平均値の定理(mean value theorem)とは、閉区間 $[a,b]$ 上で連続かつ開区間 $(a,b)$ 上で微分可能な実数値関数 $f$ に対し、$f(b)-f(a)=f'(c)(b-a)$ を満たす $c\in(a,b)$ が存在するという定理である。平均の変化率が途中のある点で瞬間の変化率として実現されることを表し、$f(a)=f(b)$ の場合が Rolle の定理である。区間上で導関数が $0$ の関数は定数であること、導関数の符号と増減の関係、$|f'|\leq M$ から $|f(x)-f(y)|\leq M|x-y|$ が従うことなど、微分法の基本的な結論の根拠になる。$|x|$ のように内部に微分できない点がある場合や、値が複素数の場合には、一般には成り立たない。
高速道路の 120 km の区間を 1.5 時間で走った車の平均の速さは時速 $120/1.5=80$ km である。途中で速くなったり遅くなったりしていても、速さが連続的に変わる限り、この車は途中のある瞬間にちょうど時速 80 km で走っている。平均の速さより常に遅ければ 1.5 時間で 120 km は進めず、常に速ければ進みすぎるからである。
グラフで言えば次のようになる。$f(x)=x^2$ を区間 $[1,3]$ で考えると、両端を結ぶ直線(弦)の傾きは $\frac{f(3)-f(1)}{3-1}=\frac{9-1}{2}=4$ である。一方、点 $x$ での接線の傾きは $f'(x)=2x$ であり、$x=2$ でちょうど $4$ になる。弦と平行な接線が、区間の内部のどこかで引ける。
この「平均の変化率は、途中のどこかで瞬間の変化率として実現される」という主張が平均値の定理(mean value theorem)である。その特別な場合で、両端の値が等しいとき(弦が水平なとき)の主張を Rolle の定理という。平均値の定理は、導関数の符号から関数の増減を読み取ること、導関数が $0$ の関数が定数であること、関数の値の差を導関数の大きさで押さえることなど、微分法の基本的な結論の根拠になる。
なお、調和関数がもつ「球面上の平均が中心の値に等しい」という性質や、積分についての「$\int_a^bf=f(c)(b-a)$ となる $c$ がある」という主張も平均値の定理と呼ばれることがあるが、本記事で扱うのは 1 変数の微分についての定理である。
以下、微分可能性と導関数を次の意味で使う。
$I\subset\mathbb{R}$ を 2 点以上を含む区間、$f\colon I\to\mathbb{R}$ を関数、$c\in I$ とする。極限
$$
f'(c):=\lim_{x\to c,\ x\in I\setminus\{c\}}\frac{f(x)-f(c)}{x-c}
$$
が実数として存在するとき、$f$ は $c$ で微分可能であるといい、$f'(c)$ を $c$ での微分係数という($c$ が $I$ の端点なら片側極限である)。$I$ のすべての点で微分可能なとき、$f$ は $I$ 上で微分可能であるといい、$c\mapsto f'(c)$ を $f$ の導関数という。
$f$ が $c$ で微分可能ならば $c$ で連続である。実際、$x\to c$ のとき $f(x)-f(c)=\frac{f(x)-f(c)}{x-c}\cdot(x-c)\to f'(c)\cdot0=0$ となる。逆は成り立たない(ex-mvt-absolute-value)。
証明の出発点は、区間の内部で最大・最小になる点では接線が水平になる、という事実である。
$f\colon(a,b)\to\mathbb{R}$ が点 $c\in(a,b)$ で微分可能であり、$c$ で最大値をとる(すべての $x\in(a,b)$ で $f(x)\leq f(c)$)か最小値をとるならば、$f'(c)=0$ である。
最大値の場合を示す。$c< x< b$ なら $f(x)-f(c)\leq0$、$x-c>0$ なので差分商 $\frac{f(x)-f(c)}{x-c}\leq0$ であり、$x\to c$ の右側極限をとって $f'(c)\leq0$ を得る。$a< x< c$ なら $x-c<0$ なので差分商は $\geq0$ であり、左側極限をとって $f'(c)\geq0$ を得る。$f$ は $c$ で微分可能なので左右の極限はともに $f'(c)$ に等しく、$f'(c)=0$ である。最小値の場合は $-f$ に同じ議論を使えばよい。
この補題は $c$ の近くだけで最大・最小になる(極大・極小)場合にも、$(a,b)$ を $c$ を含む小さな開区間に取り替えれば同じように成り立つ(Leb Lemma 4.2.2、p. 162)。$c$ が区間の端点のときは成り立たない($[0,1]$ 上の $f(x)=x$ は $x=1$ で最大だが $f'(1)=1$)。
$a< b$ とし、$f\colon[a,b]\to\mathbb{R}$ は $[a,b]$ 上で連続、開区間 $(a,b)$ 上で微分可能で、$f(a)=f(b)$ を満たすとする。このとき $f'(c)=0$ となる $c\in(a,b)$ が存在する。
$[a,b]$ はコンパクト空間である(コンパクト空間 の記事の定理「有界閉集合とコンパクト性の一致」)。$f$ は $[a,b]$ 上で連続なので、同じ記事の定理「最大値・最小値の存在」により、$f$ は $[a,b]$ のある点で最大値 $M$ を、ある点で最小値 $m$ をとる。
$M=m$ ならば $f$ は $[a,b]$ 上で定数であり、$f'(c)=0$ がすべての $c\in(a,b)$ で成り立つ。$M\ne m$ ならば、$M$ と $m$ の少なくとも一方は端点での値 $f(a)=f(b)$ と異なる。たとえば $M\ne f(a)$ なら、最大値をとる点 $c$ は $a$ でも $b$ でもないので $c\in(a,b)$ であり、$f$ を $(a,b)$ に制限すると $c$ で最大値をとる。lem-mvt-interior-extremum により $f'(c)=0$ である。$m\ne f(a)$ の場合も最小値について同様である。
$a< b$ とし、$f\colon[a,b]\to\mathbb{R}$ は $[a,b]$ 上で連続、$(a,b)$ 上で微分可能とする。このとき
$$
f(b)-f(a)=f'(c)\,(b-a)
$$
を満たす $c\in(a,b)$ が存在する。
両端を結ぶ直線を引いた差
$$
g(x):=f(x)-f(a)-\frac{f(b)-f(a)}{b-a}(x-a)
$$
を考える。$g$ は $[a,b]$ 上で連続、$(a,b)$ 上で微分可能で、$g'(x)=f'(x)-\frac{f(b)-f(a)}{b-a}$ である。また $g(a)=0$、$g(b)=f(b)-f(a)-(f(b)-f(a))=0$ である。thm-mvt-rolle により $g'(c)=0$ となる $c\in(a,b)$ があり、このとき $f'(c)=\frac{f(b)-f(a)}{b-a}$ である。
仮定は「閉区間上で連続」と「開区間上で微分可能」の 2 つである。端点での微分可能性は要らないが、端点での連続性は要る(ex-mvt-endpoint)。結論の $c$ は一般に 1 つとは限らず、$c$ の位置も定理からは分からない。この言明と証明は Leb Theorem 4.2.3(Rolle、p. 163)・Theorem 4.2.4(p. 164–165)と同じ形である。Ham Example 2.8(p. 57)は、同じ言明を論理記号に翻訳する例として扱っている。
同じ考え方で、2 つの関数の変化の比についての形が得られる。
$a< b$ とし、$f,g\colon[a,b]\to\mathbb{R}$ はともに $[a,b]$ 上で連続、$(a,b)$ 上で微分可能とする。このとき
$$
\bigl(f(b)-f(a)\bigr)\,g'(c)=\bigl(g(b)-g(a)\bigr)\,f'(c)
$$
を満たす $c\in(a,b)$ が存在する。特に $(a,b)$ 上で $g'(x)\ne0$ ならば $g(b)\ne g(a)$ であり、$\dfrac{f(b)-f(a)}{g(b)-g(a)}=\dfrac{f'(c)}{g'(c)}$ である。
$h(x):=\bigl(f(b)-f(a)\bigr)g(x)-\bigl(g(b)-g(a)\bigr)f(x)$ とおく。$h$ は $[a,b]$ 上で連続、$(a,b)$ 上で微分可能であり、
$$
h(a)=f(b)g(a)-g(b)f(a)=h(b)
$$
である(展開すると両方とも $f(b)g(a)-f(a)g(b)$ になる)。thm-mvt-rolle により $h'(c)=0$ となる $c\in(a,b)$ があり、これが主張の等式である。$(a,b)$ 上で $g'\ne0$ なら、$g(b)=g(a)$ とすると $g$ に thm-mvt-rolle を使って $g'(c')=0$ となる $c'$ があり矛盾するので $g(b)\ne g(a)$ であり、等式を $\bigl(g(b)-g(a)\bigr)g'(c)$ で割れば後半を得る。
$g(x)=x$ とおけば thm-mvt に戻る。Cauchy の平均値定理は、極限の計算に使う l'Hôpital の定理の証明に使われる(Leb Theorem 4.2.5、p. 165。同書は証明を Exercise 4.2.15 として読者に委ね、l'Hôpital の定理を Exercise 4.2.9 としている)。
$f(x)=x^3$ を $[0,3]$ で考えると、弦の傾きは $27/3=9$ で、$f'(c)=3c^2=9$ となる $c\in(0,3)$ は $c=\sqrt3=1.732\ldots$ のただ 1 つである。一方、$f(x)=\sin x$ を $[0,2\pi]$ で考えると弦の傾きは $0$ で、$f'(c)=\cos c=0$ となる $c$ は $\pi/2$ と $3\pi/2$ の 2 つある。定理は $c$ の存在だけを主張し、個数や位置は関数によって変わる。
$f(x)=|x|$ を $[-1,1]$ で考える。$f$ は $[-1,1]$ 上で連続で $f(-1)=f(1)=1$ だが、$x<0$ で $f'(x)=-1$、$x>0$ で $f'(x)=1$ であり、$f'(c)=0$ となる $c$ はない。$f$ は $x=0$ で微分可能であるという性質を満たさない(左右の差分商の極限が $-1$ と $1$ で異なる)。したがって「閉区間上で連続で両端の値が等しい $\Rightarrow$ 接線が水平になる点がある」という含意は、内部での微分可能性を外すと成り立たない(Leb p. 164 の例と同じ)。
$[0,1]$ 上で $f(x)=x$($0\leq x<1$)、$f(1)=0$ と定める。$f$ は $(0,1)$ 上で微分可能で $f'(x)=1$、また $f(0)=f(1)=0$ であるが、$f'(c)=0$ となる $c\in(0,1)$ はない。$f$ は $x=1$ で連続であるという性質を満たさない。したがって thm-mvt-rolle と thm-mvt の「$[a,b]$ 上で連続」という仮定は、端点での連続性も含めて外せない。
実数の区間から複素数への関数 $f(t)=e^{it}=\cos t+i\sin t$ を $[0,2\pi]$ で考えると、$f(2\pi)-f(0)=0$ だが $f'(t)=ie^{it}$ の絶対値は常に $1$ で、$f'(c)=0$ となる $c$ はない。平均値の定理の等式は、値が実数であることを使っている(証明では、実数値関数が最大値をとる点を使った)。値が複素数や平面のベクトルの場合、等式の形では成り立たない。点の軌跡で言えば、円周を一周して戻る点の速度が $0$ になる瞬間はない。
平均値の定理の多くの応用は、「区間の 2 点での値の差」を「途中の 1 点での導関数」で書けることを使う。以下、$I$ は 2 点以上を含む区間で、$f\colon I\to\mathbb{R}$ は $I$ 上で微分可能とする(したがって $I$ 上で連続である)。$x< y$ を $I$ の 2 点とすると $[x,y]\subset I$ なので、$f$ を $[x,y]$ に制限したものに thm-mvt が使え、
$$
f(y)-f(x)=f'(c)\,(y-x)\qquad(x< c< y)
$$
となる $c$ がある。
区間 $I$ 上で微分可能な $f$ について、すべての $x\in I$ で $f'(x)=0$ ならば、$f$ は $I$ 上で定数である。したがって、$I$ 上で $f'=g'$ となる 2 つの関数 $f,g$ は定数の差しかない。
$x< y$ を $I$ の 2 点とすると、上の式で $f'(c)=0$ なので $f(y)=f(x)$ である。後半は $f-g$ に前半を使えばよい。
$D=\mathbb{R}\setminus\{0\}$ 上で $f(x)=1$($x>0$)、$f(x)=-1$($x<0$)と定めると、$f$ は $D$ の各点で微分可能で $f'(x)=0$ だが、$f$ は定数でない。$D$ は区間であるという性質を満たさず、$-1$ と $1$ を結ぶ閉区間 $[-1,1]$ が $D$ に含まれないので、thm-mvt を使えない。「導関数が $0$ ならば定数」という含意は、定義域が区間であることを外すと成り立たない。
区間 $I$ 上で微分可能な $f$ について、次が成り立つ。
1 の「$\Rightarrow$」と 2:$x< y$ なら $f(y)-f(x)=f'(c)(y-x)$ で $y-x>0$ なので、$f'(c)\geq0$ なら $f(y)\geq f(x)$、$f'(c)>0$ なら $f(y)>f(x)$ である。1 の「$\Leftarrow$」:$f$ が単調増加ならば、$c\in I$ と $x\in I\setminus\{c\}$ について $f(x)-f(c)$ と $x-c$ の符号は逆にならないので差分商は $\geq0$ であり、極限の $f'(c)$ も $\geq0$ である。減少の場合は $-f$ に使えばよい。
2 の逆は成り立たない。$f(x)=x^3$ は $\mathbb{R}$ 上で狭義単調増加だが $f'(0)=0$ である(Leb Proposition 4.2.7・4.2.8 と直後の注意、p. 165–166)。
区間 $I$ 上で微分可能な $f$ について、すべての $x\in I$ で $|f'(x)|\leq M$ ならば、すべての $x,y\in I$ で
$$
|f(x)-f(y)|\leq M|x-y|
$$
が成り立つ。すなわち $f$ は $I$ 上で Lipschitz連続 である。
$x=y$ なら明らかである。$x< y$ なら(必要なら $x,y$ を入れ替えて)$|f(y)-f(x)|=|f'(c)|\,|y-x|\leq M|y-x|$ である。
たとえば $\sin x$ の導関数は $\cos x$ で $|\cos x|\leq1$ なので、すべての実数 $x,y$ で $|\sin x-\sin y|\leq|x-y|$ である。Lipschitz連続 の記事は、区間上の微分可能な関数について「導関数が有界 $\Leftrightarrow$ Lipschitz 連続」を示す際にこの議論を使っている。
$f(x)=\sqrt x$ を $[100,101]$ で考えると、$f'(x)=\frac1{2\sqrt x}$ なので $\sqrt{101}-10=\frac1{2\sqrt c}$ となる $c\in(100,101)$ がある。$\sqrt c>10$ より $\sqrt{101}<10+\frac1{20}=10.05$ である。これと $\sqrt c<\sqrt{101}<10.05$ から $\frac1{2\sqrt c}>\frac1{20.1}$ となり、$\sqrt{101}>10+\frac1{20.1}=10.04975\ldots$ を得る。実際の値は $\sqrt{101}=10.04987\ldots$ で、この範囲に入っている。
平均値の定理は $f(b)=f(a)+f'(c)(b-a)$ と書ける。これを高階の導関数へ一般化したものが Taylorの定理 で、$f$ が $n+1$ 回微分可能なら
$$
f(b)=\sum_{k=0}^{n}\frac{f^{(k)}(a)}{k!}(b-a)^k+\frac{f^{(n+1)}(c)}{(n+1)!}(b-a)^{n+1}
$$
となる $c$ が $a$ と $b$ の間にある(剰余項の Lagrange の形)。$n=0$ の場合が平均値の定理である。証明は、多項式で近似した残りの関数に Rolle の定理を繰り返し使うものである(Leb Theorem 4.3.2、p. 172。同書は $f^{(n)}$ が $[a,b]$ 上で連続、$f^{(n+1)}$ が $(a,b)$ 上で存在するという仮定で述べている)。
$\mathbb{R}^n$ の凸集合である開集合 $U$ 上で微分可能な実数値関数 $f$ については、$p,q\in U$ を結ぶ線分上に $f(q)-f(p)=\nabla f(r)\cdot(q-p)$ となる点 $r$ がある。これは $t\mapsto f(p+t(q-p))$ に thm-mvt を使えば得られる。値がベクトルの写像では ex-mvt-complex のように等式は成り立たないが、$U$ 上で微分可能な写像については、導関数の大きさによる不等式 $|f(q)-f(p)|\leq\sup_r\|Df(r)\|\,|q-p|$($\sup$ は $p,q$ を結ぶ線分上の点 $r$ についてとる)の形では成り立つ(逆関数定理 の記事の証明はこの形を 1 変数の平均値の定理から導いて使っている)。
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