保型形式(automorphic form)とは、上半平面上の正則関数で、離散群 $\Gamma$ の元 $\gamma$ による 1 次分数変換に対して $f(\gamma z)=(cz+d)^kf(z)$ と決まった形で変換し、尖点でも正則なもののことであり、$k$ を重さという。$\Gamma$ がモジュラー群 $\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})$ の指数 $\mu$ の部分群なら、重さ $k$ の保型形式の空間は次元が $k\mu/12+1$ 以下の有限次元空間で、無限遠での展開の最初の有限個の係数で決まる。$\Gamma_0(N)$ のような合同部分群に対するものはレベル $N$ のモジュラー形式とも呼ばれ、$f(Nz)$ やテータ級数の冪などの例があり、平方数の和の表し方の数や分割数の研究に使われる。
モジュラー形式は、上半平面 $\mathfrak{H}$ 上の正則関数で、モジュラー群 $\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})$ のすべての元に対して決まった形で変換するものだった。ところが数論で出会う関数の多くは、$\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})$ 全体ではなく、その部分群に対してだけこの変換則を満たす。たとえば $f$ がモジュラー形式のとき、$f(2z)$ は一般にはモジュラー形式でないが、左下の成分が偶数の行列に対しては変換則を満たす(prop-af-level-raising)。テータ級数 $\theta(z)=\sum_{n\in\mathbb{Z}}e^{2\pi in^2z}$ の 4 乗も、左下の成分が $4$ の倍数の行列に対して変換則を満たす(rem-af-theta)。そこで、変換則を課す群を広げたものが 保型形式 である。
この記事では、$\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})$ の指数有限の部分群 $\Gamma$ に対する保型形式を定義し、その空間が有限次元で、次元が $\frac{k\mu}{12}+1$ 以下($k$ は重さ、$\mu$ は指数)であることを証明する(thm-af-finite-dimension)。証明では、$\Gamma$ の剰余類の代表で $f$ を動かしたものの積が $\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})$ のモジュラー形式になることを使い、モジュラー形式 の記事の零点の個数の公式に帰着させる。この有限次元性から、2 つの保型形式が等しいことを有限個の係数の比較で確かめられる。
$\operatorname{GL}_2^+(\mathbb{R})$ を行列式が正の実 2 次正方行列の群とし、$M=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}\in\operatorname{GL}_2^+(\mathbb{R})$ は $Mz=\frac{az+b}{cz+d}$ で $\mathfrak{H}$ に作用する(上半平面 の記事の定義「1 次分数変換による作用」)。
$M\in\operatorname{GL}_2^+(\mathbb{R})$、$z\in\mathfrak{H}$ について $j(M,z):=cz+d$ を 保型因子 という。整数 $k$ と $\mathfrak{H}$ 上の関数 $f$ について
$$
(f|_kM)(z):=j(M,z)^{-k}f(Mz)
$$
と定める。$k$ が明らかなときは $f|M$ と書く。
$M,M'\in\operatorname{GL}_2^+(\mathbb{R})$ について $j(MM',z)=j(M,M'z)\,j(M',z)$ であり、$(f|_kM)|_kM'=f|_k(MM')$ である。
$M'=\begin{pmatrix}a'&b'\\c'&d'\end{pmatrix}$ とすると $MM'$ の下の行は $(ca'+dc',\ cb'+dd')$ であり、$j(M,M'z)j(M',z)=\bigl(c\frac{a'z+b'}{c'z+d'}+d\bigr)(c'z+d')=c(a'z+b')+d(c'z+d')=j(MM',z)$ である。よって $((f|M)|M')(z)=j(M',z)^{-k}j(M,M'z)^{-k}f(MM'z)=j(MM',z)^{-k}f(MM'z)$ である。$\square$
$\gamma\in\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})$ に対する変換則 $f(\gamma z)=(cz+d)^kf(z)$ は $f|_k\gamma=f$ と書ける。以下 $\Gamma(1):=\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})$、$T:=\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix}$ とおく。
$\Gamma$ を $\Gamma(1)$ の指数有限の部分群、$k$ を整数とする。$\mathfrak{H}$ 上の正則関数 $f$ が $\Gamma$ に関する 重さ $k$ の保型形式(automorphic form of weight $k$)であるとは、次の 2 条件を満たすことをいう。
$\Gamma=\Gamma(1)$ のとき、条件 2 は $\delta=I$ の場合に帰着し($f|\delta=f$)、モジュラー形式 の記事の定義「モジュラー形式」と一致する。$M_k(\Gamma)$ は $\mathbb{C}$ 上のベクトル空間で、$f\in M_k(\Gamma)$、$g\in M_l(\Gamma)$ なら $fg\in M_{k+l}(\Gamma)$ である($(fg)|_{k+l}\delta=(f|_k\delta)(g|_l\delta)$ による)。$\Gamma'\subset\Gamma$ なら $M_k(\Gamma)\subset M_k(\Gamma')$ である。
最も大切な例は 合同部分群(モジュラー群 の記事の定義「合同部分群」)で、とくに
$$
\Gamma_0(N):=\left\{\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}\in\Gamma(1)\ \middle|\ c\equiv0\pmod N\right\}
$$
の指数は $N\prod_{p\mid N}(1+\frac1p)$ である(モジュラー群 の系「合同部分群の指数」)。$\Gamma_0(N)$ に関する保型形式を レベル $N$ の保型形式(モジュラー形式)と呼ぶことが多い。
「保型形式」は、この記事の意味より広く、離散群の作用に対して決まった変換をする正則関数や、その一般化の総称として使われる。$\operatorname{SL}_2(\mathbb{R})$ の離散部分群 $\Gamma$ で商 $\Gamma\backslash\mathfrak{H}$ の体積が有限のもの(第 1 種 Fuchs 群)に対しても、尖点($\Gamma$ の放物元の固定点)での正則性を課して同じように定義され、重さ $k$ の空間の次元は $\frac{kV}{4\pi}+1$ 以下になる($V$ は $\Gamma\backslash\mathfrak{H}$ の体積。Zag08 §1.3, Proposition 3, pp. 11–12。この記事では証明しない)。$\Gamma(1)$ の指数 $\mu$ の部分群では $V$ は $\frac\pi3$ の($\pm I$ で割った群の指数)倍である。多変数の上半空間に対する Hilbert モジュラー形式や Siegel モジュラー形式も保型形式の例である(Zag08 §1.1, p. 3)。また $\Gamma(1)$ とその合同部分群に対する保型形式は、単にモジュラー形式とも呼ばれる(Sil09 Appendix C, §C.12, p. 438)。
$\Gamma\subset\Gamma(1)$ を指数 $\mu$ の部分群とする。
要点:剰余類の個数が有限なので $T$ の冪のどれかが $\Gamma$ に入り、$f$ は周期 $h$ の関数になる。
1:$\mu+1$ 個の剰余類 $\Gamma T^0,\Gamma T^1,\dots,\Gamma T^{\mu}$ のうち 2 つは一致するので、$0\le j'< j\le\mu$ で $T^{j-j'}\in\Gamma$ となる。2:$j(T^h,z)=1$ なので $f(z+h)=(f|T^h)(z)=f(z)$ である。$w=e^{2\pi iz/h}$ は $\mathfrak{H}$ を $0<\lvert w\rvert<1$ に写し、$f(z)=F(w)$ となる正則関数 $F$ がある(上半平面 の記事の例「平行移動で不変な関数と $q$」と同じ議論を周期 $h$ で行う)。$\operatorname{Im}z\ge1$ は $0<\lvert w\rvert\le e^{-2\pi/h}$ に対応し、条件 2($\delta=I$)で $F$ はそこで有界なので、Riemannの拡張定理 により $w=0$ で正則に延び、負冪のない展開をもつ。3:$\gamma\in\Gamma$ について $(f|\delta)|(\delta^{-1}\gamma\delta)=f|(\gamma\delta)=f|\delta$ であり(lem-af-cocycle)、$\delta'\in\Gamma(1)$ について $(f|\delta)|\delta'=f|(\delta\delta')$ は $\operatorname{Im}z\ge1$ で有界である。共役で剰余類は一対一に移るので指数は等しい。$\square$
$f\ne0$ のとき、$a_n\ne0$ となる最小の $n$ を $\operatorname{ord}_{q_h}(f)$ と書く。$f(z+j)$ の展開は $\sum a_ne^{2\pi inj/h}q_h^n$ なので、$\operatorname{ord}_{q_h}$ は平行移動で変わらない。
$\Gamma$ を $\Gamma(1)$ の指数 $\mu$ の部分群、$h$ をその幅、$k$ を整数とする。
$\Gamma(1)=\bigsqcup_{i=1}^{\mu}\Gamma\gamma_i$ を右剰余類への分解とする。$h\le\mu$ で、$0\le j< h$ について剰余類 $\Gamma T^j$ は相異なる($\Gamma T^j=\Gamma T^{j'}$ なら $T^{j-j'}\in\Gamma$ で、$h$ の最小性から $j=j'$)ので、代表を $\gamma_{j+1}=T^j$($0\le j< h$)となるように選んでおく。$f\in M_k(\Gamma)$、$f\ne0$ に対して
$$
F:=\prod_{i=1}^{\mu}f|_k\gamma_i
$$
とおく。
$F$ は重さ $k\mu$ のモジュラー形式である。 各 $f|\gamma_i$ は $\mathfrak{H}$ 上正則なので $F$ も正則である。$\gamma\in\Gamma(1)$ をとる。$\Gamma\gamma_i\gamma$ たちは再び $\Gamma(1)$ の相異なる剰余類の全体なので、置換 $\pi$ と $\eta_i\in\Gamma$ によって $\gamma_i\gamma=\eta_i\gamma_{\pi(i)}$ と書ける。lem-af-cocycle と $f|\eta_i=f$ から $(f|\gamma_i)|\gamma=f|(\eta_i\gamma_{\pi(i)})=f|\gamma_{\pi(i)}$ であり、スラッシュ作用は積と両立する($(g_1g_2)|_{k_1+k_2}\gamma=(g_1|_{k_1}\gamma)(g_2|_{k_2}\gamma)$)ので
$$
F|_{k\mu}\gamma=\prod_{i=1}^{\mu}(f|\gamma_i)|\gamma=\prod_{i=1}^{\mu}f|\gamma_{\pi(i)}=F
$$
である。条件 2 により各 $f|\gamma_i$ は $\operatorname{Im}z\ge1$ で有界なので、$F$ もそこで有界である。よって $F$ は重さ $k\mu$ のモジュラー形式である。
$F\ne0$ であり、$\operatorname{ord}_\infty(F)\ge\operatorname{ord}_{q_h}(f)$ である。 lem-af-expansion の 3 により $f|\gamma_i\in M_k(\gamma_i^{-1}\Gamma\gamma_i)$ なので、その群の幅を $h_i$ とすると $f|\gamma_i$ は $e^{2\pi iz/h_i}$ の負冪のない冪級数に展開される。$f|\gamma_i$ は $0$ でない($f=(f|\gamma_i)|\gamma_i^{-1}$ だから)ので、展開の最低次の項を $c_iq^{\nu_i}$($q=e^{2\pi iz}$、$c_i\ne0$、$\nu_i\in\frac1{h_i}\mathbb{Z}_{\ge0}$)と書ける。$H$ を $h_i$ たちの最小公倍数とすると、すべての $f|\gamma_i$ は $q^{1/H}$ の冪級数であり、その積 $F$ の最低次の項は $\bigl(\prod c_i\bigr)q^{\sum\nu_i}$ である。とくに $F\ne0$ で、$F$ の $q$ 展開の最低次は $\sum_i\nu_i$ である。$i=j+1$($0\le j< h$)では $f|\gamma_i(z)=f(z+j)$ で、$\nu_i=\operatorname{ord}_{q_h}(f)/h$ である。残りの $\nu_i$ は $0$ 以上なので
$$
\operatorname{ord}_\infty(F)=\sum_{i=1}^{\mu}\nu_i\ \ge\ h\cdot\frac{\operatorname{ord}_{q_h}(f)}h=\operatorname{ord}_{q_h}(f)
$$
である。
結論。 モジュラー形式 の記事の定理「零点の個数の公式」により、$0$ でない重さ $k\mu$ のモジュラー形式 $F$ について、$\operatorname{ord}_\infty(F)$ に $0$ 以上の項を加えたものが $\frac{k\mu}{12}$ に等しいので、$\operatorname{ord}_\infty(F)\le\frac{k\mu}{12}$ である。よって $\operatorname{ord}_{q_h}(f)\le\frac{k\mu}{12}$ であり、1 が示された。
2 は 1 の対偶である。$a_0,\dots,a_{\lfloor k\mu/12\rfloor}$ がすべて $0$ で $f\ne0$ なら $\operatorname{ord}_{q_h}(f)\ge\lfloor k\mu/12\rfloor+1>\frac{k\mu}{12}$ となり、1 に反する。3:線形写像 $M_k(\Gamma)\to\mathbb{C}^{\lfloor k\mu/12\rfloor+1}$、$f\mapsto(a_0,\dots,a_{\lfloor k\mu/12\rfloor})$ は 2 により単射なので、次元は $\lfloor k\mu/12\rfloor+1$ 以下である。$k<0$ なら 1 の右辺が負なので $0$ でない $f$ はない。$k=0$ なら次元は $1$ 以下で、定数関数を含むので定数関数だけである。$\square$
$\Gamma$ の保型形式を剰余類の代表で動かした $\mu$ 個の関数は、互いに $\Gamma(1)$ の作用で入れ替わる。そのため、その積(「ノルム」)は $\Gamma(1)$ に関して重さ $k\mu$ で変換し、$\Gamma(1)$ の理論に帰着できる。$\Gamma(1)$ では零点の個数が重さで決まるので、無限遠での零点の位数が重さで抑えられる。$\Gamma$ について直接、尖点と楕円点の重みを付けた零点の個数の公式を証明すると、評価は $\frac{kV}{4\pi}$(rem-af-terminology)まで改良される(Zag08 §1.3, pp. 11–12。この記事では証明しない)。
2 は「同じ群・同じ重さの 2 つの保型形式が等しいことは、最初の有限個の係数を比べれば確かめられる」ことを意味し、保型形式が数論の恒等式を生む理由になっている(Zag08 §1.3, p. 12)。
$f\in M_k(\Gamma(1))$、$N\ge1$ とする。$g(z):=f(Nz)$ は $M_k(\Gamma_0(N))$ に属する。
$\alpha:=\begin{pmatrix}N&0\\0&1\end{pmatrix}$ とおくと $\alpha z=Nz$、$j(\alpha,z)=1$ で、$g=f|_k\alpha$ である。
条件 1:$\gamma=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}\in\Gamma_0(N)$ について $\gamma^*:=\alpha\gamma\alpha^{-1}=\begin{pmatrix}a&Nb\\c/N&d\end{pmatrix}$ は整数成分で行列式 $1$ なので $\Gamma(1)$ に属する。lem-af-cocycle により $g|\gamma=f|(\alpha\gamma)=f|(\gamma^*\alpha)=(f|\gamma^*)|\alpha=f|\alpha=g$ である。
条件 2:$\delta\in\Gamma(1)$ をとる。$\alpha\delta$ は整数成分で行列式 $N$ である。その第 1 列 $(u,v)^{\top}$ の最大公約数を $e>0$ とし、$\gcd(u/e,v/e)=1$ から第 1 列を $(e,0)^{\top}$ に写す $\varepsilon\in\Gamma(1)$ をとると(Euclidの互除法)、$\varepsilon\alpha\delta=\beta:=\begin{pmatrix}e&b'\\0&N/e\end{pmatrix}$($b'\in\mathbb{Z}$)となる。$\delta':=\varepsilon^{-1}\in\Gamma(1)$ とおくと $\alpha\delta=\delta'\beta$ であり、
$$
g|\delta=f|(\alpha\delta)=(f|\delta')|\beta=f|\beta,\qquad (f|\beta)(z)=\Bigl(\frac eN\Bigr)^{k}f\Bigl(\frac{ez+b'}{N/e}\Bigr)
$$
である。$\operatorname{Im}z\ge1$ なら $\operatorname{Im}\beta z=\frac{e^2}N\operatorname{Im}z\ge\frac1N$ であり、$f$ は $q$ 展開 $\sum a_nq^n$ が $\lvert q\rvert\le e^{-2\pi/N}$ で連続なので $\operatorname{Im}z\ge\frac1N$ で有界である。よって $g|\delta$ は $\operatorname{Im}z\ge1$ で有界である。$\square$
$\Gamma_0(2)$ の指数は $2(1+\frac12)=3$、幅は $1$($T\in\Gamma_0(2)$)なので、thm-af-finite-dimension により $\dim M_4(\Gamma_0(2))\le\lfloor4\cdot3/12\rfloor+1=2$ である。一方、重さ $4$ の Eisenstein 級数を $E_4(z)=1+240\sum_{n\ge1}\sigma_3(n)q^n$($\sigma_3(n)$ は約数の 3 乗の和)と正規化すると(モジュラー形式 の記事の定理「Eisenstein 級数はモジュラー形式」と Zag08 §2.2, Proposition 5, pp. 16–17)、prop-af-level-raising により $E_4(z)$ と $E_4(2z)=1+240q^2+\cdots$ はどちらも $M_4(\Gamma_0(2))$ に属する。$q$ の係数が $240$ と $0$ なので 1 次独立であり、
$$
M_4(\Gamma_0(2))=\mathbb{C}E_4(z)\oplus\mathbb{C}E_4(2z)
$$
である。$\Gamma(1)$ では $\dim M_4(\Gamma(1))=1$ なので、群を小さくすると空間は真に大きくなる。
判別式関数 $\Delta(z)=q\prod_{n\ge1}(1-q^n)^{24}=q-24q^2+\cdots$ は重さ $12$ の尖点形式である(Zag08 §2.4, Proposition 7, pp. 20–21。モジュラー形式 の命題「判別式関数」の関数はこれの $(2\pi)^{12}$ 倍)。$N\ge2$ なら prop-af-level-raising により $\Delta(z)$ と $\Delta(Nz)=q^N-24q^{2N}+\cdots$ は $M_{12}(\Gamma_0(N))$ の 1 次独立な元である。$\Delta(Nz)$ は $\Gamma_0(N)$ の尖点形式でもあるが、それを確かめるには prf-af-level-raising の $f|\beta$ が $\operatorname{Im}z\to\infty$ で $0$ に近づくことを見ればよい($\Delta$ の $q$ 展開に定数項がないことによる)。
$\theta(z):=\sum_{n\in\mathbb{Z}}q^{n^2}$ とおくと、$\theta(z)^4$ は $\Gamma_0(4)$ に関する重さ $2$ の保型形式であり、$\Gamma_0(4)$ の指数は $6$ なので $\dim M_2(\Gamma_0(4))\le2$ である(Zag08 §3.1, pp. 25–27。この記事では証明しない)。$\theta(z)^4$ の $q^n$ の係数は $n$ を 4 つの平方数の和で表す方法の数なので、この空間の基底と最初の 2 つの係数を比べることで、その数が「$n$ の正の約数のうち $4$ の倍数でないものの和」の $8$ 倍であることが導かれる(同 Proposition 11, p. 27)。Lagrangeの四平方定理 はその系である。3 つの平方数の和は Legendreの三平方定理 が扱う。$\theta$ そのものは重さ $\frac12$ の保型形式とみなされるが、そのためには保型因子 $j(\gamma,z)^{1/2}$ の符号を補う乗数系が要り、この記事の定義には入らない。
$\eta(z):=q^{1/24}\prod_{n\ge1}(1-q^n)$ を Dedekind のイータ関数という。$\eta(z)^{24}=\Delta(z)$ であり、$\eta$ も重さ $\frac12$ の保型形式とみなされる。そのためには $\theta$ と同じく、保型因子の平方根の取り方を補い 1 のべき根の値をとる因子(乗数系)が要る(定義から $\eta(z+1)=e^{\pi i/12}\eta(z)$ である。Zag08 §3.1 の (34)、p. 29 と、同所の Mersmann の定理、p. 30。この記事では証明しない)。分割数 $p(n)$ の母関数は $\sum_{n\ge0}p(n)q^n=\prod_{n\ge1}(1-q^n)^{-1}=q^{1/24}\eta(z)^{-1}$ と書け、分割数の性質は保型形式の理論と結びつく。たとえば $\eta(z)^2\eta(11z)^2$ は $\Gamma_0(11)$ に関する重さ $2$ の尖点形式である(Sil09 Appendix C, Example 12.13, p. 438。この記事では証明しない)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 尖点での正則性(条件 2) | $j$ 関数の冪 $j(z)^m$($m\ge0$) | 重さ $0$ の空間が定数だけ(有限次元) |
| $\Gamma$ の指数が有限 | $\Gamma_\infty=\{\pm T^n\mid n\in\mathbb{Z}\}$ と $q^m$($m\ge0$) | 重さ $0$ の空間が有限次元 |
| $\mathfrak{H}$ 上で正則(有理型に替える) | $1/G_4$(重さ $-4$) | 重さが負なら $0$ だけ |
1 行目:$j$ 関数は $\mathfrak{H}$ 上正則で $\Gamma(1)$ の作用で不変であり(モジュラー形式 の命題「$j$ 関数」)、$q$ 展開は $q^{-1}$ から始まるので $\operatorname{Im}z\ge1$ で有界でない。$j^m$($m=0,1,2,\dots$)は $q$ 展開の最低次 $q^{-m}$ が異なるので 1 次独立であり、条件 1 を満たす関数の空間は無限次元である。2 行目:$q^m=e^{2\pi imz}$ は $\lvert q^m\rvert=e^{-2\pi m\operatorname{Im}z}\le1$ なので $\mathfrak{H}$ 全体で有界であり、$f|_0\delta=f\circ\delta$ もすべての $\delta$ で有界、$\pm T^n$ で不変である。したがって条件 1・2 を満たし、互いに 1 次独立な $q^m$ が無限個ある。$\Gamma_\infty$ の指数は無限である($\Gamma(1)$ は $\pm T^n$ でない元を無限個の異なる剰余類に含む。たとえば $\begin{pmatrix}1&0\\c&1\end{pmatrix}$、$c\in\mathbb{Z}$ は相異なる剰余類に属する)。3 行目:$G_4$ の零点は $\rho=e^{2\pi i/3}$ の軌道だけにある(モジュラー形式 の系「低い重さのモジュラー形式」)。軌道の点 $\gamma\rho$ の虚部は $\frac{\sqrt3/2}{\lvert c\rho+d\rvert^2}\le\frac{\sqrt3}2<1$ なので、$G_4$ は $\operatorname{Im}z\ge1$ で零点をもたず、$q\to0$ で $0$ でない定数に近づくので、$\lvert G_4\rvert$ はそこで正の下界をもつ。よって $1/G_4$ は $\mathfrak{H}$ 上の有理型関数で重さ $-4$ の変換則と条件 2 を満たすが、$0$ でない。
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