Laurent多項式環

同義語:Laurent polynomial ringLaurent多項式Laurent polynomial

概要

Laurent多項式環(Laurent polynomial ring)とは、環 $A$ 上で変数の負の冪も許した多項式 $\sum a_mx^m$($m\in\mathbb{Z}^n$)の全体がなす環 $A[x_1^{\pm1},\dots,x_n^{\pm1}]$ のことで、格子 $\mathbb{Z}^n$ の群環に等しい。変数を単元に送る準同型を自由に定められる環であり、多項式環を変数の積で局所化した環とも、$x_iy_i=1$ を課した多項式環の剰余環とも同型である。係数環が零環でない被約環で $0$ と $1$ のほかに冪等元をもたなければ、単元は単項式 $ax^m$($a$ は単元)に限り、とくに体 $k$ 上の $k[x,x^{-1}]$ は $k[s]$ と同型でない。トーラスの座標環や結び目の Alexander 多項式として現れる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 多項式環, 局所化, 群環

多項式 $\sum a_mx^m$ の指数 $m$ に負の整数も許したものを Laurent 多項式 といい、その全体を Laurent 多項式環 という。$x+2+3x^{-2}$ のような元を考えることは、変数 $x$ を可逆にすることと同じである。実際、Laurent 多項式環は、多項式環を変数の冪で局所化した環であり、「変数を可逆な元に送る」準同型を自由に定められる環として特徴づけられる(thm-laurent-universal)。また無限巡回群 $\mathbb{Z}$ や格子 $\mathbb{Z}^n$ の群環でもあるので、結び目の Alexander 多項式($\mathbb{Z}[t,t^{-1}]$ の元)、射影空間の標準的なアフィン開集合すべての交わりの座標環、乗法群やトーラスの座標環として、代数・幾何・位相のあちこちに現れる。
多項式環との一番の違いは単元の多さである。体 $k$ 上の多項式環の単元は $0$ でない定数だけだが、$k[x,x^{-1}]$ では $x$ も単元である。係数環が零環でない被約環で、$0$ と $1$ のほかに冪等元をもたなければ、単元は単項式 $ax^m$($a$ は係数環の単元)に限られる(thm-laurent-units)。この事実から、たとえば $k[x,x^{-1}]$ が環として $k[s]$ と同型でないことがわかる。

定義

この記事では、環は単位元 $1$ をもつ可換環とし、環準同型は $1$ を $1$ に送るものとする。$A$ を環、$n\ge1$ を整数とし、$m=(m_1,\dots,m_n)\in\mathbb{Z}^n$ に対して記号 $x^m$ を用意する。$e_i\in\mathbb{Z}^n$ は第 $i$ 成分が $1$ でほかが $0$ のベクトルとする。

Laurent 多項式環の定義

記号 $x^m$($m\in\mathbb{Z}^n$)を基底とする自由加群の元、すなわち有限個を除いて $0$ である係数 $a_m\in A$ による有限和 $f=\sum_ma_mx^m$ の全体に、積
$$ \Bigl(\sum_ma_mx^m\Bigr)\Bigl(\sum_{m'}b_{m'}x^{m'}\Bigr)=\sum_{l\in\mathbb{Z}^n}\Bigl(\sum_{m+m'=l}a_mb_{m'}\Bigr)x^l $$
を入れた環を、$A$ 上の $n$ 変数の Laurent 多項式環(Laurent polynomial ring)といい、$A[x_1^{\pm1},\dots,x_n^{\pm1}]$ と書く。その元を Laurent 多項式(Laurent polynomial)という。$n=1$ のときは $A[x,x^{-1}]$ とも書く。$f$ の係数が $0$ でない $m$ の集合を $f$ の 台(support)といい、$\operatorname{supp}f$ と書く。

これは加法群 $\mathbb{Z}^n$ の群環 $A[\mathbb{Z}^n]$ そのものであり、結合法則などの環の公理は群環の場合と同じ計算で確かめられる(Lan02 Chapter II §3、pp. 104–106 のモノイド環)。$a\mapsto ax^0$ で $A$ を部分環とみなし、$x_i:=x^{e_i}$ とおく。$x^mx^{m'}=x^{m+m'}$ だから $x_i$ は逆元 $x_i^{-1}=x^{-e_i}$ をもつ単元であり、$x^m=x_1^{m_1}\cdots x_n^{m_n}$ である。以下、$L=A[x_1^{\pm1},\dots,x_n^{\pm1}]$ と略す。

単項式で張られる部分環

$\mathbb{Z}^n$ の部分集合 $M$ が $0$ を含み和について閉じているとき(部分モノイド)、$\operatorname{supp}f\subset M$ となる $f\in L$ の全体を $A[M]$ と書く。$x^mx^{m'}=x^{m+m'}$ より $A[M]$ は $L$ の部分環である。

$M=\mathbb{N}^n$ のとき $A[\mathbb{N}^n]$ は多項式環 $A[x_1,\dots,x_n]$ であり、こうして多項式環は $L$ の部分環とみなせる。

Laurent 多項式環の現れ方
  1. 無限巡回群 $\langle g\rangle$ の群環 $A[\langle g\rangle]$ は、$g\leftrightarrow x$ により $A[x,x^{-1}]$ と同型である(群環 の例「巡回群の群環」)。
  2. 結び目の Alexander多項式 は $\Lambda=\mathbb{Z}[t,t^{-1}]$ の元であり、単元倍 $\pm t^k$ の違いを除いて定まる。$\Lambda$ の単元がちょうど $\pm t^k$ であることは thm-laurent-units の特別な場合である。
  3. $\deg x^m=m_1+\dots+m_n$ とおくと $L$ は負の次数をもつ $\mathbb{Z}$ 次数付き環になる(次数付き環 の例「$\mathbb{Z}$ 次数付き環の例:Laurent 多項式環の次数」)。
  4. 複素係数の $\mathbb{C}[z,z^{-1}]$ の元を単位円 $\lvert z\rvert=1$ の上に制限し $z=e^{i\theta}$ とおくと、三角多項式 $\sum_mc_me^{im\theta}$ の全体が得られる。
  5. 多項式環 $B=A[x_1,\dots,x_r]$ と $1\le i\le r$ について、$B$ の $x_i$ による局所化 $B_{x_i}$ は $A[x_1^{\pm1},\dots,x_r^{\pm1}]$ の部分環 $A[M_i]$、$M_i=\{m\in\mathbb{Z}^r: j\ne i\text{ なら }m_j\ge0\}$ と同一視される(prop-laurent-intersection)。射影空間 $\mathbb{P}^{r-1}_A$ は、これらの環の次数 $0$ の部分 $(B_{x_i})_0$ の $\operatorname{Spec}$ で覆われる(射影束)。

基本性質

普遍性と局所化

Laurent 多項式環の普遍性と表し方

$A$ を環とし、$L=A[x_1^{\pm1},\dots,x_n^{\pm1}]$ とする。

  1. (普遍性)環 $B$、環準同型 $\varphi\colon A\to B$、$B$ の単元 $u_1,\dots,u_n$ が与えられると、環準同型 $\Phi\colon L\to B$ で $\Phi|_A=\varphi$、$\Phi(x_i)=u_i$ となるものがただ一つ存在する。
  2. (局所化)$S=\{(x_1\cdots x_n)^k:k\ge0\}$ とすると、包含 $A[x_1,\dots,x_n]\subset L$ は同型 $S^{-1}A[x_1,\dots,x_n]\cong L$ を誘導する。
  3. (生成元と関係式)$y_i\mapsto x_i^{-1}$ によって、$A[x_1,\dots,x_n,y_1,\dots,y_n]/(x_1y_1-1,\dots,x_ny_n-1)\cong L$ である。
単元の冪は自由に掛けられる

1:一意性。$\Phi$ があれば $\Phi(x_i^{-1})=\Phi(x_i)^{-1}=u_i^{-1}$ なので $\Phi(x^m)=u^m:=u_1^{m_1}\cdots u_n^{m_n}$ であり、$\Phi(\sum a_mx^m)=\sum\varphi(a_m)u^m$ と決まる。存在。この式で $\Phi$ を定めると加法的で、$B$ が可換なので $u^{m+m'}=u^mu^{m'}$ が成り立ち、積の定義式と見比べて $\Phi$ は積を保つ。$\Phi(1)=\varphi(1)=1$ である。
2:$P=A[x_1,\dots,x_n]$ とし、包含 $P\to L$ を $\iota$ とする。$\iota(s)$($s\in S$)は単元なので、局所化の普遍性(AM69 Proposition 3.1、p. 37)により環準同型 $h\colon S^{-1}P\to L$、$h(g/s)=\iota(g)\iota(s)^{-1}$ が定まる。全射:$f=\sum a_mx^m\in L$ について、$N$ をすべての $m\in\operatorname{supp}f$ と $i$ で $m_i+N\ge0$ となるようにとると $g=(x_1\cdots x_n)^Nf\in P$ であり、$f=h(g/(x_1\cdots x_n)^N)$ である。単射:$h(g/s)=0$ なら $\iota(g)=0$ であり、$\iota$ は基底 $x^m$($m\in\mathbb{N}^n$)を基底の一部に送るので単射だから $g=0$、よって $g/s=0$ である。
3:多項式環の普遍性により $x_i\mapsto x_i$、$y_i\mapsto x_i^{-1}$ となる $A$ 上の準同型 $A[x,y]\to L$ があり、$x_iy_i-1$ を $0$ に送るので $\psi\colon A[x,y]/I\to L$($I$ は関係式で生成されるイデアル)を誘導する。逆向きには、$A[x,y]/I$ で $\bar x_i$ は逆元 $\bar y_i$ をもつ単元なので、1 により $\Phi\colon L\to A[x,y]/I$、$x_i\mapsto\bar x_i$ がある。$\psi\circ\Phi$ は $A$ と $x_i$ を固定するので 1 の一意性により恒等写像である。$\Phi\circ\psi$ は $\bar x_i$ を固定し、$\bar y_i$ を $\Phi(x_i^{-1})=\bar x_i^{-1}=\bar y_i$ に送るので、多項式環の普遍性により恒等写像である。$\square$

2 により、$\operatorname{Spec}L$ はアフィン空間 $\mathbb{A}^n_A$ の開集合 $D(x_1\cdots x_n)$(座標がどれも $0$ でない部分)であり、これは $A$ 上の分裂した代数的トーラス $\mathbb{G}_m^n$ である($n=1$ が乗法群)。2 からただちに次が従う。

Noether 性と単項イデアル性
  1. $A$ が Noether環 なら $L$ も Noether 環である。
  2. $k$ が体なら $k[x,x^{-1}]$ は単項イデアル整域であり、$0$ でないイデアルは $g(0)\ne0$ となる多項式 $g\in k[x]$ でただ一つの形で生成される($g$ をモニックにとる)。
イデアルは多項式の部分で決まる

要点:$L$ のイデアル $J$ は $J\cap A[x_1,\dots,x_n]$ で決まる。

詳しい証明を開く

$P=A[x_1,\dots,x_n]$、$t=x_1\cdots x_n$ とする。$L$ のイデアル $J$ について $J=(J\cap P)L$ である。実際 $\supset$ は明らかで、$f\in J$ なら十分大きい $N$ で $t^Nf\in J\cap P$、$f=t^{-N}\cdot t^Nf$ である。

1:$J_1\subset J_2\subset\cdots$ を $L$ のイデアルの増大列とすると、$J_i\cap P$ は $P$ のイデアルの増大列であり、Hilbertの基底定理 により $P$ は Noether 環なので止まる。$J_i=(J_i\cap P)L$ より $J_i$ の列も止まる。

2:$n=1$ とする。$J\ne0$ なら $J\cap k[x]\ne0$ であり、$k[x]$ は単項イデアル整域なので $J\cap k[x]=(h)$、$h\ne0$ と書ける。$h=x^ag$、$g(0)\ne0$ と分ければ $x^a$ は $L$ の単元なので $J=hL=gL$ である。一意性:$gL=g'L$($g,g'$ はモニックで $g(0),g'(0)\ne0$)なら $g'=gx^mc$($c\in k^\times$、単元の形は lem-laurent-domain による)であり、両辺の最低次の項を比べて $m=0$、最高次の係数を比べて $c=1$ である。$k[x,x^{-1}]$ が整域であることは lem-laurent-domain による。$\square$

単項式で張られる部分環の交わり

Laurent 多項式環の中では、元が部分環に入るかどうかは台だけで判定できる。これを使うと、異なる座標近傍の座標環の交わりが計算できる。

部分環の交わりと局所化の像
  1. $\mathbb{Z}^n$ の部分モノイドの族 $(M_\lambda)_{\lambda}$ について、$\bigcap_\lambda A[M_\lambda]=A[\bigcap_\lambda M_\lambda]$ である。
  2. $B=A[x_1,\dots,x_r]$ を $L=A[x_1^{\pm1},\dots,x_r^{\pm1}]$ の部分環とみる。$1\le i\le r$ について、$B$ と $x_i^{-1}$ で生成される $L$ の部分環は $A[M_i]$、$M_i=\{m\in\mathbb{Z}^r: j\ne i\text{ なら }m_j\ge0\}$ であり、局所化 $B_{x_i}$ はこの部分環と同型である。
  3. $r\ge2$ なら $\bigcap_{i=1}^rA[M_i]=B$ である。また $k$ が体なら $k[x]\cap k[x^{-1}]=k$ である($L=k[x,x^{-1}]$ の中で)。
台を見る

1:$f\in L$ が $A[M]$ に入ることは $\operatorname{supp}f\subset M$ と同値なので、$f$ がすべての $A[M_\lambda]$ に入ることは $\operatorname{supp}f\subset\bigcap_\lambda M_\lambda$ と同値である。
2:$M_i$ は $e_1,\dots,e_r$ と $-e_i$ で生成されるモノイドである($m\in M_i$ は $\sum_{j\ne i}m_je_j$ と $m_ie_i$ または $(-m_i)(-e_i)$ の和)。よって $B$ と $x_i^{-1}$ で生成される部分環は $A[M_i]$ である。$B_{x_i}$ との同型は thm-laurent-universal の 2 の証明と同じで、$x_i^N$ を掛けると $A[M_i]$ の元が $B$ に入ること、$B\to L$ が単射であることから従う。
3:$r\ge2$ のとき $m\in\bigcap_iM_i$ なら、各 $j$ について $i\ne j$ となる $i$ をとれば $m_j\ge0$ なので $\bigcap_iM_i=\mathbb{N}^r$ であり、1 から主張が従う。$k[x]=k[\mathbb{N}]$、$k[x^{-1}]=k[-\mathbb{N}]$、$\mathbb{N}\cap(-\mathbb{N})=\{0\}$ から最後の主張が従う。$\square$

3 の後半は射影直線 $\mathbb{P}^1_k$ の大域切断が定数に限ること(アフィン射 の例「反例:射影直線」)の計算であり、前半は $r\ge2$ のとき $\Gamma(\mathbb{P}^{r-1}_A,\mathcal{O}(d))$ が $A[x_1,\dots,x_r]$ の次数 $d$ の部分に一致すること(射影束)の計算の中心である。$r=1$ では $\bigcap_iM_i=M_1=\mathbb{Z}$ なので交わりは $L$ 全体になり、3 の前半は成り立たない。

単元

多項式環で次数を比べる議論を、$\mathbb{Z}^n$ の辞書式順序で行う。$\mathbb{Z}^n$ の辞書式順序 $\prec$(最初に異なる成分が小さい方を小さいとする)は全順序で、$m\prec m'$ なら $m+l\prec m'+l$ を満たす。

係数が整域の場合

$D$ を整域とする。$D[x_1^{\pm1},\dots,x_n^{\pm1}]$ は整域であり、その単元は $ux^m$($u\in D^\times$、$m\in\mathbb{Z}^n$)に限る。

最大の項と最小の項

$0$ でない $f$ について、$\operatorname{supp}f$ の $\prec$ に関する最大元を $\max f$、最小元を $\min f$ と書く。$f,g\ne0$ について、$fg$ の $x^{\max f+\max g}$ の係数は $f$ と $g$ の最大の項の係数の積である。実際、$m\in\operatorname{supp}f$、$m'\in\operatorname{supp}g$ で $m+m'=\max f+\max g$ なら、$m\prec\max f$ または $m'\prec\max g$ のとき和は真に小さくなるので、$m=\max f$、$m'=\max g$ に限る。$D$ は整域なのでこの係数は $0$ でなく、$fg\ne0$、$\max(fg)=\max f+\max g$ である。同様に $\min(fg)=\min f+\min g$ である。
$fg=1$ なら $\max f+\max g=0=\min f+\min g$ であり、$\min f\preceq\max f$、$\min g\preceq\max g$ だから、もし $\min f\prec\max f$ なら $0=\min f+\min g\prec\max f+\max g=0$ となって矛盾する。よって $\min f=\max f$、すなわち $f=ux^m$ と単項式である。同様に $g=vx^{-m}$ で、$uv=1$ だから $u\in D^\times$ である。逆に $ux^m$ は $u^{-1}x^{-m}$ を逆元にもつ。$\square$

Laurent 多項式環の単元

$A$ を零環でない被約環で、冪等元が $0$ と $1$ だけであるものとする。このとき $L=A[x_1^{\pm1},\dots,x_n^{\pm1}]$ の単元はちょうど $ax^m$($a\in A^\times$、$m\in\mathbb{Z}^n$)である。

素イデアルを法として整域の場合に帰着する

$ax^m$ が単元であることは明らかである。逆に $f=\sum_ma_mx^m$ を単元とし、$fg=1$ とする。$A$ の素イデアル $\mathfrak{p}$ について、係数を $A/\mathfrak{p}$ に落とす準同型 $L\to(A/\mathfrak{p})[x_1^{\pm1},\dots,x_n^{\pm1}]$(thm-laurent-universal の 1)による $f$ の像 $\bar f$ は単元であり、$A/\mathfrak{p}$ は整域なので、lem-laurent-domain により $\bar f$ は $0$ でない単項式である。$\bar f$ の台は $a_m\notin\mathfrak{p}$ となる $m$ の集合だから、次の 2 つが従う。

  • $m\ne m'$ ならどの素イデアル $\mathfrak{p}$ についても $a_m\in\mathfrak{p}$ または $a_{m'}\in\mathfrak{p}$ なので、積 $a_ma_{m'}$ はすべての素イデアルに入る。すべての素イデアルの共通部分は冪零元の全体である(AM69 Proposition 1.8、p. 5)から $a_ma_{m'}$ は冪零であり、$A$ は被約なので $a_ma_{m'}=0$ である。
  • 係数 $a_m$($m\in\operatorname{supp}f$)で生成されるイデアルはどの素イデアルにも含まれないので、極大イデアルの存在(AM69 Theorem 1.3・Corollary 1.4、pp. 3–4)により $A$ 全体である。$\sum_mb_ma_m=1$ となる $b_m\in A$ をとる。
    $\varepsilon_m=b_ma_m$ とおくと、$m\ne m'$ なら $\varepsilon_m\varepsilon_{m'}=0$、$\sum_m\varepsilon_m=1$ なので、$\varepsilon_m=\varepsilon_m\sum_{m'}\varepsilon_{m'}=\varepsilon_m^2$ は冪等元である。仮定から各 $\varepsilon_m$ は $0$ か $1$ で、和が $1$ なのでちょうど一つの $m_0$ で $\varepsilon_{m_0}=1$ となる。すると $a_{m_0}b_{m_0}=1$ で $a_{m_0}$ は単元であり、$m\ne m_0$ なら $a_m=a_ma_{m_0}b_{m_0}=0$ である。よって $f=a_{m_0}x^{m_0}$ である。$\square$

例として、$\mathbb{Z}[t,t^{-1}]$ の単元は $\pm t^k$ であり、Alexander多項式 が「単元倍を除いて」定まるというのは $\pm t^k$ 倍を除いてという意味になる。単元の形から、Laurent 多項式環を多項式環と区別できる。

多項式環と同型でないこと

$k$ を体とする。$k[x,x^{-1}]$ は、環として 1 変数多項式環 $k[s]$ と同型でない。

単元と 0 の集合が和で閉じるか

要点:$k[s]$ では「単元と $0$」の全体 $k$ が和で閉じているが、$k[x,x^{-1}]$ ではそうでない。

詳しい証明を開く

$k[s]$ の単元は $0$ でない定数に限る($\deg(fg)=\deg f+\deg g$ による)ので、$k[s]^\times\cup\{0\}=k$ は和について閉じている。$k[x,x^{-1}]$ では lem-laurent-domain により $k[x,x^{-1}]^\times\cup\{0\}=\{ax^m\}\cup\{0\}$ であり、$1$ と $x$ はこれに属するが $1+x$ は属さない。環の同型は単元を単元に、$0$ を $0$ に移し、和を保つので、このような同型はない。$\square$

条件を外した反例

外す条件反例成り立たなくなること
thm-laurent-units の「$A$ は被約」$A=k[\varepsilon]/(\varepsilon^2)$、$f=1+\varepsilon x$$f$ は単元(逆元 $1-\varepsilon x$)だが単項式でない
thm-laurent-units の「冪等元は $0$ と $1$ だけ」$A=k\times k$、$e=(1,0)$、$f=ex+(1-e)$$f$ は単元(逆元 $ex^{-1}+(1-e)$)だが単項式でない
cor-laurent-noetherian の 2 の「係数が体」$A=\mathbb{Z}$、イデアル $(2,x+1)\subset\mathbb{Z}[x,x^{-1}]$単項イデアルでない
thm-laurent-universal の 1 の「$B$ は可換」$A=k[t]$、$B=M_2(k)$、$\varphi(t)=E_{11}$、$u=E_{12}+E_{21}$$A$ 上で $\varphi$ に一致し $\Phi(x)=u$ となる環準同型 $\Phi\colon A[x,x^{-1}]\to B$ がない
確かめ

1 行目:$(1+\varepsilon x)(1-\varepsilon x)=1-\varepsilon^2x^2=1$ である。2 行目:$e^2=e$、$e(1-e)=0$ より $(ex+(1-e))(ex^{-1}+(1-e))=e^2+(1-e)^2=e+(1-e)=1$ である。どちらも台が 2 点なので単項式でない。

3 行目:$\mathbb{Z}[x,x^{-1}]/(2,x+1)\cong\mathbb{F}_2[x,x^{-1}]/(x+1)\cong\mathbb{F}_2\ne0$ なので $(2,x+1)$ は全体でない。$(2,x+1)=(g)$ とすると $g$ は $2$ を割る。$2=gh$ なら prf-laurent-domain の最大・最小の議論($\mathbb{Z}$ は整域)により $g,h$ は単項式で、$g=\pm x^k$ または $g=\pm2x^k$ である。前者なら $(g)$ は全体になり、後者なら $x+1\in(2)$ となるが $x+1$ の係数は奇数なので、どちらも矛盾である。

4 行目:$\Phi$ があれば、$L=k[t][x,x^{-1}]$ は可換なので $\Phi(tx)=\Phi(xt)$、すなわち $E_{11}u=uE_{11}$ となるはずだが、$E_{11}u=E_{12}$、$uE_{11}=E_{21}$ で異なる($E_{ij}$ は行列単位)。$u^2=1$ なので $u$ は単元である。

補足

級数との関係

体 $k$ 上の形式的Laurent級数の体 $k(\!(x)\!)$ は、負の冪を有限個だけ許し正の冪を無限に許した級数の体であり、$k[x,x^{-1}]$ はその部分環である。複素解析のLaurent展開で、展開が有限個の項で終わる関数が Laurent 多項式であり、$\mathbb{C}^\times=\mathbb{C}\setminus\{0\}$ 上の多項式的な関数の環が $\mathbb{C}[z,z^{-1}]$ である。変数が係数と可換でない Laurent 多項式環(捻れ Laurent 多項式環)も考えられるが、この記事では扱わない。

関連項目

参考文献

[1]
Serge Lang, Algebra, Revised 3rd ed.(Graduate Texts in Mathematics 211), Springer, 2002, Chapter II §3(pp. 104–106、群環・モノイド環とその公理、多項式環をモノイド環として表すこと)
[2]
Michael F. Atiyah, Ian G. Macdonald, Introduction to Commutative Algebra, Addison-Wesley, 1969, Theorem 1.3・Corollary 1.4(pp. 3–4、極大イデアルの存在)、Proposition 1.8(p. 5、冪零根基は素イデアルの共通部分)、Proposition 3.1・Corollary 3.2(p. 37、局所化の普遍性)

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