t\rvert t'$ とすると $\iota_y(t)=[\delta_t^*y,t']$ で、その標準の代表の $y'$ は $\delta_t^*y$ の根なので、(i) により $y'\in A$ なら $\delta_t^*y=\beta^*y'\in A$、つまり $\delta_t\in D_y$ である。$\delta\in D_y$ ごとに $\delta^*y=\beta^*w$ を根による表示とすると $w\in A$ は非退化で $\iota_y\circ\lvert\delta\rvert=\iota_{\delta^*y}=\iota_w\circ\lvert\beta\rvert$ なので、$$\iota_y^{-1}(F)=\bigcup_{\delta\in D_y}\lvert\delta\rvert\bigl(\lvert\beta\rvert^{-1}(\iota_w^{-1}(F))\bigr)$$である。$\lvert\delta\rvert$ はコンパクト空間から Hausdorff 空間への連続な単射なので閉写像であり、$D_y$ は有限集合なので、右辺は閉集合である。$F=\lvert X\rvert_A$ とおけば、すべての $\iota_w^{-1}(F)$ は全体なので、$\lvert X\rvert_A$ が閉集合であることも従う。
(iii) 写像 $[a,t]_A\mapsto[a,t]_X$ は連続で、像は $\lvert X\rvert_A$ である。$A$ の単体が $A$ の中で退化していることと $X$ の中で退化していることは同じ($a=s_iz$ なら $z=d_ia\in A$)なので、$A$ での標準の代表は $X$ での標準の代表でもあり、prop-gr-standard-representative によりこの写像は単射である。$\lvert A\rvert$ の閉集合 $F$ の像 $\tilde F$ について、$A$ の非退化単体 $w$ で $\iota_w^{-1}(\tilde F)$ は $\lvert A\rvert$ での $\iota_w^{-1}(F)$ に等しく閉集合なので、(ii) により $\tilde F$ は閉集合である。よって像への同相写像である。$\blacksquare$
根の次元が $n$ 以下の単体の全体を $\operatorname{sk}_nX$ と書き、$X$ の $n$ 骨格 という。$x=\beta^*y$($y$ は根)なら $\alpha^*x=(\beta\alpha)^*y$ で、$\beta\alpha=\iota\circ p$ と分解すれば $\alpha^*x=p^*(\iota^*y)$、$\iota^*y$ の根の次元は $\iota$ の始域の次元以下、つまり $m$ 以下であり、$\alpha^*x$ の根は $\iota^*y$ の根に等しい(補題の一意性)。よって $\operatorname{sk}_nX$ は部分単体的集合で、その非退化単体は $X$ の $n$ 次元以下の非退化単体である(Ker26 Construction 1.1.4.1(Tag 0015)、Remark 1.1.4.5(Tag 0017))。$\lvert X\rvert^{(n)}:=\lvert X\rvert_{\operatorname{sk}_nX}$ とおく。
CW 複体の定義では胞体を閉球体 $D^n$ で貼るので、位相的単体と閉球体を同一視する。
$n\ge0$ について、$\lvert\Delta^n\rvert$ から $D^n$ への同相写像で、境界 $\partial\lvert\Delta^n\rvert$ を $S^{n-1}=\partial D^n$ の上へ写すものがある。
要点:重心から放射状に伸ばして、境界を半径 $1$ の球面に合わせる。
$n=0$ は 1 点どうしなので明らか。$n\ge1$ とする。$\lvert\Delta^n\rvert$ は超平面 $H=\{\sum t_i=1\}$ の中にあり、$H$ は $\mathbb R^n$ と等長なので、$H$ の中で重心 $b=(\tfrac1{n+1},\ldots,\tfrac1{n+1})$ を中心とする閉球体 $B$ と $\lvert\Delta^n\rvert$ が同相であることを示せばよい。$\mu(t)=\min_it_i$ とおき、$h(b)=b$、$t\ne b$ では
$$h(t)=b+\bigl(1-(n+1)\mu(t)\bigr)\frac{t-b}{\|t-b\|}$$
と定める。$\mu$ は連続で $\mu(b)=\tfrac1{n+1}$ なので、$\|h(t)-b\|=1-(n+1)\mu(t)\to0$($t\to b$)であり、$h$ は連続である。$H$ の中の単位ベクトル $v$($\sum v_i=0$、$v\ne0$ なので $\min_iv_i<0$)を固定し、半直線 $t=b+\rho v$($\rho\ge0$)の上で見ると、$\mu(t)=\tfrac1{n+1}+\rho\min_iv_i$ なので $1-(n+1)\mu(t)=-(n+1)\rho\min_iv_i$ は $\rho$ の狭義増加な 1 次関数で、$t$ が $\lvert\Delta^n\rvert$ の境界($\mu(t)=0$)に達するときちょうど $1$ になる。よって $h$ は各半直線上の線分を $B$ の半径の線分へ全単射に写し、$h$ は全単射で、境界 $\{\mu=0\}$ を球面 $\{s\in H\mid\|s-b\|=1\}$ の上へ写す。コンパクト空間から Hausdorff 空間への連続な全単射なので、$h$ は同相写像である。$\blacksquare$
単体的集合 $X$ の幾何学的実現 $\lvert X\rvert$ は、$\lvert X\rvert^{(n)}$ を $n$ 骨格とする CW複体 である。$n$ 胞体は $X$ の非退化な $n$ 単体 $y$ と $1$ 対 $1$ に対応し、$y$ に対応する胞体は $\iota_y(\operatorname{Int}\lvert\Delta^n\rvert)$、その特性写像は $\iota_y$(lem-gr-simplex-ball で $D^n$ と同一視したもの)、接着写像は $\iota_y$ の境界への制限である。
CW複体 の定義「CW 複体」の 3 条件を確かめる。まず lem-gr-subcomplex を $A=\operatorname{sk}_nX$ に使うと、$\lvert X\rvert^{(n)}$ は閉集合で、その部分集合 $F$ が $\lvert X\rvert$ の閉集合であることと、$n$ 次元以下のすべての非退化単体 $y$ で $\iota_y^{-1}(F)$ が閉集合であることは同値である。$\lvert X\rvert^{(n)}$ は閉集合なので、その部分空間としての閉集合は $\lvert X\rvert$ の閉集合で $\lvert X\rvert^{(n)}$ に含まれるものと同じである。
(i) $\lvert X\rvert^{(0)}$ の点は頂点 $v\in X_0$ ごとの $[v,1]$ で(頂点はすべて非退化)、その任意の部分集合 $F$ について $\iota_v^{-1}(F)$ は空集合か 1 点で閉集合である。よって $F$ は閉集合であり、$\lvert X\rvert^{(0)}$ は離散空間である。
(ii) $n\ge1$ とし、$X$ の非退化な $n$ 単体の集合を $N_n$ とする。写像
$$
\Phi_n\colon\lvert X\rvert^{(n-1)}\sqcup\bigsqcup_{y\in N_n}\lvert\Delta^n\rvert\to\lvert X\rvert^{(n)}
$$
を、第 1 成分では包含、$y$ の成分では $\iota_y$ とする。$\Phi_n$ は連続で、prop-gr-standard-representative と lem-gr-subcomplex の (i) により全射である。点の同一視を調べる。$\lvert X\rvert^{(n)}\setminus\lvert X\rvert^{(n-1)}$ の点は、標準の代表の次元がちょうど $n$ の点、つまり $y\in N_n$ と内部の点 $u$ による $[y,u]$ で、それぞれただ 1 通りである。境界の点 $s\in\partial\lvert\Delta^n\rvert$ は台が $n$ 個以下の頂点からなるので、$\iota_y(s)$ の標準の代表は $n-1$ 次元以下であり、$\iota_y(s)\in\lvert X\rvert^{(n-1)}$ である。したがって $\Phi_n$ が同一視するのは、ちょうど「$y$ の成分の境界の点 $s$ と、$\lvert X\rvert^{(n-1)}$ の点 $\iota_y(s)$」である。これは CW複体 の定義「$n$ 胞体の貼り付け」で、接着写像を $\varphi_y=\iota_y|_{\partial\lvert\Delta^n\rvert}$ としたときの同一視と同じである。
残りは位相の一致、つまり $\Phi_n$ が商写像であることである。$F\subseteq\lvert X\rvert^{(n)}$ について $\Phi_n^{-1}(F)$ が閉集合とする。$F\cap\lvert X\rvert^{(n-1)}$ は $\lvert X\rvert^{(n-1)}$ の閉集合なので $\lvert X\rvert$ の閉集合であり、$n-1$ 次元以下の非退化単体 $z$ について $\iota_z$ の像は $\lvert X\rvert^{(n-1)}$ に入るから、$\iota_z^{-1}(F)=\iota_z^{-1}(F\cap\lvert X\rvert^{(n-1)})$ は閉集合である。$y\in N_n$ については仮定から $\iota_y^{-1}(F)$ は閉集合である。冒頭の同値により $F$ は閉集合である。よって $\lvert X\rvert^{(n)}$ は、$\lvert X\rvert^{(n-1)}$ に $N_n$ で添字付けた $n$ 胞体を貼り付けた空間である。
(iii) すべての点の標準の代表はある次元をもつので $\lvert X\rvert=\bigcup_n\lvert X\rvert^{(n)}$ である。部分集合 $U$ について、すべての $n$ で $U\cap\lvert X\rvert^{(n)}$ が $\lvert X\rvert^{(n)}$ の閉集合なら、$m$ 次元の非退化単体 $y$ について $\iota_y^{-1}(U)=\iota_y^{-1}(U\cap\lvert X\rvert^{(m)})$ は閉集合なので、lem-gr-subcomplex の (ii)($A=X$)により $U$ は閉集合である。これは弱位相の条件を閉集合で言い換えたものである。
胞体と特性写像の記述は (ii) の構成から従う。$\blacksquare$
同じ主張は Hat02 Appendix(pp. 535–538。実現は非退化単体を単体とする CW 複体(s$\Delta$ 複体)になる)と Ker26 Remark 1.2.3.12(Tag 002B)に述べられている。
(i) CW 複体は Hausdorff である(CW複体 の定理「CW 複体は Hausdorff」)。(ii) 胞体が有限個なら有限 CW 複体なのでコンパクトであり(CW複体 の命題「有限 CW 複体はコンパクト」)、コンパクトなら有限部分複体に含まれるので胞体は有限個である(同じ記事の定理「コンパクト集合は有限部分複体に含まれる」)。(iii) lem-gr-subcomplex の (iii) により $\lvert A\rvert\cong\lvert X\rvert_A$ であり、$\lvert X\rvert_A$ は閉集合で、$A$ の非退化単体に対応する胞体の和である。$\blacksquare$
ex-gr-standard-simplex の同相 $\lvert\Delta^n\rvert_{\text{実現}}\cong\lvert\Delta^n\rvert$ のもとで、点 $s\in\lvert\Delta^n\rvert$ に対応する点 $[\mathrm{id},s]$ の標準の代表は、$s$ の台を像とする単射 $\delta$ である。境界 $\partial\Delta^n$ の単体は全射でない写像なので、cor-gr-properties の (iii) により $\lvert\partial\Delta^n\rvert$ は台が $[n]$ 全体でない点の集合、つまり $\partial\lvert\Delta^n\rvert$ と同相で、lem-gr-simplex-ball により $S^{n-1}$ と同相である。同様に、ホーン $\Lambda^n_k$ の実現は、$k$ 以外のある座標が $0$ である点の集合 $\{t\in\lvert\Delta^n\rvert\mid\text{ある }j\ne k\text{ で }t_j=0\}$ と同相である(ホーンと充填条件、Ker26 Remark 1.2.4.6(Tag 050E))。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 非退化単体だけを数える | $\Delta^0$ | 胞体の個数が単体の個数に等しい |
| 単体的写像の実現に限る | 線分の反転 $t\mapsto(t_1,t_0)$ | $\lvert\cdot\rvert$ が充満である(すべての連続写像が実現になる) |
| 単体的集合が Kan 複体 | $\Delta^1$ | ある位相空間 $Y$ について $\operatorname{Sing}Y$ と同型 |
| 部分単体的集合(単射) | 商写像 $\Delta^1\to\Delta^1/\partial\Delta^1$ | 実現が像への同相写像 |
$\Delta^0$ は各次数にちょうど $1$ つの単体をもつが、実現は $1$ 点である(ex-gr-discrete)。正の次数の単体はすべて退化しているので胞体を作らない。「$n$ 単体ごとに $n$ 胞体がある」は成り立たず、thm-gr-cw で胞体に対応するのは非退化単体だけである。
単体的写像 $\Delta^1\to\Delta^1$ は $\operatorname{Hom}_\Delta([1],[1])$ の $3$ つ(恒等写像と $2$ つの定値写像)だけで(単体的集合 の系「標準単体への写像」)、その実現は恒等写像と $2$ つの定値写像である。一方、反転 $r(t_0,t_1)=(t_1,t_0)$ は $\lvert\Delta^1\rvert$ の連続な自己写像で、恒等写像でも定値写像でもない。よって $r$ はどの単体的写像の実現でもなく、関手 $\lvert\cdot\rvert$ は充満でない。
$\operatorname{Sing}Y$ はいつも Kan 複体であり、$\Delta^1$ は Kan 複体でない(Kan複体 の例「標準単体は Kan 複体でない」)ので、$\Delta^1$ はどの位相空間の特異単体的集合とも同型でない。とくに単位 $\eta_{\Delta^1}\colon\Delta^1\to\operatorname{Sing}\lvert\Delta^1\rvert$ は同型でない(実際、右辺の $1$ 単体は線分への連続写像全体で、非可算個ある)。
商写像 $q\colon\Delta^1\to\Delta^1/\partial\Delta^1$ の実現 $\lvert q\rvert$ は、線分の両端を円周の同じ $0$ 胞体に送るので単射でない。cor-gr-properties の (iii) で「部分単体的集合」、つまり包含写像であることは外せない。
単体的集合の積 $X\times Y$ は次数ごとの積であり、射影の実現を並べた写像 $\lvert X\times Y\rvert\to\lvert X\rvert\times\lvert Y\rvert$ はつねに全単射で、$X$ か $Y$ の非退化単体が有限個なら(通常の積位相について)同相である(Ker26 Corollary 3.6.2.2(Tag 013E)。この記事では証明しない)。どちらもそうでないときは、通常の積位相では同相とは限らない(同 Warning 3.6.2.3(Tag 013F))が、右辺にコンパクト生成空間の積の位相を入れれば同相になる(主張は Hat02 Appendix, pp. 538–539 にあり、$\Delta^1\times\Delta^1$ の実現の胞体分割を例として示している)。実際、$\lvert X\rvert$ と $\lvert Y\rvert$ の胞体の積はコンパクト生成空間の積の上の CW 構造を与え(Hat02 Appendix, Theorem A.6)、その位相は $X'\subseteq X$、$Y'\subseteq Y$ が非退化単体を有限個しかもたない部分単体的集合であるときの部分 $\lvert X'\rvert\times\lvert Y'\rvert$ たちで決まる。$\lvert X\times Y\rvert$ の位相も部分 $\lvert X'\times Y'\rvert$ たちで決まり(cor-gr-properties の条件 (iii))、比較写像はその上で前の文により同相なので、全体でも同相である。
ホモトピー論の側では、幾何学的実現は Kan 複体のホモトピー圏から、CW 複体のホモトピー型をもつ位相空間のホモトピー圏への圏同値を誘導する(Ker26 Theorem 3.6.0.1(Tag 012Z)。この記事では証明しない)。この事実により、Kan 複体は位相空間のホモトピー型の組合せ的な模型とみなせる。
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