古典群

同義語:classical group

概要

古典群(classical group)とは、体 $k$ 上の有限次元ベクトル空間の可逆な線形変換のうち、行列式や交代形式・エルミート形式・二次形式を保つものがなす群 $\mathrm{GL}_n(k)$、$\mathrm{SL}_n(k)$、$\mathrm{Sp}_{2m}(k)$、ユニタリ群、直交群と、それらをスカラー変換で割った射影版の総称である。射影空間への 2 重推移的な作用、可換な正規部分群の共役による生成、完全性から単純性を導く Iwasawa の判定法により、$\mathrm{PSL}_n(k)$ は $(n,\lvert k\rvert)=(2,2),(2,3)$ を除いて単純群になる。シンプレクティック群・ユニタリ群・直交群の射影版も、少数の例外と形式の条件を除いて単純であり、有限体の上では Lie 型の有限単純群のうち古典型の族をなす。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 一般線形群, 特殊線形群, 双線形形式, 群の作用, 単純群

古典群 は、体 $k$ 上の有限次元ベクトル空間 $V$ の可逆な線形変換のうち、行列式や $V$ 上の形式(交代形式・エルミート形式・二次形式)を保つものがなす群と、そこからスカラー変換で割って得られる群の総称である。一般線形群 $\mathrm{GL}_n(k)$、特殊線形群 $\mathrm{SL}_n(k)$、シンプレクティック群 $\mathrm{Sp}_{2m}(k)$、ユニタリ群、直交群がその代表である。有限体の上では、これらの射影版の多くが単純群になり、有限単純群の分類に現れる Lie 型の単純群のうち古典型の族をなす。
この記事では、古典群を定義したあと、単純性を示す標準的な道具である Iwasawa の判定法 を証明し、それを使って射影特殊線形群 $\mathrm{PSL}_n(k)$ が 2 つの例外を除いて単純であることを証明する。シンプレクティック群については、$\mathrm{Sp}_2(k)=\mathrm{SL}_2(k)$ と有限体上の位数の公式を証明する。ユニタリ群と直交群の射影版の単純性は出典とともに述べる。

定義

$k$ を体、$V$ を $k$ 上の $n$ 次元ベクトル空間($n\ge1$)とする。$\mathrm{GL}(V)$ を $V$ の可逆な線形変換の群、$\mathrm{SL}(V)$ を行列式が $1$ のものの部分群とする。基底を選べば $\mathrm{GL}(V)=\mathrm{GL}_n(k)$、$\mathrm{SL}(V)=\mathrm{SL}_n(k)$ である(一般線形群、特殊線形群)。

形式を保つ群
  1. $\beta$ を $V$ 上の非退化な交代形式(すべての $v$ で $\beta(v,v)=0$ となる双線形形式)とする。$\beta(gu,gv)=\beta(u,v)$($u,v\in V$)を満たす $g\in\mathrm{GL}(V)$ の全体を シンプレクティック群 $\mathrm{Sp}(V)$ という。
  2. $\sigma$ を $k$ の位数 $2$ の自己同型とし、$h$ を $V$ 上の非退化な $\sigma$ エルミート形式($u$ について線形、$h(v,u)=\sigma(h(u,v))$ を満たす形式)とする。$h(gu,gv)=h(u,v)$ を満たす $g\in\mathrm{GL}(V)$ の全体を ユニタリ群 $\mathrm{U}(V)$、そのうち行列式が $1$ のものを 特殊ユニタリ群 $\mathrm{SU}(V)$ という。
  3. $Q$ を $V$ 上の二次形式($Q(av)=a^2Q(v)$ で、$B_Q(u,v):=Q(u+v)-Q(u)-Q(v)$ が双線形になる関数)とし、$B_Q$ は非退化とする。$Q(gv)=Q(v)$ を満たす $g\in\mathrm{GL}(V)$ の全体を 直交群 $\mathrm{O}(V)$、その交換子部分群を $\Omega(V):=[\mathrm{O}(V),\mathrm{O}(V)]$ と書く。
古典群と射影版

$\mathrm{GL}(V)$、$\mathrm{SL}(V)$、$\mathrm{Sp}(V)$、$\mathrm{U}(V)$、$\mathrm{SU}(V)$、$\mathrm{O}(V)$、$\Omega(V)$ をまとめて 古典群(classical group)という。$\mathrm{GL}(V)$ の部分群 $G$ に対し、スカラー変換の群 $Z:=\{a\,\mathrm{id}_V\mid a\in k^\times\}$ との共通部分で割った群
$$ \mathrm{P}G:=G/(G\cap Z) $$
を $G$ の 射影版 といい、$\mathrm{PSL}(V)$、$\mathrm{PSp}(V)$、$\mathrm{PSU}(V)$、$\mathrm{P}\Omega(V)$ のように書く。$G\cap Z$ は $G$ の正規部分群なので、これは剰余群として定まる。

$\mathrm{PSL}_n(k)=\mathrm{SL}_n(k)/Z(\mathrm{SL}_n(k))$ は 特殊線形群 の定義「射影特殊線形群」と一致する(同記事の命題「特殊線形群の中心」により、$\mathrm{SL}_n(k)$ の中心はスカラー行列からなる)。交代形式は基底をうまく選べば標準形になり(双線形形式 の定理「交代形式の標準形」)、非退化なら $n=2m$ は偶数で、基底 $e_1,\dots,e_m,f_1,\dots,f_m$ を $\beta(e_i,f_j)=\delta_{ij}$、$\beta(e_i,e_j)=\beta(f_i,f_j)=0$ ととれる。この基底での行列で書けば
$$ \mathrm{Sp}_{2m}(k)=\{A\in\mathrm{GL}_{2m}(k)\mid A^{\mathsf T}JA=J\},\qquad J=\begin{pmatrix}O&I_m\\-I_m&O\end{pmatrix} $$
である。$q$ 元の 有限体 $\mathbb{F}_q$ の上では $\mathrm{SL}_n(\mathbb{F}_q)$ などを $\mathrm{SL}_n(q)$ とも書く。ユニタリ群では $k=\mathbb{F}_{q^2}$、$\sigma(a)=a^q$ とし、$\mathrm{U}_n(q)$ のように固定体 $\mathbb{F}_q$ の位数 $q$ で書く。

Lie 群での使い方

実数の上の古典群 $\mathrm{GL}_n(\mathbb{R})$、$\mathrm{SL}_n(\mathbb{R})$、$\mathrm{O}(n)$、$\mathrm{SO}(n)$ は行列 Lie 群であり、Lie群 の記事の定理「古典群は行列 Lie 群である」はこれらの次元と Lie 環を求めている。複素数の上のユニタリ群 $\mathrm{U}(n)$ も Lie 群として ユニタリ群 で扱われる。この記事は、係数の体を一般にとり、群としての構造(とくに単純性)を扱う。

直感

古典群は「ベクトル空間の対称性のうち、ある量を保つもの」の群である。保つ量が何もなければ $\mathrm{GL}$、体積なら $\mathrm{SL}$、交代形式なら $\mathrm{Sp}$、エルミート形式なら $\mathrm{U}$、二次形式なら $\mathrm{O}$ になる。これらの群にはどれも、ある超平面の各点を動かさずに、残りの向きを超平面に沿って「ずらす」変換(移換、transvection)やそれに近い変換が豊富にある。単純性の証明はどれも同じ型をとる。射影空間の点への作用が十分に推移的で、1 点の固定部分群の中に「ずらし」がなす可換な正規部分群があり、その共役が群全体を生成し、群が交換子で生成される。この型を抜き出したものが Iwasawa の判定法である。

例

2 次のシンプレクティック群

$\mathrm{Sp}_2(k)=\mathrm{SL}_2(k)$ である。実際、$A=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}$ と $J=\begin{pmatrix}0&1\\-1&0\end{pmatrix}$ について
$$ A^{\mathsf T}JA=\begin{pmatrix}a&c\\b&d\end{pmatrix}\begin{pmatrix}c&d\\-a&-b\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0&ad-bc\\-(ad-bc)&0\end{pmatrix}=(\det A)\,J $$
なので、$A^{\mathsf T}JA=J$ と $\det A=1$ は同値である。$2$ 次元では「面積を保つ」と「交代形式を保つ」は同じ条件になる。

小さい有限体の上の例

$\mathrm{PSL}_2(\mathbb{F}_2)\cong S_3$、$\mathrm{PSL}_2(\mathbb{F}_3)\cong A_4$ であり、どちらも単純群でない(単純群 の例「行列の群から得られる単純群」)。一方、下の prop-cg-psl-order により $\lvert\mathrm{PSL}_2(\mathbb{F}_7)\rvert=168$、$\lvert\mathrm{PSL}_3(\mathbb{F}_4)\rvert=4^3\cdot15\cdot63/3=20160$ であり、どちらも thm-cg-psl により単純群である。

有限体上の射影特殊線形群の位数

$$ \lvert\mathrm{PSL}_n(q)\rvert=\frac{1}{\gcd(n,q-1)}\,q^{n(n-1)/2}\prod_{i=2}^{n}(q^i-1). $$

要点:$\lvert\mathrm{GL}_n(q)\rvert$ を $q-1$ で割って $\mathrm{SL}_n(q)$ の位数を出し、中心の位数 $\gcd(n,q-1)$ で割る。

詳しい証明を開く

一般線形群 の命題「有限体上の一般線形群の位数」により $\lvert\mathrm{GL}_n(q)\rvert=\prod_{i=0}^{n-1}(q^n-q^i)=q^{n(n-1)/2}\prod_{i=1}^{n}(q^i-1)$ である。行列式 $\det\colon\mathrm{GL}_n(q)\to\mathbb{F}_q^\times$ は全射な準同型(同記事の系「行列式と特殊線形群」)で核が $\mathrm{SL}_n(q)$ なので、$\lvert\mathrm{SL}_n(q)\rvert=q^{n(n-1)/2}\prod_{i=2}^{n}(q^i-1)$ である。中心は $\{aI\mid a^n=1\}$(特殊線形群 の命題「特殊線形群の中心」)で、$\mathbb{F}_q^\times$ は位数 $q-1$ の巡回群(有限体 の定理「有限体の乗法群の構造」)だから、$a^n=1$ の解はちょうど $\gcd(n,q-1)$ 個ある(位数 $m$ の巡回群で $x^n=1$ の解は $\gcd(n,m)$ 個)。

Iwasawa の判定法

群 $G$ が集合 $X$ に作用するとき(群の作用)、$x\in X$ の固定部分群を $G_x$、すべての点を動かさない元の正規部分群 $K:=\bigcap_{x\in X}G_x$ を作用の 核 と書く。作用が 2 重推移的 であるとは、$x_1\ne x_2$、$y_1\ne y_2$ を満たす $X$ の任意の 2 組に対し、$gx_1=y_1$ かつ $gx_2=y_2$ となる $g\in G$ があることをいう。

2 重推移的な作用の固定部分群は極大

$G$ が $2$ 点以上の集合 $X$ に 2 重推移的に作用するとき、各 $x\in X$ について $G_x\ne G$ であり、$G_x\subseteq H\subseteq G$ を満たす部分群 $H$ は $G_x$ か $G$ に限る。

$y\ne x$ をとると $gx=y$ となる $g$ があるので $G_x\ne G$ である。$H\supsetneq G_x$ とし、$h_0\in H\setminus G_x$ をとる。$g\in G\setminus G_x$ を任意にとると、$h_0x\ne x$、$gx\ne x$ なので、2 重推移性により $kx=x$、$kh_0x=gx$ となる $k\in G$ がある。このとき $k\in G_x\subseteq H$ であり、$g^{-1}kh_0x=x$ より $g^{-1}kh_0\in G_x\subseteq H$ である。よって $g=kh_0(g^{-1}kh_0)^{-1}\in H$ となり、$H=G$ である。$\square$

Iwasawa の判定法

群 $G$ が $2$ 点以上の集合 $X$ に 2 重推移的に作用し、その核を $K$ とする。ある $x\in X$ について、$G_x$ の可換な正規部分群 $A$ で、その共役 $gAg^{-1}$($g\in G$)全体が $G$ を生成するものがあるとする。さらに $G=[G,G]$($G$ は 完全群)とする。このとき $G/K$ は単純群である。

$N$ を $G$ の正規部分群で $N\not\subseteq K$ となるものとし、$N=G$ を示す。
まず $N\not\subseteq G_x$ である。実際、$N\subseteq G_x$ なら、任意の $g\in G$ について $N=gNg^{-1}\subseteq gG_xg^{-1}=G_{gx}$ であり、作用は推移的なので $N\subseteq\bigcap_{y}G_y=K$ となって仮定に反する。$N$ は正規なので $NG_x$ は $G_x$ を真に含む部分群であり、lem-cg-maximal により $NG_x=G$ である。
次に $G=NA$ を示す。$N$ は正規なので $NA$ は部分群である。$g\in G$ を $g=nh$($n\in N$、$h\in G_x$)と書くと、$A$ は $G_x$ の正規部分群なので $gAg^{-1}=n(hAh^{-1})n^{-1}=nAn^{-1}$ であり、$a\in A$ について $nan^{-1}=(nan^{-1}a^{-1})\,a\in NA$ である。よって共役 $gAg^{-1}$ はすべて $NA$ に含まれ、それらが $G$ を生成するので $G=NA$ である。
すると 準同型定理 の定理「第2同型定理」により $G/N=NA/N\cong A/(A\cap N)$ は可換群なので、$[G,G]\subseteq N$ である。$G=[G,G]$ だから $N=G$ である。
$G/K$ の正規部分群は $K$ を含む $G$ の正規部分群 $N$ と $N/K$ で対応する。上で示したことから、$N=K$ か $N=G$ である。また lem-cg-maximal より $K\subseteq G_x\ne G$ なので $G/K$ は自明群でない。よって $G/K$ は単純群である。$\square$

射影特殊線形群の単純性

$k^n$ の $1$ 次元部分空間(直線)全体を $\mathbb{P}^{n-1}(k)$ と書き(射影空間)、$\mathrm{SL}_n(k)$ を $g\cdot\langle v\rangle:=\langle gv\rangle$ で作用させる。$E_{ij}$ を $(i,j)$ 成分だけが $1$ の行列単位、$T_{ij}(c):=I+cE_{ij}$($i\ne j$、$c\in k$)を基本行列とする(基本変形 の定義「基本行列」)。

射影特殊線形群の単純性

$k$ を体、$n\ge2$ とし、$(n,\lvert k\rvert)\ne(2,2),(2,3)$ とする。このとき $\mathrm{PSL}_n(k)$ は単純群である。

$G=\mathrm{SL}_n(k)$、$X=\mathbb{P}^{n-1}(k)$ に thm-cg-iwasawa を当てはめる。$X$ は $\lvert k\rvert+1\ge3$ 個以上の点をもつ。
2 重推移性.$\langle u_1\rangle\ne\langle u_2\rangle$、$\langle v_1\rangle\ne\langle v_2\rangle$ とする。$u_1,u_2$ と $v_1,v_2$ はそれぞれ線形独立なので、基底 $u_1,\dots,u_n$ と $v_1,\dots,v_n$ に延長できる。$g_0u_i=v_i$ で定まる $g_0\in\mathrm{GL}_n(k)$ をとり、$Du_1=(\det g_0)^{-1}u_1$、$Du_i=u_i$($i\ge2$)で $D$ を定めて $g:=g_0D$ とおくと、$\det g=1$ であり、$g\langle u_i\rangle=\langle v_i\rangle$($i=1,2$)である。
核.$g$ がすべての直線を保つとする。$ge_i=\lambda_ie_i$ と書け、$i\ne j$ について $g(e_i+e_j)=\mu(e_i+e_j)$ なので $\lambda_i=\mu=\lambda_j$ となり、$g$ はスカラー行列である。逆にスカラー行列はすべての直線を保つ。よって核は $G$ のスカラー行列の全体、すなわち中心 $Z(\mathrm{SL}_n(k))$ であり(特殊線形群 の命題「特殊線形群の中心」)、$G/K=\mathrm{PSL}_n(k)$ である。
可換な正規部分群.$x:=\langle e_1\rangle$ とすると $G_x$ は第 1 列が $(\lambda,0,\dots,0)^{\mathsf T}$ の形の行列の全体である。
$$ A:=\{I+e_1c^{\mathsf T}\mid c\in k^n,\ c_1=0\} $$
(第 1 行が $(1,c_2,\dots,c_n)$ で、残りの行が単位行列と同じ行列の全体)とおく。$c^{\mathsf T}e_1=c_1=0$ なので $(I+e_1c^{\mathsf T})(I+e_1d^{\mathsf T})=I+e_1(c+d)^{\mathsf T}$ であり、$A$ は加法群 $k^{n-1}$ と同型な可換な部分群で、$G_x$ に含まれる。$g\in G_x$、$ge_1=\lambda e_1$ なら
$$ g(I+e_1c^{\mathsf T})g^{-1}=I+(ge_1)(c^{\mathsf T}g^{-1})=I+e_1d^{\mathsf T},\qquad d^{\mathsf T}:=\lambda c^{\mathsf T}g^{-1} $$
であり、$d_1=d^{\mathsf T}e_1=\lambda c^{\mathsf T}(\lambda^{-1}e_1)=c_1=0$ なので、$A$ は $G_x$ の正規部分群である。
共役による生成.$A$ は $T_{1j}(c)$($j\ge2$)を含む。$i\ne j$ を任意にとり、$\pi(1)=i$ を満たす置換 $\pi$ を選んで $j':=\pi^{-1}(j)$ とおく($j'\ne1$)。$g e_1=\varepsilon e_i$、$ge_a=e_{\pi(a)}$($a\ge2$)で定まる行列 $g$ は、$\varepsilon=\pm1$ を選べば $\det g=1$ にできる。$gE_{1j'}g^{-1}$ は $e_j=ge_{j'}$ を $gE_{1j'}e_{j'}=ge_1=\varepsilon e_i$ に写し、ほかの基底ベクトル $e_{\pi(a)}=\pm ge_a$($a\ne j'$)を $0$ に写すので、$gE_{1j'}g^{-1}=\varepsilon E_{ij}$、すなわち $gT_{1j'}(c)g^{-1}=T_{ij}(\varepsilon c)$ である。$c$ は任意なので、$A$ の共役はすべての $T_{ij}(c)$ を含む。$\mathrm{SL}_n(k)$ はこれらで生成される(基本変形 の系「体と整数環の場合」)。
完全群.$n\ge3$ または $\lvert k\rvert\ge4$ なので、特殊線形群 の定理「交換子部分群の決定」の 2 により $[G,G]=G$ である。
以上で thm-cg-iwasawa の仮定がそろい、$\mathrm{PSL}_n(k)=G/K$ は単純群である。$\square$

証明の 4 つの段は、Iwasawa の判定法の 4 つの仮定(2 重推移性、可換な正規部分群、共役による生成、完全群)にそのまま対応している。$A$ の元は、超平面 $\langle e_2,\dots,e_n\rangle$ の各点を $e_1$ の方向にずらす移換であり($v\mapsto v+(c^{\mathsf T}v)e_1$)、同じ方向へのずらしどうしが可換であることが証明の核である。

シンプレクティック群

シンプレクティック群の位数

$m\ge1$ について
$$ \lvert\mathrm{Sp}_{2m}(q)\rvert=q^{m^2}\prod_{i=1}^{m}(q^{2i}-1) $$
である。

$V$ を $\mathbb{F}_q$ 上の $2m$ 次元空間、$\beta$ を非退化な交代形式とする。$\beta(e_i,f_j)=\delta_{ij}$、$\beta(e_i,e_j)=\beta(f_i,f_j)=0$ を満たす順序つきの基底 $(e_1,f_1,\dots,e_m,f_m)$ を シンプレクティック基底 と呼ぶ。
作用は単純推移的.$g\in\mathrm{Sp}(V)$ はシンプレクティック基底をシンプレクティック基底に写す。逆に 2 つのシンプレクティック基底が与えられたとき、一方を他方に写す線形変換 $g$ はただ 1 つあり、$\beta$ の双線形性から基底の組での値を比べて $\beta(gu,gv)=\beta(u,v)$ が成り立つので $g\in\mathrm{Sp}(V)$ である。よって $\lvert\mathrm{Sp}(V)\rvert$ はシンプレクティック基底の個数 $s_m$ に等しい。
基底を数える.$e_1$ は $0$ でない任意のベクトルで、$q^{2m}-1$ 通りある。$\beta$ は非退化なので $v\mapsto\beta(e_1,v)$ は $0$ でない線形形式であり、$\beta(e_1,f_1)=1$ を満たす $f_1$ は超平面の平行移動の点で、$q^{2m-1}$ 通りある。$P:=\langle e_1,f_1\rangle$、$W:=\{w\mid\beta(e_1,w)=\beta(f_1,w)=0\}$ とおくと、$V=P\oplus W$ で $\beta|_W$ は非退化である(下の詳細)。残りの $e_2,f_2,\dots$ は $e_1,f_1$ と $\beta$ が $0$ なので $W$ に属し、$W$ のシンプレクティック基底をなす。逆に $W$ のシンプレクティック基底を付け加えれば $V$ のシンプレクティック基底になる。よって $s_m=(q^{2m}-1)q^{2m-1}s_{m-1}$($s_0=1$)であり、
$$ s_m=\prod_{i=1}^{m}q^{2i-1}(q^{2i}-1)=q^{m^2}\prod_{i=1}^{m}(q^{2i}-1) $$
である($\sum_{i=1}^m(2i-1)=m^2$)。$\square$

詳細

$v\in V$ に対し $w:=v-\beta(v,f_1)e_1+\beta(v,e_1)f_1$ とおく。交代形式なので $\beta(e_1,e_1)=0$、$\beta(f_1,e_1)=-1$、$\beta(u,v)=-\beta(v,u)$ であり、$\beta(e_1,w)=\beta(e_1,v)+\beta(v,e_1)=0$、$\beta(f_1,w)=\beta(f_1,v)+\beta(v,f_1)=0$ となるので $w\in W$、$V=P+W$ である。$ae_1+bf_1\in W$ なら $\beta(e_1,ae_1+bf_1)=b=0$、$\beta(f_1,ae_1+bf_1)=-a=0$ なので $P\cap W=0$ である。$w\in W$ が $W$ のすべての元と $\beta$ が $0$ なら、$P$ の元とも $0$ なので $V$ 全体と $0$ になり、非退化性から $w=0$ である。

$m=1$ では $q(q^2-1)=\lvert\mathrm{SL}_2(q)\rvert$ となり、ex-cg-sp2 と合う。$\mathrm{Sp}_{2m}(k)$ に含まれるスカラー行列は $\pm I$ だけなので($aI$ が $\beta$ を保つのは $a^2=1$ のとき)、$\mathrm{PSp}_{2m}(k)=\mathrm{Sp}_{2m}(k)/\{\pm I\}$ である。

射影シンプレクティック群の単純性

$\mathrm{PSp}_{2m}(k)$ は、$\mathrm{PSp}_2(\mathbb{F}_2)$、$\mathrm{PSp}_2(\mathbb{F}_3)$、$\mathrm{PSp}_4(\mathbb{F}_2)$ を除いて単純群である。

出典と例外

この記事では証明しない。証明は Tay92 Theorem 8.8(p. 74)にあり、thm-cg-psl と同じく Iwasawa の判定法を、射影空間の点への作用の原始性(同書 Theorem 8.3、p. 71)、シンプレクティック移換による生成(Theorem 8.5、p. 72)、完全性(Theorem 8.7、pp. 72–74)に当てはめる。例外のうち $m=1$ の 2 つは ex-cg-sp2 により $\mathrm{PSL}_2(\mathbb{F}_2)$、$\mathrm{PSL}_2(\mathbb{F}_3)$ と同じであり、$\mathrm{Sp}_4(\mathbb{F}_2)$ は 6 次対称群 $S_6$ と同型である(同書 Corollary 8.10、p. 74)。標数 $2$ では $-I=I$ なので $\mathrm{PSp}_4(\mathbb{F}_2)\cong S_6$ であり、指数 $2$ の正規部分群 $A_6$ をもつので単純でない。

ユニタリ群と直交群

ユニタリ群と直交群でも、射影空間の等方的な点($h(v,v)=0$ や $Q(v)=0$ となる $v\ne0$ が張る直線)への作用に Iwasawa の判定法を当てはめて、射影版の単純性が示される。形式によっては等方的なベクトルがないことがあり、そのときは議論がそのままでは通らないので、次の定理は等方的なベクトルの存在(Witt 指数 が $1$ 以上であること)を仮定する。

ユニタリ群と直交群の射影版の単純性
  1. $\dim V\ge2$ で、$V$ が $h(v,v)=0$ となる $v\ne0$ をもつなら、$\mathrm{PSU}(V)$ は $\mathrm{PSU}_2(2)$、$\mathrm{PSU}_2(3)$、$\mathrm{PSU}_3(2)$ を除いて単純群である。
  2. $B_Q$ が非退化、$\dim V\ge3$ で、$V$ が $Q(v)=0$ となる $v\ne0$ をもつなら、$\mathrm{P}\Omega(V)$ は単純群である。ただし $\dim V=3$、$k=\mathbb{F}_3$ の場合と、$\dim V=4$ で Witt 指数が $2$ の場合を除く。
出典

この記事では証明しない。1 は Tay92 Theorem 10.23(p. 130)、2 は同書 Theorem 11.48(p. 162)である。有限体の上では $n\ge2$ なら等方的なベクトルが存在する(同書 Lemma 10.4、p. 117 の個数の公式)。

有限の単純古典群の一覧

有限体の上で、上の定理から得られる単純群とその位数を並べる。位数は Tay92 の位数の公式(p. 19、p. 70、p. 118)による。$\mathrm{PSL}_n(q)$ と $\mathrm{PSp}_{2m}(q)$ の位数はこの記事で証明した。

群単純である条件位数
$\mathrm{PSL}_n(q)$$n\ge2$、$(n,q)\ne(2,2),(2,3)$$\dfrac{1}{\gcd(n,q-1)}q^{n(n-1)/2}\prod_{i=2}^{n}(q^i-1)$
$\mathrm{PSp}_{2m}(q)$$(m,q)\ne(1,2),(1,3),(2,2)$$\dfrac{1}{\gcd(2,q-1)}q^{m^2}\prod_{i=1}^{m}(q^{2i}-1)$
$\mathrm{PSU}_n(q)$$n\ge2$、$(n,q)\ne(2,2),(2,3),(3,2)$$\dfrac{1}{\gcd(n,q+1)}q^{n(n-1)/2}\prod_{i=2}^{n}\bigl(q^i-(-1)^i\bigr)$
$\mathrm{P}\Omega(V)$thm-cg-psu-pomega の 2形式の型によって異なる(Tay92 pp. 165–166)

$\mathrm{PSp}_{2m}(q)$ の位数は、$q$ が奇数なら $\pm I$ が異なる 2 元、偶数なら $-I=I$ であることから、prop-cg-sp-order を $\gcd(2,q-1)$ で割って得られる。これらの群は、単純群 の定理「有限単純群の分類」の Lie 型の単純群のうち、古典型の族にあたる。例外型の族は Chevalley群 で扱う。

条件を外した反例

まず thm-cg-psl の条件を外す。

外す条件反例成り立たなくなること
$(n,\lvert k\rvert)\ne(2,2)$$\mathrm{PSL}_2(\mathbb{F}_2)\cong S_3$単純であること
$(n,\lvert k\rvert)\ne(2,3)$$\mathrm{PSL}_2(\mathbb{F}_3)\cong A_4$単純であること
中心で割ること($\mathrm{SL}_n$ のままにする)$\mathrm{SL}_2(\mathbb{F}_5)$単純であること
行列式が $1$($\mathrm{GL}_n$ を中心で割る)$\mathrm{PGL}_2(\mathbb{F}_5)$単純であること

次に thm-cg-iwasawa の仮定を外す。

外す条件反例成り立たなくなること
$G=[G,G]$$S_3$ の $\{1,2,3\}$ への作用、$A=G_1$$G/K$ が単純であること
$A$ が可換$\mathbb{F}_4^2\rtimes\mathrm{SL}_2(\mathbb{F}_4)$ の $\mathbb{F}_4^2$ への作用、$A=G_0$$G/K$ が単純であること
反例:表の各行の確かめ

1・2 行目は ex-cg-small による。3 行目:$\mathrm{SL}_2(\mathbb{F}_5)$ の中心 $\{\pm I\}$ は位数 $2$ の正規部分群で、$\lvert\mathrm{SL}_2(\mathbb{F}_5)\rvert=120$ なので自明でも全体でもない。4 行目:$\lvert\mathrm{PGL}_2(\mathbb{F}_5)\rvert=480/4=120$ であり、$\mathrm{SL}_2(\mathbb{F}_5)$ の像 $\mathrm{SL}_2(\mathbb{F}_5)Z/Z\cong\mathrm{PSL}_2(\mathbb{F}_5)$ は位数 $60$ の正規部分群(正規部分群の像)なので、単純でない。

Iwasawa の判定法の表の確かめを開く

5 行目:$S_3$ は $\{1,2,3\}$ に 2 重推移的かつ忠実に作用し、$G_1=\{e,(2\,3)\}$ は可換で、その共役は 3 つの互換で $S_3$ を生成する。しかし $S_3$ は正規部分群 $A_3$ をもち単純でない。$[S_3,S_3]=A_3\ne S_3$ である。

6 行目:$V=\mathbb{F}_4^2$、$G=\{x\mapsto gx+v\mid g\in\mathrm{SL}_2(\mathbb{F}_4),\ v\in V\}$ とする。$\mathrm{SL}_2(\mathbb{F}_4)$ は $0$ でないベクトル全体に推移的に作用する($v\ne0$ は行列式 $1$ の基底 $v,w$ に延長できる)。$x\ne y$ を $x'\ne y'$ に写すには、平行移動で $x,x'$ を $0$ に移してから $y-x$ を $y'-x'$ に写せばよいので、$G$ は $V$ に 2 重推移的かつ忠実に作用し、$G_0=\mathrm{SL}_2(\mathbb{F}_4)$ である。$\lvert\mathbb{F}_4\rvert=4$ なので $G_0$ は完全群(特殊線形群 の定理「交換子部分群の決定」)である。平行移動 $t_v$ と $g\in G_0$ について $gt_vg^{-1}t_v^{-1}=t_{gv-v}$ であり、$g=\mathrm{diag}(a,a^{-1})$($a\ne0,1$)について $gv-v=((a-1)v_1,(a^{-1}-1)v_2)$ は $V$ のすべての元をとるので、平行移動もすべて交換子であり $G=[G,G]$ である。$A:=G_0$ の共役 $t_vG_0t_v^{-1}$ は $t_vgt_v^{-1}g^{-1}=t_{v-gv}$ を含むので、共役全体は $G$ を生成する。しかし平行移動の群は位数 $16$ の正規部分群なので $G$ は単純でない。$G_0\cong\mathrm{SL}_2(\mathbb{F}_4)$ は可換でない。

補足

文献

thm-cg-iwasawa は Tay92 Theorem 1.2(p. 3)にあり、射影特殊線形群の単純性は同書 Theorem 4.5(p. 23)と Lan02 Chapter XIII, Theorem 8.4(p. 539、$n=2$)・Theorem 9.3(pp. 542–544、$n\ge3$)にある。この記事の証明は Iwasawa の判定法に沿って書き直したものである。シンプレクティック基底の個数による位数の計算は Tay92 p. 70 にある。この記事の命題・定理は、thm-cg-psp と thm-cg-psu-pomega を除いて記事の中で証明した。

関連項目

参考文献

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する